表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/126

1-11.若くてお爺さん。お爺さんは俺より遥かに若かった

だんだんとこの世界に馴染み始めた主人公トルテラ(元横浜市民49歳)は、この世界の人は当たり前のように魔法を使うことを知りました。


今回は、魔法の存在と同じくらいびっくりするお話です。

挿絵(By みてみん)


この世界に来て、驚くことはたくさんあったが、また特大の驚きがあった。

先日の魔法の存在と同じくらい驚いた。


なんと、そこらに居るお爺さんは、実年齢、つまり”()()()()()()()()()()的には、俺より遥かに短い”のだ。

70歳に見える爺さんが実は30前だという。


30前じゃ、むしろ俺の年齢の半分に近いじゃないか!


この世界……この星の一日の正確な時間、つまり自転周期を正確に知る方法は分からないが、

俺的に、概ね1日の長さは地球と変わらないように感じる。

誤差はあるにしても単純に360回日が昇ったら1年だと考えると、日数から簡単に年数に換算できる。


誤差はあるだろうが、30歳でこの見た目!


”男は老化するのが凄く早い。それが普通”……なのだそうだ。

それのどこが普通なんだ!!!! というのが俺の素直な感想だ。


まあ、確かに俺の世界でも、オスの方が極端に寿命が短い生き物はたくさん居た。

だが、哺乳類では、それほど極端な寿命差は無かったと思う。


ところが、ここでは人間の寿命で男女に2倍以上の差がある。

そんな妙な世界に来てしまったとは思いもしなかった。


そんな世界が存在するとも考えたことが無かった。


……………………

……………………


俺は、人間の体の特性も違っているような世界に来てしまったのだ。

正直意味が分からない。


そりゃ、別の世界なのだから、俺の常識と異なる点があっても普通だろう。


見た目からして違えばわかりやすいのだが、俺の目から見れば、少々体の大きさが違う程度で、ここの人たちは地球人そっくりに見えるのだ。

これだけ似ているのに、そこだけ違うと言う違和感。


とはいえ、若い男が居ない理由が分かった。

居ても気付かない。

居るけど、俺には若く見えないだけだ。

男は実年齢と見た目の年齢のギャップが激しいのだ。


子どもを作ることができる男は寿命が極端に短い。

長生きするかどうかは、子供を作れるかどうかで決まるようだ。

そして残りの寿命に応じて、見た目の歳は取る。

大人になったら即老化が始まる感じなのだろうか?


例外的に、女性並みに長生きする男も居ると言う。

早くに”処置”することで女と同レベルの老いで済むそうだ。

”処置”の内容は聞かなかったが、男性の特性を止めるってことだろうから、去勢なのだろう。


さらに例外は居て、特に何の処置も無しに、老化するのが遅い男も居る。

つまり、俺がそれだ。

実際には、そんな男は滅多なことには存在せず、この村にはもちろん居ない。


俺は、この歳でここに来た。

俺の居た星でも、男の方が寿命が短い傾向があるが、平均寿命で10年も差は無い。

男女にさほど極端な寿命の差は無かった。


……なるほど。

よく見ると、確かに、俺の知ってる老人とは、どこか少し違うかもしれない。


俺は今まで、この村で見かけるお爺さんに見える人は、俺より年寄りだと思っていたが、実年齢は若いのかもしれない。


実年齢は不明だが、俺から見て年寄りに見える男性は村にも何人かいる。

その人たちは、たいした仕事はしていないようで、いつも暇そうに見える。



……で、俺より遥かに若い老人……つまり、実年齢は若いが、老化が進んだ人と話してみたのだが、俺にあまりにも性知識が無いことに驚き、親切に教えてくれた。


いや、俺にも性知識はある。

俺の知ってる知識は、こことはちょっと違うだけだ。


いや、事実上無知であるということは俺ももちろん自覚している。

でも、性知識がないって言われると、なんかちょっと嫌なのだ。


「今までどこで暮らしてきたのかは知らんが、学校にも行ってないのだろ?」

「学校……?」


なぜ学校?

ぬう! なんと、”学校に行っていない”、そう言われてしまうとは。


俺が持つ数少ない優位点が、大学を卒業していることだ。

大卒。大学を卒業することで得られる称号だ。

俺の時代には行ける人が限られていた。だから、希少価値があった。

まあ、俺の年の数年後には価値が暴落するのだけれど。


”大学に行くこと”、それが俺の世界で、俺が若かった頃信じられていた【人生必勝法】の中で極めて大きな比率を占めるものだった。


あたかも、人生がそこで8割がた決まってしまうかのように言われていた。

いや、そう信じられていただけで、実際には俺にはあまり恩恵が無かったのだが。

俺より前の時代には有効な戦法であったし、以降も重要視されていたように思う。

俺の頃はその信仰があまりに極端で、社会的にそれが正当な必勝法であり、子供はその1点に集中すべきと考えられていたと言って良いと思う。

首都圏の中流家庭以上では常識だったと言って差し支えないと思う。

それほどまでに”将来を左右する重大な問題”と聞いていた。

だから俺は、やりたいことも我慢して勉強した。

”大卒”。俺はその称号を得るために頑張ったのだ。


実際に役に立ったかどうかは別として、俺はそれを得るために、非常に大きな投資をした。

それに関しては間違いなく事実だ。

俺は学校には散々通った。16年間も通っているのだ。

この世界の基準で言ったら”大人になってもずっと学校に通い続けた”くらいの期間になると思う。


俺は高等教育まで修了している。

なのに、就学歴無し扱いとは……これは痛い。


この世界の学校に通っていないのは事実だ。

遺憾ではあるが仕方がない。

卒業を証明する方法も無い。


さらにだ、俺は無垢なまま、こんな歳になってしまった人だと思われてしまうじゃないか!

”俺だって、俺の世界の性知識なら有るんだよ!”

ただ、ここでは通用しないだけで……


そうだ。ぜんぜん通用しないのだ。

俺にだって明るい家族計画的な知識はある。無計画にバンバン子供作ってはいけない。

……が、そういうのではない。


ここでは”子供の数と老化に関係がある”。

意味が分からん。


……………………


「あんたみたいのは不能者って呼ぶ」


「不能者?」

たぶん”性的”不能者ってことなのだろう。


「その年になるまで子供が居ない。

 今も、エスティアとかいう冒険者と一緒に住んでて何も無いのだろ?」


何も無いと言われても、何かあるとしたら何があるのか?


……………………

……………………


なるほど。

”不能者”は”恋ができない男”と言うのと同じで、子供を作れない男のことを言うようだ。

子作りしても子供ができないのは、また別で、その場合は単に、そのまま、”子供ができない”と言う。


ということは、”不能”とか”恋ができない”と言うのは、子作りができないことを言うことになりそうだ。


不能者というのには、凄く思い当たる節が……

俺は、この世界に来てから、今では若くてかわいい女の子と一緒に暮らしてるのに、股間が反応したことが一度も無いのだ。


最初は、年もそれなりだし、遭難して体力も落ちてるからと思っていたが違和感はあった。

そして、体力が回復しても何もかわらなかった。


そうか、”俺は不能者”だったのか……

まあ、そんなもんだ。

”若い子と一緒に住まわせてやるが、良い思いはさせないぞ!!”という、

性格の悪そうな神様が俺には憑いているに違いない。

なんとも、心強い限りだ。


……………………


それにしても、かなり衝撃的な内容だった。


子作りできる男は早々に老化してしまうが、寿命が短いかわりに大事にされ幸せに一生を終えることができることが多いと言う。

そして、不能者はそうではなく、苦労することになる。


子供を作ることができる男でも、女と分けて隔離しておけば長生きできるという話があるというようなことも言っていた。


なるほど。

それで、俺は今までなぜか”隠されて生きてきた”とか思われたのか。

1つ謎が解けた。俺は実年齢が高いから、隔離されて生きてきたと思われていたのだ。


そして、学校は、俺の思う学校とは、ちょっと違うようだ。

安心したというか、いろいろ納得した。

俺は学校に行ってないというのは、”学が無い”と言われたのだと思った。


でも、そうではない。


あまり早くに恋をすると良くないので、この国には男子学校があり、皆そこに行くという。

青田刈り防止策みたいな意味なのだろう。


俺が見た範囲では、この村の女の子が小学校に通っているようには見えない。

なので、学校に行ってないと言われたことに疑問を感じたが、男の子だけが行くものなのだ。


学校へ行ってないと思われたことは遺憾だったが、そもそも教育を受けたかどうかの話では無かったようだ。



男が少ないのはすぐに老化して死ぬだけでなく、元々生まれる比率自体男の方が少なく、1/3くらいなのだそうだ。

一瞬凄く少ないと思ったが、3人に1人だったら、男女比率は1:2。

村を見る限り1:2という感じではない。


1:2なら、ここまで極端に少なくないだろうと思ったが、貧乏な村では養子に出されて何人も残らないそうだ。

生まれる数が1:2であることと、この村の男女比が1:2になるのは別の話。

まあ、そういうこともあるのだろう。つまり、この村は貧乏なのだな……と思ったのだが、それも違っていた。


実はこの村は大芋があるので経済的にはともかくとして、食うに困らないので、この規模の村の割には男の子は多い方なのだそうだ。


だったらこの男女比はなんなんだよ!!と思うが理由は簡単だった。

それが学校の存在だ。学校には家から通うのではなく、大人になるまで戻ってこないのだ。


この人が言うには、

「年頃になると、学校から村に戻ってくる」


なるほど。今は村に居ないだけで、2年に1人くらい戻ってくるそうだ。

2年に1人じゃ競争率高そうだ。


確かに、幼児と言う感じの男の子は見るが、それより上の子は見かけないかもしれない。

小学生より上の男の子は居ないように見える。


……………………

……………………


子供を作れる男は、すぐ老化する。

30前で70の老人に見えるほど老化が進むのなら、子育て終わるまで働けないのではないかと思って聞いてみたのだが、そこは軽くスルーされて、子供を残した男は生涯大事にされるという話をされた。


確かに、老人に見える男は皆労働力にもならないのに、けっこう大事にされている……自慢されたのか?


そして、甲斐甲斐しく世話を焼いてるのは孫ではなく嫁だった。

びっくりだよ!!! 俺にはお爺さんをいたわる孫娘に見える。


この30前の老人は、ジョージと呼ばれていたので、ジョージさんだと思っていたら、

”ジョージ”は名前では無く旦那さんを指す代名詞なのだそうだ。

本名はオスカルだと言うので「オスカルさん」と呼んだら、オスカルという名で呼んでも意味無いと言われた。

意味が分からなかったが、ここに住んでる男の多くは本名はオスカルなのだそうだ。


男らしい名前ってことでオスカルなんだろうが……

名前付ける意味あるのか?それ……と思った。


まあ、それ以前に、名前にさん付けするのは良くないようだ。


それはそうと、この明らかに俺の知っている地球ではない世界に住んでる人の名が”ジョージ”とか”オスカル”とか、なんで俺が知ってそうな名前なのだろうか?

国も時代もバラバラに感じる。


知らぬ間に”この世界でのメジャーな名前を、俺がメジャーな名前と感じるように記憶でも変えられてしまった”のかもしれない。

その割に、”太郎”とか”ひろし”のような日本名は出てこないというお決まり。


まあ、俺が日本語だと思っている言葉が、そのまま通じているのだから、言葉に関しては何かおかしいのだが。



それにしても、俺が男っぽいと判断できるとかそんなこと以前に、同じ名前の人が大量に居たら困ると思うのだ。


もしかしたら、この村固有の習慣とか、この規模の村での習慣とかあるかもしれないと思ったのだが重大なことに気付いた。

名前で区別する必要が無いから、同じ名前でも良いのではないだろうか。


俺が子供の頃も、名前被りは多かった気がする。

文字は違っても読みが同じ子は多かった。

それでも困らなかった。名字で呼ぶから。

佐藤君、鈴木君。


あれ? いや、もしかしたら、男の名前は同じでも困らないからか!


考えてみれば、子供を作れる男が学校から戻ってきて、老いるまでの期間は10年、20年とかそのくらいで、元々人数も少ない。

……となると、どう考えても住民台帳とか女性の方をベースにして、男は誰々さん家の旦那さんの方がわかりやすい。

この村に限らず、この世界では男に名前はそんなに重要ではないのかもしれない。


たぶんそうだ。

住民台帳や世帯主が女なので、女が引き取ってくれないと、男の俺はこの村に住めなかったのだ。

そう言えば、引き取ると言い出した時、エスティアは真っ赤な顔をしていた。


もしかして、引き取る=配偶者なのか?

今まで気付いていなかったが、俺はエスティアに大変なことをしてしまったかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ