8-4.白い巨人(前編)
ダルガンイストまで来たのは、商隊の居心地が良かったことと、ちびっこ2人を、大きめの町まで連れてくることもあったが、ついでに寄って行きたいところがあったためだ。
キャゼリアのところだ。白い巨人の話を聞きに行く。
前に、拠点の城下町にキャゼリアと助手が”おっぱい祭り”を見に来たことがあって、その時、巨人の生きてるサンプルが欲しいと言われたのだ。
死んでても小金貨100枚の値が付いたので、生け捕りなら、それなりの金になるに違いない。
ちなみに、金貨100枚の件は、テーラとルルと俺だけの秘密で、エスティアとリナは正確な金額は知らないはずだ。
歩いてると、途中でなんか背中が重くなったと思ったら、妖怪みたいなものに憑りつかれてた。
キャゼリアの助手だ。
コイツには、何かレーダーのようなものが付いているのか、早速見つかっていた。
まあ、理屈的にはできないことはないけれど、いつ来るかわからない俺を人混みの中から発見するのは、かなり難しいと思うのだ。
この町人が多いし。
助手は引っ付いたまま「私が居ない隙に来て帰っちゃうなんて酷いです!」とか言ってるが、リナが引っぺがしてくれた。
助手が”居ない隙”は、前回、キャゼリアのところに寄ったときの話だ。
それでも何事も無かったかのように「巨人の居場所がわかったんです! 私見つけたんです!」とか自分の成果をアピールしてきた。
「それを生け捕りにするのか?」と聞くと「私は居場所を調査しただけですので」と言った。
でも、その後、例の「うふ」をやったのでイラっとした。
「生け捕り、本当にやるのか?」とリナが言う。
テーラを見ると、腕組みしてイイ顔していた。これはやっておしまいポーズだ。
キャゼリアに会うと、いつもどおり、「テリシア、元気そうね」と言い、テーラは「ルルも元気よ」と答えた。
ルルは今、何故か拠点に居るのだ。テーラはテリシア、ルルはルルシアが本名だ。
「巨人の生け捕りの話ね。場所は助手が調べてくれたわ」と言うと助手が「うふ」と言ってキメ顔したのでイラっとした。
巨人が頻繁に出てくる迷宮は1カ所だけで、そこは軍が監視してるから、”そこ以外で巨人が居る場所”を探したのだと言う。
「私、凄く頑張ったんです!」
どうやって探したかわからないが、助手曰く頑張ったらしい。
頑張れば見つかるものなのか。
成功報酬は小金貨10枚しか用意できないと言う。
前回の100枚は餞別みたいなものだったらしい。
まあ、その金持って逃げろと言われていたし、そんなもんかと思って納得した。
リナは「小金貨10枚とは凄いな」と言っていたので、一般的には凄い金額なのだと思う。
でも、金貨1枚でもあれば、リナに服を買ってあげることができるのだ。
「わかった。生け捕りしよう」
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トート森やダルガノードのある側を連合領と呼んでいて、その外側をタンガレアと呼んでいる。
外国くらいの意味だ。そのタンガレアで、5年くらい前から巨人が出るようになった。
襲われて全滅した村もたくさんあるという。
※正確には、巨人に荒らされた結果、放棄された村があります。
巨人は人を襲うことはありますが、近寄らなければ襲われません。
ここ数年で対策され、分散して村を警備では倒せないため、陣地を築いて巨人に対抗していた。
白い巨人は、近くに人がいれば攻撃を加えてくるが、人がいない場合にはだいたい同じルートで進むため、陣地で対応しやすかった。
一応タンガレアではあるものの、ダルガンイストからそう遠くない場所なので、ダルガンイスト側も巨人対策はしている。
タンガレア側は当初、巨人が出現するようになったのは、連合側の攻撃だと思ったが、連合側との話し合いの結果連合側にも被害が出ていることがわかり、合同での対応となった。
※連合から見ると、タンガレアから連合に向かって進行してくるので、
連合の攻撃には見えないように思いますが、タンガレア側は連合の攻撃だと思った。
タンガレアと言っても、部族や領地が分かれているので、前に俺が二階級特進的に勇者になったとき戦った巨大なやつに便乗して攻めてきたのは別の部族だ。
巨人は迷宮からやってくる。
それはわかっているのだが、迷宮に入ることができないため、攻略できずにいた。
おそらく勇者迷宮と同じ扉だ。俺は開けることができると思う。
今回のターゲットはこの迷宮ではない。助手が見つけてきた別の迷宮だ。
そこは逆さ扉になっていて、人は外から開けることができる。
だから、助手が発見することができたのだ。
とりあえず、下見に行くことにした。
キャゼリアと助手は体力的に付いてこれないので、リナとテーラと俺の3人だけだ。
3人とも盾装備で凄くバランスが悪い。
まあ、俺の盾は基本武器なのだが。
俺が使うと、この盾以外の装備はだいたいすぐ壊れる。
たぶん、俺専用の装備しか使えないようになっているのだ。
「3人で来て、あとで怒られないかな?」と言うと、リナが「下見だけなら問題ない」と言った。
テーラも頷いているので、俺だけが酷い目に遭わされることは無いだろう。
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ちょっとした木の群生地があったので、木の実でも取ろうと思って来たら、白い巨人が来るのに気付いた。
俺は何故か、凄く遠くからでも巨人と熊の気配はわかる。
だが、困ったことに、巨人の進行方向に人が居る。
無関係の人ではあるが、既に気配で存在に気付いているのに死んだりすると後味悪い。
一応、巨人の進むルートを回避するように伝えに行くことにする。
助けられるなら助ける。
間に合わなければ、それはそれで仕方がない。
まあ、俺が納得できるかどうかの問題だ。
「リナ、テーラ、巨人が人に近付いてる。
逃げるように伝えてくるから、ゆっくり追ってきてくれ」
と言い残して、巨人に近い人に、急いで逃げるよう伝えに行く。
ところが、間に合わなかったようで、既に巨人に追われてるようだ。
今行けばまだ間に合う。この状況で、このまま見捨てるのも後味悪い。
「ここは助けるべきなんだろうな」
成り行きで助ける形になってしまった。
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一方で、巨人発生の知らせが入り、監視中の見張りの兵士が巨人が期待通りのコースを通るか見守っていた。
ところが、運悪く巨人の進行方向に冒険者がいた。
その冒険者は、旅装備で戦闘にも逃走にも向かない。
弓で応戦するものの、短弓では敵の足止めもできない。
下手に助けに入ると、軍に大損害が出るため、こういう場合は放置する。
見殺しだ。
こういうことは、よくあることだった。
運が悪かった。それだけだ。
そこに、さらに巨大な男の老人がやってきた。
冒険者を、助けようとしているようだ。
だが無駄だ。犠牲者が増えただけだ。兵達はそう思った。
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トルテラは、”周りに兵士がいるのに、なぜ放置なのだろう?”と思ったのだが、そうこうしているうちに、巨人が暴れ出す。
巨人はある程度離れてるうちはゆっくり動くのに、近付くといきなり素早く攻撃してくる。
戦闘に入る前なら、先に一撃入れれるのだが、既に冒険者と交戦中の上に、兵士に見られてるのであまり活躍したくない。
嫌がらせに、巨人を誘導しながら兵士の方に逃げようかと思ったが、襲われてる人ごと弓で撃たれそうなので止めた。
生け捕りは、兵士に見られずやらないと駄目なので、コイツは対象外だ。
コイツはどこまでも追って来る。
人を連れて、こいつから逃げきるのは難しい。
それよりは、倒す方が簡単だと思う。
なので、めんどくさいので倒すことにした。
「大丈夫か」
「危ない、怪物に追われてる。あんたも逃げろ」
いや、追われてるのは知っているし、もう俺も見つかってるので、逃げるより倒す方が楽なのだ。
「俺がなんとかするから、逃げてくれ」
「無理だ、逃げろ」
説明する方が面倒だが、心配してくれているのだろう。
「逃げ回るより、殺す方が楽だから」
「その盾、あんた、もしかして」
俺のことを知っているようだ。
「倒す方が楽だから」
もう一度言うと、
「ありがとうございます」
と言って去っていったかと思うと、少し離れた場所で見ている。
そうじゃねーよ!!! 早く逃げろって言ったんだよ!!!
ところが、白いのが近いので、そっちに集中する。
相変わらず、ぬめっとした、未来の服みたいな感じの質感が気持ち悪い。
こいつは武器を持っていないので助かる。
”ゴワーーー”
見た目と動きに反して、声だけは怪物っぽい。
あんまり体重乗ってないような、抜けたパンチ。
素手の攻撃なら何とでもなると思い、とりあえず盾で受ける。
”どすっ”
どしっと重い。
一発で目が覚めた。重いってのはこういうやつのことだ。
久しぶりに、重い攻撃を受けた気がする。
あんな気の抜けたパンチで、この重さ。
剣と魔法のこの世界に来ても、これだけ重い攻撃をしてくる生き物は熊くらいだった。
あれもしばらく前までは、正面からやり合うと分が悪かったが、最近はすっかり慣れて、どうにでもなるようになっていた。
俺には見えていないがステータス画面があって、なんか勝手にレベルが上がってるような気がするのだ。
前に戦った2.5mのやつは、相当つらかったが、この巨人は2mクラスなので、俺よりちょっとでかい程度で何とでもなる。2.5mのやつはリーチが凄くて近寄るのも難しかった。
こういうでかい相手は、やたら重い鉄の”こん棒”で殴ると良いのだが、今回は戦うために来たわけではないので、重い鉄の”こん棒”を持ってない。
首を狙う。
「オラッ!」 ”ゴス”
”ゴワーーーー!!”
「オラッ!」 ”ゴス”
”ブゥオワーーーー!!”
盾で首でも折ってやろうと左右から狙ったがうまく入らない。
重い一撃入れようとすると、狙いの方が甘くなる。
仕方ないので、盾の側面で頭を殴りまくる。
「オラッ!」 ”ガン”
”ブゥオワーーーー!!”
見事、頭にヒット。
反撃が来る。
”ドスン”
「オラッ!」 ”ガン”
”ブゥオワーーーー!!”
また反撃が
”バゴン”
こいつは、自分のダメージ気にせず反撃してくるので、思い切り殴り合いになった。
2.5mのやつと違って、こいつの攻撃は盾で受けられる。
「オラッ!」 ”ガン””バゴン”
”ガン””バゴン”、”ガン””バゴン”
盾越しとは言え、結構痛い。この間合いだと、全てを盾で受けるわけにも行かず、バシバシ当たる。
何度も殴られると腹立つし、飽きてきた。
それに、息も続かない。
やはり、真正面から戦うのは、かなり面倒だ。
少々のダメージは我慢して、大振り全力の一撃を繰り出す。
「食らえ、大振り!」 ”もげぇ”
”ゴゴ、ブゥオーーーー!!”
”もげぇ”
ついでに、なんか負ける気がしないので、接地の大振りで脇腹殴りまくったらうまく入って倒れた。
なんか、すごく嫌な感触だった。殴ったのに、もげって感じに入った。
とにかく倒れた。
こうなれば、こっちのものだ。
「オラオラオラオラ!」 バキッ
「ああ! 折れた」
持っていた剣で、首を刺しまくって殺した。けど、やっぱり剣は折れた。
この大盾以外の装備は消耗品なのだ。
まあ、この剣は、盗賊が置いて行ったやつだからタダなのだが。
接地は魔法の一種みたいで、足が固定されるので、強力な一撃が出せる。
その反面、回避できなくなる。足が引っかかって、転倒する原因にもなる。
「だあぁぁぁぁ!! 疲れた! はぁ、はぁ」
殴り合いは、すげー疲れた。この年でやることじゃない。そう思った。
やはり、正面からはダメだ。戦いは奇襲に限る。
「やっぱり、正面からはダメだ。はぁ、はぁ、疲れる、はぁ、はぁ」
でも、思いがけず、生け捕りのヒントにはなりそうだ。
白い巨人は、工夫とか小細工とか一切無い。
おそらく罠を回避する知恵はない。
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巨人が死ぬと、兵士がわらわら寄ってきた。遅せぇよ。
それはそうと、閃いた。もしかして、この巨人倒すと報奨金出るんじゃないか?
寄ってきた兵士に聞いてみた。
「こいつって倒すと報奨金出ますか?」
兵士は固まった。
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巨人を迎撃するため、見張りつつ陣地まで誘導していたら、運悪くルート上に冒険者がいて、巻き込まれた。
冒険者が襲われ助からないと思ったら、大男が出てきた。このパターンは、犠牲が増えるだけ。
また犠牲が増えたと思ったら、1人で巨人を殴り殺してしまったのだ。
さすがに大男の方もギリギリだったようで、地面に大の字で転がった。
大怪我をしているかと思ったのに、近付いたら起き上がった。
しかも、第一声は「こいつって倒すと報奨金出ますか?」だった。
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たまたま助けた冒険者は、俺を知ってたみたいで、「先代勇者さま!ありがとうございます!」とかお礼を言われた。まあ、助かって良かった。
兵士の中から指揮官みたいのがやってきて、「ご協力感謝する。報奨金については別途。とりあえず陣地までご同行願いたい」と言われた。
連れが居るので、と言って少し待つと、リナとテーラがやってきた。
兵士に囲まれても堂々としている。
悪くは無いが、なんというか、うちの女たちは、だいたい空気を読まないのだ。
この兵士たちは、タンガレア側の軍だったようで、タンガレアの陣地に連れていかれた。
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冒険者が倒せると思ってなかったから、報奨金はこれから決めるようだ。
巨人の死体を兵士たちが運ぶ。
既に連絡が行っていたようで、陣地は大騒ぎになっていた。
あの場所から陣地までは、見張りと連絡員だけで50人近くいた。
戦闘が始まれば、戦闘にに参加するが、巨人が陣地から逸れることもあるので誘導と見張りが多いのだ。
陣地で弓と大槍で当たれば、巨人相手でも死人は滅多にでないが、陣地の外で戦えば接近戦では勝ち目のない相手だ。
誘導役や、見張り連絡役で死人が出ることも頻繁にある。
それを一人で殴り殺した男がいる。
兵士が指揮官に「連合に居る熊殺しの老人の話を聞いたことがあります」とか言っていた。
たぶん、それ俺だと思った。
なぜなら、俺は元気な老人にあんまり会ったこと無いからだ。




