第99話 2つの競技
「うわっ、はええ!?」
「くそっ、動きが不規則すぎるだろ!」
「ちっ、数発しか当たらないか……」
「初めからその速度は無理だぞ。もっと遅い速度から始めて少しずつ慣れていくといい」
クネル、ハゼン、ゲイルの3人が的当て競技用の的の速度を最高速度に上げて魔術を当てようと試している。ゲイルは的に何発か雷魔術を当てていたようだが、いきなりあの速度は難しいだろう。
ゲイルは戦闘の競技を希望しているが、まずはこちらを試しているようだ。すべての競技内容を試してから自身に一番適性のある競技を選ぶのもいいだろう。
「ギーク先生、ちょっといいですか?」
「ああ、今行く」
演習場を全面使用できることもあり、生徒たちもいつもより広々とした場所で組手や魔術の練習をすることができる。その分俺も演習場をあちこち行ったり来たりしている。
「わわっ、これは難しいですね!」
「先生、なにかコツなんかはあるんですか?」
「ふむ、このボードは魔術式により魔力を込めれば浮く力を得られる仕組みとなっている。まずはどれくらいの魔力を込めればどのようにボードが動くのかを把握することから始めるといい。ここでは速度は出せないようにしてあるから、本格的な練習はもう少し先におこなうといいだろう」
「はい!」
レースの競技ではこのサーフボードのような魔道具を使用する。魔力を込めると風魔術の力によりボードを浮かせることができ、推進力を得ることができる。
浮くといっても地面から数十センチメートルくらいで、魔力の消費が非常に激しいので、前世の車やバイクのような日常的な乗り物にするのは難しいだろう。
……俺なら実用的な移動用のボードを作れると思うが、街中でこんなものを使えば事故が多発してしまうだろうし、実際のところ風魔術で足場を作って身体能力強化魔術を使って空を駆けた方が速く移動できるからな。
「ギーク先生、長期休みが終われば本格的に競技会の練習が始まるんですよね?」
「そうだな。放課後に希望する生徒は練習することができ、代表選手が正式に決定すれば本格的な訓練が始まるだろう。まあ、第二学年や第三学年が優先されると思うがな」
長期休みが終われば学園全体が魔術競技会の準備に備えることとなる。俺以外の教師も生徒たちの指導に当たるようだ。
演習場の方は第一学年だとあまり使えなくなりそうだが、それでも学べることはいろいろとあるだろう。
「さて、今日はこれくらいにしておくとしよう」
演習場へ移動してから4時間ほどが経過した。長期休み中は座学を1~2時間ほど行ってから演習場へ移動して4~5時間ほど各自で自由に学んでいく。長期休みではこのような形で進めていくつもりである。
「ふい~疲れたあ~」
「休み中でも魔術を学べるのは助かりますわ」
生徒たちもしっかりと学べたようだな。
貴族の生徒たちは長期休み中に家のこともあるからいろいろとストレスもたまりそうだ。さすがに屋敷の中で大規模な魔術を使う訳にもいかないだろうから、学園で魔術を使用してストレス発散をするのもいいだろう。
「今後も長期休み中はこのような形式で行っていくつもりだ。おっと、忘れるところだった。こいつをひとり一個ずつ食べるといい」
「ギーク先生、こちらは?」
「これはアイスキャンディーだ。他の店でも見たことがあるかもしれないが、氷魔術を使った氷菓子だな。これを作るのにはイリス先生も協力してくれた。水分と塩分や糖分をしっかりと補給しておくように」
収納魔術により取り出したアイスキャンディーは特別製のアイスキャンディーだ。この時期は少し暑いから、生徒たちが熱中症になってしまわないように注意しなければならない。演習場内は室内だから大丈夫だとは思うが、そういった配慮は大事である。
このアイスキャンディーを作るのにはイリス先生も協力してくれて、果物の種類を選んで酸味と甘みがちょうどいい味に調整してくれた。俺としては水分や栄養補給ができればいいのだが、せっかくなら生徒たちがおいしく食べられるようにと手伝ってくれた。
そういえば前世で学校の実験でアイスキャンディーを作る授業とかがあったな。氷に塩を加えると温度を零度以下に下げることができる凝固点降下というやつだ。そして当然授業のあとはそのアイスキャンディーをおいしくいただいたこともあって、まだ記憶に残っている。
「あまっ!? なんだこれ!」
「冷たくておいしいですわ!」
生徒たちも気に入ってくれたようだな。イリス先生にも感謝するとしよう。
長期休み中は正規の授業ではないわけだし、こういったご褒美的なものがあれば生徒たちのやる気も多少は上がるだろう。さて、まだ長期休みは始まったばかりだ。




