第98話 休み中の演習
演習場が空く時間となり、そちらへ移動してきた。入れ違いで他の学年の生徒たちもいる。第二、第三学年の生徒たちの授業態度はあまり良くないと聞いていたが、ちゃんとやる気のある生徒もいるようだ。
まあ魔術競技会は将来の進路にも影響してくるから、本気で取り組む生徒もいるのだろう。
「さて、演習場の方だが、こちらもいつもの模擬戦だけでなく魔術競技会の訓練をできるようにしておく」
放課後の実戦演習では演習場の半分だけしか使えなかったが、長期休み中は全面を使うことができる。そのため、普段よりも大きなこともできるわけだ。
「こっちの半面ではいつも通り模擬戦や魔術の練習が可能だ。魔術競技会の戦闘の競技は普段の模擬戦と変わらないからな」
戦闘の競技は1対1の魔術を使った戦闘で、基本的にはいつもの模擬戦と同じだ。生徒たちはダメージを受けないのも同じだが、そこは競技会ということもあって、痛みのフィードバックなんかはなく、戦闘不能と判断されるダメージの総量も多くなるらしい。
見ている側からしても、いつもの模擬戦のように簡単に終わってしまっては見応えが少ないということだろう。いつもの数倍くらいはダメージを与えないと戦闘不能と判断されないようだ。
「残りの半面ではレースと的当ての競技の練習をできるようにしておいた。的の方は俺の方で少し改良して、競技会本番のような動きができるように調整した。まあ最初はもっとゆっくりと規則的に動く的を狙った練習をした方がいいだろうな」
「……ギーク先生がそちらの的を改良されたのですか?」
シリルが手を挙げて質問をしてくる。
「ああ、そうだ。この学園で用意していた練習用の的だと速度も少し遅い上に動きも規則的に動くだけだったからな。学園長から話を聞いて、本番に近い動きをするように改良した。毎年動きが複雑になり、速度が上がっていくようだから、昨年の動き以上にすることも可能にしておいたぞ」
「「「………………」」」
魔道具の技術は年々上がっており、魔術競技会の的当て競技の的の動きも少しずつ向上しているようだ。アノンは実際に昨年の競技会の的の動きを見させてもらったらしく、話を聞いて現在学園にある競技会の練習用の的を俺の方で改良した。
ふむ、こういった既存の魔道具を改良するというのも面白いものだったな。そして時間があるということはいいことだ。つい、予定した以上の動きができる的に改良してしまった。
「こっちのレース用のボードはまだ少し改良が残っているが、基本的な動きはできるから感覚を試しておくのもいいだろう」
魔術競技会のレースは特殊な魔術式を刻んだボードを操作していかに速くゴールまで辿り着くかという競技だ。この異世界では箒に乗る魔法使いのようなものはいない。むしろ飛行魔術はかなり高度な魔術である。
残念ながらこの演習場では広さが足りないので、競技会本番のような練習はできない。レースの競技についてはもう少し本格的な鍛錬ができるようにボードを改良して、障害物などを用意しておきたいところだ。
「……ギーク先生がそこまでしてくれるのであれば私たちはだいぶ恵まれていますね」
「言っておくが、他の学園の環境と比べればこのバウンス国立魔術学園はだいぶ劣っていると思うぞ。他の学園は設備も揃っているし、入学してからこれまで休むことなく魔術を鍛錬してきただろうからな」
「そ、そうですね……」
シリルだけでなく、他の生徒たちも若干暗い顔をする。
なにせこの学園は現在経営すらも危ぶまれているくらいだからな。学園も経営をしている以上、生徒が集まるほどより授業料や寄付などのお金が入ってくるわけで、生徒たちの数が減っていけばその分生徒たちにかけられる設備や人員も少なくなってくる。
生徒の人数がこの学園よりも多いため代表選手の選考倍率も上がり、よりレベルの高い代表者が出てくるだろう。そして何より俺がこの学園に臨時教師として雇われるまではまともな教師が少なく、この学園が荒れていたこともあって、真剣に魔術を学ぶ時間も他の学園の生徒よりは短かったからな。
「ただし、幸か不幸か君たちは他の学園では得ることができない経験を得ることができた。十分に勝機はあるだろう」
主にこの学園と俺のせいだが、いろいろな事件に巻き込まれたおかげで、必要以上の実戦経験を積むことができた。
生徒たちが望むのであれば、俺も全力で指導するとしよう。




