第96話 やる気
「今回はバウンス国立魔術学園の教師である肩書があったから簡単だったよ。正攻法で他の学園を視察に行かせてもらうこともできたし、そういった情報は集めやすかったからね」
「ふむ、なるほど」
確かにこの学園の教師という肩書はいろいろと使い道があるのだろう。まあ、たとえ俺が臨時教師ではなく正規の教師だったとしても、ノクスのようにできる気はしないから、そこはノクスの力だが。
「あとは他学園の教師に話を聞くのが一番情報は集まったかな。男の教師には女性の格好で近付けば聞いてもいないのに自分や生徒のことを自慢げに話すから簡単だったよ」
「「………………」」
この世界にはプライバシー権なんて考えはないから、生徒たちの個人情報をぺらぺらと話すような教師も多いらしい。
確かに自慢の生徒たちのことを話したくなる気持ちは分からなくもないが、話す相手は選ぶべきだろう。そしてすごいのは生徒なわけで、その教師が自慢げに話すのは問題だな。俺も気を付けるとしよう。
「ぶっちゃけ第二学年と第三学年は厳しいかな。今から何かしようとしたとしても、自力の差が違いすぎると思うよ。ここ数年の優秀な生徒はみんなこの学園を避けているから、生徒の数や実力は他の学園の方が優れているからね」
「うぐっ……」
アノンが言葉に詰まる。実際にノクスの言う通りなのだろう。
「去年の魔術競技会でも全学年でこの学園が最下位だったから、それも仕方がないだろうな」
「ぐはっ……」
さらにアノンが俺の言葉にダメージを受けて倒れる。そう、去年の魔術競技会の成績は全学年が最下位だった。
いくら4校しかないとはいえ、全学年が最下位はまずい。そりゃ他の学園に進学する生徒が多くなるわけだ。むしろ今の生徒たちがよくこの学園に入学してきてくれたものだよ。これまでの輝かしい権威があったとしても、これが続けば生徒が集まらず、この学園は廃校になってしまうかもしれない。
そういった意味だと、学園の立て直しには生徒たちの力も必要になってくる。
「唯一可能性があるのは第一学年だね。今年は第三王女のエリーザさんが入学したということもあるけれど、ギークの指導のおかげで他の学園の生徒とも十分に渡り合えると思うよ」
「ふむ、特に実戦形式の対戦であれば同年代の生徒に負けないくらいの実力はあるはずだ。もう少し時間があればもっと指導ができたはずなのは惜しむべき点だな」
防衛魔術の授業では対魔物や対人戦を重視した指導を十分にしてきたつもりだ。ただ、問題は時間が足りていない点にある。他の学園の生徒たちはまともな指導者の下でこの半年間しっかりと学んできたはずだ。
それに引き換え、俺がこの学園に来る前の授業は酷いものだったらしいし、俺がこの学園に来たばかりの頃はまともな授業ができるまで少し時間を要してしまった。きちんと指導をできた時間でいうと他の学園の生徒たちに比べて圧倒的に少ない。
「エリーザさんもこの学園ではとても優れているけれど、他の学園にも天才や神童と呼ばれる生徒がいるからね。いくらギークの指導がよくても、元々才能がある生徒を相手にするのは大変だろうねえ」
「確かに魔術には才能が大事だが、才能だけで大成できるほど魔術の道は甘くない。その才能を自身でどういった方向に伸ばし、磨いていくかが大事だ。そして実際に他学園の生徒と競い合うのは俺たち教師ではなく生徒たちだからな。俺たちの都合で生徒たちに無理をさせるつもりはないぞ」
「そうじゃな。もちろん生徒たちには頑張ってほしいが、その結果に対して妾たちがあれこれ言う資格はない。たとえ全学年が最下位だったとしても、それは妾たち教師の指導の責任なのじゃ」
第一学年だけでもいい成績を残してもらいたいところだが、それは俺たち教師側の都合だ。学園の経営や生徒を集めるのは生徒たちには関係のないことだからな。
「2人とも真面目だねえ。でも幸い生徒たちもすごくやる気になってくれているし、長期休み中の実戦演習や合宿も生徒たちからの要望なんだから気にする必要はないと思うよ。それに進路の役にも立つし、生徒たちのためにもなるんだからね」
「だといいがな。生徒たちが無理のない範囲で頑張ってくれて、優勝できたならそれが一番だ」
もちろんそれが理想ではある。何にせよ、生徒たちにはこの長期休み中にリフレッシュをするなり、魔術を自己研鑽するなりして元気に過ごしてほしいものである。




