第94話 学期の終わり
放課後の勉強会。
といっても明日からは長期休みとなるため、今日は早めに切り上げる予定だ。
「さすがエリーザさんですね。学年1位、おめでとうございます」
「ありがとうございます、シリルさん」
今学期の学年1位は予想通りといういうべきか、入学試験でも学年首席だったエリーザが1位であった。俺が担当している基本魔術と防衛魔術の授業でもエリーザが1位だった。特に防衛魔術の実技試験では圧倒的な魔術の構成速度と手数によって、一度もダメージを受けずにゴーレムを稼働停止させた。
頑丈な素材を使用して作ったゴーレムに傷がついていたから、完全詠唱の魔術であれば破損していたかもしれない。才能があるうえに人一倍努力をしていたので、この結果はある意味当然のものなのかもしれない。
「さすが姫様です。私は4位でした。姫様の護衛として姫様に続きたかったのですが……」
「ソフィアさんもすごいです。僕はなんとか10番以内に入れたのでほっとしました」
「わ、私もなんとか10番以内に入れてほっとしました」
ソフィアもSクラスに所属しているだけあって十分な成績だった。防衛魔術の実技試験ではエリーザに続く2位だったのだが、座学のほうがあと一歩といったところだ。ただエリーザの護衛や身の回りの世話をしつつこの順位なら優秀だろう。護衛だが仲が良いこともあって休日は一緒に勉強もしていたらしいからそのおかげでもある。
ベルンとメリアも平民特待生として無事に10位以内をとれたようだ。この世界の学園は前世の学校よりも随分とシビアだから、酷い成績をとると退学処分もありえるので2人だけでなく、俺もほっとした。
「私も10番台だったので良かったです」
シリルの方はというと、筆記試験はどの教科もすばらしい成績だったのだが、実技の方がもう少しほしいところであった。この魔術学園は魔術を学ぶ学園であるため、筆記試験よりも実技試験の方がより重きを置かれるからな。
とはいえ、十分過ぎる成績だ。この短期間で生徒たちがここまで成長してくれるとは俺でも予想できなかったぞ。
中でもBクラスの生徒たちの成長は著しかった。やはり先日の件を経験したおかげだろう。苦難が大きいほど、それを乗り越えた時の経験値は大きいものだ。もちろん感謝をする気などないが、苦難を生徒たちが成長の糧にできたのは救いだったな。
本当は生徒たち全員に良い評価を与えたかったのだが、それも難しい。学校の成績は相対評価と絶対評価の2種類がある。相対評価は生徒の成績を学年が同じ他の生徒と比較して評価する方法で、絶対評価は学習指導要領で定められた目標に対する達成度にて評価する方法だ。
前世の学校では絶対評価が基本だがこの学園では相対評価で見ているため、最高評価は成績上位者の何パーセントしか与えられないと決まっている。生徒たちの頑張り具合からもっと多くの生徒に最高評価を付けて上げたかったがそれも難しかった。生徒が成長したとしても、周囲のレベルも上がってしまうと突出するのは難しいところでもある。
「ふむ、みんな十分頑張った。俺が学園に来たばかりのころと比べると本当に見違えたぞ」
「最初はギーク教諭に無礼な態度をとってしまって、本当に申し訳なかったです……」
「あ、あの時のことは忘れてください!」
最初は防衛魔術の実戦演習に参加せず、ソフィアが俺に突っかかってきた時のことか。
「でもあれはギーク先生も悪いですよ。ただでさえまともな教師がいない中で、新しい教師が臨時教師かつ髪もぼさぼさで変な白い服を着ていましたから、がっかりするのも当然です」
「ふむ、髪については申し訳なかったと思うが、この白衣については聞き捨てならんな」
「相変わらずその白衣という服にはこだわりがあるのですね……」
シリルの言うことももっともだが、この白衣については譲れないぞ。白衣こそ研究者の証である。
さて、これでこの学園の前期は終わりだ。長期休みの演習場の許可が取れ、魔術競技会のための合宿ということでアノンの許可も取れた。
生徒たちに確認したところ、多くの者が長期休暇中の前半を使って実家に帰省したり、家の行事などをこなす者が多かったため、合宿は長期休みの最期の週となる。それまでは週に1度ペースで希望者に対する実戦演習を行う。
休み中は今までに比べると多少余裕があるので、下期の行事の準備をしたり、二学年の状況を確認したりするつもりだ。そして残りの時間はすべて魔術の研究に打ち込むとしよう。今から長期休みが楽しみである。




