第93話 実戦試験
「くっ、ライトニングバレット!」
ゲイルの雷魔術が演習場を駆けまわる四足歩行のオオカミ型のゴーレムに的中する。
そしてゴーレムが後方へ飛び退き、そのまま稼働を停止した。
「そこまで。ふむ、一度も失格なしで撃退だな」
「当然だ」
このゴーレム相手に戦闘不能となるブザーを鳴らさず、攻撃がかすった程度ならばかなり優秀だ。
オオカミ型のゴーレムは俺が試験用に用意したゴーレムである。防衛魔術の試験ではより実戦に近い試験を用意した。俺が感覚をリンクして操作する魔導ゴーレムとは異なり、自動でプログラムに沿った戦闘をおこなう。魔物との戦闘を想定し、より実戦的となっている。
生徒たちに演習場へひとりずつ入ってもらい、ゴーレムとの戦闘を行ってもらう試験。戦闘不能のダメージを受ければブザーが鳴る仕組みはいつもの演習場と同じだ。ゴーレムの方は一定以上のダメージを受けると稼働を停止する設定にしてある。
チャンスは3回あり、3回で倒せなかった場合はそれまでのゴーレムへのダメージと戦闘の過程で評価をする。
もちろん公平を期すため、他の生徒の試験の様子は見せず、ぶっつけ本番でおこなう。
多くの生徒がゴーレムとの動きを掴み、稼働を停止させるまでに1~2回はブザーが鳴るのに対し、ゲイルは1度もブザーを鳴らすことなく試験は終了した。相変わらず戦闘面に関していえば非常に優秀である。
「次、ハゼン」
「はい」
魔術薬学の調合試験や魔術史、算術の試験は複数人の生徒たちで一斉に受けることが可能だが、防衛魔術の実技試験はこれを4クラスの生徒全員分行うのだから、なかなか時間がかかる。前世の学校ほど学年の人数が少ないのは幸いだな。
さて、もう少しで試験も終わりだ。生徒たちは数日間ですべての試験を終えた時点でようやく試験期間から解放されるが、教師である俺たちはまだこれからやることがある。
「ふう~これはだいぶ大変だねえ……」
「1枚ごとに採点するよりも数問ごとに分けて採点をしていくほうが効率的に採点できる。これでもまだ少ないほうだぞ。200人以上の生徒たちの答案を採点する時は本当に大変だったものだ」
研究室の前で俺たちの前には数十人分の生徒たちの筆記試験の答案が重ねられていた。
教師には試験が終わったあとに採点作業や試験の結果を集計する作業が残っている。
「200人ですか!? ギーク先生はそんなに生徒数の多い魔術学園に勤めていたことがあるのですね」
「すごいですね! でも、採点をひとつ間違ってしまうだけで生徒たちの成績が変わってしまうと思うと、採点作業にも気が抜けないですよね!」
「ルシアン先生の言う通りだ。採点作業で生徒たちの人生が変わってしまうくらいの覚悟で俺たちも採点作業に望むべきだな」
「は、はい! 気を付けます!」
ノクスだけでなく、イリス先生とルシアン先生も俺の研究室に集まっている。ひとりで黙々と採点作業をするのも良いが、こうして教師同士で集まるのも作業が進むものだ。
そしてルシアン先生の言う通り、丸ひとつを間違えただけで生徒たちの成績が変わり、成績が変わったせいで生徒たちの将来まで変わる可能性があることをしっかりと自覚せねばならない。新任なのにルシアン先生もよくわかっているようだ。
「よし、今日はこのくらいにしておこう。あまり根を詰めすぎてもミスをしてしまうからな」
「はい」
試験の採点期間の数日間、授業は休みとなる。そのあと試験の集計をして、普段の授業態度や小テストなどを加味し、成績が発表される。生徒たちにとっては緊張の瞬間だな。
俺も前世での学生時代はテスト返却と通知表をもらう時はだいぶ緊張したものだ。なかなか大変な作業だが、他の先生方と一緒に頑張るとしよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「よし、30番以内に入れたぜ!」
「17番ですか。まあまあといったところですわね」
学園の廊下に長く張り出された長い掲示物。
この掲示物には今学期の成績30位以内の生徒の名前が載っている。前世の昔の学校ではこういった形で張り出されていたが、最近は生徒たちのプライバシーもあって、自分が何番かだけしか知らされない学校の方が多かった。
異世界のこの学園では生徒たちの順位をすべて公開していたらしいが、さすがにこれまでの方式をすべて変更するのは難しく、アノンや他の教師と相談して30番以内のみ張り出すことになった。
勉強は自分自身でするものではあるが、ライバルたちと切磋琢磨し、目標となる生徒がいることでモチベーションも上がる。今回30番以内に入れなかった生徒たちも今度こそ30番以内に入ろうと奮起するに違いないだろう。




