第73話 魔導ゴーレム
週に一度の放課後の実戦演習場を借りて行っている勉強会。1学年の全クラスの希望者が放課後に集まってくれている。
先日の件もあったせいか、Bクラスの参加者は多い。もちろんいつもの勉強会のメンバーやゲイルたちも参加している。毎日行っている放課後の勉強会にも質問をしに来る生徒も結構増えているな。
ただ、やはり貴族はいろいろと忙しいのか、毎日参加している生徒はいつものメンバーくらいだし、エリーザとソフィアも家の習い事や用事もあって毎日は参加できていないようだ。今日も参加したそうにしていたが、家の都合があってそっちが優先されたらしい。
「さて、今日は以前に一部の生徒には見せた魔導ゴーレムを見せよう」
今日は以前よりシリルたちから要望のあった魔導ゴーレムの説明をしようと思っている。
パチンッ。
「せ、先生、それは魔術なのですか!?」
「ああ、これは空間魔術というもので、特別な魔術だ。使い方にもよるが、別の空間に物を入れておける魔術となる。まだ開発中の魔術となので、他の者には秘密にしておいてくれ」
空間魔術を構成し、宙に浮かんだ黒い渦へ手を入れるのを見て生徒から質問が入る。この魔術はBクラスとエリーザとソフィアにしかまだ見せていない魔術のため、他の生徒たちに説明をした。
「……すごい魔術ですね。どうやって使うのか教えてほしいです」
この魔術を初めて見るベルンが黒い渦に近付き、じっくりと観察している。
「危険だからあまり近付き過ぎないようにな。この魔術は小さくて派手ではないが、以前に見せた紫電狼よりも遥かに高度な魔術によって構成されている。座標の固定などが難しく、非常に危険な魔術でもあるから、この魔術を教えるとしてももっと魔術に精通してからだな」
このアイテムボックスのような空間魔術は他の魔術よりもかなりシビアな魔術だ。この魔術が完成するまでに収納してそのまま取り出せなくなった物もかなりあるし、研究室の一部を削り取って消失してしまったこともあった。
さすがに今の生徒たちに教えるのは危険すぎる魔術である。魔術は段階を踏みながら学んでいかなければならない。
「うわっ、大きいですね!」
「すごい、右腕が剣になっているのか」
Bクラス以外の魔導ゴーレムを初めて見る生徒が驚いている。
目を閉じながら集中し、魔導ゴーレムと感覚を同調し、そのまま魔導ゴーレムを動かした。
「うおっ、かっけえ!」
「すごい! ギーク先生、これはどうやって動いているんですか?」
「魔導ゴーレムの中に仕込んでいる核となる魔力を貯める性質を持つコアを動力とし、そこから駆動系の回路を動かして制御をしている。専用の回線を自分の意識と同調することによって自分の思った通りに動かすことができる仕組みだ」
特に一部の男子生徒たちの反応がすごいな。やはり異世界であろうと、男はこういったロマン溢れるロボやゴーレムに心を奪われるのもなのである。
「なるほど、魔力の通しやすい魔鉱石を使用しているのね。コアに使われているのはエリウム鉱石かしら……いえ、これほどの質量の物質を動かすとなると、それでは力不足ね。四肢のパーツを魔力の通いやすい素材を使って、駆動部分を魔力を増幅させるパーツを使えばあるいはいけるのかも……。さすがはあの御方が作った魔道具だわ」
「シ、シリルちゃん!?」
「………………」
女性であるはずのシリルが男子生徒以上に魔導ゴーレムへ興味を示しており、隣にいるメリアが若干引いている。
魔道具関連のことになると興味を隠せないようだな。俺も未知の魔道具を見た時はシリルと同じ反応になるから、気持ちは分からなくもない。
ここには俺がギル大賢者の弟子という設定を知らない者もいるので、その名は出さないでくれたようだ。それにしてもあの御方って……。
「すでに開発が進められている魔導ゴーレムの方もあるから、最初は簡易なこっちを参考にするといい。こっちは意識を同調するような複雑なことはできないが、魔術式を構成することにより、簡易な命令を飛ばすことができるぞ」
「うわあ~犬みたい!」
新たに空間魔術から取り出した50センチメートルほどの小さな魔導ゴーレムを生徒たちに見せる。こちらはすでに公表されている技術で作られた簡易式のゴーレムだ。
こちらは意識の同調はできず、遠隔で魔術式によって操作をする。前世であったラジコンみたいな感覚だな。意識の同調は慣れないと頭の処理が追い付かないくらい大変だが、こちらはすでに基本的な動きを魔導ゴーレムに刻み込んであるので、遠隔で魔術式を飛ばすと生徒たちの周りを駆けまわった。
「あら、とっても可愛らしいわね」
「本当ね。ちょっと家に欲しいかも!」
女生徒の方はこっちの小さなイヌ型の魔導ゴーレムの方に反応を示している。男女でこうも反応が異なるのは面白いな。
「……こちらの方が量産はしやすそうね。簡易な分、魔術式を誰でも飛ばせてしまうから、所有者の魔術式だけ区別するような仕組みが欲しいところかも」
シリルだけはそういった視点では見ていない。やはりシリルには研究者としての気質があるみたいだな。




