第68話 話が早い
「ノクス、いつの間にこんなに情報を集めていたんだ?」
「前にギークからざっと話を聞いたよね。あれから2週間もあったから、その間にこっちの方でいろいろと調べておいたよ」
「「………………」」
確かにノクスには事前にこの学園のことはある程度話しておいたし、問題のありそうな教師についても少し愚痴った気がする。
しかし、それだけの情報で学園の関係者でもないノクスがたったの2週間でこれだけの情報を集められたという事実にとても驚いている。これにはさすがのアノンも目を丸くしていた。
しかもアスラフだけでなく、他の問題がありそうな教師についての報告書まである。
「アノン、これだけの悪事を働いた証拠があれば、こいつをクビにすることはできるか?」
「う、うむ、もちろんじゃ。しかし、これほどの情報を一体どこから……」
「ちょっと言えないこともしているから情報源は秘密かな。だけどその情報の信憑性は保障するよ」
おそらく俺と同じで多少は法に触れることもしているのかもしれない。これだけの情報をこの短期間で集めることは少なくとも俺にはできないだろう。
「仕事が早くて助かるぞ。これならノクスが魔術薬学を教えることができる」
話が早くて非常に助かる。相変わらずノクスは有能だな。
今のところ防衛魔術と基本魔術の2教科を教えていても問題ないし、それよりも問題のある魔術薬学を教えてもらうとしよう。
「ギークに借りていた借りはこんなものじゃないからね。役に立てたみたいで嬉しいよ!」
「ああ、今回の頼み事で貸し借りはなしだ。本当にすまないな」
ノクスと出会ったのは俺が研究室へこもる少し前になる。いろいろとヤバイことに首を突っ込んでいたノクスを助け、俺が趣味で作っていた魔道具を渡して問題を解決したことがきっかけだったな。
その後ノクスには情報を集めてもらったり、必要な素材などを集めてもらったりもしたが、それとは別に俺もノクスが依頼してきた魔道具などを作ってきたから、完全にギブアンドテイクの関係だ。
今回しばらくの間学園に教師として働いてもらうことを頼んだが、引き受けてくれるとは意外だったぞ。
「僕の方はこれまでよりもギークと一緒にいられそうだから気にしなくていいよ。それにしてもギークがずっと引きこもっていた研修室から出て学園の教師になるとは思わなかったよ」
「俺の方もいろいろとあったんだ。才能のある若人に魔術を教えるのもなかなか有意義な時間だぞ」
ノクスには俺が前世の記憶を持っていることは話していないので、教師の仕事をしていたことは知らない。
確かにそのことを知らなければ、どうして俺が教師になったのか疑問に思っても不思議ではないかもな。俺も最初は今更教師なんてと思ったが、ここ最近でその考えは改めた。
「ふ~ん、そんなものなのかな」
「徐々に分かってくれればいいさ。さて、ノクスは教師の仕事は初めてだから、まずは俺の授業にも参加してもらい魔術薬学の授業の方には俺も参加する形でいいな。数回授業を行って、慣れてきたら一人で任せるつもりだ」
「うん、了解だよ」
ノクスの実力と魔術薬の知識については問題ないことを知っているが、そのことと授業で教えることは別の能力となる。授業の進め方や、どうやって生徒たちに分かりやすく教えるかを説明するためにしばらくは俺の授業では授業を見学してもらい、サポートをしてもらう。そしてノクスの授業では俺がサポートにつく。
前世では教育実習という仕組みがあった。教育実習は教員免許を取得するために必要な実習で、教育学部の学生が実際の学校で教師から指導を受けながら授業を行う。
もちろん俺も教育実習生として母校で実習を受けた。自分が学んできた母校だと、学校の施設を多少は把握しており、恩師がまだ残っていることもあって多少はやりやすい。もちろん学校の教員数の関係もあって、確実に母校に受け入れてもらえるわけではないが。
「うむ、それがいいと思うのじゃ。ギークの件もあって大丈夫だと思うのじゃが、この学園には平民に偏見を持つ生徒もいるからのう」
「そうだな。俺の友人と伝えておけば、多少はやりやすくなるはずだ」
普通の教育実習とは違って、この世界には身分がある。ノクスも平民なので、それについては何か言われるかもしれない。まあ、雇用形態は俺の反省を踏まえて、正規雇用となっているから俺よりはマシだとは思うが。
俺が学園に来た最初の頃が思い出される。さすがに今では多少まともになったから、いきなり教師相手に魔術をぶっぱなす生徒はいないだろう。
さて、明日からの授業に備えてアノンとノクスとどのように授業を進めていくか相談するとしよう。




