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【WEB版】異世界転生した元教師、【臨時教師】として崩壊した魔術学園を救う。『GA文庫様より11/15発売!』  作者: タジリユウ@6作品書籍化


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第59話 レッドオーガ【生徒Side】


「ガアアアア!」


 森の奥から生徒たちの身長の倍はあるほどの巨大な二足歩行の魔物がその姿を現す。


 その魔物が巨大な咆哮を上げると、森全体がその叫び声に共鳴するかのように振動し、空気が揺れてその衝撃が生徒たちを襲う。


「ひっ……」


「ま、まさかあの魔物はレッドオーガ! なぜこんな場所に!?」


 肌はまるで焼けた鉄のような深い赤色をしており、頭からは一本の白い角が生えており、筋肉質な巨体でその右手には大きな棍棒を持っていた。


 元々凶暴な性格をしており、別の魔物だけでなく人をも喰らう異形の魔物。しかも普段以上に興奮した様子をしており、生徒たちを敵意に満ちた眼でとらえている。


「ば、化物……」


「シ、シリルさん、逃げた方がいいんじゃ……」


 これまでの魔物とはまったく異なるレベルの魔物が出現したことにより、生徒たちの間に動揺が走る。メリアも今の咆哮を聞き、しりもちをついてしまった。


「……いえ、いざとなればギーク先生のゴーレムもいます。周囲にあの魔物以外はおりません。あの魔物に狙いを定め、全員で一斉に魔術を放ちましょう!」


 突然のレッドオーガの出現により恐慌状態に陥った今の状況で撤退しようとすれば、恐怖により集団でまともな撤退行動ができないと判断したシリルはクラスメイトによる魔術での同時攻撃を指示する。


 クラスメイトたちが散り散りに撤退してしまえば、たとえギークの魔導ゴーレムであっても生徒全員を守ることができないという判断だ。


「ガアアアア!」


 当然魔物であるレッドオーガは生徒たちが考える時間など与えずに生徒たちの方へ走ってくる。その巨体に似合わず、他の魔物以上に速い。


「皆さん、今持てる最大の魔術の詠唱をお願いします!」


「りょ、了解! 紅蓮の炎よ――」


「風の奔流よ――」


 シリルの指揮により動揺していた生徒たちが戦意を取り戻し、次々と詠唱を始めて魔術を構成する。


「ふん、上等だ! 轟く雷鳴よ、その猛威を嵐と化し渦を巻け! 破滅の嵐となりて猛る怒りを解き放て! ライトニングテンペスト!!」


 降り注ぐ雷の嵐、燃え盛る深紅の炎、鋭い風の刃など生徒たちが一斉に放った様々な魔術がレッドオーガを襲う。


「グガアアアアアアアア!」


 生徒たちの渾身の魔術を単身で浴び、さすがのレッドオーガも耐えることができず、そのまま地面に崩れ落ちて動かなくなった。


「や、やったわ!」


「すげえ、俺たちだけであのレッドオーガを倒せたんだ!」


「おっしゃあ! やったぜ!」


 生徒たちが歓喜の声を上げる。


 自分たちの力だけであの巨大な魔物を倒せたという事実が飛び上がるほど嬉しいのは当然のことである。


「ふう……」


「やったね、シリルちゃん!」


「ええ、メリアの風魔法は本当にすごかったわね」


 メリアがシリルに抱き着く。


 シリルは無事にあのレッドオーガを倒すことができてほっとしたようだ。メリアも先ほどまでにこれだけの魔物と戦ってきたおかげもあって、レッドオーガを目の前にしても詠唱を続け魔術を構成することができた。


「ゲイル様、さっきのライトニングテンペストはすごかったです!」


「ちっ……本当はあの先公へ一撃当てるために新しく覚えた雷魔術だったんだがな。だが、この魔術を使えるようになったのは2人が俺様の鍛錬に付き合ってくれたおかげだ。礼を言う」


「とんでもないです! ゲイル様のお役に立てて良かったです!」


 ライトニングテンペスト――対象に向かって複数の激しい雷を落とす魔術で、広範囲かつ威力もそれぞれがかなりの威力を持っていた。


 ギークやエリーザへの対抗心が原動力になったとはいえ、これほどの高度な技術を要する魔術を使えるようになるまで相応の鍛錬をしていたようだ。


「皆さん、あまり喜んでいる時間はありません。今ので相当な魔術を使ってしまったようですし、別の魔物が来た時に備えてマナポーションを――」


「「「ガアアアアアア!」」」


「えっ……」


 レッドオーガへの勝利に気を緩めることなく、まだ出てくるかもしれない魔物へ備えようとしていたシリルの指示を遮り、先ほどよりも巨大で複数の咆哮が森中に響き渡る。


 そして森の奥から、先ほどと同じく巨大な二足歩行の魔物が複数体姿を現した。


「レ、レッドオーガがあんなに……」


「う、嘘だろ!? それにさっきのやつよりも大きいぞ!」


 生徒たちが倒したレッドオーガよりも大きな個体の数々。先ほどのレッドオーガは群れの斥候である一体にしかすぎなかった。


「み、皆さん、落ち着いて! すぐにマナポーションを飲んでください! ギーク先生、私たちだけであのレッドオーガの群れには対応しきれません! 指示をお願いします!」


「………………」


「ギーク先生! ギーク先生!」


 シリルがゴーレムに向かって呼びかけるが、先ほどまで反応していたはずのゴーレムが急に反応しなくなった。


 もちろんレッドオーガたちはそんな状況で待つことはなく、生徒たちの方へ走り出した。


「ちっ、あの先公め! おい、俺が先頭の一体を狙う! クネル、ハゼン、そこの平民、次に来る個体を狙え! 他の者はその後ろのやつを全力で狙え!」


 こんな状況においてもマナポーションを飲んで魔力を回復していたゲイルがシリルに代わって指示を出す。


「……っ! 皆さん、ゲイルさんの指示通りに! ありったけの魔術をお願いします!」


「お、おう!」


「や、やるしかないわね!」


 他の生徒たちも動かないゴーレムに動揺しつつも、ゲイルとシリルの指示を受けて覚悟を決めた。




 バリバリバリバリ


「「「グガアアアアアア!」」」


 生徒たちがレッドオーガの群れと対峙しようとしたその瞬間、レッドオーガたちの頭上から紫色の巨大な稲妻の奔流が降り注いだ。


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