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【WEB版】異世界転生した元教師、【臨時教師】として崩壊した魔術学園を救う。『GA文庫様より11/15発売!』  作者: タジリユウ@6作品書籍化


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第132話 過程


「……失礼しました。ですが、私は同年代の者に決して負けたくないのです。私が第三王女という立場にありながらこの学園に通えているのは私に魔術の才能があったからです。もしも魔術競技会でユリアス様に負けて才能がないと判断されれば、お父様にこの学園を辞めさせられてしまうかもしれません!」


「……それは父親に直接そう言われたのか?」


「いいえ。ですが、私がこの学園へ入学したいと伝えた時も、お父様は最後まで反対していました。それに先日も魔術学園ではない普通の学園に転校しないかと遠回しに聞かれました」


「………………」


 俺が大賢者の称号を拝命する時に少しだけ話した様子だと、国王は息子や娘の意思を否定するような人物には見えなかったのだがな。むしろ子供たちを溺愛している印象だった。エリーザが誘拐された時も必死でエリーザを捜索していたとアノンは言っていたしな。


 ……ふむ、おそらく魔術学園へ進むのに反対していた理由はエリーザのためを思ってだろう。やはり普通の学園に比べてしまうと、魔術学園のほうが生徒や教師が魔術を使う分、事故などが多くなってしまう。王族はあえて魔術学園へ進む理由なんてないからな。


 転校の話については完全に俺たち学園側の責任でもある。特にエリーザはここ数か月で何度か命の危険にさらされてしまったので、子供を想う親ならば転校を勧めるという理由もわかる。もちろん、それは俺の推測にすぎないが。


「そしてなにより、私はギーク教諭にたくさんのことを教わり、命を救ってもらいました。それなのに私はまだギーク教諭に何も返せておりません! せめて魔術競技会では絶対に勝って、ギーク教諭や学園のために役に立ちたいと思っていたのですが、ユリアス様のような強大な魔術を扱う者に勝てるのか私には自信がないのです……」


 エリーザもエリーザなりに考えていたらしい。人一倍才能があり、人一倍努力をして大人びている彼女であっても、まだ人生経験の少ない少女だものな。


 ……まあ、その悩みは完全に的外れなのだが。


「エリーザ、お前はいろいろと深く考え過ぎだ」


「えっ……?」


 俺の言葉にエリーザがポカンとした表情を浮かべる。周囲の者からあまりこういったことを言われたことがないのかもしれない。


「まず、魔術競技会で負けたら無理に学園を辞めさせられてしまうかもしれないという話だが、おそらくエリーザの意思を無理に曲げてまで転校なんてさせないはずだ。もしも父親がそう言ってきたのなら、その時こそ教師である俺たちの出番だ。生徒たちが魔術を学びたいという意思を最大限尊重できるよう協力する」


「………………」


「そしてエリーザが俺に何かを返す必要なんてない。教師が生徒を守ることは当然だし、学園のこともエリーザが心配する必要はない」


 それは教師としての務めだし、身も蓋もない言い方をしてしまえば、対価として給料はもらっているわけだしな。


 今の学園の状況についても賢いエリーザのことだから、なんとなく状況がわかっているのかもしれない。だが、学園の経営について考えるのは学園長やおれたち教師の仕事だ。たとえ魔術競技会で良い成績が残せなかった場合は別の生徒を集める方法を探せばいい。


「ですが――」


「それに返したいというのなら、もう十分に返してもらっている。教えた生徒たちがよく学び、成長してこれまでできなかった難題を打ち破ってくれることが教師として最も嬉しい瞬間だからな。エリーザは、いや、この学園の生徒たちは本当によく成長してくれた」


「……それならば、私はなおさらユリアス様に勝ちたいです!」


「ふむ、その気持ちはありがたいが、エリーザがここまで成長してくれた時点で十分だ。知っているか、エリーザ? 教師という仕事は他の仕事とは違って、結果よりもその過程が求められるんだ」


「過程ですか?」


「ああ。生徒たちがこの学園を卒業して新たな道を踏み出す際、その進路先よりも学園で何を学んできたかが重要なんだ。将来社会で生きていくために必要な知識や経験、魔術師として心構えや他者を思いやる心、言い出したらきりがない。俺はそういったことを生徒たちに教えてやりたい」


 本来仕事というものはその過程よりも成果を求められるものだが、教師という仕事は少しだけ異なる。生徒たちに良い進路に進んでもらうことも大事だが、それよりもそこに至るまで学校で何を学んできたかの過程が一番大切だ。


 学校で学んだことはその生徒たちのその後の人生に大きな影響を与える。もちろん生徒たちの進路先も大事だが、教師はその先のことも考えなければならない。


 まあ、前世の学校では生徒たちの進路先も教師としての評価に入ってしまうので難しいところでもあるが。


「今回の魔術競技会でたとえ負けたとしても必ず得るものがあるだろう。もしかすると、勝った時よりも負けた時の方が得るものは多いかもしれない。それにエリーザたちはまだ第一学年で、一度負けたところで次に勝てばいいだけだ。だからこそ、今はあまり勝ち負けにこだわらなくていい」


「こだわらなくていい……」


「そうだ。魔術の研究も一緒で、失敗に失敗を重ねた積み重ねの上に成功が成り立っている。命の危険のない競技会ならば失敗や敗北を恐れずにぶつかってみろ。それよりもこの状況を楽しむといい。同等の力を持ったライバルと切磋琢磨しあうことは実にすばらしいことだぞ」


「……ふふっ、魔術に例えるのは実にギーク教諭らしいですね。少しだけ肩の力が抜けた気がします。わかりました、もしもユリアス様と戦うことになっても全力で楽しみたいと思います!」


「ああ、全力で楽しんでくるといい」


「はい! ですが、その上で私は勝ってみせます! 私には頼りになる仲間とギーク教諭がついていてくれますから!」


 先ほどまでうつむいていた時から一変してスッキリとした表情を浮かべるエリーザ。相変わらず負けん気は強いようだが、それでも多少は肩の力が抜けたみたいだな。


 さて、合宿は今日で終わりだが、帰るまでが合宿である。残りの長期休みも含めて、元気な生徒たちと新学期で会えることを祈るとしよう。


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