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【WEB版】異世界転生した元教師、【臨時教師】として崩壊した魔術学園を救う。『GA文庫様より11/15発売!』  作者: タジリユウ@6作品書籍化


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第117話 見ていた男


「年頃はみんなと同じくらいだが、うちの生徒ではないようだ。この施設を利用しているお客さんだが、みんなの魔術に興味を持って少し見学しているだけだと思うぞ」


「そ、そうですか……」


 実は俺も気付いてはいたが、昨日も生徒たちが鍛錬している様子を少し眺めている施設の利用客はちらほらといた。部活の合宿などをしていると、なんとなく少し見ていたくなってしまうものなのである。特に大人になると学生は若いな~なんて自分の青春時代を思い出すのだ。


「ただし、あの男性は長時間こっちを見ていたな。みんなの気が散るようだし、お引き取り願うとしよう」


「す、すみません!」


「メリアが謝る必要はないからな」


 少し見学をするくらいならいいのだが、生徒たちの集中力の妨げとなるのなら話は別だ。見学したいという気持ちも分かるが、お引き取り願うとしよう。


 相手は身なりの良さそうな貴族だろうし、こちらもある程度気を遣わないとな。




「申し訳ない、こちらは見学を控えてもらってもよいだろうか?」


 出入り口の方へ移動し、先ほどからずっとこちらを見ていた男へ話しかける。


 年頃は学園の生徒たちと同じくらいに見えるが、身長は180近くあってかなりの長身だ。細身でシャツの上にジャケットを羽織っており、だいぶ大人びて見える。混じり気のない綺麗な金色の長髪を後ろで束ねている。


「大変失礼しました。こちらを通りがかったところ、とても興味深い様子でしたので、しばらく足を止めて見させていただいておりました」


 礼儀正しく頭を下げる青年。その所作にはなんとなく気品のようなものが見え隠れする。


 やはり生徒たちの魔術に興味を持って見学をしていただけらしい。


「あちらにいらっしゃるのはエリーザ第三王女様でしょうか。ということはこちらにいるのはバウンス国立魔術学園の第一学年生ですね」


「………………」


 目の前に対する青年の警戒度を少し上げる。エリーザは王族であり珍しい銀髪であることからとても目立つ存在であるが、そこまですぐに理解できるということは何らかの関係者に違いない。先ほどからこちらを長時間見ていた目的はエリーザだったのか。


「ああ、不審に思わせてしまいましたね。すみません、実は私は――」


「これはこれは、ユリアス=ハルバート侯爵様ではないですか」


 突然俺の後ろからノクスが現れた。


 そしてノクスは彼のことを知っているらしい。


「エテルシア魔術学園の神童と名高いユリアス様もこちらへいらしているとは奇遇ですね。いえ、この辺りで魔術競技会の訓練に使用可能な施設は限られているので、それほど奇遇とまではいないのかもしれませんが」


 エテルシア魔術学園の神童。以前ベルトルト国立魔術学園のラルシュがそんなことを言っていた。


 なるほど、どうやら目的は俺たちと同じで魔術競技会のための鍛錬といったところか。この施設の団体利用客を調べたが、他学園の使用はなかったから個人で使用しに来ているのだろう。


「先に言われてしまいましたね。改めましてユリアス=ハルバートと申します。どうぞお見知りおきを」


「ノクスと申します。バウンス国立魔術学園で教師をしております」


「ギークと申します。同じくバウンス国立魔術学園で臨時教師をしております」


「……臨時教師?」


 右手を左胸に添えて軽く会釈をする貴族の挨拶をしている最中、俺の発した臨時教師という言葉に明らかに反応したユリアス。


 家名も名乗っていないから平民であることも知られたし、あのラルシュとかいう教師と同じで態度が一変するかもしれない。ユリアスはガリエルと同じ侯爵家か……あまりいい予感はしないな……。


「同年代の者が団体でここを利用するのは初めて見たので、つい足を止めてしまいました。途中でエリーザ第三王女様がいらっしゃることに気付き、バウンス国立魔術学園であることがわかりました。敵情視察をするつもりはなかったのですが、大変失礼しました」


 そう言いながら平民である俺とノクスに頭を下げる侯爵家のユリアス。どうやら貴族至上主義ではないようなので、少しほっとした。


「いえ、そういう事情でしたら問題ございません。私もユリアス様の立場でしたら、足を止めて見てしまうと思いますよ。ねっ、ギーク先生」


「ええ、私も同じです。それに他の学園の関係者がこちらにいるとは思っておらず、空調を優先して出入り口を開けていたのはこちらの落ち度ですからお気になさらず」


 団体客に関係者がいないことは確認したが、さすがに個人の客までは把握できていなかった。まさか個人でこの施設を利用しているとはさすが侯爵家といったところか。


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