第103話 魔道具店
「シリルさんの服はとても可愛らしいですね。どちらで購入されたのですか?」
「こちらはミルーネ通りのパウロン商会で買いました。エリーザさんの服は……もしかしてベルサ商会ですか?」
「はい、そうです。私が幼いころからあちらの商会にはとてもお世話になっています。よくおわかりになりましたね」
「それはもう、ベルサ商会は昔から流行の最先端をいく商会ですからね。もしかするとソフィアさんのメイド服もそちらで?」
「ああ、姫様のご厚意で私の分の服も用意してくれている。素材も品質良い物を使用しているから、見た目だけでなくとても着心地もいいんだ」
「さすがベルサ商会ですね。あそこは一部の貴族に向けてしか商品を卸していないので、とても羨ましいです!」
「………………」
なにやらお互いの服をどこで購入したのかを話しているらしいが、さっぱりわからない。う~ん、今時の貴族の若者は服などにも詳しいようだ。以前と比べると、こうやって普通の学生のように仲良くなったのは実にいいことだとは思うが。
それにしても、ノクスのやつがいればこういった会話にも入っていけるのだろうが、俺には難しすぎる。ノクスも誘ってみたのだが、ニヤニヤしつつ用事があると言って断っていた。俺も断ってもよかったのだが、エリーザも一緒なわけだし、イリス先生の他にもうひとりくらい引率の者がいてもいいと思って了承した。
それに俺も他学年の教師を排除すること以外はずっと魔術の研究をしていて引きこもっていたからな。生徒たちにも常日頃言っていたことだが、人間気分転換も大事である。
……というか、あまり深く考えていなかったのだが、ノクスとベルンがいないと俺以外はみんな女性なのか。さっきからこちらの方をチラチラと見ているのは俺の気のせいではないだろう。
前世ではソフィアのメイド服は目立ったかもしれないが、こっちの世界だと普通に執事服やメイド服を着た従者も歩いている。どちらかというと、この集団に一人ポツンといる男の俺が目立ってしまいそうだ。
「ええ~と、皆さんすごいですね。私は服については全然で……」
「俺も似たようなものです。白衣さえあれば他の服はそれほど気にしていないな」
イリス先生もポカンとしていたから、俺のように服にはあまり興味がないのかもしれない。
俺も服にはこだわりがないから、そこそこ有名な商会で適当に人気のある商品を普段着として使っている。前世ではほとんど有名な大衆チェーン店で購入した服だった。ぶっちゃけ普通に見えればそれでよかったからな。
最初にやってきたのは街の魔道具屋だ。今日はイリス先生がランチをご馳走してくれるとのことだが、それまでに少し時間があるので、街の店を少し回ることとなった。
せっかくなら魔道具屋に行ってみたいといったのは当然俺なのだが、シリルとエリーザも賛成してくれた。
「ふむ、この魔道具には消費魔力を軽減する術式が刻まれているのか。素材も加工して工夫が付け加えられているな」
「最近だとだいたいの商品にこの術式は組み込まれていますよ。高価で耐久性のある商品ならともかく、この価格帯ではこれくらいの素材を加工した方がより安価になりますね」
魔術によって熱風を発生させる前世でいうところのドライヤーの魔道具を検分していると、横からシリルが教えてくれる。さすがにシリルは魔道具に詳しいだけあって、こういった店で販売されている魔道具に詳しいようだ。
俺が開発したこの魔道具は他の魔道具と同様に大手商会に卸したが、その魔道具を一般の人へ手に取りやすく改良するのは各商会に所属する魔道具師たちだ。各商会のお抱えの魔道具師たちの仕事が施された魔道具を見るのは勉強にもなる。
「もっと高価な商品ですと、熱風の温度や風力の調整などもできるみたいですね。術式を複数刻み込んで、どちらの術式を発動させるかをこちらのスイッチで選択できるようにするのですか?」
「ああ、エリーザの言う通りだ。この選択方式も……ギル大賢者の魔術特許に含まれている。複数魔術式を刻み込むから少し大型になってしまうのが欠点といったところか」
シリルと反対側にはエリーザがやってきて、魔道具に関しての質問をしてくる。魔術を熱心に学んでいることもあって、実に良い質問だ。
……しかし相変わらず俺自身のことをギル大賢者と呼ぶのには違和感がある。俺はその弟子という設定になっているから、ボロを出さないように気を付けなければな。




