第101話 裏金問題
「すみません、お水をもらえますか?」
「ええ、もちろんですよ。少しお待ちください」
「ありがとうございます」
「はい、お待たせしました。……あら、あなたみたいな格好いい護衛の方なんていらっしゃっ――」
「おっと」
40代くらいの女性が倒れ落ちそうになる瞬間、ノクスが女性を受け止め、そのままソファの上に横にしてあげる。
「これで1階にいる者はすべて眠らせた。あとは2階にいる者が数名とビクサス伯爵だけか」
ビクサス伯爵の屋敷に潜入し、防犯用の魔道具を解除しつつ、屋敷に仕えている者を順番に眠らせていった。
ノクスは女装を解除し、先ほどの門にいた護衛の着ていた装備を着て今はこの屋敷の護衛の者になり切っている。女装だけでなく、男の変装もできるのだから本当に何でもありだな。おかげで一度の戦闘もなく、無事に1階を制圧した。
「それにしても屋敷の内装はだいぶ豪華だねえ。僕もこれまでにいろんな場所へ潜入してきたけれど、ここまで豪華な屋敷はほとんどなかったよ」
「金はあるところにはあるからな。といっても今回は裏金だが」
悪人ほどこうやって金遣いが荒いのはなぜなのだろう? 俺も金はある方だが、こんな悪趣味な屋敷を作るよりも研究用の機材を購入した方がずっとマシだ。まあ、俺も研究のためには金をつぎ込むから、金遣いが荒いといえば荒いのか。
「……ふむ、完全に黒だな。裏金をもらった際の記録が、この隠し棚の中にあるぞ」
俺の目の前にはビクサス伯爵が気持ちよさそうにいびきをかいて眠っている。2階も無事に制圧が完了し、眠らせたビクサス伯爵から記憶を読み取る魔術を使って記憶を覘いた。
その結果、ノクスの調査通り様々な方法で裏金を受け取っていたことが確定した。証拠も隠し棚の中にある裏帳簿のようなものでばっちりだ。隠し棚には多数の金貨や宝石類などもため込んである。
その辺りの資金は衛兵たちに没収してもらうとしよう。
「さて、あとはこいつを起こして二度と同じような過ちを犯さないよう身体に刻み込むとするか」
「今回もするの? 僕は新しい魔術薬の実験もできて一石二鳥だからいいけれど、今回は生徒たちに直接害を与えたりはしていないんだよね?」
「そうだな。確かに誘拐犯の手引きをしたり、女生徒にセクハラをしたりと、直接生徒たちに害を与えたわけではない。だが、裏口入学を許したおかげで実力があるのに学園に入れなかった者がいたり、成績を理不尽に操作したせいで生徒たちの進路に影響が出たりと、多くの若人の将来をおかしな方向へ捻じ曲げている」
裏金や賄賂などは金を受け取るだけで、直接害を与えていないと主張する者もいるが、関わる人の将来を歪めていることは間違いない。下手をすればより大きな害を与えていることもあり得る。
「それにおかしな業者の資材を入れたりして事故に遭う生徒もいるかもしれない。そうなれば直接害を与えているも同然だ」
「言われてみると確かにそうかも。教師って仕事は思った以上に責任が大きいんだね」
「そこまで気負う必要はないとは思うが、生徒たちの将来に影響を与える存在であるということだけは自覚しておいた方がいい」
だからこそ、前世も含めて学校や学園という場所で不正を行う教師の罪はもっと大きくしてもいいと思う。各々がそういった自覚を持って教壇に立ってほしいものである。
まあその分前世の教師は労働に対する対価が少ないと思うので、給料を上げてほしいところだが。
さて、そんなわけだから、このビクサス伯爵にも同じ過ちを二度と犯させないためにも、しっかりとその犯した罪の重さを身体に刻み付けるとしよう。
こういった私刑みたいなことはあまりしたくないのだが、この異世界では貴族などの罪は金によって揉み消せてしまう。二度と同じような被害者を出さないためにもきったりやらねばな。




