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陰陽陣独立運動の会

 翌日予定よりも五分ほど早くホテルを出て良治たちは鳥取行きの列車に乗り込んだ。

 鳥取駅に到着した時には時間に結構な余裕があったがほぼ初めての土地だ。迷う時間も入れれば妥当だろう。

 以前鳥取に来たことはあるがあの時は周囲の景色を見るほどの余裕はなく、ただ事件解決のことしか考えられないでいたので仕方ないと言えた。


 駅前からタクシーで住所とホテル名を告げ、優綺と二人で目的地へと向かう。

 彼女の表情は昨日と同じように緊張感が漂い、この会談に真剣に向かい合いたいという気持ちが見えていた。そのことに良治はとても嬉しく思い、そして満足していた。


(向上心ってのは本当に大事だからな)


 向上心、それは良治が人物を評価するときに重要視する点の一つだ。それが見られただけでも今回同行させて正解だったと思える。


「……どうかしましたか?」

「いや、なんでもないよ」


 視線に気付いた優綺がこちらを向くが口に出すことではない。内心だけで評価を付けておく。


 十分ほど走ったところでタクシーが止まり、目的のホテル名を確認して降りる。外観は明治時代の洋風のような感じで、和と洋が合わさっているような印象だ。

 周囲は林もあり、民家は少ないように見える。隠家的な感じなのだろう。密談や会談には適していそうだ。


 ホテル内に入るとすぐに和装の女性が近づいて来たので、指定されていた部屋の名前を告げて案内を受ける。

 後ろについてきている優綺の緊張感に少し当てられて良治も気を引き締めた。


「こちらになります」

「どうもありがとうございます」


 絨毯を敷き詰めた建物の三階一番奥にある部屋に到着する。

 洋風の装飾のある両開きの扉の前に立つと、部屋の中に数人が既にいることに気付いた。こちらが気付けたのだから当然相手も気付いているだろう。

 しかし動きはない。少なくともすぐに戦闘になったり面倒なことにはならなそうだ。


「優綺は今回話さなくていい。だけど誰が何を考えて発言しているか、それだけは常に考えておいて」

「はい」


 優綺はあくまで付き添いで、ここには経験を積ませるために来ているだけだ。無理に話し合いに参加させるべきではない。緊張もしているのでどこでボロが出るかもわからない。

 頭の回転の速さは認めるが、今の彼女には経験が全くない。その為に連れて来たのだから当たり前のことだが。

 そんな彼女は巻き込むことはしない方が無難だ。


 良治がゆっくりと扉を開くとそこには、既にテーブルについた男女数人の姿があった。

 入った扉から一番奥、長方形のテーブルの誕生日席に男女一人ずつ。そして窓側の席には良治よりも確実に年上の男性たちが三人座っていた。


「皆さま遅れて申し訳ありません。白神会から参りました柊良治です。こっちは石塚優綺です」


 軽く笑みを浮かべながら会釈をする。それに倣って優綺も頭を下げた。

 部屋の雰囲気は和やかとは言い難く、かなりピリピリとしている。一筋縄ではいかなそうだ。


「……御足労ありがとうございます。私は陰陽陣副長兼兵庫総長の高遠(たかとお幾真いくまと申します。隣は私の補佐の相坂あいさか美亜みあです」


 僅かに驚いたような表情で、二人は立ち上がり会釈をしながら挨拶をする。

 高遠は少しぼさっとした黒髪のややぼんやりとした印象の男性、相坂はサイドポニーの似合う美人でどちらも良治と同じか少し年上くらいだ。


 良治と優綺がテーブルに着くと、相坂がお洒落なカップに紅茶を淹れる。良い香りだ。


「初めまして柊殿。私たちは『陰陽陣独立運動の会』の者です。私は会長の垣屋かきやと申します」


 白髪が混じり始めた初老の男性が自己紹介をし、続いて二人の名前を言っていく。小太りの男が田結庄たいのしょう、額の広い男が八木やぎというらしい。

 誰も個人的な能力はさほどではない。白神会での階級で言えば八級か七級がせいぜいだ。

 だが大きな組織ではこういうこともある。何故なら力ある退魔士は現場に、そうではなく運営などの事務能力のある者はそちらに回る傾向があるからだ。トップが最強な白神会はある意味特殊と言えるだろう。


「それでは皆さまお集まり頂いたので、少々時間は早いですが開始とさせて頂きます。まずこの場を設けるきっかけになった独立運動の会の垣屋会長から」

「うむ」


 高遠が促し、会談が始まった。


「我々『陰陽陣独立運動の会』と致しましては、白神会による陰陽陣の内政への干渉を即刻止めて頂きたいのです。現在出雲本社と兵庫支社に貴方がたの支部がございますが、その立ち退き、撤退をしてもらいたい。

 十年近く前に陰陽陣で起こってしまった『開門士の乱』での解決、そしてその後の支援など多大な援助をしてくださったことは感謝しております。しかし我ら陰陽陣は自らの足で歩み出すことが出来るようになりました。独り立ち出来る状態ならばそれが一番良いと思い、我らは、立ち上がったので、ございます」


 最後は疲れたのか言葉が切れがちだったが、彼らの主張は前もって聞いたのと変わりないようだ。


「そちらの主張は理解致しました。それで陰陽陣の上層部はどのように考えているのでしょうか、高遠さん」

「はい。私たちは白神会からの内政干渉などは今まで一切なく、今後もそれを認めません。そして支部の立ち退きの件ですが、それらは外交交渉などで必要と思われるため現状維持が妥当と判断しています。

 なので独立運動の会の主張は根拠がなく、今後の白神会との関係を考えても取り入れることは出来ません。それが陰陽陣大総長安松の意見です」

「白神会に取り入った功績で大総長になった成り上がりなどっ!」

「干渉はないと言うが、大総長になれたことこそ干渉があった何よりの証拠ではないか!」


 高遠が組織としての見解を述べ終わると同時に田結庄と八木の大きな声が部屋に響き渡る。だみ声での罵詈雑言は聞き続けたいとは思えないほど不快だ。


「何度も言いましたが、安松が大総長になった経緯は彼の功績での決定です。説明はしたはずです」

「はっ、大部分の支社長が死んで混乱の中強引に決めた結果ではないか!」

「当時早くトップを決めるように白神会が迫ったと聞いている。それは内政干渉ではないのか!」


 目の前で怒声を浴びせる独立運動側へと溜まるストレス。

 主張は被害妄想染みたものだ。何か問題があるというなら少なくとも確たる証拠を提出するところから始めるべきで、これでは会談とは言えない気がする。


 唾が飛びそうなくらい怒鳴られている高遠はというと、もうこのやり取りは何度もしていてどうにもなりませんと言いたげに苦笑している。

 隣の相坂は澄ました表情――に見えたが、こめかみが僅かに痙攣している。なんとか怒りを我慢しているらしい。


「ではそろそろこちら側の見解を述べてもよろしいでしょうか?」

「そうですな。白神会のご意見を」


 一人罵声に参加していなかった垣屋の許可を貰って良治は立ち上がった。


 早くこの場から去りたい気持ちでいっぱいだ。それに独立運動側の誰にも好感が持てない。交渉などしたいと思えなかった。


「それでは。白神会と致しましては陰陽陣への内政干渉など一切行ったことはなく、今後もその予定はありません。そして現在置かれている支部についてですが、今後も情報交換等に必要と思われるので立ち退き、撤退の予定は今のところありません」

「なんと!」

「我らの意見を聞いていたのですかっ!」


 今度は不快な声がこちらに向けられるが、これは想定通りだ。そして垣屋はやはり参加していない。

 これは二人が強気で強引なことを言い、それを垣屋が宥めて譲歩を引き出すというよくある交渉術だ。しかし透けて見えれば乗る必要などない。そもそも譲歩などしなくていい。このまま押し通すだけだ。


「はい、ちゃんと聞いていましたよ。まず安松氏が大総長になった経緯ですが、開門士の乱後、混乱の最中さなかにあったこの中国地方、つまりは陰陽陣を一刻も早く立て直さないとならないことは誰にでも理解出来ることと思います。そして会議の結果安松氏が大総長になったわけですが……その時あなたたちは何をしていたのでしょうか」

「わ、我らは、それぞれの支社から避難していた者を守る為に……」

「戦力の立て直しを……」

「そうですか。でも安松氏は貴方がたを含めた陰陽陣の退魔士たち、ひいてはこの地に住む一般の人たちを守る為に白神会に支援を要請し、そして自らが負傷するほど前線に立ち戦禍の拡大を防ぐべく奔走致しました。

 ――これほどの功績を立てた安松氏ですが、これ以上貢献をした者を私は知りません。貴方たちはどうですか?」

「……」

「っ……」


 田結庄と八木が黙り、そして垣屋も苦い表情をしている。

 当然と言えば当然のことで、戦力の立て直しや避難した者を守っていたと言ってもそれは単純に逃げていただけのことだ。厳しい言い方をすれば戦っていない。解決に向けて行動をしていないのだ。

 そんな彼らに反論できるはずもない。


「白神会は早くトップを決めろと言ったことも、圧力をかけたこともありません。もしそうだとこれ以上言うのなら証拠の提出を求めます。それがないのならこれ以上はただの言いがかりと受け取ります。

 何かあるのならまず証拠をお願いいたします。――この場は正式な会談の場、証拠のない憶測で何かを決めるようなことのないことを切に願います」


 良治が言い終わって見渡すと高遠は苦笑い、相坂は口の端で笑っていた。少しは気分が晴れてくれていたら嬉しく思う。


 逆に相手側の二人は居心地悪そうに視線を泳がせていた。しかし垣屋だけは無表情で何か思考を巡らせているようだった。


(まだ何かあるかね)


 この後の展開を予想しようとしたところで隣の席の優綺が居たのを思い出した。話すのに集中し過ぎて頭から抜けていたのは反省すべき点だ。

 彼女は感心するような、憧れのような表情でこちらを見つめていたが、良治が気付くとすっと真剣な表情に戻った。言われた通り誰が何を考えているかの予想を再開したらしい。


「――つまり、白神会側はこちらの主張を認めないということですかな?」

「ええ、そう取っていただいて問題ありません」


 沈黙ののち垣屋が発言したが、それをノータイムで肯定する。

 決まっていることは即答して相手に考える時間をほんの僅かでも削り取る。返答した後は相手の眼を見つめてプレッシャーをかけることで焦りを生ませる時間だ。


「……そうですか。どうやら白神会は我らと話し合いこと自体望まれていなかったようですな。そもそもこのような若者だけを寄越して会談など、あり得――」

「ああ、失礼。少し尋ねたいことがあるのですが、貴方たち独立運動の会の主張に賛同なされている退魔士はどれくらいいらっしゃるのでしょうか?」


 立ち上がりかけた垣屋を良治が質問で押さえ込む。逃げ出すつもりだったようだがそれは許さない。ペースは渡さない。


「……この鳥取を中心に多数の賛同を得られておりますよ」

「高遠さん、どうですか」

「鳥取に多いのは確かですが、こちらが把握しているのは鳥取の三割、全体では一割に満たない程度かと」

「なるほど。ありがとうございます」

「それはそちらの調査不足だ!」

「我らの同胞はもっといる!」


 ここぞとばかりに噛み付く垣屋の側近二人。それしか能がないらしい。


 高遠の調査を信用するかどうか。そこに一瞬悩んだが、きっと大きくは違わないだろうし、間違っていても白神会にはダメージがない。

 ここで良治はこの会談の着地点を確定させた。


「――ではそれほどの賛同者、勢力があるなら名前の通り陰陽陣から独立してはいかがでしょうか?」

「は……?」

「えっ?」

「……それは」


 呆けた顔の二人と今まで一番渋い顔をする垣屋。

 ここまで来ればもう大丈夫だ。


「だってそうでしょう。不満があり、それに賛同する者がいるのならその組織を離れればいい。簡単なことではありませんか? 陰陽陣としても不満を持つ者、それも多くの者に同じ組織にいられるのは気持ちのいいことではないはずです。いっそのこと出て行けばいいのです」

「しかし……」

「不満があるのなら自分で組織を作り、運営すればいいのです。どうですか高遠さん」

「……そうですね。どうしてもと言うなら仕方ありません」


 高遠が迷いながら賛同する。良治が何を考えているかわからないからだ。結論がまだ見えていない。それが迷いを生み出している。


「ではそうしましょうよ垣屋さん。陰陽陣と話し合い、ある程度の領地を得て不可侵条約を結べばいい。それでみんな幸せではありませんか?」

「いやしかし……」

「――まぁ、あくまでそれは独立運動の会と陰陽陣の話で、私たち白神会にはなんら関係のないことですが。でも――」


 独立運動の会の三人を順に見つめ。そして垣屋の眼を見たまま良治は続けた。


「――白神会としてみれば、同盟関係のない組織などどうしたところで何処からも文句を言われる筋合いはありません。そう思いませんか?」

「なっ……!?」


 言葉に詰まる垣屋にしてやったりの良治。

 無理な独立を煽っておきながら、もし独立をしたら白神会は容赦しないという警告だ。


「まぁこれほど重要なこと今すぐ結論は出せないと思いますので、本日はこれで失礼したいと思います。それでは」

「な、ちょっと待てっ!」

「何ですか垣屋さん。結論が出たのならどうぞ」

「く……ッ!」

「違うようですね。……ああ、そうですね。会談の続きは明日同じ時間にここで。……優綺、行くよ」

「あ、はいっ」


 優綺を促して立ち上がり扉の方へ歩いて行く。止める者はいない。

 しかし良治は扉の前で立ち止ると高遠へ話しかけた。仕込みはまだ十分ではない。


「すいません、明日の会談の為に何処かに泊まりたいのですが良い場所はありませんか?」

「ええと……」

「それならここからタクシーで五分ほどの場所に『霧の山名やまな荘』という宿があります。そこは陰陽陣の関係組織が運営している場所ですので」

「霧の山名荘ですね、相坂さんありがとうございます。では今日はそこに泊まりますので何かありましたら連絡を。それでは」


 これでいい。良治は全てを終えたことに満足感を得ながら部屋を出て、そして静かに扉を閉めた。


「ふぅ」

「あの、あれで良かったんですか?」

「まぁね。まぁその話はまた後で。誰に聞かれてるかわからないから」

「あ、わかりました」


 素直に頷いた優綺を連れて歩き出すのと同時に、背後の部屋から大きな怒声とまるでテーブルを叩くかのような音が響いてくる。

 それだけでもう良治は満足できた。完全に上を行った感触がある。


「じゃあ、近くのコンビニで夕食と明日の朝食分のご飯と飲み物を買って言われた宿に向かう。大丈夫?」

「大丈夫です」

「じゃあそういうことで」


 結構喋ったのでもう喉が渇いて仕方ない。

 相坂が淹れてくれた紅茶は一口もつけていない。これは彼女が信用できないというわけではなく、あの三人が何かしていた可能性が拭えなかったからだ。

 優綺もそれを見習ったのか紅茶に手を出してはいない。彼女の為にもコンビニか自販機を見つけたいと考えていた。


 幸運にも建物を出てすぐに青を基調とした見慣れたコンビニを発見して、ようやく良治は大きく息を吐いた。











「あの、これは『経費削減の一環』ということなんでしょうか……? いえその、嫌というわけではないのですが、ちょっと緊張しちゃって」

「あー、そうだな。なんでこうしたか、それを考えて欲しい」

「あ、はい……」


 恥ずかしいような戸惑うような、それでいてちょっと嬉しそうな優綺の問いに良治は自分で考えるようにと丸投げしていい匂いのする畳に寝転がった。


 ここは陰陽陣の相坂美亜から紹介された霧の山名荘三階の一室だ。

 到着した時には既に連絡が行っていたらしく、スムーズに部屋を取ることが出来た。

 そしてその時に別々の部屋にするかを問われた際、良治は優綺と同じ部屋を選び、それが彼女の疑問に繋がっていた。


 女子中学生と同じ部屋に泊まる。

 字面だけで見るととても不健全な印象だが、良治はそれをスルーしておくことにしておいた。何か問題のあることをするつもりはないのだから。


 部屋に案内される際、宿の人から食事と布団の用意を聞かれたがすべて断っている。つまりこちらから連絡をしない限り部屋には来ない。明日チェックアウトするまで自由な時間を手に入れたということになる。

 その時間ずっと女子中学生と同じ部屋。これも問題になりそうな予感がするがスルーだ。特に他意はない。ないのなら問題ない。


「ああそうだ優綺」

「えっと、なんですか」


 身体を起こしてテーブルを挟んだ向かいに座る優綺はまだ悩んでいる最中のようだ。考えている中邪魔をするのは気が引けるが、今後の予定だけは伝えておくべきだ。

 携帯電話を取り出して時間を確認する。


「今午後三時か。これから午後十時まで交代で睡眠を取る感じで。先に優綺寝ていいよ」

「今、ですか?」

「うん。多分夜は寝れないと思うし。まぁあくまでも予想だけど」

「そう、ですか……わかりました。布団ってこの中でしょうか」

「たぶん」

「……あ、ありました」

「ちょっと待って」


 押入れの中に見つけた布団を出そうとするが、少々手に余りそうだったので一緒に布団を降ろす。


「あぅ……」

「ん? どうかした?」

「あ、いえ……」


 敷き布団を降ろし、優綺が広げている間に掛け布団と枕を出して手渡す。部屋の中央に置かれたテーブルを少しだけずらして十分なスペースを確保した。これなら圧迫感はないだろう。


 準備が終わり、上着を脱いだ優綺が布団に入る。

 何度か枕の位置を調整する姿が可愛い。


「なんか、恥ずかしいですね」

「あー、うん。そうかも。気配は消しておくから気にしないで寝てほしいかな」

「それはそれで気になっちゃうんですが……」

「じゃあどうしてほしいかな。この部屋にいること前提で」


 まだ部屋でやることがある。

 天音や結那ほどではないが良治も気配を隠すのは得意としている。優綺の睡眠を邪魔する恐れはないと判断していていたが、指摘されたように何処にいるかわからないのもそれはそれで気にはなる。

 一度見つけた虫が部屋の何処かにいると知ってしまえばあまり眠りたくないものだ。きっとそういう類のことだろう。


「あの、ちょっと我儘言っていいですか……?」

「どうぞ」

「その、眠るまででいいので……手を握っててもらえないかなって」

「……」


 掛け布団から、照れながら覗く目がとても可愛い。

 これは何か。小動物的な可愛さだろうか。


「あっ」

「眠るまでだからね」

「ありがとうございます……っ」


 掛け布団を掴んでいた手をそっと外して布団の中で握る。

 これはあれだ。小さな子供を安心して寝かせる為に必要なことなのだ。

 良治は自分にそう言い聞かせて納得させた。でもきっとこの言い分で他の人を納得できない気もしている。例えばあの三人とかだ。


「……おやすみ」

「おやすみなさい、です」


 やらないといけないことはこのままでは出来ない。

 しかし睡眠に入るまでのほんの少しの時間くらいはいいだろう。致命的なことにはならない。

 それなら今夜眠れるかわからない現状、少しでも早く彼女に安らかな眠りを与えたい。


(このことは聞かれない限り黙っておくべきだな……)


 一発ずつ殴られるくらいは覚悟しないとならない。

 殴られて喜ぶような性癖を持ち合わせていないので出来るならそれは避けたいところだ。というか絶対に避けたい。


(――さて、ちゃんと動いてくれるかな。プライド結構つついたから動いてほしいんだけどな)


 少しだけ力の入った優綺の手を軽く握り返して、良治は小さく笑った。



【女子中学生と同じ部屋に泊まる】―じょしちゅうがくせいとおなじへやにとまる―

十歳下の女子中学生と同じ部屋で一晩を共にする。警察に踏み込まれたら問答無用でしょっ引かれること請け合いである。

物理的にも社会的にも抹殺される恐れあり。

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