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それぞれの二十四時間

 ふと目が覚める。

 良治が横になっている布団は昨日と同じで、セット販売の安くて薄い布団だ。やはりあまり寝心地は良くない。そろそろ本格的な冬が到来しかけているので新しい布団かベッド、もしくは毛布を買い足すべきだろう。


 しかし布団の中は暖かい。


「うぅん……」


 良治の腕を枕にして安眠しているのは見知った女性だ。トレードマークのポニーテールを解いてすやすやと眠っている。


 昨夜は色々と頑張りすぎて結構な気怠さが身体全体に残っている。だがそれは甘んじて受けるべきもので、幸せなものだ。


「さて」


 そっと腕を抜いて彼女に布団をかけ直す。

 まどかはあまり寝起きが良い方ではない。しばらくはまだ眠っているだろう。

 それに彼女の寝顔を見るのも人には言えない楽しみの一つだった。


 まどかは和食の方が好みだったことを思い出して、良治は引っ越しの荷物の中にあった炊飯器を引っ張り出した。









「ごちそうさまでした」

「お粗末さまでした」


 良治が起床してから二時間後、食事を終えた二人は向かい合ってお茶を飲みながら時計を気にしていた。

 あともう少しで昨日二人が別れ際に言っていた十二時になる。


「もうちょっと早起きしたかったな」

「だな。でもまどかには無理だろ」

「むぅ……」


 起こそうとしてもそうそう起きないので仕方ない。仕事の時は十分な睡眠時間を確保することで問題を解決しているが休みの日はそうもいかない。良治としても無理に起こそうとしなかったこともあり、まどかはぐっすりと眠っていた。


「まぁぐっすり寝れて良かったじゃないか」

「まぁそうだけど……もっと、その……くっついていたかったかなって」


 恥ずかしそうに目を合わせないように言うまどか。

 それを見て思わずにやにやしてしまう。きっと鏡で見たら気持ち悪いだろう。


「じゃあこっち来いよ」

「! うん!」


 嬉しそうにこちら側に移動して隣の席に座る。

 しかし。


「あ」

「……」


 インターホンが鳴った。時計を見ると確かに針は真上を指し示している。

 誰が来たかはわかり切っている。それでもまどかは寂しそうに溜め息を吐いていた。


「はい」

「あ、私。開けてー」

「了解」


 受話器を取って予想通りの人物だったので初めてのボタンを押して一階の自動ドアを開けた。やや弾んだ声でとても機嫌が良さそうだったのが、今のまどかととても対照的だ。


「まどか」

「っ……えへ」


 そっと頬に手を添えて口づけをした。暗い表情のまま帰すなんてありえない。

 そのまま頭を撫でると幸せそうな表情で飛びついてくる。


「危ないって」

「もうちょっとだけ、お願いっ」

「まったく……」


 結局結那が玄関のチャイムを鳴らすまで二人はくっついていた。











「予想はしていたけど……」

「え、なに?」

「いやなんでもないよ」


 ぐったりと椅子の背もたれに体重をかけるように天を仰いでいた。天と言ってもそこには白い天井しかないが。


「でも身体を動かした後のお酒って良いわよね。この沁み込む感じがすっごい好き」


 良治の倍のペースで缶ビールを開けていく結那。

 彼女のセリフを何処かで聞いたことがあるなと思い返して、浮かんだのが以前派遣で働いていた土方の先輩の言葉だったのは言わない方が良いだろう。そのくらいのデリカシーはあった。


「まぁわからんではないけど」

「でしょー!」


 このテンションの高さは酒のせいだけではない。

 今日今いる良治の自宅で会ってからずっとそうなのだ。


 マンションに時間きっかりに訪れた結那は部屋にいたまどかと何か話をして別れた後、とてもご機嫌なまま一日を過ごしていた。

 普段の仕事の時とは違い、十代後半のようなテンションで最初はかなり面食らったが、これも結那の一面、別に悪いことではないしと彼女のテンションに合わせようとして――途中で力尽きた。


「さ、ほら、良治ももっと飲んでよー!」

「無理に飲ますなって……」


 実際に身体を動かす系の大きなゲームセンターに引きずられて、そこで運動着など必要な一式を整えた後一緒に遊んだのだが、良治の上をいく体力を持つ結那は底なしだった。

 まさか五時間全力で遊びつくすとは予想外で、途中からこれはトライアスロンか体力測定かと思ったほどだ。間違いなく明日は筋肉痛だろう。

 先日の事件の翌日は筋肉痛とかいう以前に身体がガタガタで、ようやく戻って来たところだったのだが仕方ない。結那に自重を求めると彼女の良いところが委縮してしまう。


 それに疲れてはいるが楽しかったのは事実だ。満足感もある。

 きっとそれは彼女がとても楽しそうだったからだ。その笑顔が見られるなら多少の無理はしてもいい。


「ねー、たーのしー?」

「ああ、楽しいよ」

「私のこと好きー?」

「勿論好きだよ」

「えへへへへへ」


 ご機嫌になってまた缶ビールを仰ぐ。置いた缶が軽い音をして踊ると、結那は突然立ち上がった。

 その表情はまるで得物を見つけた肉食獣のようで、にやぁ、という擬音が聞こえてきそうだ。怖い。


「ねぇ、まどかから聞いたわよ。だから私も……いいわよね?」

「えっと、そういうことはもうちょっと慎重に――むぐ」


 椅子に座ったまま背もたれに固定されるように唇を押し付けられる。

 軽く触れるとかいうものではなく、本当に思い切って押し付けただけという口付けは一分ほど続いてから結那から離された。


「……ちょっと苦しかったわね」

「鼻で呼吸をしろよ」

「あ、そっか」

「おいおい」

「で、さ。ちょっと立って」


 言われるままに立ち上がると両手を掴まれる。それはもうがっちりと。

 少し痛いくらいで、結那の握力と筋力を考えたら振り解くことは不可能だ。


「で、これはなんだ」

「じゃ……しよ」

「っておい、引っ張るなって……おおおおっ」


 掴まれた両手をそのまま引っ張って寝室に向かう結那。せめてもの抵抗を試みるがやはり焼け石に水だった。


「っと」

「あの結那さん……?」


 布団に押し倒された良治の上に覆いかぶさる彼女の瞳は――ケダモノだった。

 腕を抑えられて上に乗られた状態の良治はもはや俎板の鯉。抵抗など耳だ。


「えへへ……」

「結那……?」

「ずっと、我慢してたんだから……!」

「っ!」


 再び強く唇を押し付け、そして結那は――良治を蹂躙した。








「……」


 深い睡眠から目覚めた気がする。

 身体はまるで重力が倍になったかのように気怠く重い。隣で良治の腕をがっちりと抱きしめて、すやすやと満足そうに眠っている結那のせいなのは言うまでもない。


 腕を抜いてシャワーでも浴びようかと思ったが、そもそも腕が抜けない。眠っているというのに。

 結局起こすのも悪いのと、もう少し休みたいという身体からも欲求に従ってもう少しだけ眠ることに――


「良治、おはよ」

「起きたか。おはよ」


 もぞもぞと動いたせいで起きてしまったようだ。

 結那はまどかと違って非常に寝起きが良い。寝ていても周囲の雑音や気配に気が付くタイプだ。良治もそれなりに鋭いと思っているが彼女はそれ以上の鋭敏さを持っている。


「えへへへへっ」

「おお、どうした起き抜けに」

「んーん、嬉しくて。ね、まだ時間あるわよね」


 ぎゅっと抱き着いてくる結那。寝室に時計はないので枕元に置いてあった携帯電話を手探りで拾い、時間を確認する。


「……三時間くらいはあるな」


 デジタルの数値は九時過ぎを示している。だがこれから朝食やシャワーなどを考えればそれほどあるとは言えない。特に結那は髪が長いので乾かしたりするのに時間がかかる。それ以外にも女性は時間が必要なことは昨日理解していた。


「よし、じゃあ問題ないわね」

「何が、って……おい?」


 両手でそれぞれの腕を抑え、良治の身体に跨る結那。昨日も見た光景だ。

 そしてこの後の展開も予想がついてしまった。


「もう一回、しよ?」

「もはやそれ疑問形じゃないだろう――むぐっ」


 明確な返答を待たず、結那はまた良治の唇を奪った。










「じゃね、良治。次に会う機会を楽しみにしてるわねっ」

「……ああ、またな」


 玄関で語尾に音符マークがついていそうな結那を見送ると、良治は小さなリビングでコーヒーを飲んでいる彼女に気付かれないよう静かに溜め息を吐いた。


 あの後しばらくしてから時間を確認すると十二時まであと三十分というところで、良治は手早くシャワーを浴びて身嗜みを整えることになってしまった。

 ちなみに結那は髪の毛を洗うのを諦めてざっと流しただけだ。さすがに時間がなかったらしい。


「さすが結那さんという感じでしたね」

「……だな」


 リビングに戻って彼を迎えたのは天音だ。落ち着いてコーヒーを飲む彼女はちらりと時計を見ると苦笑した。

 時間は十二時十五分。あまり時間に頓着しない結那らしい。来る時は時間通りに来て帰る時は少しオーバーして帰る。良治としては昨日早く来なかっただけマシだと思っていた。


「えーと、天音。で、何処に行くんだ」


 三日連続となれば天音がこの時間にこの場所に来た理由もわかる。というかわからなければただの馬鹿だ。


「そうですね。良治さん、朝食は……というか昼食はとりましたか?」

「いや、今日は何も食べてないよ」

「では買い物はしてきていますので何か作りますね」

「え、ああ。外で食べたりしなくていいのか」


 この二日間、デートに行った先で食事をしていたのでてっきり今日もそうなると考えていたので驚く。どうせ外に出るならその方が楽だ。食事もデートの一つとも言える。


「今日は何処かに出掛けるつもりはありませんので。一日ここで過ごすつもりですよ。御迷惑ですか?」

「いや、てっきり出掛けると思ってたから。いいのか?」


 天音とデート、つまり遊ぶことを目的として二人で出掛けたことは今までない。だからこそ行きたい場所がきっとあるだろうし、彼女のことなので入念に準備と情報収集をしていると思っていたのだ。


「まどかさんと結那さん、そして私の三人と付き合うことになった時点で今日出掛けるつもりはありませんでしたよ。だって良治さんお疲れでしょう?」

「……」


 確かに疲れている。三日連続で飲み続けで体力は回復する間がなかったし、特に昨日はゲームセンターで目一杯身体を動かした後夜も今朝も酷かった。疲労はピークと言ってもいいかもしれない。

 だが最初から決まっていたとは言え、せっかく来てくれた天音の前でデートの前から疲れたなどとは言えない。言ってはいけないと良治は思っていた。


「まぁ良治さんはゆっくりしていてください。洋食になりますがすぐに出来ますので」


 ごそごそと買ってきた近所のスーパーの袋から卵やパン、バターなどを取り出す。きっと話し合いの朝に作ったのと似たような食事になるようだ。美味しかったので少し楽しみになる。


「ありがとな天音」

「気にしないでください。私がしたいだけですから」


 そう言って天音は自分のカバンから可愛らしいピンクのエプロンを取り出して、台所に立った。










「……?」


 カーテンの隙間から陽の光が漏れていた。それを見てもう朝かと寝ぼけ眼で理解する。

 良治の隣には誰もいない。だが微かな温もりと、敷布団の上の腰辺りに敷いたバスタオルが確かに彼女が居たことを示していた。


 耳を澄ませば台所の方から物音が聞こえる。意識を集中してみると何かの匂いがした。これは味噌汁だろうか。


 現状を確認してから寝室を出てリビングに出る。そこから見える台所では案の定天音が食事の支度をしていた。あの可愛いエプロンも勿論装備している。


「あ、おはようございます良治さん。よく眠れたようで何よりです」

「ん、おはよう天音。ありがとな」

「いえ。少ししたら朝食が出来ますのでシャワーでも浴びて待っててください」

「了解」


 顔だけ洗うかシャワーを浴びるか迷っていたが、天音の言う通りシャワーを選ぶことにする。

 昨夜はシャワーを浴びることなく眠ってしまったので確かにその方が良いだろう。手際よく髭を剃り、歯を磨いてから急いでシャワーを浴びた。

 正直男の身支度など急げば十五分ほどで問題なく終わる。


「速いですね。今運びます」

「手伝うから」


 髪を乾かして出てくると、ちょうど作り終わったところでテーブルに運ぶのを手伝う。

 元々一人暮らしが長いので基本的に自分でやらなければと考えている。任せきりは性に合わない。


 二人でいただきますと言ってから手を箸に伸ばす。

 献立は和食で、ご飯に大根の味噌汁、昨夜作った煮物の残りと厚焼き玉子だ。

 天音は食事に手を付けずにこちらを心配そうに見ている。良治はそれを微笑ましく思いながらまずは厚焼き玉子を一切れ口に入れた。


「ん、美味しいな。甘めの方が好きだから嬉しいよ」

「……っ! そうですか、それなら良かったです」


 天音がクールに返してくるが口元が笑っている。ここまで嬉しそうな天音は見たことがない気がする。それだけ心配で、そして嬉しかったのだろう。


「御馳走様でした」

「お粗末さまでした」


 出されたものを全て平らげて満足する。朝からそれなりの量だったが、味付けが好みだったので問題なく綺麗に食べることが出来た。むしろ目が覚めてやる気が出てきたくらいだ。


「あの、昨日ちょっと聞き忘れたことがあるので聞いてもいいですか?」

「ん、別にいいけど、なんだ?」


 食後の熱いお茶を出しながら椅子に座り直す天音。さっきまでは正面だったが今度は隣だ。


「なんで霊媒師同盟を属国に取り込まなかったんですか?」

「ああ、そのことか」


 東京に戻る前に行った京都本部で、和弥と綾華には言わなかったこと。

 その時は和弥に宿題としてあえて言わなかったが別に天音になら構わないだろう。


「これ以上白神会を大きくし過ぎてもなって思ったんだ。一つの大きな組織になると中から腐りやすい。今は大丈夫だろうけど、これから先はわからないからな」


 大きくなればその分中央からの目は届きにくくなる。

 今でも十分に白神会は大きいと言えるし、人材も満足とは言えない状態だ。そのうち綻びが出てくる可能性は高いと良治は感じていた。

 それに霊媒師同盟を解体して白神会が直接東北地方に首を突っ込むとなると、霊媒師同盟寄りの土着の寺社仏閣の退魔士たちはいい顔をしないだろう。むしろ反乱の可能性すらある。


 それならそのまま霊媒師同盟に治めて貰えばいい。別に志摩崩に問題があったわけではないので、これからは白神会のメンバーを恐山などに派遣して交流、情報をこちら側に回せればいい。


「なるほど。確かに今はいいでしょうけど、未来は誰にもわかりませんからね」

「そういうことだ。別に領地が欲しかったわけじゃないしな」


 良治個人としても、白神会のスタンスとしても領地が欲しいわけではない。

 少なくとも白神会総帥の隼人はそう考えていないと良治は思っている。

 何故なら、もしそうなら七年前に陰陽陣のごたごたがあった『開門士の乱』で領地の譲渡を要求できたはずだ。

 そうせずにあちら側の出雲本社や他の支社に人員を送るだけに止めた。

 それが良治がそう思う根拠だった。


 そして今回の件の落としどころもそれを真似たということになる。

 あの演説で強い言葉の使用、ある意味脅しもしたが最初から条件は決めていた。ただ何もないのは不満も出てくると考えたのと、影響力が入り混じっていてやりづらい地域が存在していたのでその部分の解決として、一部地域の明確な割譲を条件にいれただけだ。

 この辺は完全に良治の独断なので、何か言われるかとちょっと不安だったが綾華以外からは特に何も言われていない。


「ちょっと気になっていたのでスッキリしました。では私は掃除したいと思うのですが、いいですか?」


 昨夜は割と早めに寝ることが出来たので起きたのも早い。ここまでゆっくりしてまだ九時前だ。


「まだしばらくゆっくりしててもいいのに」

「あ、いえ、その……バスタオルとか、洗っておきたいので」

「あ」


 珍しく恥ずかしそうに俯きながら言う天音。最後の方は消え入りそうだった。


 バスタオルとは脱衣所にあるバスタオルではない。寝室の方にあるバスタオルのことだ。

 確かにあれは他の誰かに見られたくはないし、洗ってもらうのも恥ずかしいだろう。それが良治だとしてもだ。


「あー、うん。俺はゆっくりしてるから、その、掃除お願いします」

「あ、ありがとうございます……では」


 昨夜から今朝にかけて、自分の知らなかった天音がたくさん見られたようでとても嬉しく、そして幸せを感じてしまう。


「あの、良治さん」

「ん?」


 寝室からこっちに戻って来た天音が恥ずかしそうに、頬を赤くしていった。


「にやにやし過ぎです。その、私も嬉しいですけど」

「ごめん……ってかそっちも隠しきれてないからな、天音」

「っ! し、失礼しますっ」


 顔を真っ赤にした天音はとても可愛いかった。








「で、どうしたことだこれは」

「仕事よ。仕事だから仕方ないわよね」

「……なるほど」

「あはは……」


 堂々と仕事言い放ったのは結那、乾いた笑いをしているのはまどかだ。二人とも十二時ジャストにインターホンを押してこの部屋を訪れていた。


「いいじゃないですか。時間は守ってくれたので私としては不安はありません」


 天音も二人が来ることは知らなかったが、時間を律儀に守ってくれた友人たちに不満はないらしい。

 この場で不満を持っているのは家主の良治だけだ。


「ま、怒らないでよ。はいこれ。京都本部からの書類よ」

「京都から?」


 結那から手渡されたA4サイズの茶封筒を受け取る。確かに見覚えのある住所に会社名だ。何回見ても『京都ホワイトサービス』という会社名が冗談にしか見えない。

 封を切って中身の書類を取り出すと、そこには辞令という言葉が書かれていた。そしてその下に。


『東京支部所属・柊良治を近接型五級、魔術型七級、万能型五級、特殊型四級とし、第三位階級退魔士とする』


「…………」


 確かに白神会に所属した以上、退魔士階級からは逃れられない。

 それはわかる。わかるがこれはあまりにも過大評価だろう。

 どこにもツッコミどころがあるが、特に最後の第三位階級が高すぎる。これでは現在東京支部の副支部長をしているまどかと同格だ。出戻りの良治には高すぎる評価だ。


「あ、第三位階級なんだ。妥当かな?」

「そーね。でも近接は四級でもいい気がするけど」

「特殊型は半魔族化での評価ですね。でももっと上でも」

「……いやいや。三人ともこれは高すぎる! って言うとこだと思うんだが」


 予想外の反応だ。良治と真逆の評価を言っていい。


「え?」

「え?」

「え?」

「順番に驚くのはやめなさい。えーと、なんだ。三人とも妥当、もしくは低い評価だと思ってるわけ?」

「うん」

「もちろん」

「はい」

「……おーけー。了解した。もういいや」


 ここで議論したところでこの評価は覆らない。京都本部に行って撤回させるべきだ。少なくとも抗議はしておくべきだろう。

 下部に名前のあるのは総帥である白兼隼人だが、おそらくこれを決めたのは綾華、もしかしたら和弥も噛んでいるかもしれない。


 良治は綾華に問いただすことを決めたところで、もう一枚紙が重なっていることに気付いた。


「……結局行くことは変わらないのか」

「どしたの?」

「いや、これを見てくれ」


 結那が覗き込んだもう一枚の紙にはこうあった。


『下記の者は京都本部に出頭すること』


 そしてその下に名前の書いてあった良治は溜め息を吐いた。


 ――ああ、きっとまた面倒なことを任されそうだと。


【第三位階級退魔士】―だいさんいかんきゅうたいまし―

白神会で決められている階級。上から三つ目。

かなりの上位で同階級は片手で足りるくらいしかいない。この階級になると大規模作戦での大きな貢献がないと任命されない。

任命は白神会総帥をはじめ数人の会議で決められる、らしい。ある意味身内。

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