表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】愚鈍で無能な氷姫ですが、国取りを開始します 〜さっさと陛下と離婚したいので、隠してた「魔法の力」使いますね?〜  作者: 雨野 雫
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/151

89.疑念


「お前さあ、この国の王様がどうしてお前なんかと結婚したのか、知ってるか?」


 「彼」からの予想外の言葉に、アイリスは思わず息を呑んで固まってしまった。

 ローレンに聞いても、決して返ってこなかった答え。それを彼は、知っているというのだろうか。


 すると彼は悲痛な表情を浮かべ、大仰な身振り手振りで続きを話し出す。まるで演劇でも見ているかのようだ。


「お前はあの王様に良いように利用されてるだけなんだよ。ああ、なんて可哀想な奴なんだ。俺はお前の事情を知って、涙がこぼれそうになったよ」

「……あなたは何を知ってるの?」


 アイリスは心臓が早鐘を打つのを感じながら、声を絞り出してそう尋ねた。彼はこちらの反応を見て、ニヤリと笑いながらこう答える。


「別に教えてやってもいいが、教える義理もねえなあ。まあ、俺に協力してくれれば、教えてやらんこともないんだが」


(なんて嫌な奴……!)


 彼の返答にアイリスは心底そう思うと、彼を睨みつけながら言葉を吐き捨てた。


「……そう。じゃあ、別に教えてくれなくて結構よ」


(利用されていても構わないわ……政略結婚なんてそんなものでしょう。私だって、母国を出るために陛下を利用したようなものだもの)


 これ以上心を乱されないよう、アイリスは必死に自分にそう言い聞かせた。

 一方の彼は、こちらの返答を聞いて残念そうに眉を下げると、また別の話題を持ち出してきた。


「強がりだなあ。まあ、じゃあこの話はお終いだ。あともう一つ、俺はお前に同情したことがあってな? お前のだーいすきなオズウェルドのことさ」


 彼の言葉を聞いて、アイリスは全身から急速に血の気が引いていった。


 彼がこれから話そうとする内容が、なんとなく理解できてしまったのだ。思わず耳を塞ぎたくなったが、構えた杖をこの相手から逸らすわけにもいかない。


 アイリスの思いとは裏腹に、彼は容赦なく続きを話し出す。


「お前はずーっとあのクソみてえな国で耐えてたのに、オズウェルドはこれっぽっちもお前を救ってはくれなかったよなあ? 本当に可哀想になあ? なんで救ってくれなかったんだろうなあ? あいつほどの力があれば、お前を救うくらい簡単だったろうになあ?」


(黙って)


 今まで絶対に考えないようにしてたのに。


「憎くないのか? 魔族の頂点に君臨するほどの力を持ってるのに、どうして私を助けてくれなかったんだって」


(やめてよ)


 そんなこと望んではいけなかった。


「違うか! きっとオズウェルドは、お前のことなんか、どうでもよかったんだろうな!!」

「うるさい!!!」


 からかうように笑う彼に、アイリスは思わず叫び返していた。感情が爆発して、止まらなくなる。


「仕方ないじゃない! オズが私を救おうとしたら、それこそ国との戦争になるもの! そんなこと、彼ができるわけないじゃない!! そうまでして救ってなんて、望めるはずないじゃない!!」


 悲鳴に近い叫び声で、アイリスは彼に言葉をぶつけた。急に大声を上げたせいで、呼吸と鼓動が酷く上がっている。


 すると、こちらの様子を見た彼が、顔を歪めながら悲痛な面持ちで言葉をかけてきた。


「……本当に、可哀想にな。お前はそうやって自分に言い聞かせて、自分を慰めてきたんだな」


(こいつの言葉を聞いてはいけない。こいつはそうやって、人の心を弄ぶ類の者だ)


「お前、俺のところに来ねえか? んで一緒に、この国とオズウェルドの野郎をぶっ潰そうぜ。お前を利用するだけ利用して捨てようとしてる王様と、自分を救ってくれなかったお師匠様、両方をさあ?」


 彼はそう言って、アイリスに手を差し伸べてきた。


(こいつの本当の狙いは、この国とオズ――!?)


 アイリスは酷く荒れた呼吸を整えながら、震える手で杖を握り直す。もちろん、答えは決まっている。


「……お断りするわ」

「あーあ、フラれちまった。まあいいや。だけど、後悔するなよ?」


 アイリスの返答に、彼は心底残念そうに眉を下げながらそう言った。そして最後に、ニヤリとした笑みをこちらに向けてくる。


「さてと、じゃあそろそろ帰るか。じゃあな。また会おう」


 彼がそう言い終わると、ゾーイの体はその場にバタリと倒れ込んだ。

 念の為、彼女の呼吸と脈拍を確認したが、無事生きてはいるようだった。


 そこでようやく緊張の糸が切れ、アイリスは大きく息を吐き出した。「彼」と数分話しただけなのに、どっと疲れた気がする。


(――大丈夫。私は陛下に利用されていても構わないし、オズウェルドが私を救えなかったのも仕方のないことだったってわかってる)


 先程の彼の言葉に振り回されないよう、アイリスは何度も何度も自分にそう言い聞かせるのだった。


 その後、程なくしてアイリスの元にレオンが戻ってきた。その顔には、にこやかな笑顔が浮かんでいる。


「アイリス様〜! 勝ちましたよ〜!!」

「レオン! お疲れ様! ……ってサラ!? 大丈夫!?」


 レオンがサラを背負っていることに気が付き、アイリスは慌てて二人に駆け寄る。するとサラは、微笑みながら言葉を返してくれた。


「大丈夫。ただの魔力切れだから」


 そう言う彼女は、どこか憑き物が落ちたようにスッキリとした表情をしていた。そんな彼女の様子に、アイリスはホッと胸を撫で下ろす。


「二人とも、無事で良かった」

「レオンをこっちに向かわせてくれてありがとね、アイリス。正直、レオンがいなかったら負けてた」

「アイリス様。今回は逃さずに戦わせてくださって、ありがとうございました!」


 二人からお礼を言われ、アイリスは思わず笑顔をこぼした。


「うん! 二人なら大丈夫って信じてた!」


 これまで三人で魔物討伐や特訓を重ねてきたおかげか、この二人とは随分と信頼関係を築けた気がする。レオンとサラも、すっかり相棒同士だ。


(でも、サラが仇討ちを果たした今、この関係も、もう終わりよね……)


 アイリスは寂しさが表情に出ないよう気をつけながら、できる限り明るく彼女を送り出そうとした。


「サラはこれからどうするの? もう、お別れ……だよね?」

「そのことなんだけど、やりたい事が見つかるまで、もう少しアイリスの護衛でいてもいい?」


 彼女からの予想外のお願いに、アイリスはパアッと表情を輝かせた。


「うん! もちろん! 嬉しい!!」

「よかった。じゃあ、もうしばらくよろしく」

「よろしくね、サラ!!」


 まだしばらく三人でいられることが、この上なく嬉しかった。アイリスにとってこの二人は、護衛以前にもはや大切な友人なのだ。


 できればずっとこのままの関係でいたいが、サラを縛り付けたいわけではないので、それは口に出さないでおく。それに、レオンもいずれはローレンの元に戻りたいだろう。


「でも、あの二人はなんでアイリス様のことを狙ってたんでしょうね?」


 眉根を寄せたレオンにそう尋ねられ、アイリスは先ほどまでの出来事を二人に説明した。


 ゾーイの体が乗っ取られたこと。おそらく、乗っ取った「彼」がゾーイとギルバートに私を捕えるよう指示していたこと。そして「彼」が、この国を狙っているかもしれないこと――。


 レオンとサラは、険しい表情を浮かべながらアイリスの話を聞いていた。

 一方のアイリスは、二人に説明するに当たって「彼」との嫌な会話を思い出してしまい、わずかに顔を歪ませた。


 すると、こちらの様子がおかしいことに気づいたサラが、気遣わしげな表情で尋ねてくる。


「アイリス、大丈夫?」

「……うん。何でもないわ」


 二人に心配をかけないように、アイリスは微笑を浮かべながらそう答えた。

 サラはアイリスが踏み込んで欲しくないのを察したのか、これ以上は追求しないでいてくれた。二人にはあまり話したくない内容だったので、彼女の気遣いに感謝する。


 すると、レオンが眉を顰めながら言葉をこぼした。


「一体何者なんですかね、そいつ……」

「グランヴィルに私のことを教えたのは自分だとは言ってたけど、それ以外は何も聞き出せなかったわ。ゾーイも多分、『彼』によって記憶を消されてる」


 ゾーイには聞きたいことがたくさんあったのだが、あの状態では恐らく難しいだろう。

 わざわざゾーイの記憶を消したということは、「彼」にとって都合の悪い情報を彼女が知っていたと考えるのが自然だ。「彼」の妨害を防げなかったことに眉根を寄せながら歯噛みしていると、サラが申し訳無さそうな表情で謝ってきた。

 

「ごめん。私情でギルバートを殺してしまって。貴重な情報源だったのに」


 彼女の言葉にアイリスはハッとして表情を緩めると、慌てて言葉を返した。


「ううん。多分、彼が生きてたら同じように記憶を消されてたと思うわ。だから、気にしないで」


 アイリスがそう言うも、サラは依然として申し訳無さそうに表情を暗くしていた。


 すると、レオンが雪の上で倒れているゾーイに視線を向けながら尋ねてくる。 


「アイリス様。こいつ、どうしますか?」 

「連れて帰るわ。確かめなきゃいけないことがあるの」


 レオンの問いにアイリスはそう答えると、ゾーイを連れて王城へと戻るのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ