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【完結】愚鈍で無能な氷姫ですが、国取りを開始します 〜さっさと陛下と離婚したいので、隠してた「魔法の力」使いますね?〜  作者: 雨野 雫
第三章

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68.北部地方


 数日後、アイリスはローレンの視察に同行するため、北部最大都市であるリファナに向かっていた。


 リファナまでは王城から馬車で三日ほどかかるため、途中にある街でところどころ休憩を挟みながら進んでいた。魔物討伐で各地を飛び回るようになったとはいえ、いろんな街を見て回れるのはアイリスにとって貴重な機会だ。


 そして、リファナまであと少しというところ。


 馬車が進む山道には、真っ赤な落ち葉が一面に広がっており、旅路に彩りを与えていた。眼の前に広がる美しい風景に感動したアイリスは、ローレンに向かって思わず声をかける。


「見てください陛下! 紅葉が綺麗ですね。落ち葉の絨毯みたいですよ!」

「ああ。この時期はリファナまで紅葉を見に来る観光客も多いんだ。冬は雪に覆われて人の往来も少なくなるから、リファナにとっては今が稼ぎ時だな」


 この地域の冬は厳しい寒さとなり、春先まで雪に覆われるらしい。逆に夏は涼しく、避暑地としても有名だそうだ。


 その後、山道を抜けると、荘厳な城壁に囲まれたリファナの街が見えてきた。


 この城壁は、魔物から住民を守るためのものだと聞いたことがある。剣神グランヴィルの領地と隣接するここ北部地方は、魔物の出現率がバーネット王国の中で最も高く、この地域の防衛費はかなりの額に上るという。


 そして、アイリスたち一行が街の城門の前まで来ると、リファナの領主が出迎えてくれた。領主は人好きのする笑顔を浮かべながら、国王に向かって挨拶を述べる。


「ようこそいらっしゃいました、ローレン国王陛下。陛下の来訪を心待ちにしておりました」

「ああ。しばらくの間よろしく頼む」


 その後アイリスも領主に挨拶を済ませると、一行は城門をくぐりリファナの街へと入っていった。


 街の中は、思った以上にたくさんの人々で賑わっている。流石は北部最大都市だ。ローレンの言っていた通り観光客も多く行き交っており、土産物の露天商がしのぎを削っていた。


 そして、街の中をしばらく進み王家の別邸へと到着すると、アイリスはそこでようやく一息つくことができた。三日間馬車に揺られ続けていたので、流石に疲れが溜まっていたらしい。


 今日はローレンもアイリスも休息日とし、明日から本格的に活動を開始する事になった。ローレンはここを拠点にして、北部地方の各領地へ訪問する予定のようだ。


 別邸は王城と同じく、夫婦の寝室がお互いの自室に挟まれた形になっていた。アイリスは到着早々、各部屋に結界を施すと、この日はいつものように夫婦の寝室でローレンと共に就寝した。



***



 翌日から、アイリスはローレンが出かけている間はひたすら魔物討伐に精を出していた。北部地方の討伐依頼は何件か来ていたので、毎日少しずつ依頼をこなしていった。


 今回に限らず、仮面の魔法師として魔物討伐に赴く際は、変装したレオンとサラも護衛としてついてきてくれる。そのため、自然と二人も魔物討伐に参加することが増えていった。


 三人で魔物討伐をする際は、レオンとサラが前衛となり、アイリスは後方から魔法で支援する形をとる。これまで一人で戦うことしか知らなかったアイリスも、今では二人と上手く連携を取れるようになっていた。そしてアイリスは、魔物討伐を通して二人との仲も随分と深まったように感じていた。


 そしてこの日も三人は、リファナの街から離れた森の中で魔物の討伐を行っていた。いずれの依頼も街からは距離があるので、魔物討伐の際は基本的にアイリスの転移魔法で目的地まで移動している。


「ふう、討伐完了ね」


 無事魔物を討伐し終え、三人は森の開けた場所で休憩を取っていた。レオンとサラが討伐に加わってくれているおかげで、かなり早いペースで依頼を進められている。


 アイリスは気持ちの良い秋空を見上げながら大きく伸びをした後、池の(ほとり)に座っているサラに声をかけた。


「サラもだいぶ魔物討伐に慣れてきたんじゃない?」

「そうだね」


 アイリスの問いかけに、サラは短くそう答えた。秋風が彼女の白銀の髪をなびかせている。

 

 彼女の瞳は大きく切れ長で、眉はキリッと形良く、鼻筋はスッと伸びている。相変わらず、誰もが見惚れてしまうほどの美少女だ。サラが王城に来てからというもの、彼女にアタックして見事散っていった騎士団員が何人もいるという噂だ。


 アイリスがサラの横顔に見惚れていると、彼女の隣で休んでいたレオンが唐突に口を開いた。


「今までは魔物と戦う機会とかなかったのか?」

「ほとんどなかったね。暗殺家業だったから、対人戦ばかりだったよ」

「里が滅ぶ前は、結構暗殺の仕事をこなしてたのか?」

「まあ、そこそこは」


 レオンの続けざまの問いに、サラは淡々とそう答えていた。しかしアイリスは、サラの過去をズバズバと聞いていくレオンのことを、内心ヒヤヒヤした思いで見守っていた。

 どうもサラは暗い過去を持っているようで、アイリスは彼女に昔の話を聞くのは避けるようにしていたのだ。


 だが、アイリスのそんな心配をよそに、レオンは更にぶっ込んだことを尋ね始めた。


「前さ、自分が一族の男を殺そうと思ってた、とか言ってただろ? あれって結局、どういう意味だったんだ?」

「今日は何でも聞くね……」


 今まで淡々と答えていたサラも、この質問には流石に眉を顰めていた。


「ちょっと、レオン。サラも言いたくないことがあるだろうし……」


 アイリスが制止に入るも、レオンは質問を止めようとはしなかった。彼の瞳は、真っ直ぐにサラのことを見据えている。


「だいぶ仲良くなったし、そろそろ聞かせてくれないか? 背中を預けるやつのことは、知っておきたい」


 珍しく真剣な表情のレオンに、サラは少し驚いた様子を見せていた。そして彼女は、半ば諦めたようにひとつ溜息をついてからレオンに言葉を返した。


「……まあいいや。別に、言葉通りだよ」

 

 そう言うと、サラは自分の一族のことについて語り出した。


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