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【完結】愚鈍で無能な氷姫ですが、国取りを開始します 〜さっさと陛下と離婚したいので、隠してた「魔法の力」使いますね?〜  作者: 雨野 雫
後日譚

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後日譚2ー5.今を生きる


「最後にお前と会った時に、私が言ったことを覚えているか? オズウェルド」


 エマにそう問われ、昔の記憶を呼び覚ます。彼女のいたずらっぽい表情と話の流れ的に、あのことだろうか。


「お前に似た美人と結婚するってやつか?」


 そう言われた当時は、一体どういうことかと驚いた記憶がある。別れ際に言われたせいで、最後にろくな挨拶ができなかったことも。だが、今となっては何のことかよくわかる。


 すると、オズウェルドの回答に彼女は満足そうに頷いた。


「ああ。そしてこうも言った。差し伸べられる手を拒むな、と」


 そう言うと、エマはこちらの目を真っ直ぐに見据えてくる。彼女の王としての、射抜くような瞳だ。

 

「オズウェルド。人の死を恐れるな」


 その言葉に、思わず息を呑む。彼女は何もかもお見通しのようだ。


「確かにお前はこの先、多くの死を見届けなくてはならないだろう。だが、不安だけに囚われて今を見失うな。それに、フレイヤはお前に寂しい思いをさせるようなタマではない」


 生前のエマはオズウェルドのこの先の未来も視ていたのだろうか。そう思えるほどに、彼女は力強く言い切った。


 そして彼女は、慈愛に満ち溢れた瞳をこちらに向けてくる。


「フレイヤの手を掴め、オズウェルド」

「……ありがとう、エマ。お前のおかげで覚悟が決まったよ」


 彼女の言葉に大きく背中を押され、オズウェルドはようやく決心することができた。


(恐れてばかりいては何もできない。一歩、踏み出さなければ)


 そう思うと、ずっと心の中を覆っていた(もや)が、スッと晴れた気がした。


「オズウェルド、そろそろ時間だ。今度こそ、さよならだ」


 エマに別れの挨拶を告げられ、オズウェルドはハッと思考を引き戻された。どうやら、もう魔法が切れる頃合いらしい。


 とても名残惜しいが、もう一度彼女と話せて本当に良かった。以前は笑顔で送り出せなかったけれど、今ならやり直せる。


「さよなら、エマ。本当に、今までありがとう」


 穏やかな笑顔でそう言うと、エマも顔をほころばせていた。そして、彼女はまだ言い残したことがあったらしく、『最後に』と言って口を開く。


「結婚おめでとう、オズウェルド。末永く幸せにな」


 エマが笑顔でそう言い切ったとき、彼女は煙とともに消えていった。


 満ち足りた思いとほんの少しの寂しさを抱えながら、しばらく彼女がいた場所を見つめていると、すぐにフレイヤが執務室へと入ってきた。そしてこちらに駆け寄り、不安そうに尋ねてくる。


「どうだった?」

「ありがとう、フレイヤ。お前のおかげで、ようやく前に進めるよ」


 優しくフレイヤの頭を撫でると、彼女はホッと安堵の表情を浮かべた。


「良かった……! 時間はかかっちゃったけど、この魔法を開発して正解だったわ!」


 満面の笑みを浮かべる彼女に、オズウェルドは心の底から愛おしさを感じた。そして、真剣な眼差しを彼女に向け、一世一代の告白をする。


「フレイヤ。散々お前の求婚を断っておいて、今さらだと呆れるかもしれないが……」 


 フレイヤの前で跪き、その手を取る。見上げると、少し驚いた顔の彼女と目が合った。そんな姿も愛おしい。彼女の全てが、愛おしいと思える。


「お前さえ良ければ、俺と結婚して欲しい、フレイヤ」


 その言葉に、彼女は目を大きく見開き、その緋色の瞳を輝かせながら喜んだ。


「答えはもちろんイエスよ!! 嬉しい!! 大好き!!」


 そう言ってフレイヤはガバッとオズウェルドに抱きついた。そんな彼女を抱きとめながら、オズウェルドも自分の想いを伝える。


「ああ、俺も大好きだ、フレイヤ。一生大切にする」


 想いが通じ合い、これまで感じたことがないほどの多幸感に包まれる。もっと早く、勇気を出していればよかった。


 するとフレイヤが顔を上げ、真剣な表情で話し始める。


「私ね、ずっと考えてたの。私が死んでも、オズウェルドが寂しくならないようにするためには、どうすれば良いのかって」


 その言葉に、オズウェルドは先程エマが言っていたことを思い出す。『フレイヤはお前に寂しい思いをさせるようなタマではない』というのは、このことだったのだとすぐに察した。フレイヤが自分のことをこんなにも考えてくれていたことに、言いようもない嬉しさが溢れてくる。


「この魔法を開発したのは、そのためでもあるの。寂しくなったら、いつでも私に会えるように。でもそれだけだと、オズウェルドがずっと前に進めない気もしたから、他にも考えたわ」


 そしてフレイヤは目を輝かせながら、自分のアイデアを自慢気に披露する。


「私、何千通もあなたに手紙を書くわ。それで、毎年あなたに手紙が届くようにするの。どう? いいでしょう?!」


 嬉々としてそう言う彼女が愛おしくて、オズウェルドは優しく頭を撫でる。


「ああ、最高に嬉しい。でも無理はしなくていいからな。そんなにたくさんは大変だろう」

「ううん。私ね、今から何を書こうかワクワクしてるの! 何ならもう既にちょっとだけ書き始めてるわ!」

「そうか。それは楽しみにしている」

 

 オズウェルドがフレイヤに微笑みかけると、彼女は自信ありげにもうひとつの案を披露した。


「あとはね、たくさん子供を作りましょう! そうすれば、子孫がたっっくさんできて、きっと寂しさなんて感じている暇がないわ!」

「お前は……」


 それがどういう意味かわかっているのか、と言おうとして言葉を飲み込んだ。恥ずかしそうにしている様子もないので、恐らくあまり良くわかっていないのだろう。それならばそれでいい。ゆっくり二人で歩んでいけば。


 それよりも今は、彼女が自分のことを想ってたくさん考えてくれていることが、純粋に嬉しいのだ。


「いや、ありがとう。俺のことをここまで考えてくれて」

「当たり前よ。どうあがいたって、私はあなたより先に死んでしまうから……。でも、あなたにつらい思いはさせたくないの。ワガママね、私」

「そんな顔をするな、フレイヤ」


 少し不安げな彼女を、オズウェルドは何度も何度も撫でてやる。


「確かにお前がいなくなることを想像すると、足元がすくむほど恐ろしい。だが今は、お前が生きているこの一分一秒を大切にしたいんだ。恐れに囚われず、お前を愛することに全力を注ぎたい」


 真っ直ぐにそう伝えると、フレイヤは照れた様子で顔を真っ赤にしていた。そんな姿がなんとも愛おしくて、オズウェルドは彼女の頬に手を添える。


「口付けをしても? 愛しき人」

「…………!!」


 フレイヤは驚いたように目を見開いた後、さらに顔を赤くしながらコクコクと首を縦に振った。

 そして二人は、触れるだけの優しいキスをする。何度も、何度も。


 最後に互いの唇が離れた後、二人は照れたように微笑み合った。



最後までお読みいただき本当にありがとうございました。

この物語は本話で完結となります。


毎話いいねくださった方、感想をたくさんくださった方、誤字報告してくださった方、最後まで応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

ここまで書き上げられたのは、ひとえに皆様の応援のおかげです。


本日から新作連載の投稿を始めましたが、そちらはもう最終話まで書き上げているので、今は次の作品は何を書こうかなと構想を練っているところです。

皆様と別作品でまたお会いできることを願っております。



【小話】

後日譚に収録しているオズウェルドのお話は、本作構想開始当初から考えていたものでした。

私としては、本作はアイリスとローレンのお話であると同時に、オズウェルドとエマ、フレイヤの物語でもありました。

最後にオズウェルドを幸せにできて満足しています。


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