表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】愚鈍で無能な氷姫ですが、国取りを開始します 〜さっさと陛下と離婚したいので、隠してた「魔法の力」使いますね?〜  作者: 雨野 雫
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

101/151

94.命の綻び


「あいつも、なぜこんな小娘相手に慎重になっているのかわからない。ライラに見つかる前に、さっさと殺してしまえば良いものを」


 黒ローブの魔族の言葉に、マクラレンの纏う空気が一気に張り詰めた。そして彼は、眉根を寄せながら魔族に問い詰める。


「……君は、彼女を殺しに来たんですか?」

「いや、今日はこの男を殺しに来ただけだ。まあ、ついでにその娘も殺していっても良いんだが」


 魔族は嘲りを帯びた声でそう返した。その答えを聞いたマクラレンが、わずかに殺気を纏ったのがわかる。


 すると彼は、いつものようににこやかな笑みを作ってから、再び魔族に問いかける。


「多分ですけど、あなたは『不死身のランゲルド』ですね?」


 マクラレンのその言葉に、アイリスも魔族も驚いたように目を見開いた。


(不死身のランゲルド……!? 出くわしたらまず逃げろと師匠に聞かされていた大魔族だわ……!!)


 不死身のランゲルドはその名の通り、殺しても死なない。


 正確に言えば、命を複数所有しており、何千回、何万回と殺さないと死なないのだ。殺し切る前にこちらの魔力切れになってしまうので、師匠からは『不死身のランゲルドに会ったら戦わずに逃げろ』と言われていた。


(でも、先生はどうしてこの魔族が『不死身のランゲルド』ってわかったのかしら……?)


 アイリスと同じ疑問をランゲルドも抱いたようで、彼は低い声でマクラレンに問いただした。

 

「……なぜわかった?」


 するとマクラレンは、にこやかな笑みを崩さずに言葉を続ける。


「こんなに命の綻びがたくさんある人は初めて視るもので。あなたは不死身なのではなく、ただ命をたくさん持っているだけなんですね」

「……何者だ、貴様? 何が視えている?」


 マクラレンの言葉を聞いたランゲルドは、険しい声で訝しげにそう漏らした。一方のアイリスも、マクラレンの言葉の意味が理解できず、ただただ彼を見上げる。


(命の綻び……? 先生には一体、何が視えているの……?)


 当のマクラレンからは既に笑みが消えており、眼鏡をかけていない瞳でただじっとランゲルドを見据えている。彼の瞳は、確実にランゲルドの「何か」を捕らえているようだった。


 そして、突然マクラレンから魔力が放たれたかと思うと、次の瞬間、ランゲルドがガクッと膝をついたのだ。アイリスはこの一瞬で一体何が起きたのか全く理解できず、マクラレンとランゲルドを交互に見遣った。


 すると、マクラレンが少し表情を緩め、ランゲルドにこう言った。


「今ので十回くらい死にましたか?」

「貴様……一体何をした? 今のは、魔法ですらなかっただろう」


 怒気をはらんだランゲルドの声が、マクラレンに向けられた。どうやら、ランゲルドも自分の身に何が起きたのか理解できていないようだ。


 そんなランゲルドを見据えながら、マクラレンはニコリと笑う。勝利を確信したような、そんな笑みだった。


「残念ながら、あなたは僕には勝てませんよ。相性が悪すぎる」

「………………」


 ランゲルドはしばらく沈黙していたが、『チッ』と舌打ちしたあと、転移魔法であっさりその場から去っていった。


 そしてマクラレンは、危機が去ったことに大きく安堵の息を吐くと、こう言ったのだ。


「ふう〜。帰ってくれて助かりました〜。あの人には流石に勝てなさそうだったので」

「ハッタリだったんですか!?」


 彼の言葉に、アイリスは驚いた声を上げた。先程の彼の笑顔と言葉は、確実に勝利を確信しているもののように見えた。あれが嘘だったとしたら、彼は相当な役者だ。


 するとマクラレンは、いつものようににこやかに笑いながら言葉を返してくる。

 

「流石にあんな化け物には勝てませんよ〜。内心、めちゃくちゃ怖かったです」


 マクラレンはそう言った後、顔からスッと笑みを消した。そして、グレネルの元に歩み寄ると、彼の瞼を手でそっと閉じてやる。グレネルは既に絶命しており、治療の施しようがなかった。


 そしてマクラレンは、グレネルを見ながらわずかに眉根を寄せる。


「グレネル教授を救おうとしてた君を止めてしまって、すみませんでした。胸を貫かれた時点で即死だったようなので、君を守ることを優先してしまいました」


 申し訳無さそうに言うマクラレンに、アイリスは頭を振って答えた。


「いいえ。むしろ、助けに来てくださって、感謝の言葉しかありません。本当にありがとうございました」


 アイリスがそう言うと、マクラレンは表情を緩めこちらに戻ってきた。そして、穏やかな笑みを浮かべながら口を開く。


「かわいい生徒を守るのは、教師として当然ですから。無事で何よりです」


 彼のその言葉に、アイリスも思わず顔をほころばせた。


 素顔を見られた今、仮面の魔法師の正体がこの国の王妃であることなど、マクラレンはとっくにわかっているだろう。それにもかかわらず、依然として自分を一人の生徒として扱ってくれることが、アイリスは言いようもなく嬉しかったのだ。


 するとマクラレンは、少し困ったような表情を浮かべながらアイリスに尋ねてくる。


「さて……流石にいろいろと説明しないといけませんね。何から話しましょうか……。アイビーさん、何か聞きたいことはありますか?」


 アイリスはそう聞かれ、一体何から質問すればよいか迷ってしまった。何しろ、聞きたいことが多すぎる。


 アイリスは悩んだ末、一番聞きたかったことを素直に尋ねることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ