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首輪と××と私と  作者: 犬之 茜
奴隷解放編─地下闇落─
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檻中の日々

短文ですが、不快に感じる内容なので閲覧注意です。自己責任でお願いします。

 アンリが眼を覚ますとそこは闇の中だった。正確には何かで目隠しをされている。そして何も聴こえない。耳の違和感から耳栓もされているのか。口にも布を噛ませられていた。


「ぐがっ」


 何の情報もなく不安に駆られ立ち上がろうとするが、すぐに頭を強打する。天井が低い。しゃがまないといけない位の低さ。おまけに両手首を短い間隔で拘束されている。首輪にも細工がされたのか重い。不自由な手で探ると首輪から錘がぶら下がっているようだ。座るには錘を吊るす鎖が短いのか、必然的に頭が下がる。すると錘は地面に着き楽になるが、四つん這いの体勢でないと首も手も楽にならない。


「ふー、ふー」


 猿轡から荒い息が漏れるが、その呼吸音も聴こえない。

 喉が渇く。どれだけ眠っていたのだろうか。なんだか肌寒い。手を動かすと、薄い生地が感じ取れる。どうやらマントなどを回収され、元のボロい麻の服だけのようだ。

 何も見えず、何も聴こえず。声に出すことも出来ない。

 満足に座ることも、手を動かすことも出来ず、肌寒だけを感じ取れる。

 ただ、臭いは嗅ぎとれる。二人の人物が近くにいるようだ。私をこんな状態にさせた人物だろうか。

 ヴィスカ達のことも心配。敵だとしても、何か情報があればと数歩前に歩くと何かにぶつかる。手探りでそれが柵だと解る。今の自分は狭い檻に容れられているのだと理解出来た。


「ふーっ!」


 声を出そうが、やはり声にならない。

 すると臭いの一つが近付き、柵越しに頭を押し付けられる。

 そこは一段低い溝のような構造だと、顔面で教えられる。その溝に鼻が来るようにし、何度も地面に擦りつけられその度に背後から板か革かでお尻を叩かれた。

 溝からは、すごく微かだが糞尿のような嫌な臭いが染み付いていた。そこに鼻を押し付けられ、その度にお尻を叩かれる。どうやら、排泄の場所を教えているようだ。


「ふーっ!」


 なん十回その繰返しをさせられたか、お尻がじんじんと痛い。その様子を見たのか、檻の外の二人が遠ざかっていき、いなくなる。

 後には痛みと肌寒さを感じる私だけが不自由に檻に閉じ込められている。


「ぐふー、ぐるぅ」


 布を噛み千切ろうにも丈夫なのか、ただ唾液を吸いとり余計に喉が渇いていく。

 目隠しも猿轡もずらす事ができないで、ただただ触覚以外の感覚を遮断されて時間が経っていく。

 時折二人がやってきて、教えた場所で排泄がされていなければ、前回同様に何度も鼻とお尻叩きで覚えさせられる。少し溢しただけでも同じ躾がされ、何時しかきちんと臭いで場所を確認して慎重にするようになっていた。

 今日が何日なのか、すでに空腹も薄れてきた。

 狭い檻では身体を伸ばすことも出来ず、丸まって休むか排泄をするだけ。起き上がる体力ももうなかった。

 さらに時間は流れる。何日なのか解らないが一分すら長く感じるほどに時間的感覚もない。ひょっとしたら、目覚めてからほんの数日かもしれないが、もう何ヵ月も経ったようにも思える。

 餓死しないので、まだ数日なのだろうかと朧気に思考するが、集中も出来ずにすぐに思考が霧散していく。


 私…私って、なんだっけ。


 何の意味もない思考が、自分の存在の輪郭すら薄めるほどに刺激のない時間が経っていく。

 ある時猿轡が外された。話すことも噛みつくことも既に気力がなくなっていた。

 そんな状態で、鼻先に何かの臭いが触れる。

 再び頭を押し付けられ、それが食べ物と水だと分かり二人の事を意識の外にやり、顔を付けて水分を摂り貪り食べる。少量の食事はすぐになくなり、皿を舐めて僅かな量も残さないようにする。

 食事が終わると再び猿轡をされる。また触覚以外の感覚を奪われる。

 それからは時々食事が出されるようになった。


「ぎゃっ、あがっ」


 一度気力が戻ってきたので、食事を出そうとした手に噛みついた時があった。

 すぐにもう一人が身体を叩き、口が開いた時に相手の腕が引き抜かれる。それから二人して檻越しに叩かれる。容赦のない懲罰に声が久しぶりに漏れた。

 それから数日くらいは再び猿轡を外されず、食事も出されなかった。

 空腹を通りすぎ、意識が朦朧とする頃に食事は出されるようになる。だが、今回は食事の前後にも何回もお尻を叩かれるようになり、反抗の意識も完全になくなった。

 もう、自分が誰かも解らなくなるにつれヴィスカ達のことも思い出せなくなった。

 そして、代わりに何時かの記憶が蘇る。昔もこんな風に調教され、家畜のような生活を送っていたことを。

 他にも黒毛の猫の獣人や兎の獣人なども共に飼われていたはずだ。そんな記憶も再び薄れる変化のない日常。


「引っ越しよ。返事はワンと鳴きなさい」

「…ワン」


 ある時、猿轡と耳栓を外された。久しぶりに音を聴き、身体がその情報の多さに硬直する。女性の声は知っている人かどうかすでに判別できない。

 返事が遅いとお尻を叩かれる。今まで叩いていた人物だろうか。


「そのまま這って着いて来なさい」


 首輪に鎖が繋がれ、引っ張られる。錘があり、ろくに立ち上がることも出来ず言われたまま四つん這いで着いていく。反抗の意志は持てなかった。

 目隠しだけはされていたので、何度もぶつかりながら階段を登る。地下にいたのか、息も絶え絶えに登りきると風が身体を撫でる。外にやって来たらしい。


「ここがあなたの新しい住処よ」

「ワン」


 案内されたのは同じ大きさの檻だった。座ることも、出来ない小さな檻。

 違う点はここが屋外で、回りからは色々な動物の鳴き声が聴こえてくること。


「犬らしく従順にしてれば、いずれ檻から出して他の動物と一緒にして上げるからね。返事は?」

「ワン」


 檻越しに頭を撫でられ、新たな排泄の場所を教えられる。だが、猿轡と耳栓はされなかった。

 女性ともう一人が去ってからは、今までの静かさと違い煩い鳴き声が四方から聴こえてくる。

 自分も動物になったように思え、強ち間違えてはいないとすんなり受け入れられた。


「ほら、餌よ」

「ワン!」


 それからは食事前後の躾を挟んで餌を食べる。以前よりも量が多いことに満足する。食事は他の動物と同じだろう干し草や野菜の皮や動物の脂身などなど。人間が食べないような部分をこうして餌として貰えた。


「大分従順な犬になってきたかしら」


 今では排泄の失敗もなく、綺麗に食事も出来る。量が増えた餌や水を溢しても調教されるので、上手に食べられるようになった。

 雨が降れば容赦なく檻と身体を濡らし寒さを覚えるが、そのうち慣れるだろう。

 たまに女性に水を掛けられ身体を洗われることも増えてきたが、相変わらず目隠しは外されない。


「ふふ、かなり元に戻ったね」

「ワン」


 女性の言っている意味は解らないが一声吠えて返す。

 すでに自分が人間だという思考もなくなっていた。

 毎日一回の食事と気紛れによる洗体。適度に行われる調教。

 他の動物とまだ一緒にされていないが、不自由なく過ごせる環境を今日も過ごす。

 もう自分や仲間のことは覚えていない。犬として飼われる安寧の日々をただ感慨もなく享受する。

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