猶予期間
「はっきり申せば、解りませんでした」
店外に出て、セロがそう告げる。
可能性は低いと思っていたが、やはり落胆は隠せなかった。
奴隷店ならば、闇市についても何か解るのではないかと思い訪ねてみたが、成果はなかった。
いや、何かは知っている可能性はあった。ただし、言葉を濁し回答らしい回答を避けた発言から、何かを恐れていることが伺えた。
その為、詳しいことは聞けずに退店するしかなかった。
「ま、実際どれ程の情報があるか分からないが…なにも聞けなかったのは痛いな。何に対して恐れてるのかも聞けなかったしな」
話を聞こうにも、ろくに取り合ってくれない状態にランブは顔をしかめていた。
「そちらは何かありましたか?」
「いや、特にないかな。ただ、子どもと若い女性は全くいなかったな」
ヴィスカとアンリは二人が店員と話している間に商品となった奴隷を見て回った。
それは意識的に避けていたヴィスカが面と向かって行こうとした決意の表れ、その一歩でもある。
裸で独檻に入れられた奴隷たちは痩せていたが、健康面では其ほど悪い状態でもなかった。
檻には商品番号と共に、年齢や出身地を始め個人の詳細なデータがこと細やかに記されていた。
健康面においても、個人情報に関しても売れ残りを減らす為の店側の思惑でしかない。
それでも売れ残りがでれば…処分という末路が待っている。文字通りの処分。破棄。死。
セロの話では、入荷から約三ヶ月から六ヶ月で処分となるらしい。
それは年齢や血統など様々な要素を加味して設けられる商品期間。ただし、途中で体調を崩せばほぼそこで商品価値が消失する。比較的軽症ですぐに体調が戻らない限りは、猶予に関係なく殺される。
だが、セロはそう考えてはいなかった。
「それで、そろそろ猶予がない奴隷はいましたか?」
「ああ三人程な。あと、老齢の女性がその前に体調を崩す可能性もあるかな」
ただ殺すのでは、店側の赤字だ。
そこでセロは闇市に繋がるのでなはいかと思った。
少しでも元を取り返す為に。虐待奴隷でも売買奴隷でも。もっと言えば、売買奴隷に関して言えば売れ残りの末路がそれに該当するのではないかとも考えていた。
どうせ殺すのならば、臓器を売る方が建設的だ。
「一人は今週末。二人は三週間後だったな」
セロがヴィスカに確認させたのは猶予期間だ。入荷日とおおよその処分日が個人情報と共に記されていた。それは奴隷からは見えない。
処分日に近付くほど値引きされるが、さらに値引きされるのを待つケチくさい客対策におおよその処分日が書かれていた。なにも、即決で買うお金に厭目を着けない貴族ばかりではないのだ。地方からくる貴族は、逆にケチな性格の者も多い。その田舎貴族対策であったが、セロたちには逆にありがたかった。
「間を取れば二週間後ですか。では、今週末と二週間後の深夜にまた来ますか」
処分される日にちはおおよそのものだ。早まることもあれば、遅くなることもある。
一人を処分するよりは、まとめて一回で行う方が効率がいい。
そして、セロの考えが正しければすぐには殺されずに闇市に流れる可能性がある。
店員がどこまで真実を知っているかは不明だが、何かを知ってはぐらかしているのを感じたセロは、核心に近付いている実感があった。
「できればすぐに助けたいが、仕方ない、か」
「ああ、ここで先に進まなきゃさらに被害がでるからな」
ヴィスカとランブは悔しそうに自らの手を握り混む。
助けたいが助けられないもどかしさと、悔しさを痛感する。
アンリはじっと奴隷店を見ていた。商品とされている奴隷を見たことはこれが始めてだった。
モヤモヤするが、それが何かはアンリには分からなかった。




