いつかの自由を
ここに来てどれだけの時間が経っただろうか。
俺を見てため息を吐いては他を見ていく人達。
家族を養う最後の孝行が自分を売る事だった。妻と娘にはもう会えないだろう。
だけど、今年の不作に徴収。もう食べる物すら尽きて飢えていた家族を助ける術はもう残っていなかった。せめて狩猟の技術があれば幾らか食べていけただろうが、無いものは仕方がなかった。
過疎が進んだ村には老人ばかりで、宛にすら出来ない状態。いや、すでに飢餓で亡くなった老人すら何人もいた現状じゃ、取りうる選択はもうなかった。
「はぁ」
裸にされ、檻に容れられてもう一月は過ぎただろうか。
俺が売れなければこのまま処分されるばかりだ。
たまたま村に来た奴隷商人に自分を売り込んだ際に、僅かながらお金と食糧が妻に渡された。それが、それだけが自分の価値だった。それで、家族はどれだけ食べることができただろうか。
今になって思えば浅はかな選択だった。奴隷になるなんて、家族を残してなんて。
確かに少ない量だが一日二回の食事が出ている今の奴隷環境は村にいるよりは食べていけている。だが、それは村に残してきた家族が飢えていることと同義だ。家族を残して俺だけが食べていけている。家族共々奴隷になるのは反対だが、冷静になれば苦しくても家族と居るべきだった。
「会いたいな」
愛する妻に。可愛い娘に。
もう叶わない願い。後悔してもしきれない選択。
つい口から出た声に慌てて口を閉ざしながら想う。
独り言すら赦されない商品としての環境は地獄だ。見ず知らずの人間に裸を晒して静かに過ごす日常。
また客が入ってきた。
家族連れ…いや、貴族に召し使いか。
「親父、アタシラは一人ずつ見ていっていいか」
「ええ、いいですよ。皆で店員に聞くのは威圧してしまいますしね」
貴族から離れた女性が子どもを連れて近くの檻を覗く。
子どもは奴隷のようだった。
あんな小さな女の子さえ奴隷なのか。娘より幼いのに、なんて可哀想に。
親に売られたのだろうか。
それは余りにも赦せないことだ。自分の為に子どもを売るなんて。
いや、家族を残した俺が思うのは筋違いか。
女の子は首輪や手足から鎖を垂らしているも、その無表情には険が見られない。
無表情だからそれなりの環境に心が潰れたのだろう。だけど、繋いだ手を確り離さない女の子にとって、あの女性は救いなのだろう。どんな環境にも光があれば。いや、いっそ壊れてしまったほうが幸せなのかもしれないと邪推している間に二人が目の前にやって来た。
「…みんな痩せてるな」
「うん」
女性は貴族という感じの偉そうな雰囲気がない。だけど、先程の貴族と普通に話していた所を見るとただの召し使いと言うわけでもないだろう。貴族のお気に入りなのだろ。
女の子もそれなりに可愛がられているのだろう。
愛玩奴隷の証の専用の首輪に確りした身成。
だけど、それが幸せとは言わない。
娘が例え愛玩奴隷になっても幸せにはなれないだろうと思ってしまう。
「いつか、きっとコイツらも…」
女性が何かを言ったが小さくて聞こえなかった。
そして、二人は次の檻へと移動した。
奴隷など、なにも生み出さない。なぜ、この国は助け合い支え合わずに、売り買いをするのだろう。
せめて家族は奴隷と関わらずに幸せでいてもらいたい。
もう会えない家族を想い、今日も黙して檻の外を眺める。




