問われる覚悟
セロが聞いた奴隷店を捜しながら四人は朝から大通りを歩いていると、やはり奴隷を引き連れた市民が多いことを嫌でも実感できる。
この国の王都であり、奴隷文化の中心。
「確かこの辺りだと思いますが」
聞いた情報を元にその方角を歩いて行くと、程なくして奴隷店の看板が目に入った。
「なんつー分かりやすい」
その看板は何の後ろめたさも感じさせない大きな文字で書かれていた。
いかに奴隷の存在が、奴隷が商品として現しているのが伺える物だ。そして、時刻にして開店からさほど時間は経っていないにも関わらず、一組の夫婦らしき人物が店から出て行った。
時間を開けずさらに一人の男性も店から出て街に消えていく。
「新商品…新しい奴隷が入っていないか見にくるのでしょうね。いい奴隷ほどすぐに売れてしまいますし」
「ほんとに人間として見てないんだね」
アンリの手をしっかり握りしめながら、ヴィスカは顔をしかめる。
「いつまでもこのまま入らないのも不審に思われますし、行きましょうか」
「だな」
セロとランブが歩いて行くこうとし、そこにヴィスカが声を掛ける。その表情は先程と変わらずしかめっ面のままだ。
「アタシはアンリと外で待ってるよ」
その一言は今までも言ってきた言葉だ。今までヴィスカは奴隷を見る状況から避けてきた。開放に向けて動いているにも関わらず。そして、二人もヴィスカの過去を知っているため、強制はしてこなかった。だけど、ここで初めてセロが目を細めながら強い口調をもってヴィスカに指示を…命令を出した。
「着いてきて下さい」
ランブも驚いてセロを見る。セロのこういった姿は奴隷時代から見ていたランブにしても数少ないものだった。
「目を反らさないでください。逃げないでください。私たちと共にあるのなら、もう避けては行けません。本当はもっと前に言うつもりでしたが、直視したくないことも理解しています。王都に入る前にアンリに訊ねた時に、ヴィスカにも覚悟してもらうつもりでした。私は甘いので、どこかで期待して言いませんでした。謁見する際にも言いませんでした。しかし、ヴィスカはどこかで覚悟を先伸ばしのままでいます。前日の貴族との衝突でこの王都では何が起こるか解らないのは理解したと思います。このまま行動を共にしたら、取り返しが付かないことがあるでしょう。ですから、私たちとあるならもうどんな事からも逃げないでください」
セロは術式を開発するなかでも、ヴィスカのことを案じていた。あの貴族とはまた会うような気がしてならなかった。セロたちが介入しなければ、あの後どうなったかは解らない。だけど、きっとろくでもない事になっていたはずだとセロは考える。
もう、ロバリーたちに届きそうなのだ。いつまでもこのままではいられなかった。
セロだって奴隷を見て思うことは色々ある。しかし、自分が成すことをするには事実を直視しないとならない。同じ指向のもとに活動する組織もそれは同様なのだ。
だけど、ヴィスカは家族が奴隷狩りにあったことで、奴隷を見ると家族が奴隷として生きているという事実を未だに受け入れられない節がある。いや、生きているのならばいい。その過程で死亡したり、奴隷先が殺す事を前提にしている現状がある。その最悪の未来を見たくないためにヴィスカは直視できないままに、希望にすがったままここまで来た。最悪の未来を回避するために。
ヴィスカだって解っているのだ。一人夜空を見る時は悩んで、泣く時だった。それを、セロもランブも知っている。そんな癖を知られているとはヴィスカは気付いていないだろう。
アンリと旅を始めてからはそれは見掛けなくなった。初めは妹と重ねて、そしてアンリという一人の人物として接して、ヴィスカも改めて奴隷について考えた。だけど、進んで受け入れるのを心が拒絶していた。
セロの優しさが心に響く。
ランブの気遣いが心を揺さぶる。
アンリの温もりが心を温める。
この手を離さない。守ると誓った。
なら………逃げてはダメなのだ。目を反らさないで受け入れなければ、守ることも出来ない。
遅すぎる覚悟。
「ごめん、アンリ。オマエには覚悟させたのに、アタシ一人逃げてた。親父、すぐに変われないとは思うけど…でも、うん。着いていくよ。守りたいものがあるんだ」
アンリの手の温もりを感じながら、ヴィスカはセロの目を真っ直ぐに見つめる。
「はい」
「んじゃ、そろそろ行こうぜ。さすがにここに居続けるのは不味いだろーし」
「ああ、悪かった」
言葉だけではなく、行動でこれから示していく。
遅すぎる覚悟は、それをもって仲間に示す。
グズグズとしていた自分を信じてくれたように、アタシも信じて貰える行動をしよう。
直視したとしても心は鈍化しないように、強くあろう。なにがあっても。
奴隷を開放して、妹を助けるために。
ヴィスカは覚悟をもって、奴隷店へと足を踏み入れる。
「ヴィスカ、元気だして」
*後日記入?*




