野犬からの贈り物
シルキー犬からの収穫物を整理すると、大半は食糧品だった。喰い散らかした物が少ないのは、知能が高いシルキー犬の配慮なのか偶然なのか。なんにしても所持金が少ない現状において、常識に助かる物であった。
食糧が中心だったが、中には光り物やガラクタも紛れており、それの仕分けをしているとランブがある物を前に手が止まった。
宝石類や何かの道具、因術具に紛れて首輪があった。それは奴隷に着ける首輪だった。
アンリの物ほど頑丈ではないが、襲撃した中に奴隷商がいたのだろうか。中には奴隷も乗っていたのか。それは分からない。
ただ、ランブがさらに目を惹いたのは内側に刻印されたものだった。▽に×マーク。これが何を意味しているか。
「見付けた。奴らのマークだ」
不敵に笑うランブに近くにいたヴィスカが訝しげな顔をしながら近づき、それを見る。すると、ヴィスカは表情を固める。
「ロバリーたちのだ」
固い声でそう言い、マークを凝視する。それはロバリー奴隷商団の調達マークだった。商品に着けるものだからか、首輪にもマークが施されているとは思わなかった。
「これがあるってことは…」
「ああ、奴らが今も出入りしてるのは間違いないね」
こんな所から標的へ繋がるものがでるとは思わなかった。二人は目に力を入れ、ようやくの手掛かりを見つめる。
「これがその首輪ですか」
それから暫くして、セロが休憩を入れた際にシルキー犬からの贈り物を見せるとセロもそれを確かめる。
セロの手にはガラクタの中から部品を集めて入れた袋を乗せていた。その傍らには同じくシルキー犬から貰った因術具が置かれていた。襲撃の衝撃によるのか損傷は激しかったが、その型は最新のものだった。それを修理することは可能かもしれないが、修理費用や部品がたらなかった。その為この損傷の激しい因術具を分解し、風屏機にこれらを用いて修理と軽量化を施すらしい。この因術具の核にも同系の風石が収まっており強化も視野にいれた改造を行う予定だとセロが僅かに顔を綻ばせていた。
なお、術式はほぼ完成してあとは行使してみての微調整となっていた。
その前に、現在の問題は目の前の首輪。これが、王都へ向かう馬車から奪ったものかは不明だが、商団の一味がいるのは確か。
予定とは違うが、途切れた糸が再び繋がる。これをどう手繰り寄せるか。そして、どう立ち回るか。これからの行動によって全てが決まっていく。
「やっぱ、奴隷市に行くのが手っ取り早くないか」
「アタシもそう思うよ」
奴隷商による奴隷市は一般の人間も参加できる。だが、この王都は貴族中心の会員制でどこで行われているのか不明だった。会員制であり、闇市も兼ねられているらしく探すのは困難。あるのは確実だろうと確信できるが、如何せん参加する方法が見つからない。
「あまり行きたくはありませんし、方法は貴族の私が登録するべきでしょうがまず審査に通らないでしょうね。その前に登録場所も分からないままですけど」
セロはすでに貴族という地位を捨てた。だが、この王都ではその地位を利用するために騙ってはいるが、それでも地方の貴族で地位も低い。奴隷市への会員基準も不明だが、審査で落とされる可能性は高かった。
また、ロバリー達のことを調査するときに奴隷市についても調べたが、貴族専用の会員制ということしか分からなかった。どこで行われ、どう審査し、だれが主宰しているのか全てが誰かによって規制されているかのように調べられなかった。もしくは、ごく一部の上流貴族しか知らないのかもしれない。
貴族に聞くことは憚れ、住民や店員にさりげなく聞くだけでは情報は集まらない。噂や都市伝説めいた話のほうが多いのだ。たとえば、何かの儀式を行っており、その隠れ蓑としているとか、王族主宰であるとか。
折角の手掛かりも、ここで行き詰まってしまった。それだけ、不確実で作話の域を出ない情報が多かった。
だが、セロは何かを思い出したのかこう口にする。
「市民向けの奴隷店があると言っていたと思います。そこに行ってみますか」
二人ペアの情報収集でも常に二人並んで調べず、別々の人と会話をして収集効率を上げることをセロとランブは行っていた。そこでセロが聞いていた情報だったらしい。
「そんな所があるなら早く言えよ」
あえて言わなかったのではない。セロは直後に目に入った因術具店に気を惹かれ、今まで忘れていただけだった。
そんなことは口に出さずに、あると思われる場所を伝えた。結局、この日は精神疲労が蓄積していたセロが休むため、後日その奴隷店へ行くことを決めた。
そこが突破口となるのかは不明だが、前へ進んでいる実感がそれぞれ持つことが出来た。
「贈り物贈り物ー」
*因石*
それぞれの属性の因子が豊富に含んでいる鉱石。
風の因子が多いと風石。水の因子が多いと水石などという。
因石にも含有濃度や鉱石自体の質により値段や希少性が増減する。
これを用いれば、含有濃度にもよるが簡単な因術を扱うこともできる。しかし、因石単体で術までの行使が行える高濃度の鉱石は大変希少。
その為、術者のサポートアイテムや因術具のカラクリを利用して発現出来るような使用が一般的。
因術具はこれを核にするため、それにより道具の機能を作っていく。また、因術具は鉱石に限らず樹木などの自然物を利用することもある。
例え単体濃度が低くても、複数を重複すれば僅かながらに出力はあがり、他の属性石と重複すれば新たな効果を生み出すこともある。
「……山羊乳がない」




