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首輪と××と私と  作者: 犬之 茜
奴隷解放編─虚空像王─
29/40

小遣い稼ぎにて

 ランブが正式に依頼として野犬討伐を引き受け、その日の午後にヴィスカとアンリを引き連れて街道にやってきた。

 正門前の兵士は普段と変わらずいるが、そこに並ぶ商人は幾分少く見られる。兵士が普段通りの様子で野犬に対しての警戒もなく、それ故に討伐なり行動を起こしたとも考えられなかった。


「たく、ほんと腐ってるな」

「ああ、市民の不安も取り除くのが仕事だってのに、商人にしたって護らなけりゃ交易が減って自分たちの首を絞めることになるってのに他人事みてーにしてやがる」


 背後の兵士からは聞こえない距離になり、二人は辛辣に言葉を口にする。

 武装していれば被害は軽微だろうが、もし野犬の規模が大きく王都に浸入を許せば被害は尋常ではなくなるだろう。戦闘の経験もなく、攻撃を防ぐ装備もない。逃げようにも人間など、ゆっくり移動する標的でしけない野犬によって人的被害はそれなりに出るだろう。それ以上に食物などの被害は増える。

 それなのに、討伐にも出ず警戒も薄い。浸入を許せば初動が遅れるほどに被害は増える。中にいる兵士もすぐに動くとは限らない。現に武装していない兵士だっているのだ。戦わずに逃げる者がどれだけ出るかも分からない。

 そのことにランブとヴィスカは憤っていた。護るべき対象を護らず、安寧と生きている。闇を避けて、なおかつ闇を利用しようとしているのがこの国の実態だった。


「ま、今はこっちが仕事だ」

「働かないヤツのせいで、アタシらが働かないとな」

「それで稼ぐんだからなんとも言えんがな」


 大人二人が愚痴を言っている間、アンリは鼻をヒクつかせながら歩いていた。

 草の匂い。土と風の香り。人の僅な血の匂いがした。


「ここらへん」


 ある程度は市場で襲撃場所を聞いていたが、アンリが示すようにそこには轍の線が乱れ、中には地面が抉れている場所があった。襲撃により荷馬車が横転して出来たものだろう。

 背の低い木と高い木により視界がやや悪い。王都側からは緩やかにカーブする道と木により死角になり見えない場所だった。


「いまはいねーか」

「よくこんな襲撃しやすい場所を見つけたよな。犬だってのに」


 この付近で襲うのならば、人間だってここを選ぶだろう。隠れるなには打ってつけの低木、木とカーブより死角になりやすい場所。とくに、王都がすぐそこだと安心する心理的なものが油断を生む。ランブも襲撃するならここを選ぶと考えた。


「しっかし、どこにいるんだろうな」


 周囲に野犬の姿は見あたらなかった。群れということなので、そこにいれば目立つのだから隠れているのは当然だった。


「アン、なんか分かるか?」


 アンリを拠点に置いてこようとしていたヴィスカだが、結局頼る形になり気まずそうに尋ねる。


「うん。…知ってる匂い」


 街道に手を着いて直接匂いを嗅ぐ姿は、犬を彷彿させた。身体を起こした所に、鼻に着いた土をヴィスカが拭いてあげる。


「どういう意味だ」

「知ってるわんこ」


 そう言い首を動かし、街道から外れた方角を見つめた。


「まさか、前の野犬か?」

「いや、あそこから結構な距離があるし同じ犬種なんじゃないか?でもたしかあの時はシルキー犬だったよな」


 野犬だろうが、いや野生だからこそ縄張りというものを強く意識する。一度縄張りをなくせば、新たに作るのは大変なことだ。その為、ここまで移動してきたとは思えなかった。しかし、シルキー犬とはこの国では比較的珍しい犬種でもある。それにまた遭遇する確率はどれくらいのものだろうか。


「知ってるわんこたち。こっち」


 何の警戒もなくアンリは顔を向けた先に歩きだす。本当に知り合いに会いにいくような感じで。


「おい」


 ランブも止めようとしたが、その足取りは本当に楽しそうに軽やかだったために止め損ねてしまった。

 アンリを護るように二人が半歩後ろを左右に並んで歩き、街道より二百メルほど離れた所にブッシュがあり、土を掘り出した跡もやや離れたところから確認できた。土が山のようになっていることから、穴を掘りそこを塒にしているのだろう。ブッシュと掘り出した土により隠れやすくなっている。知能が高い犬種らしいが、ここまでの知能だとは思わなかった。


「ヴィスカ、ランブ。ここにいて」


 アンリが歩き出した。危険と思いヴィスカは後を追おうとしたがランブに止められた。


「向こうはもう俺達に気づいてるだろうな。いつ襲ってくるか分からん。刺激するわけにもいかねー」


 それに、アンリは楽しそうだしな。と付け足した。それは危険を避けたいランブであっても、本当に以前の野犬なのかと思えてしまうくらいにアンリは無意識に楽しそうに歩いていた。

 そのアンリがブッシュに頭を突っ込んだ。


「わ……」

「アン!?」

「ちっ」


 アンリが引き面れるようにブッシュに飲み込まれ姿が見えなくなった。ランブは自分の失態に悔やんだ。


「おい、アン!?」

「グルルルゥ」


 二人がブッシュを掻き分けて中に入ると、大きな穴の前に二匹の野犬が牙を剥いて威嚇してきた。だが、すぐには飛びかかってこない。それは以前見たシルキー犬と同じ犬種のように見え、ランブたちも足を止めるしかなかった。

 お互いがにらみ合いを続ける間、穴の中から「くすぐったい」「べたべた」とアンリの若干高い声が聞こえ、危険な目にあっていないことを感じとり二人は困惑した。それからもしばらくアンリの声が中から聞こえてきたが、二匹の野犬は警戒を解こうとはしなかった。


「あ、ヴィスカ、ランブ」


 声が聞こえなくなったかと思うと、全身涎まみれになったアンリが穴から出てきた。その手には食料を抱えていた。


「おい、大丈夫なのか」


 ヴィスカが駆け寄り、野犬は警戒を強めたようだったが、結局襲うことはしなかった。


「大丈夫。べたべただけど」


 ヴィスカに食料を渡し、警戒していた二匹の野犬にそれぞれ抱き付くアンリを茫然と二人は見ている事が出来なかった。


 それから再びアンリは中に入って行ったが、二人は入ることを赦されなかった。ただ、野犬も威嚇を止めて今は入口に一匹が寝そべっていた。

 どうやらアンリは穴の中が快適なのか楽しそうな声が時おり聞こえてきた。

 なんとも不思議な時間を二人は強いられたが、この野犬たちは以前の野犬たちで間違いはないようだった。どうしてここまで移動してきたのかは分からないが、商人を襲っていたのも間違いないだろう。ヴィスカに手渡された食料が何よりの証拠だった。


「どうすっかな」

「アンは楽しそうだけど、人襲ってたのもたしかだしな」


 アンリが襲われないのが不思議であり、その仲間と思われている二人も今の所被害はない。だけど、ここを狩り場にしてしまうならば、討伐も仕方がないと二人は思った。

 ただし、この国の野犬ならば幾らか知能が低くやりようはあったが、シルキー犬は知能が高く集団戦が得意だ。個体能力も高く、魔獣ではないにしろ因子を操れる。個体差はあるが、因術に似たことを行使してくる厄介な犬種だった。


「おみやげ」


 これからの動きに悩んでいると、両腕に色んな物を抱えたアンリが出てくる。呑気なものだ。


「あ、ああ。ありがとう」


 これの扱いにも困る。盗品を取り返したと返すべきか、頂戴するべきか。または破棄するべきか。


「アンリ、怪我はないか」

「大丈夫」

「なあ、アンリ。こいつらの言葉分かるんだったか?」


 統一語も発する事が出来ない動物だが、アンリが話し掛けてそれを理解するような動きを以前見ていた。


「なんとなく?」

「こいつらの狩り場なんとかならないか」

「んー」


 返事なのかそんな言葉を残し、アンリは一番大きな犬に近付いていき、何か話し始まる。それを不安そうに、半信半疑に二人が見つめていると話を聞いていた一頭が立ち上がり、一声吠えた。すると他の野犬たちは穴に入って、収穫物を口にくわえて出てくる。そのまま成り行きを見ていると、なんと群れで移動を始めた。


「おい、大丈夫なのか」

「うん、移動するって」


 ニュアンスで会話をしているのか不明だが、野犬たちはアンリの言葉を理解し移動を始めたらしい。ただ、どこに行くのかは不明であり、離れた街道にて再び襲うことも出るかもしれなかった。


「とりあえず、依頼終了か?」


 なんとも腑に落ちない終わりかたであり、実質アンリのみの功績に二人は困惑していた。


 その後、簡単な審査の後に王都に再入場をして拠点に戻った。荷袋に野犬から貰った食料などを入れた為に城門にて咎められなかった。本来は密輸などを警戒し、確認するはずだが、そこは腐った兵士だった。

 拠点に戻るとセロは未だに術式構築を行っており、頂戴した食料は返すのも不信に思われるのでそのまま頂くことにした。

 とりあえず、被害周辺からは野犬が立ち去ったことを伝えると市場から報酬を貰った。討伐ではなく、逃げられたことでの危険はなくならないのでその事を丁寧に伝えると報酬は半分になってしまったが、真実を隠し討伐したことにした後にすぐ野犬が他で暴れると詐欺られたと思われるだろう。そのことで、現在の拠点を移すことを考えると真実を話したほうが良かった。


 報酬を貰い、拠点にて荷袋に入れた食料などを取り出しているとランブの手が止まった。


「これは……」

「べたべたー」



*奴隷種類*


虐待奴隷


闇市での購入。

どの年代・年齢も対象。

その他の分類からの移行もあり。

監禁し虐待を行い発散することが主だが、闘技に出場させて稼ごうとする者もいる。



「また遊びたい」

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