小銭稼ぎに向けて
ヴィスカ達が絡まれた日から二日が過ぎた。この間、警戒するために情報収集は行わなかった。すぐに自分たちを特定し何か行動を起こすかもしれない、まったく行動に移さない可能性もあった。だが、セロやランブはあの貴族が何もしないとは思えなかった。
しかし、自分たちの予定を遅らせたくはない。そして一番の懸念はセロの浪費により所持金が尽きかけていた。そこで数日早く行動開始する運びとなった。
この二日は不良品の熱揮機と先日酷使した結果故障した風屏機の修理兼改良のために部品集めに使われた。
外縁部に位置する拠点の近くに外向けの因術具を少しだけ扱っていた店舗があり、部品も置いてあった。そこの因術具は数代前の物で、お世辞にも買おうとは思えなかった。必要な部品は幾つか足らない状態ではあったが、熱揮機の修理だけは終了した。ただ、軽量化はまだだが。そして、風屏機はショートだけではなく部品自体が熔けてしまっているものまであった。本来なら破棄するしかないが、セロが部品の付け替えを行い、ある程度の復元は行えた。ただ、最新に近いものなので部品が総て揃うことはなかった。
修理と共に術式の組み合わせも行っていたが、そちらは完成していない。
そうして二日を過ぎ、ランブの表情はこの数日で険しくなっていった。
「金がねー。一週間分の宿泊代は先に払ったが、予想外の出費で来週は野宿…いや、その前に食えなくなる」
遠回りにセロを責めているが、セロは気づいていない。因術具だけではなく、部品もそれなりに高いのだ。ただでさえ物価が高く食事や宿泊にお金が飛ぶのに、その出費は凶器になる。
「んで、また依頼でも受けるしかねー」
旅の始めはセロが自宅から自分の金品を持って出たので、それを売ったりしていた。だが、村などは金銭よりも物品のほうが重宝する。そのため、狩猟や採集をして物々交換をしてきた。その為、金銭はほとんど手付かずだったが、ここにきてかなりの出費となり底を尽きそうになっている。いままでも現金収入は行ってきていたが、その時々にしか行って来なかったので、余裕はない。
そして今回も収入を得るために動く必要がある。内容としては狩猟などにより肉や皮などを売るか、どこかの手伝いだ。
しかしここは王都。物流も多く、質も良い。旅人がそこら辺で手に入れた物が売れるかが分からない。また、他の街などより警戒しているので手伝いも出来るかどうか。下手なことをしたらすぐに兵士につき出される環境なので、目立つのも色々な意味で避けたい。
「どうするんだ」
ヴィスカがそこら辺の事をランブから言われ、ならどうするのか更にランブに尋ねる。
現金収入がないなら宿を出ないといけない。物々交換が出来ないなら街を出ないといけない。一度出てしまうと入るのは大変だ。ただの外出なら少しは審査が簡単になるが、新規として再び王都に入るには一から審査を受ける必要がある。また、近くで野宿でもしていたことを見られたら審査が厳しくなるかもしれない。ここではセロが貴族ということで身元を保障されているのだから。
「そのことで市場で宛を探したんだが、見つからなかったな」
「じゃあ、どうするんだよ」
「いや、なに。一つだけ収入の宛は出来たんだがな」
ランブが勿体ぶることにヴィスカは苛立たしそうにする。
「野犬の討伐だよ」
この数日はヴィスカは苛ついていた。改めて奴隷の扱いが酷いのを目の当たりにしたためだと知っているランブはため息を吐いて続きを話す。ヴィスカも解っているのだ。その為に自分たちは動いているのだから。ただ、感情はなかなか抑えることは出来なかった。膝に座らせているアンリの頭を撫でても、感情は抑えられなかった。
「三日前から街道周辺に野犬の群れが出るみたいでな。護衛をケチッてる商人の荷が幾つか被害に会ってる。護衛がいれば追い返しているが、その場合軽症を負った者もいる」
ランブが市場の商人から聞いた話しだと、その野犬の群れによって今後の物流の低下が市場で懸念されている。すでに兵士に伝えたそうだが、討伐に出た様子はないとのことだ。
「商人たちは護衛を雇えば言い訳だが、確実に不安材料だからな。早々に始末したいみたいだ。商人を始め市場からも金銭を出して討伐を募ろうとしてるみてーだな」
たかが野犬。だが身近な恐怖であり、すでに被害は出ているのだから討伐しようと思うのは死活問題に影響する者ならば不思議はない。街道周辺から動いていないことから、楽な狩り場として居座っている可能性もあるので、今後も被害が出ると考えるだろう。野犬にしてみれば迷惑な話ではあるが。
「どうだ?」
「アタシは良いよ。暴れたいしな」
「親父さんは…集中してるから無理か」
現在のセロは今後の為に因術の試行錯誤を行っていた。瞑想するように静かに座っている。まずは因子の結び付きを感じて、そこから線を結ぶように因果を形成し術式を組んで行くのだ。それが終わらなければ、実際に行使して調整することは出来ない。本来ならば、先日のような行使はあり得なかった。暴発・暴走はかなり危険である。さらに、慣れない属性ならばその確率は跳ね上がる。それだけではない。人間の主な構成因子に結び付き変異や消滅もあり得るのだ。この変異を利用したのが禁術の反転である。危険を減らす為には、きちんとした手順を踏まないといけないのは何にでも当てはまることだった。
「アンは危ないからお留守番するか?」
「いく」
以前にアンリが野犬に噛まれて重症を負ったことでヴィスカは連れて行きたくなかったのだろう。たが、アンリは頑なに行くことを伝える。
「わかったよ。危なかったらすぐに逃げるんだぞ。ダガーもちゃんと持っていけよ」
「うん」
正直、逃げれる余裕はないだろう。人間よりも野犬のほうが素早いのだから。群れの規模は不明だが、まず間違いなく庇える余裕は少ないだろうとヴィスカは思う。ただ、以前に野犬を従わせたように見えたアンリの能力に懸けるしかなかった。このままでは、後ろから着いてくるのは想像できたから。セロに任せることも考えたが、集中している状態だと周囲が見えなくなる癖があるので確実ではない。
「んじゃ、ちょい話してきてみるは」
そういいランブは部屋から出ていった。
「わんこと遊ぶ」
*奴隷種類*
売買奴隷
闇市での購入。
どの年代・性別も対象となる。
一人単位で売られるが、主な目的は臓器売買の為に奴隷に先はない。
「ダガー…ずっとケースに入れて身に付けてただけだった」




