到着。捜索。現状。
『王都セント=ダブラーク』
人口約一万五千人を擁する王国の中心だが、これには奴隷の数は含まれていない。
そして、住人は中流以上の貴族や商人の活動拠点、兵士とその身内が主に占めている。その数が異常だが、親族全員を安全地帯に置こうと思えばこれだけの人口にはなるだろう。
平民などが排除された都市は気品と威圧感が同居する息苦しさを発している。地方から徴収した物資はこの非生産的かつ近代技術を施された都市によって消費される。
その王都の中央には象徴となる灰色の巨城が聳える。周囲とは一線をかくそこが王族のみが住まう場所。謁見すら、手前の応接塔での遠隔謁見であった。
そんな城を仰ぎ見ながら街を散策する女性が二人。
一人は鎖を鳴らしながら城を眺め、もう一人は相方の手を繋ぎ周囲を観察するように流し見ながら歩いていた。
「あそこには、王様がいるんだよね。この制度を続けている………」
そっと首に嵌まった拘束具をなぞりながら、なお城から視線を外さない少女。
その少女の問い掛けに、口数が増えてきたなと思いながらも、うっすらと笑みを浮かべてすぐに消す相方。
「ああ……アタシラが倒す相手になるかもしれないヤツが居る場所さ。あの上から苦しむ国民を眺めて悦に入ってる腐った変態だ」
少女に返しながら、城を眺めすぐに興味が失せたように視線を周囲に巡らせる女性。
鋭い視線は目深に被ったフードによって隠れている。
「いろんな匂いがする。でも…なんだか重くて、冷たい」
少女は女性を見上げ、逃がさないようにキュッと手を繋ぎ直す。
「大丈夫。ここにアンの敵がいたとしても守ってやるからさ。さて、偵察もそろそろいいかな。街の様子も確認したし、戻ろうか」
二手に別れて街を見て回る手筈を取り、そちらも一旦宿に戻る頃合いだろうと当たりを付けて、二人は拠点とした宿に向かった。
外の貴族用の宿泊施設は少ないが、商人用の宿はそこそこ存在した。その中で郊外にある、寂れた外観が王都の雰囲気に合わない安宿に拠点を置いた。それでも、他の街よりも値段は高く設定されていた。
この国の始まりの場所にして、闇にて財を稼いでいるロバリーの拠点。
自分たちの目的は果たして達せられるだろうか。
多大な困難が待ち受けているだろうことを覚悟し、女性は小さな手を引いて仲間の元へ向かう。
この手を決して離してなるものかと、力を若干込めて。
少女もそれに呼応するように、手を固く結び前を見据えて歩き出す。
***
「戻ってきたか」
安宿の一室に入るなり、巨漢がこちらを見て口を開いた。
「どうでしたか」
椅子に座っている細身の男性もそう問いながら、二人のために椀に水を入れてくれる。
「収穫はないよ。やたらと奴隷を見かけたけどね」
水を受けとり、ヴィスカは一気に煽ってから答える。
「そうですか。こちらもロバリーや商団の痕跡は見つけられませんでした。奴隷が多いのは、その数や質が自らの地位を見せつける為でしょうね 」
「兵士なのか、軽装で遊んでる奴もおおかったが、平民の苦労を何も知らないような感じで腹が立ってきたがな」
街で情報を得るために何度か商人に話をしたが、ロバリーたちの名前は出なかった。こちらから特定の名前を出すのも警戒されるので遠回しに聞くしかなかった結果かもしれなかったが。
会話の最中にもアンリを品定めするように眺めてきた。中には触ろうとする者もいたが、ヴィスカによって幸いにも触られることはなかった。だが、他人の奴隷を品定めするのはこの街では当たり前なのだろう。それが、自らの価値を引き上げることにも繋がるのだから。
そして、街を巡回しているはずの兵士も軽装や剣片手に胸当てすら着用せずにブラブラと遊んでいるような者が何人も見られた。ここでは、ろくに働かなくても生きる為に必要な物資が届くのだから真面目になることもないのだろう。その分だけ、他の街が苦しんでいるのかも知らずに。
「吐き気がする所だな。アンもいつも以上に見られてイヤだったろ」
「うん」
今までは忌否感で見られることは少なかった。物珍しさで眺められることはあったが、ここは物品として皆が遠慮せずに眺めてくる。見る方も見られる方もそれが当たり前であるように。
若い男性が裸の女性を複数連れて悦に入っている光景を見て、ヴィスカは斬ろうとさえ思った。向こうは殺気に気付きもしないで目の前を横切っていった。その間も女性たちはジロジロと見られ、中には触られている人もいた。アンリと同じくらいの子どもまでその中にはおり、子どもでさえ当然の行為と思っているのを実感した。
「明日は謁見を申し込んでみようと思います。私の爵位は剥奪されていますが、昔の爵位を述べても分からないでしょうし」
セロは苦笑を浮かべていたが、眼は妖しく光っていた。
奴隷を使役する身だったこと、それが当たり前として教えられた時期がセロにもあった。そのまま疑問にも思わなかったら、この国の住民のようになっていた可能性もあったのだ。
それをセロも間近に見て来たのだろう。今、心の内で何を思っているのだろうか。
「そんな簡単に上手くいくか?」
静かな怒気を発しているセロにも臆せずに、ランブも椅子に座り水を飲む。
セロが怒気を発することは珍しい。食事の邪魔をされた時に見られるが、今はその比じゃなかった。
「親父、あんまり思い詰めんなよ」
「はは、すみません」
静かな怒気を納めて、本当に苦笑する。
「さて、収穫は明日に期待しましょう。すぐに手がかりが見つかるわけでは無いですし、今日はゆっくりと休みましょう」
もしに囚われ、自分のペースを乱しかけた自分を恥じているのか若干声が上ずっていた。
今日、王都に到着した時にはお昼を回っており、まずは拠点を探し、それから情報収集と報告を済ますとすでに日も暮れていた。
暗くなったこともあり近場の酒場で食事をして、二部屋に別れて就寝する。各自、疲労もあり直ぐに眠りについた。
「到着したよ。ジロジロ見られたよ。チヤホヤされたよ。ちがう?」
*セント=ダブラーク*
人口:約一万五千人(奴隷含まず)
特産:因術加工物
特質:因術を用いた技術よって生活が楽になっている。
備考:徴収による物資補給と物流によって成り立っている。因術を行使できる者を召集し、インフラを行っており、加工物による収入もあり比較的貧困は回避できている。
「便利な物いっぱい。上の部屋に行くのに階段を使わなくても昇ったり、水が出てきたり」




