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首輪と××と私と  作者: 犬之 茜
奴隷解放編─王都旅程─
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迫害と廃棄

「汚ねーな、おい」

「こっちくるな、ガキ」

「奴隷よ。嫌ね」

「脱走か?報せたほうが良くないか」

「おい、あいつ裸だぞ。お前、どうよ」

「家に入ってなさい!………(けが)らわしい」


 村に入るなり私を目撃した村人から悪意のある言葉と、白い視線が浴びせられる。

 何かを言う前に、それぞれが言うことだけ言って離れていく。中には石を投げる者もいた。

 そんな中でも私はようやく辿り着いた村だったので、石が当たり痛いのを我慢しながら村の中央通りを歩く。

 見世物のように、離れた位置から指を()して陰口で(はや)し立てる村人たちには私の言葉は通じない。頬が石で切れて血が流れても、構わずに石を投げる村人たち。

 もう体力がなくフラフラと歩く私の背後から何かが近付き、私の後頭部を強打した。倒れながら、それが太い木の棒だと認識した所で意識が遠退いた。



***



「いたっ……あれ」


 私は村の外にいた。痛い頭に手をやると乾きかけの血が付いてきた。どうやら殴られ意識を失ったみたいだ。他人事のようにそれを認めて、改めて周囲を確認する。

 岩を中心にした草原の中にいる。村が見えたのでそれほど離れてはいないみたいだ。そして、この岩場はかなり臭う。どうやら村の廃棄場のようだった。

 なにも得ることなく、村から追い出されたみたいだ。いや、棄てられた。

 ゴミの中から身体を起こし、そのゴミを漁るが目ぼしいものがなかった。生ゴミは肥料になるのでここにはないのだろう。布の切れ端があったが、身体を覆うには小さくゴミ漁りを諦める。


「おなか……」


 さすがに草と水だけじゃ、お腹が満たされずに空腹が襲ってくる。

 重い足取りで村に近付くも、周囲を自警団らしき村人が警戒しながら巡回しており、やや離れた岩影に姿を隠して様子を確認する。

 ずっと歩いて来たため、足がもう歩く事を拒否していた事もあり、岩に背を預けて休む。

 それ故に、ようやく見つけた村から離れられずに岩影から様子を伺うことしか出来なかった。


 冷たくなってきた風が肌を撫でる。


「わふんっ」


 くしゃみ以外には虫の声と、意外に近いのか川のせせらぎしか聞こえてこない。

 オドが沈み、ソドが昇り始めた。次第に村から灯りが消えていき、いつの間にか自警団もいなくなっていた。

 足は回復してきていたが、空腹はより一層増していた。


 やるなら、もう少し待ってから…。



***



 全ての灯りが消えて(しばら)くして、息を殺す様に村に近付く。

 村の中からは物音が消え、完全に眠りに()いたのを確認して村にそっと足を踏み入れた。


「………」


 静かに、だけど出来るだけ速く民家を回る。

 目的は外に出されているゴミ。だけど、どの民家もゴミを外に出してはいなかった。

 諦めかけながら、残り数軒を散策して(ようや)くゴミ箱が見付かった。どうやら、一度ここに集積されるみたいだ。目の前の集会所にも人気がないのを確認してから、ガチャゴチョッと奇妙な音を最小限にするよう気を付けながら漁る。

 (かろ)うじて食べられそうなモノを、なけなしの服の裾を持ち上げ皿にして入れていく。持ち上げた分、素肌が風に(さら)されたが今は食べ物のほうが重要だ。

 幾つかの戦利品を載せて、残りの民家を回ったが他には収穫がなかった。

 戦利品を(たずさ)えて村から出て、近くの川へ向かう。そして、服から戦利品を地面に置いて、手を洗い一つ目の戦利品に手を伸ばす。


「ん…よく……」


 分からない味だったが、不味くはなかった。所々ネチョッとした他のモノが付いていたが、綺麗に完食する。

 シャクシャクと次の野菜の屑を口に運びながら、これからどうしよう。ではなく、今夜はどうしようと、未来より今を考える。

 結局食べたらこのまま寝ようと思いながら、次の戦利品を口に運ぶ。


「ぐわっふぶっ!?」


 口に入れた途端に気持ちの悪い味が脳髄(のうずい)を駆けた。

 慌てて川に口を付けて水を流し込む。

 今日一番の獲物は一番のハズレだったみたいだ。口直しに最後の戦利品を摘まみ上げた。

 食べられそうなモノはこの四種だけだった。お腹は空いていたが、腐ったものはさすがに諦めた。

 若干厚く切られた果物らしき皮を口に運ぼうとした。して、止まった。

 いつの間にか背後にだれかがいた。

 食べるのに夢中で気付かなかった。

 誰かがいるだけならまだ良かった。首輪の上、頬に近い部分になにかが当たっていた。

 視線を下ろすと、刃先が見えた。


「ここで、何をしている?」

「今回の村について?」



*ハイニー村*


人口:200人前後

特産:なし

特質:なし

備考:農業を中心とした集落。奴隷狩りと害獣に警戒する為に有志によって自警団を抱えている数少ない村。



「私は追い出された。殴るなんて、ひどいよ」

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