旅源始想─セロ─
「では、先程の続きといきましょうか。目的は言いましたから、私達自身のことを話しますね」
私に笑みを向けたと思ったら、すぐに表情を引き締めてセロは「まずは私から」と口を動かす。
「私は昔から奴隷について考えていました。当たり前に奴隷がいる環境に、初めて私も触れて違和感を覚えました。私の家は伯爵の中の辺境伯でした。今までは数人の使用人がいる程度でしたが、ある日の夕方に数人の奴隷が家にやって来ました。その人たちは、父が…家長が購入した人たちでした」
途中から目を閉じ、告解するように痛々しい声に変わっていく。
「それから五年くらいで奴隷の数は増えていきました。一度購入さえしてしまえば使用人よりも安く済みますからね。父は早くこうしたら良かったと言っておりました。それから暫くして、父は肺を患い次第に臥せる事が増えました。家にいた治癒者はある程度の怪我は治せましたが、病までは治せなかったらしいです。私も因術は習っていましたが、今よりも格段に技術を習得してはいませんでした」
当時を思い出しているのか、自らの手を眺めてから首を横に振った。何を意味しての動作かは本人にしか分からない。
「大半の時間を床に臥せる事になった父は、私に家督を継ぐように言い、僅かな時間を掛けて私に家督などの事を教えてくれました。その間も不慣れながらに運営を行っていましたが、父の補助がなかったら皆がもっと大変な思いをしたでしょう。家督を就いて半年もせずに父は息を引き取りました。家督についての勉強の中に奴隷の購入に関しても教わり、そこでロバリーの名前を聞きました。その時は特に気にも留めないまま、しかし奴隷に関して違和感があったので奴隷の購入は致しませんでした」
一息吐き、尚も話を続ける。他の二人も真剣な表情で耳を傾けていた。
「さらに二年が経っても奴隷の購入はしませんでしたが、すでに働いていた奴隷はそのまま使役していました。ですが、違和感は大きなものになっていました。使用人よりも働いているのに、賃金はなく、僅かな食事を与えることに。粗末な寝床と幾ばくかの休息での労働環境に」
空の木椀を見つめながら告解は続く。
「父の代から違法はなかったのですが、私は次第に使役を緩めていきました。そこに、楽を覚えた使用人と家族が私を糾弾し、反発した私は家督を剥奪され追い出されました。僅かな奴隷の開放と共に。母は始め庇ってくれてはいましたが、最終的には当時七歳になる息子に家督を継がせることを決めたみたいです。その時に、私が父とは血が繋がっていないことを知りました。父はその事を知っていたのか疑問ですが、母は最終的に父との子供を優勢しました。それには不満はありません」
ヴィスカが気を利かせ空の木椀に山羊乳を注ぎ、それを一気に飲み干した。
「最終的に母や家族、私より長く勤める使用人に敵うこともなく家を出ました。条件が通っただけでも良かったのですが、まだ二十歳になったばかりの私には生きる術を知りませんでした。結局は甘えていたのです。私兵は私ではなく、家に帰属しますし、それが存在理由なので助けにはなりませんでした。そんな私に、一人だけ着いてきてくれた奴隷がいました。家から出た後はその人に助けてられました。それが、ランブです」
ランブの方を見ると、我関せずと少しずつお酒を呑んでいた。
それを視野に入れて確認したセロは話を続けていく。
「年下に生きる術を習いながら放浪が始まりました。それは、何も知らない恥を受け止め、本当に必要な知識を得る為の当てのない旅でした。その中で沢山の奴隷を見て、助けられ、違和感が爆発しました。それが、開放に向けた旅の始まりです。そしてまだ、それは達成出来てはいません」
長い告解が終わった。
たぶん私にも分かるように、これでもまとめてくれたのだろう。
だけど、幾つもの情報が入っていた。
特にセロが元貴族で、ランブがその奴隷だったというのが一番の衝撃だった。
ランブを見ると、奴隷らしくなく堂々と一人お酒を呑んでいた。
「長くなってすみません。これで私ついては終わりますね」
いつもは見せない影のある笑顔で話を締めた。
そのままランブへと、話しは続いていく。
「貴族。偉い人。他には…なんだろ」
*セロ・セシリー・ロマンディウム*
種族:人間
年齢:二十八歳
身長:182シーメル
体重:58キグルム
髪:黒色
腰丈のストレート
後ろ白リボンで束ね、前髪はピンで留めている
瞳:翡翠色
肌:やや日に焼けた白色
装備:黒色のマント
白色のシャツと黒く染めたズボン
黒革のブーツ
極細の針と糸
性格:穏やかな天然
趣味:裁縫
好物:特に自覚なし。好き嫌いなし。
呼称:親父/ボス
階級:元辺境伯
属性:水/癒
備考:中性的な美男
「ボスは偉い。あと、可愛いもの好き?ケモ装飾好き?」




