不在理由
「まず始めに、何も言わずに出ていって不安にさせてしまいましたね。ごめんなさい」
セロの謝罪から始まり、今朝の事が語られる。
私はまだ完全には不安を払拭できないが、ヴィスカに頭を撫でられ、今はそっと手を握られていることにも安堵を感じていた。
「本来は一緒に行くべきでした。ですが、昨夜アンリが寝てから街の様子を伺いその考えは改める必要が出ました」
訥々と昨夜の情報収集の間の出来事が語られる。
それは兵士が民家を荒らしていたこと。
大通りで普通に奴隷の売買が行われており、中には品評会が開かれていたこと。
あちらこちらで浮浪者が路地で寝ており、窃盗やいさかいが起きていたこと。
昼間の賑わいとはあまりにもかけ離れた光景。
そして、ある宿舎近くで兵士が家族を襲い、子供を連れ去ろうとしていたこと。
「母親は暫くして息を引き取りました」
「子供は取り戻したが……その結果、兵士を殺してしまったからな」
「殺しは日常だから、だれも不思議には思わんだろうが。んで、アンを連れていたら目を付けられるかもしれないと思ってな」
「アンリには悪いですが、井戸などでアンリが私たちの所有物として安全を確保しようとしましたが、現状だと意味をなさないと結論付けるしかなくなりました」
「言っても着いてくるだろ、おまえ。初めがそうだったしな。今も姐さんにくっついてるし」
「書き置きはしてたんだけどね。どうやら見なかった……いや、机から落ちてたみたいだし気付かなかったんだろうな」
確かに、ヴィスカにはずっと離れずに今まで行動していた。
だけど、一言くらい言って欲しかった。書き置きなんて見ていないのだから。
あんな不安はもうイヤだ。
「うー……」
実際に言われたからと、大人しくお留守番出来るかは解らなかったので何も言えなかったが。
「そういう事があった訳ですが、アンリを不安にさせたことには変わりがありませんね。ごめんなさい」
改めて、セロが頭を下げて謝罪をしてくれる。
「悪かったな。必要な情報が手に入ったから明日、ここを発つぞ」
「ロバリーたちが今も王都にいるらしいよ。あそこは危険だから、今度は手を離さないからな」
「……おう、と…」
また、ドクンと胸が跳ねた。
王都にはなにがあるのだろうか。
「では、私たちの事を話しましょうか。そして、アンリについて解っている危険性も」
王都について思考が飛びかけたが、気になる発言に意識が言葉に注がれた。
ヴィスカたちについてはもちろん知りたい。
だけど、私の危険性とはなんだろう。解ったことって?
まだ、私は記憶があやふやなのに………。
黒い渦が思考を掻き乱す。
先程よりも、鼓動が早まり思考が加速していった。
「ごめんなさい」
謝罪
更新日程が確定したにもかかわらず、最近は色々あり、遅れたり、短文だったりと申し訳ありません。
一人でも読んでくだされば幸いなのに、裏切るようなことをしてすいません。
次回から三話もそれぞれの過去や旅の理由などの話を予定しているので、短文になりそうです。




