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首輪と××と私と  作者: 犬之 茜
奴隷解放編─王都旅程─
14/40

洪水被害、ランブの苦悩

 あの雷雨の後に再び聞いた王都。道中もなんだか暗い(わだかま)りが胸に留まっている。その為かヴィスカを不安にさせて、おねしょをランブが文句を言いながら後始末し、ヴィスカと話すセロにもモヤモヤして意気消沈していた。


 そんな感じで雷雨の日から四日以上掛けて王都手前のチョーゼンの街に入った。日没前の黄昏時の街は店仕舞いの喧騒でこれまで訪れた所よりは賑やかだった。

 日没が迫っていたので、すぐにセロが宿の手配をしてくれた。今日は野宿ではない。そして私からしたら始めての宿だった為、あちこちが新鮮だった。

 この宿は夕食付の少し豪華な宿らしい。物々交換が主流だった今までとは違いお金が勿論必要だった。セロたちがどうやって工面しているのかは知らないけど、とりあえず久しぶりの屋根ありだった。


「アン、お前最近なんか変だからもう休んどけ」


 宿で夕食を食べた後、好物になった山羊乳を久しぶりに飲んでいるとヴィスカに指示された。変て失礼。


「わふ」


 確かにこの何日かは熟睡出来ずに、一週間近い日程での徒歩を含めた行程に疲労がないとは言えない。


「それに、それ三杯目だろ。また始末するのも面倒だから止めとけ」

「………わん」

「まあまあ、そう何回も指摘しなくても」


 道中も寝付けない時に水を飲み、それをたしなわれ、そして仲裁してくれるやり取りがあった。


「だが四回連続っすよ。その前にも一回あったし、コイツのおねしょ。毎回俺が世話してるし。飼い主の姐さんはそういうのやんないしよ」

「適材適所だ」

「アンリも何か不安があっての一時的な心因性湿疹でしょうから。そう怒らないであげてください」


 なんだか、私の…その………しちゃった事で微妙な空気になってきているのかな。したくてしている訳じゃないんだけど。

 ちなみに怪我前にもしていた事で、怪我が原因ではないと皆はこれまでに結論が出ていた。それだけ怪我の経過を要観察としており、それぞれが責任を感じたままだった。始めのおねしょが怪我に至るまでの原因ではあったが、毎回後始末するランブにとってはすでに辟易する事態でもあった。


「とりあえず、それ飲み終わったら寝れ」


 ヴィスカに強く言われたらなんだか逆らえず、残り僅かな山羊乳を味わいながら飲み部屋へと戻った。


 暗い部屋に入り視界が閉ざされるが、少しすると目が慣れてくる。夜目が利くとしても明るい場所から暗い場所に移れば暫くは視界が利かない。

 扉から差し込む光もあって足元に不安はない。部屋の真ん中まで歩き、預かった火種を手のひらサイズの袋から取り出す。火の因子が封じられた石を蝋芯に着けるとホゥと火が点いて周囲が明るく照らされる。どういう原理か知らないが、火種の石は直接持っても熱くないし火傷もしない。そこそこ値が張る道具らしいとだけ教えて貰えた。

 一段高い場所に敷かれた布団がある場所からもう一つの燭台を持ってきて、火を移すとさらに部屋は開けるくなった。

 部屋はそれほど広くはない。宿主は借りる際に嫌な顔をしていたが、金銭的な理由で二人部屋に四人で寝ることになっていたから。

初めは私とヴィスカが同じ布団で寝る予定だったが、ヴィスカが抵抗してそれぞれが二つの布団を使い、男性が床で寝る事に決まった。


「……あふ、ヤなんだ」


 また私がしちゃう事を想定されているみたいで嫌な感じだ。不満に思いながら燭台を寝台にセットする。

 服を脱ぎ、しぶしぶ自分に宛がわれた布団に潜り込む。薬草の刷り込みは昨日で終ったので、今日は眠れるかもしれない。

 薄い布を何枚も重ね縫いした敷布と、夏なら丁度良さそうな薄く小さい掛布に挟まれると目を瞑る。

 今日は臭くないし、久しぶりに山羊乳も飲めたので熟睡できそうだ。

 その時、ジャラと音がした。薬草が塗ってないので、布も巻いていない。久しぶりに拘束具のみを身につけていた。寝る時はマントもシャツも着ない。べつに濡らすからじゃないよ?


「おーと、おうと」


 あれからずっとザワザワゾワゾワする。始めてした時も王都と聞いて眠れなかった。何があるのだろう。


「眠いのに…」


 眠れない。山羊乳も飲んだから水を飲む気にはならなかった。ゴロゴロと身体の向きを変えても落ち着かない。

 ヴィスカたち早く来ないかな。そう思いながらゴロゴロしていると、ようやく眠たくなってきた。


「…きょうはぜっ…たい……おねしょ………」



***



 今日は快晴。街の近くにある湖に皆してやってきた。ここ数日の疲れを癒す為に今日はのんびりとする予定。

 ランブはさっそく湖に飛び込んで泳いでおり、セロは釣竿を何処からか持ってきて糸を垂らしている。オドによってキラキラと黄色い湖面が煌めいている。

 ヴィスカは相変わらずお酒を飲んでいる。いつも思うけど、どこから仕入れているのだろう。酔っ払っているのか珍しく顔が赤い。お酒も口の端から零れている。それにしても変な臭いのお酒だ。黄金色の液体が止めどなく瓶から溢れている。

 それを尻目に、久しぶりの穀類と茸や果実。生だけど、それを直食べしても誰も見ていない今は叱られない。

 合間に飲む山羊乳も美味しい。何だか色がおかしいけど気にしない。

 裸でいるのも気持ちよくて、後で走り回ろう。


「満潮だー」


 ランブが嬉しそうに湖から上がってきた。そこに満潮の波を避けながらセロがランブに水を掛けて追いかけっこが始まった。

 みるみる湖が時化(しけ)て波が荒くなり、私たちにも押し寄せてくる。ふと、湖に波とかあったかなと思う。

 いつの間にかセロもランブも、それどころかヴィスカも波に飲み込まれて遠ざかっていく。なのに、皆して笑顔で手を振っていた。


「まって」


 そして私も波に飲み込まれた。

「山羊乳山羊乳」



*チョーゼンの街*


人口:2500人前後

特産:兼価版因子具

特質:王都手前の街の為、物流・人材が集まりやすく活気がある。

備考:奴隷反対派の前線、王都守備の防衛線。それによって、衝突が度々見られる。



「犬かき、じゃぶじゃぶ」

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