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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
第一幕

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挿話11 異世界詐欺師VS異国の詐欺師~勃発~

引き続き、異国の詐欺師がメインのお話です。


「ほ、本当に、これを飲めば胸が大きくなるのかい!?」


 赤い髪をした美少女が、テーブルに身を乗り出してくる。

 相当食いついているようだ……これは、売れる。


 私は今、四十二区にあるカンタルチカという酒場に来ている。

 ムム婆さんというしみ抜きの天才にローブを預け、これからどうしようかと考えていたところで……『獲物』に遭遇した。


 最初は顔のいい男なのかと思ったのだが……いやだって、胸があまりにも真っ平らだったから……だが、そいつはぶつぶつと「胸は……きっと何かで成長するはず……こう、ぼいんと……ばぃ~んっと……っ!」って呟いていて…………『獲物』確定!


 耳寄りな情報があるから、少し話を聞いてほしい。

 そう持ちかけた私に、この赤髪の少女はホイホイ付いてきた。


 耳元で……「あなたの悩み、解決するかもしれませんよ」と囁いただけで。


 そうして声をかけて、現在に至る。


 大通りに面した割といい雰囲気の酒場。

 そこの窓側の席に私と赤髪の少女は座った。

 しみ抜きの時に使用しなかった『マーシャ・アシュレイのカード』をここで使用する。

 これで盛大に飲み食いしても私の懐は痛まない。

 折角の代金立て替えカードだ。3Rb程度のしみ抜きに使うなんてもったいない。ここで1000Rbくらい飲み食いする方がお得だ。


 赤髪の少女の分もご馳走することで、こちらに対する不信感を少しでも払拭しておこう。


「う~ん……見た感じは普通の粉に見えるんだけどなぁ」


 疑いの眼差しで小瓶に入った粉末を見つめる。 

 それはそうだろう。飲むだけで胸が大きくなる薬なんて、普通に考えればあり得ない。

 しかし、切実な願いを抱えた乙女は藁にもすがる勢いでこんな胡散臭い物に食いついてしまうものなのだ。


「私は、この商品を取り扱うようになってもう五年になるのですが……最初の一年で、真っ平らだった私の胸は、ここまで大きく成長したんですよ」

「えっ!?」


 赤髪の少女の視線が私の胸に注がれる。

 ご自慢のFカップバストを強調して、私はドドンと見せつけてやる。


「……ほ、本当に?」

「もし信じられないようでしたら……どうぞ、『精霊の審判』をおかけになってくださって構いませんよ?」

「え……でも、それは……」


 躊躇う赤髪少女。それはそうだろう。『精霊の審判』は、一歩間違えば人を殺すのも同じことなのだ。……だが、その躊躇いこそがこちらの糧となる。

 躊躇いながらも行使すれば、その罪悪感が義務感へとすり替わり、「やっぱりいらない」とは言えなくなる。

 この赤髪の少女が『精霊の審判』を使った時、私の勝利は確定する。


「大丈夫ですよ。私は絶対にカエルにはなりませんから。それが私の話が嘘ではないという証明になるのです。ですので、どうぞ、お気になさらずお使いください」

「そ…………そう? …………じゃ、じゃあ……」


 この赤髪の少女にしても、購入に踏み切るために何かきっかけが欲しいのだ。

「ここまでしてくれたんだから」という免罪符があれば、多少高額な物であっても買いやすくなるというもの。女の欲望は、そうやって正当化してやるのが正しい詐欺のやり方だ。


「じゃ、じゃあ……本当にいいんだね?」

「もちろんです。私の胸は、この薬を取り扱い始めた五年前に、一年でFカップにまで成長しました」

「せ…………『精霊の審判』……っ!」


 腕を真っ直ぐに伸ばし、私を指さす赤髪の少女。

 途端に、私の全身が淡い光に包まれる。

 ……何度経験しても緊張する。絶対に大丈夫だと分かっていたとしても、ね。


 数十秒が経過し、やがて私を包んでいた光は消失する。

 もちろん、私はカエルになどなっていない。


 当然だ。嘘など吐いていないのだから。


 私の胸は、この商品を取り扱うようになった五年前、一年間で急に大きくなったのだ。……この薬とは全く関係はないけれど。

 五年前、私は十三歳だった。成長期というヤツなのだろう。私の身体はあっという間に女性らしく変貌し、胸も大きくなった。

 たまたま、この薬を使った詐欺商法をやり始めた時期に成長期が来た。それだけだ。

『この薬のおかげで胸が大きくなった』なんて、私は一言も言っていない。勘違いしたのは、この赤髪の方だ。


「す……すごい薬に、出会ってしまった…………」

「一期一会という言葉があります。出会いはどれも特別で、そして、二度とその出会いはやり直せない」

「いちご……いちえ?」

「あなたの大切な人を思い浮かべてください。その人との出会いはどんなものでしたか? ……それは偶然で、けれど運命的な……とても素敵なものだったのではないですか?」

「……大切な人との…………出会い」


 突然、赤髪の少女の顔が赤く染まる。

 大切な人と言われ、惚れている男のことでも思い浮かべたのだろう。

 分かりやすい、実にいいカモだ。


 こういう乙女チックな女は、惚れた相手のことを多少強引にでも『運命の人』にしたがる傾向がある。理由づけを欲するからだ。

 高額の商品を買う時と同じように、自分の人生をかけるに相応しい相手であると結論づけるために、何かしら理由が欲しいのだ。

『運命の人である』……これ以上に強固な理由はない。故に、その理由を欲しがる。


 今、赤髪の少女の頭の中では、その男との出会いがリプレイされていることだろう。

 おそらく、どうということのない普通の出会いだったはずだ。

 だが、「もしあの日、自分があの場所に行かなかったら……」「もし、声をかけなかったら……」などと、ありもしない「if」を並べ立て、「これだけの偶然が重なって出会った二人は……これはもう運命に違いない」と錯覚を起こす……

 そこで、もうひと押し……


「どうでしょう。この偶然を、運命と思って……おひとつ、いかがですか?」


 惚れた男と、この胡散臭い……もとい、赤髪の少女にとっては『希望の薬』か……この薬を同列に持ってくる。

 これで赤髪の少女の中では、この薬が惚れた男と同じくらいに価値のあるものへと置き換えられる。

 ……そうなれば、結果は火を見るよりも明らか…………


「分かった。全部もらうよ。全部で二十個…………でぃ、Dカップくらいには…………もしかしたらEカップも夢じゃないかも……っ!?」

「全部……で、よろしいのですか?」

「うん! 全部もらうよ!」

「ありがとうございます! あなたの夢が叶うことをお祈りいたします」


 そして、購入後も、我に返りにくくする『呪文』をかけておく――


「夢が叶い、運命の男性があなたの魅力に振り向いてくれると、いいですね」

「う、運命の…………っ!?」


 やっぱり、まだ振り向かせてなかったか。

 これだけ奥手だと望み薄かもしれないな。ま、知ったこっちゃないけども。


「大きな胸は、女性の魅力の一つですから……」

「だ、……だよね?」

「それ以外が揃っているあなたなら、……どんな相手でもイチコロ、かもしれませんよ」

「そ、そんな! 全部揃ってるなんて…………やだなぁ、もう! 冗談ばっかりぃ~!」


 はい。呪文発動。

 これで、今日一日くらいはずっとのぼせたまま、夢うつつでメルティ気分だ。存分にとろけていればいい。


 浮かれた表情で代金を一括払いしてくる赤髪の少女。

 まとまったお金を持ち歩いているようだ。……もっと吹っかければよかったか……

 一本1000Rbで売ってやろうと思ったのだが、なんとこの赤髪の少女は二十本全部くれと言ってきた。合計で2万Rb……入門税やタダ同然の材料費、旅費諸々を差し引いても……ふふふ、ぼろ儲けだ。

 やっぱり、詐欺師はやめられない。


 赤髪の少女が騙されたことに気付くのは、全部の薬を消費した後だろう。

 その頃にはもう、私は街にはいない。見つけ出して『精霊の審判』をかけようにも、私がこの街にいなければどうにも出来まい。

 そもそも、私は「胸が大きくなる可能性がある」としか言っていない。どんなに質問をされても、上手くかわし、一言だって「この薬を飲めば胸が大きくなる」とは発言しなかった。

『精霊の審判』は、その仕組みを理解していればいくらでも回避出来る。それに気付いていないのは、この街の住民だけだ。


 精々、わくわくして飲み続けるがいいわ。そのなんの変哲もない『粉末キノコ』を。

 私の町では腐るほど採れるただのキノコ。まぁ、薬の材料にもなるし『薬』と表現しても嘘にはならない。食べても死ぬわけじゃない。

 だから、私を罰することなんて、誰にも出来ない。

 そう、誰にもね…………うふふ。


「あれぇ、エステラじゃない?」

「「――っ!?」」


 突然、私の背後から声がして、私も、そして赤髪の少女も揃って肩を震わせた。

 ……誰よ、このいかにも密談してるって雰囲気の中話しかけてくる空気の読めないヤツは!?


 顔でも見てやろうと振り返ると…………ニワトリがいた。


「ひっ!?」

「あら、なぁに? 失礼な人ね」

「あ……ご、ごめんなさい……きゅ、急に声をかけられたから、ビ、ビックリしちゃって……」

「あ、そういうことだったの? ごめんなさいね。驚かしちゃって」


 ニワトリ顔の……少女? ……は、にこりと笑って私に会釈する。……笑って、る、よね?


「ネ、ネネネ、ネフェリー!? ど、どどどど、どうしたんだい、こんなところで!?」

「卵を届けに来たのよ。ここでもケーキを売り始めたの、知ってるでしょ?」


 どうやら、赤髪の少女とこのニワトリは知り合いらしい。

 赤髪の少女は必死に小瓶を掻き集め、ニワトリから隠そうとしている。


「あら? その小瓶はなぁに?」

「なんでもない! なんでもないよ!」


 大焦りの赤髪が、自分から「何かいわくありげな物品です」と宣伝している。

 ……この娘、本当にダメな娘だ。


「美容にいいお薬ですよ。彼女ほどオシャレな女性は、他国の物を率先して取り入れるものなのですよ。ねぇ?」

「そ、そう! そういうことなんだ!」

「へぇ~。ねぇ、私にも分けてよ。最近肌荒れが酷くてさぁ」


 見えないじゃん肌! 羽毛で!


「ダ、ダメ! ダメだよ! これは、その……っ!」

「彼女のためにお持ちした物ですので、肌に合わない可能性があるんです」


 可能性なら、嘘にはならないはず。

 あと、『彼女( のようなチョロいカモ )のためにお持ちした物』なので、こっちもセーフだろう。


「あ、そうなの? じゃあ、無理ね。諦めるわ」

「…………ほっ」


 赤髪の少女が安堵の息を漏らす。

 この娘……そばに詐欺師がいたら毎日騙されまくりになるだろうな。


「まぁ、エステラもそういうの使ってるって知って、ちょっと安心しちゃった」

「え?」

「だって、いっつも男みたいな格好してるからさぁ。折角美人なんだし、もっと女を磨いて、私みたいに女の子っぽくならなきゃ」


 ……って、オイ。ニワトリ!


 どこから湧いてくる自信なのかは知らないが、ニワトリが物凄いドヤ顔をしている。

 なんかイラッてする。


「あら。あれってレジーナじゃない?」

「え?」


 ニワトリが窓の外を指さし、通りを歩く一人の女性に視線を向ける。

 全身真っ黒な服を着て、俯き加減に道を歩いている。……なんとも陰鬱な女だ。


「お~い! レジーナ!」

「なっ!? なんや!? 誰や、ウチを呼ぶんわ!? 敵か!? イジメか!?」

「私だよ、わ・た・し」

「あ~、なんや。ニワトリさんとこのニワトリちゃんやないかぁ」

「ネフェリーよ! 名前覚えなさいって言ってるでしょ!?」

「堪忍、堪忍って」


 変な言葉を話す女だ。

 窓越しにニワトリと話し、どうやら店内へ入ってくるようだ。

 ……そろそろ退散するか。人が増えれば、嘘を吐かなければいけなくなる可能性も高い。


「それじゃあ、私は、この辺で……」

「あ、待って!」


 赤髪の少女が、立ち上がりかけた私を引き留める。


「これから来るレジーナって娘は、四十二区の薬剤師なんだけど……」


 薬剤師っ!?


「この薬の製法を教えてもらうことは出来ないだろうか? 報酬は存分に払うよ! この薬を必要としている人は、きっとたくさんいると思うんだ! どうかな?」

「え、いや……あの…………」


 マズい。

 薬剤師に調べられでもしたら……すぐにはバレなくてもいつかは露呈する。

 いや、待て待て。落ち着け、私。ここで取り乱しては怪しまれてしまう。

 落ち着いて、冷静に……


「女性の悩みを解消して差し上げたいのは山々なのですが……この薬の製法は秘匿なのです。ご了承ください」

「まぁ、それはそうか。ごめんね、変なことを言って」

「いえ。それでは、私はこれで……」

「うん。気を付けて。いい出会いをありがとう」

「いえ。こちらこそ」


 深々と頭を下げて、席を辞する。

 店内で件の薬剤師とすれ違う…………いくら薬剤師と言えど、一目見てそれが何かまでは分かるまい。成分を分析しようにも、一週間はかかるはずだ。

 それまでにこの街を出てしまえばいい。焦る必要はない。


「あれ、なんやのん、この小瓶?」

「エステラが、旅の商人から買った薬なんだって」

「そうなん? ちょっと見せてんかぁ?」

「あぁ、いいけど、丁寧に扱っておくれよ! 高かったんだからね!」


 そんな会話が聞こえてくる。

 けれど、私の勝利は揺るがない。


 私は颯爽と外へ出て、大通りを進む。

 もうここには用はない。


 仕事が終われば、もう一つの目的を果たすだけだ。


 四十二区の入り口にある乗り合い馬車の停留所へ向かう。

 ちょうど、馬車が来たところのようだ。


「ウェンディ、足元に気を付けて」

「ありがとうセロン」


 馬車から一組のカップルが降りてくる。

 男の方は目を見張るようなイケメンで、女の方は地味だ。よくもこんな地味な女があんないい男を掴まえたものだ。私の方が断然いい女だろうに。胸も私の方が大きいし。

 …………奪ってやろうか?


 いや、そこまで行かなくとも、多少は波風を立ててやる。……ふん。世のカップルどもは死滅してしまえばいいのだ。


 私は、ワザと躓き、イケメンに抱きついた。


「きゃっ!」

「わっ……と! だ、大丈夫ですか?」


 受け止め方、無駄に体に触れない配慮、合格!

 心配そうな瞳、合格!

 よし、ご褒美に私の胸を押しつけてやろう。……むぎゅ。


「……っ!」


 気が付いたようで、イケメンが頬を染め、視線を逸らす。

 その初心な反応…………合格っ!


「す、すみません。躓いてしまって」

「そ、そうですか。お怪我はありませんか?」

「はい……」


 と、胸を押しつけたまま地味女の方へと視線を向ける。勝ち誇った表情でだ。

 ここで女を怒らせれば怒らせるほど、その怒りは彼氏へと向かう。

「あんな女にデレデレして!」と……ふふ。彼氏の方も、ただ人助けをしただけで怒られては気分が悪い。当然言い返すだろう。それが火種で大喧嘩になればいい。

 カップルは、死滅しろ。


 と、思ったのだが……


「気を付けてくださいね。さぁ、お手を」

「……え?」


 呆気にとられるほど、穏やかな笑みを浮かべて地味女が私に手を差し出してきた。


「あ、……ど、どうも」


 手を引かれ、ゆっくりとイケメンから引き離される。

 そうか。笑顔で怒りを隠し、あとで爆発させるタイプか……なら。


「素敵な彼氏さんですね」

「はい。そうなんです」


 ……肯定しやがった。だったら。


「こんな優しい彼氏さん、いいなぁ……私、ちょっと好きになっちゃったかも」

「はい。分かります。そのお気持ち、よく分かりますよ」


 ……理解しやがった!?


「セロンって、本当に優しくて素敵で……どうして私なんかと一緒にいてくれるのか、本当に謎なくらいで……」

「そんなことないよ、ウェンディ! 僕が蝶なら君は花。僕がカブトムシなら君は樹液なんだ!」


 ……樹液?


「夜が明け朝が来るのが必然であるように、僕が君に惹かれるのもまた必然なんだよ」

「セロン……嬉しい」

「君の輝きに魅せられた僕は……光に集まる蛾と同じなのさ」

「蛾…………素敵」


 うん。この二人おかしい。

 よし、もう関わるのはよそう。


「じゃ、私はこれで」


 あほらしくてやっていられない。

 やっぱりカップルは死滅しろ。


「四十区までお願いね」

「はいよ。四十区に行くなら喫茶ラグジュアリーがおすすめだよ。美味いケーキを出してくれるんだ」

「知ってるわ。もとより、そこに行くつもりだから」

「お客さん、通だねぇ」


 馬車に乗り込み御者と会話を交わす。

 そういえば、さっきのカンタルチカって酒場でもケーキを取り扱うようになったとか言っていたが……どうせ劣化コピーに違いない。


 私は、この街でしか食べられない、本物のケーキに魅了されているのだ。

 初めて食べたあの日から……っ!


 そういうわけで、仕事を終えた私は、もう一つの目的であるラグジュアリーのケーキを食べに四十区へと向かった。

 それが済めば、こんな面倒くさい街とはおさらばだ。

 また数ヶ月後に詐欺りに来てあげるわよ。じゃぁね、四十二区。そして、お人好しの赤髪のお嬢さん。



 ゆっくりと馬車が動き出し、私は勝利の余韻を味わいつつ四十二区を後にした。







 ――一方、その頃のカンタルチカ。


レジーナ「ん? これ、薬やないで」

エステラ「えっ!?」

レジーナ「これ、ただ乾燥したキノコを粉末にしただけやな」

エステラ「そんなっ!? まさかっ!?」

レジーナ「あんた、騙されたんと違うか?」

エステラ「で、でも…………『精霊の審判』は発動しなかったし……とにかく後を追わなきゃ!」

レジーナ「もうおらへんやろう。……逃げた後や」

エステラ「…………そんな」

ネフェリー「ねぇ。ヤシロに相談してみたら?」

エステラ「ヤシロに……?」

ネフェリー「会話記録カンバセーション・レコードを見せて、詐欺の手口を見破ってもらうのよ。ヤシロ、そういうの得意そうじゃない。ほら、割とさ……頼りになるっていうか? 頭とか……ちょっといい感じじゃない? だからさ」

エステラ「か……会話記録カンバセーション・レコードを、見せるの、かい?」

レジーナ「なんや? 見られるとマズいことでもしゃべったんか?」

エステラ「…………」

レジーナ「まぁ、その恥ずかしさと、騙し取られた金額、騙された屈辱を天秤にかけてどっちが重いかっちゅうことやな」

エステラ「…………あぁ、もう! ヤシロに会いに行ってくる!」

ネフェリー「そう来なくっちゃ!」

レジーナ「ほなら伝えてんか。この小瓶の中身は乾燥キノコの粉末。体に効きそうな成分は食物繊維だけや……ってな」

エステラ「分かった」

ネフェリー「でも、見ただけでよく分かるわね、成分まで」

レジーナ「ウチの目ぇな、ちょっと特別製やねん」

エステラ「二人とも、ありがとう! じゃあ、行ってくる!」


 ――エステラ、カンタルチカを出て陽だまり亭へ。


エステラ「ヤシロッ!」

ヤシロ「どうした。『おっぱいが大きくなる薬~』とかいう胡散臭いもんを騙されて買っちゃったよ~、みたいな顔して」

エステラ「なんで分かるのさっ!?」

ヤシロ「え…………マジか? いつかそういう目に遭いそうだなぁ~ってつもりのギャグだったんだが…………」

エステラ「…………どうやら、そのいつかが……今日だったみたい」

ヤシロ「…………お前なぁ」

エステラ「だ、だって! 昼間にあんな話をしてたから……っ!」

ヤシロ「食い物で胸を大きくするってやつか?」

エステラ「……うん」

ヤシロ「とりあえず、事情を話せ。あと、会話記録カンバセーション・レコードを見せろ」

エステラ「み、見せるけど……笑わないでね?」

ヤシロ「心配するな! 大爆笑してやる!」

エステラ「あぁ、もう! どうとでもなれだ!」


 ――事情説明中


ヤシロ「……典型的な手口に嵌りやがって」

エステラ「……面目ない」

セロン「こんばんは」

ジネット「あ、セロンさん。ウェンディさんも。いらっしゃいませ」

セロン「あ、今日は食事ではなくて、ウェンディの発光塗料を落とす薬をいただきたいなと思いまして」

ジネット「あ、はい。レジーナさんが置いていってくださったのでありますよ。少し待ってくださいね」

ウェンディ「ご迷惑をおかけします」

マグダ「……また光ってる」

ロレッタ「まだ薄暗い程度ですのに、煌々と輝いているです」

ウェンディ「……すみません」

ヤシロ「――つまりまとめると、茶髪で髪の長い、おっぱい『ドーン』で太もも『ぷりーん』な美少女ってのが犯人の特徴なんだな」

エステラ「……その通りなんだけど……もっと細かく説明したのに、なんでそこだけピックアップするのかな……」

セロン「英雄様」

ヤシロ「よう、セロンとお釈迦様」

ウェンディ「ウェンディですよ、英雄様!?」

ヤシロ「いや、強烈に後光が差していたから、つい、な」

セロン「あの、今話題に上がっていた女性なんですが?」

ヤシロ「ん? 詐欺師のことか?」

セロン「詐欺師だったのですか!? 僕たち、その女性を見ました」

エステラ「本当かい!? どっちに向かったか分かるかい!?」

セロン「馬車に乗って四十区へ……確か、ラグジュアリーでケーキを食べると話していました」

エステラ「よぉし! だったら早速乗り込んで……!」

パウラ「ねぇ! ヤシロいる?」

ヤシロ「パウラか。どうしたんだ?」

パウラ「さっきね、茶髪で髪の長い、おっぱい『ドーン』で太もも『ぷりーん』な美少女がカンタルチカに来たんだけど」

エステラ「ヤシロと同じ感性なのかい、君は……」

パウラ「お代はこれでって、渡されたんだけど」

ヤシロ「……マーシャのサインだな。マーシャに請求するのか?」

パウラ「うん、そうなると思う」

マーシャ「え~! なんでカンタルチカから請求が来るのぉ?」

パウラ「あ、マーシャ、来てたんだ」

マーシャ「ここのケーキ美味しいから、居座っちゃってま~す!」

ヤシロ「心当たりはあるのか?」

マーシャ「うん。その、茶髪で髪の長い、おっぱい『ドーン』で太もも『ぷりーん』な美少女に渡したんだけど……ムムお婆ちゃんにしみ抜きしてもらうための料金を立て替えるって話だったんだけどなぁ」

ヤシロ「……お前も詐欺られたんだな」

マーシャ「え~……どうしよ~」

デリア「行き先と人相が分かってんなら、とっつかまえて弁償させようぜ!」

ヤシロ「だが……会話記録カンバセーション・レコードを見る限り……全額取り返すのは難しいかもしれんぞ。決定的な嘘が見つからない」

エステラ「だって、この薬は偽物なんだろう!?」

ヤシロ「相手が『胸の大きくなる薬だ』と明言してないんだよ。エステラがそう思い込むように誘導はしているがな」

エステラ「そんな……じゃあ……」

ヤシロ「だから、こっちも同じことをやり返してやろう」

エステラ「え?」

ヤシロ「ふふふ……ヤシロ劇団、第二公演開幕だ」



 ――ヤシロのテリトリーで詐欺を働いた異国の詐欺師……彼女の運命やいかに…………続く。







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