448話 乙女とは
「出来ました」
と、ジネットが新作のスムージーと出来たてのぬいぐるみを持って厨房から出てくる。
「って、その二刀流は無理があるだろう!?」
裁縫と料理の両立は、さすがに人智を超え過ぎている!
「スムージーは口を出しただけですので」
そう言って、俺の目の前に小さな湯呑みを置く。
軽く茶を飲む時に使う、陶器の湯呑みだ。
「量を少なくしてありますので、ヤシロさんも召し上がってみてください」
小さな湯呑みに入れられたスムージー。
オシナの試作品よりも、鮮やかな緑色になっている。
「じゃ、遠慮なく」
くぴっと飲み干すと――
「美味ぁ……」
舌触りも柔らかく、まろやかな甘みと爽やかな香りが口の中に広がって、すっと消えるような軽い後味だった。
「店長ちゃん、やっぱり天才なのネェ~。ちょっとした一手間でこんなに美味しくなるなんて、ビックリネェ~」
一手間……じゃ、ないんだろうな、きっと。
オシナに再現できる範囲の一手間なんだったら、それを取り入れて他所に負けないスムージーを提供してやればいい。
また素敵やんアベニューに行くこともあるだろうし、美味いものが増えるのはありがたい。
「あ~、今日は来てよかったなのネェ~。すっかり長居しちゃったネェ」
と、ジネットが作った俺のぬいぐるみを手に取って、まじまじ見つめて、ニッコリとジネットに微笑みかけて、懐にしまう。
「こら」
「あ、バレちゃったのネェ」
目の前でくすねといて、バレるも何もないだろうが。
「こういうの、いつかお店で売られるのネ?」
「そうだな。各区の領主が賛同したからそのうちそういう店が出来るだろうよ」
「……四十一区にも?」
それは、どうかなぁ……リカルドだからなぁ。
こういう可愛い系のアイテムに興味なさそうなんだよなぁ、あいつ。
「メドラに言えば、リカルドの尻を叩いてくれんじゃないか?」
「メドラちゃんに叩かれたら、領主ちゃんのお尻、割れちゃうのネェ~」
くすくすと笑うオシナ。
ただな、お尻はもう割れてんだぜ☆
「暗くなる前に帰れよ。さすがに四十一区までは送っていけないからな」
「ウフフ~。ダーリンちゃんは紳士さんなのネェ~」
オシナの見た目は、はんなり美女だからな。
危ない目に遭いかねない。
中身は、結構したたかなんだけど。
そんな見た目的にか弱そうな美女を、暗くなる前に帰そうと思っていたら、最強のボディーガードが陽だまり亭にやって来た。
「あぁ、やっぱりここにいたのかい、オシナ」
「メドラさん。ようこそ陽だまり亭へ」
最強の狩人メドラがオシナを迎えに来たらしい。
「今日は朝からずっと店が閉まってたからね、これはきっと四十二区に行って迷惑かけているに違いないと思ったら、案の定だったね」
「迷惑なんてかけてないのネェ。ねぇ、ダーリ……店長ちゃん☆」
「はい。全然迷惑なんかじゃありませんでしたよ」
一回、俺に振ろうとして止めたなぁ。
俺に振られてたら、迷惑だったって言ってやるつもりだったのに。
察しのいいお姉さんだこと。
「ん? オシナ、何を持ってるんだい?」
と、オシナの手に握られていた俺のぬいぐるみを手に取って、まじまじ見つめて、ニッコリとオシナに微笑みかけて、懐にしまう。
「こら」
「あ、バレちまったかい?」
思考回路おんなじか!?
親友だからお揃いがいいって?
やかましいわ!
「なんだいこれは? 物凄く可愛い、いや、愛おしいじゃないか!」
なんで言い直した。
「もう一度光の行進をすることになりまして、その時身に着けておこうと思って作ったお守りなんです」
「……マグダたちみんなでつける、お揃いのお守り」
いつの間にお守りになったんだ、それ?
絶対ご利益ないぞ。
「そうなのかい? はぁ~、しかし、可愛いねぇ」
「もしよろしければ、メドラさんの分も作りましょうか?」
「いいのかい!?」
「はい。一つも二つも変わりませんから」
いや、変わるだろう。
料理はそうかもしれんが、ぬいぐるみ作りは確実に工数が二倍になるからな?
「ちなみに……ダーリンは、いいのかい? その、アタシがダーリンのぬいぐるみを持っていても」
もじもじとおどおどの中間のような表情で俺を見るメドラ。
ドニスがマーゥルにそっくりぬいぐるみを贈った時、メドラもあの場所に居合わせたから変に意識しちまってるんだろう。
「どうせ、そのうち一般販売が始まるんだ。誰が誰のぬいぐるみを持とうがそれを咎められるヤツはいないだろ?」
「……通訳すると、『そんなこと気にしなくてもいい。イヤなわけないだろ』という意味」
「随分とポジティブに解釈したなぁ、マグダ」
「わたしにも、そのように聞こえましたよ?」
くすくす笑うな、ジネット。
そのように聞こえたことが、イコールそのような意味で言ったとは限らないだろうが。
「まぁ、あんまり見せびらかさないでくれると助かる。……変な宗教を信仰してるヤツが多いんでな」
「ダーリン教だね。分かった、こっそり肌身離さず持っておくよ」
と、言いながら、手に持った俺ぬいぐるみをオシナに返す。
「これは、アタシんじゃないからね」
律儀なヤツだな。
まぁ、オシナのでもないんだけどな。
「メドラさんも、お人形やぬいぐるみがお好きなんですか?」
「あぁ、実はね。似合わないって分かってるから、大ぴらには言ってないけどね」
「メドラちゃん、乙女だからネェ~」
乙女というと、金物ギルドの連中が真っ先に思い浮かぶようになっちまったが……『乙女』の定義を見失いそうだよ、この街にいると。
「ナニセ、精霊神様に認められた、正真正銘の乙女だからネェ~、メドラちゃんは」
「もう、その話はやめとくれよ。何回する気だい」
ちょっと、メドラが照れている。
この二人の中では定番のネタなのだろう。
しかし、精霊神が認めた乙女とは?
「聞かせてくれるか?」
「もう、ダーリン……恥ずかしいんだよ、言われる方は」
「じゃあ、鼓膜破っといていいぞ。話が終わるころには回復してるだろうし」
「そこまで驚異的な回復力は持ってないよ、さすがにね」
そこまでとはいかずとも、驚異的な回復力は持ってそうな言い方だな。
……持ってそうだなぁ。
「昔ネ、狩猟ギルドは男の世界だったのネ」
狩猟は男の世界。
そこに飛び込んできた女は男として扱う。
それが嫌なら家で内職でもしていろ!
そんな風潮が蔓延していたと、オシナは言った。
そこへ飛び込んでいったメドラ。
当然のように目を付けられ、いろいろとやられたらしい。
音を上げて、自分から辞めるようにと仕向けるが如く。
ところが、さすがはメドラだ。
折れるどころか、そこらの男をどんどん抜き去って、メキメキと頭角を現していった。
狩猟ギルドの最強女狩人。
その名は、狩猟ギルドにとどまらず、この国中に轟いた。
そんな有名人が出てくると、それに憧れる者が出始める。
狩猟ギルドに入る女性が徐々に増えていったそうだ。
しかし、相変わらずギルド内は男社会。
狩猟ギルドに入った女は男として扱うという考えはなくならなかった。
「そんな時、一ヶ月ほど森に籠もることになったんだ。寝泊まりも食事も男連中と一緒にしなけりゃいけなくて、それはまぁそこまで問題なかったんだが……水浴びは看過できなかった」
狩猟ギルドの男たちが、「ギルドに入った女は男と同じ」という考えを持ち出して、女狩人と一緒に水浴びをしようとしたらしい。
要するに、風呂を覗きたかったんだろうな。
「男として扱うなんて言いながら、スケベ心が丸見えで、『あんたらは男の裸にもそんな風に鼻の下を伸ばすのかい?』って、その矛盾点をついてやったんだが、当時のギルド長は意見を曲げなかった」
メドラは、自分は我慢できても、自分より弱い者が我慢を強いられるのは見過ごせないヤツだ。
「乙女の肌を盗み見ようなんて卑劣なヤツが、男を名乗るな!」と、メドラは男どもを一喝したらしい。
そこで、ギルド長と完全対立してしまったという。
それで、当時のギルド長がメドラに向かってこう言ったのだそうな。
「どこに乙女がいる!? まさかお前か? ぎゃはは! 嘘を吐くと『精霊の審判』をかけるぞ!」
――と。
ロクでもねぇクソジジイだな。
「それで言ってやったのさ、『アタシは誰がなんと言おうと乙女だ! かけられるもんならかけてみやがれ!』ってね」
「そしたらぁ、おジイちゃん、本当にかけちゃって」
「マジか!? メドラ、お前大丈夫……だったから、今ここにいるんだよな」
そりゃそうだよ。
ちょっと取り乱しちまったぜ。
「ウフフ~、ダーリンちゃん、心配してくれたネェ~、よかったネェ~、メドラちゃん」
「う、うるさいねっ。あんたはちょっと黙ってな」
オシナの頭を軽く叩いて――そんな微調整できるんだ!?――メドラは赤く染まった頬を隠すようにそっぽを向いて話を続ける。
「でまぁ、それが外部に漏れて。狩猟ギルドは女性差別と亜人差別を容認するのかって大問題になってねぇ」
「メドラちゃんは穏便に済まそうとしたんだけどネ? 他の女の子ちゃんたちが怒り狂ってネェ~。統括裁判所に直行しちゃったのネェ」
マジか!?
すげぇな、当時の女狩人!?
「……メドラママに危害を加えたのが許せなかったのだと思う。もしその時代にマグダがいても、同じことをした」
それで、そのギルド長は失脚。
貴族だったらしいがその件でお家取り潰しになったらしい。
「それからしばらく、メドラちゃんは、『精霊神様に認められた正真正銘の乙女』って周りから言われてたのネェ~」
「精霊神の判定はガバガバだな」
「……乙女とは、見た目や年齢ではなく、心の純粋さで測るもの」
いや、見た目も年齢も重要だと思うが……
「じゃあ、金物ギルドの乙女も?」
「……もちろん、正真正銘の乙女。精霊神も、きっとそう認める」
なんでもありだな、精霊神。
それで心が広いつもりか?
判定が雑なだけだっつーの。
まぁ、『乙女かどうか』なんて、判定のしようがないけどなぁ。
「そういや、メドラの前のギルド長って、獣人族じゃなかったっけ?」
「そうだよ。貴族だったクソジジイがお家取り潰しになって、そこまで積み重ねてきた狩猟ギルドの名誉や評判なんてものが地に落ち果ててね」
「ダッテダッテネェ? 王族と教会が人種や性別による差別はよくないって言ってるのに、それに真っ向から反対するようなことしちゃったら、そりゃあ問題になっちゃうのネェ」
それはそれで、面子の問題ってところか。
いろんなヤツの話を聞く限り、全然なくなってなかったぽいけどな、そーゆーの。
獣人族を忌避する貴族も、女が働けない職場も、まだまだいっぱいあるだろうに。
「女の子ちゃんたちが働ける環境づくり、メドラちゃんは頑張ってたんだけどネェ」
「結局、ダーリンの力を借りるまで、根本的な改革は出来てなかった。まったく自分の無力さを嘆くやら、あっという間に改革してみせたダーリンの手腕に惚れ惚れするやら……ん~っもう、ダーリン好きっ!」
急にデカい体を揺すらないで!
びっくりするから!
「獣人族や虫人族に対する世間の目も、ウェンディたちの結婚パレード以降大きく変わった。まったく、すごいとしか言いようがないよ、ダーリンは」
「それは結果論だ」
俺は別に、「差別をなくそー」なんて運動を起こしたわけじゃない。
自分に都合がいいように近場の人間を操っていたら、関係ない連中が勝手な解釈でそうなるように動いていただけだ。
まぁ、性別や種族で仕事にあぶれるようなヤツがいない方が、経済は回るし、経済が回ると詐欺師の頬も緩むってもんだ。
「そうですね」
だからな、ジネット。
何も言ってない俺の顔を見て、勝手に返事寄越してくるのやめてくんない?
「今じゃ、ウチの若い女連中は堂々と『私は乙女だ!』って公言して女性の権限を主張しているからね」
「女性の権限って?」
「お手洗いの改革と、水浴び場のセキュリティ強化。あと、防具にちょっとしたワンポイントを入れる許可が欲しいっていう嘆願書も出てたねぇ」
仕事に支障が出ない範囲でなら、メドラはそれらの要望を聞き入れてやるつもりらしい。
まぁ、防具に可愛いアップリケを縫い付けるくらい、なんの問題もないだろうしな。
「もちろん、男どもの要望も聞いてやってるよ」
「水浴び場を快適に覗ける休憩スペースの設置とかか?」
「がはは! そんなふざけたことをこのアタシに直訴できる豪胆な男がいるなら、話くらいは聞いてやるさ! 一対一でね」
わぁ、それもう死刑宣告と同じじゃん。
メドラから覗き可能休憩スペースを勝ち取れる猛者は、この先一生現れないだろうな。
「そして、これが、メドラちゃんのところの女の子ちゃんたちに喜ばれるアイテムになると思うのネェ」
と、ジネットと二人で作ったスムージーを差し出すオシナ。
「これが、かい? ……色味の悪い飲み物だね」
「でも、と~っても美味しくて、美容にもいいって、ダ~リンちゃんのお墨付きなのネェ」
「ダーリンが言うんだったら間違いないね」
言って、一気にスムージーを飲み干す。
「美味しいじゃないか! アタシの好きな味だ」
「デショデショネェ~☆」
メドラも野菜好きだからなぁ。
オシナの味覚に近いんだろう、きっと。
「これ飲むと、お肌がツヤツヤになるのネ」
「そうかい。確かに、ちょっと肌にハリが出てきた気がするね」
気のせいだよ。
そんな即効性はない。
……薬の効果を何十倍にもして引き出す異能とか持ってないだろうな?
メドラならあり得るから、怖い。
まぁ、スムージーは薬じゃないけども。
「……メドラママの改革で、狩猟ギルドには乙女が増えている」
メドラが陽だまり亭に来てから、マグダが俺たちのそばから離れなくなった。
本当に尊敬してるんだな、メドラのこと。
ずっと嬉しそうに尻尾が立っている。
「乙女と言えば、輪投げの投げキッス女子だな」
「ふふ、とっても照れ屋さんな、可愛らしい方でしたね」
「あぁ、ティリュテュか! あっはっはっ!」
メドラが大声で笑う。
そういえば、俺たちが輪投げに行った時、メドラも店にいたんだよな。
……そして、辺り一帯を焦土と化す投げキッスという名のリーサルウェポンを……思い出しただけで全身が震える。
忘れた過ぎて震える……
「魔獣相手にはなかなかのもんだが、男相手だとてんでダメになっちまうんだよねぇ、あの娘は」
「……ティリュテュは、本部の女狩人の中でも注目株。何かあった時は頼るといい」
ほぉ。
マグダがそこまで勧めてくるとは。
実力があるんだな、ティリュテュって女狩人は。
名前が言いにくいってのが難点だが。
「……狩りからの帰り道、ちょっと恋愛方面でからかうと真っ赤になって、そのギャップに萌える」
「お前の推薦理由、随分と偏りを感じるんだが、それでいいのかマグダの指針は?」
俺、別に狩人に萌え要素求めてないから。
「素敵やんアベニューのおかげで、本部の中はこれまでにないくらい乙女が溢れ返っているよ。……くくっ。窓辺にドライフラワーを飾る娘が増えてねぇ。一瞬、生花ギルドかと見紛うほどさ」
戦いの中に生きる女狩人たちも、可愛いものとおしゃれが好きな女子だってわけか。
「野郎どもの反応はどうなんだ?」
「両極端だね。綺麗になった娘たちにデレッと鼻の下を伸ばすヤツもいりゃあ、女心が分からずぶっ飛ばされてるヤツもいる」
わぁ、後者のリカルド感。
「テメェに、花なんか似合いもしねぇ!」とか言って、ぶっ飛ばされてる筋肉が容易に想像できる。
「ただ、ニオイを付け過ぎて森へ連れて行けなくなった娘たちがいてね、そこは厳しく叱ってやったよ」
「……森の中でこちらの居場所が気取られるのは、命を危険に晒す行為。おしゃれと仕事は分けなければいけない」
「その点、マグダは大した娘だよ。普段はとってもおしゃれさんなのに、仕事の時は花の匂い一つさせていない。こんな小さいナリだが、中身は一人前の狩人さ。ウチの連中にも見習わせたいね」
「…………むふん」
メドラに頭をぽんぽんと撫でられ、マグダは満足そうに鼻を鳴らす。
尻尾がぞわりと毛羽立っているから、かなり嬉しかったんだろうな。
鳥肌立っちゃってるぞ。
「ところで、あんたにも話したいことがあるんだが、いいかいレジーナ?」
「いゃん。話しかけられんように存在感消しとったのに、気付かれてもぅた」
お前、本当に存在感消してたよな。
一言もしゃべらず、物音一つ立てず、そろ~っとオムライス食ってたもんな。
美味かったか、ジネット特製オムライス(名前つき)。
「あんたには、いつか改めて礼が言いたいと思っていたところさ」
「感謝されるようなこと、なんかしたやろか?」
「あんたにとっちゃ普通のことなのかもしれないが、その普通が、アタシらには何物にも代えがたい安心に繋がってるってことさ」
メドラがレジーナの目の前の席に座る。
あ、ロレッタ。
今、二回ほど「普通」ってワード出てきたけど、お前のことじゃないから。カンパニュラたちと一緒に片付けでもしてて。
そわそわしなくていいから。大丈夫だから。
「あんたの薬で救われた者が大勢いる。アタシやマグダもその一人さ。あの時の大火傷、今じゃ見る影もない」
メドラとマグダは、ウィシャートが嗾けた暴漢によって腕に火傷を負ったことがある。
正確には、薬品を浴びて爛れたんだが。
その傷跡は、レジーナの用意した薬のおかげで綺麗さっぱり消えてなくなっている。
今じゃ、どこを怪我したのかすら分からないほどだ。
それ以外でも、狩猟ギルドなんて危険な仕事をしていると、薬の世話になるようなことが多いのだろう。
メドラの目に浮かんでいるのは、純粋な感謝。
それも、心を込めて親愛の念を表してしまうほどの、深い感謝だ。
「あんたの薬は最高だ。あんたがいてくれて助かっている。これからも、よろしく頼むよ、レジーナ」
「な、なんや、こうまで褒められると、お尻むずむずするわぁ」
「え、……寄生ちゅ……?」
「ちゃうわ! アホか!? あ、アホやった」
なんだよ。
ケツがムズムズするとか言うから、ぎょう虫的な何かかと思っただけじゃねぇか。
「狩猟ギルドもそうだが、木こりも薬は薬剤師ギルドに乗り換えたって言ってたよ」
「毎度おおきにや。こっちこそがお礼言わなアカンわ」
レジーナの為人を知り、レジーナの薬の効力を知れば、他の薬に頼ろうなんて気は起きなくなるだろう。
おまけに安いからな、レジーナの薬は。
「あ、そういうのもあるかもな」
「あるって、何がや?」
俺の思いつきに、レジーナが食いつく。
だから、ほら、今問題になってる。
「薬師ギルドの嫌がらせだよ」
「あぁ……まぁ、確かに、こんな大口のお得意様を根こそぎ奪われたら、いっちょギャフンと言わせたろか思ぅんもしゃあないかもしれへんなぁ」
「なんだい? 薬師ギルドがどうかしたのかい?」
別に隠すようなことでもないので、メドラにも話しておく。
最悪、狩猟ギルドには警護や警備を頼むかもしれないからな。
「なんだい、それは!? とんでもない八つ当たりじゃないか!」
事情を聞くと、メドラは分かりやすく憤慨した。
「ふんがー!」
分かりやすい憤慨!
「ウチ、ふんがーて言う人初めて見たわ」
「まぁ、『ギャフン』よりかはいるんじゃないか」
「確かに、ウチも年二回くらいしか口にせぇへんわ」
「いつ口にしたんだよ?」
年二回は十分多いわ。
「まぁ、レジーナとダーリンが平気そうにしているなら、何かしらの手は打ってあるんだろうけれど」
俺たちのやり取りを見て、安堵したような呆れたような表情を見せるメドラ。
「もし、何か厄介なことが起こったら、いつだっていい、遠慮なくアタシたちに声をかけるんだよ。力になるからね」
頼もしくそう言って、メドラはオシナとともに四十一区へと帰っていった。
頼りになる背中だこと。
メドラが帰り、陽だまり亭の人口密度がぐっと下がった。
人数がどうとかより、体積という観点で見れば密度は明らかに下がっている。
なんなら、ちょっと気温が下がって肌寒く感じるくらいだ。
「ほなら、今度ギルド長はんにぎゅってしてあっためてもらい~ぃや」
縁起でもないことを言うな、レジーナ。
で、もうすっかりとオムライスを平らげたレジーナ。
今は、ジネットが出したお茶を飲んでほっこりとくつろいでいる。
ぼちぼち、夕飯目当ての客で店内が混み合ってくる頃合いか。
「レジーナ」
「なんやろか?」
「とりあえず、客間でいいよな」
「……は?」
まぁ、こいつの場合は誰かと一緒よりも、短い時間でも一人になれる方が落ち着くだろう。
「カンパニュラ。テレサと一緒に客間を整えてきてくれるか?」
「はい。お任せください」
「ししょー、ぬかぃなく!」
「ふふ。『仔細抜かりなく』ですよ、テレサさん。『師匠』ではありません」
カンパニュラがテレサの言葉を訂正しつつ、厨房へと入っていく。
客間の準備はあの二人に任せておけばいいだろう。
あっといけない。
「ジネット、すまん。許可を取り忘れてた。今晩――」
「はい。もちろん大歓迎ですよ」
「いや、ちょい待って。なんか、ウチ、泊まる前提で話進んでへんか、今?」
「あ、言い忘れてた。泊まってけ」
「言い忘れなや、そんなもん……」
困り顔で、レジーナが小さく呟く。
しかし、明確な拒絶ではなく、照れ隠しに似た感情による反論――まぁ、見透かされて恥ずかしいってところか。
「教会が動いてくれるまでは、とりあえず、な」
薬師ギルドが名指しで薬剤師ギルドにちょっかいをかけてきた。
それも、スパイまがいな女を寄越して情報収集をした後に、だ。
それは言うなれば、町中でその筋の人に「なに見とんじゃ、ワレ!?」と因縁を付けられたのではなく、名指しで呼び出され「オンドレ、最近調子乗っとるみたいやのぅ? あ?」と脅すような、そんな形の脅迫だ。
「連中も、この程度の提訴で薬剤師ギルドから何もかもを奪えるとは思っていないだろう。だが、連中がレジーナのレシピを欲しているというのも事実だろう」
どっちに転ぼうが、連中は自身に不利益が出ないように画策しているだろう。
そして、それ以上に「あわよくば」という欲望をその内に込めているに違いない。
「騒動のどさくさに紛れて、『自分たちとは一切関係ないですよ~』って顔をして、ゴロツキをけしかけてくる可能性は十分に考えられる」
はっと息を飲み、ジネットがレジーナのそばに立ち、その細い肩をぎゅっと握る。
さも、「絶対に渡さない」という意思を滲ませるように。
「しばらくここにいろ。それから、店に戻る時はマグダ、一緒に行ってやってくれるか?」
俺が行くよりも、遥かに安全で安心できる。
「……もとより、そのつもり。レジーナには、指一本触れさせない」
レジーナの置かれている立場を理解し、マグダが静かな闘志を滲ませる。
「ロレッタ」
「はいです!」
「お前も何か滲ませろ」
「何がです!? あたし、今、何を要求されたです!?」
いや、ジネットもマグダもなんか滲ませてたからさ。
ほら、三段落ちのオチ担当だぞ。
頑張って滲ませろ!
……ちっ、笑いの分からんヤツめ。
「レジーナ。ロレッタがテンポ悪くて、ごめん」
「何を謝ってるですか、お兄ちゃん!?」
「いいや、許さへん!」
「そんな笑いに厳しいキャラじゃなかったですよね、レジーナさん!?」
ロレッタの賑やかさに、店内の空気が少し軽くなった。
レジーナも嬉しそうに口元を緩めている。
ロレッタは、場の空気を温めることに関しては陽だまり亭随一の腕前を持っている。
得難い才能だ。
「まぁ、正直なとこ、な……」
そんな空気に安心したのか、レジーナが照れくさそうに正直な気持ちを語り始める。
「太陽の光が和らいで、『あ、こっから暗くなってくるなぁ』て思ぅた時、ちょっと怖ぁなってもぅてな」
夕闇はまだ遠く日も高い時間だったが、確実に迫りくる夜の気配に、レジーナは小さな恐怖を感じたのだ。
「そんで、陽だまり亭でご飯呼ばれたら、なんや楽しい気持ちになって、夜も安心して寝られるんちゃうかなぁ~思ぅて寄せてもろたんやけど……なんや、お邪魔したらしたで、帰るんが怖ぁなってな」
「困ったもんやなぁ~」とレジーナは頭を掻いておどけてみせる。
「なまじ、薬師ギルドの貴族はんの平民に対する態度を直に見たことあるさかい余計に、な」
かつて、三十五区でキタテハ人族のケチャラを馬車で轢いた薬師ギルドの貴族を、こいつは見ている。
正確には、その貴族に仕える従者を、だが。
従者は主を映す鏡と考えて問題ないだろう。
主がその従者にそういう態度を取らせているわけだしな。
その貴族は、馬車で人に大怪我をさせるという大事故を、なかったこととして揉み消しやがった。
それだけで十分、連中が自分たち以外の人間を人として考えていないってことが容易に分かる。
「これまでは『どうせ大したことないわ、好きにしてろや』って完全無視しとったのに、今回急に名指しやったやろ? なんや、薄気味悪ぅてなぁ」
にへらっと笑うあの顔は、照れや恐怖を誤魔化すための仮面だ。
明晰な頭脳を持ち、どんな困難も乗り越えてしまう強さを持っているように見えるレジーナだが、こいつは弱い。
特に心の脆さは、ミリィと同じくらいか、それ以上かもしれない。
領民から拒絶され、店に閉じこもってしまったようなヤツだからな。
本当は、誰よりも怖がりなのだ。こいつは。
「まして、今回関与が疑わしい十一区領主ハーバリアスは、ウィシャートの後ろ盾だったと思しき男だ」
港の工事を邪魔するために大量のゴロツキを送り込み、式典の時にはマーシャを再起不能にしようと暴漢に襲わせたウィシャート。
その後ろ盾であったハーバリアスが、ウィシャートと似た思考回路である可能性は高い。
少なくとも、「ゴロツキに人を襲わせるなんて最低だ!」なんて考えを持っているとは考えられない。
でなきゃ、後ろ盾なんかやってるわけがないからな。
なら、統括裁判所の決定如何にかかわらず、薬剤師ギルドにちょっかいをかけてくる可能性は十二分に存在する。
薬剤師ギルドを襲わせ、レシピや薬を盗ませ、なんなら店を燃やすなりしておいて、『不審な薬剤師ギルドの存在に業を煮やした一般市民の暴走でしょう』なんてことをしれっと言ってのける。
それくらいのこと、平気でやるだろう。
ウィシャートと同じ思考回路をしているならば。
とはいえ、俺はハーバリアスがそこまで急激な動きを見せるとは考えていない。
こちらが下手に手を出せないのと同じように、向こうも下手にその力を振るえないはずだ。
そうでなければ、金儲けの種であるウィシャートの取り潰しを座して見ている訳が無い。
ウィシャートが劣勢に立たされた時にしゃしゃり出てくれば、外周区の領主連合など跳ね除けられたはずだ。
あの時は、まだ外周区と『BU』の連携も今ほど強固ではなかった。
けれどヤツらは、十一区は動かなかった。
ウィシャートを見捨てるという選択をした。
それほど気軽に捨てられる駒ではなかったはずなのだ、ウィシャートは。
街門を掌握し、何を通すも通さないも思いのまま、出入国の大部分を掌握し支配していたウィシャート。
十一区領主にとって、相当な旨味があったはずだ。
それを見捨てざるを得なかった。
言い換えれば、それだけの利益を諦めざるを得なかった。
十一区領主の力はすごいのだろう。
だがそれ故に、容易に振るうことは出来ない。
もしそれをしてしまえば国が荒れる。
そうせざるを得ない状況でない限り、十一区領主は小競り合いに首を突っ込んでくることはないと、俺は踏んでいる。
力がデカ過ぎるがゆえに、それを乱用すれば王族の領分を踏み荒らすことになりかねない。
貴族の任命も罷免も、決めるのは王族だ。
それを、一貴族の都合や気分で好き勝手するなど、見過ごされるわけがない。
なので、今回十一区領主は動かない。
今回はあくまで忠告。
十一区を敵に回すと厄介なことになるぞという牽制に過ぎないだろう。
貴族の無礼はなかったこととしてカウントしない――なんて連中の思考をトレースするのであれば、今回の件は「お前らがウチの貴族にちょっかいをかけてきたから、その仕返しだ」くらいの嫌がらせだろう。
「俺を舐めると、痛い目を見るぞ」と。
劇場の貴族へ警告するために十一区で大袈裟に騒いだからな。
それに対する報復だろう。
だが、憂さ晴らしで『平民を一人再起不能にしてやった』くらいのことはやりかねない。
正直なところ、今回俺はハーバリアスが直接ちょっかいをかけてくるとは思っていない。
なので、レジーナが特に気にしないようであれば、下手に不安を煽って警戒させるようなことはしないし、言わないつもりだった。
だが、そのレジーナが不安になっているのであれば話は別だ。
「事態が落ち着くまではここにいろ」
四十二区にとって……いや、この国の未来のためにも、レジーナ・エングリンドの薬剤師ギルドは存在し続けなければいけない。
もう二度と、ウィシャートのようなバカを生み出さないためにも。
いつか来るかもしれない、バオクリエアからのちょっかいを跳ね除けるためにも。
「とりあえず、教会が薬師ギルドを締め上げるまでは、な?」
「せやね……」
どこかほっとした表情で、レジーナは言う。
「縛り上げられて『いゃん、もっとぉ』って言ゎはるまでは、ここにお邪魔させてもらおかな」
「え、一生居座るつもり?」
ねぇよ、そんな時が来ることは。
どんなドM集団だ、薬師ギルド。
ねぇよ。
とりあえず、硬かった表情を緩めたレジーナに安堵しつつ、せめてもう一人くらいは薬剤師ギルドに人員が必要だよなぁと、俺は考えていた。
いつまでもレジーナ一人に頼りっきりって状況も放置できないからな。
「レジーナ姉様。ベッドの準備が整いました」
話が終わったころ、カンパニュラたちがフロアに戻ってきた。
「おおきにな。こんな小さい子ぉらに準備してもろて、なんかご褒美あげなアカンなぁ」
「それでは、今晩一緒のベッドで眠れる権利をいただけませんか?」
「あーしも!」
「え、自分らも今日泊まる予定やったん?」
「いえ、ジネット姉様にはこのあと許可をいただこうと思います」
「あとで、おねまい、すゅ!」
「なぁ、自分。こんな小っちゃい子ぉらに悪影響与え過ぎなんとちゃうか?」
俺のせいじゃねぇよ。
そこでくすくす笑って、なんでもウェルカムなジネットの態度こそが、お子様どもを増長させている原因だろうが。
「ジネット、断ってやれ」
「うふふ。ですが残念なことに、わたしもお泊まりしていってほしいなぁ~と思ってしまっているので、お断りするのは難しいです」
断るのに難しいも何もないだろうが。
「じゃあ、それぞれの家に連絡して、許可を取ってこないとな。親がダメだって言ったらダメだからな?」
「はい。では、母様にお手紙を書きます」
「あーしも、かく!」
テレサも一応字は書ける。
お好み焼きに「りょ」って書いてたしな。「りょーしゅしゃー」の「りょ」。
字がデカくてそこまでしか書けてなかったけども。
「んじゃ、書けたら俺が届けてきてやるよ」
夜になると、ガキをあまり出歩かせない方がいい。
ヤップロックのとこにはバルバラがいるし、ルピナスのところにはデリアがいる。
親連中も、そうそう寂しがるようなことはないだろう。
「とはいえ、あんまり外泊癖をつけるなよ? 不良になるぞ」
「えーゆーしゃ、ふりょーって?」
「こんな感じだ」
不良を知らないというテレサのために、俺はこの身をもって実践して見せてやる。
両サイドの髪の毛をかき上げて耳にかけ、なんちゃってリーゼント風味にしたあと、シャツの前部分をだらしなくはだけ、ポケットに手を突っ込んで、大股開きでよたよた歩きながら、首を上下にカックンカックン揺らしながらメンチ切ってオラついてみせる。
「オ? なに見てんだ、ゴルァ? やんのか? ア?」
「お兄ちゃん、滅茶苦茶ガラ悪いです!?」
「このような方がいらっしゃるのですか?」
「……ウッセ」
「ウッセさんは、こんな怖い顔はされていませんよ、マグダさん」
「あーしも、それ、すゅー!」
すんじゃねぇよ。
すんなっつー話だよ。
「ぉ? ぁにみてんにゃ、こぁー! ゃんのんかー! あぁぁあー!」
「めっちゃ可愛いです!?」
「……うっかりウッセが誘拐してしまうレベル」
「ウッセさんは、そんなことされませんよ、マグダさん」
「ジネット、甘い」
「ふふ、ヤー君は狩猟ギルド四十二区支部代表様と仲良しさんですね」
違うぞ、カンパニュラ。
仲が良いからイジれる関係なんだ~とかじゃなくて、あいつは美少女だったら誘拐くらいするヤツだ。
「俺の故郷の辞書で『犯罪者』って調べたら、似顔絵が描いてあるかもしれん」
「さすが支部代表様。著名であられるんですね」
カンパニュラ、そんな無理やり褒めなくていいから。
「他所に泊まる癖がついて不良になるんやったら、家から一歩も出ぇへんウチが一番の優等生やな」
「というわけだ、お前ら。閉じこもり過ぎは腐るから、適度に外には出るように」
「何が腐るっちゅーねん」
「分かったな?」
「「はい」!」
「わぁ、返事されてもた☆」
適度ってのが重要なんだろうなぁ、教育とか環境ってのは。
「レジーナさん、お風呂は閉店まで待ってくださいね」
「そんな、気ぃ遣わんでかまへんで。急にご厄介になるわけやし」
「厄介だなんて思いませんよ。これから夕飯のお客さんが増えますから、もし人の多さが苦手でしたら、客間でくつろいでいてくださって構いませんよ。何もお構いできませんが」
「大丈夫やって。けど、せやな、人が仰山来はったら、もしかしたら客間にこもらせてもらうかもしれへんわ」
混むからな、夕方は。
「退屈しそうやったら、そこのおっぱい魔神はん連れてってもえぇやろか?」
「バカモノ。ピーク時に主戦力を連れ出してどうする。店が回らなくなるだろうが」
「うふふ。大丈夫ですよ。ウチにはまだまだ凄腕のウェイトレスさんがたくさんいますから」
「うゎ~い、戦力外通告されちった☆」
拗ねるぞ、コノヤロウ。
「主戦力ですよ。ただ、大将はここぞという時に頼りにさせていただく分、普段はどっしりと構えていてもらって構わないんです」
普段から仕事してないもんなぁ、俺。
――って、誰がだ、こら!
「んじゃ、大将はどっしりと、お子様たちの手紙を届ける使いっ走りでもしてこようかなぁ」
「くすくす。ね、レジーナさん? こうして拗ねるヤシロさんは、とても可愛ですよね?」
「いや、同意求められても」
「……店長の感性は独特」
「レジーナさんとは別方向に一般とはかけ離れてるです、きっと」
「ウチ今、メッチャさらっとディスられたやろか?」
ロレッタの分析に物申すレジーナ。
抗議したところで、お前は誰がどう見ても一般とはかけ離れてるだろうが。
「はい、お手紙が書けました」
「あーしも!」
「一応、内容を確認していいか?」
「はい。おかしなところがあれば指摘してください」
そう言って手渡されたカンパニュラの手紙を読む。
……めっちゃ貴族言葉で書かれてる!?
「年齢と文章の乖離がおかしい」
「文字には心が籠もると母様がおっしゃっておりましたので、母様や父様に対する思いを込めてみた結果、このような文面になってしまいました」
手書きの文字は心が伝わるって言うもんなぁ。
……だからって両親宛の手紙を、時候の挨拶から始めんでもいいだろうに。
「テレサの方は……翻訳家が必要そうだな」
丁寧ではあるんだが、一部読めない箇所がある。
『強制翻訳魔法』のエラーか?
あ、きっと文字が間違ってるんだろうな。
バルバラなら解読できるだろうか。
「ここ、なんて書いたんだ?」
「えっと、ね、さみしくても、ないちゃめーよって、おねーしゃに」
あぁ、じゃあきっと『さ』の最後の一本が逆向きになってるとか、そういう感じの書き間違いなのだろう。
読めないけれど、なんとなく可愛らしい雰囲気だけは伝わってくる。
「んじゃ、そんな感じで伝えといてやるから、今度ベルティーナのところで文字をきれいに書く練習してこい」
「なんやったら、ウチが教えたろか?」
確かに、レジーナはその性格に似合わないくらい文字がうまい。
フォントかっていうくらいに整った文字を書くんだよな。
レジーナに文字を書く時のコツでも教えてもらえば、きっとテレサの文字も綺麗になるだろう。
ただ……
「お前の場合、練習に使用する単語が卑猥なものに限定されそうだからやめておく」
「なんでやのんな? 他では教えてもらわれへんオトナな知識も身に付いて一石二鳥やんか」
「『二鳥』のウチの一羽が、いるだけで猛毒撒き散らすタイプだから断ってんだよ」
獲っちゃダメなヤツなんだよ、その鳥。
タタリ神かなんかだ、きっと。
「んじゃ、行ってくる」
「あ、ちょっと待ちぃ。ウチも行くわ」
と、レジーナが出かける準備をする。
と言っても、いつものカバンを斜め掛けするだけだが。
パイスラッシュ☆
「なに言ってんだよ、お前は?」
「なんでやろ? 今ものっすごい『こっちのセリフや』って言ぃたなったわ」
呆れ顔でパイスラを隠すレジーナ。
隠すな、もったいない!
「狙われてるかもって怖いから泊まるんだろ、お前?」
「一人になるんが不安なだけで、今日明日で襲われる可能性はそこまであらへん。――って、自分も思ってるんとちゃうのん?」
「まぁな」
事を早急に運ぶメリットは、連中にはない。
むしろデメリットの方がデカいだろう。
「お店が混む時間にウチがおったら邪魔んなってしまうさかいに、暇な自分が相手したってや」
だから、俺は別に戦力外じゃねぇっつーのに。
「邪魔とは思いませんが――」
ジネットが俺とレジーナのそばに立ち、にこりと微笑む。
「ヤシロさんのそばにいるのが一番安心できるのはよく分かります。ヤシロさん、レジーナさんを守ってあげてくださいね」
店長直々に「お前暇だろ? このお荷物の面倒見とけよ」と言われてしまった。
んじゃ、断れないよな。
「んじゃ、レジーナ。ボディーガードよろしくな」
「ウチが守るんかいな」
ケラケラ笑うレジーナを連れて、俺は陽だまり亭を出発した。
まずはデリアの家に向かうかね。
あとがき
うっふん
乙女☆宮地です
◯
乙
こう書くと
orz
っぽく見えませんかん?
どうでしょう?
どうでもいいですか?
まぁ、そうですね〜
( ̄▽ ̄)
久しぶりにカフェで執筆してテンション微増でお送りいたします☆
ハロウィンシーズンなのでカッボチャのパンとか置いてあって、
お腹いっぱいなのについつい食べちゃいました☆
……たぶんですけど、明日の体重計は故障していると思うでのナシということにしておきます
たぶん、今夜不意に故障すると思うんですよね、なんとなくですけどね
さてさて、本編ではメドラさんが精霊神様に認められた乙女であると判明しました
メドラさんが乙女なら、もう誰でも乙女になり放題です!
乙女の\(≧▽≦)/バーゲンセールやー!
とはいえ、メドラさんは男性を立てることを知っているし
同性にも人気がありますし
弱い者の味方で子供たちにも好かれている上
ヘルシー料理が好きで可愛いもの好きで
おまけにいまだに純血を守りきっている乙女中の乙女なんですよ!
まさに、無敵の乙女です
こりゃ\(≧▽≦)/強ぇー!
メドラさんにもいろいろな過去があるようです
ノーマさんと同じように、男に負けないように頑張っていたんですね〜
規律に厳しい性格も
馴れ合いを避けていた理由も
なんとなく察することが出来ますね
という過去のエピソードを挟みつつ、
金物ギルドの乙女たちも乙女に含まれるので
ここまで散々乙女、乙女って言ってたけども『精霊の審判』かけても裁けないんですよ!
――という言い訳を必死にしてみました☆
ここまで誰にも「いや、オッサンじゃん!」って突っ込まれなかったですが、この先どうなるか分かりませんからね
言い訳を用意しておいて損はないでしょう
(^^;ふぅ、やれやれ
乙女とは、
その清純な心を指すのです
肉体とか、どーでもいいのです!
でもまぁ、合コンで「乙女ばっかりだよ」って言われて
いざ参加してみたら金物ギルドみたいなのばっかり出てきたら幹事をぶっ飛ばしますけどね☆
さて、乙女……とは違うんですが
私が幼少の頃は、あまり家庭で男性が料理をするようなことは一般的ではないというか、
どこの家に行ってもお母さんがいて、
台所はお母さんやお祖母ちゃんの聖域的な雰囲気が根強く
ちょっとパスタが作れるだけで「お前、料理できんの?」とか言われるような雰囲気だったんですよ、まだ。
まぁそのすぐ後、料理できる男子がかっこいいとか言われ始めて、
みんな一斉にオリーブオイルをパスタにどぼどぼかけ始めましたけれども
そんな中、
小学生の同級生で料理のうまい男子がおりまして
両親が外に働きに出ていたので、
土曜の半ドン(午前中だけ学校に行って昼前に帰る日のことだよ☆)の時は自分で料理をする派だったんです、彼
ま~ぁ?
そんくらい
私だってサッポロ一番塩ラーメン作ってましたし
一緒一緒
( ̄▽ ̄)
と、思っていたら、そいつ、
親子丼とか作るんですよ!
しかもめんつゆとか使って!
五年生から仲良くなって
半ドンの時とかよく遊びに行ったんですが
びっくりしましてね
作ってもらったら、これが美味いんですよ!
早速翌週の土曜日に真似しまたけれど
パッサパサの鶏肉の入ったでっかい卵焼きが出来ました
……あれぇ?(・_・;
ちなみに、
私が初めて食べたボンゴレって、そいつの手作りなんですよ
料理用の白ワインがあって、
なんか「アサリもらったから」って作ってくれたんですけど、これが美味くて!
にんにくと鷹の爪を細かく切って、オリーブオイルで炒めてアサリを入れて、白ワインで軽く煮て
で、パスタをフライパンに入れて「ガッシャガッシャ」って!
Σ(゜Д゜;)えっ、スパゲッティ茹でたのにまだ焼くの!?
って衝撃を受けたのを覚えてます。
Σ(゜Д゜;)っていうか、アサリってどういう知り合いからもらうもんなの!?
私なんて、割と長く生きてきた今でさえ、
「アサリあげるよ」なんて知り合い一人もいませんからね!
出会ったことすらありませんからね!
ウチの地元、メッチャ山の中ですからね!
アサリにどこで出会ったんですか、その知り合いさん!?
で、なんであげちゃったんですか!?
なんか、いろいろ驚きが入り混じりながら食べたボンゴレビアンコの美味いこと美味いこと。
マ・マーのミートソースしか知らなかった私には衝撃的でした。
それからしばらく、
たぶん中3くらいにキューピーの明太子パスタに出会うまで、ボンゴレが一番好きなパスタでしたね
それくらい美味しかったんですよ。
しかし、キューピーの混ぜるだけの明太子パスタの素の美味いこと
( ̄▽ ̄)あれは、最強ですね
で、ボンゴレ
真似しようと思ったんですが
アサリも白ワインもにんにくも鷹の爪もなかったんで
マ・マーのミートソースでスパゲッティを作りまして――
( ̄▽ ̄)「うん、いつもの味」
って、土曜日を過ごしたことが……
何かが違って、
何もかもが違う……
しかもそいつ
リンゴの皮剥きもめっちゃうまくて!
私、そいつに教わったんですよリンゴの皮剥き
ウサギさんリンゴも
小5の男子二人で大量のウサギさんリンゴを量産して
Σ(゜Д゜;)「いや、こんなに食えんわ!」
(;゜Д゜)「残すとメッチャ怒られるから持って帰ってくれ!」
って(笑)
あぁ、そうそう。
べっこうあめとカルメ焼きもそいつの家でやりましたっけねぇ
理科の授業でやった日に、そいつの家に集合して
全然うまく出来ませんでしたけども(^^;
難しいんですよね、あれ
というわけで、
ヤシロがやってたアレやコレやって、結構その時にやったことが多いかもしれません
役立ってるよ、小5のころの友人!
町の南側に住んでて、家の前に深い溝があって、川なんだか下水なんだか分からない感じの水がそこそこの量流れてて、その溝に車1台分の横幅の鉄板を渡して、「Σ(゜Д゜;)そこ、軽トラで渡ってるの!?」ってびっくりするような場所に住んでいたお前だよ、お前!
(≧▽≦)/元気かー!?
……免許取っても、そいつの家には行きません。
絶対あの鉄板渡れませんし
最近まで忘れてたんですけど、なんかふと思い出したんですよね
そしたら、釣られるようにいろんな記憶が芋づる式に
宮地「見てみて、めっちゃきれいな彼岸花咲いてた!(←彼岸花好き)」
友人「わぁ、待って! 彼岸花を家に持ち込むと火事になるって祖母ちゃんが言ってた!」
宮地「マジか!? どうしよう!?」
友人「水かけよう!」
宮地「よし分かった!」
友人「(バケツでばしゃー)」
宮地「(洗面器でばしゃー)」
友人「……これでよし」
宮地「いや、これ意味あるかな!?」
……とか、やってましたっけねぇ
( ̄▽ ̄)
懐かしい。
しまった……懐かし過ぎて友人の話をいっぱい書いてしまった。
(・_・;
いえ、実は
この友人に触発されて
お菓子作りが好きになったという話をしようと思っていたんですが……
乙女に引っ掛けてね
私もお菓子作りとかしてたんですよ〜
って、
それで私の中にも乙女が〜って話でまとめるつもりが
友人エピソードで台無しですよ!?
なにしてくれてんの小5の頃の友人!?
(# ゜Д゜)くわっ!
中学生になった時に実家を三階建てにリフォームして、「マジで、スッゲ! 見に行っていい!?」「おう、来い来い!」って見に行ったらお前の部屋一階で「いや、毎日三階まで昇り降りとか、メンドイやん?」「こっちのワクワク返せ!」って口論になったお前だよ!
三階建てにしたって話をあんな嬉しそうな顔でしたら三階に部屋があると思うじゃん!?
しかも、三階は両親の寝室だから立入禁止って!
三階に立入禁止って!?
以前の子供部屋と同じ場所じゃねぇか!?
(# ゜Д゜)
の、お前だよ!
折角家を真新しくリフォームしたのに、
家の前の深い溝と鉄板はそのままで
「なんで鉄板そのままなのにこんなでかいワゴン車に買い替えてんの!?」ってこっちの度肝を抜いてきたファミリーの末っ子のお前だよ!
まぁとりあえず、元気でやってるならそれでいいよー
(≧▽≦)/
というわけで、
空気読めない友人のせいで私のお菓子作りの話はまた次回!
お菓子作りしたいのにウチにオーブンがないから別の友人の家に作りに通っていたらそこのお母様に「もう来んな!」って叩き出されたお話をいたしましょう☆
……全部話しちゃった!?
Σ(゜Д゜;)
次回はまた、別のお話をしたいと思います。
次回もよろしくお願いいたします。
宮地拓海




