447話 秘策を授ける?
「えっ、また行進をするんですか?」
陽だまり亭に戻ると、ジネットが厨房でミックスジュースを作っていた。
にこにこ顔のオシナと一緒に。
「なんでいるんだよ?」
「あのネあのネェ、ミックスジュースがちょっと甘々過ぎるから、もっとさっぱり飲めるようにならないかって、店長ちゃんに相談に来たのネェ」
いや、自分で研究しろよ。
……ったく。
「ミックスジュースとはちょっと違うが、スムージーってのがあるから、そっちを試してみろ。オシナの店なら、たぶんそっちの方が合うから」
「「新しいミックスジュースですか!? それは、一体どういうものなのでしょう!?」」
オシナに話を振ったのに、ジネットが食いついた。
なんでか、まったく同じ顔をしたベルティーナとセットで。
「それで、もう一度光の行進をするというのはどういうことなのでしょうか? その辺りも詳しく聞かせてください」
「いつからいたんだよ、ベルティーナ」
「ジネットがミックスジュースを作り始めた時からです」
じゃあ、俺が厨房に入った時にはもういたのか?
さっき気が付かなかったけど……あぁ、そうか。
「お手洗いか」
「本当の意味のお手洗いの方ですよ。裏庭の井戸で手を洗わせてもらってきたんです」
トイレじゃないと、必死のアピールだ。
どうやら恥ずかしいらしい。
「実はちょっと厄介なことになってな」
スムージーを作りながら、レジーナに届いた訴状と、それが教会の意に反する不当な訴えであること、そしてそれを利用して四十二区に外周区と『BU』の教会からシスターを根こそぎ集めて光の行進のデモンストレーションをしてやろうと計画していることを話して聞かせた。
「そのお話、オシナが聞いちゃってもよかったのネェ?」
「まぁ、どうせリカルドは呼ばなくても来るだろうし、問題ない。というか、オシナからメドラに伝えといてくれるか?」
「ウンウン、分かったのネェ。ダ~リンちゃんが、メドラちゃんの浴衣をもう一回見たいって言ってたって伝えとくのネェ~」
「違う。全然違うぞ、オシナ」
「ジャアジャア、メドラちゃんの御使いドレスが見たいのネェ?」
「あいつサイズの服作ってないから、今回はパスだ」
なので、どうしても着たかったら、この次、四十一区でやる光の祭りの時にでも着てくれ。
そして、間違っても自区から出てくるな。
「シスターが集まるから、警備をちょっと強化したくてな。もしかしたら、統括裁判所から偵察に来るヤツがいるかもしれないし」
「……その点は、マグダがきっちりと監視する」
「あたしも、弟妹たちと一緒にバッチリ監視しちゃうですよ!」
「陽だまり亭総出で監視網を敷けば、かなり広範囲をカバー出来ますね。さすがです、姉様方」
「あーしも、わぅいひと、ぱーんち! すゅ、お!」
わぁ、勇ましいなテレサ。
でも、そーゆー発言はバルバラみたいでアホっぽく見えるから控えような?
間違っても、バルバラみたいにはなるな。な?
「……というわけで、頑張るマグダたちに」
「新しいミックスジュースを飲ませてです、お兄ちゃん!」
「私とテレサさんも、ご相伴に預からせていただきたく存じます」
「じょんじます!」
ちゃっかりしているというか……まぁ、カンパニュラとテレサがわがままを言えるようになったのはいい傾向か。
……あぁいや、違う違う。
ジネットが甘やかすせいだな。まったく、お子様がわがままなんぞ抜かしおって。これだからジネットは、甘いっていうんだ、まったく。
ここは一つ、人生の厳しさを教えてやらねばいかんな。
「ただし、残念だったな。スムージーはミックスジュースとは違ってそこまで甘くないぞ」
そう言いながら、俺は厳選した材料をミキサーに投入してハンドルを回す。
うん、すげぇ色になったな。
今回作ったのは、ほうれん草とリンゴとヨーグルトを使ったスムージーだ。
レモンと生姜も少しずつ入っている。
飲みやすいように柑橘系も少々入れた。
「……色が悪い」
「なんか、物凄く体に悪そうな色してるですよ、お兄ちゃん!?」
「くすんだ緑色ですね」
「……ぬま?」
沼じゃないぞ~、テレサ。
お前、最後に面白いこと言う担当とかになってないよな?
最近、テレサのラストワードに突っ込むことが増えてきている気がする。
「スムージーは綺麗に洗った野菜を丸ごとミキサーするから、栄養素を余すことなく摂取できる調理法なんだ。まぁ、野菜メインだから苦かったり青臭かったりするんだが、それを感じさせないようにフルーツなんかで味を調えてやるんだ」
と、コップを差し出すと、一同が一歩後退った。
まずそうなのかよ、そーかよ。
下がらなかったのはジネットとオシナだけだ。
「じゃあ、飲んでみるか」
「はい。いただきます」
「オシナももらうのネェ~」
ジネットとオシナがスムージーを口に含む。
「んっ……ちょっと青臭いですが、さっぱりとした飲み口で、後味も悪くありませんね」
「ウンウン、飲みやすいのネェ~。お野菜の味、そのままで、楽しいのネ、コレ」
ジネット的にはあり、オシナ的には合格ってところか。
「小松菜やほうれん草には鉄分が含まれているから、貧血に効果があるし、モロヘイヤにはカルシウムが、果物にはビタミンが、バナナやプルーンにはカリウムが含まれているし、野菜を丸ごと食えるから食物繊維も豊富に摂れる。腸内環境を整えてくれるからダイエットにも美肌効果にも期待が持てるぞ」
「それは、素敵やんアベニューにはもってこいの飲み物なのネェ~」
「ジネット、いくつか飲みやすそうな組み合わせを考えてやってくれるか?」
「はい。お野菜を中心に、果物やヨーグルトで味を調える感じですね……では……カボチャとかどうでしょうか?」
また、すごいところからいくな。
「カボチャなら、軽く蒸して柔らかくして、バナナと合わせると美味いぞ」
「バナナですか、なるほど。でも、煮るのではなく蒸すんですか?」
「煮ると、栄養素の一部が水の中に逃げちまうからな」
「なるほど。納得です。そういうところも考えないといけませんね」
ジネットのスイッチが入った。
あとは、放っておいたらどんどん美味いスムージーが誕生するだろう。
「……青臭い」
「飲めなくはないですが、ミックスジュースの方が美味しいです」
「ですが、これを飲むと美人になれると言われれば、なんだかとても効果がありそうな気になりますね」
「おねーしゃ、すきかな、これ?」
バルバラには美人さが足りないから、スムージーでも飲んで少しでも女を磨けって?
あ、違うの?
おねーしゃは美人だから、スムージーを飲んでもっともっと綺麗になってほしいのか、そーかそーか、あはは、テレサは冗談がうまいな~。
「美味しいです。が、固形物が食べたくなりますね」
野菜の味だもんなぁ。
しっかりと咀嚼したいんだろうな、ベルティーナなら。
「あとで、どの野菜にどんな栄養素があって、何に効果があるか一覧を作ってやるよ」
目指したい美容に効果がありそうな食材を組み合わせて、オリジナルスムージーを作ってみるといい。
「これは、大変なお仕事ですね。しばらくはこれに掛かりきりになってしまうかもしれません」
「楽しそうなとこ悪いが、光の行進のおかわりを頼む」
「あっ、そうでしたね。すっかり忘れていました」
だろうな。
顔が完全にレシピを考えてる顔になってたもん。
「それで、いつごろ開催するんですか?」
「準備が出来次第、だな。だが、いつでも開催できるように準備を進めておきたい」
「では、また歩く練習をしないと……」
歩く練習が必要なのって、乳幼児とジネットくらいだよなぁ。
「また、緊張しないための秘策を教えてくださいね」
ジネットが、少し不安そうに俺を見上げてくる。
「今度はお祭りではないので、精霊神様がご覧になっているか、分かりませんから」
あいつは誘わなくても見てそうだけどな。
「じゃあ、スムージーのレシピでも考えて歩くか?」
「それですと……立ち止まって熟考してしまうかもしれません」
確かに。
たまに厨房で棒立ちしてるジネットを見かけるよ。
あれ、熟考してたんだな。
なんか、嬉しそうににこにこしてたから、今まで触れずに放置してたけど。
「他にいないか、心の中でおしゃべりできるヤツ?」
「そうですね…………」
と、自室の方へ視線を向けるジネット。
「ヤシロさんのお人形さんとは、よく二人でおしゃべりしていますが……」
ジネット。
たぶんそれ、口から漏れちゃダメなヤツ漏れちゃってる。
気付いてないようだからスルーするけども!
「そうです! ヤシロさんお人形を持って歩けば緊張せずにおしゃべりして歩けそうです」
「いや、手には光るレンガ持つだろ!?」
「あ、そうですね……では、光るヤシロさん人形を!」
「光ってりゃなんでもいいってわけじゃないんだ!?」
どうすんだよ、まかり間違って光る俺人形を持って街を練り歩く珍妙な祭りが外周区や『BU』全体に広まったら!?
「でも、そうしたら……あの、わたしは緊張せずに歩けると、思うんですが……」
この卑怯者!
お前、「懺悔してください」とその顔があれば、なんでも俺に言うこと聞かせられるとか思ってないだろうな!?
ちょっと泣きそうな、でも期待したような、うるうるした上目遣いやめろ!
そんなもんでほいほい希望が通ると思ったら大きな……大き……大…………大きなおっぱい!
うっさい、意味なんかない! 自棄だよ! えぇいくそう! 分かったよ!
「じゃあ、持ち歩けるサイズのぬいぐるみみたいなの作ってやるから、それを服の中に隠して持っとけ」
「作ってくださるんですか!?」
その声に反応して、ガッと距離を詰めてくる気配が……
「その代わり! 俺が作るのはジネット用の一個だけだ」
だから、便乗しようと半歩こっちに踏み出してるマグダロレッタカンパニュラテレサは元の位置に戻りなさい。
えぇい、戻れ!
「ジネット。俺が手本を作るから、ミニサイズのモンタージュぬいぐるみをいくつか量産してくれ。お前が出来るなら、各区で自由に製造販売できるって証明になるから」
「はい! 喜んでお手伝いします」
嬉しそうな顔して。
で、自分の分を作ってもらえると思ってんのか、マグダたちも一様に嬉しそうな顔をしている。
どんなものになるか、まだ分かったもんじゃないってのに。
……まぁ、モンタージュぬいぐるみは全区展開していくから、どっかで誰かがこっそりと俺の人形を持ってたとしても、そんなもんは俺の与り知るところじゃない。
知ったこっちゃないってもんだ。
どうぞご勝手に。
……だからさ、ジネット。
「みなさんの分のヤシロさんぬいぐるみはわたしに任せてください。お裁縫は得意なんです」じゃねぇーんだわ。
お前が裁縫得意なのは知ってるから。
散々見たから。
……まったく。
騒ぎ過ぎだ。
「うふふ……」
ぬいぐるみの寸法を紙に描いている俺を見つめ、ベルティーナが静かに笑う。
「なんだよ?」
「いえ。ヤシロさんは優しいな~と思いまして」
「あんなもん、脅迫だろうが。お前が甘やかすから、娘がわがままに育つんだぞ」
「では、私の教育方針は間違っていなかったということですね。だって、あんなに可愛く成長したんですから」
わがままが可愛いと思えるのは親バカだけだよ。
現在、その甘やかされて育ったジネットは、スムージーを飲んで「固形物が食べたいです」と言ったベルティーナのために、何か食べるものを作りに厨房へ行っている。
……いや、甘やかされてるのは母親の方か?
「随分と可愛らしいサイズですね」
ぬいぐるみの設計図を覗き込んで、ベルティーナが手でその大きさを「これくらいでしょうか?」と示してみせる。
まぁ、そんなサイズだろうな。
「こっそりと忍ばせるには、こんくらい小さい方がいいだろう」
「もっと大きければ、抱っこして眠れそうですけどね」
「男子禁制の私室に俺のぬいぐるみを持ち込むのか?」
「ぬいぐるみならセーフです」
「じゃあ、いつかぬいぐるみのフリして忍び込んでやろっと」
「ふふ、さすがに気付きますよ」
どうかな~?
ベルティーナはジネットと同じくらいぽや~んっとしてるからなぁ。
着ぐるみでも着てれば気付かない可能性はある。
「そうか、着ぐるみなら……」
「ダメですよ」
ぺきょっと、鼻の頭を人差し指で押される。
……それ、娘に遺伝してるから早急に封印してくれ。鼻の頭を指さされるとむずむずするんだよ。
「ヤシロさんにそっくりなぬいぐるみなら、私も少し欲しいですね」
「やめとけ、やめとけ」
ベルティーナはよくも悪くも平等なのだ。
「俺のぬいぐるみを持つとジネットのぬいぐるみも欲しくなって、そうなると教会にいるガキども全員分のぬいぐるみが欲しくなって、この先も増えていく新顔のぬいぐるみも作って……ってやってくと部屋がぬいぐるみで埋め尽くされるぞ」
どうせ誰かを贔屓したり、誰かを省いたり出来ないんだから。
「そうですね。……ふふ、きっとそうなっちゃいますね」
容易に想像できたのだろう。
「寝るところがなくなっちゃいました」なんて呟いて、自分で笑ってる。
「ぎゅってしたくなったら、いつでも陽だまり亭に来ればいい」
「ぅきゅっ。……ぬいぐるみでなければ、そうそうぎゅっとは出来ません」
「ジネットにはするのに」
「いくら可愛くても、成人した男性は別です」
ぷいっと顔を背けるベルティーナ。
ぎゅっとして一緒に寝てくれてもいいのに。
「こういうものが、いつか自由に買えるようになるんですね」
「各区の体制が整えばな」
似顔絵ぬいぐるみは、女領主三区が中心となって進める新しい産業だ。
各区でパーツの量産を行い、生産体制が整ったら始動することになる。
「ウクリネスに言えば、今でもそれなりのものを作ってくれると思うぞ」
「いえ、私ではなく、子供たちが欲しがった時に簡単に手に入るなら、きっと喜ぶだろなと思いまして」
「ベルティーナぬいぐるみが飛ぶように売れそうだ」
「うふふ。独り立ちの時に没収しないといけませんね。自立はまず心から、ですからね」
心の自立……出来るのかねぇ、あのベルティーナ大好きっ子どもが。
「教会の周りは比較的土地が余ってるからなぁ……ガキどもが自立したあと、こぞって飲食店を出すかもしれんぞ」
「まぁ、なんて素敵な未来でしょう。毎日はしごしなければいけませんね」
自立しろよ、まずお前が。
「シスター、お待たせしました」
ジネットがトレイにおにぎりと玉子焼きを載せてやって来る。
うっわ、美味そう。
「うふふ。ヤシロさんも召し上がりますか?」
「あれ、そんな物欲しそうな顔してたか?」
「はい。してやったり、です」
嬉しそうに言って、足早に厨房へ引き返していくジネット。
……足早……まぁ、ジネットにしては早い方だ。
「ヤシロさんも、私のことは言えませんね」
と、こちらも嬉しそうにおにぎりにかぶりつくベルティーナ。
母娘で似たような顔をしやがって。
「ちょっと離れて座ろっと」
「むぅ、ヒドイですよ、ヤシロさん。ヤシロさんの食いしん坊は私のせいではありません」
椅子を少し動かしたら、向かいに座るベルティーナが同じだけ椅子を動かして俺の目の前をキープしてきた。
子供か。
ムキになるな。
「玉子焼きちょうだい」
「仕方ありませんね、一切れだけですよ」
言いながら、玉子焼きの皿をこちらに差し出すベルティーナ。
こういう時に、意地汚く独占はしないんだよな。
基本は、みんなで美味しくいただきましょうというスタンスなのだ。
ベルティーナの大食いは、ガキどもに食事を遠慮させないためらしいから。……今では絶対趣味だけど。
「あ~ん」
「そこまでは甘やかせません」
口を開けてみても、食べさせてはくれない。
こういうところの線引きはきちんとしている。
大勢のガキを育てていると、なぁなぁには出来ない部分は多いのだろう。
だが。
「ん~ん~! あ~んっ!」
と、ぐずって体を揺すってやれば――
「ず、ズルいですよ、ヤシロさん! そんな可愛い顔で……もう、一度だけですからね!」
――と、一回だけならやってくれる。
一切れの玉子焼きを小さくカットして、箸でつまんで口元へ持ってきてくれる。
「はい、お口を開けてください」
「あ~ん……」
「ふふ、甘やかされてますね、ヤシロさん」
「うきゅっ!?」
ジネットの登場に、ベルティーナがびっくりして玉子焼きが逃げていった。
俺の口、空振り。
「どうぞ、遠慮せずに食べさせてあげてください」
「も、もぅ出来ませんっ」
ジネットに笑われて、箸を置いてしまうベルティーナ。
長い耳が真っ赤に染まる。
甘やかされてる俺じゃなくて、甘やかしていたベルティーナが照れるのかよ。
「まったく、ジネットのせいで食べ損ねたじゃないか。代わりに、あ~ん」
「はい。じゃあ、お口を開けてくださ~い」
よほどベルティーナが可愛かったのか、ジネットは一切照れる素振りも見せずに、ベルティーナが小さくカットした玉子焼きを俺に食わせてくれた。
普段なら、それなりに照れるだろうに。
「むぅ! 二人で私をからかってますね。よくありませんよ、二人とも」
向かいの席から赤い顔をしたシスターがクレームを寄越してくる。
ほらほら、お前がそんなくすくす笑ってるからだぞ、ジネット。
「ヤシロさんがシスターをからかうからですよ。わたしまで叱られてしまいました」
なんて責任転嫁してくるジネット。
絶対面白がってたろ、お前。
そして、俺の目の前にも置かれるおにぎりと玉子焼き。
箸を持って、ベルティーナの前にある食べかけの玉子焼きを自分で食べる。
「玉子焼きを一切れください」
ややむくれて、ベルティーナが俺に言う。
返済か?
「それじゃ、あ~ん」
「あ、わたしも。はい、シスター。あ~んですよ」
「からかわないでください、もぅ!」
ぷぅっと膨れて、ジネットの方だけ食べるベルティーナ。
フラれちゃったな。
「罰としてもう一切れいただきます」
と、速やかに俺の玉子焼きを強奪していく。
わぁ、利息取られちゃった。
「じゃあ、もう一切れ進呈するので、教会関係者に手紙を書いてくれないか? 方法は任せるから、外周区と『BU』の全教会に届くように」
「そうですね。では、三十五区の司祭様にご相談してみましょう」
俺からの賄賂(玉子焼き)を頬張り、ベルティーナが言う。
「誰を頼るのか、秘密にしなくていいのか?」
手押しポンプの時は内緒にしてたのに。
「秘密にしたって、ヤシロさんはすぐに言い当ててしまうじゃないですか」
ぷくっと頬を膨らませて俺を睨むベルティーナ。
なにその可愛い抗議。
二日に一回くらいの頻度で見たい。
「ですが、薬剤師ギルドへの提訴は、おっしゃるとおりに不当なものです。そもそも、提供者は秘匿され、詮索されるようなことがあってはなりませんし、そう申し上げたはずです。それに関して、薬師ギルドと統括裁判所には教会として正式に抗議をすることになるでしょう」
教会の正式な抗議は、さっきの可愛い抗議とはまるで別物の、ちょっとビビるような規模なのだろう。
さっきの抗議だったら、喜ばれちまうからな。
「どのような手段を取るか、私一人の判断では手に余ります。司祭様にお伝えして、然るべき方法で行われるようお願いしておきます」
「そっちはついでで、本命は光の行進のデモンストレーションだって、ちゃんと伝えといてくれよ」
「ふふ……重大さでは、抗議の方が重いはずなんですけどね。そちらもお任せください。仔細抜かりなく、お伝えしておきます」
そう言って、ベルティーナは二回おにぎりをおかわりしてから帰っていった。
結構時間かかったなぁ、「伝えます」って言ってから帰るまで。
ベルティーナが帰り、俺はフロアでぬいぐるみ制作に取り掛かった。
「ヤシロさん。笑顔ですよ、笑顔」
俺が、手のひらにもすっぽり収まりそうなミニサイズの『俺ぬいぐるみ』を縫っていると、背後から肩越しにジネットが注文を入れてくる。
っていうか、せっついてくる。
分かってるっつーの。
「あぁ、ついに笑顔の可愛いヤシロさん人形が手に入るんですね」
以前ジネットにやった2.5頭身フィギュアは真顔で作ったんだが、それが不服だったようでなぁ。
「不服じゃないですよ。あのヤシロさんもとっても可愛いです」
じゃあ、別にあの顔でもいいじゃねぇか。
「不服そうなお顔も、拗ねた子供みたいで可愛いですが、笑顔だともっと可愛いです」
不服そうでも拗ねた顔でもなく、真顔なんだけどな、アレ。
俺の顔はデフォルトで不機嫌そうなのか。
そーかい、そーかい、そーなのかい。
……けっ。
「はい、そこでにっこりのお目々です!」
背後に立ってる監督がうるさい。
もう、自分で作れよ、そこまでこだわるなら。
「えっ、ちょっ、あの、ヤシロさん!? いつの間にそんな顔パーツを!? あっ、あぁっ、ダメですダメです! そんなお顔じゃ……あぁっ!?」
「どうしたですか店長さん!?」
俺の手元を覗き込んでいたジネットが大きな声を出したため、フロアの掃除をしていたロレッタがすっ飛んできた。
マグダたちも集まってくる。
「ヤシロさんのぬいぐるみが……」
「んだよ。注文通りのいい笑顔だろ。ほら」
完成したぬいぐるみをロレッタたちに向けて見せる。
目は緩やかに弧を描き、薄っすらと半目で黒目は小さく、口元は口角が「むにゅぅ~~ん」っと持ち上がっている。
「めっちゃエロそうな顔です!?」
「……これは笑顔ではなく、薄ら笑いやニヤケ顔と呼ぶべき表情」
「ヤーくんは、このようなお顔はされませんよ?」
「えーゆーしゃ、えっち、なぃ」
「そんなことない・ZO☆」
「はぁわぁぁあ!? お兄ちゃんがぬいぐるみとまったく同じ表情を!?」
「……類似を通り越して、酷似」
「え、なんだって?」
「怖いです怖いです怖いです、怖いですってば! その顔でこっち見ないでくださ……近付いてこないでですぅー!」
満面の笑みでロレッタに近付いていったら、全速力で逃げられた。
失敬なヤツだ。
「もう、ヤシロさん。真面目にやってください」
と、俺が作った『めちゃエロ笑顔ぬいぐるみ』の顔パーツを手際よく取り外していく。
わぁ、問答無用で没だよ。
鬼編集でもなかなかしない所業だな。
「ちゃんと、可愛く作ってあるこちらの顔パーツで作ってください」
ぷんっと、短く怒って、先に作っておいた顔パーツを差し出してくる。
こっちは真面目に作ったヤツだから、笑いが起こらないんだけどなぁ。
「へいへい」
「ウフフ~♪ ホ~ント、楽しいお店ネェ~、陽だまり亭は」
厨房に籠もってスムージーの試作品を作っていたオシナが出来たスムージーをグラスに注いで戻ってくる。
三種類作ったようだ。
スムージーの色はそれぞれ異なり、赤、オレンジ、沼。
……いや、なんだ、その右端の沼色のスムージーは。
緑ですらないな。黒いな。何入れた?
「チョット試してミテなのネェ~」
と、沼色スムージーを俺に渡すオシナ。
せめて、そっちのトマトジュース感丸出しな赤いヤツにしてほしかった。
「材料は?」
「当ててみてネェ~」
食通か、俺は。
こんな一緒くたに混ぜたモン、当てられるか。
まぁ、オシナも料理人。
食材で遊ぶようなマネはしないだろうし、とても飲めないようなモノを他人に出してきたりはすまい。
だからこれは、見た目がちょっと地獄なだけの、それなりに飲めるスムージーのはず!
「……青臭っ!?」
鼻に近付けたら、緑黄色野菜の悪いところを詰め込んだようなニオイがした。
新鮮な野菜は、青臭さすら美味そうに感じるってのに。
そのいい部分を完全に削ぎ落としたようなニオイだ。
「ニオイは落第点だな」
「デモ、大事なのは味ネェ」
「味、ねぇ……」
意を決して沼スムージー、沼ージーを口に含む!
吹く!
咽る!
睨む!
「てめぇ、どんだけニガウリ入れやがった!?」
「わぁ、当たりなのネェ! さっすがダーリンちゃん♪」
いや、答えろよ!
ものっすごいニガウリの味する、っていうか、ニガウリの味しかしない!
「他は何を入れたか、分かるカナぁ~?」
「ケールとセロリ、あとキャベツと玉ねぎとパセリ入れたろ?」
「正解なのネェ! すごいネェ~。パセリまで当てるなんてネェ」
「混ざってねぇんだよ、パセリ! めっちゃ口の中に残って異物感半端ないから! あと、玉ねぎがめっちゃ辛い! 生玉ねぎのすりおろしの一気飲みとか、拷問だからな!?」
俺の必死の訴えを、ケラケラ笑って聞いているオシナ。
こいつ、反省してねぇな……
「けふっ! ……あと、ニンジンとゴボウの味がします」
「店長さん、すっご~いネェ~! ニンジンとゴボウ、ちょっとしか入れてないのに、よく分かったネェ~」
ちょっと入れてんじゃねぇよ。
ゴボウか、この泥臭さ。
ジネットがちょっと咽てんじゃねぇか。
なかなかねぇぞ、ジネットが調理されたものを口にして咽るって。
「ほうれん草入れてないか? 口の中に渋みとエグみが残ってんだけど」
「入れたのネ~」
「あと、ブルーベリーが少し入ってますよね?」
「飲みやすくしようと思って、二粒入れたのネェ」
焼け石に水!
これだけクセの強い野菜たちの中に二粒入れたところで、ブルーベリーはすべてを包み込むほどのパワー持ってねぇよ!
「オシナ的には、これくらいお野菜の味が堪能できるスムージーが好みなのネェ~」
俺とジネットが頑張って半分飲んだ沼ージーを、オシナは美味しそうにごくごくと飲み干す。
……そうか。
調理する者の味覚が独特だと、プロであっても安心できないのか。
「これは、客に出すのはやめとけ」
「そうですね。オシナさんくらい野菜に愛着のある方でないと、ちょっと大変かもしれませんね」
もうちょっと飲みやすくなる工夫をしろよ。
あぁ、くそっ、口の中が渋い。
胃から上ってくる空気が青臭い!
「はぅわぁ!? お兄ちゃんぬいぐるみの表情が、今のお兄ちゃんと同じめっちゃ渋そうな顔にされていくです!?」
「ヤシロさん、待ってください! ストップです、ストーップ!」
心のままに縫い物をしていると、手の中のぬいぐるみが俺と同じ表情になってしまった。
それもこれもみんなオシナのせいだ。
そして、俺の顔をバラすジネットの手つきの良さよ。
俺の顔バラしのプロだな、もはや。
「そっちのトマトジュースをくれ」
「それじゃあ、試してみてネェ」
差し出された赤いスムージーを手に取り、ニオイを確認する。
……こいつのことだ、赤いものを手当たり次第入れている可能性も否定できない。
ニンジンとかラディッシュとか……
「……スイカ入れたろ?」
「正解なのネェ!」
めっちゃスイカの匂いしてるわ。
「でもまぁ、味は悪くない」
よくもないけども。
バランスを整えるのはこれからだろう。
「トマトが薄まっている上に、瓜の香りが強いからちょっと飲みにくいな」
「そうですね。スイカもトマトも美味しいですのに、混ぜると少し喧嘩してしまうんですね」
「バランスだよ。ここにちょっと塩を入れると飲みやすくなると思うぞ」
「『味の対比効果』ですね」
いつだったか、俺が教えてやったヤツだな。
スイカに塩をかけると甘くなるぞ~ってな。
「あと、トマトだと、意外と梨が合うぞ」
「梨、ですか?」
スキッとした飲み口になって、結構美味いんだ。
スムージー初心者には、是非お勧めしたい一品だ。
「だが、俺は普通のトマトジュースが一番好きだ!」
余計なものは混ぜなくてよい!
トマトだけを集めてミキサーして、それを飲む!
それこそが至高なのだ!
「ジネットがトマトジュースを作ってきてくれたら、俺はめっちゃ笑顔の俺ぬいぐるみが作れる気がする!」
「ふふ。はい、分かりました。では、少し待っていてくださいね」
「アァッ、その前に、最後のヤツも飲んでみてほしいのネェ」
と、オレンジ色のスムージーが差し出される。
「これは、さっき言ってたカボチャとバナナか?」
「あと、隠し味を少々、ネ☆」
怖いわぁ、隠し味。
隠れててくれればいいけど。
「んっ! 美味い!」
これは、今までで一番美味いな。
隠し味って……
「ハチミツか」
「それもだけど、ほんのちょこっとシナモンが入ってるのネェ」
あ、本当だ。
シナモンだ、この香り。
「シナモンが入ることで、甘さの中に説得力が出ますね。輪郭がはっきりするというか、甘みがぼやけていないというか」
ジネットも、感心したようにカボチャスムージーを観察している。
「やはり、オシナさんの味覚は確かですね」
「コレでも、プロだからネェ」
「じゃあ、最初の沼ージーはなんだったんだよ?」
「アレはぁ~、試作で何度も失敗して、野菜のエグみとクサみを何度も食らわされた後で、新しいスムージーを試飲する時の怖さを、追体験してもらうための仕掛けなのネェ☆」
「そんな追体験、いらんわ!」
確かに、ちょっと怖いけど!
正体不明のスムージー、初めの一口勇気いるよね!
でもそれは、客に味わわせるものじゃないから!
脱力する俺を見て、またケラケラ笑うオシナ。
勘弁してくれよ、ホント……
……あぁ、オシナのスムージーにマグダたちが寄ってこなかったのは、厨房で何個か味見させられたからなのか。
スムージーの開発って、難しいんだなぁ。
「あぁっ、とっても可愛いです!」
とっても美味いトマトジュースを出されてしまったので、約束通り、しょうがなく、真面目に完成させた、俺の『満面の笑顔ぬいぐるみ』。
……こんな顔したことないんだが。
それを両手で大切そうに持ち、頬擦りしているジネット。
そんなぬいぐるみにするくらいなら、本体にしてくれてもいいのに。
よし、可愛い顔をしてみよう。
「ぷぅっ」
「怖っ!?」
ジネットの隣にいたロレッタが、思わず声を漏らして後退った。
この正直め。
なので「ぷぅっ」顔のまま、すり足で急接近する。
「怖いです怖いです怖いです! って、これさっきも別パターンでやったですよ!?」
何度やっても学習しないお前が悪い。
……で、マグダは何やってんだ?
ジネットの腰にしがみついて。
「……可愛いの連鎖でヤシロに頬擦りしかけた店長を必死で止めた。実行されていれば、また店長が三日間ほど照れ過ぎてポンコツ化していたところ」
「あぁ、店長さん、照れると尾を引くですからねぇ」
「そ、そんなことは……ですが、今のは止めていただけてよかったかもしれません……ついうっかりと、とんでもないことをしてしまうところでした」
俺をちらっと見て、顔をかぁーっと赤らめるジネット。
してくれていいのに。
「も、もぅ。ヤシロさんが急に可愛いお顔をされるからですよ!」
「店長さん、それは錯覚です!」
「……ヤシロは微塵も可愛い顔などしていない」
おいおい、ヒデェなお前ら。
「どのようなお顔をされたんですか。ヤーくん?」
「あーしも、みたぃ!」
「ん? こんな顔だ――ぷぅっ」
厨房へオシナの手伝いをしに行っていたカンパニュラとテレサに、とっておきの可愛いフェイスを披露してやる。
瞬間、テレサの顔が「ぱぁあ!」っと輝いて、カンパニュラが抱きついてきた。
「可愛いです、ヤーくん!」
「ぅん! えーゆーしゃ、かわょ!」
「えぇえええっ!?」
「ですよね! ですよね!」
「……店長の影響力を侮っていた模様。隔離も検討する必要が出てきた」
だから、ヒデェな、マグダ。
で、ロレッタは随分と野太い声が出たもんだな、おい?
ちょっと声帯をいじってグスターブの4オクターブ下の声にしてやろうか?
「……ヤシロ。グスターブの4オクターブ下は、一般人の地声と同じ音域」
「いや、さすがにそこまで高音じゃないだろう、あの暴食ピラニア男の声も」
めっちゃ高いけどな。
「ははっ!」とか言うと、千葉方面の夢の国のネズミを思い出すくらいに甲高い声だけども。
「ジネット姉様、ぬいぐるみが完成したのですか?」
「はい。とても可愛い仕上がりになりましたよ」
「拝見させていただいてもよろしいでしょうか?」
「あーしも! みせて!」
「はい、見てください。とっても可愛くて驚きますよ」
「わぁ! 私のパペットと同じくらい素敵な笑顔ですね」
「えーゆーしゃ、にっこり!」
「え、なに? 今、もっこりって言ぅた?」
「オシナー! 沼ージー持ってきてー! 大至急ー!」
どっから湧いて出てきた、卑猥薬剤師!
建具の隙間から侵入してくる小さい虫か、お前は?
いや、どっちかって言うと、風呂場の隅に繁殖してるピンクカビの方が近いか。
ピンクだし。
「何しに来た、ピンクカビ」
「えらい言われようやなぁ。ただお昼呼ばれに来ただけやのに」
「えっ、レジーナさん、お昼を食べに来たですか!?」
「……重篤な病に?」
「ウチ別に、死の間際まで頑なに外に出ぇへんほどの出不精でもないねんで?」
レジーナが自ら進んで外食に来るなんて、天変地異の前触れか、死期を悟って挨拶まわりに来たかくらいしか思い浮かばないもんな。
「っていうか、レジーナ」
「なんやろか?」
「ランチっつっても、もうティータイムもぼちぼち終わりかけなんだが?」
さっきまで、奥様方がケーキを食いに来ていた。
俺がぬいぐるみを作っているのを眺めつつケーキを食い、沼ージーを勧めたあたりで逃げるように帰っていった。
現在、時刻にして16時前くらいだろう。
「遅ぇよ、お前の昼飯」
まもなく夕飯だぞ。
「このくらいの時間の方が、人が少なぁて落ち着くんや」
「まぁ、分かるよ。このくらいの時間の方が、お乳突きたくなるもんなぁ」
「共感できてないですよ、お兄ちゃん!?」
「分かるわぁ」
「共感しないでです、レジーナさん! 元の話、跡形もなくなっちゃってるですよ!?」
「もぅ、懺悔してください。ヤーくんも、レジーナ姉様もです」
ジネットよりも早く、カンパニュラが懺悔を告げに来た。
ジネットよりも近くにいたし、ジネットはぬいぐるみを掲げてくるくる回っていたから、カンパニュラの方が先にやって来たのだろう。
「つまり、常にジネットよりもカンパニュラのそばにいれば」
「懺悔を免れるっちゅーことやね!」
「免れられませんよ。もぅ」
あ、ジネットに捕まった。
しまったな。ぬいぐるみの完成、このタイミングにしておけばよかった。
そしたら、確実に懺悔を回避できたのに。
「でも、嬉しいです。レジーナさんが進んでお店に来てくださるなんて」
「いやいや、ウチかて行きたいな~て思ぅてんねんで、結構頻繁に。せやけどほら、日中って、……眩しいやん?」
「出歩けないほど眩しかったことなんかねぇよ」
吸血鬼か、お前は。
「急におケツ突き?」
「言ってねぇよ」
吸血鬼だよ。
急にケツを突いてくるような妖怪がもし存在するのだとしたら、――俺、来世はそれに生まれたい。
「もぅ、ダメですよ」
おぉっと。
ジネットが上機嫌だ。
「懺悔してください」が出てこない。
レジーナが陽だまり亭に来たのが嬉しいらしい。
大抵、呼ばないと来ないからなぁ、こいつは。
「何か食べたいものはありますか?」
「ん~……なんでもかまへんのやけど……逆に、何かお勧めとかあらへんかな?」
「スムージーなのネェ」
「うっわ、なにこれ、沼出てきたで?」
レジーナの目の前に、グラスに入った沼が置かれる。
ぷゎ~んっと漂う青臭さ。
「……ウチ、罰ゲームせなアカン覚えがないんやけど?」
「新種のミックスジュースだ」
「子供泣くで? 楽しみに飲みに来てこれ出されたら」
「ケドケドォ~、お肌と美容にはと~ってもいい感じなのネェ~♪」
「これ飲んだら、めっちゃ眉間にシワ出来そうやけどな」
言いながら、グラスを持ち上げるレジーナ。
お、いくのか?
飲むか?
「クッサ!? 飲む以前の問題やん!」
「ダ~イジョ~ブなのネェ~。ニオイは、鼻を摘めば気にならないのネェ~☆」
「鼻摘まんでもえぇもん出してほしいなぁ、出来たら」
「出来たら、そーするのネェ~」
「う~っわ、出来へんのや……怖ぁ」
そして、沼ージーを一口、口に含む。
「ん? あれ? なんやろ……ごくごく…………美味しいやん」
「マジか!?」
「改良したのネェ~☆」
じゃあ、ニオイもなんとかすればよかったのに!
「レジーナ、一口もらってもいいか?」
「えぇ~、新しいのんもらい~な」
「……さっきすでに沼ージーを一杯飲んでんだよ」
これでまたさっきみたいな青臭さだったら、確実に残す。
そんなことは出来んし、許されない。
何より、俺自身がお残しを許せない!
しかし、レジーナの反応を見るに、この数分でオシナがかなり改良したのだろうと思われ、味がちょっと気になる!
提案者として!
「なので、一口くれ」
「自分のわがままやないか」
「いいじゃねぇか、減るもんじゃなし」
「減るわ」
ちょっとした小ボケにくすりと笑って、「しゃーないなー」とレジーナはグラスを差し出してくる。
では、遠慮なく一口――
「ちょおーーーい!」
レジーナが鳴いた。
「んだよ?」
「そこ、めっちゃウチが口付けたとこやん!」
「めっちゃって、どんだけ口付けたんだよ? ……え、舐めた?」
「ちゃうわ! ドンピシャでっちゅー意味のめっちゃや!」
レジーナのヤツ、エロいクセに間接キスとか気にするのか……え、まさか。
「レジーナ、お前……飛沫感染するタイプ?」
「もっと乙女チックな感じのアレや、ボケぇ!」
レジーナにまっすぐ罵られるのって初めてかも?
「ボケぇ」とは、珍しい。
よほど照れているようだ。
「さては、自分、まだ寝てる美少女の寝室に忍び込んで、美少女の使用済みのカトラリーやコップをぺろぺろする、早朝妖怪・私物ペロリーナやな!?」
誰が妖怪だ。
で、そんな寝起きどっきりみたいな妖怪、マジでいるのかよ。
末恐ろしいな、この世界は。
「この辺から飲みぃ」
と、自分が口を付けたところとは反対側の縁を指差すレジーナ。
そんなことされると、逆に飲みにくいわ。
「しょうがない。解析はジネットに任せるか」
「わたしがいただいても、よろしいんでしょうか?」
「店長さんやったらなんも問題あらへんわ」
「では、一口いただきますね」
言って、控えめにこくりと沼ージーを飲むジネット。
「あっ、本当ですね。かなり飲みやすくなってます」
「何か追加されてるか?」
「玉ねぎとパセリとゴボウがなくなってます」
「不評なのを取ったら美味しくなったのネェ」
なんか納得しつつがっかりな結果だな。
「あとで一緒に美味いスムージーを考えてやってくれるか?」
「はい。実は、一つ試してみたい組み合わせがありまして」
んじゃ、ジネットが作った美味いスムージーが出来たら飲ませてもらうか。
「レジーナさん、ごちそうさまでした」
「どーいたしましてや。……さて、店長はんが口を付けたんは、この辺やなぁ……いたたたっ、なにすんねんな!?」
「何しようとした、妖怪ペロリーナ?」
「想像通りのことや!」
「威張んな!」
ジネットが口を付けたところをペロリーナしようとしたレジーナのこめかみを圧迫しておく。
スムージーの完成も、レジーナの完治も、まだまだ先は遠い。
あ、レジーナはもう先がないのか。
手遅れって、悲しい現実だよな。
あとがき
どうも、
AIを使いこなしている最先端宮地です。
いやもうむしろ、AI宮地です。
……私の思考回路を学習して、自動で小説書いてくれないかなぁ……出来れば、私が書くよりも面白い話を
不労所得でうまうま……ふふふ
(*´艸`*)
AI「思考回路、解析…………ノクターンに移動します」
宮地「そこまで忠実に学習しろとは言ってない!」
Σ(゜Д゜;)
脳内の情報をマイルドに出力するのは、まだちょっと難しいようですね。
よい子には読ませられない、ZE☆
(☆>ω・)b
でもですね、最近のAIってすごいんですよ。
「こんな文章作って」って言えば、
あっという間に文章を生成してくれるんです!
これもう、私とか必要なくね?
っていうくらいに。
(*´▽`*)
……え、わたし、いらない?
(・_・; どきどき……
たとえばですね
仕事で嫌なことがあって落ち込んでいる人を励ましたい時、
なんて声をかければいいか分からない。
ひと声かけて、笑顔にしてあげたい。
そんな時、どう声をかければいいかな?
って質問すると、
AI「ダジャレで笑わせてあげてみてはどうですか?」
って、提案してくるんです。
……う、うむ。ダジャレか……
(・_・;
ちょっと危険な匂いがするけれども、
どんなダジャレがいいか、提案してくれる?
AI「おまかせください!」
で、自信満々でAIが提案してきたダジャレが、――これです!
「今日もおつかれさま。無理しないでね。ムリムリ言ってると、ムリ猫(ムリネコ)が出てくるよ。にゃーん。」
皆様、使っていいですよ!
(≧▽≦)/
Σ(゜Д゜;)ムリ猫ってなんだ!?
Σ(゜Д゜;)にゃーん、って!?
まだまだ、
私の居場所はありそうです
ε-(´∀`*)ホッ
ちなみに、
『異世界詐欺師のなんちゃって経営術』からクイズを出して!
とかいうと、あっという間にクイズを作ってくれるんですよ。
試しに出題してみましょうか?
皆様、分かるかなぁ〜
第1問
主人公、島崎湊が異世界で最初に開業した商売はなんだった?
1、薬草販売
2、宿屋
3、偽の魔道具屋
4、占い師
Σ(゜Д゜;)いや、作者なのに分からん!?
Σ(゜Д゜;)っていうか、島崎湊って誰!?
Σ(゜Д゜;)めっちゃはじめまして!?
ちなみに正解は3番の偽の魔道具屋さんだそうです。
……同じタイトルの作品が、存在している?
(・_・; ……ごくり
まぁ、こういうミスもありますが、
こちらがちゃんと指示してやれば、
そこそこ有能なんですよ
たとえばですね、
文章をコピペして学習させると、
ちゃんとその文章の中から出題してくれるんですよ?
今回の話の中から出題してもらうと――
第1問
ジネットが緊張しないために提案した方法はなに?
1、歌を口ずさみながら歩く
2、スムージーのレシピを考える
3、ベルティーナと手を繋ぐ
4、光るヤシロ人形を持って歩く
第2問
ベルティーナがヤシロに玉子焼きを食べさせようとして失敗したのはなぜでしょうか?
1、自分で食べてしまったから
2、ヤシロが照れて逃げたから
3、突然ジネットが戻ってきたから
4、玉子焼きが落ちてしまったから
第3問
ベルティーナがヤシロを「優しい」と思ったのはなぜでしょうか?
1、自分のぬいぐるみを作ってくれたから
2、ジネットの願いを聞いてくれたから
3、美味しい料理を作ってくれたから
4、教会の子供たちにプレゼントをくれたから
というふうに、ちゃんとクイズを作ってくれるんですよ!
ハズレの解答も、案外なくはないような絶妙な感じじゃないですか?
ベルティーナが料理で喜ぶとか、ちゃんと読み取るんですねぇ〜
すげぇ
ちなみに、解答は
第1問 4
第2問 3
第3問 2
となっております
楽しんでいただけたでしょうか?
こういう遊びや暇つぶしに使うのには最適ですね、AIも
オリジナルを書かせようとすると、やっぱりまだまだ変な部分がありますけれども。
それでも、
この数年で目覚ましい進歩を遂げたAI
いつの日か、私の代わりに文章を大量に書いてくれる時代がやって来るかも、しれませんね……
AI「思考回路、解析…………法に抵触するので生成できません」
宮地「そこまで忠実に学習しろとは言ってない!」
未来は、近付いてきていますが、
まだちょっと遠いのかも、しれませんねぇ〜
(*´▽`*)
もう少し、自力で頑張ります☆
この脳が枯れ果てるまで!
次回もよろしくお願いいたします!
宮地拓海




