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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
第四幕

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443話 お祭り~光の行進~

 ドーーーン、ドーーン、ドーン――と、腹に響くような太鼓の音が鳴り響く。

 太鼓の間隔が徐々に短くなっていき、乱打するように太鼓がドコドコと音を鳴らす。

 鼓動が呼応するように心拍数を上げていき、興奮がピークに達した時、ピタリと太鼓の音が鳴り止む。


 それと同時に街道から明かりが消えた。



 暗闇に包まれ、しーんとした静寂に飲み込まれる。


 見えていたものが見えなくなり、聞こえていたものが聞こえなくなる。

 世界から切り離されたような感覚に囚われかけたその時、――シャンッ!――と、鈴の音が響いてくる。



 行進の列はまだ遠いのに、風に乗って鈴の音が届く。



 どれくらいの時間そうしていたのか……

 何をするでも、何を考えるでもなく、ただ聞こえてくる鈴の音に耳を傾けて街道の先を見つめて待つ。


 遠くに、ぼんやりとした白い光が見えてきて、それは次第に大きく、明るく、こちらへと迫ってくる。


 シャン……シャン……と、規則正しく鈴が鳴り、やがて光を纏った精霊神の御使いたちの姿が見えてくる。



 先頭を歩くのは、光の御使い。


 長いブラウンの髪をしなやかに揺らし、ゆっくりと歩を進める。

 手に持った光が照らし出す表情は柔らかく、世界のすべてを慈しむような微笑みを湛えている。


 肩にかけたケープと、大きく広がるスカートの裾がまるで流水のように滑らかに波打ち、それ自体が発光しているかのような眩さで闇の中で踊っていた。


 軽く伏せられた視線は、ここではないどこか遠くを見つめているようで、あいつが今精霊神と対話していると言えば、誰もがそれを信じるだろうと確信できるほどに神々しい雰囲気を纏っていた。


 精霊神に最も近い、光の御使い。


 ジネット自身は、精霊神の使いである光の御使いを名乗ることは恐れ多いと、光乙女という呼称を使っていたが……精霊神が今のお前を見れば、たぶん指名してくるぞ、光の御使いにって。


 まぁ、やらねぇけどな、精霊神なんぞには。



 俺が心の中で精霊神に舌を出していると、不意にジネットの視線がこちらを向いた。


 ぼんやりとしていた視線が急にはっきりとして、確実に俺を見た。



 俺を見て、にこりと微笑んだ。



 瞬間、雷に打たれたかのような衝撃が全身を駆け抜けていった。


 今の、本当にジネットか?

 なんというか……いつもと雰囲気が違うなんてレベルじゃなくて、人智を超えた神聖さに満ちていたというか……

 精霊神とか、乗り移ってんじゃないだろうな?



「……おぉ」



 どこからともなく、感嘆の息が漏れる。

 静かながら、感動に震えた心が鳴らした音だと分かる、そんな息遣いがそこかしこから漏れてくる。


 周りの音が耳に届き、俺は自分が呼吸を忘れていたことを自覚した。


 ……ふぅ。

 危うく倒れるところだ。


「な、なぁ。今、先頭の光乙女、俺の方見て微笑んだよな?」

「ばか。お前なわけねぇだろ。俺だよ、俺」

「身の程をわきまえろ。あれは絶対俺にだ」


 俺だよ、バーカ。


「想像以上だな」


 隣で、ルシアがポツリと呟く。


「まさかここまで美しいとは思わなかったぞ」


 視線はまっすぐに光の行進に固定したまま、微かに口元を綻ばせる。


「やり方だけ教わって模倣するのは、至難の業だな」


 まぁ、ジネットが纏うオーラは、一朝一夕で身に付くものじゃないだろう。

 あいつの、教会や精霊神に対する深い愛情は十数年かけて培われた本物だからな。


「エステラも、今日は一段と美しいではないか」


 光の行進は、先頭のジネットだけが少し先行して、その後、少し離れて二列に並んだ女性たちが光る鉢植えに植えられた白い花を持って行進してくる。


 先頭だけ少し突出しているのは、舞うように翻る光のドレスをより美しく見せるためだ。


 先頭と二番目の間だけ150cmほど空いていて、それ以降は100cmくらいの間隔で行進は続く。


 二番手を歩いているのはエステラとあどけなさの残る十歳くらいの少女だ。

 やや緊張が見える少女の隣で、エステラは余裕の笑みで堂々と歩いている。


 美しい姿勢は一切芯がブレることなく、まっすぐに前を見つめて優雅な足さばきで滑るように移動している。


 ジネットが優しさや慈愛、温かさを象徴しているならば、きっとエステラは高潔さや清らかさ、そして芯の強さというものを象徴しているのだろう。


 今ならば、どんな領主が相手であろうと初手で圧倒できてしまいそうな、そんな雰囲気を身に纏っている。

 神々しくすらある。


「エステラの周りは幼い子らが多いのだな。おそらく、そばにいると安心できるのであろう。得難い長所だ、エステラのソレは」


 確かに、エステラの隣や、その後ろを並んで歩く少女はやや幼く、十歳に届くかどうかという年齢に見える。

 それでも、しっかりと前を向いて行進できているのは、いいお手本がそばにいて、きちんと見守ってくれていると思えるからだろうか。


 始まる前に「大丈夫だよ。ボクたちと一緒に楽しもう」なんて声をかけてやっているエステラの姿が容易に想像できる。


「今のエステラの隣には並びたくないものだな。同じ領主として比較されれば、見劣りしてしまいそうだ」


 それは本心からなのか、大役を務めるエステラに対する称賛なのか。

 ルシアが果たして見劣りするのかどうか……まぁ、今は堂々と大役を務めているエステラを持ち上げておく場面か。


「大したもんだろ、ウチのボスも」

「あぁ。貴様にくれてやるのは惜しい。手を出すなよ」


 なんじゃそりゃ。

 誰がいつ手を出したんだよ。


「美しいな、我らの友人は」


 エステラの横顔を見送って、ルシアが改めてそんな言葉を口にする。


「確かにな」


 悔しいかな、思わず視線が追いかけてしまうくらいには美しく、いつものように悪態をつくことは出来なかった。


 本当に綺麗だったな、今日のエステラは。


「あっちの二人も、なかなかのもんやで」


 エステラが通り過ぎたあと、レジーナが少し後方を指差す。


 マグダとロレッタが、二人並んで行進していた。

 二人とも、いつものおふざけムードは一切見せず、しずしずと、お淑やかに歩を進めている。

 頭が上下しないように、ゆっくりと、静かに、余計な音が紛れ込まないように。


 シャン……シャン……と鳴る鈴の音が、見慣れた二人の顔に見たこともないような神聖さを与え、これが初対面だったらうっかり惚れてたかもなと思わせるくらいに美しく魅せていた。


「あいつらは、あんなに美少女だったのか」

「そうだぞ。知らなかったのか? 人生の半分くらいを損しているぞ、カタクチイワシ」


 まぁ、知ってるけどな。

 ただ、大人しくしていると、こうまで大人っぽくなるのかと驚いているだけだ。


「ロレッタがいい女に見える」

「マグマグに至っては、天使であろう?」

「あぁ、マジ天使ッス」

「キツネの棟梁はんかいな」


 からからと、控えめに笑いながらも、レジーナは行進する二人の姿をじっと見つめ続けていた。


「こうしてみると、あの二人もちゃんと成長してるんやね。初めて会ぅた時より、ちょっと大きなってはる気ぃするわ」


 いつもならここで、「胸がか?」とふざけるところだが……


「あっという間に大人になっていくな、子供ってのは」


 神聖な空気を纏い、大役を果たしている二人に対しては、そんなことを言えなかった。

 今日くらいは、素直に称賛してやるよ。

 心から、本心で。


「綺麗になったな、二人とも」


 出会ったころは、まだまだ子供っぽさが抜けきらないどころか、色濃く残っていたのにな、どっちも。

 もう、すっかりと大人の表情だ。


 こりゃ案外、あいつらの巣立ちはそう遠くないのかもしれないなぁ。



 ――とか、思っていると、ロレッタの目がこちらを向いた。

 そして、「口、動かしてませんよ~」感を出そうとして逆に変に目立つような口の動きで、何かを呟いた。

 その直後、マグダの耳がこちらを向き、尻尾が「ピンッ!」と立った。


「私語してんじゃねぇよ」

「まだまだ、幼さが抜けきらんようやねぇ」

「くくっ、まぁ、そこがまた魅力的ではあるのだがな」


 俺たちに気付いて集中を切らせた二人は、ことさら姿勢を美しく見せようと、不自然なほどエレガントに優雅に色っぽく歩き始めた。


 ……色っぽさを追加してんじゃねぇよ。


「あとで説教だな」

「いや、褒めといたって。『おもろかったで』って」

「こういうのが、四十二区らしくてよいな」


 それは絶妙に褒め言葉じゃねぇよ、ルシア。


 まったく……

 ま、楽しんでるんだろうなってのは伝わってきたから、今回だけは大目に見てやるか。




 陽だまり亭一同が目の前を通り過ぎたあとも、光の行進はまだまだ続いている。


「惜しいことをした」


 ポツリと、ルシアがそんなこと言う。


「教会前にいなければ、ノーマたんの御使い姿が見られんかったのだな」


 そうそう。

 東側の行進は、こっちまでは来ないからな。


 それぞれの行進が両端まで行って、折り返してきて教会で再合流――とかやってると、さすがに時間がかかり過ぎる。


 東側を見たいヤツは東へ、両方見たいヤツは教会前に陣取って見るほかない。


 だが。


「教会前だと合流する光に圧倒されて、一人一人の顔を見ている余裕はないぞ」


 実際、俺は前回ジネット以外の姿を見ていない。

 そんな余裕もないうちに、光の行進は教会へと入っていってしまったからな。


「ふむ。東西から光が集まってくる光景は、さぞ美しかろう。確かに、平常心を保って知り合いを探しているような心の余裕はないかもしれぬ。まぁ、今回はこの場所でよかったと思おう」


 きっと、ノーマの勇姿はパウラやネフェリーがしっかりと見ていてくれてるさ。

 後日、どんな様子だったか、お互いに情報を交換し合えばいい。


「……見られてよかった」


 光の行進を眺めながら、ルシアが淋しげな声音で呟く。


「どうした。お前、もうすぐ死ぬのか?」

「たわけ。そんな暇などないわ」


 いや、「暇だから、いっちょ死んどくか」ってヤツいねぇから。


「劇場に併せて、今回もたらされたあれやこれや、おまけに三十四区との合同騎士団の設立に伴う庶務雑務。目を回す暇もないほどに忙しくなることが確定しておるのでな。もし私の身に万が一のことがあれば、死亡理由には『忙殺』か『おおいそが』とでも書いておけ」


 いや、『おおいそが』って。

「やだ、いそがぃ~」って倒れるのか?

 随分余裕あるな、おい。


「当面、貴様の顔を見る機会は持てぬであろうな」

「そんなに寂しがるなよ」

「あいにくと、寂しがってやる暇もないのでな。どうしても堪えきれぬというのであれば、こっそりと覗きに来ても構わぬぞ」

「あれ、三十五区って大衆浴場もう出来たんだっけ?」


 覗きに行きたい場所なんか、それくらいしか思い浮かばないもんな。


「貴様を牢屋に閉じ込めておければ、少しは気苦労も減るのであろうがな」


「はぁ~あ……」とため息を吐きながら、ルシアは真面目な目つきで俺を見る。


「こちらが大きく動けば、あちらもそれに呼応して行動を起こす可能性が高くなる。何かあれば連絡を寄越せ。決して、一人で無茶をするな」


 ここに来ても、やっぱり大食い大会でのことが尾を引いているのか。

 どうせエステラあたりから聞いてるんだろ、俺が大食い大会で取ろうとした行動のこと。


 やっぱ、全然信用されてないじゃねぇか。


「それはお前もだろうが。いっつも限界ギリギリまで一人で背負い込んで、泣きべそかいてんじゃねぇか」

「それは、『もっと俺を頼れ』と言ってくれておるのか?」

「……エステラやダックに、もっと甘えろって言ってんだよ」

「ふふ……、エステラは私より背が低いし、ダックは汗っかきなせいで常時うっすら湿っておるのでな。泣きたい時に胸を借りるには適しておらぬ」


 そう言って、「貴様ももう少し背が高ければ、さり気なく寄りかかって胸で泣いてやれるのだがな」などと抜かす。

 悪かったな、お前とほぼ同じ身長で。


 ヒール脱いだら、俺の方が高いからな?


 で、そうじゃなくて。


「泣く前に連絡してこいって言ってんだよ」

「あまり露骨に甘やかすな。私への懸想がバレてしまうぞ?」

「ほざいてろ」


 くつくつと、勝ち気な笑みで肩を揺らすルシア。

 あぁ、本当に忙しいんだな。


 こいつは、こういう空気を好む。

 好むからこそ、しばらく味わえないこの空気を、今目一杯堪能しようとしているんだ。

 ギルベルタも、それが分かっているからか、ずっとルシアの傍に控えて口を挟んでこない。


 こういう話がしたかったから、他の領主がわんさか集まるであろう教会前を避けたんだな。


「ギルベルタ。お前も、つらいことがあったら連絡してこいよ」

「ありがとう、友達のヤシロ。頼らせてもらう、その時は。けど、平気。もらった、お守りを」


 ごそごそと、懐にしまい込んだ二枚のメンコを取り出すギルベルタ。


 一枚は、当て物屋の下見の時に引き当てたのだと言っていた『導く英雄』メンコ。

 もう一枚は、太陽のように微笑む『陽だまり亭店長』メンコ。


「ジネットのメンコも当てたのか?」

「もらった、友達のジネットに」


 あぁ、あの一枚余ってたヤツか。


「した、おねだりを。交換条件をつけて」

「交換条件?」

「言った、友達のジネットは、『この次、陽だまり亭にお泊まりする時は、私のベッドで一緒に寝てくださいね』と」


 そんな交換条件だったら、誰だって飛びつくな。

 願いが聞き入れられた上にご褒美までもらえるなんて、さすが光の御使い。慈愛の大盤振る舞いだな。


「じゃあ、早くお泊まり会が出来るように、仕事頑張れるな?」

「頑張る、私は。Like A 馬車馬、ルシア様は」

「私なのか、ギルベルタ!?」


 ルシアを馬車馬のように働かせるつもりのようだ。

 陽だまり亭が絡むと、やや暴走気味になるからなぁ、ギルベルタは。

 ルシア、頑張れ。

 ギルベルタの性格も、お前の教育の結果だから。


「じゃあ、馬車馬のように働くルシアにも、交換条件付きで俺のメンコをプレゼントしてやろうか?」


「いらんわ!」と言われるであろう問いを投げかければ、ルシアは想像通り「いらぬ」と短く切って捨てる。


「貴様のメンコなら、すでに入手済みだ」


 ちょっと、違う理由での「いらぬ」だったようだが。

 俺のメンコ、いつ手に入れたんだよ?


「貴様がジネぷーたちと祭りを見て回っている間にな、ギルベルタと一緒にもう一度当て物屋へ行ったのだ。そこで引き当てたぞ、貴様の素敵なメンコをな」


 言って、あくどく笑う。

 そして、笑いを堪えつつ、懐から俺のメンコを取り出して見せてくる。


 俺が、火付け布で火柱を立たせて盛大にわたわたしている面白イラストのメンコを。


「……ベッコ。いつ作った、こんなもん」

「あはははっ! 貴様はほとほと愛されておるようだな」


 俺の苦虫噛み潰しフェイスがたいそうお気に召したようで、ルシアがこの上もなく上機嫌に無防備な笑顔を向けてくる。


「これであれば、宝物庫に飾っておいてやっても構わぬぞ」

「格が落ちるぞ、宝物庫の中身、全部」


 そんな面白メンコと並べられる、聖女王の姿絵が気の毒だっつーの。


「なんでウチのメンコまで持ってはんのんな、領主はん?」


 俺らと当て物屋へ行った時にルシアが引き当てた、蓄光塗料ギミック付きのレジーナメンコを見つけて、レジーナが眉根を寄せる。


「やはり縁があるのであろうな。レジむぅは、我が区の領民を何人も救ってくれたのであろう?」

「そんな……何人もやあらへんわ。大袈裟やで」


 ウィシャートに毒を盛られたカンパニュラ。

 薬師ギルドの貴族に大怪我をさせられたケチャラ。

 二人とも、レジーナがいなければ命も危ないくらいにヒドイ状態だった。

 トラウマになって、二度と人前に出られなくなるかもしれない状況だった。


 それを、こいつは癒やしてやったのだ。


 手当てや処置はもちろんのこと、レジーナに言われた言葉は、あいつらの心にしっかりと刻み込まれて、前を向いて歩いていく力になっていたと思うぞ。

「何があっても助けてやる」って言ってもらえるのは、本当に心強いもんだからな。


「ケチャラの話を聞いた。改めて、礼を言う」

「いらへんわ、そんなん。もう十分、本人からもろたさかいに。これ以上はもらい過ぎや」


 少々照れて、手をパタパタと振るレジーナ。

 さり気なく行った善行の礼を言われるのは気恥ずかしいらしい。


「そなたが望むなら、このメンコも宝物庫に飾ってもよいぞ」

「いらんいらん。ウチのメンコなんか、トイレの壁の、床ギリギリのところにでも飾っといてんか」

「なんでトイレでローアングル狙ってんだよ。悪趣味極まりないポジションを謙虚ぶって要請してんじゃねぇよ」

「領主はんのとこのトイレって水洗? ほなら、便器のフタの内っ側にでも……」

「トイレに友人の絵姿など飾らぬ!」


 見られてするのって、変に緊張するもんな。いくらイラストとはいえ。


「ほな、誰の絵姿をトイレに飾るん?」

「トイレには何も飾らぬ!」


 きゃっきゃっとかしましく、仲良さそうにじゃれ合うルシアとレジーナ。

 お前ら、こんな神聖な光の行進を見ながら、何の話してんの?

 マジで一回、二人揃って懺悔してこいって。


 間違っても、俺を巻き込まないタイミングでな。




「ふむ。どうやら行進もあそこで最後のようだな」


 ルシアの視線を追えば、ゆっくりと進む光の行進の最後尾が見えていた。

 長く連なる光の帯が、あそこでぷつりと途絶えている。

 あの最後尾が教会に入れば行進はおしまいだ。


 だが――


「行進が終わっても、まだお楽しみが残ってるから、期待して待ってろ」


 光の行進は、行進だけではないのだ。

 ……ちょっと、なに言ってんのか、訳分かんないだろうけども。


 まぁ、見てろって。


「ギルベルタ。ちょっとこっちに来とけ。お前の後ろ、デカいヤツばっかりだから」


 身長差があっても問題はないだろうが、圧迫感がすごそうだからな。

 背の低いギルベルタは、俺たちの間にいてもらう方がいい。


 さて、行進に参加した連中は、教会でちゃんと見ているだろうか……


 エステラに許可を取り、連中には事前に説明してある。

 きっと大丈夫だろう。


 光の行進が過ぎ去り、街道に人がばらばらと散らばり始める。

 この辺の連中は、情報を得てないのか?

 他所の区から来たヤツが結構多いのかもしれないな。


「おーい、まだ帰るなよ。今度は、畑の上空に注目だ」


 一応、動き始めた連中に注意をしておく。

 とっておきがまだ残ってるからな。



 ピュイィーーーー!



 っと、ヒヨドリの鳴き声のような、夜の空を劈く高音が鳴り響く。

 開始の合図だ。


「ルシア、ギルベルタ、空を見ていろ」


 レジーナは、作り手側だから当然知っている。

 周りの連中がどんな反応を見せるのか、ソッチの方が気になっている様子だ。


「来るで」


 耳元で、幾分興奮したようなレジーナの囁きが聞こえる。


 次の瞬間。


 先ほどの太鼓の重低音を超える巨大な音を鳴り響かせて、夜空に大輪の光の花が咲いた。


「花火か」

「あぁ。俺の故郷じゃ、祭りと花火は親和性の高い、相棒みたいなもんなんでな」


 赤や青、緑や紫に輝く光の花。


 開いては消えていく儚さに、見る者の口からため息が漏れている。


 ドン、ドーンと打ち上がる花火に、しばし言葉を忘れて見惚れてしまう。

 すっげぇ。

 めっちゃ綺麗だ。


「これはまた……美しい」

「きれい……と呟く、言葉少なめに、私は」


 誰もが花火に見惚れて、花火の音以外何も聞こえない、妙に静かな時間が訪れる。


 どれくらいそうしていただろうか。


 一つ、二つと夜空に打ち上げられていた花火は、次第にその間隔を狭めていって、二個同時に、三個同時にと夜空を埋め尽くす。

 ついには、いくつもの花火が連続で打ち上げられ、黒い夜空を光で包み込もうとでもいうように、無数の花火が咲き、広がり、散っていく。


 絶え間なく鳴り響く爆音が心地よく、目まぐるしく色を変える光の花に気持ちが高揚して、やがてそれらが止んだあとに訪れた漆黒と無音の世界に、なぜかほっと安堵する。


 そして、最後の最後。


 超特大の花火が夜空を埋め尽くすと、人々から歓声が湧き上がった。

 誰からともなく、拍手が巻き起こり、言葉にすらなっていない雄叫びが上がり、体の奥底から湧き上がってきた感動を近くにいた者たちと共感し合う。


「言葉もない。まさに、圧巻だな」

「お前んとこの名物でもあるんだぞ、この花火は」

「なるほどな。同じモノであっても、使い方と使い所を熟知しておればこれだけの差が生まれるというわけか……小賢しい、カタクチイワシめ」


 好戦的な瞳で俺を見て、にぃっと口角を持ち上げる。

 噴水や聖女王のレリーフを見た時に見せたような、実に楽しそうな笑顔だ。


「今日は戦闘服ドレスではないのでな、素直に甘えておくとしよう。とても参考になったぞ、カタクチイワシ。ついでに、三十五区で活かせるアイデアがあればいつでも受け付けておる。遠慮なく申し出るように」

「そーゆーの、『甘える』じゃなくて『たかる』って言うんだぜ」


 甘えるなら、もっと可愛らしくしてみやがれ。


「花火も終わったし、これでホンマにおしまいやね」


 光の祭りに関しては、領主による締めの挨拶は執り行われない。

 エステラは行進に参加してるからな。


 なので、「はい、ここまで!」って宣言もなく、「店も閉まったし、そろそろ帰るか~」と自然解散する感じだ。


「ほな、ウチもそろそろ帰ろかな」

「送ってくか?」

「大丈夫や」

「帰り道に幼気な幼女を見かけても、浴衣の前を『ばっ!』ってすんなよ?」

「あっはっはっ、無茶言ぃなや」


 いいや、無茶ではないはずだ!

 ……こいつやっぱ送っていかなきゃダメなんじゃないか?

 変質者が出るから。

 っていうか、変質者を出さないためにも。


「よし、送ろう」

「大丈夫やっちゅうねん」


 お前が大丈夫でも、周りに被害が及ぶんだよ。

 ……まったく。


「あの、よろしければ私がご自宅までお送りいたしますよ」


 と、声をかけてきたのは、ナタリアよりも小柄な伊達メガネっ娘。

 エステラのところの給仕、シェイラだった。


 お化け屋敷の時は男性ボイスで大活躍していたシェイラも、普段の声はか細く、女性の中でも線の細い声質に分類されるだろう。


 けど、ナタリア仕込みのナイフ術と体術を体得しているらしいので、護衛としては申し分ない人材だ。


 ただ……


「シェイラ。そいつと一緒にいると、同類だと思われかねないぞ」

「こらこら、そこの失敬魔神。よぅ言ぅな、自分」

「大丈夫ですよ」

「ほら、見てみぃ」

「私、『この人とは関係ないんでオーラ』出すの得意ですので」

「わぉ、あんま馴染みのない人やのに、辛辣っ!」


 楽しそうにしてんじゃねぇよ、レジーナ。

 あと、少しずつ、少ぉ~しずつ、ナタリアに影響されてきてそうで怖いから、なんとか踏みとどまれよシェイラ。

 館の給仕が全部ナタリアみたいになったら、この街は終わるぞ。


 お前は、律する側でいてくれ。


「じゃ、俺らは一回教会に寄ってくか」

「うむ、そうしよう。エステラがそこにいるのであれば、他の領主も集まってくるだろう」

「先導する、私は。まだ危険、多いから、人が」


 ぼちぼちと、帰路につき始めた群衆。

 ゆっくりとした歩みで街道の左右へと分かれていく。


「そこの方、どうかされましたか?」


 そんな中、人の波に乗らず、その場に留まっていた一人の女性に、シェイラが声をかける。


「いえ、あまりに綺麗だったので、少し放心してしまって。もう、帰ります」

「あ、自分」


 振り返ろうとした女性を、レジーナが呼び止める。


「お腹の具合、もうえぇんか?」

「あ……はい。お薬をいただきましたので。では」


 ぺこりと頭を下げて、その女性は小走りで去っていった。


「あの方、少々気になりますね」


 伊達メガネをくいっと持ち上げて、シェイラが去っていく女性の背中を見つめる。


「見かけない顔でしたが、お一人で来られたのでしょうか。他区のお祭りに、それもこんな夜遅くまで」


 シェイラが言うには、今回光の祭りに押しかけた他区の連中は、四十二区大好き領主のいる区の人間が多く、そのほとんどがラーメン講習会や素敵やんアベニューの準備などで四十二区に関わったことがある者たちとその関係者だったらしい。


 広く告知したわけじゃないから、何も知らない、四十二区に来たこともない一般人が顔を出すようなことはないのではないかと、シェイラは自身の考えを述べる。


 まぁ確かに、隣町でそこそこ大きな祭りをやっていても、詳しく知らなければわざわざ見に行こうとはならないよな。

 日時だって、知ってるか怪しいし。


 まして人でごった返す祭りに、一人で行こうなんて、俺なら思わない。

 写真を撮りたい写真家や、何かを調べたい研究者でもない限り、縁もゆかりもない地域の祭りに一人で参加するってのは、あまりないのではないだろうか。


「けどまぁ、一人で参加しちゃイケないってルールもないし、どんなことも一人で楽しめるヤツもいるし、何かの理由で一人になっちまった可能性もある」

「それは、そうですが……」

「ボッチにだって生きる権利と、人生を楽しむ自由はあるんだ。だから強く生きろよ、レジーナ」

「やかましいわ。特大の~、やかましいわ!」


 セリフを溜めることで特大感を演出するレジーナ。

 なかなか斬新なツッコミじゃないか。嫌いじゃないぞ、その意欲。


「すみません。私の考え過ぎだったようですね」


 女性の背中が人混みに紛れて見えなくなると、シェイラは困り眉毛で硬い笑みを浮かべた。


「考え過ぎてしまうのが、私の悪い癖なんです。心配性過ぎると、エステラ様にも幾度となく言われておりますし」

「いや、そうでもねぇよ」

「せやね」


 シェイラの自分を責めるような発言を否定した俺に、レジーナが被せてくる。


「ウチが渡したんは粉薬やで? 水もないのに、もう飲んだみたいな顔してケロッとしとった。あら、食べ過ぎて~っちゅうのも方便やろね」

「あぁ。おまけに、薬の値段も聞かずに買おうとしてたしな」


 薬師ギルドの薬は、領主代行だった時期のエステラが購入をためらうほどに高額だった。

 一般人なら、何はなくとも「おいくらですか?」と聞くはずだ。

 とても手が出ないような値段なら検討する余地もない。


 実際、ランドリーハイツの研修生たちは、薬と聞いただけで遠慮しまくってたからな。


「ありゃ、薬の値段がいくらだろうと構わないほどの金持ちが一般人のふりをしていたか……薬の値段を知っているヤツか」

「カタクチイワシは、あの女が薬師ギルドの関係者であると睨んでいるのか?」

「その可能性はある、って感じかな?」


 ルシアの答えに、グレーな返事をしておく。

 確定は出来ない。


「薬師ギルドといえば……?」

「十一区。くだんの劇場がある区だな」


 そう。

 陽だまり亭にちょっかいをかけて痛い目を見た、見せかけ筋肉のいる劇場があるのが十一区だ。

 そこの領主は、薬師ギルドのボスらしい。


 たまたまの偶然、なのかもしれない。

 あくまで俺の推測に過ぎないが……少々出来過ぎているだけに、無視するわけにもいかない。


「前もって、準備だけはしておこう」

「そうだな。……ふふっ」


 そこはかとなく緊張した空気の中、ルシアが微かに笑う。


「どうした?」

「いや、なに……」


 夜の闇の中にあって、力強く輝く瞳が俺を見て、ゆるく弧を描く。


「貴様に会う機会が減りそうだと話した矢先に、貴様と関わらねばならない事態が起こりそうな気配がしておるのでな……」


 まったくだ。


「貴様は精霊神様に甚く気に入られているらしいからな、願いを聞き入れてくださったのではないか?」


 もっとルシアに会いたいよ~って?

 誰が願ったか、そんなもん。


「どうか、ルシアがもっとまともな領主になりますように――」


 手を組み、教会の方へ向かって祈りを捧げておいた。


 俺を気に入ってるなら、俺の願いを聞き届けろよ、精霊神。

 まぁ、どーせ聞きゃしないんだろうけどな。




 ギルベルタとシェイラに守られながら、俺たち一行は教会を目指した。

 帰る方向が一緒なので、そこまではレジーナも一緒にな。


 そして、教会にたどり着いた俺たちを出迎えてくれたのは、眩いばかりの白い光に包まれた――



「刮目なさいまし!」



 ――イメルダだった。



 なにやってんの、こいつ?

 ちっさい子供らに光る鉢植え持たせて、自分をぐるっと取り囲むように配置して、その真ん中でポーズとか決めちゃって。


「なにやってんの、お前?」

「今この瞬間、一番輝いているのはワタクシですわ!」

「祭り、もう終わっちゃったけどな」

「後夜祭~ライトニング・イメルダを愛でる祭り~の開催ですわ!」


 勝手に開催すんな。

 で、「うぉぉおお!」じゃねぇんだわ、木こりのオッサンども!

 ……ちぃっ、木こりじゃないオッサンと、若い女子たちも複数名混ざっている。

 厄介なことに、イメルダにはイメルダ全肯定のファンが多いんだよなぁ。


「んじゃあ、お前と有志で好きなだけやってきてくれ、後夜祭。俺は疲れたからもう帰るけども」

「それはそうと、ヤシロさん。いかがですの、このワタクシの浴衣姿は!?」

「ごめん、めっちゃ眩しくて全っ然浴衣見えないんだ」


 ジネットたちみんながこぞって眩しいというこの白い光を全然眩しいと感じない俺が「眩しい」って言ってるんだぞ?

 どんだけ眩しいか分かるか?

 カメラのフラッシュがずっと目の前で焚かれてるくらいに眩しいんだよ、これ。


「ほら、解散解散! ガキども、あんまり眩しいの見てると夜眠れなくなるぞ」

「「「夜はまだまだこれからですわ!」」」

「イメルダ。ガキどもに悪影響を与えてんじゃねぇよ」

「ヤシロさんからそのようなことを言われるとは、……心外ですわ!」


 いや、心外でもなんでもないはずだ。

 真っ当な意見だからな。


「ほら、行進を頑張ったお子様どもは、向こうでミックスジュースでも飲んでこい」

「「「やったぁ~!」」」


 きゃっきゃと、光る鉢植えを持って談話室へ向かう少女たち。

 まだまだガキだな。

 嬉しそうにスキップしても全っ然揺れもしない。


「……ふっ、お子様め」

「全年齢、分け隔てなく同じように接するんですのね、ヤシロさんは」


 基本はな!


「お、今回は大人っぽい浴衣だな」


 眩し過ぎる光が霧散し、ようやくイメルダの浴衣が視認できた。

 前回は、若さ爆発、改造超ミニ浴衣を着ていたイメルダだが、今回はしっとりと大人っぽい、落ち着いた色合いの浴衣を着ている。


 こいつ、朝領主たちが集まった時はドレス姿だったから、浴衣はまだ見てなかったんだよな。

 濃紺の生地がしっとりと、鮮烈に赤い花びらが艶やかに、実に見応えのある浴衣だ。

 うん、なかなかいいじゃないか。


「前回は気が付きませんでしたが、今思えば、ヤシロさんの反応がイマイチでしたもの」

「今思えば、なのか?」

「えぇ。当時は、『何を着ようが、ヤシロさんは確実にワタクシに見惚れて虜になるに違いありませんわ』という、絶対の自信がありましたもの」


 ものすっごいポジティブ!?

 ちょっとうらやましいよ、お前のそーゆーとこ。


「ですが、まぁ、それも若気の至りですわね」

「いや、まだまだ十分若いだろうが」

「ワタクシ、気付いたんですの」


 この一年で、すっかりと支部長が板についたイメルダ。

 落ち着きを身に付け、前より一層気品が溢れている。

 前回の超ミニ浴衣を着ていた姿と比較すると、本当に大人っぽくなったな、イメルダは。


「奇をてらった衣装でなくとも、周りの方たちと同じような衣装であろうとも、内から滲み出す気品と色香がある限り、どう転んでもワタクシは美しいのですわ! ――と」


 やっぱ、めっちゃポジティブ!?

『――と』じゃねぇーよ。


 実はあんま成長してないのかも?


「ですが、美しいでしょう、今宵のワタクシも」


 腕を広げて、妖艶な蝶の羽ばたきのように裾を揺らすイメルダ。

 どこで覚えてくるんだか、いちいち似合うな、こいつは。


「朝はいろいろ忙しく、一番注目を集められるタイミングを見計らっているうちにお披露目の機会を逸してしまいましたが――」


 逸してんじゃねぇよ。

 つか、そんなことを考えてたのか。


「満を持してのお披露目ですわ。……いかがでして?」


 この時間までお披露目が出来ないほど、こいつは今回忙しくしていたのか。

 頑張ってたんだろうな。


「すげぇ似合ってるぞ、イメルダ。もちろん、とびっきり綺麗だ」


 まぁ、ルシアのような、大人の魅力には、まだほんの少し届いていないけれど。

 こいつが大人の魅力まで兼ね備えたらと思うと、ちょっと怖いな。

 手玉に取られるなよ、将来の俺。


「……そう、ですの」


 こうしてまっすぐ褒めてやれば微かに照れを滲ませる。

 今はまだ、妖艶さにも可愛げがある。


「刺されろ、カタクチイワシ」

「――って言いながら、手刀で俺の脇腹をザクザク刺してんじゃねぇよ」


 くすぐったいんだよ、そこ!

 絶対、顔には出さないけれども!


「イメルダ先生。ここにタラシがおる。気を付けるのだ」

「ヤシロさんでしたら、ジゴロ生活も可能かもしれませんわね」


 ジゴロって、『ヒモ』ってやつだろ?

 年上のおねーさんに愛を提供する見返りに養ってもらう男。

 んな面倒な生き方するかよ。


「バーサさんやシンディさんなら喜んで囲ってくださいますわよ」

「介護じゃねぇか」


 バーサ(二十四区麹工場の取りまとめ役)もシンディ(マーゥルのところの給仕長)もノーサンキューだっつーの。

 よし、話題を変えよう。そうしよう。


「イメルダ、今日はずっと裏方やってたのか?」

「概ねそうですわね。お父様が忙しくされていましたので、その補佐を買って出たまでですわ」

「祭りは楽しめたか?」

「ご心配には及びませんわ。ルピナスさんやアルシノエさん、ロリーネさんたちとお店を見て回りましたのよ」


 うわぁ、なにその貴族の集い。

 濃そう……


「街門前広場でメイクアップをしてくれるお店がありましたのでみなさんで赴き――鍛えて差し上げましたわ!」


 だよね!?

 おそらく素敵やんアベニューからの出張所なんだろうけど、そのメンツに対抗できるほどの腕はまだないよね!?


「……泣かせてないだろうな?」

「あら、ヤシロさん。ご存知ありませんの? 涙は女のアクセサリーですのよ?」

「恐怖から流れる涙は、呪物にはなってもアクセサリーにはならねぇよ」


 恋が一切絡んでない涙だからね!


「我が騎士ー!」


 ぴょこたん! っと、浴衣のリベカが飛びついてくる。


「おぉ、リベカも来てたのか?」

「うむ! そ、その……彼と、回ったのじゃ……きゃっ!」

「そうかそうか。で、フィルマンとスコップはどこだ?」

「なぜ埋めようとなさっているのかしら、この方は?」

「イメルダ先生よ、それは愚問というものだ」


 浴衣デート楽しんでんじゃねぇーよ!

 爆ぜろ、リア充どもめ!


「こんな美人を三人も侍らせて花火を見ていたのでしたら、ヤシロさんの方がよっぽど羨まれているはずですわ」

「美女三人というがな、……ルシアとレジーナだぞ? ギルベルタはいいとして、残りはルシアとレジーナだぞ?」

「なんで二回言ぅたん、今?」

「締め上げて軒先に吊るすぞ、カタクチイワシ!」


 ほらみろ。

 どこの世界に、締め上げて軒先に吊るされかけてるリア充がいる?

 充実とは程遠いんだよ、俺は。


「ソフィーとバーバラも来てるのか?」


 三十五区の婆さん司祭を招くにあたり、目眩まし要員として「四十二区で始まった新しい精霊神の祭りの視察」という名目で、二十四区からシスターバーバラと、リベカの姉シスターソフィーを呼んである。


「うむ、来ておるのじゃ」

「全然見かけなかったな」

「お姉ちゃんはずっと教会におったのじゃ」


 あぁ、じゃあ会わないか。

 片付けまで、教会に近寄るのはやめておこうとジネットと話していたしな。


「それよりも、花火じゃ! すごかったのじゃ! 我が騎士も見たのじゃ? お姉ちゃんもシスターバーバラもびっくりしておったのじゃ!」


 ぴょんぴょんと跳ねてテンションの高いリベカ。

 そっか。

 教会の人間もちゃんと見てたか。

 なら、よかった。


「リベカ。ジネットとエステラを呼んできてくれないか? たぶん、今俺は入らない方がいいだろ?」


 行進に参加した女性たちが待機している教会の中は、きっと男子禁制に違いない。


「うむ、分かったのじゃ。ちょっと呼んでくるのじゃ」


 この後、領主たちは自区に帰ったり、もう一泊どこかに泊まったりと計画を立てているだろう。

 その前に、もう一度一堂に会して軽く話をしておいた方がいい。

「ちょっと質問が~」なんてことで呼び出されるのも、押しかけてこられるのも面倒なんでな。


「ほな、ウチは先帰らしてもらわ」

「おう、変質者に気を付けてな」

「大丈夫や、一番の容疑者がここにおるんやさかいに」

「あっと、いけね、言葉が足りてなかった。変質者にならないように、気を付けてな」

「そらおおきに。熨斗つけて叩き返したるわ、そのセリフ」


 ぺちーん! と熨斗付きの何かを叩きつけるような素振りを見せて、レジーナはケラケラ笑って帰っていった。

 あ、シェイラを借りたこと、エステラに言っとかなきゃな。


 そんなことを思いながら、俺はジネットたちを待っていた。





===★==★==★===




 乗合馬車に揺られながら、女は紙にペンを走らせる。



『本命は37ではなく35。

 スアレス家現当主とオオバヤシロは互いの姿絵を持ち合うほどの関係であり、オオバヤシロが懸想しているという発言を確認。


 また、薬剤師ギルドのギルド長も二名とは懇意な様子』



 予想以上の収穫に、思わず緩みかける口元を正すため、女は一度紙から視線を上げる。

 誰にも見られないよう警戒しつつ、懐に手を入れる。


「思いがけず、いい土産も手に入ったわね」


 女の懐には、小さく丁寧に折りたたまれた包み紙が入っていた。

 これまでは歯牙にもかけなかった正体不明のギルド。

 だが、ある事件をきっかけにその存在感は否応なく増している。



 エチニナトキシンの解毒薬を開発したと思しき、謎の薬剤師。



 公にはされていないが、薬師ギルドが知らないのであれば、薬剤師ギルドが関与したとしか思えない。


「この薬を解析すれば、何か情報が得られるかもしれないわね」


 女は誰にも気付かれないようにほくそ笑むと、そっと一包の薬を懐へとしまい込んだ。



 ゆっくりと進む馬車の中。

 女は、眠ることなく、明日の朝一番で行う報告の予行練習を脳内で始めていた。







あとがき




スパイラル・宮地です☆


いえ、前回「スピリチュアル」だったもので

何か似た感じの言葉はないかと思いまして


別に、ネジネジしてるわけではございません。


あ、ネジネジしないんで長いマフラーとか送ってこないでください

ネジネジしないので!



さて、本編では、

ヤシロとルシアのやり取りは傍から見ているとイチャついているようにしか見えない疑惑

――を、傍から見てみました☆


前回ちらっと出てきた不穏な女さん目線の追記です


いろいろ危うい発言ありましたからね~

事情を知らない人が見たら、そりゃそー見えますよ、っていう(^^;


そういえば

四十二区の港の着工式では

エステラとのやり取りが他区の領主さんには「こいつら、絶対付き合ってんじゃん」って見えてたんですよね~


ヤシロさん、そーゆーとこ!



で、今回はちゃんとみんなの行進を見守りました

前回はアレでよかったとして、

『π』で行進する前のみんなのエピソードを書いた時に、

「あぁ、この娘たちの行進も見てあげたかったなぁ」と反省しまして


そして今回、満を持してちゃんと見学してみました!


みんな、ちゃんと綺麗だったんですよ

マグダ&ロレッタはお茶目してましたけれども!(笑)


あ、『π』っていうのは一幕の合間で

他のキャラクター視点で見たらこのシーンってこんな感じだったのかな~とか

この話とこの話の間にはこんなことがあったんじゃないかな~って

っていうSSを81本(数に深い意味は……まぁ、ありますけれども!)書いたSS集でして

小説家になろうさんの方では…………あれ、置いてない!?


あれ、どっかに置いといたと思ったんですが……(・_・;



えっと……

カクヨムさんの方でご覧いただけます☆


『異世界詐欺師π』で検索してみてくださいね☆


ちなみに、該当SSは『【32/81π】一歩一歩、その場所に向かって』というタイトルです☆


ご興味があれば、是非☆

(*´ω`*)ノ



では、今日は何のお話をしましょうか

冒頭を考えるとネジネジのお話を……


すみません、ネジネジのエピソードは持ってませんでした。

サイコロトークで「ネジネジの話、略して――ネジバナ~」とか言われても

話せることが何もありません(>△<;



ズキズキの話ならあるんですが……


いえね、

少し前になるんですが、

凍らせて食べるゼリー、みたいなものにハマりまして

気軽に食べられるサイズで、三種類くらいの味が一緒に入ってるヤツがスーパーで売ってまして

冷凍庫に常備して、お風呂上がりとか寝る前に食べてたんです

7月とか8月の暑い日だったので「こりゃいいや~」って


そしたら、その期間、

朝起きると頭痛が酷くて、

特に暑かった日の翌日は目覚めてからしばらく起き上がることも出来ないくらい頭痛が酷くて

これは夏バテか……夏風邪か?

とか思っていたらですね、マイファミリーに「アイスじゃね?」と言われまして


曰く、冷たい物をいっぱい食べると、頭の血管が「きゅっ!」ってなって

「ちめたっ!」ってなって、

「しゃむぃっ!」って縮んじゃうらしいんですね


 可愛いな、血管!?Σ(゜Д゜;)


で、その状態で寝ると、頭に血液が回らなくなって頭痛を引き起こすと……



MF(マイファミリー)「まぁ、原因はそれだけじゃないとは思うけど――」

宮地「すごい! アイスを食べずに寝たら、朝からめっちゃ元気!」

MF「プラシーボ効果すげぇな、こいつ!?」



本当に、寝る前のアイスをやめただけで朝から「すきぃー!」っと目覚められるようになりまして

幼少期から冷たい物を食べ過ぎるなと口を酸っぱくして言われてきましたが

まさか、腹痛だけでなく頭痛まで引き起こすとは……


そうか、大人の言うことは正しかったのか……


なので、朝貪り食うことにしました☆



MF「食べ過ぎると体温下がって風邪引くよ!?」

宮地「あはは、まさか。外がこんなに暑いのに風邪を引くわけが……あれ? なんか寒気が?」

MF「単純だな、おい!?」

宮地「アイスを食べたのは結構前なのに……おかしいな、寒気が、遅れて、やって来たよ?」

MF「腹話術の人か!?」



皆様、たとえどんなに暑い日でも

冷たい物の食べ過ぎはダメですよ!

宮地さんとの、約束ね☆

(☆>ω・)



 Σ(゜Д゜;) 夏に言え!



もうそろそろ、朝晩は涼しくなってきますかねぇ~

これを書いている時は、まだまだ残暑が厳しいのですが

きっと公開する時には涼しくなって過ごしやすい秋になっていることでしょう


ね!

令和ちゃん!


秋、長めでいいからね!


ね!

令和ちゃん!



ちゃんと言っておきましたので

きっと今年は素敵な秋が長く続くことでしょう


冷凍庫にあふれている凍らせるゼリーの消費、頑張ります☆


( ゜∀゜) んまーい!


……( ノД`) 頭が痛い



次回もよろしくお願いいたします

宮地拓海

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― 新着の感想 ―
写真を撮りたい写真家や、何かを調べたい研究者でもない限り、縁もゆかりもない地域の祭りに一人で参加するってのは、あまりないのではないだろうか。 恐らく 何かのネタ投下だと思ったのですが  写真家 研究…
最後の報告書でゲラゲラ笑った 仕方ないけど密偵さんそこそこポンコツだ
更新ありがとうございます!いつからでしょうか、花火見に行きたくなくなったのは。テレビでいいなと思ってしまいます。花火見に行っている皆さん高尚なことです。マグダさんロレッタさん大人っぽくなって嬉しいやら…
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