441話 お祭り~陽だまり亭一同で~
ロレッタ・マグダVSノーマ・ナタリアのビリヤード対決は、ノーマが9番の球をポケットに落としてノーマチームの勝利で幕を閉じた。
「……セクシーさで負けた」
「そんなとこで勝負してたですか、マグダっちょ!?」
「……マグダVSノーマは引き分けで、ロレッタVSナタリアでナタリアに軍配が上がってしまった結果」
「あたしが負けたですか!? まぁ、ナタリアさんにセクシーで勝つのはまだちょっと難しいですけども! ……って、ノーマさんと引き分けたですか、マグダっちょ!?」
「……あはーん」
「それに射抜かれるの、ウーマロさんだけですからね!?」
なんとも賑やかである。
お前ら二人がセクシーさを身に付けるのは、あと何年後になるんだろうなぁ。
広場を出て、街道を陽だまり亭一同で固まって歩く。
すし詰めというほどではないが、あっちこっちにふらふら出来るようなスペースはなくなっていた。
人、増えたなぁ。
「なんだか、先ほどよりも人が多くなった気がしますね」
「あい! あい、あい!」
カンパニュラの呟きに、テレサが嬉しさ満開の顔で挙手をする。
なんの挙手かと思ったら。
「それね、いもーとしゃがね、ゆーぎじょーのせんでん、したからなんだって!」
どうやら、ナタリアに情報を吹き込まれ、「主が欲した情報を適切なタイミングで提供するのは給仕長の務めです」と言われたのだそうだ。
惜しいな、テレサ。
そこにもう一つ、『さり気なさ』ってのが加わると、もうワンランク上の給仕長になれるぞ。
「そうなのですね。謎が解けて胸がすっきりしました」
「えへへ~」
カンパニュラに頭を撫でられてにこにこのテレサ。
情報をもらうより、お前を撫でてる時の方が嬉しそうだけどな、お前の未来の主。
「遊技場のうわさを聞きつけて、子供たちも結構遊びに来てたです」
「……『グラグラ、船上バトルロワイヤル』が大人気」
あぁ、ウーマロたちと徹夜のノリで作ったバランスゲームな。
単純だがなかなか面白いんだよ、アレ。
「ちなみに、この後はノーマさんVSナタリアさんでビリヤード頂上決戦をすると言ってたです」
「占領してんなぁ、あいつら。大至急増産しないと暴動が起きかねないぞ」
「……そしてエステラは、子供たちに『すげぇ~!』と言われ有頂天になってダーツの腕前を披露し続けていた」
「ナタリアがいない今が輝けるチャンスだもんな」
何やってんだろうなぁ、この街のトップ。
「それでは、わたしたちはのんびりとお祭りを見て回りましょう」
「ただ、人が多くなってきてるから、はぐれないように手を繋いどけよ」
「……ふふ」
俺がちっさいお子様たちに注意をすると、ジネットが隣で笑い出した。
「なんだか、いっぱい食べよう大会の時を思い出しますね」
いっぱい食べよう……あぁ、大食い大会か。
なんでかジネットは『大食い』って言わないんだよな。
『つまみ食い』は言うのに。
こっちの言葉ではその二つの言葉はニュアンスが違うのかねぇ?
『大食い』はあまり好ましくない単語なのかもしれない。まぁ、俺が『大食い』って言っても顔をしかめるようなことはなかったから、スラング的な汚さはないんだろうと思うけど。
「確かに、あの時もすごい人混みだったですよねぇ」
「……前に進むのが一苦労」
「そんなに大変だったのですか?」
「みんな、いったの?」
「そうですよ。カンパニュラさんやテレサさんが四十二区に来るよりもずっと前の話ですけれど」
テレサににこっと微笑んだ後、ジネットはごった返す広場を見て懐かしそうに目を細める。
「あの時も、ヤシロさんははぐれないように手を繋ぐようにってわたしたちに言ってくれていました」
あの頃のジネットは、遠出とか全然したことなくて、人混みなんか初めての経験で、迷子にならないように俺たちで取り囲んで守ってやったんだよなぁ。
「今回は、カンパニュラさんとテレサさんが真ん中ですね」
「んじゃ、ジネットが先頭で、マグダはジネットの隣でジネットより半歩ほど前に出ておいてくれ」
「……任せて」
「あの、ヤシロさん。それでは、わたしは先頭ではないのでは?」
いいんだよ。
お前が先頭とか危険過ぎるから。
マグダは小柄でこそあるが、フィジカルは最強だ。
多少の人混みなら跳ね返し、なんなら道を切り開いてくれる。
「ロレッタは俺と一緒に後方を守るぞ。少しでも前に進もうと割り込んでこようとするヤツがいるかもしれない」
広場を出て街道を進むにつれ人は増え、密度がどんどん上がっていく。
つーか、なんか急に増えてないか、人!?
軽く満員電車くらいの混雑になってきてるんだが!?
「これ、は……歩くのが、大変です、ね……っ」
ジネットが向かってくる人の波に押されて少し後退る。
これは危険だな。
こんな人混みで後ろに押されたら、ジネットが転倒してしまう。
「マグダ、前を頼む」
「……了解」
マグダを単身先頭にして、俺とロレッタでジネットたち三人を囲む三角形を形成する。
向かってくる人の波を押し分けて進んでいく陣形だ。
「なんで急にこんなに混んできたですかね!?」
「向こうから人が押し寄せてきているみたいだな。そのせいでこっちから大通りへ向かうヤツらの足が遅くなって、どんどん渋滞していってるんだ」
「こんなに人が多くて、光の行進できるですかね!?」
人に揉みくちゃにされて、ロレッタの声が大きくなっていく。
「うきゃー!」と、ちょっと押されてふらついたりもしている。
確かに。
これだけ人が多いと、行進のために道を確保するのも大変になりそうだ。
見物客が立っている場所がない。
なんとか頑張って教会の近くまで来たが、この辺の混雑はさらに酷い。
朝の山手線が可愛く見えるレベルだ。
こりゃ、畑に足場でも作ってやらないと、見物客の行き場がねぇな。
「これは、想像以上にすごいですね!?」
人に押されて、ロレッタがふらつき、俺たちから少し離れそうになっている。
「すまん、ロレッタ。手を繋ぐぞ」
「ふにゃう!?」
離れていきかけたロレッタの手を取り、グイっとこちらに引き寄せる。
他人に間へ入られると、あっという間に散り散りに引き離されてしまう。
俺たちはいいが、カンパニュラとテレサを人混みに紛れさせるわけにはいかない。
「後ろから割り込まれないためだ。少し我慢してくれ」
「が……我慢、は、別に、してないです、けど…………」
ロレッタの顔を見ると、真っ赤に染まっていた。
レッドハムスターだな。
レッドロブスターみたいで、ちょっと美味しそうな語感だぞ。
「ぁう……い、妹たち、近くのお店にいないですかね?」
真っ赤な顔で辺りを忙しなくきょろきょろし始めるロレッタ。
「こんな、甘えている姿を弟妹に見られるわけにはいかないですっ。長女の沽券にかかわるですから」
かかわんねぇよ。
「別に甘えてるわけじゃないだろう?」
「でも、今、ちょっと嬉しいですし!」
うん。
素直な気持ちなんだろうけど、言うな、そんなこと、まっすぐな目で。こっちが照れるわ。
「むにむに」
「にょわぁあ!? むにむにしないでです!」
「ロレッタが俺を照れさせるのが悪い」
「こっちの方が、お兄ちゃんの百倍照れてるですよ!? 恥ずかしくて顔から火を吹きそうです!」
「じゃあ、ライターいらないじゃん」
「本当には吹かないですよ!? どんなビックリ人間ですか、あたし!?」
ぎゃーぎゃー騒ぎながらも、声を出すことで照れを誤魔化そうとしている様子のロレッタ。
照れッタも、こういう賑やかな状況でなら微笑ましく見ていられる。
「ぅにゃあ!? 押さないでです! 子供がいるですから!」
前に進まない人の波に焦れたのか、後ろから強引に割り込んでこようとするヤツが出始めた。
こりゃ、手繋ぎじゃ突破されかねないな。
「ロレッタ。腕を掴んでいいか?」
「う、腕、ですか?」
「なるべく距離を詰めておきたいんだ」
手を繋ぐより、腕を掴んでおく方が防御力上がるからな。
「ぅぐぅ……い、いいです、よ」
「んじゃ、掴むぞ」
「ぅひゃう!?」
二の腕付近を掴むと、ロレッタが変な声を出した。
よかった。事前に意図とやることを宣言しといて。
下手したらジネットに長い懺悔を喰らわされかねない声だったな、今のは。
「くすぐったかったか?」
「い、いや、あの…………今ちょっと、話しかけないでですっ」
震える声に顔を見れば、さっきの三倍ほど顔が真っ赤に染まっていた。
「ロレッタ。さすがに照れ過ぎだ」
「てれっ、照れるですよ!? こんな、お兄ちゃんに腕を、掴まれて……お兄ちゃんの体温とか伝わってくるですし、お兄ちゃんの手、大きくてがっしりしてて頼もしいですしっ! 『あ~、お兄ちゃんがそばにいる~』って思うと嬉しいですしっ!」
うん。
なんか、照れが限界を突破して何を口走ってるか自分で分からなくなってるんだろうな、こいつは。
いいからその口を閉じろ。
「……ヤシロ」
ロレッタが熱暴走を起こしている中、マグダが前方から俺を呼ぶ。
顔だけをこちらに向けて、とある情報を寄越してくる。
「……噂では、二の腕のぷにぷには、おっぱいと同じ柔らかさらしい」
「なんで今、このタイミングでそんな情報寄越してくるですか、マグダっちょ!?」
「……主が欲した情報を適切なタイミングで提供するのは給仕長の務め」
「マグダっちょは給仕長じゃないですし、今、特に誰も欲してなかったですよね、その情報!?」
俺に二の腕を掴まれている状況で放り込まれた情報に、ロレッタの顔がさらに二段階ほど赤みを増す。
……ふむ。
「どれどれ」
「お兄ちゃんはぷにぷに禁止ですよ!? ぷにぷにしたら懺悔券使っちゃうですからね!?」
ロレッタはまだ懺悔券を使っていなかったようで、懐から懺悔券を取り出して見せる。
そうか、お目こぼししてくれてたのか。
ロレッタは優しいなぁ。
「……では、マグダが。……ぷにぷに」
「ぷにぷにしないでです!?」
「……確かに、ほぼ一緒」
「そんな情報、いらないですよ、今、この場では!?」
マグダがおふざけでロレッタの腕を掴んだ――のかと思いきや、そのまま俺たち一同を左方へと誘導する。
「……陽だまり亭に着いた。一時避難する」
気が付けば、俺たちは陽だまり亭の前まで来ていたらしい。
マグダの誘導に従って、俺たちは陽だまり亭へと避難することにした。
陽だまり亭に到着するや、俺たちは店の前の休憩スペースへと駆け込んだ。
「はぁ……呼吸が出来る」
「すごかったですね……」
椅子はご年配が占拠してすべて埋まっていたが、空間が開いているというだけで生き返った気持ちになれる。
ジネットも、カンパニュラとテレサを連れて、少し奥の方で「はぁ~」っと息を吐いている。
そこへとことこと、マグダが近付いていく。
「……店長」
「マグダさん。心配してくださってありがとうございます。わたしは大丈夫ですよ」
「……ぷにぷに」
「二の腕を揉まないでくださいっ!」
「……ヤシロ。二の腕の惨敗」
おっぱいが圧勝したかぁ。
「二の腕、おんなじ柔らかさ説は否定されたか……」
「もう、ヤシロさん、マグダさんも。ダメですよ。ロレッタさんにも謝ってください」
へーいへい。
「ロレッタ」
「あ、いや、あたしは別に気にしてないから平気ですよ」
「お前が二の腕掴まれて真っ赤になってわたわたしてた時、妹の集団とすれ違ったこと内緒にしててごめん」
「すれ違ったですか!? なんで黙って……いや、なんで今言うですか!? むぁああ! この後なに言われるか、気が気じゃないです!」
ロレッタが真っ赤な顔で髪をわっしゃわっしゃ搔きむしる。
「……ロレッタ」
「マグダっちょぉ……」
おぉ、慰めてやるのか、マグダ。
「弟の集団もいた」
「聞きたくなかった情報追加されたです!?」
違った。
とどめ刺しに行ったんだった。
がっくりと、ロレッタがうなだれる。
カンパニュラとテレサが慰めに行ったので、しばらく放っておこう。
「しかし、なんでこんなに混んでるんだ?」
「急に人が増えた気がしますね」
「……午前中に屋台を回ったメンズは、大通りや東側で酒盛りをすると言っていたはず」
今日の午前中、マグダはそんな話を耳にしていたらしい。
オッサンどもにとっては、祭りの屋台よりも冷えたエールと美味い肉だよな。
「でも、すれ違った人たちは少しお酒の匂いがしていましたし、東側でお酒を飲んでいた人たちが押し寄せてきていたように感じました」
ジネットが言うように、向かいからどっと押し寄せてきたオッサンどもは微かに酒の匂いがしていて、そんなオッサンどもが一気に増えたせいですげぇ混雑していたように感じた。
「少し、混雑が落ち着いたでしょうか?」
陽だまり亭の庭から街道を覗き込むジネット。
確かに、さっきよりは人が減ったな。
「一体、なんだったんだかなぁ」
「……しっ。有力情報」
マグダが耳をぴくっと動かして、俺の手を引き街道へと連れて行く。
手を繋いで、にぎにぎ。
……さっき俺がロレッタと手を繋いだり腕掴んでここまで来たりしたの、ちょっと羨ましかったのかよ。
いいよ、手ぐらい、いくらでも繋いでやるから。
と、そんなことをしていると、心持ち早足で進む野郎三人組が俺たちの前を通り過ぎていく。
やや興奮気味に、こんな話をしながら。
「なんかさぁ、街門前広場に遊技場ってのが出来ててさ、それがもうすっげぇんだよ!」
「いや、午前中見た時、そんなもんなかったろ?」
「だから出来たんだって、ついさっき」
「なんなの、この街!?」
あぁ……なるほど。
「……原因判明」
「ウーマロの責任か」
「……………………え?」
なんだよ。
なんで、そんな「こいつ、なに言ってんの?」みたいな目でこっち見てくるんだよ。
俺じゃねぇよ。
遊技場作ったの、ノーマとウーマロとゼルマルの暴走だろうに。
「なんかさ、ビリヤードってゲームがあるらしいんだけど、これがまたすげぇんだよ!」
そんな早足トリオの声を聞いて、マグダが「……ね?」とでも言わんばかりに首を傾げてくる。
……俺の、せいか?
えぇ……俺のせいか、これ?
ハムっこの宣伝能力が高過ぎたせいって可能性もないか?
「なんでも、めっちゃ色っぽい美女が、浴衣の裾から太もも見せつけるようにゲームしてるんだとよ!」
「マジか!?」
「マジなんだって! こう、このくらいの台にだな、軽く足をのせてぐぐーっと身を乗り出すような格好で、裾から内腿がチラリ――ってよ!」
「うぉおお! しかも内腿かよ!?」
「こうしちゃいられねぇ! 早く行くぞお前ら!」
「急げ! 間に合わなくなっても知らんぞー!」
――と、早足で目の前を通り過ぎながら、全部説明する勢いでそこそこの声量でわいわい歩き去る野郎ども。
「原因、ノーマかよ!?」
「……証言が拾えた以上、疑いの余地はない」
だから、大通りより向こうで飲んでたメンズどもが大挙して押し寄せてきてたのか。
ノーマがビリヤードをやってるうちにって。
……度し難い。
「それで、それって本当に美人なんだろうな?」
「あぁ! キツネ耳の絶世の美女と、黒髪メガネのクールな最上級美女、あと、人魚の癒し系究極美女もいてな、『ウォーター・シュート☆』って水で球を弾き飛ばしてるらしいぞ」
「マジか!? なんなのこの街!? 移住したい!」
なんて声も届いてくる。
つかお前らの声、いつまで聞こえてんの!?
早足で俺らの前通り過ぎてから結構時間経ってるんだけどなぁ!?
興奮し過ぎて、声がどんどん大きくなってない!?
で、何やってんの、あの人魚!?
水を使うな、キューを使え!
「どうするかな……助けに行くか?」
「……平気。ノーマとナタリアなら、そーゆー視線は軽くいなせるし、度が過ぎれば成敗も容易」
それもそうか。
「……人数が増えても、マーシャがいれば殲滅は可能」
「止めに行こうかな、……マーシャを」
あいつ、水槽に入って陸にいる時は無防備~とか言ってたけど、今や普通に攻撃手段確立してるよな。
何か新しいスキルでも身に付けたのかな?
水鉄砲とマーシャカッターって、いつから使うようになってたっけ?
暴漢に狙われてから防衛のために編み出したのかもなぁ…………それ以降、被害者が続出してるんだけども。
まぁ、被害者は軒並み自業自得メンズばっかりだからいいけども。
あ、アルシノエが人形劇の練習で何発か喰らってたか。
人魚のセリフに「のわ」って付けたせいで。
まぁ、手加減してたし、セーフセーフ。……たぶん。
「……あと、港とイメルダの館付近にはメドラママが待機している」
万が一の際の魔獣対策と、イメルダの館に停めてある領主たちの馬車や荷物を見張るため、狩猟ギルドと木こりギルドはあの近辺を厳重に警戒してくれている。
メドラも、きっとその辺に待機しているのだろう。
「……騒ぎが大きくなるとメドラママが出撃する」
「そうなりゃ、一瞬で制圧されるな」
「……対抗心の強いメドラママなら、きっとノーマ以上の『チラりん☆セクシーショット』を使用するはず」
「マグダ、逃げるぞ! きっとここまで余波が届く!」
巻き込まれたら命の危機だ!
くそぅ、どこまで逃げれば安全は保障されるんだ!?
「……ヤシロ」
「ん?」
俺の手を「くいっ」と引いて、街道を指さすマグダ。
「……空いてきた」
見れば、街道の混み具合はかなり解消されていた。
これなら、ゆっくりと屋台を見て回れるだろう。
「じゃあ、ぼちぼち行くか」
「……うん。出来れば端っこまで見て回りたい。夜には行進があるから」
だから、ちょっと急ぎたいってことか。
「そういえば、午前中に一回下見に行ったんだっけ?」
前日にそんな計画を立てていたマグダ。
仕事中は抜けることはなかったし、もしかしたら朝のうちに見てきていたのかもしれないな。
「お勧めの屋台はあるか?」
「……ある。きっとヤシロが好きそうなヤツ」
「じゃ、そこに案内してくれるか」
「……やぶさかでない」
マグダが少しはしゃいでいるように見えて、思わず口元が緩む。
俺が笑うと、それを見たマグダの耳が「ぴるるっ」っと揺れた。
「……ヤシロが楽しそうで、何より」
言って、マグダの口元が柔らかく弧を描いた。
おぉ、笑ってるなぁ。
少しずつだが、マグダは表情が豊かになってきている。
このくらいの微笑みなら、何度か目にするってくらいには。
いつか、マグダが大口を開けて笑うような楽しいことを体験させてやりたいもんだ。
「じゃ、あっちで休憩中の婆さんに捕まってるジネットたちを連れ戻しに行くか」
「……あの四人はご年配に大人気」
ジネットは言わずもがな、カンパニュラとテレサは可愛い少女だし、ロレッタは年上受けする元気娘だもんな。
「……中でも、マグダが一番の人気者」
「『あの四人は』って話だったのに、いつの間に『中』に入ったんだよ、マグダ」
「……マグダの行動を読み切るのは、メドラママでも困難」
そうかい。
じゃあ、無駄な努力はやめておくよ。
一生かかったってメドラの領域に到達できる気がしないもんよ。
「お~い、ジネット。そろそろ行くぞ~」
「あっ、は~い!」
声をかけて、マグダと一緒にジネットたちを迎えに行く。
ジネットたちとの距離が近付くにつれ、マグダの手が名残惜しむように俺の手を「にぎにぎ」としてきていたが、それに言及するのは野暮ってもんだよな。
陽だまり亭を出発し、再び歩き始めた俺たち。
俺の手は、マグダからカンパニュラに引き継がれていた。
テレサは今、ジネットと手を繋いで歩いている。
「あっ、見てください、ヤーくん!」
俺の手を引っ張って、とある屋台を指さすカンパニュラ。
そこには、お祭りの定番、お面が並んでいた。
「おぉ、頑張ったなぁ、木工細工師(現役チーム)」
いやな?
最近、ゼルマルが誰にも望まれてないのに現役復帰とか言って現場にしゃしゃり出るようになっただろ?
でさ、現在木工細工師の中で結構偉いポジションに就いてるオッサンとか爺さんがいるんだけど、そいつらはゼルマルの後輩なわけだよ。
職人の世界って、上下関係は絶対、生涯先輩後輩って世界だろ?
ゼルマルが工房とかに顔出すとさ、工房の偉いさんとかが「ゼルマル先輩、ようこそ!」って後輩マインドでゼルマルに接するからさぁ、ゼルマルのジジイ、いい気になって「おう、お前らちょっと力貸せ」とか言ってわがまま抜かし放題なんだと。
めんどくせぇOBそのまんまだな。
現役世代には「んだよ、来んなよ!」って思われていることだろう。
ただ、ゼルマルが持ち込む仕事が木工細工師連中にとっては面白いらしくて、歯車オモチャとかビリヤードとか、めっちゃノリノリで作ってたっぽいんだよなぁ。
ゼルマル。現在の師匠クラスのジジイどもを独占しちまうと、後進の育成に影響出ちまうからちょっとは遠慮しろ。
平たく言うと邪魔だから、ジジイ。
「……木工細工師の御老体たちを虜にしているのはいつもヤシロの発注」
うん。
マグダ。
そんなこと、誰も聞いてないし、いちいち説明しなくていいと思うんだ、俺。
あと、御老体って。かる~く毒吐いてるからな?
で、なんか若い衆とか見習いとかが「僕ら、どーしたらいいんだ?」みたいな顔してたから、俺がちょこっとアドバイスっていうか、祭りで受けるぞってアイデアを教えてやったんだよ。
それが、これだ。
「なかなか可愛く出来てるじゃねぇか、よこちぃお面」
そう、よこちぃとしたちぃのお面(木製)だ。
本当は、日本の祭りで売ってるような軽ぅ~い素材で作りたかったんだが、なくてなぁ。
なんかいろいろ工夫したらなんとかなりそうな感じではあったんだが、如何せん今回は時間がなかった。
思いついたのも最近だったし、他にやること目白押しだったし。
もともと、この街にもお面の技術はあった。
ハロウィンの時に簡単な仮面とかお面を作って売ってたくらいだし、あの時も一言いえば割とすぐに品質のいい物が供給されていた。
技術と知識があるなら、デザインを変えるくらい簡単だろう。
ってことで、よこちぃたちのお面の設計図を、寸法をみっちり描き込んで渡しといたってわけだ。
「頑張ったな、若い衆」
「あっ、ヤシロさん! おかげさまで、大反響ですよ!」
店番をしていた若い木工細工師が俺を見つけて立ち上がり、出迎える。
「すげぇいい修行になったし、見習い連中にも色塗りをやらせたんですけど、かなり勉強になったみたいですよ」
「そうか。ならよかった。頑張った褒美に、ゼルマルに『デカい顔すんな、出戻り』って言える権利をやろう」
「いらないですよ!? 言えるわけないじゃないですか!? ウチの師匠の師匠なんですからね、ゼルマル御大!」
御大って……御大層な。
そんなタマかよ、あのジジイが。
「御大っていうより、即身仏だろう、あれ」
「怒られますよ!?」
おぉ、伝わった。
この世界でも即身仏みたいな修行する僧侶とかいるのかな?
精霊教会では絶対やりそうにない修行だけど。
「よかったら見て行ってください、僕たちの力作を!」
にこやかに商品を勧める木工細工師。
なので、一つ一つ手に取って出来栄えを確認していく。
「どれどれ…………重い。寸法違い。仕上げが甘い。これはまぁ、及第点。こっちはダメ。これ、表情が微妙に可愛くない、やり直し」
「師匠以上に厳しいなぁ、ホント!?」
俺なら、もっとうまく作れるもん。
「これとこれは合格だ」
「よっしゃ! そのよこちぃ、僕の作品なんです!」
俺が合格を出したお面のうち、一つがこの木工細工師の作った物らしい。
……しまったな。喜ばせちまった。
「やっぱ、合格なのはこっちのお面にしとこう」
「いやいやいや! 僕頑張りましたから、マジで!」
泣いて追いすがってくる木工細工師。
分かった分かった! 泣くな、鬱陶しい。
「んじゃ、これとこれをもらおうか」
「毎度ありがとうございます!」
「……こういう時さぁ、『お代は結構です』的な何かさぁ」
「僕ら、マジで金ないんですって! 修行中の若手なんですから、勘弁してくださいよ!」
しょうがねぇなぁ。
「んじゃ、20Rbな」
「毎度どうも!」
一つ10Rb。
日本円で100円だ。
全部手彫りの彫刻作品なのにな。
日本で売れば数万はするだろうが、若手にはいい練習になったようだし、この価格でも売れりゃ万々歳なんだろう。
「じゃあ、カンパニュラ、テレサ。どっちがいい?」
「いただいていいんですか?」
「えーゆーしゃ、ありまとーぉぉお!」
ぅおう、テレサ!
勢いがすごいから!
「テレサさんはどちらがいいですか?」
「かにぱんしゃ、さきに、きめて」
「えぇっと、……どちらも可愛くて悩んでしまいますね」
外見で決められないなら内側で決めれば?
きっとタイタよりルピナスの方が好きだろ?
あ、よこちぃたちに中身なんていないのね、はいはい。
「では、よこちぃをいただいても構いませんか?」
「ぁい! あーし、したちぃ!」
「ふふ、お揃いですね、お二人とも」
ジネットがテレサからお面を受け取り、顔にかけてやろうとしている。
……あぁ、能面を顔に着けることを「かける」っていうんだよ。
完全木製なんで、つい。
「つける」でいいのか。
「あ、ジネット。真正面じゃなくて、このくらいの位置でつけてやってくれ」
お面を顔にすっぽり被るのもいいが、やっぱり祭りのお面といえば斜め掛けだろう。
俺はカンパニュラの頭によこちぃのお面を可愛く飾り付けてやる。
「ほら、こんな感じでどうだ?」
「わぁ! 可愛い着け方ですね。えっと……、この辺でしょうか?」
「あぁ、可愛い可愛い」
「ぁはっ! ありまと、てんちょーしゃ!」
「どういたしまして。とっても可愛いですよテレサさん。カンパニュラさんも」
「ありがとうございます、店長さん。……似合いますか、ヤーくん?」
ん?
今「可愛い」って言わなかったか?
あぁ、そうか。今のじゃテレサにだけ言ったみたいだったか。
カンパニュラも、こういうとこでちょっと欲張れるようになったか。
「今この街道にいる同年代の中じゃ、ナンバーワンの可愛さなんじゃないか?」
「ぇ……っと。それは、さすがに褒め過ぎですよ、ヤーくん」
ほっぺたをまん丸く赤く染め、カンパニュラがお面で顔を隠してしまう。
その仕草が可愛過ぎたようで、ジネットはもちろん、ロレッタやマグダまでもがにこにこしていた。
「……作ってよかった。マジで!」
製作者が渾身のガッツポーズで感涙してやがる。
よかったな、エンドユーザーからの喜びの声が直接聞けて。
客商売に携わる者にとって、最大の喜びだろう、それ。
「マグダたちも買うか、お面?」
なんなら、買ってやってもいいぞ。これくらいなら。
――と、思ったのだが、マグダはふるふると首を横に振る。
「……マグダたちは、この後すぐに光の行進があるから」
「あぁ、そうですね。荷物を置いておくところはあるですけど、もし他の人のお面もあったらちょっと分からなくなるかもしれないですよね」
「お面をつけて行進するわけにもいきませんからね」
まぁ、そりゃそうか。
別に今日しか買えないわけじゃないし、なんなら俺が作ることも可能だし――
「他のお面、そこまで品質よくないからな。こいつらの腕がもっと上がった時に買えばいいか」
「辛辣っ! いやまぁ、反論の余地もありませんけどね!?」
職人が泣いている。
泣くがいい。
その涙の一滴一滴が、お前を強くするのだ。
「さぁ、カンパニュラさん。可愛い飾り方にして残りのお祭りを楽しみましょうね」
「そうですよ、カニぱーにゃ。この人混みでお面をつけて歩くのはちょっと危ないですからね」
「……視界が悪くなるのは危険」
お姉さん方から諭され、『照れぱーにゃ』が顔を覗かせる。
ちらっとこちらに視線を向けて、にこりと柔らかく微笑む。
今の微笑みで照れを乗り越えたらしい。
見事な感情のコントロールだ。
こいつぁ、すげぇ領主になるぞ。
未来が楽しみだ。
「かにぱんしゃ、おそろい!」
「はい。よこちぃとしたちぃのように、仲良くお祭りを回りましょうね」
「うん!」
弾けるように頷いて、テレサがカンパニュラの手を握る。
あ~ぁ、取られちまった。
「ふふ、カンパニュラさんを取られてしまいましたね」
「テレサが相手じゃ、フラれるのもしょうがないさ」
「わたしも、両手が空いてしまいました」
両手をパーにしてこちらに向けるジネット。
「じゃ、フラれた者同士で手でも繋いで歩くか?」
「へぅ……、も、もう。からかわないでください」
ぷいっとそっぽを向いて歩き出すジネット。
一秒後には笑顔に戻ってマグダたちと会話をしている。
別にからかったわけでもないんだけどな。
全然よかったのに、手を繋いで歩いても。
女子たち全員にフラれたので、俺は手持ち無沙汰な両手を浴衣の裾に突っ込んで、イナセに祭りで賑わう街道を闊歩した。
「……ヤシロ。あれ」
人を避けつつ、屋台を一軒一軒覗いて回るようなのんびりスピードで歩いていると、不意にマグダが俺の裾を引いた。
「お、輪投げだ」
これは、俺の発案じゃないから、この街にあった遊びなのかもな。
ただ、そこにあったのは、お祭りで定番の輪投げじゃなくて、子供のおもちゃで定番の方だった。
すなわち、3列×3行で九本の棒が並んでいて、そこに輪っかを入れるタイプのヤツだ。
縁日にあるような、景品が並んでて輪っかが入ればもらえる輪投げじゃなくてな。
「……リング五つで縦横斜めのいずれか一列揃えれば豪華景品をプレゼント」
「妙に詳しいと思ったら、ここは狩猟ギルドの屋台なのか」
「……そう。ウッセがバザーの時のハンターゲームをまたやろうとか、スペースのことを一切考慮せずにほざいていたので、マグダがメドラママに提案して採用された斬新なゲーム」
確かに、これだけ人でごった返す祭り会場で、数メートルの距離を空けて矢を射るようなゲームは出来ないよな。
考えたら分かるだろうに、ウッセよ。
「しかし、よくこんなの思いついたな、マグダ」
「……ふふん。マグダには優秀なブレーンがいるから」
と、俺の裾を掴む。
……あれぇ?
俺、マグダに教えたっけ、輪投げ?
……あっ。
あーあー!
教えたな、そういえば。
オイルライターを作った時に――
「俺の故郷では輪投げの景品になっていて、中学生が散財してたんだよ。全っ然欲しいのが取れなくてなぁ」
「……それは、今度のお祭りでも出来る?」
「ん~、どうかなぁ。今から輪投げに適したサイズの景品を複数用意するのは難しいだろうし、何よりオイルライターはまだ景品として提供できないから無理だな。目玉商品がないと客が寄り付かねぇよ」
「……そう。ちなみに、景品がなくても遊べる方法はある?」
「だったら、3×3で九本の棒を立ててな、それで輪っかを五個投げて縦横斜めのどれか一列が揃えばなんか適当な景品が当たるよ~とかにしておけば、それなりの物にはなるだろう」
「……ほうほう。参考にさせてもらう」
「なんのだよ」
――って会話を……
「してたな、そういえば!?」
「……盛大に参考にさせてもらった」
「あぁ、そうかい」
まぁ、ここで輪投げに慣れさせておけば、来年の祭りでは満を持して輪投げお祭りバージョンが出来るだろう。
メンズどもよ、オイルライター欲しさに散財するがいい!
「みなさんでやってみましょうか?」
「……では、マグダがお手本を見せる」
10Rbを屋台のカウンターに置き、輪っかを五個受け取るマグダ。
あ、店番は本部の女狩人なのか。
目つきは鋭いがなかなかに美人。
腹筋はバッキバキに割れているのに、胸元にはお見事なDカップ。
武器を構えて殺気を放っている時はきっと恐ろしい雰囲気になるのだろうが、穏やかに屋台の店番なんかをしていると、ちょっととっつきにくいけど実は優しい体育会系の美人なお姉さんって感じだ。
よかった、ウッセとかグスターブみたいな、なんの面白味もないヤロウどもじゃなくて。
「……ほい、さっさっさっさっ」
ぽぽぽ~んと投擲された輪っかは、吸い込まれるように棒を捉えて、見事に全投成功となった。
しかも、綺麗に『×』の形に輪っかが並んでいる。
「……このクロスが完成すると、特別なご褒美、狩猟ギルドの綺麗どころからの投げキッスがプレゼントされる」
「マグダ……本当にやるのかぃ?」
「……もち」
「はぁ……ったく、しょうがないねぇ……」
少々ハスキーな声で言って、女狩人は立ち上がり、自身の唇に指を添える。
「……んちゅっ☆ ………………ちょっと、しばらくコッチ見ないでおくれ!」
マグダに向かって投げキッスをした腹筋バキ割れ女狩人が、真っ赤な顔を両手で覆い隠しながらカウンターの下へと沈んでいった。
「アリだな!」
「ですね! なんかめっちゃ可愛かったですよ、輪投げのお姉さん!」
「マグダさん、とても素敵な景品がいただけましたね」
ロレッタとジネットにもからかわれて、ますます耳を赤く染める女狩人。
まぁ、からかってるつもりはないんだ、大目に見てやってくれ。
「……彼女は腹筋に似合わず、初心」
うん、マグダ。
初心かどうかは、腹筋に一切関係しないから。
「あたしもお姉さんの投げキッス狙うです」
「わたしも、挑戦してみます」
「ぅぇええ!?」
「あ、わたしは、別に求めてませんからね」
照れまくる女狩人に気を遣う発言をするジネットだが……心配すんな。ジネットには無理だから。
五投中一投でも入ればいい方だよ、お前は。
「むぁああ! 全部外れたです!? 難しいですよ、これ!」
「わたしも、全部外れてしまいました」
「……ほっ」
バッキバキの腹筋とは対照的に柔らかそうな胸を撫で下ろす女狩人。
いい仕事、してますね☆
「あっ、テレサさん、すごいです! 一つ入りましたよ! わっ、またです!」
カンパニュラの隣で輪を投げるテレサ。
なかなかうまいもんだ。
ちなみにカンパニュラは……あはは、ほとんどの輪っかが的に届いてねぇな。
「むずかしい、ね」
「えへへ~」と照れ笑いを浮かべるテレサ。
初めてで二投成功は大したもんだと思うぞ。
「ヤーくんは、こういうゲームが得意そうですよね」
と、期待するような目を向けてくるカンパニュラ。
ふふん。
まぁ、得意か得意じゃないかといえば、めっちゃ得意だけどな。
「よし、俺も投げキッスをゲットしてやろう」
「ぁっ、あのっ、それは……出来れば……そのっ!」
マグダに投げキッスをした時以上に真っ赤な顔をして両腕を中途半端な位置でわたわたさまよわせている女狩人。
本当に初心なんだなぁ。
「んじゃ、別の技を見せてやろう」
こんなに照れてるヤツに投げキッスの強要は出来ない。
ジャンピングぷるんだったならば、如何に照れようが強要していただろうがな!
というわけで、俺は四投連続でど真ん中の棒を狙って、全投見事に成功させてみせた。
あと一個でパーフェクトだ。
「すごいですお兄ちゃん!」
「お上手ですね、ヤシロさん」
「……さすヤシ」
ぱちぱちと拍手をもらう中、ジネットがこそっと耳元で「ほっとされているようですよ」と、女狩人をちらりと見て笑みを深める。
まるで「お優しいですね」とでも言いたげに。
だって、強要したら懺悔券が束で教会に届けられそうなんだもんよ。
「えーゆーしゃ、あといっこ!」
「マグダ姉様。全部が中央の的に入ったら、何か景品はあるのですか?」
「……もちろん。隠されたレアご褒美が待っている」
レアご褒美ってことは、相当すごいものに違いない☆
……って、素直に思えないんだよなぁ。
だってここは狩猟ギルド。
「念のために聞くが……レアご褒美の正体はなんだ?」
「……もちろん、トップから贈られる勝者への投げキッス」
「ダーリン、頑張って!」
やっぱりだったわぁー!
そして、ばっちりスタンバイしてんじゃん、メドラ!?
つーか、それ隠されてたのって、受けた相手が一人の例外もなくこの世を去ったからって理由じゃないよね!?
「よし、最後の一投はカンパニュラに託そう!」
「えっ、よろしいのですか? 私は先ほど、一投も入らなかったのですが」
「折角だ、もう一回チャレンジしてみろ」
そして、間近に迫まりくる恐怖から俺を解き放ってくれ!
頼む! 切実に!
「では……ヤーくんの投擲姿勢を真似して……」
すぅ……っと、静かに息を吸ってカンパニュラが最後の一投を放つ。
くるくると回転しながら空中を飛翔していく小さな輪っかは、狙いすましたかのように――真ん中の棒に入った。
「逃げろぉぉおー!」
「ダーリンの照れ屋さん☆ ん~……まっ☆」
「ごふぅっ!」
人が多くて避けきれなかった。
そして、運悪く俺のそばを歩いていた歩行者数名、巻き込んですまん。
なんか、俺も含めて七人くらいが地面に倒れ伏してしまった。
ちょっとした事故だぞ、これ。
……で、カンパニュラ。
なんで成功させるかな、こんな時に限って!?
見当違いな方向へ投げて「あはは~」って笑って終わらせてくれればよかったのに!
俺のフォームを見て学習しちゃったの?
ほ~んっと、出来のいい娘ですこと!
…………がくっ。
残機を一機減らしつつ、なんとか魔窟からの離脱に成功した俺は、ふらつく足で残りの道程をなんとか走破……いや、歩破した。
ふらつく俺を、ジネットが寄り添いしっかりと支えてくれた。
手を繋いで祭りを回ることは出来なかったが、寄り添って歩くってのは……まぁ、なんつーか、なかなかいい感じの浴衣デートであったと言えなくもないのではなかろうか。
なんてことを考えつつ大通りにたどり着いたころには空はすっかり夕やみに染まっていて、ジネットたちは行進の準備に向かう時間になっていた。
あとがき
ジネットと二人で浴衣デートしたので
他のメンバーともそれなりにデートしてみちゃいました☆
な、本編でした
久しぶりに照れマグダと照れロレッタを書けました
(〃´∪`〃)ゞ
楽しんでいただけましたでしょうか?
というわけで、今回も元気にあとがき行ってみましょう~!
いぇ~い! ノッてるかい!?
バブル宮地です♪
今日も肩パット大きめスーツでお送りいたします☆
いえ、ちょっと
バブル期辺りに上映されていた映画を見たもので
ちょっとした影響を受けております
バブル期は華やかでいいですね
なんというか、こう、
「東京に行けばなんとかなる!」みたいな確証のない絶対的な信頼というか
夢がありました
かくいう私も、
若かりしころに「とりあえず東京に行く!」と地元を飛び出した口でして
毎日原宿の竹下通りや代々木公園、渋谷や品川を闊歩していた時期がありました
ナウなヤングだったんです(*´ω`*)
……いや、そんな大昔じゃないですけども
で、結局
東京に出てきたからいって何がどうなったわけでもないんですけどね
何があったわけでもなく
別に地元にいても似たような人生送っていたんじゃないかな~というような
平凡な人生を過ごしております
あぁでも、雷門とか東京タワーとか
ド定番の東京名物を見ると、ちょっとわくわくしましたね
それと、テレビに映る場所の、「あ、ここ知ってる」率が高くなりました
まぁ、それは大阪にいたころも変わりませんでしたけども
天神橋筋商店街の近くの部屋に住んでいたので、滅茶苦茶知ってる場所がテレビに映るんですよね(^^)
日本一長い商店街(でしたっけ?)とかで
バラエティの素人さんインタビューでしょっちゅう使われてるんですよね
昔、テレビで、
TMRさんが私の住んでいた近所を歩いていて
「昔この辺に住んでたんですよね~」って言ってて、マジか!?
ってなりましたね
あぁ、だからよく体が夏になっちゃうのか、私!
って(*´ω`*)
……くらいですかねぇ、都会に住むメリット
(・_・)
最近ではテレビも見なくなり、メリットが感じられなく……あ、コンビニが多い!
これは重要です!
コンビニ行って、欲しくもないない物を無駄に買うのが唯一の贅沢です
(*´ω`*)またこんなにお菓子買っちゃった♪
節約?
節制?
うん、そのうちします☆
節約といえば、
いや、節約と言えるかどうか微妙なんですが……
しかも、今だとおそらく『転売』ってことになりそうなグレーな内容なんですが、
すっごい昔の、若ぁ~~いころのお話なので、ここはひとつ時効というか
若気の至りということで大目に見ていただいて……
若かったころに、ツレと焼肉食べ放題に行ったんです
(焼肉食べ放題のエピソード多くてすみません!)
で、焼肉屋さんで食べ放題のコースを注文した直後、
まったく見ず知らずのマダムが急に私たちの席にやって来まして
マダム「すみません、金券1000円使いませんか?」
宮地「…………は?」
なんか、デパ地下の試食の人くらいの感じでしゃべりかけてきたんです
「よかったら、おひとつどうですか?」みたいな
ちょっと押しつけの強い感じで、
もしくは、デパート入ったところで「今、こういうキャンペーンをしていまして、今少しお時間大丈夫ですか? お話だけでも」みたいな感じで
とりあえず、警戒MAXになりますよね?
こちら、金も知能もない若者ですし
Σ(゜Д゜;)いや、知能は持ってて!?
とにかく、すごく警戒したんです
まったく知らないマダムがやって来て「1000円の金券あげる」とか言ってくるんですから。
で、「え、なに? 何事?」って軽くパニックになっていると
なんかマダムも申し訳なさそうな顔で
マダム「こんなに余ってるんですけど、私、もう使えないんです」
って。
話を聞けば、その金券はその店舗でしか使用できず
使用期限が月末まで(残り数日)だったので大量に(1万円くらい)余らせてしまうとのことで
それで、「もしよかったら有効活用してもらえませんか?」ということだったらしくて
で、その当時って、その辺の譲渡とか結構ゆるゆるで
ゲーセンで見知らぬ兄ちゃんとかが、3000円分くらいの大量のメダルを「よかったら使ってくれや。俺、もう帰らなアカンねん」とか言って、くれたりしたんですね。
あんな感じだったんでしょうねぇ、きっと。
でも、金券なので、ちょっと怖いし、
断ろうかなと思ったんですが、
私、パニックになっていたんでしょうねぇ……
宮地「えっ、いいんですか?」
もらう流れに!?Σ(゜Д゜;)
いや、口が勝手に!
断ろうと思ってたのに、
だって、なんかマダムが必死だったから!
しかも、開店直後で他にお客さんいなかったし!
で、少し話をしたからなんでしょうね
マダムの方もこちらに親近感というか、ちょっとした好感を抱いてくださったのか
私が頼んだコースを見て、
「あ、このコースだったら〇枚使えますね」って
焼肉料金まるっと賄えるくらいの金券を渡してこようとしてるんです!
いや、さすがに申し訳ない!
初めて会ったマダムにご馳走になるのは、なんというか、ちょっと、アレです!
変な見栄とかプライドとかじゃないんですが
いきなりの奢りは、ちょっと警戒しちゃいますってば!
でもマダムは必死で
マダム「いや、本当に! いいのよ! 使ってください。持ってても、もう使えないから」
宮地「えっと、じゃあ……ありがたく。でも、お気持ちだけお返しさせてください」
ということで、
食べ放題コース分の金券をいただき、その金券分の料金の一部をみんなでお金出し合ってお返しして
……売買だな!?Σ(゜Д゜;)
転売!?Σ(゜Д゜;)
今だとアウト!?Σ(゜Д゜;)
(>へ<;)戦後間もないころだったのでセーフということで!
……いや、さすがにそこまで昔じゃないわ!?
Σ(゜Д゜;)
結果、マダムは捨てるしかなかった金券が満額ではないにせよ換金でき、
我々は1000円だけお安くお肉を食べられました。
これは、Win-Winと言っていいんでしょうか?
店舗さんにも、迷惑は掛かってないですよね?
(・_・;ドキドキ
急に声かけられて、終始パニックで
お肉食べながらも、ツレと――
宮地「詐欺だったらどうする?」
ツレ「偽造金券?」
宮地「盗難された金券とか」
ツレ「あぁ、番号控えられてるから、レジで逮捕だわ」
宮地「全部正直に話そう! 黒幕はマダムだって!」
ツレ「マダムの特徴とか覚えてる?」
宮地「え~っと……語尾がまろやか?」
ツレ「あぁ、迷宮入りだ」
パニくってて、顔とかはっきり見られなかったんですってば!
私、急に知らない人に声かけらると小動物みたいに委縮するんですから!
以前も、ご年配の集団に「写真撮ってくれますか?」って言われて
「すみません!」って言っちゃいましたからね
いや、パニくってたんでしょうね(^^;
まして、一部とはいえ「ご馳走するわよ」ですからね……
知り合いとかいなかったのか、マダム
え、なに?
もしかして――
大マダム「まぁ、〇〇さん。お焼肉とかお召し上がりなられるの? まぁ~、食通でいらっしゃるのねぇ~。アタークシ、そんなお庶民のお食事、いただいたことなんでゴザーまぜんわ。ねぇ、皆様?」
小マダム「ホントですわ、オホホホホ!」
みたいなグループに所属でもしてるの?
それとも――
孫「お祖母ちゃん、これあげる」
マダム「まぁ、焼肉の金券?」
孫「お祖父ちゃん焼肉大好きでしょ? 二人で仲良く食べに行って」
マダム「まぁ、この子ったら……。ありがとう、嬉しいわ。お祖父さんもきっと喜ぶわね。……それにしても、お祖父さん遅いわね。畑を見に行くって言ってたのに」
ご近所さん「大変だ、マダムさん! お祖父さんが、大通りで車に!」
マダム「えぇっ!?」
――数日後
マダム「あなた。あの子がね、焼肉の券をくれたんですよ。あなたと一緒に食べに行ってこいって。なのに、どうして……こんなにたくさん券があっても、私一人じゃ使い切れないじゃない……あなた…………っ!」
みたいなことが!?
うわーん!( ノД`)
マダムー!(>口<)
その金券、私が全部買い取ってお祖父さんの分も食べ尽くしてあげるからー!
ツレ「お前の妄想力は凄まじいな。というか、怖いな」
メッチャドン引きされましたわぁー
(´・ω・`)
だって、いくら期限が迫ってるっていっても
お友達とかにあげればいいじゃないですか
それを、見ず知らずの人に声をかけて譲るって、
リスクもあるじゃないですか
「んだよ、うっせぇな!」とか言われるかもしれないですし、
仮に私が焼肉の券アレルギーを持っていたら
券を見た瞬間に「うぅっ!」って倒れるかもしれず
そうしたら救急車呼んで大事に――
ツレ「いや、いねぇよ、焼肉の券アレルギーなんて! アレルギー舐めんな」
宮地「ちなみに、『舐めんな』って英語でなんて言うか知ってる?」
ツレ「『Don’t f◯ck with me』」
宮地「このネタが分からない人は、『彼女と僕の口外法度~地味で巨乳なクラスメイトの秘密を知ってしまった僕の話~』を読んでね☆」
ツレ「過去のエピソードに宣伝ぶっ込んでくるな」
私的に衝撃的な出来事だったんですが
書いてみると特にそうでもないエピソードになってしまったので
宣伝入れておきました☆
今後も、バシバシと
今ではアウトだけど昔はグレーだったお話を盛り込んでいくので
通報と炎上はやめてくれよな☆
本当に、よろしくお願いいたします
何卒……ご容赦を…………昔のことですので
オジィの昔語りだと思って、おおらかな心で、一つ……
次回も、優しい気持ちで、よろしくお願いいたします!
宮地拓海




