427話 領主たちの対応
「申し訳ございません!」
俺を引き抜きたいと陽だまり亭に押しかけてきた珍妙な貴族を追い帰した翌日、陽だまり亭のオープン前に一人の貴族が転がり込むようにして駆け込んできた。
こいつは――
「名前も知らない三十七区領主!」
「覚えてください、名前くらい!」
涙目で俺にすがりついてくる地味なオッサン。
顔も地味、功績も特になく、好感度も高くない。
うん、名前を覚えるとか、ちょっと無理。
「で、ミーナ。何のようだ?」
「三十七区をもじったあだ名!? やだ、斬新!」
ちょっと嬉しそうに頬を緩める三十七区領主。
「ミナヒにしようかな……」
パッと見、三十七に見えるし。
「あぁっと、そんなことはどうでもよろしくてですね!」
領主の名前を覚えるのはどうでもいい「そんなこと」らしいので、やっぱり覚えないことにする。
「この度は、我が区の不手際により、オオバさんや陽だまり亭のみなさんに多大なるご迷惑をおかけしてしまったということで、申し開きのしようもございません」
見ているこっちがちょっと引くくらいに、三十七区領主は必死に謝罪を寄越してくる。
なんだよ?
なに仕出かしたんだよ?
ちょっと怖ぇよ。
「あの、とりあえずおかけください。お茶をお持ちしましたので、一息ついてください」
「これは……かたじけないですな、店長さん」
三十七区領主が、ジネットに促されてフロア中程の席に腰をかける。
その間も、お付きの執事は沈痛な面持ちで俯き加減だ。
なんなんだよ?
「ボクから説明するよ」
三十七区領主が席に着くとほぼ同時に、エステラが陽だまり亭にやって来る。
手には、手紙が握られている。
「たった今手紙を拝見しましたよ、ミスター・ウィスラー」
「ミズ・クレアモナ……」
ウィスラーと呼ばれた三十七区領主がエステラを見て、再び立ち上がり頭を下げる。
「この度は、こちらの不手際で、誠に申し訳なく……」
「謝罪はもう十分ですので、とりあえずお座りください。ヤシロたちが話についてこられていませんから、ボクの方から説明させていただきますね」
「そうですね……その方が、よろしいかもしれません。では、よろしくお願いいたします」
執事に促され、三十七区領主がおずおずと再び着席する。
叱られた小学生みたいなしぼみようだな。
「つか、ウィスラーって誰だ?」
「君の目の前にいる三十七区の領主だよ!」
あ~ぁ……ヘコみ方があまりにもあんまりだったから、ちょっと可哀想になってついに名前を聞いてしまった。
でもまだ覚えてない。
うん、二秒で忘れよう。
「彼の名前は、ミスター・カーゴ・ウィスラーだよ」
「『影薄いなー』?」
「どーせ影も存在感もみんな薄いですよ、私なんてっ!?」
あれ、めっちゃ気にしてた?
そんな泣かなくても……悪かったって。
「でも、毛髪は薄くないからまだ大丈夫だ!」
「ですな! ミスター・デミリーよりはまだマシです!」
「怒りますよ、ミスター・ウィスラー?」
エステラが怒気の籠もった笑顔で三十七区領主を睨んでいる。
こいつ、デミリーをイジると怒るんだよなぁ。
結構領主間でいじられてるっぽいのに。
「けど、領主ってのは変わった名前が多いな。トゥチョーブ・ハーゲンとか、ドニス・チョローリンとか、デーコ・ヒロイナーとか」
「イベール・ハーゲン(二十三区領主)とドニス・ドナーティー(二十四区領主)とカーゴ・ウィスラー(三十七区領主・今目の前にいる)だよ!」
そうだっけ?
なんか覚えにくいんだよなぁ、領主の名前って。
「誰のことを差しているのか、よく分かりましたな、ミズ・クレアモナ……」
「彼との付き合いもそこそこ長くなってきましたので」
こほんと、照れ隠しのような咳払いをするエステラ。
やめてくれる、俺に感染したせいで~みたいな濡れ衣着せてくるの。
「エステラさんも、座ってください」
エステラの分のお茶も用意して、ジネットが席を勧める。
三十七区領主をすみっこの席に座らせまいと、真ん中の方のテーブルを勧めたため、今回はいつもの席ではなく、フロアのど真ん中だ。
エステラが少々落ち着かない様子で席に着く。
「なんか、こういう話をする時に真ん中の方にいると、ちょっと変な感じだね」
「まだ開店前ですから、お客さんも来ませんので」
だから気にせず話をしていいと、ジネットは気を利かせて厨房へ引っ込む。
マグダは、気配を消してフロアのすみに立っている。
話、聞きたいんだな。
「で、何を仕出かしたんだ、この領主は?」
「ミスター・ウィスラーが何かをしたわけじゃなく、三十七区の領民がね」
「私の監督不行き届きです。誠に、申し訳ありません」
いちいち謝ってくるから話が一向に見えてこない。
「エステラ、端的に」
「紙芝居を見に来ていた観客の一人がね、脚本を書いたのが君だって話したらしいんだよ。おそらく、エッゲルト家の関係者と思われる人物に」
エッゲルト……
「……って、誰だ?」
「昨日君を引き抜きに来て、君が追い返した貴族だよ!」
あぁ、あの見せかけ筋肉か。
そんな名前だったっけなぁ、たしか。
「実は、情報紙の号外が発行されて、我が区は蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていたのです……」
曰く、「オオバヤシロが三十五区に肩入れした! 見捨てられた三十七区の紙芝居はもうおしまいかもしれない!」と……
いや、大袈裟だわ。
「しかしながら、いくら素晴らしい話とはいえ、桃太郎一本では限界があると感じていたのも事実……そこにきて、三十五区がとても素晴らしい新作を発表したという情報が入り……『あ、これ絶対オオバさんがミズ・スアレスにおねだりされてプレゼントしたものだ』と」
「なんかムカつくな、その解釈」
なんで俺がルシアにおねだりされて話をプレゼントしなきゃなんねぇんだよ。
生足バニーも見せてもらってないってーのに。
「しかし、オオバさんととても懇意にしているミズ・ベッカーが迅速な対応で三十七区にも新しいお話が持ち込まれました! オオバさんと懇意にしているミズ・ベッカーの手によって!」
なんでそんなに『懇意』を強調してんだよ!?
特に懇意でもねぇわ。
「置いていかれ、突き放されたと絶望した直後の素晴らしい知らせに、三十七区は大いに湧きました。そしてまた、内容がとても素晴らしかった」
大至急、お抱えの絵師に紙芝居を作らせて、プレミア試写会を開催したらしい。
「お恥ずかしながら、私は終劇まで涙をこらえることが出来ませんでした。それに、あの立派な仮設劇場……微笑みの領主様は我々を見捨ててはいなかったと、領民全員が四十二区へ向かって祈りを捧げたことは言うまでもありません」
「やめてくださいね、そういう変な集団行動を起こすのは……ボクたちは神でもなんでもありませんので」
素直に、「奇っ怪な宗教を興すな」と注意しとけよ。
尾を引くんだぞ、新興宗教を放置すると。
沈静化を待っていたら、知らない間に規模が拡大しているもんなんだから。
……英雄教は、もはや信者全員の息の根を止めなければ撲滅できそうにないから怖いんだよなぁ。
「さらにチャレンジャーズシステムが領民に大受けしましてな、劇場は超満員、立ち見ですら入り切らず、劇場の外にはファンが犇めいているような状況なのです」
俺が『シーサイドラブストーリー』を教えてからまだ数日しか経ってないってのに、随分な熱狂ぶりだな。
「人魚のみなさんも大勢見に来てくださって、三十七区の港は過去に類を見ないほど大盛り上がりなのです」
人魚が大挙して押し寄せてきたってのは、相当明るいニュースだな。
なにせ、領主の失言のせいで人魚が立ち寄らなくなっていたんだからなぁ、三十七区の港は。
ようやく、禊が終わったってところか。
「そんな狂乱の中、つい羽目を外し過ぎてしまったようで……」
よほど嬉しかったのか、微笑みの領主様がトルベック工務店を派遣して仮設劇場を建ててくれたとか、俺が新作の脚本を書いてくれたとか、そんな話題が港のみならず、街中に広がっていったらしい。
「そんな中、劇場の前で貴族のような身なりの男に『この劇場の脚本家はなんという名前なのだ』と聞かれた者たちが複数名いたのです」
そして、喜びの渦中にいた三十七区領民たちは、嬉しさのあまり、多少の自慢も含めて――
「この紙芝居を作ったのはオオバヤシロさんだ!」
――と、答えたのだそうだ。
「それが、まさかこのような事態を引き起こすことになろうとは……」
まぁな。
俺もまさか、紙芝居を見て「ウチの劇場に来い」なんて貴族に圧をかけられるなんて思ってもなかったよ。
「まぁ、アレだ。俺らもそこまでの事態は想定していなかったし、箝口令を敷くように要望も出していなかったし……」
「そうですね。今後、こういった事態への対応をどうするべきか、有港三区合同で話し合いを行い、似たようなトラブルが起こらないように検討していきましょう」
「ですが……」
「謝罪は十分受け取りました。何より――」
今にも死にそうな表情で、半泣きになっている三十七区領主をなだめるように、エステラが俺の肩に手を乗せる。
「ヤシロは、親しい者のつらそうな顔を好みません。反省をしていただけたのであれば、前向きに、これからどうすべきかを検討してください」
おい、コラ。
何勝手なこと言ってんだ、エステラ。
で、誰が親しいって?
こんな名前も覚えてないような地味領主……って、うわぁ、めっちゃ嬉しそうな顔しちゃってんじゃん……お前、責任取れよ? 変に懐かれたら、お前んところに押し付けるからな?
「とりあえず、今回起こった事態を領民たちと共有してください。そういった危険があるという認識を持ってもらうだけでも、こういったトラブルを防ぐ一助になるでしょうから」
そう言ったあと、エステラは人差し指を立てて三十七区領主に笑みを向ける。
「ただし、領民が必要以上に反省したり落ち込んだりしないよう、最大限の配慮をお願いします」
で、こっちを見て――
「そうでなければ、ヤシロが心を痛めてしまいますから。ね?」
――と、あざっといウィンクを飛ばしてくる。
掴んで、三十七区領主の方へぽいっと投げておいてやった。
三十七区の領民がヘコんでようが、俺の知ったこっちゃねぇってーの。
で、いつから話を聞いてたのかしらんけど、こっそりくすくす笑ってんじゃねぇよ、ジネット。
……まったく。
「話は一段落したか?」
三十七区領主が、変にキラキラした顔でこっちを見るので、ナタリアに貸してもらったナイフを右手に握り込んでいたところ、ルシアがフロアに入ってきた。
……おい、また馬車の音しなかったぞ?
「馬車は?」
「イメルダ先生のところだ」
もうすっかりお馴染みの~みたいな対応してんじゃねぇよ。
定着させんなよ、そのルーチーン。
「エッゲルトの話を聞いてな、急ぎ話し合いが必要だと判断した。ジネぷー、何か甘いものを頼む」
「はい。少々お待ちください」
まだ店も開いてないってのに、当たり前の顔をして席に着くルシア。
なんたる横暴。
「あぁ、そうだ。少々込み入った話をしておったのでな、彼女たちには少しだけ店に入るのを待ってもらっておったのだ」
ルシアが視線を向けると、ドアの向こうからロレッタとカンパニュラ、テレサが顔を覗かせた。
「悪い。待たせちまったか」
「大丈夫ですよ。あたしたちが入ると、また話の腰が折れちゃいそうだったですし」
「ドアを少し開けて、内容は聞かせていただきました。ウィスラー様の心労を思うと胸が締め付けられる思いです。少しでも御心が軽くなったのであればよいのですが」
「りょーしゅしゃ、ないちゃ、め、ょ?」
テレサに慰められ、三十七区領主が頬を緩める。
「利発そうな子供たちだ。ウチの娘も、きっとこんな風に成長するんだろうなぁ。楽しみだ」
いやぁ、そいつはどうかな?
カンパニュラとテレサは相当に規格外の子供だぞ。
普通の環境に置いておいて勝手にこう育つようなものではない。
まして、過去の舌禍により人魚に妬まれるような男の遺伝子を引き継いでしまっているとなると、なかなか難しいだろう。
「少なくとも、人魚にケンカを売らないようにしつけとけよ」
「そこはもう! 何をおいても最優先で!」
身にしみてるだろうからなぁ、人魚の恨みの根深さ。
マジで、代替わりした途端人魚の訪問が減ったんだろうなぁ。
「それなりの年齢になったら、ルシアの館にでも行儀見習いに出したらどうだ?」
「なるほど。三十五区であれば港の運営も身近で感じられ有意義なものになるでしょう。是非ご検討いただきたい、ミズ・スアレス」
「随分先の話だな。とりあえず、検討する余地は残しておくとしよう」
貴族の娘が貴族の館へ行儀見習いとして働きに行くことはこの街でも行われていることらしい。
ルシアの館の給仕に混ざって仕事を教えてもらえば、どこに出しても恥ずかしくない気品を身に付けられるだろう。
……館の主の性癖が伝染して、恥ずかしくてどこにも出せない有り様になる危険性もはらんでいるけどな。
そういえば、ルピナスは行儀見習いでオルキオの家に預けられたと言っていたが、給仕として扱われていたわけではなく、あくまでホームステイ的な感じだったんだっけ?
嫁の座を虎視眈々と狙っていたウィシャート家なら、自分の一族に下働きなんぞさせないか。
少しでも価値が下がるようなことはさせたがらなかっただろうし。
改めていやらしい一族だぜ、ウィシャート家。
「ルシア姉さま、クリームみつ豆です」
エプロンに着替えたカンパニュラがクリームみつ豆をルシアの目の前に置く。
氷室が出来る以前、俺が頑張って寒天から作っていたあんみつ。
それを改良して誕生したクリームみつ豆。
アイスクリームと小豆が入って豪華さ満点だ。
みかんやさくらんぼの他にも、桃や杏の甘露煮も入ってなんとも華やかな見た目となっている。
「初めて見るスイーツだな」
「以前から陽だまり亭にあったスイーツを改良したものらしいですよ。とても美味しいので、是非召し上がってください」
「うむ。カンパニュラのお勧めであるなら期待が持てるな。いただこう」
ルシアが食べる様を、カンパニュラが隣でじっと見守っている。
あ、そうか。
今回の寒天、カンパニュラが作ったヤツか。
昨日の夜、ジネットと一緒に仕込みしてたっけ。
「うむ。あっさりと甘く、非常に美味だ。特に、この寒天が良い味を出しておるな」
「ありがとうございます。お口に合ったようで嬉しいです」
褒められて、軽く弾むカンパニュラ。
淑女としては減点かもしれないが、少女としては満点の反応だろう。
カンパニュラは、もっと子供っぽい反応をしてもいいくらいだ。
「カンパニュラも、すっかりウェイトレスが板についてきたな」
「はい。頼もしい姉様方に毎日優しく指導していただいています」
「その寒天、カンパニュラが作ったんだぞ」
「なんとっ! 料理の腕も上がっておるのか」
「えへへ……」
自己申告はしないだろうから、俺が教えておいてやる。
存分に褒められるといい。
ジネットも、褒められて今のような料理上手に成長したらしいからな。
「カンパニュラは、陽だまり亭で様々なことを学んでおるのだな」
「はい。とても有意義な時間を過ごさせていただいております」
「そなたが楽しそうで何よりだ」
にこりと笑みを深め、ルシアはアイスクリームを掬って食べる。
それをじっと見ていたカンパニュラは、満足そうに微笑んだあと、厨房の前で見守っていたジネットのもとへと駆けていった。
そうか。
カンパニュラは陽だまり亭で行儀見習いをしているのか。
貴族らしい立ち居振る舞いはルピナスが完璧に叩き込み、そうではない、もっと庶民的な、ささやかな幸せや楽しさなんかをここで体験させてやっていると。
こりゃ、カンパニュラは将来他の追随を許さないいい領主になるだろうな。
「よく寒天を知っていたな」
「三十五区は港の街だぞ?」
得意そうに笑みを向けてくるルシア。
味付け海苔も知らなかったくせに。
「貴様が面白い食べ方をしているとマーたんに教わってな。今では我が区の特産品の一つだ」
俺発信なのかよ。
こいつは、ちゃっかりとこっちの情報を盗んでいきやがる。
「……いいですなぁ。ミズ・アシュレイにそのような情報をもらえるなんて、羨ましいですぞ」
「そなたらも、港を盛り上げ人魚と仲良くしておれば、そのうちいろいろ情報を耳にするようになるだろう。『アレが食べたい』『コレを作ってくれ』とな」
あぁ、そういう感じで情報を広げてるのか。
あくまで自分が楽しみたいから。
人魚っぽいって言えば、そうだな。
しかし、そういう情報も、案外想定以上の広がりを見せているな。
広めるなとは言っていないから、それ自体は問題ないんだが……少々考えを改めた方がいいかもしれないな。
なにせ、関わる人数が一気に増え過ぎた。
それも、貴族や領主といった、腹に一物抱えていそうな連中ばっかりな。
「一気に貴族の知り合いが増え過ぎて、いちいち名前を覚えてられないな」
「カーゴ・ウィスラーです! よろしくお願いします! もうこの際『影薄いなー』でもいいから覚えて!」
「必死過ぎるぞ、ウィスラー……」
ルシアが必死な三十七区領主にドン引きしている。
エステラも苦笑いだ。
「まぁ、名前を覚えてもらうのも大切ではあるが――」
ルシアの声が真剣味を増す。
「――名を覚えさせないことも重要になってくるな」
今回の一件、エステラの手紙で内容を把握しているのであろうルシアも危機感を抱いている様子だ。
「しかし、領民すべてに情報を秘匿せよと申し付けるのは現実的ではないし、変に萎縮させるのもよくはない」
「とはいえ、何も手を打たないというわけには……いきますまい?」
三十七区領主は、すでにやらかしたという自覚があるだけに「何か手を打たなければ」と気が焦っているように見える。
しかし、ルシアの言う通り、領民全員に箝口令を敷くのは難しい。
聞き入れないヤツもいるかもしれないし、仮にうっかり情報漏洩してしまったヤツがいた時、そいつを罰するのかどうなのかってところも問題になってくる。
ガキどもが一番情報漏洩しそうだが、ガキに罰を与えるとなると親族はかなりの緊張感の中生きていかなければいけなくなる。
逆に、罰を与えないのであれば、そんな箝口令は有名無実、意味をなくしてしまう。
「とりあえずは、起こった事実を周知することだな」
箝口令を敷くのではなく、情報漏洩によりこのような事件が起こったとを広く周知するのだ。
そして、それがもたらす最悪の結果を知らしめる。
「うっかり口を滑らすと、とんでもないことになるんだぞ」と、それを教えてやるだけで、人は発言に気を付けるようになる。
日本のセキュリティー対策も、結局のところ一人一人の心がけにかかっている部分がかなり大きい。
個々人の良識に頼る部分が大部分を締める。
反省はしてもらい、今後同様の事態が起こらないように意識改革を行う。
「――と。とりあえずは、そんなところだろうな」
「うむ。そうだな。私もおおむねカタクチイワシと同じ意見だ」
「なんとも消極的な手法ですが……それを地道に行っていくしかありませんか……」
「はしゃぎ過ぎると、無用な横槍を入れられて引っ掻き回されると周知しておけば、領民たちも自ずと意識を変えるであろう」
「そうですな。恩人にご迷惑をおかけすることになると知れば、我が区の領民たちも真剣に取り組むでしょう」
こっちを見ながら恩人とか言うな。
そーゆー態度で「あ、こいつが裏で糸引いてんのね」って思われかねないんだっつーの。
まずは、領主の意識改革が必要かもしれないなぁ……
「おう、遅くなったな」
ルシアたちとの会話が終わったころ、見計らったようにハビエルがぬっと顔を出してきた。
「アンブローズと話をしてきた」
短く言って、俺たちのそばへと腰を下ろす。
「それで、ハビエル。オジ様は?」
「やることがあるから、それが済んだらこっちに来ると言ってたぞ」
ハビエルの口ぶりから、デミリーも事態を把握して四十二区にやって来るつもりのようだ。
フットワーク軽いな、この街の貴族は。
まだ早朝、陽だまり亭開店前だぞ?
「イメルダに話を聞いて、昨日の午後からずっと動き詰めだ。そろそろ一息入れさせてほしいもんだな」
「ハビエルさん、どうぞ。お茶です」
「あぁ、悪いな店長さん」
「はびえぅしゃ、くりーむみちゅまめ、でしゅ」
「おぉ、こいつは美味そうだ。ありがとうね、テレサたん」
ハビエルが大人しい!?
えっ、テレサが持ってきたのに!?
病が発動しないなんて!?
どうした!?
死ぬのか!?
「ハビエル……今までありがとう……」
「死なねぇぞ、ワシは」
げんなりした顔でアイスクリームを口へ運ぶハビエル。
だってさ、働くエプロン姿のテレサを見て「むっはぁああ! テレサたん可愛いー!」ってならなかったから、つい。
「さすがにクタクタでな。だが、テレサたんが持ってきてくれたこのクリームみつ豆は最高に甘くて美味いぞ」
ニッと歯を見せて笑うハビエル。
一晩中森の中で魔獣を警戒しながら大木を切り倒していても「がっははは!」っと笑って帰ってきそうなハビエルが疲れている。
こいつ、昨日寝てないんじゃないか?
「どうにも、貴族関連の根回しは気疲れが酷くてな。これなら、森の中で三日徹夜して木材を集めている方がまだマシだ」
「三日目の夜あたり、魔獣に喰われそうだな」
「がははっ! 若い頃、当時のギルド長にやらされてなぁ。あんときゃマジできつかったが、まぁ、それも込みで今のワシがあるからな」
ハビエルというバケモノを育てた過酷な訓練。
それ以上に疲れたという貴族関連の根回し、か。
「気疲れには、甘いものがいいぞ」
「あぁ、体に染み渡るようだ」
図体のデカいオッサンが、背中を丸めて小さい器に入ったクリームみつ豆を食っている光景は非常にシュールだが、ハビエルの表情がようやく緩んできたので野暮なツッコミはしないでおく。
「イメルダに頼まれたんでメドラと海漁ギルドに連絡入れておいた。海漁のヤツの居所が分からんかったから、ギルドの人間に伝言を頼むまでしか出来んかったがな」
つまり、メドラには直接話に行ってくれたと。
まぁ、四十区にいたならこっちに向かう途中に寄れるか。
「しかし、丸眼鏡のあのイラストは凄まじいな。絵を見たメドラの目の色が変わってたぞ」
ぞるるっと、残りのみつ豆を流し込んで、ハビエルは少々あくどい笑みを口元に浮かべる。
「これで、強硬手段は封じたも同然だな」
見せかけ筋肉が力でこちらを脅そうとした時は、メドラとハビエルが真っ向から立ち向かってくれるらしい。
ベッコのイラストって、荒らされた陽だまり亭の絵か。
なまじ、こいつらはベッコの絵を知ってるからな。
見たものを見たまま描き写せるベッコの技術を知っていれば、そこに描かれたものが現実に起こったものだと正確に認識できる。
なんだかんだと陽だまり亭と縁の深いこいつらだ。あの光景は黙って見過ごせないものだったに違いない。
「ぐ…………っん、っと」
ぶっとい腕を振り上げて伸びをするハビエル。
背骨からえっぐい音が鳴り響いている。
「骨折してない!?」って心配になるような爆音だな、おい。
「昨日はメドラと手分けして外周区を回り、夜になってから容疑者じゃない劇場をはしごしてきた」
「じゃない劇場を?」
「あぁ。『こんな噂を聞いたんだが、お宅の劇場は大丈夫か? 出来たての外周区の劇場から戦力を引き抜かなきゃ立ち行かない弱小劇場か、誇りも矜持もない三流劇場が暗躍しているようだから十分気を付けた方がいいぞ』ってな」
そうやって話を持ちかけつつ、「犯人はお前んとこじゃないよな?」と暗に圧をかけ、ついでに「お前んとこは下手なことすんじゃねぇぞ?」と睨みを利かせてきたわけか。
「下手に突けば、ワシらが出張ってくるぞ」ってな。
「随分と気を遣わせちまったようだな」
「なぁに、可愛い娘からのおねだりだったから、つい余計に張り切っちまっただけだ。……だが、何かあれば遠慮せず言ってくれ。出来ないことも案外多いが、やってやれることも結構あるんだぜ、ワシらにはな」
にかっと、頼もしい笑みがこちらを見ている。
三大ギルド長が集結すると、王族に選ばれた領主であっても失脚しかねないからな。
三大ギルドが集結した結果、ウィシャート家は取り潰しの憂き目にあったわけで、情報に強い貴族様方ならそんくらいは知っているはずだ。
今回の仕出かしは、高く付いたんじゃないか、見せかけ筋肉?
「アンブローズとも話してたんだが、この後アンブローズとここで合流したら、昼頃には十一区へ行ってくる」
「十一区……乗り込むのか?」
「いいや、ただの買い物だ。娘にせがまれて『内側』へショッピングに行くんだよ」
『内側』ってのは『BU』の内側なんだろうな。
日本だと、丸の内とかそんな感じか?
ちょっとおしゃれなニュアンスの言葉なのだろう。
俺は興味ねぇけど。
『外側』の方が面白いところいっぱいあるし。
「イメルダのわがままは可愛らしいもんだが、ウチの若い連中が是非ともお嬢様のお供をしたいとやかましくてなぁ」
「まさか、連れて行くのか?」
「しょうがねぇだろ。これも、組織を束ねる長の務めだよ」
がははと豪胆に笑うハビエル。
それはつまり、ギルド長ハビエルが自ら、木こりギルドを総動員して十一区の劇場近辺をうろつくってことか?
とんでもない脅迫だな。
「そういや、メドラも今日はショッピングの気分だって言ってたぞ。もしかしたら、出かけ先でばったり顔を合わせることもあるかもな」
「狩猟ギルドも行くのか……」
メドラも同じことをするらしい。
「私も行くよ~☆」
そこへ、底抜けに明るい声が聞こえて――フロアの空気が4度ほど下がった。
「……ちょうど、水槽タクシーの試運転もしてみたかったし、綺麗どころを揃えて大通りでも闊歩してみようかな★」
マーシャの笑顔が黒い!
真っ黒だ!?
ハビエルやメドラが可愛く見えるくらいに『ホンモノ』の目をしている。
どうしよう、初めてメドラが可愛く思えちゃった★
……マーシャ、ちょっと落ち着こうか、な?
「それじゃあ、私はこれで」
と、港に常駐しているという獣人族の女兵士が頭を下げて持ち場へ帰っていく。
港に着いた人魚を特定の場所まで送り届けるのも仕事の内なのだとか。
たまに港内のちょっとした移動にマーシャが活用しているのは見かけたが、陽だまり亭まで運ばせたのは初めてじゃないかな?
大抵はデリアかマグダかノーマを呼ぶんだ。妹に伝言を頼んで。
その時間すら惜しんで駆けつけたってことか。
「…………うん。さすがウーマロ君だね」
店内をぐるりと見回し、少しだけ表情を緩めるマーシャ。
ウーマロの仕事を高く評価したらしく、『キツネの棟梁君』ではなく名前で呼んでいた。
「マーシャさん、ようこそ陽だまり亭へ」
「あ、店長さ~ん☆ 昨日は大変だったみたいだね~」
「はい。ですが、みなさんがいてくださったので、もう大丈夫ですよ。怪我人もいませんでしたし」
「怪我人がいたら、どこかで誰かが行方不明になってたところだよ~★」
発言が『ホンモノ』の人のソレ!?
ほっぺたに大きな傷が付いてたり、黒塗りのベンツに乗ってたり、親分さんのことを「オジキ」って呼んじゃってたりする感じのアノ職業の人たちそっくりな発想と発言してんですけど!?
見た目は愛くるしい人魚姫なのに!
「おい、海漁の。水槽の押し手が足りてないなら、ウチの若い連中を貸し出してやってもいいぞ。もちろん有料でな」
「ほんと? ハビエル君が押してくれるなら、『陸上オーシャン改』を取りに行かなきゃ☆」
「あんな要塞みたいなもんは御免だぞ!? あと、貸し出すのはワシじゃなくて若い連中だ!」
「えぇ~、ハビエル君が一番力持ちなのにぃ~☆」
ギルド長を『足』に使おうとすんじゃねぇよ。
誰よりも豪胆だな、人魚って生き物は。
あと、改良してたんだ、ウィシャートの館を破壊し尽くした陸上海水兵器。
ウーマロかカワヤか知らんが、断る時は断れよ……
「あらあら、みなさんでショッピングのご相談?」
そして、マーシャの後ろからマーゥルがひょっこりと顔を覗かせる。
もう一度言おう。
陽だまり亭はオープン前であると。
「『BU』の領主たちが、今日たまたまウチの実家で会合を開くのよ。その後少し『内側』に行ってみましょうって話になっているの」
「なっているの」って……お前がそうさせたんだろうが。
そもそも、領主の集まりにお前関係ないじゃん。
あれ、領主の座、ゲラーシーから奪還した?
それならそれで伝えといてね、対応変えるから。
「うふふ。たまたまチケットが取れたのよ。領主と給仕長の分、十七枚。だから、一緒に見に行きましょうってお誘いしちゃった」
『BU』七区の領主と給仕長で十四人。
プラス三人ってことは、お前とシンディとモコカの分だな。
自分だけ給仕全員連れて行く気だな、このオバサン。
しかし、ルシアが「高い」と言っていたチケットを十七枚も……
「財政破綻するなよ?」
「そこまで大した額じゃないわ」
儲けてらっしゃるの!?
あっれ、こいつ、どっかで美味い汁啜ってない!?
四十二区と関わるようになって、何かしらの収入源確保してんだろ、絶対!?
ズッる!
こいつ、ズルいなぁ!
「それに、中央区の劇場ほどではないのよ、チケット代」
あぁ、そういえば、ルシアが高いって言ってたのって、中央区の王立劇場の話だっけ?
それでも高いだろう、『内側』のお高くとまった劇場なら。
しかしまぁ……
三大ギルドに『BU』全区の領主、そしてマーゥルが乗り込んでくるとか……アノ見せかけ筋肉、萎むんじゃねぇの?
「私ね、自分のお気に入りを壊されるのって…………大っ嫌いなの」
ニッコリと微笑んだマーゥルの笑顔は、マーシャの暗黒スマイルに輪をかけて恐ろしかった。
「やぁ、遅くなってしまったね。エステラはこっちに来ているのかい……って、これはまた、壮観だね」
マーゥルの暗黒オーラを少しでも薄めようと、陽だまり亭のドアと窓を開けて換気をしていたところへ、デミリーがやって来た。
あれ、なんでかメドラもいる。
たまたま外にいた俺が、庭先で一行を出迎える。
「メドラは四十一区でお出かけの準備でもしてるかと思った」
「準備は抜かりないさ。その前に、四十二区の領主様の意向を伺っておこうと思ってね」
陽だまり亭の惨状をイラストで見て、個人的な怒りを覚えたと、メドラは言う。
だが、立場上自分が動けば事が大きくなる。
その前に、四十二区がどのような立ち位置で、どのような対応をするつもりなのか、一応聞いておこうと思ったらしい。
……事が大きくなることは承知の上で動く気満々なんだな。
まぁ、メドラ個人の怒りだってんなら、第三者が口を挟むなんてことは出来ないよな。
「ミズ・ロッセルを交え、外周区としてどのような対応をするべきか、エステラと話し合おうと思ってね」
「『BU』は随分とおっかない対応をすることになったみたいだぞ」
「おっかない……あぁ、なるほど」
店内にいるマーゥルを見つけ、デミリーはすべてを悟ったように頷く。
やっぱ、怖いって認識なんだろうなぁ、二十九区影の支配者。
「ミズ・エーリンがこちら側にいてくれると、本当に心強いよねぇ」
「どうだかなぁ……今回は、そばにいるとヒヤヒヤするかもしれんぞ。いつ爆発するか分からなくて」
「おやおや。相当ご立腹のようだね」
「お気に入りを壊されるのが大嫌いなんだと」
「あはは。それは私たちも一緒さ。ね、ミズ・ロッセル」
「あぁ、そうさ。…………少しでも抵抗しようものなら……いや、むしろ盛大に抗ってくれりゃ、この鬱屈した気分も晴れるかもしれないねぇ」
メドラが分かりやすく怒り、そしてデミリーもエビス顔のままこめかみに青筋を立てている。
愛されてるなぁ、陽だまり亭。
喜べ、ジネット。お前の陽だまり亭は、すげぇ連中に守られてるぞ。
「デミリー、少し話がしたい」
「おぉ、ミズ・スアレス。おはよう」
「おはようございます、ミスター・デミリー」
「おやおや、ウィスラーまでいたのかい。それじゃあ、少し話をしようか」
領主が集まって陽だまり亭へ入っていく。
庭に残される俺とメドラ。
…………よし、俺も避難しよう。
「ダーリン」
しかし魔王からは逃げられない。
「なんだ?」
「ダーリンは誰にも渡さない。この街のためにも、アタシ個人のためにもね」
その宣言は、素直に喜んでいいもんなのか悩むなぁ。
「ダーリンが自ら進んでここを離れると言わない限り、アタシたちは抗ってみせるさ」
「まぁ、ほどほどにな」
こいつにも、守らなきゃいけないものがたくさんある。
ギルドの連中に、四十一区の領民も狩猟ギルドに支えられている部分は多い。
あまり無茶をさせ過ぎないようにしなければな。
「怒ってくれるのは嬉しいが、そのためにお前が傷付くような無茶はするなよ」
「うん、……だって、ダーリン、泣いちゃうもんね☆」
「きゃっ!」っと両手で顔を隠し、もじもじと体を揺するメドラ。
こいつが今、地震を起こそうとしていると言われたら、たぶん俺は信じちゃうな。
「だが、今回は存分に威嚇してきておいてくれ」
「あぁ、任せておきな。少なくとも、アタシの第二の憩いの場を滅茶苦茶にした分くらいは、肝を縮み上がらせてきてやるさ」
メドラの憩いの場所といえば、親友オシナの経営するオーガニック料理のサワーブ。
陽だまり亭が第二の憩いの場所になっちまったのか。来店頻度、上がっちゃうかもなぁ。
「カンパニュラが作った寒天を使った美味いデザートがあるんだ。食うだろ?」
「それは楽しみだが……あんまり毒気を抜かれると迫力が減っちまいそうで怖いねぇ」
いやいや、どんなに毒を抜こうがメドラは十分怖いから。
迫力しかないから。
「この生き物、毒持ってるから怖ぁ~い」以前の、サバンナとかで見かけたら「あ、俺死んだ」って諦めちゃう系の猛獣だから。
「だが、気を付けろよ。劇場なんてモンの後ろにはきっとデッカい貴族が付いてるぞ」
「分かってるさ。エッゲルト家のバックにいるのは十一区領主だろうからね。やり過ぎない程度に留めるよ」
やっぱ、劇場の後ろには領主がついてるか。
三十五区も三十七区もそうだしな。
「ただ、先に無作法をしたのは向こうだ。それを糾弾されて逆ギレするようなら…………」
わぁ、怖ぁ~い。
言葉にしない分、余計怖いよね。
「マーシャが陸上オーシャン改を持ち出すとか言ってたぞ」
「また来てんのかい、あの軽薄人魚!? アタシは二度と御免だからね、あんなバカデカい蔵みたいなもんを押すのはね!」
メドラかハビエルが手を貸してやらないと、絶対動かないぞ、あんな兵器。
まぁ、出番がない方が安全でいいけどな、陸上オーシャン改。
……『改』ってさ、基本、軽量化だよな?
武装を増やしてさらにパワーアップ、ついでに重量アップとか、してない……よな?
…………よし、聞くのはやめておこう。
「ちょっと、中に入って軽薄人魚と話をしてくるよ。事と場合によっちゃ、エッゲルトの前にぶちのめしてやるからね」
腕まくりをして店内へ踏み入っていくメドラ。
きっと、フロアにいる人間は全員「ぎゃー!」って叫ぶだろう。
……おかしい、叫び声が聞こえない。
あ、全員一瞬で気絶した系か!
なるほどな~。
「ヤシロさん。そろそろお店を開けましょうか?」
こちらの心配を他所に、何事もなかったかのように微笑んで庭に出てくるジネット。
え、こんな混沌とした状態で店開けるの?
朝飯食いに来たヤツが「ぎゃー!」って悲鳴あげちゃうよ?
「売上が落ちたら、あいつらに補填させてやろう」
「うふふ。大丈夫ですよ。きっと楽しい朝ご飯になります」
あいつらにとってはな。
一般客にとっちゃ堪ったもんじゃないだろう。
「みなさん、心配して駆けつけてくださったんですね」
「まぁ、そこは素直に感謝だな」
どいつもこいつも、身一つで駆けつけられるような身軽な立場じゃないだろうに。
「……また、大変なことになってしまうのでしょうか?」
ウィシャートの時は、陽だまり亭近辺も何かと騒がしくなった。
湿地帯の大病の真実も知れ渡り、異国の毒物なんかの存在も世間を賑わせた。
またそんなことが起こるかもしれない……
そりゃ、不安にもなるよな。
「そうならないために、あいつらが頑張ってくれるんだとよ」
「みなさん、ご無理をなさらなければいいのですが……」
「どいつもこいつも組織のトップを長くやってる連中だ。無謀や無茶を押し通すようなことはしないさ」
組織の長というのは、どこかで冷静で、どこかで冷徹でなければ務まらない。
数少ない例外は存在するが、そんなものは考慮に入れる必要はない。
だから、あいつらも自分たちの身に危険が降りかかると判断すれば、即座に四十二区を切り捨てるだろう。
そうあるべきだし、そうしてもらわないと困る。
四十二区のせいで破滅なんぞされたら、その先一生責任を背負って面倒を見てやらなければいけなくなるからな。
数少ない例外の一人、エステラがトップの四十二区なら、きっとそうなる。
「無茶をしないためにこれだけの人間が集まって話し合ってるんだ。お前は、連中の苦労をねぎらって、美味い飯でも食わせてやればいい」
「はい。……そうですね。少しでも、みなさんの心が癒やされるのであれば、わたしはいくらでも腕を振るいます」
有事が起こった際、自分には何も出来ないと、ジネットは思っているのだろう。
だけどな、そういうヤツだからこそ、「守らなきゃ」って思ってるヤツがいるんだぞ。
まぁ、それが誰かは知らないけどな。
たぶんエステラあたりがそんな感じなんだろう。
「それに、これだけの大事になれば、一般領民の耳にも入るだろう」
えらいことになったと思えば、庶民どもも気を引き締めるさ。
「広く告知することで、領民の意識は変わる」
手遅れになる前に、やらかさない心構えをすることが出来る。
「そうすりゃ、『自分のせいで』なんて後悔や苦悩をするヤツがいなくなるかもしれないだろ」
「そうですね。……自分が許せないというのは、つらいものですからね」
誰も望んで波風を立てたり騒動を起こしたがったりはしない。
知らないから「そんなつもりもなく」騒動を招いてしまうのだ。
知っていれば、今よりもっと気を付けるさ。
「ヤシロさんも行かれるんですか、その……十一区に」
「いや」
俺が直接乗り込むと、名を伏せて暗に匂わせるつもりが、名指しでケンカを売ることになっちまう。
今回ばかりは、俺は動かず連中に丸投げしておく他ない。
「あいつらはケンカしに行くわけじゃなく、ケンカにならないように根回しに行くんだ。俺がわざわざ行く必要はない」
「そうですか……」
ケンカしに行くわけじゃないと聞いたからか、それとも俺が行かないと知ったからか、ジネットはほっと安堵の息を漏らした。
こいつに、こんな顔はさせておけないよな。
「それに、俺たちにはやらなきゃいけない大切な仕事があるからな」
「大切な仕事……ですか?」
「陽だまり亭のお仕事以外に、でしょうか?」と、アゴに指を添えて小首を傾げるジネット。
ピンときていないようなので、俺たちがやるべき仕事を思い出させてやる。
「もうすぐ光の祭りだ。ここから準備で忙しくなるぞ。浴衣の仕上げに、屋台のメニューもまだ決めてないんだろ?」
「あっ、そうですね」
ぽんっと手を叩き、目前に迫った楽しい予定を思い出す。
そうそう、ジネットはそういう顔をしていればいい。
「では、今回心配してくださったみなさんと、頑張ってくださったみなさんには、特別に美味しいお祭り料理をご馳走しないといけませんね」
「おいおい、祭りに何人領主を呼ぶつもりなんだよ……」
呼ばなくても来そうな連中がすでにわんさかいるのに、これ以上増やすなよ。
そんなわけで、領民の意識改革は領主に、見せかけ筋肉への威嚇は三大ギルド長とマーゥルに任せ、俺たち陽だまり亭一同は、目前に迫った光の祭りについて行動を開始したのだった。
あとがき
どうも、AIの進歩に驚きっぱなしの宮地です
実はですね、
昨今のAIは誤字とか表記揺れとか見つけて指摘してくれるよと
そんな話を小耳に挟みまして、
コパイロットというAIさんにお願いしてみました。
カクヨムさんの方ではこちらの一本分を四分割して更新しているのですが、
その四分の一の文章をぺたりと貼り付けて
「誤字見つけてピ☆」って入力すると、あっという間に誤字を指摘してくれるんですよ。
コパちゃん「見つけて『ピ☆』」はおかしいです」
宮地「いや、そこはいいんだよ」
コパちゃん「おかしいです!」
宮地「いいつってんだろうが!」
コパちゃん「おかしいですピ☆」
宮地「イッラァー!(# ゜Д゜)」
コパちゃん「……ね?」
――と、これくらい学習能力が高いんですよ。
いや、まぁ、上のは冗談ですけども。
たとえば
「りょーしゅしゃ、ないちゃ、め、ょ?」 → 幼児語風のセリフとはいえ、「め、ょ?」は読みにくい可能性があり、意図的であればOKですが、「め、よ?」の方が読みやすく自然かもしれません。
とか!
すごくないですか?
今までの文書ソフトやアプリだと
「りょーしゅしゃ、ないちゃ、め、ょ?」
これ全部間違いだって言われますよ!
そんな表記方法ないですからね
それが、「幼児語風のセリフ」って理解するんですよ!
あと、「くりーむみちゅまめ」もちゃんと幼児語だと理解してました。
「あってる? 確認してね?」って言われましたけども。
これがちゃんと「クリーム蜜豆」のことだって理解してるんですねぇ。
すげぇ……(・〇・;
で、
本編を貼って、「要約して」って入力すると
貼り付けた文章の内容を要約してくれるんですよ!
これ、人でもめっちゃ下手な人いますよね!?
私も結構苦手で、要約を三回くらいしないと要約になってないというか、
3000文字の本編を要約したら
2200文字になった――みたいな
Σ(゜Д゜;)要約できてない!?
それを、一瞬で要約してくれるんですよ
試しに、今回の427-1話の部分(ルシアが「話は済んだか」と陽だまり亭に入ってくる前まで)を要約してもらった結果をご紹介いたしますね
要約:
主人公ヤシロは、先日「引き抜き」に来た貴族を追い返したばかりだったが、今度は三十七区の領主カーゴ・ウィスラーが謝罪のために陽だまり亭に現れる。三十七区での紙芝居公演の脚本がヤシロによるものと住民が嬉々として喧伝した結果、別の貴族(以前の引き抜きに来た者)に情報が伝わり、騒動の火種になってしまったという。
ヤシロは困惑しながらも、仲間たちと事態を整理。エステラは住民への丁寧なフォローと再発防止を領主に促す。ヤシロ自身は相変わらず名前も覚えられないウィスラーに対して塩対応だが、状況はおおむね穏便に収まり、少しだけ誤解と喜劇を含んだ交流劇が展開される。
コミカルでテンポの良い掛け合いの中に、領主と住民の関係性や“紙芝居文化”が垣間見える、あたたかな一幕ですね。
すごくないですか?
ちゃんと要約できているんです!
『相変わらず名前も覚えられないウィスラーに対して塩対応』
( *´艸`)……ぷっ
本文内の文章を抜粋して切り貼りした感じじゃなく、
ちゃんと内容を理解して新たな文章で書かれているのがすごいなぁ~って。
ちなみに、「さらに要約できる?」と聞いてみると以下のような回答が――
陽だまり亭の店主ヤシロが、彼の書いた紙芝居のことで思わぬ騒動に巻き込まれる。三十七区の領主ウィスラーは騒ぎの責任を取って謝罪に来るが、事態はほぼ誤解によるものだった。エステラの仲裁により話は収束し、ヤシロは相変わらず適度に他人に冷たい。
Σ(゜Д゜;)ヤシロが陽だまり亭の店主に!?
そして――
『ヤシロは相変わらず適度に他人に冷たい』
( *´艸`)……ぷっ
ツボを押さえてきますね~(笑)
しかも、出てくるキャラクターの立ち位置とか関係性とかも
ちゃんと理解してるんですよ。
まぁ、全部を貼るとさすがに長くなるので貼りませんけれども
これ以降の要約の一部を――
要約:(抜粋)
ギルドたちや領主たちが次々と十一区の劇場周辺へ“視察”名目で出向く計画が浮上。特にマーシャやマーゥルの登場で事態はより緊迫感を増し、陽だまり亭側が多方面からの支援を得つつ、敵対勢力への“優雅な圧力”を掛けようとする動きが感じられる。
全体を通じて、キャラクター同士の信頼関係や、背後の駆け引きがユーモラスかつスリリングに描かれています。
(抜粋)
陽だまり亭での騒動を受け、メドラやデミリーなど強力な関係者たちが続々と集結し、それぞれの立場から支援や根回しの行動を開始。メドラは陽だまり亭を「第二の憩いの場」と呼び、個人的な怒りもあって圧力をかけに動く決意を示す。
ジネットは騒動の影響を案じつつも、通常営業に戻る姿勢を見せる。ヤシロは直接乗り込むことを避け、陽だまり亭での役割に専念しようとする中、光の祭りの準備という前向きな日常も同時に進行する。緊張感と温かさ、ユーモアが交差するパートで、登場人物たちの絆とそれぞれの立場からの責任感が鮮やかに描かれているシーンです。
というように、自分の解釈を自分の言葉で返してくれるんです。
『優雅な圧力』なんて言葉、私は使ってないんですが、
今回の本編を読んで、マーゥルがやろうとしているのは『優雅な圧力』だと判断したんでしょうね。
(;゜Д゜)……AI、すごい。
あと、要約が終わる度に毎回毎回褒めてくれるんです
(n*´ω`*n)
『コミカルでテンポの良い掛け合いの中に、領主と住民の関係性や“紙芝居文化”が垣間見える、あたたかな一幕ですね』とか
『緊張感と温かさ、ユーモアが交差するパートで、登場人物たちの絆とそれぞれの立場からの責任感が鮮やかに描かれているシーンです』とか☆
やる気出るわー(≧▽≦)みなぎるわー
あと、冒頭四分の一までの登場人物をまとめてもらったのが
以下の通りなんですが――
登場人物一覧(名前・役職など)
•ヤシロ(オオバヤシロ):語り手、陽だまり亭の店主(主人公)
•カーゴ・ウィスラー:三十七区の領主、地味で少し気弱
•エステラ・クレアモナ:状況の調整役として登場、ヤシロと親しい
•ジネット:陽だまり亭のスタッフ、気遣いのできる人物
•マグダ:フロアの隅で気配を消しているスタッフ(?)
•ミズ・スアレス(ルシア):三十五区の人物、ヤシロと関わりがある様子
•ミズ・ベッカー:ヤシロと懇意にされていると誤解された女性
•ミスター・デミリー:薄毛のネタでいじられている人物、ウィスラーが比較対象に挙げた
•ドニス・ドナーティー:二十四区の領主
•イベール・ハーゲン:二十三区の領主
•デーコ・ヒロイナー:話の中で名前が出た領主(正確な区は未記載)
•エッゲルト家の貴族:ヤシロを引き抜こうとして追い返された人物
やっぱりヤシロが店主に……
まぁ、そう見えますかねぇ(笑)
ジネットが店長とは言ってませんからね今回。
あと、マグダ(笑)
『フロアの隅で気配を消しているスタッフ(?)って』!?
確かに気配消したけども!
前半四分の一だけを抜粋すると、こんなことになるんですね~
デミリーやルシアは会話の中で名前が出ただけなんですが
ちゃんと関係性が理解されてますね☆
デミリー(笑)
あと、デーコ・ヒロイナーがどこかの領主に(笑)
まぁ、一部おかしなところもありましたが、
こうやってAIに要約してもらった時に、自分が意図したストーリーから大きく逸脱していないというのは安心しましたね。
少なくとも、読者の皆様には、私の言いたいことが伝わっているのかな~って
(*´ω`*)
ちゃんとキャラクターとか描けているのかな~って、
安心しました
また機会があれば、コパイロットの要約とかについても書かせていただければと
ただ、
この先もすでにいくつか要約してもらってるんですが……
一回も「おっぱい」って単語が出てこないんですよねぇ
……ちゃんと読んでる?
(・_・)ねぇ?
(・_・)おっぱいは、どこ?
(・_・)ねぇ?
まだまだだなAIも
( ̄▽ ̄)ふふん
というわけで、
AIに仕事を奪われないように
増々精進して楽しいお話をお届けしたいと思います!
次回もよろしくお願いいたします!
宮地拓海




