426話 押し掛けてきた厄介ごと
『濃いっ! 重鎮だらけの早朝ミーティング』から二日。
俺は、ノーマに拉致され金物ギルドのいわゆるノーマ工房に監禁されている。
……いや、三十五区から帰ってくるなり、ノーマが熱くてなぁ。
「アルシノエたちがあんなに努力してるんだから、アタシも負けてられないさね!」って、物凄い熱量で鉄を打ち始めてさぁ……
三十五区に行った日はまだ領主権限発令前だから乙女たちに「接近禁止~!」とかって筋肉ブロックされたのに「明日には世界がひっくり返るんさよ!」とか危ういところまでぽろりしかけて強行突破して鍛冶場に籠もっちまったからなぁ。
そっと、ルアンナの背を押してお目付け役を押し付けといた。
半泣きでめっちゃ首をぶんぶん振ってたけど、「パ・ン・ツ」と耳元で囁いてやると泣きながらノーマ工房に突撃していった。
あの後ろ姿を、俺はきっと忘れないだろう。
一応、領主も認めた罰が効力を発揮しているようで、その日も翌日――つまり昨日も、ノーマはきちんと夜は寝ているようだ。
その代わり、早朝に陽だまり亭に押しかけて俺を叩き起こし、「ちゃんと寝てきたさよ。さぁ、鍛冶の時間さね」って俺を拉致するようになったんだけど。
……しまったなぁ。早起きに制限を設け忘れてた。
ジネットより早く起きて、鍛冶場の準備を万全に整え、ジネットが起きるくらいの時間に押しかけてきて、まだ寝ている俺を担いで鍛冶場へ戻る。
そんなルーチーンがこの二日繰り返されている。
あ、ルアンナ、そこで寝てていいぞ。
付き合わされるの大変だよな。ずっと付き合ってるとお前が倒れるから、休める時に休んどけ。
大丈夫、今は俺がお目付け役やっとくから。
ははっ、バカだな。礼なんかいいんだよ。
俺たちは、被害者友の会じゃねぇか☆
……変な連帯感できちゃった。
で、現在。
ノーマはすでにハンドルと本体、そしてパイプと水口を数パターンずつ完成させている。
どれがいいか、もっと改良できないか、そういうところを見ている段階だ。
……早いって。
二日目でもう組み立て段階なのかよ。
こいつ、睡眠時間を確保するために日中の作業内容圧縮してないか?
普段の二倍体を動かせば作業量は二倍になるって? ならないからな? 常人だったらな!
「ハンドルの細さはこんなもんがいいな。普及させるならガキも使うことになる。しっかりと握れるようにしといてやらないと使いにくいだろう」
「けど、それだと強度が不安になるさねぇ……」
「そこをなんとかするのが鍛冶師だろ?」
「くふーっ、言ってくれるさねぇ! んじゃあ、材料から見直してみっかいねぇ」
そんな感じで、俺は俺でこういう環境に身を置くと妥協できない性分が遺憾なく発揮されてしまい、結果、二人で全力をぶつけ合うことになってしまうわけだ。
「ヤシロ氏、胴体の彫刻はこんなものでいかがでござるか?」
「ん、いいんじゃないか?」
正直、デザインはそこまでこだわらないし。
まぁ、見栄えはした方がいいけどな。
「どうだ、イメルダ?」
「まだまだですわ!」
「具体的に、どこがよくないでござるか?」
「見せに来た時のドヤ顔が気に入りませんでしたわ!」
「彫刻以前の問題だったでござる!?」
昨日、木玉用の木材を見繕ったにもかかわらず俺が顔を出さないからと、ノーマ工房に押しかけてきたイメルダ。
工房に監禁されていた俺はウーマロを呼び出して意見を聞きながら、鉄との相性も見つつ、その場で木材を選び、三種類の木材で木玉の加工を依頼した。
で、今日はその完成した木玉を持って実際に使ってみようということらしい。
……いや、だから、手押しポンプをゼロから作ろうってのに、二日目に組み立てて稼働テストとか、普通できないからな!? 普通ならな!?
なにをさらっと無茶なスケジュール立てて、しれ~っと実行しちゃってんの、この人たち!?
え、寝てるのに!?
寝ててもこの進度なの!?
どんなチート能力持ち合わせてんだよ、お前ら全員!?
「明日は、お父様がいらっしゃるので、マッチ棒加工機のご相談に参りますわ」
「いや、イメルダんとこでやれよ」
「お父様も、この工房に入ってみたいのですわ。領主権限で立ち入りを制限された最重要機密の眠る、この特別な空間に」
そういうのに入れる特別感とか、わくわくするのは分かるけども……少年か、あのオッサンは。
「ちなみに、ベッコさぁ……分裂って出来る?」
「出来ないでござるよ!?」
「……不気味ですわね」
「出来ないと申してるでござるよ、拙者!?」
「ここでは分裂するんじゃないさよ、ベッコ」
「ここでもどこでも出来ないでござるよ!?」
そっか、出来ないのか。
「じゃ、やめとくか」
「えっ、なんでござるか!? 何か拙者に頼み事がござるか!? やるでござるよ! ヤシロ氏の依頼とあらば、一も二もなく引き受けるでござる!」
「じゃあ、素っ裸で大通りをスキップしてきて」
「意味のない依頼はお断りでござる!」
「……変態、ですわね」
「やってから言ってほしいでござる!?」
「イメルダに『変態』って言われたいんかぃね……」
「アクロバティックな解釈でござるな、ノーマ氏!?」
「変っ態ですわね」
「さっきよりも語気が強くなったでござるよ、イメルダ氏!?」
よかったな、ベッコ。
美人お嬢様に口汚く罵ってもらえて。
もう思い残すこともないだろう。
成仏しろよ。
「じゃ、一回組み立ててみるかぁ」
「待ってほしいでござる! さっき言いかけたことの詳細を聞かせてほしいでござる!」
「ん? あぁ、素っ裸でさ、大広場から大通りを二往復くらいして――」
「それじゃないでござるし、二往復もさせるつもりだったでござるか!?」
違うのか?
じゃあ、なんだよ?
「拙者が分裂する必要があるような大変な仕事でござるか?」
あぁ、それか。
「いや、内容はそこまで大変じゃないんだ」
現在ベッコは、ノーマの作った手押しポンプの胴体部分に高級感あふれる感じの模様を刻み込んでいた。
貴族の肖像画を飾る額縁や、貴族の家のインテリアに施されるような感じの模様だ。
三十五区の噴水にも、こういう模様が刻み込まれている。
こういうの、高級感は出るんだよな、高級感は。
だが――
「試作品を置くのは陽だまり亭の中庭だからさ、もうちょっと陽だまり亭に合った雰囲気の模様に出来ないかと思ってな」
「それは確かにそうさねぇ。こういう高級そうな雰囲気も悪くないけど、陽だまり亭にはあまり似合わないかもしれないさねぇ。あぁ、悪い意味じゃなくてね」
陽だまり亭が貧乏くさいから、という意味ではないと補足するノーマ。
そんな意図がないことは分かっている。
陽だまり亭には、高級感よりほっこり感の方が似合うもんな。
「こう……陽だまり亭があって、ぐる~っと反対っ側に回ると教会があって、その間に川とか畑があって……ってデザインの方が、ジネットは喜びそうだなって思ってさ」
「そりゃあいいさね。絶対店長さんはそっちの方が喜ぶさよ」
「そこをこだわるとなると、色にもこだわりたいですわね。カラフルな方が、きっと店長さんの好みに合いますわ」
「確かに、錆鉄色ってのも渋いけど、店長さんなら白とか赤とかカラフルな方がいいさね」
「問題は色落ちですわね……」
「そこは任せておくれな。さすがに恒久的にってわけにはいかないけど、それなりに色落ちを防げるコーティング剤があるさよ」
「年に一度、メンテナンスをする時に塗り直せばよろしいですわね」
とんとんと話がまとまっていく。
俺とベッコを置いて。
「出来ますわよね、ベッコさん?」
「然り。デザインの変更も、ヤシロ氏の言うような模様を彫ることも容易でござるし、わざわざ分裂するほどのこともござらぬよ」
あははと笑うベッコ。
だが、お前は分かっていない。
「試作品は、マーゥルやギルド長たちが見に来るんだぞ? ……あいつら、絶対自分好みのデザインを依頼してくるぞ。もちろん、色付きで」
そうすると、ベッコが各区に出張してそこで彫刻と着色をすることになるんだ。
さらにメンテの時期には同じところを全部回ることになる。
「もしこれがいつか普及したら……どれだけ注文が殺到するか…………」
「ベッコが分裂でもしない限り、手が回らないさね」
「ベッコさん、頑張って分裂なさいまし」
「無理でござるよ!?」
まぁ、分裂したらしたで「不気味ですわね」って言われるだろうけどな。
「情報解禁までに、職人を育てるしかないだろうな」
「か、金物ギルドに腕のいい細工師がいるでござるよね? 分業をお願いしたいでござる!」
「あんたほど器用なヤツが、他所の区にいりゃあいいけどねぇ」
四十二区にはいないよな、ベッコレベルのヤツは。
もっと早くベッコに目をつけてれば、育成も出来ていたかもしれないのに、もったいない。
この街の連中は見る目がない。
目立ったものしか見てないんだもんなぁ……
なんて嘆息していたら、まさにその目立ったものを見つけた貴族が絡んできやがった。
「お兄ちゃん、大変です! 陽だまり亭に変な貴族さんが来て、お兄ちゃんを出せって!」
突如飛び込んできたロレッタの言葉に、その場の空気がざわりと波立った。
一昨日、あんな話を聞いたあとだからだろうか、ノーマとイメルダからはうっすらと殺気が漏れ出ていた。
急ぎ陽だまり亭に戻った俺が目にしたのは、困り顔のジネットと、カンパニュラたちを庇うように立つマグダと、そんな一同の視線を受けながら不遜な態度でどっかりと椅子に座る筋肉の塊だった。
「あ、ヤシロさん」
店内に入った俺を見て、ジネットが安堵の声を漏らす。
それに反応したのか、筋肉の塊がこちらをゆっくりと睥睨する。
「貴様が、オオバヤシロか?」
振り返った顔は真四角と言っても差し支えないほど厳つく、そしてデカい。
遠近法がバグったのかと思うほど顔がデカいオッサンは、茶髪のちりちりパーマを好き放題遊ばせている。
筋肉のせいでパッツンパッツンになっている服は、華美な装飾が施されており、生地を見ても高級なのだと一目で分かる。
いや、ワザと分かりやすく高級感を出していると言った方が正確か。
全身から「自分、金持ってますんで!」とアピールしているような、実にいやらしい風貌だ。
なんとなく、貴族の家を襲撃して分不相応な大金を手にした成り金の山賊みたいな印象を抱いた。
山賊との相違点はヒゲがないくらいか?
つか、なんだ、その筋肉?
ぱんぱんに膨れ上がっているが、な~んか硬さが足りてないような……
実戦向きではなく、見せるための筋肉って感じだな。
ハビエルとは比べるまでもなく、ウッセや狩猟ギルドの白虎人族アルヴァロに比べても筋肉の密度が低そうだ。
仮にこいつが力に任せて大暴れしても、マグダなら瞬殺だろう。
そんな、見せかけ筋肉が俺を手招きしている。
自分は立つつもりがないようだ。
動くのイヤなのかよ。なんのための筋肉だ。
手招きには応じず、一定の距離を保ったまま声をかける。
「存じ上げない顔だな。どちら様か伺っても?」
見た感じ貴族っぽいが、っぽいだけの偽物かもしれない。
名乗らない以上、下手に謙ってやる必要はないだろう。
「ふん。まぁ、こんな片田舎の平民じゃあ、私を知らなくても仕方がないか……」
無礼なことをのたまって、見せかけ筋肉が立ち上がる。
「私は、かの栄光あるエッゲルト家が嫡男、フランツペーター・エッゲルトだ」
両腕を鷹揚に広げて、自分に酔いしれるように名乗りをあげる見せかけ筋肉のオッサン。
だがしかし、ま~ったく耳に覚えがない。
「それで、そのエッゲルトさんが俺に何の用があって、わざわざこんな片田舎まで足を運んできたんだ?」
おのれが吐いた嘲笑の言葉を返されれば、こちらが不機嫌であることは伝わるだろう。
だが……
「ふははっ、喜ぶがいい! 貴様は私のメガネにかなった。私に仕える栄誉をくれてやろう!」
このオッサンには嫌味は効かないようだ。
「断る。仕事の斡旋なら間に合っている。今の職場を離れるつもりはないんでな」
「ヤシロさん……っ」
後ろから、ジネットの嬉しそうな声が聞こえてくる。
なんかちょっとくすぐったい。
しかし、その感触を汚い声が踏みにじる。
「ふんっ、こんな汚い店で働いて何になる?」
あ゛?
汚いってのは、テメェみたいな勘違い野郎を形容する時に使われる言葉だよ。
「このようなみすぼらしい店構えでは貴族も訪れまい。大した稼ぎにもならんだろうな」
いいや。
呼んでもいない貴族がわんさか詰めかけてきて、ちょっといい加減にしろって思ってるくらいだが?
テメェがどんだけのもんか知らねぇが、少なくとも領主や三大ギルド長はテメェより格上のはずだが?
きっと俺が殴りかかればそれより早くマグダが飛びかかるんだろうなと、こちらを窺うマグダの視線を感じていると、見せかけ筋肉が手のひらサイズの布袋を持ち上げ、テーブルの上に落下させた。
じゃらりと、品のない音が響き、袋の口から無数の金貨が転がり出てくる。
「貴様のことは調べがついている。何より金が好きなのであろう? 私に仕えれば、この店の十倍の賃金を約束してやるぞ。どうだ? ん?」
ほほぅ、俺の調べはついている……だと?
「俺が、『何より金が好き』だと? 情報収集能力が著しく低いようだな」
「ふん、強がるな、小僧。貴様ら平民は何より金が好きなのであろうが? 特に貴様は金に意地汚いと報告が上がっておるわ」
まぁ確かに金には汚いが……甘い!
「俺が一番好きなものはなんだ? ロレッタ!」
「おっぱいです!」
「10万Rbとおっぱい揉み放題、俺ならどっちを取る? マグダ!」
「……迷うことなく揉み放題」
「金貨の輝きとおっぱいの膨らみ、俺が癒やされるのはどっちだ? ノーマ!」
「言うまでもなくおっぱいさね」
「金貨のぶつかる音とおっぱいの弾む音、俺がいち早く聞きつけるのはどっちだ? イメルダ!」
「100km離れていてもおっぱいですわね」
「これだけおっぱいが好きなんだから、少しくらい突っつかせてあげてもいいと思わないか? ジネット!」
「懺悔してください!」
くぅっ!
ダメかぁ~!
勢いに乗ってイケそうだったのになぁ!
あと、イメルダ。
100km先は、さすがに無理だから。
「つーわけで、金貨ごときじゃ俺は釣れないんだよ。くれるって言うなら、喜んでもらうけどな」
言いながら、転げ落ちた金貨を三枚手に取り、三枚の金貨を握り込む――ように見せて二枚だけ握り込み一枚を袋の中へ素早く滑り込ませる。
「私の言うことが聞けぬのであれば、私の金に触るな。返せ!」
腕を伸ばしてきた見せかけ筋肉をかわすように金貨を握り込んだ拳を高く上げる。
逃げた金貨を追うように、見せかけ筋肉がさらに一歩接近してくる。
「なぜ俺に目を付けた?」
接近してきた顔に、至近距離で問いかける。
パーソナルスペースを侵害された時、人は防衛本能が働いて軽い興奮状態に陥り、普段よりも攻撃的になる。
「貴族に目を付けられるようなことはしていないはずだが?」
なんてことを言ってやると、俺よりも優位に立とうとおのれの優れている部分を誇示したくなるわけだ、見栄っ張りなこういうタイプのオッサンは特にな。
「ふふん、私にかかれば貴様の情報を集めることなど容易いのだ」
ついさっき、「お前、情報収集できてないじゃん」と俺たちにからかわれたから、意地になって情報収集能力を見せつけてくる。
方法は簡単。
自分が得ている情報をこちらに提示するだけ。
核心をついた情報であればあるほど、おのれの情報収集能力を分かりやすく見せつけられる。
なので、あっさりと吐いちまうわけだ。
「貴様、港の劇場に脚本を提供したであろう?」
このように。
「急拵えにしてはなかなか見られる建物であったが、劇場とは伝統と格式を重んじるものだ。奇抜さと目新しさで今は客の入りがいいようだが、あのような劇場はすぐに廃れる。……私のもとへ来い。貴様に本物の劇場で芝居を打たせてやろう」
なるほど。
こいつは劇場の関係者なのか。
「……ヤシロ」
マグダが俺を呼ぶ。
なんだと視線を向けると、黙ってドアの外を指さした。
……あ、そうか。
そういえば今日はあいつと話をする約束だったんだ。
そうか、あいつが来たのか。
それはタイミングがいい。
なら、手押しポンプの情報と引き換えに、このおそらく貴族なのであろう見せかけ筋肉の抑え込みに協力してもらうか。
「断る。どうしても俺が欲しいってんなら、貴族の力で強引に連れ去ってみろよ。出来るものならな」
「ふっ……小僧、私を舐めるなよ? 私がその気になれば、こんな店潰して、貴様を連れ去ることくらい容易なのだぞ」
「ほっほぅ、それは聞き捨てなりませんぞい」
俺の挑発に乗り声のボリュームを上げた見せかけ筋肉のオッサン。
その声をバッチリと聞き、タートリオがアフロヘアを揺らして店内へ入ってくる。
「貴族の力でこの店を潰し、そこの従業員を拉致すると――貴殿はそうおっしゃるのかの、ミスター・エッゲルト?」
「貴様っ……いや、貴殿はミスター・コーリン」
メモとペンを手に入店してきたタートリオに、見せかけ筋肉は狼狽したような表情を見せる。
劇場関係者が権力に物を言わせて平民の店を潰し、従業員を拉致した――なんて記事が出回ったら一大事だよな?
権力を笠に着て土木ギルド組合で好き勝手やっていたグレイゴン家がお家取り潰しになったのはついこの間だ。
バックに大物を付けて不動の地位を築いていたと思われたウィシャートですら、その地位から滑り落ち身を破滅させた。
その二つの大事件は、情報紙の発信力によって瞬く間に世間に知れ渡った。
今、この情勢の中、いくら貴族といえど情報紙を軽視は出来ないよな?
「ミスター・エッゲルトはご存じないようですなぁ。この店が、領主様のお気に入りであるという事実を」
タートリオにまで情報収集能力の低さを指摘され、見せかけ筋肉がこめかみをヒクつかせる。
「領主……とは、クレアモナ家ですかな」
「いいや、クレアモナ家『等』じゃぞい」
そうだな。
この店を気に入ってる領主はエステラの他にもたくさんいるよな。
ルシアにトレーシーにデミリー、リカルド、ゲラーシー。おまけにマーゥルのお気に入りなのでドニスもお気に入りに違いないだろう。
「それを、貴族の権力を使って一方的に潰すとなれば……大事になりますぞい」
「ぐ……いや……」
タートリオに睨まれ、見せかけ筋肉が口ごもる。
「今日は日和が悪い。出直してくる」
仕切り直しとばかりに、見せかけ筋肉が帰ろうとしている。
だが、それじゃ困るんだよ。
お前にうろつかれると、他のヤツまで寄ってきかねないので……近付けないようにおまじないをしておこうと思う。
この、手の中の金貨を使ってな。
「んじゃ、気を付けて帰れよ」
と、手を振って見せかけ筋肉を見送る。
だが、見せかけ筋肉は険しい表情で俺の前に立つ。
「さっき盗んだ金貨を返せ」
「あ、覚えてた?」
俺に向かって差し出された見せかけ筋肉の手のひらの上に、金貨を二枚落とす。
正真正銘、俺が手に持っていたすべての金貨だ。
だが、少々細工をしておいたので、見せかけ筋肉は分かりやすく憤慨する。
「一枚足りぬではないか! 貴様は三枚手に取ったはずだ」
そうそう。
そう見えるように細工したんだよ。
よく見てたな。
「いや。俺は二枚しか盗ってないが?」
「嘘を吐くな! 私はこの目でしっかり見ておったのだ! 貴様は確かに私の金貨を三枚手に取った!」
「そう言われても、持ってねぇもんは持ってねぇからなぁ」
のらりくらりとかわしていると、見せかけ筋肉の顔がみるみる赤く染まっていく。
「貴様……っ、私の金貨をくすねる気だな!? いいから返せ!」
ガバっと、胸ぐらを掴もうと腕を伸ばしてきた見せかけ筋肉。
だが、行動が読めていれば、それをかわすのは容易い。
俺がひらりと避けると、テーブルや椅子を蹴散らして俺を追いかけてきた。
「盗ってねぇっつってんだろ!?」
「嘘を吐くとカエルにするぞ!」
その言葉を引き出したところで、俺は立ち止まる。
「……それは、脅しか?」
『精霊の審判』をかけるぞというのは、「テメェの人生を終わらせるぞ」に等しい脅迫である。
貴族が、平民を脅迫した。
しかも、情報紙発行会会長タートリオの目の前で、だ。
「なるほど、分かったぞ。お前は最初からこれが狙いだったんだな?」
見せかけ筋肉の目の前に立ち、指を突きつけて糾弾する。
「自分の権力を誇示していつでも潰せると脅しをかけておき、これみよがしに金貨を見せつけてから『一枚足りない』と難癖をつける。こちらが盗っていないと言えば、店をぐちゃぐちゃに荒らして、挙げ句『精霊の審判』をちらつかせて脅迫してくる。そうやって、平民から金を巻き上げるのがお前の目的だったんだろう?」
「なっ!? 無礼だぞ、貴様! この私が、平民ごときから金を巻き上げるなどと――」
「そっかそっかぁ、港に劇場が出来たから焦ってんのかぁ。だから今から資金繰りを……涙ぐましい努力じゃねぇか」
「違う! あんな急拵えの劇場など、端から相手にしておらぬわ!」
「その割には必死だったじゃねぇか? 脚本家を引き抜いて、血眼になって妨害工作してるんだろ、『貴方様ほどの高貴なお方が、わざわざこんな片田舎の食堂に、自ら足を運んで』よぉ? それを必死と言わず、何を必死って言うんだよ?」
「ぬ、ぐ……っ、貴様、言わせておけば……!」
「挙げ句、盗まれてもいない金貨を盗った盗んだと大騒ぎ。店を荒らして、『これ以上暴れられたくなければ金を払え』とでも脅すつもりなんだろうが!」
「違うと言っておる!」
と、またしてもテーブルを蹴り飛ばす見せかけ筋肉。
……マジで、テーブルと椅子、全部弁償させてやるからな?
「事実、私の金貨をその男が盗んだのだ! 私はこの目で見た! 嘘だと思うなら『精霊の審判』をかけてくれてもいいぞ!」
俺を通り越してタートリオに訴えかける見せかけ筋肉。
やっぱ、自分の目で見た物が一番信用できるよな。
じゃあ、その目でしっかりと見ろよ。
真実を。
「ちなみに、金貨は全部で何枚持ってきてたんだ?」
「十枚だ! 出かける時と、この店に入る前にしっかりと確認した。間違いなく十枚だ」
しっかりと枚数を把握して、店に入る前にもきっちり確認しているあたり、羽振りがいい風を装っていてもみみっちぃ器の小さい男だな。
だが、そこまできっぱりと言い切れるなら、本当に十枚で間違いなんだろう。
では――
「で、今その袋の中に何枚入ってるんだ?」
「だから、貴様が一枚盗んだのだから九枚であろう!」
「……数えてみろよ」
「ふん。平民と違い、貴族は算術を学ぶのだ。数えるまでもなく中身は九枚――」
「数えてみろつってんだよ。算術の前に会話の仕方を教えてもらえよ、パパかママにな」
「きっ……さまっ」
煽ってやれば、見せかけ筋肉は倒れていないテーブルの一つを選んで、その上で布袋をひっくり返し金貨をすべてぶちまけた。
「いいか、貴様のその目で、しかと見ておれ!」
と、一枚ずつ金貨を数えていく見せかけ筋肉。
だが、二枚は返却し、一枚は袋に滑り込ませたので、当然金貨は十枚、きちんと揃っている。
「…………ぇ」
六枚目から声が小さくなり始め九枚目なんか声すら出ておらず、十枚目を見て完全に手が止まった見せかけ筋肉。
「どうした? 何枚あったんだよ?」
「……そんな、バカな……」
「バカなのはテメェだ」
動きを止めた見せかけ筋肉に代わり、荒々しく金貨を十枚数えながら積み上げ、最後に「ばんっ!」とテーブルを叩く。
「金貨十枚、きっちり揃ってるじゃねぇか!」
事実をはっきりと突きつけ、見せかけ筋肉の言葉を奪う。
そうしたうえで――
「どうすんだよ、これ?」
興奮状態にあったおのれが、どんなことをしでかしたのかを見せつけておく。
陽だまり亭のフロアは、倒れたテーブルと椅子でぐちゃぐちゃだった。
「濡れ衣を着せて、店で大暴れして、まさか『勘違いでした』で済むとは思ってねぇよな?」
まぁ、勘違いをさせたのは俺なのだが。
「見ろよ、この傷付いたテーブル、椅子、床…………当然、弁償……するよな?」
しっかりと瞳を覗き込んで問いかける。
「YES」以外の回答が存在しない問いを。
「えっと、なんだっけ? 港に出来た劇場など端から相手にしておらぬ――だっけ?」
思っていたのとは異なる展開に身を置かれ、思考がフリーズしているであろう見せかけ筋肉の脳に言葉を刻み込む。
「――だったら、もう俺たちの周りをうろちょろするな。目障りだから」
そうでなきゃ――
「カエルにしちまうぞ」
俺が金貨を盗むところを見た。嘘だと思うなら『精霊の審判』をかけろ――と、こいつは言った。
あぁ、いいとも。かけてやろうじゃないか。
お前はそんなものを見てないんだから。
だって、俺は金貨を盗んでないのだから。
見れるはずがないよな?
「貴族に『精霊の審判』をかけるのは不敬らしいが、ご本人さんが許可してくださったんだ。こっちの気も楽になる」
「う……いや」
「ただまぁ、初対面だとさすがに緊張しちまうからさぁ……この次会った時にとっておくことにするよ。……な?」
二度と俺たちの前に姿を現すな。
そう明確に告げて、見せかけ筋肉にはお帰りいただいた。
もちろん、弁償代として、金貨一枚をいただいてな。
文句も言わずに置いていったよ。
よほど、ここから早く逃げ出したかったんだろうな。
見せかけ筋肉が去ったあとも、フロアの中には静かな怒りと、重い沈黙が広がっていた。
「冷凍ヤシロよ。もし連中が何か仕掛けてきたら、すぐワシを頼るんじゃぞい。今日あったことも含めてすべて詳らかに語ってやるんじゃぞい」
「まぁ、今はまだ胸に秘めといてくれ。下手に刺激して、泥沼になるのは困る」
腐っても貴族。
潰したらどっかに歪が生じて、後処理が面倒になる。
何より、もうすでに二つ、貴族の家を潰している。
これ以上目立つと、それこそ王族に目を付けられかねない。
今は、近寄るなと警告しておく程度にとどめておくに限る。
「ジネット」
それよりも、今は重大なことがある。
「すまなかったな、俺のせいで、陽だまり亭がこんなことになっちまって」
貴族を跳ね除けるためとはいえ、陽だまり亭を滅茶苦茶にしてしまった。
この空間も、テーブルも椅子も、ジネットにとってはかけがえのない宝物だってのに。
「いいえ」
なのに、ジネットはこうして微笑みかけてくれる。
「ヤシロさんのせいではありませんよ。それよりも、ヤシロさんに怪我がなくて、ヤシロさんが連れて行かれなくて、ほっとしています」
「……そっか。ありがとう」
「いいえ。きっとみなさん、同じ気持ちです」
こうして、許してくれる。
だからこそ、しっかりと守んなきゃな。
「しかしこれは酷いな」
「散らかったなら、お片付けをするだけですよ」
「とは言ってもなぁ……マグダ、ウーマロって今何してるかな?」
「……三十七区の仮設劇場は昨日済んでいるから、きっと四十二区にいる」
「じゃあ、机の修理が頼めないか聞いてきてくれるか」
「……分かった。有無を言わさず連れてくる」
おかしい。「分かった」って言葉の後が、俺の言ったことと全然違う。
「それと、マグダ」
「……なに?」
「よく我慢してくれたな」
「………………結構、大変だった」
それはみんなもだろうな。
よく手を出さずに見守ってくれたよ。
と、みんなの顔を見ると……ちょっと背筋が凍った。
え、ちょっと……ノーマとイメルダとロレッタの目が、めっちゃ冷たいんですけど?
軽くビビっちゃった。
「……ベッコ」
「なんでござるか、ノーマ氏?」
「この惨状、絵に残しておいておくれな」
「そうですわね、この惨状は、情報共有が必要ですわ」
「一刻も早く片付けたいですけど、なかったことには出来ないですね」
「……心得たでござる」
深く沈むような声で言って、ベッコが瞳をギラつかせる。
「あの不埒者の所業も併せて、克明に記録しておくでござるよっ!」
ベッコが怒ってる。
珍しい。というか、こんなベッコ、初めて見た。
「ちょいと、エステラのところに行ってくるさね」
「では、ワタクシはお父様を経由して三大ギルド長へ連絡をしておきますわ」
怒れる美女二人が店を飛び出していく。
決して駆け出さずに、優雅に、なのに滅茶苦茶速いスピードで。
「カニぱーにゃ、テレさーにゃ、大丈夫だったですか?」
「は、はい。まだ少し、ドキドキしていますが、怪我などはありません」
「へぃち!」
「それはよかったです。では、陽だまり亭ウェイトレスらしく、お店をキレイにお片付けするですよ」
「はい!」
「はい!」
ロレッタが後輩ウェイトレスを気遣い、そして仕事に取りかかる。
これもまた珍しい。
ロレッタが騒がず暴れず、率先して場の空気を整えようとしている。
きちんと自分の役割を理解して行動している。
カンパニュラも気丈に振る舞い、テレサはきちんと「はい」と言えていた。
なんだか、みんな過剰に気合いが入っているようだ。
「ヤシロさん。わたしたちも」
そして、こいつも。
「あぁ。そうだな」
で、たぶんだけど、俺も。
もうこんなトラブル、二度と御免だよな。
そうならないよう、気を引き締めていこう。
「どこのどいつッスかぁ、こんなふざけたことをしでかしたのはぁ!?」
ウーマロが勢いよく、荒々しく、でもドアの開閉は丁寧にそっと、陽だまり亭へ飛び込んでくる。
怒れるウーマロも、珍しい。
「忙しいところ悪いな」
「とんでもないッスよ! 陽だまり亭はオイラたちの憩いの場。心のオアシスッスから、何はなくとも最優先ッスよ!」
「そりゃ、お前はマグダがいるから……」
「オイラは! ……陽だまり亭が、大好きなんッス」
マグダを抜きにしても、この場所が好きだと。ウーマロの目は真剣そのものだった。
「……サンキュな。ジネットに伝えとく」
「や、やはは……ちょっと熱くなっちゃったッス」
まぁ、喜ぶと思うぞ、ジネット。
「店長さんは厨房ッスか?」
「ロレッタたちが張り切っちまってなぁ、店全部をぴっかぴかに磨き上げるですーってさ」
「気合い入ってるッスね。それじゃ、こっちも負けじと気合い入れるッス! お前ら、このテーブルと椅子、全部表に運び出すッス! 全部再利用するッスから、丁寧に扱うんッスよ!」
「「「「へい!」」」」
十数名の大工を引き連れてやって来たウーマロ。
大工たちも真剣な表情だ。
「再利用するのか?」
「きっと、その方が店長さんは喜ぶッス」
「……だな」
傷は付いたが壊れたわけじゃない。
客の不便にならず、安全に使えるなら、きっとその方がジネットは喜ぶ。
さすが信頼と実績のトルベック工務店。
客の気持ちに寄り添ってくれる。
「床も一部張り替えッスね」
「頼む」
「オイラが一番好きな言葉ッスよ、それ」
嬉しそうに言って、ウーマロが仕事に取りかかる。
そっか……完全に社畜に堕ちたんだな、お前は。気の毒に。
「ヤシロ」
真剣な表情でエステラが駆け込んでくる。
「……酷いね」
「いや、損害はそこまでじゃなかったんだが、なんかみんなのテンションがすごくてな。丸ごとリフォームする勢いになっちまってるんだ」
テーブルと椅子、あと床の一部に傷が付いただけなのだが、ついでとばかりにこれまでの傷みも直してしまおうって雰囲気になっている。
今回の件と関係ない部分までもな。
「それで、相手は?」
「えっとたしか……」
なんて名前だったか……
「エッゲルト家じゃぞい」
俺が思い出せないでいると、タートリオが回答をくれた。
さすが記者。よく覚えている。
「エッゲルト……って、劇場の?」
「そうじゃの。支配人の家じゃ」
「劇場、か……」
エステラの眉間に深いシワが刻まれる。
「そういや、劇場っていくつもあるんだよな?」
「そうじゃぞい。中央の方に行けば、割とあるぞい。お高い劇場から、超お高い劇場までの」
結局高いのかよ。
「今回のエッゲルト家の劇場は、中でも大きい方じゃのぅ。なにせ、十一区にある大通りの劇場じゃからの」
あぁ、アレか。
俺がこの街に来てすぐのころ、チラッと見かけたデカい劇場だ。
「あんなデカいとこが、数日前に出来たばっかりの仮設劇場に危機感を覚えたのか……小せぇなぁ」
「まぁ、それも仕方ないかもしれないさね」
エステラを呼びに行って、幾分落ち着いた雰囲気のノーマ。
それでも、気持ちを落ち着かせるためか、煙管を握っている。
「外出るか? 吸いたいだろ?」
「いや、別に……あぁ、じゃあ、頼めるかぃね」
無理はせず、平常心を取り戻す方を優先させたノーマ。
今会話に参加していた者全員で店の外へと出る。
庭先では、大工たちがテーブルの修繕をしていた。
「アタシらが三十五区へ行った時は、物凄い賑わいだったからねぇ。新しい劇場に新しいスイーツ、荘厳な噴水に人が群がるお土産――まぁ、メンコなんさけど、とにかくすごい盛り上がりだったさね」
話を聞く限り、三十五区の港は今まさに「文明開化か!?」ってくらいの盛り上がりを見せているらしい。
マッチを擦って煙管に火を付けるノーマ。
それを目ざとく見つけてタートリオが食いつく。
「それはなんじゃぞい!? 火付け布のような使い方をしておるようじゃが?」
「こいつはねぇ……詳しくは、ヤシロかエステラに聞きなね」
「冷凍ヤシロ!」
その二択でなんで俺になるんだよ。
領主に聞けよ。
「詳しい情報と、この先の展望、そしてこんなもんが吹いて飛んでっちまうようなとんでもない情報と引き換えに、貴族の抑え込みに協力してくれるか?」
「この新しい道具以上の情報、じゃと?」
タートリオが、見るからに便利そうなマッチを見てゴクリと唾を飲み込む。
「……まぁ、ワシとて、冷凍ヤシロがどこぞの一貴族に縛り付けられてしまうのは面白ぅないからの。……いいじゃろう、情報紙の私物化は認められんが、ある程度のわがままならいくらでも聞いてやるぞい」
情報紙の私物化は、今後一切起こしちゃいけない事象だからな。
大丈夫だ。そんなつもりはない。
多少、都合よく動いてもらうことにはなると思うけどな。
「それじゃあ、その情報はあとにして、先に今回の件だ」
「ノーマに聞いたんだけど、人形劇の脚本をヤシロが書いたって情報が漏れてたようだね」
「みたいだな」
一応、情報を漏らすなとは言ったんだが……
「イーガレスたちには口止めしてあるし、ルシアが進んで情報を拡散しているとも思えない。……だが、その前に盛大にやらかしてるからなぁ」
「あぁ……港での歓迎に応えるために、三十五区の領民たちにも人形劇を見せたもんね」
そして、三十五区の領民は俺のことを結構よく知っている。
ルシアが何かをやる時、その隣には俺がいる――なんて勘違い混じりの情報が出回っている。
「だから、さっきの見せかけ筋肉が一般人から情報を集めていたとしたら、結構あっさりと手に入ったかもしれねぇな」
「迂闊だったね……劇場に関しては、そこまで大事になるなんて予想していなかった。……ボクの失態だ」
「待て待て。俺もここまでのことになるなんて予想は出来てなかった。不必要に自分を責めるな。これからどうするか、どう防いでいくかを考えて、実行する方に意識を回してくれ」
「うん……そう、だね。ごめん」
貴族が俺を名指しで連れ去ろうとした。
その事実は、エステラに少なくない衝撃を与えたようだ。
俺も迂闊だった。
ちょっとはしゃぎ過ぎたかもしれない。
「とはいえ、だからといって港の再開発やテーマパークの建設の手を緩めるつもりはないけどな」
どこぞの小物貴族の横槍のために、こっちの発展を止めてやる必要はない。
「ただ、三十五区の領民には、こういう事件があったって事実だけは周知しておいた方がいいかもしれないな」
「『劇場の脚本を狙った貴族にヤシロが連れ去られそうになった』って? それこそ、君が脚本を手掛けたって大々的に宣伝することにならないかい?」
「正体を明かす必要はないのじゃぞい、微笑みの領主様よ。『脚本家が劇場関係者の貴族にちょっかいをかけられた』という事実だけが伝われば、分かる者には分かるもんじゃわい」
そういう内容であれば、名指しで非難するよりは角が立たないか。
むしろ何もしないよりも、「やられた」と向こうに思わせておく方が牽制になる。
何をされるか分からない状況は、向こうの緊張感を高め、思いもしない暴発を招く危険もあるし、そこそこのダメージを与えておけば「なんのこれしき」と耐えたつもりになってくれるだろう。
「警告の意味も込めて、そういう内容は発信した方がいいかもね。頼めるかい、タートリオ」
「うむ。本来なら、名指しで事細かにすべてを詳らかにしてやりたいところじゃが……まぁ、初手はそんなもんでいいじゃろう」
タートリオも若干怒っているようで「まぁ、あとは向こうさんの出方次第じゃぞい」とか言っている。
愛されてんなぁ、陽だまり亭。
「でも、四十二区内では詳細まで情報を共有しておくよ。エッゲルトの顔やしでかしたこと、その目的までもね。ボクは、ボクの区の領民に危害を加える者を許さない。ナタリア」
「はい。委細、抜かりなく」
静かに礼をして、ナタリアがどこかへ駆けていく。
ナタリアが動いたなら、今日中に詳細が広まるだろう。
貴族が本気を出せば、陽だまり亭だけで収まる話じゃないからな。
警戒のために知っておいた方がいい。
「エステラに圧力をかけて俺を寄越せというために、領民に危害を加えないとも限らないからな」
「もしそんなことをしでかすようなら……十一区が相手であろうと、エッゲルト家の取り潰しまで手を緩めるつもりはないよ」
こいつは……
ウィシャートがお前を攻撃した時には領民を抑える方に全力だったくせに。
自分以外が攻撃されることは、心底許せないんだな。
お人好しも、度が過ぎると病気だぞ、まったく。
「まぁ、圧力をかけられないように、先手を打って圧力をかけておくのが安全だろう」
エッゲルトの仕出かしは大きい。
うまいこと関係者を釣れば、当分は身動きが取れなくなるだろう。
さて、誰から釣り上げるか――
そんなことを考えていたら、夕方に思いも寄らないヤツが訪ねてきた。
「なんでお前?」っていうような、地味な領主が。
あとがき
陽だまり亭が大好きな皆様、申し訳ありませんでした!
荒らされるのはどうかなぁーと、思いつつ
やっぱり必要かと思って書いてみたものの
やっぱり腹立ちますねぇ、あのクソ貴族!
(# ゜Д゜)見せかけ筋肉!
傷んだ床やテーブルは、ウーマロ棟梁がきっちりすっきり、とても綺麗に修繕してくれました。
ヤシロもジネットにちゃんと謝って反省しているので、許してあげてください
なにとぞ!
というわけで、劇場の関係者が登場です
ただし、どっからどう見ても山賊風味!
こいつはなんなんだっていうのは、
また、ずっと、結構先になると思いますが、そのうち明かされます
まだ先です。
なので、
この見せかけ筋肉が罰を受けるのも、
まだまだずーっと先になります
……すみません
その前にいろいろやらなきゃいけないことが宙ぶらりんで残っていますので
そちらを片付けるフェーズに入ります
その辺は、また次回に!
さて、
コパイロットって御存知ですか?
会話が出来るAIで、
質問を投げると解答を寄越してくれるんですが
これがなかなか面白いことになりまして、
次回公開の427話をコパイロットに読み込ませて要約とかしてもらったんですが、
最近のAIはすごいですね〜
っていう話を次回のあとがきでします!
ですので、宮地さんの教習所の話は今回『巻き』で行きます!
宮地さん、ついに路上教習に狩り出されちゃう☆〜の巻!
なんかタイトル毎度変わってますが、まぁいいでしょう。
教習所内で30km/h出せるようになった宮地さん……なんですが
対向車がいる路上はまったくの別世界でした
まさに『井の中の蛙、大海を知らず』!
いや、
『Aの中のBカップ、Iカップを知らず』でした!
世界は広い!
同じ学区の同級生はみんなAカップで
そんな中自分だけBカップだった女子が
「あーし、めっちゃボインじゃん?」って進学して
他所の学区と合流したらIカップ女子に出会って
「な、ん……だと!?」
ってなるっていうね
すべてを知った気になっても、
まだまだ知らないことだらけなんだよ、世の中は
という意味です
Σ(゜Д゜;) 巻きで行くって言ったのに、またこーゆーのを挟み込んでる!?
いやもう、めっちゃ怖くてですね!
30km/hが限界だって言ってるのに
教官「ほら、ここ40km/h。後ろつっかえちゃうよ、速度出して出して!」
宮地「おにー!」
教官「あ、こっから50km/h道路ね」
宮地「ぎりー!」
教官「誰がおにぎりだ」
初日に50km/h出させられましたよ……
あれ、待って?
「出させられた?」
「出せさせられた?」
「出しさせ?」
「出……」
でぇーい!
「出せ」って言われて出さざるを得ない状況に追い込まれました!
これでいいか、日本語!?
(`;ω;´)
で、二回目の路上教習――
教官「はい、バイパスは60km/h〜♪」
宮地「おにー!」
教官「はい、車線変更で減速しない! 60km/hをキープ!」
宮地「ぎらずー!」
教官「誰がおにぎらずだ」
運転してみて、初めて知ったんですが、
対向車より、
すぐとなりの車線で追い越してくる車の方が遥かに怖いですね!
二車線以上あると、遅い車は左車線に、追い抜きとかする速い車は右車線を走るんですよ。
教習車は当然ずっと左。
そしたら、びゅんびゅん抜かしてくんです、車たちが!
こっちは法定速度守ってるのに、追い抜くってどういうこと!?
教官「日本で、道路交通法を守っている人の割合ってね、二割もいなんだよ」
宮地「法律は守れー!」
速度超過してない車って、本当に少ないんですね(^^;
あ、いや、
私がきっとビビって60km/h出てなかったから抜かされたんでしょうね、きっと
……ということにしておきましょう。
そして、忘れもしない路上教習三回目……
あの大雨の日の夜。
ワイパーが間に合わないくらいの土砂降りで
教官さんが――
教官「こんな日に運転とか、俺ならしたくないな〜」
――とか言うくらいの大雨の中
自動車専用道路を走りましたよ!
(`;ω;´)
最高時速60km/h
雨で滑るなんてことはなかったんですが、
あまりの雨量に道路の線が一切見えないんですよ!
センターラインも、車道外側線(車道はここまでだよ〜っていう道路の外側の白線)も!
同じ方向に進んでる車に後ろから抜かされるのが怖いって言ってるのに、
びゅんびゅん抜かしていくんですよ、車が!
で、怖いから左寄るじゃないですか、そしたら――
教官「寄り過ぎ寄り過ぎ! 壁に当たる! ハンドル戻して!」
右車線追い越し車「ぶぅーん」
宮地車「こわーぃ!」(左に寄りー!)
教官「ぶーつーかーるぅぅーー!」
……地獄でしたね
阿鼻叫喚でしたよ、車内
教官さんが六回ほど
教官「みやじさぁーーーーん!」
って叫んでましたからね(^^;
しかも、その日は『表示や標識の通りにスムーズに運転する』みたいな項目で、
自動車専用道をかなりの長距離走るって日だったんですよ……
土砂降りの中23km
走り続けましたよ……
教習所に戻った時に、雨、止みましてね
宮地・教官「「遅いわっ!」」
Σ\( ゜Д゜#)Σ\( ゜Д゜#)
って、二人でツッコミましたとも
……もうしばらく、自動車専用道は走りません
教官「宮地さん、引き強いですねぇ。昨日も明日も雨降りませんよ」
宮地「予約した時は、今日が晴れで明日が雨だったんです……」
教官「最近、天気ズレますからねぇ」
宮地「……令和ちゃん、勘弁して」
教官「でも、今日のコレを体験したんだから、明日以降自動車専用道とかバイパスなんか余裕ですよ」
宮地「そんなポジティブに受け止めきれない……」
って、思ってたんですが、
本当にそれ以降60km/hが怖くなくなりまして。
センターラインが見えているって素晴らしい!
だって、ラインを超えてくる車なんていないのだから!
最初泣きそうだったんですが、
後半の教習は結構楽しくやれまして
教官「このバイパス沿い、美味しいラーメン屋が多いんですよ」
宮地「いや、いらんわ、その情報!?」
教官「でも、ラーメン屋って駐車場が小さいところ多いから――ほら、路駐が大量に」
宮地「車線変更ー!」
まかんこうさっぽー!
みたいな感じで叫んで車線変更して路駐全部避けてやりましたよ、まったく!
路駐はほどほどに!
あと、複数教習っていうのがありまして、
自分を含む三人の教習生で路上を走るっていう教習なんですけども……
……若い人って、怖いもの知らずよね(^^;
教官「じゃあ、後方確認して、発進してください」
女子大生「(アクセルぎゅーん!)」
教官「ここ40km/hー!」
見ず知らずの三人が一緒の車に乗るんですが……
運転スタイルが違い過ぎて……
私以外の若い二人は「速度落として!」って言われてましたね。
私はずっと「もっと速度出して!」って言われてたのに。
教官「この道路、制限速度何km/hか分かる?」
男子大生「標識がないんで60km/hっす」
教官「30km/hだよ!? 道路に書いてあるでしょ!?」
いや、標識もあったし、
こんな住宅街で60km/hなんてあり得ないってば……
教官「宮地さん」
宮地「大丈夫です、私は安全運転です」
教官「20km/hしか出てないです! もっと速度上げて!」
宮地「ひどい疎外感!?」
で、速度出せ出せって言われ続けた結果
卒業検定で速度落としきれずにカーブでセンターライン超えですよ。
絶対あの教官さんのせいですよ!
(●`ε´●)ぶーぶー!
まぁ、受かりましたけどね☆
\( ̄▽ ̄)/
今後、たくさん車に乗って慣れていこうと思います。
まずは、人も車もいないような山奥かド田舎へ……
牛「もー!」
宮地「牛が飛び出してきた!?」
こうして、思い返しながら書いていると
本当によく合格できたなと(笑)
あ、そこそこ誇張して書いていますから
実際はちゃんと運転できるんですよ☆
……たぶん
だって私、十数年間ゴールド免許でしたからね
原付きでね
まぁ、乗ってなかっただけなんですけどね
でも、免許を新しく取得したのではなく
すでに持っていた原付免許に『普通車』を追加する感じだったので
ゴールド免許、継続!
\(≧▽≦)/
私今、優良ドライバーです!
無事故無違反のゴールド免許です!
初心者マークなのに!(笑)
(※ゴールド免許って、何年間か無事故無違反を続けるともらえるんですよ)
あ、原付免許と言えば、
複数学科で私が運転してる時にこんなことが――
教官「宮地さん、原付き免許持ってますよね?」
宮地「えぇ」
教官「普段から乗ってるんですか?」
宮地「いや、もう◯十年乗ってませんね」
後部座席の大学生ズ「「えっ!?」」
ごめんね、
私、君たちの親世代のおっさんなんだ
マスクしてたし、おっさんの顔とか見てないだろうから分からなかったと思うけど
(*´ω`*)>たぶん、パパママと幽遊白書の話題で盛り上がれるよ
なんやかんやありましたが
久しぶりに『学校』に通って
先生に教わるあの感じ、すごく楽しかったです
教習所友達こそ出来ませんでしたが
行ってよかったなぁ〜って
(*´ω`*)
免停になって免許取り消しになったら
また同じ教習所に通いたいなって思うくらい楽しい場所でした☆
Σ(゜Д゜;) 免停になるような事故は起こすな!?
というわけで、
今後もあとがきで車の話とか増えそうですが
カーライフ、満喫してみます☆
とりあえずはカーシェアで、
あっちこっちドライブしてみようかな〜
楽しいことがあったらまた自慢しに来ます☆
本編も、また楽しい雰囲気になるように頑張ります!
次回もよろしくお願いいたします。
宮地拓海




