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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
第四幕

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425話 キツネを優しく縛るには

「あ~ぁ、聞いちゃったわ」


 手押しポンプを外周区と『BU』の全区で共同開発、共同製造しようという俺の発言を聞き、マーゥルが少々大袈裟なほど大きな声を出して伸びをした。


「もう私、その気になっちゃったからね、ヤシぴっぴ?」


 手押しポンプの利益は凄まじいことになるだろう。

 本来であれば、その利益を独占できた立場にいたのだ、四十二区は。

 というか、俺は。


 だが――


「なぁ。毎年転がり込んでくる100万Rbと、俺。どっちが大切だ?」

「そんなのお兄ちゃんに決まってるです!」

「考えるまでもないことさね」

「愚問、ですわね」

「ヤーくんは、お金にはかえられない大切な存在です」

「えーゆーしゃ、ずっと、いっしょがいいの!」

「当たり前じゃない。ねぇ、ネフェリー?」

「うん。私もパウラの意見に賛成。ううん、みんなの意見に賛成だよ、ヤシロ」

「今までの話、全部難しくてよく分かんなかったけど、今の質問ならあたいも『ヤシロが大事だ』って答えられるぞ!」

「みんな、一緒の気持ち、だょ、てんとうむしさん」


 ――ってことだ。


 ……やべ。

 おそらくそう問えばそう答えるだろうと分かっていたのに、ちょっと泣きそうだ。

 え、これが老化?


 やだやだ。

 老いは涙腺から来るって、マジだったのか?


「……そして、最後に美味しいところをマグダが持っていく。……ヤシロは誰にも渡さない」

「はい。マグダさんの言うとおりです」


 俺の背後に立ち、俺の肩に手をのせるマグダと、その手の上に手をのせるジネット。

 この手はなかなか振り解けないぞ。

 連れ出せるもんなら、連れ出してみやがれ。


「つーわけで、ヨロシクな、目眩まし要員」

「ふんっ。四十区、四十一区、四十二区はもはや同盟みたいなものだし、こっちには損失が一切なくただ純然と利益が転がり込んでくるだけだ。断る理由がねぇよ。そうだろ、デミリー……デミ……、どうしたんだ、オッサン?」

「うん……ごめんね。……年を取ると涙腺が弱くなってね……こういうの、弱いんだよねぇ、私」


 隣で号泣するデミリーにドン引きしているリカルド。

 ついでに言うと、我先に長々と話し始めてドヤ顔晒してたリカルドに、エステラがドン引きしていた。

 相変わらずリカルドは好きだよなぁ『同盟』ってセリフ。

 言う度にエステラが酸っぱそうな顔してんのに。

 酸っぱフェチなんじゃねぇの、リカルド?


「ヤシロさん」


 ここまで黙って話を聞くだけだった四十二区の面々が、久々の発声を機に騒がしくなる中、ベルティーナが静かに俺の前に立つ。


「あなたのその変化を、私は嬉しく思います」

「お金を分け与える寛大な心が、か?」

「いいえ。――どこにも行かない。そう示してくださったことが、です」


 ベルティーナの言葉に、ジネットが大きく頷いている。

 だって、どーせまだ信用されてないんだろ、俺は?


「今、我ながらいいこと言ったから、いい加減大食い大会の時のこと許してもらえないかなぁ?」

「誰も怒ってなんかいませんよ」

「いやいや、怒ってなくても信用してないじゃん」


 ふとした時に「勝手に出て行くなよ」って圧かけられてんだけど?

 え、無自覚なの、お前ら?

 なんでそんなきょとんとした顔してんの?


 いやいやいや、かかってるかかってる、圧かかってるから。


 えぇ……無自覚かぁ……えぇ~…………


「そうねぇ。こんなにいい子なんですもの。みんなで守ってあげましょうね、ヤシぴっぴを」

「じゃあ、各区でシェアしようね」

「いえ、オジ様、それはちょっと意味が違う気が」

「海漁ギルドもシェアした~い☆」

「厚かましいんだよ、海漁の! ま、まずは、狩猟ギルドから、だよっ」

「海漁の厚かましさが可愛く見えるくらい空恐ろしいぞ、メドラ……」


 領主に続いてギルド長どもが好き勝手騒ぐ。

 ……あ、マーゥルって領主じゃないんだっけ?

 うっかり、うっかり。


「盛り上がってるところ悪いけどねぇ――」


 店内が賑やかになる中、ノーマがすっくと立ち上がり、煙管をビシッと構えて一同の者に告げる。


「手押しポンプの試作品は、アタシら四十二区金物ギルドが作るさよ! これだけは、何があっても譲れないさね!」


 ここではっきり言っとかないと、試作品の製作まで他所に掻っ攫われかねないもんな。

 大丈夫だよ。ちゃんと一号機作らせてやるから。

 俺が直接口出しできた方が、こっちも安心だし。


「え~っと、領主様方やギルド長の皆様には言うまでもないことだと思いますが、この場にいるみなさんに念のためご進言させていただきますね」


 アッスントが立ち上がり、両手を広げて注目を集める。

 つか、どーしたんだよ、お前? 汗だくじゃねぇか。

 あれ? 知らない間にジネットに煮込まれた?

 今日って豚骨フェアの日だっけ?


「……こんな凄まじい話を聞かされたら、汗くらいかきますよ…………この後、どれだけの範囲で調整が必要になるのか、考えるだけで胃が痛みます……っ」


 らしくもなく、気弱な表情を見せるアッスント。


「でもどーせ、嫁の膝枕で即回復するんだろうけどなー」

「やめてください、絶妙なタイミングでそーゆーことを言うのは! 絶対見られるんですからね、こーゆーところに限って!」


 そして、的確にいじってくるんだろ?

 けっ、イチャイチャしやがって。


「こほん! 話を戻しますが、ここにいらっしゃる、特に四十二区のみなさん」


 貴族でも重鎮でもない、一般的な領民に向けてアッスントは注意を呼びかける。


「今聞いた話は、許可があるまで誰にもしゃべらないでください。ご家族や職場の方にもです」

「他の区の人も?」

「他の区の人なんて論外ですよ、パウラさん!?」

「そっかぁ……今日ルシアさんに会うからさ」

「あぁ、聞かれそうだよね……どうしたらいいかな、エステラ?」


 ネフェリーに問われて、エステラは柔和な笑みを浮かべる。


「ルシアさんならいいよ。手紙を送ってあるし、事情は察してくれるだろうから。……まぁ、外周区で一斉にっていう今の話までは伝わってないからちょっとソワソワしちゃうかもしれないけど……、その辺までなら話しちゃってもいいから『すぐ話し合いの場を設けましょう』って言っといて」

「分かった。聞きにおいでって言っとくね」

「待ってパウラ! それだと、ボクがルシアさんを呼びつけるみたいに受け取られて感じ悪いから! どっちに行くかも含めて調整しましょうって言っといて!」

「でも、どうせ向こうからやって来るさね」

「いやいや、ノーマは見てないから分からないかもしれないけど、今、三十五区すごいことになってるから。そうそう出てこられないよ」

「あら? 三十五区で何か始まったのかしら?」

「――って、なんで俺を見るんだよ、マーゥル」


 話してたのはエステラだし、責任者もエステラだろうが。

「聞いてないわよ、ヤシぴっぴ?」みたいな目で俺を見るな。


「実は、三十五区に仮設の劇場を作りまして、それが――」


 と、ここ数日のうちに三十五区で起こった、ちょっと信じられないような大改革について、エステラが説明を始める。


 ……あ、マーゥルのヤツ、実はその情報知ってたな?

 そっか、情報紙の号外をもう読んでやがったんだな。

 でも、直接説明されないと納得できないって感じか。


 他人が書いた記事を読んで受けた印象と、当事者が語る内容に齟齬がないか、確認してるんだろう。

 又聞きで満足しないからなぁ、このオバチャンは。


「ほぇ~、そんなことになってんのか?」

「そーだよー☆ もう、すっごいんだから~☆」


 マーシャがハビエルに自慢している。

 港の話になると、我がことのように誇らしげになるな、マーシャは。

 三十五区の港、すげぇ気に入ってんじゃん。


「うかうかしてると、四十二区の港が廃れちまうぞ、エステラ」

「あはは。まぁ、ボクたちは後から追い上げる感じでいいんじゃないかな」


 先行するといろいろ面倒が追いかけてくるからなぁ。

 身に染みたんだろう。


「で、後出しすると、『なんで先にそれを教えてくれなかったんだ!?』――ってな」

「やめてよ……本当にそうなりそうで怖いから」


 とりあえず、あの規模の劇場は四十二区の港には無理だ。

 スペースがないからな。

 四十二区は、良くも悪くもこぢんまりと、だな。


「アタシも、見に行ってみたいねぇ…………ちらっ!」


 チラ見が強いよ、メドラ!?


「ハビエル。エスコートの催促だぞ」

「お前にだろう、ヤシロ」

「あの大きさを牽引できるほど、筋肉ついてねぇよ、俺は」

「がはは! あのデカさは、ワシにも無理だ!」

「んもぅ、酷いじゃないか、ダーリン☆ ……スチュアートは、あとで顔貸しな」

「ぼそっと怖ぇこと言うなよ、メドラ!? 絶対ぇ貸さねぇからな、ワシは!?」

「じゃあ、私がエスコートしてあげる~☆」

「しゃしゃり出てくんじゃないよ、海漁のっ!」


 ギルド長どもが仲良さそうだ。

 この三人が集まることすら、今までは滅多になかったってのになぁ。


「そんだけ仲良しなら、マーシャのことも名前で呼んでやれよ」


 メドラもハビエルも、お互いのことは名前で呼び合うのに、マーシャに対しては『海漁の』と呼んでいる。

 若手時代から面識があった二人と、住む世界がまるで異なるマーシャとの差なのだろうが、寂しがるんだぞ、意外と、マーシャは、そーゆーの。


「いや、ワシが海漁を名前で呼んだりしたら、あらぬ噂が立ちかねないだろうが。海漁と木こりが急接近したってよぉ。権力者ってのはそういうのにも気を遣うんだよ」

「メドラは名前で呼んでるじゃねぇか」

「がはは! こいつとは、間違いが起こるわけねぇだろうが!」


 つまり、マーシャが若くて美人だから名前で呼びにくいと。

 会社の年配上司か、お前は。

 まぁ、新入社員の若い女子を下の名前で呼んじゃうような勘違い上司より全然マシだけども。


 で、メドラはというと。


「こいつはアタシの恋敵だからね! 馴れ馴れしくしたくないのさ!」

「んふふ~☆ 負っけなっいっよ~☆」


 面白がるなよ、マーシャ。

 で、メドラさん。やめてください、マジで。お願いします、このとーり。


「それより、このプロジェクトにはワシらも一枚噛ませてもらうぞ。こういうのは、規模がでかいほど横槍を入れにくいもんだろう」

「そうだね。私からもお願いしたいよ、三大ギルド長のみんなには」


 デミリーが言って、マーゥルに視線を向ける。

 この中で、年齢と地位を総合すれば一番上なのはデミリーなのだろうが、しっかりとマーゥルを立てている。

 そういうとこ、卒ないよな。紳士的ってのか、そーゆーの?


「それじゃあ、また改めて集まるとして、日取りと場所のセッティングをお願いね、議長さん」


 と、エステラを見ながら微笑むマーゥル。

 四十二区発信の話し合いなのだから当然なのだが、「えっ、……ボクが議長やるんですか?」と顔を引きつらせているエステラ。

 お前がやるんだよ。ガンバ☆


「じゃあ、補佐をよろしくね、ヤシロ」


 うわ~、キラーパス飛んできたわー。


 ……へいへい。

 謹んでお受けいたしますよ。

 変に暴走するヤツはいないと思うが、一応気を付けておかないと、失敗したら四十二区内が引っ掻き回されちまうからな。




 ある程度話がまとまったところで、折角第一人者が複数揃っているから話を聞いてみる。


「マーシャ、レジーナ。ついでにメドラもいいか?」


 手押しポンプの設計図を広げ、集まってきた三人に手押しポンプの構造を改めて説明する。


「ハンドルを動かすことで、本体の中のピストンが上下して、その圧力で井戸から水を汲み上げるって仕組みなんだが――」


 手押しポンプのハンドルと連動して本体の中で上下するシリンダー部分『木玉』。

 こいつは、本体の内径とピッタリ一緒で隙間なくその空間を密閉しなければいけない。

 とはいえ、鉄と木をガッチリ同じサイズにしてしまうと摩擦や抵抗でハンドルが動かなくなるし、摩耗も激しくなる。


 なので、木玉の上部には獣の革を巻き付けてしっかりと密閉しつつも木玉と本体の無駄な摩擦を減らす構造になっている。


「この革なんだけど、陸の魔獣と海の魔獣のどっちがいいかな?」

「海~☆」

「検証もせずに勝手なことを抜かすんじゃないよ、海漁の! 柔軟さと耐久性を併せ持った革をいくつか用意しておくよ」

「助かる。あと、出来れば水に耐えられるとなおいいな」

「分かった。候補がいくつかあるから、準備しておくね」

「じゃあ、私も準備しとく~☆」

「ウチ、なんで呼ばれたん?」

「レジーナは、この次だ」


 手押しポンプは、井戸の水を汲み上げるパイプと、木玉がピストンして水を汲み上げる胴体部分、あとはハンドルと水が出ていく『水口』で構成されている。


 で、その本体に水を溜めて水口から水が出ていくわけだけれども、本体に溜まった水がパイプに逆流しないようにする逆止弁が必要になる。

 そこに使うのは、日本ではゴムだったんだよな。


「この逆止弁、ゴムでいけそうか? 難しそうなら魔獣の革かなって思ってるんだが」

「ゴムはまだまだ研究段階やからなぁ……ウチの幼馴染のゴムゴム・ノビール君でもおったら話は別なんやろうけど」

「覚えてないけど、そんな名前じゃなかったはずだ」


 レジーナの幼馴染に、バオクリエアで植物の研究をしているヤツがいる。

 レジーナにゴムの有用性を教えたのもそいつだ。

 名前こそ、もう忘れてしまったけれども。


「急ぐんやったら、人魚はんに水棲魔獣の革もろた方が安全やと思うわ」

「なら、そうするか」


 この逆止弁はずっと水の中だからな、たぶん水棲魔獣の方が向いてるだろう。


「それとは別件で、ポンプが完成したあとで水質検査をしてほしいんだが」

「せやね。金属や革から有害なモン出てへんか、チェックは必要やね」

「それじゃあ、木玉の革はアタシら狩猟ギルドが、水の中のは海漁が、水の検査はそっちの嬢ちゃんがやるってことでどうだい?」


 まぁ、おそらくそんな感じになるだろう。

 ……が、マーシャは木玉の革も狙ってくるだろうな。

 あとでこっそり賄賂送って諦めてもらおう。

 三大ギルド長が直に関わってるって方が、横槍ブロッカーが強固になりそうだから。


「ハビエル。水に負けない最強の木材を頼むぞ」

「おうよ! しなやかでありつつ損耗しない、いい木材を見繕って持ってきてやるよ」


 とはいえ、そこまで検証は出来ないと思うけど。

 経年劣化の具合は、一回や二回では分かりようもないからな。


「本体はノーマに任せるとして、本体周りはウーマロに頼むぞ。井戸に固定するために木製の台を作る。一部金属になるかもしれんが、うまいこと安全なヤツを作り上げてくれ」

「任されたッス!」

「石が必要ならベッコに加工させてくれ」

「井戸の形状を変えた方がいい箇所もあるかもしれないッスから、あとでチェックしに行くッスよベッコ」

「心得たでござる」


 そんな感じで、職人たちに仕事を割り振っていく。


 そんな中、一人悠然と構えているのが、ノーマ。


「いちばん大変な部分だが、しっかり頼むぞ、ノーマ」

「任せておくさね。こんだけデカいプロジェクトの根幹部分を任されるなんて、鍛冶師冥利に尽きるってもんさよ。死ぬ気で取り組むさね!」


 と、とびっきりきらきらした瞳で言ったあと――


「……しかも、アタシを鍛冶場から追い出したゴンスケたち男衆やギルド長のクソジジイは領主権限で近付くことさえ出来ない中での、秘密のプロジェクトさね……ひっひっひっ、ザマァみるさね!」


 と、非常に濁りきった瞳で吠えていた。

 ……根に持ってるなぁ、一時的に接近禁止されたこと。


「あ、……あのぅ」


 おそるおそると、金物ギルドの見習いルアンナが小さぁ~く挙手をする。

 上げてる手、めっちゃぷるぷるしてるな。


「私はなぜ、このようなとんでもない場所に呼ばれたのでしょうか?」


 領主やギルド長が行き交うフロアの中で、両肩を「きゅ~」っと寄せて、肩身の狭さが目で分かるくらいに小さくなっているルアンナ。

 今にも泣きそうなほど瞳をうるうるさせている。


「そんな恐縮しなくてもいいんさよ」

「しますよっ!? 恐縮しかしない顔ぶれですよ、ノーマさん!?」

「そんなことないさね、デリアもいるしさ」

「デリアさんは川漁ギルドのギルド長さんですよっ!?」


 おっと、ノーマ。デリアとの付き合いが長くなって、すっかりその事実を忘れてたか?

 普段付き合っている分にはギルド長っぽくないからなぁ、デリアは。


「それにほら、領主やギルド長ったって、ハビエルとデミリーは飲み友達だし、エステラとリカルドは領主って言ってもまだまだ可愛らしい嬢ちゃん僕ちゃんじゃないか」

「不敬が過ぎますよ、ノーマさん!?」


 そっかぁ、ノーマにとってここにいる領主って、気を遣うような相手じゃないんだ~。

 エステラは苦笑を漏らす程度だが、リカルドは「誰が僕ちゃんだ、こら、キツネ女!」とか吠えている。

 そーゆーところがガキっぽいって思われてんだよ、お前は。


「綿菓子で大はしゃぎするし」

「それは俺じゃねぇよ!?」


 あぁ、アレはリカルドじゃない方か。


「まぁ、親しき中にも礼儀は必要だから、馴れ馴れしくするのはダメだけどさ、折角偉い人らがアタシらみたいな平民に懐を開いてくれてるんだ。こっちが拒絶するような態度は、かえって失礼ってもんさよ。ねぇ、ハビエル?」

「がはは、キツネの嬢ちゃんも言うようになったなぁ。まぁ、そう接してくれる方が、ワシらも楽だし、楽しいけどな」

「それでも、きちんと礼をもって接してくれてるのが分かるから、アタシらは怒りゃしないのさ。そっちの小さい嬢ちゃんも、この大物キツネ鍛冶師様を見習うんだね」


 がははと、ハビエルと並んでメドラも笑う。

 いや、怖いって、その絵面。


「まぁ、こん中で気を付けなきゃいけないのは、マーゥルさんとシスターくらいかぃねぇ。メドラとは、区民運動会で共に戦った同志だからね」

「あははっ、そりゃあ嬉しいねぇ。今年も一緒に組むかい?」

「待ってください、メドラさん。その辺はまだ何も未定なので」

「んじゃあ、ワシも今年は参加させてもらおうかな」

「じゃあ、私も頑張っちゃおうかしら?」

「面白がらないでください、ハビエル、マーゥルさん!」


 エステラが懸命に抗議している。

 頑張れよ。

 今年は他区からの参加は規制してしまえ。面倒だから。


 クレームは領主様へどうぞ。


「あとは、いつもの顔見知りだから、そんなガチガチに緊張することなんかないさよ」

「その顔見知りさんが、すでに緊張するような方ばっかりなんですよ!?」


 ルアンナがノーマにすがりつくように訴えかけている。

 緊張する?

 え、誰に?


「ト、トルベック工務店の棟梁様とか、狩猟ギルド四十二区支部の代表様とか、行商ギルド最先端三区の代表様とか、木こりギルドのお嬢様とか……」


 ルアンナが震える指で各人を指していく。

 俺、ノーマ、そしてマグダやロレッタが揃って小首を傾げる。


「イメルダは、まぁ、分からんでもないけどねぇ……前三人はしょーもないオッサンどもさよ?」

「お前に言われたくないッスよ、金物ギルドのお局キツネ!」

「俺ぁ、この近辺の狩人どもをまとめ上げてんだぞ、これでもよぉ!」

「ルアンナさん、でしたね? 私は親しみやすさを売りにしておりますので、ノーマさんのおっしゃるように緊張などしなくて結構ですよ。ただし、前のお二人と同じ括りには入れないでくださいね? 彼らは、ヤシロさんにとってそーゆーポジションの方たちですので、くれぐれも、お願いしますね」


 ノーマに反論するウーマロとウッセ。

 その裏でちゃっかりと自分の立ち位置を守ろうと工作するアッスント。

 お前もそーゆーポジションだっつーの。


「それに、モコカ様も、いらっしゃいますしっ」

「へ? 私のことかですか?」


 モコカ?

 全員の視線が、マーゥルについてきていたモコカに注がれる。


「あのっ、情報紙のイラスト、いつも素敵です! もしよかったら、サインしてください!」

「私のサインなんかでいいなら、いくらでもくれてやるぜですよ!」

「本当ですか!? やったぁー!」


 飛び跳ねて喜ぶルアンナ。

 そうか、若い層にはこーゆーヤツらもいるのか。

 四十二区にも、情報紙が浸透しつつあるってことだな。


「だから、モコカ様のお師匠様なんて、もう、恐れ多くてお顔も拝見できません……っ」

「「「「いや、ベッコに緊張なんてもったいない」ぞ」よ」ッスよ」

「一同が声を揃えて同じことを!? いや、拙者も別に敬ってほしいなどとは思ってござらんけれども!」


 どうやら、ベッコに一番緊張してるみたいだな、ルアンナは。

 変なヤツ。

 この中で一番雑な扱いでいい人材なのに。


「と、とにかく、ノーマさんはご自分の周りにいる人たちが、軒並みすごい人たちだって自覚をしてください!」

「って言われてもねぇ…………すごい、人、たち?」


 わぁ、盛大に小首を傾げてるな。

 それもう大首だろってくらい小首傾げまくってるじゃん。


「大物だよね~、ノーマは☆」

「距離感の取り方はうまいよね。ボクも、気付いたら仲良くなってたって感じだし」

「最初は礼節を持ち、こちらが望む程度に砕けてくれる、器用な子よねぇ、彼女」


 マーシャとエステラの会話に、マーゥルが賛同の意を示す。

 そういう部分ではノーマは器用だ。

 だが……


「一度懐かれると、どんなに拒絶しても全力で甘えてきますけれどもね、あの泣き上戸の絡み酒キツネは」


 イメルダの発言に、若干名の女子たちが苦笑を漏らす。

 なるほど、あの辺が被害者の会か。お気の毒に。


「ルアンナの意見を聞いてて思ったけどさ」


 顔を真っ赤にしたルアンナに抗議されてわたわたしているノーマを見ながら、エステラが呟く。


「ノーマって、ヤシロに似てきたよね」

「失敬さね!?」


 即答でそう言えちゃうお前も、失敬だぞっと☆




 そんな、失敬かつ大物なノーマであるが、非常に困った人物でもある。

 そう、仕事にのめり込むと寝ないという悪癖の持ち主なのだ。


 そこで、ルアンナだ。


「ルアンナには、一つ重大な任務をお願いしたい」

「重大な任務……ですか?」


 ルアンナが、頬に汗を一筋垂らしながらごくりと喉を鳴らす。


「実は、このとても一般人には聞かせられない、領主・ギルド長・各所の重鎮レベルですら箝口令が敷かれるほどの滅茶苦茶重要度の高い超弩級のビッグプロジェクトを実施するにあたり――」


 自分がそんな特大級のトップシークレットに関わってしまったことに不安と後悔と「なぜにWhy!?」な感情を顔いっぱいに表して、ルアンナはちょっと泣きそうな顔でこちらを見ている。


「金物ギルドに対し、領主権限が発令される」

「えっ!?」


 バッと、首がもげそうな勢いでエステラを見るルアンナ。

 俺の誇大表現に苦笑しつつも、違うとも言えないくらいに重要案件ではあるので「なんと言ったものか」的な顔をしているエステラ。


「実はね、ノーマのよく使っている工房への立ち入り、及び接近を当面の間禁止させてほしいんだ。事が事だけに、情報が漏れると困るんだよ」

「それに、知っちまったらそれを黙ってなきゃいけなくなるし、こちらとしても、本当にそいつが秘密を黙っていられるのか監視しなきゃいけなくなる……かもしれないだろ?」

「な、なんで私はここに呼ばれたんですか!?」

「ヤシロ。あんまり脅かし過ぎないの」


 ルアンナを追い詰める俺を、エステラが「こらっ」と叱る。

 ルアンナには「それくらい重大な内容だけれど、そこまで緊張しなくてもいいからね」と無茶なことを言っている。

 一般人はな、お前ら領主に関わるだけでも緊張するんだよ。

 ……本来なら。

 四十二区では違うみたいだけど。


「だが、そこで鼻息荒く腕まくりしている鍛冶師のエースには、非常に困った習性がある。……鍛冶仕事を始めると、周りが見えなくなって食事も睡眠も休息も一切取らなくなっちまうんだ。重大案件であればあるほどな。ルアンナも、覚えがあるだろ?」

「それは……まぁ…………」


 ルアンナに視線を向けられ、ノーマが顔を逸らして口笛を吹き始める。

 見習いにまでそう思われてるって、よっぽどだぞ、ノーマ。

 自重しろ。な?


「もし万が一にも、このプロジェクトの最中ノーマが倒れでもしたら、世間はどう思う? 『領主やギルド長がよってたかって平民を酷使し、ついには使い潰しやがった』――そう思われないとも言い切れない」


 なにせ、こんなに物々しい面子が揃ってるんだ。

 傍から見たら恐怖でしかないだろう。


「それは困るわねぇ。無理をしてはダメよ、ノーマちゃん」

「だ、大丈夫さね。アタシの身体のことは、アタシが一番よく分かってるさよ」


 マーゥルに釘を刺されても、ノーマは「大丈夫」などと世迷言を抜かす。

 大丈夫じゃないから、こんな手間をかけてそうさせないように画策してるんだぞ、俺は?


「みんなも困るよな?」


 と、デミリーやハビエルに話を振れば、女性に無茶はさせられないというジェントルメンズなおっさんどもは「そうだね」「ほどほどに頼むぜ、キツネの嬢ちゃん」と俺に賛同してくれた。


 オルキオやルピナスも、「君の頑張りには感謝しているよ」とした上で「それでも、体に負担をかけてまで無理をする必要はない」「そうよ。若いうちの無理と無茶はもう少し年齢を重ねてから後悔となって我が身に降りかかってくるものよ?」と説得と脅迫をしてくれた。


 しかし、ルピナスの脅迫は説得力が半端な――なんでもないです、るぴなすさんはとってもわかわかしくて、きょうもとってもきれいです。


「というわけで、ルアンナには領主やギルド長たちの名誉と尊厳を守る役割を頼みたい」

「重たいです!? 重圧に潰されそうですけども!?」

「大丈夫だ。お前になら出来る。いや、お前にしか出来ない!」

「そんなこと……何をやらせる気なんですか?」

「そう構えるな。内容に関しては、事前にジネットに相談して了承を得てある」

「陽だまり亭の店長さんに……?」


 ジネットがOKを出したのであれば、そうそう変なことはさせられないだろうと、ルアンナは微かに安堵の表情を見せる。


「ノーマが無茶をしないように見張り、無茶をしたら止めてほしい。毎日ちゃんと飯を食うように言って、定時上がりを基本として残業は最大でも二時間まで、夜はしっかりと寝るように毎日注意してやってほしい」


「確実に寝かせろ」とは言わない。

 ノーマに憧れて金物ギルドに入った現在見習いのルアンナに、金物ギルドエースのノーマを操るのは至難の業だろう。


「可愛がっている一番弟子に言われたら、ノーマも多少は聞く耳を持つだろう」

「い、一番弟子だなんて、そんな……っ」


 ルアンナが頬を染めてわたわた慌てふためく。

 でも、ノーマ自らが「可愛がってる」なんて公言したのってルアンナくらいだからな。

 満更見当違いでもないと思うぞ。


「まぁ、ルアンナに手間かけさせるわけにはいかないからねぇ……ついつい没頭しちまった時は、遠慮なく注意しておくれなね、ルアンナ」

「は、はい!」


 ノーマにも頼まれ、ルアンナが了承する。


「でも、ノーマさん、本気でのめり込んでる時は周りの声が聞こえなくなって、強引に鍛冶場から引き離そうとすると槌を振り上げて襲いかかってきますので……あまり期待はしないでいただけると……」


 ごめん、ルアンナ。どこに憧れたの?

 とんでもないデンジャラス鍛冶師だな、オイ!?


「ゴンスケさんたちのあの筋肉は、半分は防御力アップのためだって……」


 じゃあ、乙女どもが『あぁ』なのは、半分はノーマのせいなのか。

 賠償請求したら勝てそうな気がしてきた。


 だがまぁ、言って聞くなら苦労しない。

 ノーマがそんな生易しい相手じゃないなんてことは百も承知だ。


「だからもし、どんなに注意してもノーマが聞き入れない時は――」


 この条件を、ジネットは知っている。

 そして、「ノーマさんならきっと大丈夫です」とノーマを信じて了承してくれた。



「――ノーマの寝室のタンスに収納されている衣類を一枚ずつ持ち出して、陽だまり亭へ届けてくれ」

「んなっ!?」


 ノーマの寝室に関する情報は、数名から得てある。

 ノーマの寝室にあるタンスには、ノーマの歴代下着がみっちりと収納されているのだ。


「一段目が一軍パンツ、二段目が気分を変えたい時用パンツと勝負パンツ、三段目がかつて一軍だったお古パンツ、四段目が穿きはしないけれどまだ捨てるほどではない補欠パンツ、そして五段目が長年酷使されて擦り切れ摩耗した歴戦のお気に入りパンツ!」

「なんでヤシロがそんなこと知ってんさね!?」

「ロレッタ、パウラ、ネフェリー、イメルダ、マグダ、デリア、マーシャ、そしてウクリネスによる情報提供だ!」

「あんたら、揃いも揃って、それもよりにもよってヤシロになんの情報渡してくれてんさね!?」

「ノーマってさぁ、オシャレなくせに使い古しとか全然捨てないんだよねぇ」

「物持ちがよすぎて、私ビックリしちゃった。だって、レジーナといい勝負できそうなのまで取ってあるんだもん」

「その口を閉じるんさよ、パウラ、ネフェリー!」


 そっか、レジーナレベルのもあるのか。


「そして、パンツタンスの隣には、ブラジャータンスがあり、こちらはパンツほど数はないですが、二段目と三段目は『いざという時用』のオシャレな上下セットが収納されているです!」

「黙るさよ、ロレッタ!」


 ノーマは、よく使うのを一段目に、ここぞという時に使う予定のを二段目に収納するこだわりがあるようだ。

 ……いざという時がなかなか来ないんだから、取り出しにくい五段目でもいい気がするけど……いえ、なんでもないです、のーまさんはとってもきちょうめんですてきだとおもいます。


「……それを、陽だまり亭に持ってきて、どうするつもりなんですか?」


 ルアンナが、俺を射殺しそうな視線を向けてくる。


 では教えてやろう。

 ノーマのパンツが届いたら――


「陽だまり亭に展示する!」

「マジか!?」

「その口を閉じなね、ウッセ!」

「デリアちゃん、やっちゃえ☆」

「お前、はしゃぎ過ぎだぞ」

「ウッセさんサイテー」

「今のは、ちょっと……ねぇ」


 思わず立ち上がり、テーブルと椅子をガタガタ鳴らしたウッセに、女子たちから非難の声が飛ぶ。

 ついでに、ノーマの煙管の灰も飛んでいた。

 さっき、ここにいる連中にマッチの使い方を披露した時のヤツだな。


 ちょっとはしゃぎ過ぎたウッセは、現在マグダとデリアに取り押さえられている。


 そんな珍妙な光景をバックに、エステラが盛大に引きつった顔で俺を見る。


「……本気なのかい、ヤシロ?」

「もちろんだ。なぁ、ジネット」

「はい……」


 まぁ、俺がこんなことを言ってもどーせ却下されるのは目に見えていたので、先に仕込みをしておいたのだ。


 エステラキラー、ジネットの登場だ。


「……とても危険な措置だと思います。ですが、決してそのようなことにはならないと、わたしは、ノーマさんを信用しています」

「ぅぐっ!」


 信用を裏切りそうだという自覚があるのだろう、ジネットのまっすぐな言葉にノーマが胸を押さえてうずくまった。


「俺も、もうちょっとやんわりとした罰にしようと思ったんだが、ノーマの仕事にかける情熱はジネット以上だからな。『それくらいの罰なら』って無茶を押し通しかねないと思ったんだ」

「そ…………そんなこと、は……」

「ないって言えるの、ノーマ?」

「私たちの目を見て言える?」

「ぅ…………」


 パウラとネフェリーの追撃に遭い、ノーマが口からこぼれかけていたデマカセを飲み込む。

 嘘になるもんな、確実に。


「それに、ルアンナにその任務を託しておけば、大切なノーマのためにも、必死になって止めてくれるだろうと踏んだんだ。俺にそんな物、見せられないもんな?」

「と、当然です! 私が、体を張ってでも阻止してみせます!」


 ルアンナは、俺への反発心を抱いているようなのでそれも利用させてもらう。


「ルアンナは立場上、ノーマに遠慮してしまいそうだが、こういう罰にしておけば止めやすいだろう?」

「確かに、ノーマも罰を恐れて歯止めがかかるかもしれないし、ルアンナもノーマを守るために必死になるかもしれない……効果はありそうだね」

「というか、むしろそれくらいしないとノーマは止まらない。な、ジネット?」

「えっと……はい。昨夜、実践して見せていただきましたので」


 話しかけても耳を素通りしていたノーマだが、パンツ丸見えと言えば反応を示した。

 あの分かりやすい反応が、ジネットが首を縦に振る大きな要因になったようだ。


「とはいえ……ヤシロらしいというか……けど、もんくを付けにくい、絶妙なラインを攻めてきたね」

「ノーマのためだよ」

「はい。罰の内容は、確かに、ちょっと、あの……アレですが、でもノーマさんが休息を取り体を大切にすることが一番重要だと判断しました」

「というわけで、ノーマ、ルアンナ。分かったな?」

「わたしは、わたしたちは、ノーマさんを信頼していますからね」

「ぅ……ぐ…………分かった、さね」


 ノーマがうなだれて了承し、領主権限でこの罰が決定された。

 ルアンナも逆らうことは出来ない。


 これでノーマが無茶をしなくなればそれでいいし、仮に羽目を外して無茶をしても、それはそれでいい物が見られて俺もわっほいだ。


 しかも、こんな提案をしたのに、俺の株は下がらず、一人ではしゃいじゃったウッセの株だけが急下降した。


 うんうん。

 いいことずくめだな。




「……しまった。モーマットも呼んでおけばよかった」

「無駄な犠牲者を増やそうとしないように」


 でもさ、エステラ。

 モーマットだったら確実に大はしゃぎしてたぞ?

 だってスケベだもん、あいつ。


「しかし、ベッコははしゃがなかったな。ノーマファンなのに」

「拙者、ノーマ氏に対してはそこに存在してくれているだけで満たされるのでござる」


 なに、マジ恋なの!?

 卑猥な目で見ちゃいけないって思うほどに!?


「ノーマ氏がこの街に存在し、笑顔で楽しく暮らし、そして……盛大に揺らしていてくださればそれでりゅゔァッチィでござる!?」


 そうかそうか、煙管の灰は『でりゅゔ熱っちぃ』か。

 そりゃ熱そうだ。

 そしてノーマ。煙管への灰の充填が早い早い。

 西部劇のガンマンにも勝てんじゃね?


 床にうずくまるベッコと、「ふぅ……」っと煙管の銃口に息を吹きかけるノーマ。

 うん、銃口じゃないんだ、そこ。


「でもよかった、ベッコが真面目なヤツじゃなくて」

「その感想はどうなんだろうね……」


 エステラも、ベッコが真人間だったらしょっぱい顔になるだろう?

 そういうもんだよ、ベッコなんて、所詮。


「キツネの鍛冶師はん」


 騒ぎが落ち着いたあと、レジーナがノーマに声を掛ける。


「今度、泊まりに行ってもえぇやろか?」

「この流れじゃなきゃ歓迎してやったんだけどねぇ!?」


 何しに行くつもりだよ、レジーナ。


「あ、じゃあさ。三十五区に人形劇を見に行った流れで、そのままみんなでノーマの家にお泊まりいかない?」

「あ、いいかも。前に捨てなって言ったヤツちゃんと捨ててるか見に行かなきゃ。ミリィも一緒に行こ」

「ぇ、ぁの……みりぃは、お泊まりは、したいけど、でも、ぁの……」

「ワタクシは、お泊まりせずにタンスだけ見に伺いますわ!」

「エステラ、領主権限でアタシの家への接近禁止も出しておくれな!?」


 安く見られてんなぁ、領主権限。


 会議に参加しながらも発言を控えていたイメルダやミリィも、ようやく表情がほころんだ。

 イメルダはともかく、ミリィはルアンナに負けないくらい緊張していたな。

 まさかこんなにいっぱい集まるなんて思わなかったから気軽に誘っちゃったんだよなぁ、ごめんな、ミリィ。


「うふふ。ほ~んと、賑やかで楽しいわぁ、四十二区は」


 騒ぐ一同を眺めマーゥルがのほほんと呟いた言葉に、リカルドが眉をしかめて、「こんな騒がしさは御免だ」とかほざいてやがる。

『屁ロウィン』とか言ってくっだらないイベント開催しようとしてたヤツが、なにを偉そうに。


「あの、ヤシロさん……」


 不安のにじむ表情でジネットが俺にそっと話しかけてくる。


「もし……、もしも万が一、ノーマさんが罰を受けるようなことになったら……」


 その時は、パンツをポッケにナイナイします☆

 あ、ポッケナイナイって、自分の懐にしまい込むって意味の関西方面の表現なんだぜ☆

 覚えとくといいぞ☆


 ……とか言うと、後ろに控えているベルティーナも参加して特大の懺悔を食らわされそうだから……


「その時は、ジネットがしっかりと管理しといてやれ。『どこに展示する』とは明言してないからな」

「そ、そうですね。では、人目に付かない場所で展示しましょう」


 ほっと安堵の息を漏らすジネット。

 そういう抜け道は思いついていなかったようだ。


 ジネットの部屋も陽だまり亭の一部、と言えなくもない。

 ここに来るヤツのほとんどが二階も含めたこの建物のことを『陽だまり亭』だと認識してるだろうしな。

 倉庫も中庭も、もちろんジネットや俺たちの部屋も、デッカイ括りで言えば陽だまり亭なのだ。


 ま、そこまで万全を期さなくても、こんなもんで『精霊の審判』をかけるヤツもいないだろう。

 今のウッセの惨状を目の当たりにしていれば、なおさらな。


 ただ、どこに展示するのか、従業員だけにはこっそりと教えておいてね☆ ね☆





 それから程なくして、早朝の濃密なミーティングはお開きとなり、「折角陽だまり亭に来たんですもの」とマーゥルが朝食を食っていくと言い出し、デミリーやハビエルたちがそれに便乗した。


「ほんじゃ、アタシらはそろそろ行くさね」


 と、お説教込みの女子たちの戯れを終えたノーマたち三十五区へ行く面々が席を立つ。


「お土産買ってきてあげるからね~」


 パウラがそんなことを言うので、念のために釘を刺しておく。


「チャレンジャーズのメンコはいらんからな?」


 あそこに行くと、結構欲しくなるみたいだからな、メンコ。

 タートリオもジネットも買ってきてたし。

 パウラやネフェリーなら「お土産にちょうどいいかも!」って変なテンションで買い込んできかねない。


 それ、俺が作ったヤツだから。

 つーか、アルシノエのメンコとか別にいらないから。


「あと間違っても、ルシアは連れて帰ってくるな」


 それはお土産じゃないから。


 日本で大ヒットしたテレビゲームの、『日本全国を電車で旅しながらあっちこっちを買収して資産を競うスゴロクゲーム』で擦り付けられる貧乏神的ポジションの生き物だから、それ。

 四十二区に持ち込むなよ。


「あぁ、それと、人形劇を見ながら食べる飴が間に合ってないようだったから、ミリィが攫われないようにしっかりガードしといてくれ」


 ルシアなら、平気で連れ去りかねない。

 しっかりと連れ帰ってくるように。


「ミリィにルシアがガッチリとしがみついていた場合、どうすりゃいいんさね?」

「レジーナの薬でルシアだけしっかり駆除しといてくれ」

「それやったら、お勧めの薬があるで」

「お薦めって何さ、レジーナ!? ルシアさんは、領主だからね。みんなも、その辺忘れないようにね」


 はらはらした表情でエステラが面白いことを言う。

 領主だと理解した上で、こんな扱いなんだが?

 ルシアが望んだことだ、きっとあいつも本望だろうよ。


「私たちも、午後から見に行ってみようかしら?」


 出かけるノーマたちを見て、マーゥルがそんなことを呟く。

 後ろに控えるシンディとモコカに目配せをして、「二人も興味あるでしょう?」と話を振る。


 給仕二人は当然マーゥルの意見に賛成し、結果、マーゥルたちは朝食を食べたらすぐに三十五区へ向かうこととなった。


「そんじゃあ、アタシらと一緒に行くかぃね、マーゥルさん?」

「いいのよ、気を遣わなくて。あなたたちは今から出発するのでしょう? 私たちはのんびり行くわ」

「そうかぃね。ほんじゃ、ルシアに席を確保しておくように伝言しといてあげるさね」

「それは助かるわ。そうだ、もしよかったらご一緒しない? ミスターBBDC?」

「えっ!?」

「お忙しいかしら?」

「いやぁ…………まぁ、時間は作れますが……シラぴょん、人形劇を私と一緒に見に行ってみるかい?」

「まぁ、素敵。是非見てみたいわ。でも、私たちがご一緒して構いませんの、ミズ・エーリン?」

「もちろんよ。楽しくお話して行きましょう。ねぇ、ミスターBBDC」

「あはは……お手柔らかにお願いしますね」


 マーゥルがオルキオを誘ったってことは、きっと何か企んでいるのだろう。

 というか、ミスターBBDCって……まぁ、あいつのファミリーネーム長いからなぁ、しゃーないか。

 たしか、『ボイン()()んよよよ~ん、()イナマイツ、セクシー()』だったっけ?

 うん、なんかそんな感じ。


「ほんじゃ、行ってくるさね~」

「みなさん、お気を付けて」


 ノーマたち一団が出発し、ジネットが外まで見送りに出ていく。

 ――と、マーゥルがシラハにこそっと耳打ちをした。


「ついでに、三十七区も寄っていきましょう。ヤシぴっぴが伝授した恋の紙芝居、きっと今なら誰よりも先に見られるわよ。ね? そうしましょう」

「まぁ、マーゥル様ったら。でも素敵ね。是非ご一緒したいわ」

「じゃあ、決まり。あと、様は必要ないわ、シラハさん」

「うふふ。ありがとうございます、マーゥルさん」


 おばはんネットワークが構築されている。

 きっといつか、ここにムム婆さんも組み込まれるんだろうな。

 渋枯れ女子会とか、開催すんのかねぇ……


「ウーマロ、大工の状況は?」

「今日中に四十二区に戻ってくる予定ッスから、そのまま三十七区に送りつけるッス」


 うむ。

 三十五区の方は、カワヤ工務店が引き続き担当し、トルベック工務店とノートン工務店の連中を三十七区へ派遣して仮設劇場を建てることになりそうだ。


「エステラ。事後承諾ヨロシク」

「ベッカー家が話を通しているはずだから、確認も込めてあとで手紙を出しておくよ」

「おそらく、今ごろ領主の館に、泣きつくような手紙が届いているころかと」

「じゃあ、朝ご飯食べたら一回帰ろう」

「かしこまりました」


 ナタリアと打ち合わせをして、エステラも動き始める。

 まぁ、ご飯が最優先のようだけれども。


「忙しくなりそうね」


 マーゥルがそんなことを俺に言う。


 忙しく走り回るのは俺以外の連中だ。

 俺は、陽だまり亭で平々凡々、のんびりと過ごさせてもらうさ。


 なんて、そんなささやかな望みすら叶えてくれないのが精霊神ってヤツで……二日後、俺はとても頭が痛くなるような事態に見舞われることになる。







あとがき




私が小学生のころは、夏でも今ほど暑くはなくて

気温だか水温だかが一定以上にならないとプールの授業がなくなっちゃってたんですよねぇ


懐かしいなぁ〜(*´ω`*)



というわけで、

普通自動車第一種免許(オートマ限定)の

学科試験――




合格した、宮地でぇーす!

やっ\(≧▽≦)/たね!



やってやりましたとも!

さすが、教習所の効果確認(学科試験どんくらい出来てるか測る模試みたいなやつ)の初回に97点を叩き出した優等生ですね!

効果確認、五回中五回、全部合格点叩き出してやりましたとも!



……まぁ、仮免(路上教習を行うために取得する限定的な運転免許)の試験前は、

初回で50点中34点という赤点を叩き出して

「えっ!? 私の点数、低過ぎ!?」って思わず声が漏れちゃいましたけども……


いや、「低過ぎ!?」は言ってませんが

「えっ!?」はリアルに声が出ましたね。


ちなみに、仮免試験は50点中45点で合格なんですが、

11点も足りてない……(・_・;


で、思わず声が。



そしたら、

たまたま隣に座ってた見知らぬ女子大生が

「ぅごっ!?」って声を漏らして、

で、「ガッ!」ってこっち見て、

「気持ち、分かります!」って(笑)


急に知らない人に話しかけられて、

「なんだ!? どした!?」って思ってたら、

その女子大生が自分の答案を見せてきて――


『18点』


……うわぁ(^^;



女子大生「あなたの気持ち、分かります!」

宮地「いや、ごめん! 勝手に共感しないで!?」


もうちょっと頑張れ、女子大生!


で、二人並んでもう一回テストを受けたら、



宮地「44点!?(ギリ不合格)」

女子大生「49点!?(合格)」

宮地「なに、その急成長!? 置き去りにされたんですけど!?」



そんなことがあり、

悔しくて……


学科、めっちゃ勉強しましたよね

( ̄ー ̄)ニヤリ


今きっと私は、ここを御覧いただいている皆様の中の誰よりも道路交通法に詳しいです!



Q 自動車専用道路を時速50kmで走行中、後方から猛スピードのスケボーに乗ったメガネの少年が迫ってきた時は、進路を塞いで少年の暴走を止めるべきである?


A 間違い

 その少年の進路を塞ぐと、少年はスケボーで空を飛ぶ、橋の欄干を駆け上る、ハイジャンプで対向車を飛び越えるなど、さらに危険な運転を始めます。

 また、その状態の時は殺人事件に関連する事件が発生している可能性があるため、メガネの少年を見かけたら道路の脇によって一時停車し、進路を譲りましょう。




安全運転を心がけましょう☆



というわけで、

普通自動車第一種免許の学科試験を終え、

免許交付までの時間を利用して、

免許センターの休憩所で今回のあとがきを書いております!



……テーブルがないので書きにくいです……

(´;ω;`)



ヒザにカバンを載せて、そこにキーボードを置いて、ヒザでスマホを挟んで、スマホのメモ帳に書いております。


あぁ、変換がお家PCと違って地味にやりにくい!

今回の誤字脱字は、警視庁のせいですのであしからず!

(๑`н´๑)ぷんぷん



なお、前回告知しておりました

『宮地さん、ついに路上デビューすりゅの~☆の巻』

は、宮地さんのテンションが上がったまま下りてこないので、次回へ繰り越しとなりました。


すみません!\(≧▽≦)/


こんなテンションで

すみません!\(≧▽≦)/



今回は、予定を変更して

『宮地さん、普通免許を取得すりゅ~☆の巻』

をお送りいたします!



これで私も――



宮地「私、普通じゃないですよ!?」



とか言えます(*´ω`*)

『普通』免許を取得しましたので!



ロレッタ「あたしの真似ですか、今の!? あたし普通じゃないですし、百歩譲って普通だったとしても、免許制度導入してないですからね!? まぁ、普通じゃないですけども!」




というわけで、

ちょこっと本編にも触れておきましょうか



ヤシロの大胆発言から、

領主や貴族やギルド長が大騒ぎです。

まだ身内だけですが、そのうち近隣区へ波及していくことでしょう


で、今回は、

ヤシロの仲間は、他のヤシロの仲間とも仲間なのか――っていう視点で、

結構微妙な関係なんですよね〜っていう雰囲気を描いてみました


仲良くなるには、もう少し、あと何か一手きっかけが欲しいな〜

みたいな関係性です(*´ω`*)


それと対比するように、四十二区とヤシロの絆の強さが……もう! ね!

( *´艸`)


ちょっといい話風にしあげてみました☆




あと、ノーマの暴走封じにルアンナを召喚(笑)

ジネットの許可まで取り付けて

『おぱんちゅ展示会』にリーチが掛かりました!


だって、絶対徹夜するもの!

展覧会の開催、まったなしですよね、これは!

\(≧▽≦)/



みたいな感じのお話でした。


何気に、ここ最近

ヤシロがジネットをうまいこと使ってエステラ封じをしていますね

ジネットは、ヤシロにとって最強の武器になるかもしれません


いや、高確率で「懺悔してください」って言われて自分がダメージくらいますね、ヤシロなら(笑)




というわけで、周りは慌ただしく、

ヤシロは割とのんびりと、

オールブルームの大改革が始まったのでした


次回、異世界詐欺師のなんちゃって経営術Z!

『ノーマ、オメェのパンツ動物柄多いな〜』


ゼッテェ見てくれよな!




あぁ、『Z』がついちゃいましたかぁ

(ノ▽`*)アチャー



そ・れ・で、

学科試験なんですけど!


今ちょっと、あまりに打ちにくいせいか

テンション上がってるせいか、

上の『学科試験なんですけど!』って文章打とうとしたら、間違って


「学科試験なんですげそ!」


ってなっちゃいました(*´▽`*)



げそ!\(≧▽≦)/




で、学科試験なんですけど!


最近は手書きじゃなくてタブレットで入力していくんですね。

それで、終わった人からどんどん退室していっていいと言われたんです。


時間は50分

二択問題が90問(各1点)

イラストを見て答える問題が5問(各2点)

合計100点

90点で合格です



で、試験が始まったんですが……

問題、流出させるのはダメらしいので

それっぽい感じで創作して、私が感じたニュアンスだけうまいことお伝えしますね



Q1 ドライバーは、周りの迷惑にならないように運転しなければならない


A1 (;゜Д゜)いや、そりゃそーだろー!?



びっくりするほど当たり前な問題で

思わずツボに……でも声出しちゃけないから必死に我慢しました(^^;



で、猛勉強が功を奏して

「あれ、これどうだっけ?」って不安になる問題もほとんどなく、

3問だけ、「間違ったかも?」って問題がありましたが、それが全部ダメでも絶対合格できると確信が持てる出来で


しかも、開始から25分経ってなかったんです


「終わりました」って颯爽と試験会場をあとにする宮地さん(おそらく高得点で合格)


……かっこいい!

かっこよすぎる!


思わず、免許センターの食堂で1000円もするエビフライカレー食べちゃいましたよ

(*´ω`*)美味かったぁ


そして、合格発表までの割と長い時間

待合室の椅子に座って優雅に

「お願い受かってて! お願いお願い! 受かれ受かれ受かれ! 受かってて、お願い!」と祈りを捧げていましたよ。

えぇ、優雅に、必死の形相で



だって、自信があったところで、所詮『宮地』ですもの!

『宮地』とかいて『ざんねん』って読みますもの!

……あれ?『おっぱい』って読むんでしたっけ?

まぁ、そこはどうでもよくて!


私ってば、

ここぞって時にやらかす男なんですもの!


しんどかったぁ……合格発表までの小一時間

(´Д`;)


ちなみに、

一回問題を最後までざっとやって、

もう一回第一問から、文字を一個一個読み直して、

それで、一番早く終わりましたからね?


ヘタに考え過ぎると逆に「アレ、これ違うかも?」って迷走しそうだったので

練習問題と同じやり方でやって、

交通安全のお守りに「試験受かってますように!」って願掛けしてました



交通安全のお守り「いや、管轄違いっ!」



ちなみに今回、

私が受けた午前の部受験者115人の内、26人不合格でした


……結構落ちるんですね(・_・;



画面にばーっと受験番号が表示されて行くあの感じ

自分の前で立て続けに番号が飛んで「やめて、怖い!」ってビビるあの感じ


一切受験勉強せずに「近所の高校だし余裕だろ」って舐めてかかった高校受験を思い出して胃がキリキリしました


あ、高校も無事受かりましたよ

難関校でもなんでもない普通の学校でしたし。



結局、

結果待ちが一番の難関でした(笑)





というわけで、

本日より、宮地さん


免許持ちです!

\(≧▽≦)/



これで、あとがきでドライブに行った話とか書けますね!

楽しみ〜♪



ドライブオフ会とか、したいですね〜


私の運転する車の前後に、ベテランドライバーさんの運転する車に走ってもらって

前の車にナビを

後ろの車にあおり運転とか無謀な割り込みのブロックをしていただいて


私の車の助手席には、第二種免許保有者か、ドライバー歴十年以上のベテランさんに乗っていただいて、

「センター寄り過ぎてるよ。もうちょっと左寄って」とか

「対向車がこれだけ遠いと行けるから、右折しちゃおう、ほら、今、行って」とか

「この辺停車できるよ〜、あ、あの標識見落とさないようにね〜」とか!

そんなアドバイスをする係に!




 Σ(゜Д゜;)それオフ会じゃなくて、豪勢な路上教習!




教官のいない運転とか、不安しかないんですが!?


(」 ̄□ ̄)」どーしたらいーんだーぁ!?



こうして、新米ドライバー宮地の冒険が始まったのだった


次回もよろしくお願いいたします。

宮地拓海

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