424話 波及
ベルティーナが「今日は子供たちの湯あみの日なので」といそいそと帰宅し――じゃあ、なぜつまみ食いしに来たんだって感じだが――それに続くようにイメルダやエステらたちも帰っていった。
「木材の加工でしたら、木こりギルドにおまかせくださいまし! ……とはいえ、こんな小さい棒を大量に生産するのであれば、新たな加工機を導入させる必要がありますわね……ノーマさん、後日ご相談に伺いますわ」
「それじゃ、ボクたちも帰るよ。……今日は徹夜かもしれないなぁ……はは、は……」
「なんでしたら、いつでも眠れるよう給仕一同全員寝間着で作業を行いましょうか?」
「君の寝間着は全裸じゃないか!? 却下だよ!」
「私だけではありません、シェイラもです!」
「なお却下!」
と、賑やかな去り際だった。
「あとでうっかり言い忘れていたことを伝えに行こう」
「きっと着てるさよ、ナタリアも、シェイラって給仕もね」
夢見るくらいいいじゃない!
だって男の子だもの!
「じゃあ、あたいたちも帰るな」
「お先に失礼いたします、ヤーくん、姉様方」
デリアとカンパニュラが一緒に帰宅する。
「面白かったなぁ、ラブダイブ」
「はい。人形劇もヤーくんの語りも、それぞれに見どころがあって」
「今度オッカサンたちも誘って見に行こうか?」
「そうですね、みんなの時間が合えば」
楽しげな会話が遠ざかっていく。
時間って、合わさないとなかなか合わないもんなんだぞ。
カンパニュラが何気に一番時間を作れなさそうだ。
休んでいいぞって言っても働きに出てきちゃうから、カンパニュラ。
社畜ウィルスに感染し始めてるんだろうなぁ……怖い怖い。
「……ロレッタ。テレサを頼む」
「任せてです!」
「おまかせ、ね!」
「お二人とも、夜道は暗いですので、十分に気を付けて帰ってくださいね」
テレサはロレッタが送っていく。
なんかもう、担当みたいな感じになってるな。家の方向が一緒だから。……一緒ってほど一緒でもないんだけどな。
「ロレッタ。毎度毎度、回り道させて悪いな」
「とんでもないです! テレさーにゃは陽だまり亭の一員ですし、あたしにとっても妹みたいな大切な存在ですから、むしろ進んで送り届けてるですよ」
「そっか。じゃあ、なんかお礼しようかと思ったけど特に必要なさそうだな」
「ご褒美がもらえるなら、それはそれでめっちゃ欲しいですけども!?」
苦労してるとは思ってないくせに、現金なやつだ。
で、みんなが帰って陽だまり亭に残ったのは、ここに住んでいる俺たちと――
「すまないねぇ、店長さん。今日もまだ接近禁止を言い渡されてるんさよ」
「気にしないでください。ノーマさんとお泊まりできるのはわたしたちとしても嬉しいですから。ね、マグダさん?」
「……たまには一緒に寝てあげてもいいかもしんない」
ノーマももう一泊していくようだ。
まぁ、乙女たちの言い分も分かるんだけどな。
帰宅を認めると、夜中にこっそり工房に忍び込みそうだから。
そろそろ禁断症状とか出始める頃かもしれないと思うと、不安は拭いきれないのだろう。
で、マグダ。なんて?
「いいかもしんない」って、物凄ぇ久しぶりに聞いたわ。
親方の知り合いのコッテコテのオッサンがそんなしゃべり方してたっけな。
そこの妻は「でしょう?」を「だしょ~?」って言ってたなぁ。
あと、「あ~ね、あ~ね!」とか、「だ~ね、だ~ね!」とか。主に肯定とか賛同ってニュアンスで。
バブル語だな、アレは。
……ノーマ、ボディコン着てお立ち台で腰をくねくね踊ってくれないかなぁ。
毎晩通うのになぁ。
「……いっそのこと、ボディコンと見せてもいいTバックを一緒に開発するか……で、パンチラした時には食い込んじゃってて見せてもいいTバックは見えずにお尻だけ見えちゃったりして、『折角見せてもいいヤツなのに意味ないじゃ~ん』って盛り上がるんだ……むふふん♪」
「楽しそうなとこ悪いけどね、全部声に出てるさよ」
「なぁ、ノーマ! 俺と一緒に開発しないか、見せてもいいT――」
「しないさよ」
取り付く島もない!?
「もぅ、ヤシロさん。懺悔――」
「懺悔の前に風呂だな。もう沸かしてあるんだろ?」
「はい。先ほど火を入れましたので、そろそろ沸く頃合いだと思います」
「今日は遠出して疲れたろ? ぬるめの湯にゆっくりと浸かってくるといい」
「そうですね。わたしが留守の間、陽だまり亭を守り抜いてくださったみなさんには、たっぷりと癒やされていただきませんとね」
「俺は、お前に癒やされろって言ってんだよ」
「わたしは、みなさんを癒やしたいと思っていますよ」
「まったく……変なとこで頑固なんだから」
「うふふ」
「うわぁ……店長さん、まんまと話逸らされちまってるさね」
「……一度逸れると二度と戻ってこない、それが店長の懺悔」
「ほとほと、ヤシロに甘いさねぇ」
「……マグダにも甘いけれど?」
「張り合うんじゃないさよ……」
という感じで、懺悔が有耶無耶になったので、有耶無耶のまま霧散させて雲散霧消を謀る。
実物も見てないのに懺悔なんぞしていられるか。
俺を懺悔させたかったら、目の前にTバックのお尻を持ってこい!
ぃやん、煩悩が抑えきれず、懺悔が終わらにゃ~いっ!?
……うん、ちょっと楽しそうだな、そんな懺悔なら。
「じゃあ、昨日は片付けをやってもらったし、今日は先にジネットたちが――」
「いや、今日もヤシロが先に入ればいいさよ」
一番風呂を譲ろうとする俺に、ノーマが待ったをかける。
「あたしは一宿一飯の恩があるからね、片付けくらい手伝わせてもらわないと落ち着かないさね」
「いや、今日一日、もう十分過ぎるくらい手伝ってもらったぞ」
「そうですよ、ノーマさん、気にしないでくださいね」
「ほんじゃ、それはお言葉に甘えるとして――それでも、ヤシロが先に入っておいでな。アタシらは、あとでゆっくり、女子トークでもしながらの~んびり浸からせてもらうからさ」
まぁ、女子の風呂は長いというし、ノーマがいるって特別感でちょっと長風呂になることもあるかもしれない。
それを楽しめるのであれば、ゆっくりと浸かってくればいい。
ってことは、俺が先に入った方がいいのか。
後ろがつかえてると、ゆっくり出来ないからな。
「それじゃ、お言葉に甘えて、一番風呂をもらってくるよ」
「はい。熱ければ薄めてくださいね」
どうせかなり薄めることになるもんな、マグダがいるから。
マグダは、熱い風呂が嫌いだ。
ぬるいのが好きらしい。
「ほんで、風呂から上がったら自分の部屋でゆっくり休むといいさよ。ヤシロはいつも頑張ってるからねぇ、そういう休息が必要なんさよ。好きなことをして、疲れたら寝ちまえばいいんさよ」
「ノーマ……」
なんだか、物凄く気を遣ってくれている――ように聞こえるが。
「今日は、なんの設計図も描かないからな?」
魂胆が透けて見え過ぎだ。
もう少し隠す努力くらいはしろよ。
「けど、マッチの棒を細く短くカットする、何かいいアイデアは持っているはずさね!」
「そうだな。木こりギルドでは、それなりのサイズにカットするにとどめて、細かく加工するのは木工細工師に丸投げすればいいと思うぞ」
「泣くさよ!? アタシとイメルダが、陽だまり亭の前で、並んで、三角座りで!」
どんな脅迫だ、それは!?
二人とも体操服にブルマなら逆に見てみたいわ、体育座り!
さて、体育座りと三角座り、どっちの使用人口が多いんだろうな。
ちなみに、ウチの小学校では三角座りが主流派だった。
「とりあえず、お言葉に甘えて先に風呂に入らせてもらうよ」
「はい。片付けはこちらでしておきますので、のんびりと疲れを癒やしてきてくださいね」
涙目でこちらを睨むノーマをスルーして風呂場へと向かう。
ライターに手押しポンプ。
それだけでどれほどノーマの睡眠が削られるか分かったもんじゃない。
それに、マッチ棒サイズの加工なら、イメルダじゃなくてゼルマル案件になるかもしれない。
その辺、一回エステラに確認してみないとな。
板をマッチ棒サイズに加工するアイデアは、正直、ある。
手作業でちまちまと――なんてせこいやり方じゃなく、一気に、どかっと大量生産できるアイデアだ。
金物ギルドの総力を結集させれば専用の加工機が作成できるだろう。
板がしっかりと固定できる台に、円形のノコギリを取り付けて、ハンドルを回せば刃が回転するようにしておけば、電ノコのような使い方が出来るはずだ。
金物ギルドの歯車を使えば、かなりいい手動電ノコもどきが作れるだろう。
それこそ、俺が秘匿している足踏みミシンの動力を活用すれば、ペダルを踏んで刃を回転させ、一人で板の切断が出来るようにもなるだろう。
……足踏みの動力、ここで練習させておけば、いつかミシンを作る時にある程度楽になるかな?
小出しにするか……いや、まて、しかし……
ゆっくりと湯に浸かりながら、うっかり設計図なんか描いちまったら、明日の朝には完成してそうだなと、笑えない想像をしてしまった。
夜。
ベッドに入ってまぶたを閉じていると、コンコンっとノックの音がして、そ~っとドアが開いた。
「ヤシロ、寝てるかぃね~?」
囁くような声が聞こえて、こちらの反応がないことを確認すると、ノーマがこっそりと部屋へ侵入してきた。
そして一直線に机へ。
「……ないさね」
「描かねぇっつたろう」
「ふみゃぁあ!?」
背後に立って声を掛けると、ノーマが飛び上がって悲鳴を上げた。
「どうかされましたか!?」
悲鳴を聞きつけてジネットが部屋に飛び込んでくる。
「不法侵入の現行犯だ」
「ぁ…………もぅ、ノーマさん」
「だってさねぇ……」
あぁ、ジネットのあの顔。
ノーマ、さてはお前一回「ダメですよ」って注意されたろ?
「じゃ、ノーマ。懺悔を」
「えっ!? アタシがかい!?」
「そうですね。少し、懺悔をしましょうか」
おぉっ!
ついに向こうチームからも懺悔の犠牲者が!
いいぞ、これを機にあいつらももっと懺悔させられればいいんだ!
エステラなんか酷いもんだろうに。
毎日毎日おっぱいのことばっかり考えやがって。
「夜中に異性の部屋へ無断で忍び込むのはあまり褒められたことではありませんね。特にノーマさんはとても魅力的な女性なのですから」
「アタシは別に気にしな――」
「ダメですよ」
「……はぁ~い」
しょんぼりとうなだれるノーマ。
そんな珍しい光景に、ジネットが思わずといった風に笑ってしまう。
笑っちゃダメだろ、お前は。
「すみません……あまりに、可愛らしくて」
年上の、色気むんむんお姉さんを可愛らしいとか。どんだけデカいんだよ、お前の包容力。
「じゃあ、ちゃんと懺悔が出来た素直なノーマには、ご褒美にこれをやろう」
懐に忍ばせておいた設計図を差し出す。
「あれ、ヤシロさん。設計図は描かないとおっしゃっていたのでは?」
「描かないとは言ったが、本当に描かないとは言っていない!」
「え? それはどういう……え?」
「なんでもいいさね、そんなもん、どっちだってさぁ! さぁ、見せておくれな!」
懺悔直後だからだろうか、ひったくるようなマネはせず、ノーマは両手を「ちょうだい」のポーズで差し出して尻尾をぱたぱた振っていた。
よぉ~しよし、ちゃんと「待て」が出来てえらいぞ~。
「ヤバい、ジネット。こういうペットがいたら、飼いたいっ」
「甘やかし過ぎそうですので、ダメです」
そっかぁ、ダメかぁ。
捨てノーマとかいたら拾ってくる……いや、捨てられたノーマなんて「……なぁんで捨てたんさねぇぇえ!?」って怨嗟を吐きまくってるか「どうせアタシなんてさぁ……」って面倒くさくいじけているかのどっちかだから下手に拾っちゃダメだな。
ちゃんと生き甲斐と幸せを感じられる環境下で飼育しないと、この可愛らしさは発揮されないだろう、きっと。
「環境って、大事だな」
「ノーマさんは、いつだって素敵な方ですよ」
というフォローをしたということは、そーゆー可能性を多少は認識しているということだな。
ノーマの残念具合も、広く認識され始めたということだろう、うん。
「いい加減にしとかないと、さすがに怒るさよ?」
「ごめんて。これあげるから許して」
さすがに失礼なことを考え過ぎたようだ。
でも、彼氏いないイジりでなければ結構寛容なんだよなぁ、ノーマは。
彼氏いないイジりは考えただけで煙管が出てくるけども。
今は、手渡された設計図に夢中で気付いてないようだけど。
「これは、木材の加工機かぃね?」
「歯車とゴムベルトを使って、円形のノコギリを高速回転させるんだ。一枚目が二人で使うハンドル式で、二枚目が一人で動かせる足踏み式だ」
結局、思いついたアイデアをまとめてしまった。
ハンドル式のギミックは、ビックリハウスなどですでに何度も活用されているものを少々改良しただけだ。
今の金物ギルドなら、難なく作れるだろう。
足踏み式も、構造自体はそこまで複雑ではない。
ゆくゆくミシンに流用させたいから、ゴムベルトで動力を刃に伝える仕組みを導入させておいた。
これがゆくゆく、ミシンの針を上下させる機構に役立つ。
あと、ゴムベルトをチェーンに置き換えると、自転車にも使える。
「これの精度は、どんなもんなんさね?」
「そりゃ、お前らの腕次第だな」
「ほほぅ……言ってくれるさね。……面白くなってきたさね」
好きだろ?
こういう、どこまでもこだわれる系の仕事。
ノコ刃の構造とか精度とか、どんどん追求してくれればいい。
「くふぅ~……こいつぁ、しばらく眠れそうもないさねぇ~」
とか、無意識なんだろうけど、口から不穏なセリフが溢れているノーマ。
……こいつは、しっかりと釘を刺しておかなければいけないだろうな。
「ジネット。ちょっと相談が」
「え? なんですか?」
「あそこの、もうすでにこっちの声が聞こえてない、それどころか俺たちがここにいることすら忘れかけている悪いキツネっ娘にお灸を据えつつ、私生活をきっちりと管理するために少々過激な対策を講じたいんだが」
「えっと……ほどほどに、……いえ、でも、しっかりと見ていてあげないと、また無理をしてしまいそうですね、ノーマさん」
ジネットからイエローカードが出された。
まぁ、このノーマを見てたら不安になるよな。
食事と同様、睡眠も取らなければ倒れてしまう。
かつて、無理なダイエットで倒れたロレッタたちをジネットは厳しく律した。
今回も、その厳しさを見せてもらおう。
具体的には、俺のすることに目を瞑ってもらうという方向で。
「…………という作戦で行こうと思う」
「え、いや、でも、それはさすがに……」
俺の計画を聞いたジネットが表情を曇らせる。
それはさすがにやり過ぎでは……と思っているようだが、それでもまだ生ぬるいくらいだ。
その証拠を見せてやろう。
「ノーマ。ちょっと相談があるんだが、聞いてくれるか?」
「ほほぅ、ここの動力がこっちに伝わるんさね。あっ、ならあの歯車をちょぃと改良して……くふふ、あんなもん三日も徹夜すりゃあ余裕で量産できるさね」
な?
聞いてないだろ?
そんな時は――
「あっ、寝間着が破れてパンツ丸見え」
「えっ!? ど、どこさね!?」
「な? こうでもしないと、こっちの声すら聞こえないんだから」
ようやく反応を見せたノーマを指さしてジネットに訴えると、ジネットはなんとも言い難い苦笑を浮かべて「……もぅ、ノーマさん」と、諭すように怒り顔を作ってみせる。
泣き虫の子供でも泣きそうにないな、その怒り顔。
「いいか、ノーマ。お前は明日、領主権限で三十五区に出かけて人形劇を見に行くんだ」
「何度聞いても、しょーもない領主権限さねぇ……」
そうでもしなきゃ、お前は工房にこもるだろうが。
「明日以降、ノーマの工房には関係者以外立ち入りが禁止される。だが、金物ギルドの協力が必要になることも必ず出てくる。なので、金物ギルドから一人、ノーマが『こいつなら私生活まで含めて信頼できる』っていう人物を選出してくれ。そいつをこっちに引き込む」
「私生活まで、かぃね?」
「起こってもらっては困るが、万が一事故や怪我や病気でノーマが動けなくなった際、ギルドの人間が立ち入れないんじゃノーマを助けられないだろ? 俺がいつでもいられるってわけでもないし。万が一のことが起こった時、俺がお前を家に連れ帰って服を着替えさせるってわけにもいかないだろ?」
「ふ、服を……っ、かぃね?」
「意識不明になってたら、やらざるを得ないだろう」
「て、店長さんを派遣して……いや、陽だまり亭に迷惑をかけるわけにはいかないさね……」
うん。
そう言われると、俺がいなくても陽だまり亭に何の影響もないって言われてるみたいでちょっと傷付くな。
まぁ、結構留守にしちまってるけども。
その上、その時も一切陽だまり亭の営業に影響出てないけども。
……あれ? 俺っていらない子?
「……じねっと?」
「大丈夫ですよ。ヤシロさんは、陽だまり亭に必要な、大切な存在ですからね」
あぁ、よかった!
おっと、いけない。
こういう時は感動の涙とともに胸に飛び込んで「ぎゅー!」で「むぎゅうー!」で「ぽぃんぽぃ~ん!」をしなくては!
「じねっと~!」
「懺悔してください」
ダメかぁー!
マグダやカンパニュラはよくやってるのになぁー!
年齢制限あるのかな?
いや、ロレッタもエステラもやってるだろ!?
ズルいぞ、女子!
いくら同性だからって!
「どう思う、ノーマ!?」
「心底どーでもいいさね」
ちぃ!
俺はこんなにお前の体を心配してやっているというのに!
「とにかく、ノーマが公私ともに信頼できるギルドの人間を一人選出して、明日の朝陽だまり亭に連れてきてくれ」
「ん~……分かったさね」
心当たりはすでにいるようで、ノーマが一応納得してくれた。
これで、ノーマの睡眠時間は確保されることだろう。
「明日の朝は、パウラとネフェリーとミリィとレジーナが陽だまり亭に来るんだよな?」
「はい。こちらで待ち合わせをして、みなさんでお出かけすると伺っています」
「んじゃ、そん時にそいつも呼んどいてくれ。なんなら、一緒に観劇に連れてってやってもいいんじゃないか、領主の金で」
「いや、それならアタシが奢ってやっけどさ……」
ってことは、やっぱあいつだろうな。
ノーマが公私ともに信頼できるって条件だから、そいつは女子だ。
それで、ノーマが「奢ってやる」なんていうのは、自分を慕い、また自分も可愛がっている相手だからだろう。
つまり、その相手とは、金物ギルドの見習い、ルアンナだ。
パン食い競争『Bカップ限定レース』に出場していた、侍ヘアーの女の子だな。
……なんでか、ちょこっと俺を敵視している。
だからこそ、ノーマの私生活監視作戦が効力を発揮する。
きっとルアンナが、体を張ってノーマを止めてくれるだろう。
翌朝。
陽だまり亭には、予想以上に多くの人間が集まっていた。
「先に知らせておいた方がいいと判断した人を呼んでおいたよ」
と、エステラ。
なんでも、イメルダとナタリアから「あの辺の人には話しておいた方がいい」と進言されたようだ。
「絶対隠しきれないし、危ない時はフォローしてくれる」という人材らしい。
そう言われて集まったのは、まぁ、いつものメンバーだ。
パウラにネフェリーにミリィにレジーナ。
この辺は、このあとノーマと一緒に三十五区へ向かうメンバー。
あと昨日行ったデリアやカンパニュラ、その保護者のルピナス夫妻と、テレサと保護者のヤップロック夫妻。
ウーマロとベッコは陽だまり亭の手押しポンプの作成に何かしらで携わることになる気がするからまぁいいとして、なんでかアッスントにウッセ、セロンとウェンディまでいる。
アッスントも、結局先に話しておこうということで呼ばれている。
ウッセまでいるのは万が一荒事が起こった際、事前に情報を知っているのといないのとでは初動に雲泥の差が出るから、なんだとか。
ビックリなことに、マーシャにハビエルにメドラの三大ギルド長と、四十二区のことならなんでもお見通しのマーゥルやデミリーまで揃っているし、絶対呼ばれてないはずなのになんでかリカルドまでいる。
マーゥルに至っては、シンディとモコカを引き連れた完全体勢だ。
そして、最後にひょっこりと顔を覗かせたオルキオとシラハ夫妻。
「エステラ……多くね?」
「ルシアさんやトレーシーさんがいないだけ、まだマシじゃないか」
その辺は、朝に間に合わなかった層だな。
時間があれば絶対来ていたはずだ。
「DDも、きっと興味を示すと思うわ。相談してあげてね。……何かと、便宜を図ってもらうつもりなのでしょう?」
マーゥルがニッコリと釘を刺してくる。
三十三区関連でドニスを担ぎ出そうって腹づもりが思いっきりバレてるみたいだな。
「みなさん、おはようございます。簡単なものになりますが、軽食を用意しましたのでお話をしながらつまんでくださいね」
ジネットがサンドイッチの載った大皿を持って出てくる。
そう、サンドイッチだ!
教会で朝の寄付が終わった時、ベルティーナに呼ばれて大量の食パンを渡されたのだ。
教会の司祭から「よくお話を聞いてきてください」と言われたらしい。
……賄賂か?
食パンって……随分安く見積もられてるなぁ。
で、折角なのでジネットに頼んでサンドイッチを作ってもらっていたのだ。
これだけのパンが出てくれば、教会も気にかけていると十二分に伝わっていることだろう。
……もう話が大きくなってる。
怖いわ、この街の重鎮ども。
「このサンドイッチの美味しさは、私が保証します」
と、一切つまみ食いを隠すつもりがないらしいベルティーナがジネットの後ろからついてくる。
これで、全員かな?
そう思った矢先、陽だまり亭のドアが静かに、遠慮がちに開けられた。
「あのぉ、ノーマさんにここへ来るよう言われ…………ひぃっ!?」
金物ギルドの見習い、ルアンナが店内を覗き込んで、そのあまりにもあんまりな顔ぶれに悲鳴を上げる。
まぁ、気持ちは分からんでもない。
「間違えました!」
「間違ってないさよ! 入っておいでな、ルアンナ」
「ノーマさん…………無茶振りが過ぎます……」
この中に入ってくるのは無茶振りか。
そうかそうか、まぁ、慣れろ。
「えぇ、では、お忙しい中お集まりくださった皆様には、心からお礼を申し上げます」
手紙を出して、夜が明けると同時に押しかけてきた重鎮どもに一応の礼を述べるエステラ。
今日この時間に呼んだのは四十二区の面々だけで、ギルド長とか領主連中は押しかけてきたんだけどな。
「また、今はこの場にいないかけがえのない友人であり尊敬する皆様におきましては、連絡が急であったこちらの不手際のせいでお越しいただくことが出来ず、誠に残念な思いです」
ここにいない連中が、今回の話に興味ないわけじゃないから、分かってて変に煽ったりハブったりすんなよと、釘を刺している。
細かいとこまで気を遣うよなぁ、こんだけの濃い連中が集まったら。
「今回の話は、非常に……こう……ナイーブで、口外するべきかどうかを悩むような内容ですので、皆様には是非にも内密にお願いします」
エステラの言葉に、微かな反応しか見せない重鎮たち。
どう思ってんのか計り知れずに、エステラが少々焦っている。
「情報が漏れたら、漏らしたヤツに全責任をおっ被せるから、そのつもりでヨロシク」
「お前が言うと、シャレに聞こえねぇんだよ、オオバ」
リカルドが嫌そうな顔で言う。
何言ってんだよ。
冗談なわけねぇだろ。
マジで全責任を、一欠片も残さず、完っ全っ無っ欠っにおっ被せてやるからな?
「あの、ヤシロさん……情報は、なるべくゆっくり、小出しにお願いしますね。この錚々たる顔ぶれの中にいるだけで心臓が変な音を鳴らしているというのに、そこまで危険な情報を一気に寄越されると、私、倒れてしまうかもしれません」
と、似合いもしないことを抜かすアッスント。
お前なら、ここにいる金持ち小金持ちをやりこめて、いろいろぼったくる算段を練れるだろうに。いろいろと。
「マグダ」
「……なに?」
「タートリオはいないな?」
「……近隣には潜んでいない」
情報紙には、個別で話に行く。
情報を握らせることが、こちらの弱みになることもあるからな。
まぁ、タートリオならこっちの意を汲んでうまいこと立ち回ってくれそうだし、交渉の餌としてそのうち活用する予定だ。
「では、まず…………何から話そうか、ヤシロ?」
「そんなにあるのかい、オオバくん?」
エステラが俺に視線を向け、釣られるようにデミリーが俺を見る。
「昨日まとめて話したら、エステラとナタリアの精神がガリガリすり減ってたな」
「聞くのが怖いなぁ、それは」
決して弱くないくせに弱腰を演じるデミリー。
そんなことを言いながら、誰よりも早く深い情報を欲しているくせに。この、タヌキめ。
「じゃあ、まずは無難なところで、ライターからいくか」
「はは……無難、ね」
エステラが乾いた笑いを漏らす。
なんだよ。
お前も欲しそうにしてたくせに。
つーか、絶対量産前に自分用を作らせるくせに。
「これは、火付け布がまったく上達しないヤシロが自分のために作ろうとしていた物なんですが――」
「人聞き悪いぞ、そこの領主」
なんなら、情報秘匿したっていいんだぞ、こっちは?
人様の善意をありがたく頂戴できないなら、今後俺の口は天岩戸よりも固く閉ざされるであろう。
「彼がずっと火付け布にもんくを言い、目の敵にしていたのがよく分かる、とても便利な道具なんです」
「いるかなぁ、俺と火付け布のくだり!?」
俺の火付け布下手を、まだ知らないかもしれない層にまで広めてんじゃねぇよ。
お前の爆笑寝言集を吹聴して回るぞ。
「見て見て! 少しだけど大きくなってるよね!? 見間違いじゃないよね!? 夢じゃないよね!?」――という寝言。
エステラ、残念。それ、夢なんだわ。
「マグダ、付けて見せてあげて」
「なんでマグダにやらせるんだよ?」
「だって、無言のアピールがすごいからさ……」
わぁ、本当だ、マグダがすげぇエステラのこと見てる。わ、こっち見た。
いいよ、やっていいから。
よく見せてやってくれ。
「……刮目せよ」
「おぉっ!?」
マグダの着火消火を見て、エステラやナタリアが示したのと同じような興味を示し、重鎮どもがこぞって着火したがった。
俺のだから、丁寧に扱えよ?
傷一つでも付けたら賠償もんだぞ?
今、この国に三個しか存在しない、超貴重品だからな?
俺のと陽だまり亭のとノーマのやつ。
「これはいいな。なんというか、カッコいいぞ」
と、中学生みたいな感想を漏らすリカルド。
そうだろう、そうだろう。お前は好きだろう、こーゆーの。
あと、意味も分からず洋楽聞いたり、ブランデー香るケーキを無理して食ったり、カカオ75%のチョコの方が美味いとか苦そうな顔して言ったりするんだろう?
ぷぷぷっ、中二病め。
「ちなみに、これはいくらくらいで販売するつもりなんだ、オオバ?」
「そうだな。ケースは純銀製だからそこそこの値段になると思っといてくれ」
「そうか。確かに、こだわればどこまでも高くなりそうだ」
こだわれば、な。
「でも、量産品であれば多少は経費を抑えられる。リカルドにだったら、特別価格の一万Rbで譲ってもいい」
「本当か!? ……しかし、一万か……」
「リカルドが悩むなら、私が買おうかな」
「あぁ、待てデミリー。生産体制が整ったら500Rbくらいで売り出すから、それまで待ってろ」
「滅茶苦茶安いじゃねぇか、オオバ!?」
「だ・か・ら、リカルドだけト・ク・ベ・ツ・価格☆」
「割増ししてんじゃねぇよ!?」
特別扱いしてやったというのに、一体何が気に入らないというのか……
「リカルド、感じ悪っ」
「それには同意するけれど、話を進めさせてもらうよ」
「同意してんじゃねぇよ、エステラ!」
キャンキャン吠えるリカルドはスルーして、ライターは追々量産していく計画であることをエステラが説明する。
で、その流れで、火付け布職人の失業を防ぐために、マッチの製造も同時に進めることを告げる。
「こいつがあると、煙管に火を付けやすいんさよ」
と、今回だけ特別に食堂内で煙管に火を付けることを許可して、ノーマに実演してもらう。
やはりと言うか、ハビエルがイメルダ同様マッチの棒部分に食いついた。
「これの加工機のアイデアも、ヤシロにもらってるから、追々話を詰めにお邪魔するさね」
「ウェルカムですわ!」
「ワシも同席するぞ! こいつは一大プロジェクトになる!」
意気込む木こり父娘。
メドラとマーシャがちょっと悔しそうだ。
「それで、問題なのはこのあとなんですけれど――」
そうして、重々しい口調でエステラが手押しポンプについての説明を始めた。
しばし黙って手押しポンプの説明を聞き入る来客たち。
「……こいつは、思った以上に影響が大きくなりそうだねぇ」
最初に言葉を漏らしたのはメドラだった。
どんな魔獣にも臆することがない狩猟ギルド最強の戦士が、うっすらと額に汗をにじませる。
「王族が興味を示したら、四十二区は数年すべての作業を止めて国全体に手押しポンプが普及するまでポンプのみの製作にかからされるかもしれねぇぞ」
ハビエルが笑えない冗談を言う。
割と真顔で。
……冗談だよな?
いくら王族が権力しか取り柄のないバカでも、領民全員を鍛冶仕事に携わらせるなんてバカな決定くださないよな?
……くだしかねないって雰囲気だな、オイ!?
「一番困るのは、発案者探しが始まることだね」
「そうね。もし私が王族なら、是が非でも手元に置いておきたいと思うでしょうね」
オルキオの言葉に、マーゥルが賛同する。
意外そう、というか、興味深そうにオルキオのことを見ている。
あぁ、そうか。
マーゥル的にオルキオは、貴族の慣習に真正面からぶつかって無茶をやらかした人物って印象だったのかもしれないな。
若い頃はどうだったか知らんが、今のオルキオはよく周りの見えている思慮深い、数少ないまともな大人枠だぞ。……嫁さえ関わらなければ。
「確かに。王族に発案者は誰かと聞かれれば、秘匿することは難しいね」
「中央区で使ってやる~とか言われたら、エステラには逆らえないかもね~☆」
デミリーとマーシャの言葉に、エステラが唇を引き結ぶ。
どうやら、そこまでの事態は考え至っていなかったようだ。
「我々は、戦争になってでも英雄様をお守りいたします」
「もちろんよ、あなた」
「僕たち夫婦も微力ながらご協力いたします」
「英雄様は、決して奪わせません!」
「よし、英雄教の連中は一回黙れ」
ヤップロック夫妻とセロン夫妻が世迷言を口にする。
王族にケンカ売る気満々じゃねぇか。
力尽くでもやめさせるから、「では、民衆を鼓舞する英雄像を至急作成するでござる」じゃねぇーんだわ、ベッコ。埋めるぞ。
で、「出来ればウチにも一体」じゃねぇーんだわ、ジネット。埋めるぞ、ベッコを。
「最悪の場合、発案者をボクということにすれば、中央区に強引に連れ去られることはないと思うんですが……」
「王族の傍系が送り込まれてあなたと強引に結婚するでしょうね。そうなれば、四十二区の運営は王族が掌握することになるわ。何をするにも中央区が絡んでくることになるわよ」
「うわぁ……」
エステラが素直な嫌悪感を表情に表す。
隠せ隠せ、貴族なら。
気持ちは分かるけども。
「傍系だとしても、王族に踏み込まれたら、四十二区は今の四十二区じゃなくなってしまうわね」
と、ルピナスがため息を吐く。
心配してくれている……ように見えて、なんでそんな戦意バリバリな目してんの?
怖いんだけど、この元貴族。いや、元ウィシャート。
「まぁ、いざとなったら外壁もろとも抉り取って、海の底に沈めちゃうけどね~☆」
あははっ、一番怖い種族がここにいたわ。
この人、国民ですらないから、王族への敬意とか一切持ってなさそうだよね~。
メドラ、ごめん。
止めといて。
わぁ、メドラとアイコンタクト取っちゃった。
すっげぇ頼もしいとか思っちゃった。
「抉り取られるのは勘弁願いたいね」
エステラが苦笑を漏らし、話を戻す。
「本当に、みっともない話で恐縮なんですが、ボクの手には負えない規模の話になってしまいました。ですので、経験豊富な皆様にご意見を伺いたいと思いましてこういった場を設けさせていただきました」
本来は、個別に相談に行くつもりだったんだけどな。
「こちらとしても、想像以上に大きな話で、まだうまく考えをまとめきれていないが……」
デミリーが困り眉ながらもエステラを慈しむように笑みを浮かべる。
「頼ってくれたことは素直に嬉しいよ。難しい問題だけれど、一緒に考えていこう」
「ありがとうございます、オジ様」
さすが年長者ってところか。
マーゥルやハビエルは領主を立てる性格だしな。
まとめ役にはデミリーがうってつけってわけだ。
「DDの意見も聞きたいね」
「そうですね。彼なら、地に足のついた意見を聞かせてくれると思うわ」
マーゥルに期待されてるって教えてやれば、神にも思い至らない妙手を思いついてくれるかもしれないな。
そこまで期待は出来ないけども。
「今回は事情説明ということで、改めて相談の場を設けるというのが無難ですかな、ミズ・エーリン?」
「そうね、ミスター・デミリー。それがいいと思うわ。この次は、なるべく多くの人を集められるように準備をしてね」
なるべく多く……
それはきっと、外周区や『BU』の全領主のことを指すのだろう。
結局、そこまで巻き込まないと、中央からのちょっかいは跳ね除けられないってわけか。
「秘匿するというのは難しいでしょうか?」
「そうねぇ……時間の問題でしょうね」
「画期的な発明が成された時、様々な数字にそれは現れるものよ、エステラさん」
マーゥルの意見にルピナスが賛同する。
「収穫、製造、流通、飲食、人口増加……それらの数字には、必ず少なくない影響が現れる。それを隠し通すことは難しいわ」
便利になる発明が成されれば、当たり前だが便利になる。
便利になれば効率が上がり、生産性は上がる。
隠すために不便な暮らしを維持し続けるというのは本末転倒なわけで、やはり数字にははっきりと現れるだろう。
「もって、数年……一年もかからないかもしれないわね」
「そんなに、分かるものなんですか?」
「教会のパンの売れ行きが落ちた時も、すぐに原因を突き止められたでしょう?」
「あ……確かに」
かつて、外周区でパンの売上が落ちていると教会から指摘されたことがあった。
指摘というか「柔らかいパンの製造方法を寄付しろ」って内容だったけども。
エステラに直接話が来ていたようだから、原因が四十二区にあることまで握られていたんだろうな。
それで区民運動会の時に新しいパンのレシピを公表して事なきを得た。
で、その時四十二区にいなかったルピナスがその出来事を把握しているってことは、情報は集めようと思えば集められる、ってわけだ。
もって一年ってのは、案外的を射た意見なのかもな。
「手押しポンプもさることながら……」
と、デミリーがとても深い色合いの瞳で俺を見てくる。
「オオバヤシロという人間の有用性に勘付く貴族が、出てきてもおかしくないよね」
言葉にしない思いがいろいろと込められていそうな、なんとも含みのある瞳だ。
若干淀んで見えるのは、貴族の汚さを見てきた経験則か?
憐れまれてるようで、少々癪だ。
「貴族の令嬢を送り込まれると、いろいろ面倒だよ? 断るにも、相応の理由が必要になるからね」
「『好みじゃねぇ』」
「それを素直に受け取らず、四十二区領主の陰謀だと騒ぎ立てるのが貴族なんだよ」
シラハたちの結婚を見ても、気に入らない結果は何がなんでも受け入れないってのが貴族っぽいよな。
「オオバ君が、早々に身を固めてくれると、その辺は楽なんだろうけれど……こればっかりはねぇ」
言って、ぐるりと室内に視線を巡らせるデミリー。
誰を見たんだよ、今?
聞かないけども。
「ヤだよ、デミリー! アタシたちにはまだ早いよっ、ねぇ、ダ~リン☆」
「そーだねー、俺まだ現世に未練あるからさー」
人生の墓場どころじゃない、もっと恐ろしい世界に幽閉されそうで身震いが止まらない。
着信したマナーモードより震えてるからね、俺、今。
「この中の誰かと適当に結婚しちまえよ、オオバ」
「――と、デリカシーと毛根の残りHPがないリカルドがアホ発言を宣う」
「なんだ、毛根の残りHPって!? あるわ!」
「いやいや、リカルド。その油断がね」
デミリーがリカルドにおいでおいでしている。
仲良くしてもらっとけよ、先輩に。
「じゃ~、立候補したい人~☆」
「煽らないの、マーシャ」
「はい! ダーリン、はい!」
「メドラさん、……やめましょう?」
「まったく、悪ふざけはよしな、海漁の!」
「メドラママ、それはちょっと手遅れ過ぎるかも~☆」
リカルドのアホのせいで店内の空気が悪くなる。
まったく。
この中から嫁を選べとか、ギャルゲーかっつーの。
そもそも、相手に失礼だろうが。
「ここにいる女性はみんな素晴らしいからな、俺が選ぶなんて失礼な態度は取れねぇよ」
「さすがダーリン、紳士的だね」
「若干空々しいけれど、リカルドもあれくらいの気遣いは身に付けなよ」
「ふんっ! きっかけ一つで動き出すかもしれねぇと思ったんだよ」
「そういうところが、まだまだ若いねぇ、リカルドは」
メドラが俺に賛同して空気を整え、エステラが失言したリカルドを責めることでこの場にいる女性を代表して苦言を呈したことにし、最後にデミリーがリカルドの未熟さを知らしめ場を収める。
周りが大人ばっかりでよかったな、リカルド。
少女のようなレディばっかりだったら、「恥をかかされた」って恨まれまくってたところだぞ。
「まぁ、この中のレディなら、誰が相手でも身に余る光栄だが――もっと現実的な方法がある」
貴族の横槍を防ぐとまではいかないが、視線が集中することを妨害する程度の効果はある方策。
俺がそれを口にするより前に、エステラがさっと表情を変える。
「え……でも、それって、…………本気?」
「かなりの損害になるんじゃないのかい、オオバ君?」
「ヤシぴっぴ、口に出す前にもう一度ゆっくり考えた方がいいんじゃないかしら?」
エステラにデミリー、マーゥルが驚いた顔で俺を見ている。
よく見りゃ、マーシャもハビエルもメドラも似たような顔をしている。
さすがに、その辺の連中なら察しが付くのか。
やったなエステラ、そっち側チームだぞ。
リカルドのいない方だ。
「ボクは……君の性格をよく知っているからね。……少なくとも、君と会う頻度がボクより少ないオジ様たちよりかはね」
だから察することが出来たという謙遜だな、あれは。
まぁいい。
というか、しょうがないだろう。
それ以外に方法が思いつかないし。
「手押しポンプは、外周区と『BU』、全区が一体となって開発製造することにしようぜ」
四十二区が突出しない。
それが、中央に目をつけられない最良の方法だろう。
あとがき
免許の試験前日の夜にこのあとがきを書いている、宮地です☆
次回のあとがきでは、きっと合格の報告が出来る――か、もしくは昔好きだった小学校の恒例行事の話題で話を逸らしていることでしょう。
……夏のプールの授業や、林間学校の話題をし始めたら
「あ、こいつ……あ~らら」
と思っておいてください。
一応、予習はしました……
たぶん、大丈夫!
だ、大丈夫です、私、暗記は得意なんです!
……嘘です、記憶力皆無です。
人の名前とか一切覚えられない、8bitの頭脳の持ち主です。
♪でろでろでろでろで~でん♪
みやじさんの ぼうけんのしょは きえました
(ⅲ ̄□ ̄)ガーン!?
まぁ、明日にかけます!
さて、
またしても陽だまり亭に大物貴族、権力者が大集結です。
いえ、大衆ケツじゃないです。
一般市民の皆様のお尻大集合博覧会は開催しておりません。
したいですけどね!
出来るならね!
でも、開催の予定はございません。
四十二区の防御力を高めるために、ヤシロは知財を大放出するようです
こりゃ~、外周区と『BU』が荒れますよ~
\( ̄▽ ̄)/
ヤシロの思惑は、次回!
そして、なぜか呼びつけられたルアンナ!
ヤシロとジネットがルアンナに任せたいミッションとは!?
次回の『異世界詐欺師』も、ゼッテェ見てくれよな!
というわけで、
野沢さんボイスで次回予告をしたところで!
宮地さん、初めて自動車を運転する!
~の巻\(≧▽≦)/
教習所に行ったことがない方のために説明しますと、
教習所って、敷地内に車が走るコースがあるんですね。
直線とカーブ、交差点、上り坂、下り坂、S字コーナーとクランクっていう直角に曲がっている曲がり角、踏切、一時停止の標識がある場所、などなど
交通ルールや、運転テクニックを学ぶための教習コースがあるんです。
このコース、そこらにある車道と比べて、かなり広いんです。
間違っても接触事故が起こらないように。
しかも、教習所の中ですから、当然歩行者や自転車が飛び出してくることも、
煽り運転をするようなドライバーもいないんです。
とっても安全!
物凄く走りやすい練習用道路なんです
――が!
宮地「教官ー! 車がぁー、動いてまぁーす!」
教官「いや、そりゃ動くわ!」
めっっっっちゃ怖いんです!
クリープ現象といって、オートマチック車はブレーキから足を離すと、
アクセル踏まなくても前に進むんです!
コッチの意思も確認せずに!(ブレーキから足を離しているのは私ですけども!)
宮地「遊園地のパンダカーですら、アクセル踏まないと進まないのにぃー!」
教官「何と比べてんだ!?」
宮地「私が運転した数少ない四輪の乗り物ですぅー!」
教官「あれ、四輪のくくりに入るかなぁ!?」
とにかく、動くのが怖いんですよ!
こちとら、徒歩の速度で生きてきた人間ですからね!?
小走りすら、最近ではしなくなってきていますのに!
宮地「教官! 速い! 速いっす!」
教官「まだ4km/hだよ!? 徒歩と同じ速度!」
宮地「私の徒歩は2km/hです!」
教官「遅っそ!?」
で、速度が遅過ぎるのも事故の原因になるので
速度を出す練習もするんですよ。
基本20km/h以上で走って、カーブの時だけ15km/h
いや、時速20キロって!?
((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル
教官「路上に出たら40km/hで走るんだよ?」
宮地「じゃあ、もう路上出ない!」
教官「何しに来たの!?」
しかも、そこそこ長い……とはいえ車で走るとすっごい短い直線で
35km/h出せとか言うんです!
仮免の試験に出るからって!
……私に事故れと?
教官「宮地さん、S字、クランク、坂道発進、全部うまいのにスピードだけ出ませんね」
宮地「S字、クランク、坂道発進、全部10km/h以下で走ってますからね!」
速いの、怖かったです……(^^;
とはいえ、ですよ
教習所内のコースは11回走るんですが、さすがに5回目くらいで慣れてきて、
20~30km/hくらいでコースを走れるようになったんです。
宮地「いや~、ようやく速度に慣れましたよ~」
教官「その途端、S字、クランク、坂道発進でミスしましたね!?」
宮地「あっちもこっちも言わないの! どっちか一個にしなさい!」
教官「オカンか!? 全部ミスしないようにやるの!」
S字、クランクは「出来てる」って言われたんですが、
言われた直後に路肩に乗り上げてしまいまして……
(^^;
教官さんに「おいぃ~!」って言われちゃいました☆
路上では気を付けます。
宮地「でもまぁ、もう30km/hにも慣れましたしね♪」
教官「路上は40km/hで、バイパスは60km/hですよ」
宮地「私に事故れと言うのか!?」
教官「そうならないように練習するんだよ!」
仮免試験の直前、本当に路上に行くのが怖くて
ちょこっとだけ「受からなきゃいいのに……」と頭をよぎりましたよね
(^^;ちょこっとだけですけどね
なんかもう、自動車に乗りたくなったら教習所に遊びに来て、
小一時間コースを走らせてくれたらそれでいいかな~って☆
僕ちゃんの可愛い子猫ちゃんとか、助手席に乗せて、
「俺の坂道発進、見とけよ☆」って!
(≧▽≦)ノシ
教官「はい、ジャマー! どいてー!」
子猫ちゃん「あたピ、海が見たピ☆」
宮地「よぉ~し、じゃあ行っちゃおうか♪」
教官「何周走っても着かねぇよ、海!」
とかで、全然いいんですけどねぇ。
ダメらしいんです、どーやら。
だって私、スーファミのマリオカートの50cc(一番簡単なヤツ)で1位とれないんですもの、いまだに。
路上、危険じゃないですかねぇ?
教習所内での教習も、
つたない運転テクニックを、あふれ出るトーク力でカバーしてたみたいなところありますしね
教官「あ、宮地さん、危ない危ない。それ以上行くとポールに当たるよ」
宮地「(ピーピーピー、ごすっ!)……あっ」
教官「ほら~! 当たったじゃ~ん!」
宮地「大丈夫、残像です」
教官「マジで!?」
こんな感じで、
割と楽しくおしゃべりしながら教習受けられたので
緊張もしないし、
「宮地さん、これ苦手でしょ? こうするといいよ」とか
アドバイスもじゃんじゃんもらえましたし
多少のミスも「じゃ、もう一回やってみようか」ってチャンスもらえましたし!
大事です、トーク力!
特に、知らない人としゃべるの緊張するとか
運転が怖くて緊張するっていう方!
磨きましょう、トーク力!
運転に必要なのは免許じゃありません!
トーク力です!
教官「いや、免許は必須!」
毎回違う教官が助手席に乗るんですが、
「今回はどんな人かな?」って結構不安なんですよ。
なので、車に乗る前からガッスガッス話しかけて
車に乗り込んだ時には「もうすでに顔馴染み!」くらいに距離を詰めておくのがポイントです!
宮地「よろしくお願いします!」
教官「はい、よろしくお願いしますね」
宮地「いや、前回、クランクでポールに当たっちゃって。ハンドル切るのが遅かったみたいで」
教官「あぁ、じゃあ今日時間余ったらクランクやってみますか。コツ教えますよ」
宮地「お願いします! 前回は『残像だ』で乗り切ったんですけどね」
教官「絶対乗り切れてないよ、それ!(笑)」
みたいなことを、車に乗り込んで、座席のセッティングをしている間にしておくと、
教習時間が物凄く快適になりますよ
これから教習所行くよ~という方、参考にしてみてください☆
宮地「運転に必要なのは、トーク力ですよね☆」
教官「冷静な判断と確かな知識と的確な技術だよ」
その辺は、教習所で教官さんがしっかりと教えてくれるので、安心ですね☆
というわけで、
本当はすっごい個性的な教官さんとのやり取りとか書きたかったんですが
それはまたの機会にします
明日、試験を万全の態勢で受け、
合格をもぎ取ってきます!
予習もばっちり!
持ち物もOK!
Tバックのビキニも準備万端!
教官「お尻を出しても一等賞じゃないからね!?」
最近の教習所は、そんなことまで教えてくれます☆(くれません☆)
というわけで、
次回のあとがきでは、路上教習編をお送りいたします!
次回もよろしくお願いいたします。
宮地拓海




