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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
第四幕

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422話 マッチでぇ~す

「それでは、行ってきます。陽だまり亭をよろしくお願いしますね」


 朝の寄付が終わり、まだ日も昇りきらないうちからジネットたちが出発した。

 イメルダが用意した三台の馬車には、ランドリーハイツに一泊したイロハたち研修生がぎっしり詰め込まれるように分乗していた。


 エステラと、あとルシアからも金が出ているそうで、昨日のうちに手配されていたものらしい、この馬車。

 大所帯だな。


「朝ご飯、食ってきゃよかったのにねぇ」

「馬車で弁当食うのが楽しみだったんだと」


 腹を空かせながらも、馬車に乗って出発した研修生たちを見送り、ノーマがキセルをふかす。

 もちろん、ライターを使って。


「マッチがあると、もうちょっと簡単に火を付けられるぞ、煙管の場合は」


 煙管は、マッチの方が火を付けやすいだろう。

 まぁ、火付け布よりはライターの方が付けやすいだろうけど、まだちょっとたどたどしい。


「マッチ?」

「棒状の火付け布みたいなもんだ。先端に薬品を塗布して、着火剤の付いた箱で摩擦して火を付けるんだよ」


 マッチの構造と使い方を簡単に説明する。

 おそらく、材料もあるし、工場さえ作れば簡単に量産体制が整うだろう。


「じゃあ、それを作ればよかったじゃないかさ」

「火付け布のシェアがデカいうちに、新しい似たようなヤツを作っても無駄になる可能性があったんだよ。使い捨てだから連日フル稼働する工場も必要になるし、人手も材料も確保が難しいと思ったんだ」


 でも、ライターの登場で火付け布のシェアが抑えられるのであれば、そこからあぶれた人材でマッチの製造をするのもありかもしれない。


「ヤシロ、あんた……何個、火付け布を終わらせる案を考えてたんさね……」

「……火付け布は、ヤシロの天敵」


 マグダも加わって俺の火付け布嫌いをからかう。

 そこまで目の敵にはしてなかったっての。

 まぁ、嫌いだったけど。


「イメルダに聞かせりゃ、大張り切りして木材の選出に乗り出しそうさね」

「木こりギルドが全面協力してくれるなら、マッチの原価も抑えられそうか……」

「木こりギルドには、性能のいい裁断機もあるし、もうちょっとパーツを追加してやりゃあ、小さい棒を量産することも可能さね」

「……と、さり気なく金物ギルドの仕事も確保するノーマなのであった」


 今日のノーマは上機嫌だ。

 オイルライターに手押しポンプと、新商品の原石を手に入れているからなぁ。

 とりあえず、工房に戻っても睡眠をしっかり取ると約束はさせておこう。

 反故にしたらカエル……ではなく、今後行われる港の改革に参加させないと言っておこう。


 劇場関連のあれこれを、金物ギルド抜きで進めてやる。


「寝るさね!」


 物っ凄い真剣な目で約束された。

 いや、宣誓かな、これは。


「……でも、時には羽目を外しちまう時もあるかもしれないさね」


 あ、ちょっと保険かけやがった。

 まぁ、ついうっかり夜が明けていたなんてことはよくあることだ。


「……ヤシロ。普通は、ない」


 そんなことないぞ、マグダ。

 俺も何度か経験があるからな。


「……そして、倒れる」


 ……まぁ、ノーマにもほどほどにと言っておこう。


「説得力のない言葉さねぇ」


 くすくすと笑って、それでも羽目を外し過ぎないと約束してくれたノーマ。

 手押しポンプを普及させる危険性は理解してくれたと思っておこう。


「んで、マッチだけどさ、……試作品は作らないんかぃね?」

「レジーナのところに行けば薬品は揃うと思うから、作ろうと思えば作れるな」

「エステラとアッスントを説得するためにも、現物はあった方がいいと思うんだけど、どぅかぃねぇ?」

「そうだなぁ……じゃあ、とりあえず、試作品を作ってみるか」

「ほんじゃ、開店準備はアタシたちに任せて、レジーナを叩き起こしてきておくれな」

「よし、ひとっ走り行ってくるか」

「……ヤシロとノーマは、羽目を外し過ぎ」


 そんなことないぞ。

 これくらいは普通だ。


「そうそう、普通さね」

「……もはや末期」


 涼やかな半眼が俺たちを捉え、陽だまり亭へと入っていく。

 ノーマと顔を見合わせ、肩を竦める。


 まぁ、マッチは急がないからのんびりやるか。

 なにも、ジネットがいない日に没頭しそうな試作品を作ることはない。


 ――と、思っていたのだが。



「これは革命が起きますよ!?」


 しゃぶしゃぶ用の肉を大量に運んできたアッスントにオイルライターを見せると、物凄い食いついた。

 火付け布の市場が焼け野原になる可能性があるので、とりあえず話しとかなきゃイカンなと思ってな。


「火付け布の工場が……」

「それなんだけどねぇ、ヤシロがこれとは別の商品のアイデアを持ってるんさよ」

「なんですか、ヤシロさん!? 知っている情報は教えておいてください! 四十二区だけでなく他区にも甚大な被害が及ぶ可能性がありますので、暴動を抑えるためにも代替案が必要になるんです! 対価はお支払いしますので、是非!」


 熱い、熱い!

 あと、怖い!


「マッチって言ってな――」


 で、マッチの説明をしたら「とりあえず試作品を!」と、せがまれてしまった。


「試作品が完成するまでそのライターは人目に触れないようにお願いしますね! 数百人単位の失業者が出ますからね!」


 何重にも釘を刺して、アッスントは帰っていった。


「今日の夕方、またお邪魔しに来ますので、それまでに用意できそうならお願いしますね!」


 そんな言葉を残して。


 夕方にはエステラも戻ってくる。

 そこでライターをじっくりと見せてやるつもりだったんだが、じゃあマッチも一緒にお披露目するか。


「手押しポンプの話なんかしたら、アッスントのヤツぽっくり逝っちまうさね」


 飛び出していったアッスントの背中を見送り、ノーマが達観したように呟く。


 な?

 新しい技術って、知ってても出すタイミング難しいだろ?


「……ヤシロ。そろそろオープン時間。しゃぶしゃぶは昼から?」

「そうだな。朝は冷しゃぶ定食オンリーにしておこう」


 今日、ジネットが留守であることは事前に告知済みである。

 こんな日に朝から飯を食いに来るのはよく見知った連中だけだ。

 手を抜いたって文句など出ない。

 出せるものなら出してみるがいい!


「ノーマ、肉のスライスは出来るか?」

「前に店長さんにコツを教わったさね。任しとくれな」


 試しに数枚スライスしてもらったら、見事な包丁さばきで、薄さも均等だった。

 これなら問題ないだろう。


「じゃあ、こいつを軽く湯がいて、氷水で一気にしめて、ちぎったレタス、千切りキュウリの上に乗っけて、スライスして水に晒した玉ねぎを載せ、赤カブスライスとプチトマトを添えて、昨日作っておいた特製ゴマダレを回しかけたら……ほい、出来上がり。試食してみてくれ」

「んっ! 美味しいさね!」

「……これは美味」


 事前にジネットには味を見てもらっている。


 まぁ、そこでゴマダレにダメ出しを食らって、ジネット流に改良されたんだけど。

「このお料理には、こういうワンポイントを加えたタレの方が合うと思いますよ」って、本当に簡単な一手間加えただけで劇的に美味さが増したからな。


 あいつ、出会った頃より確実に成長してるぞ。

 いろんな未知の料理を食って、マスターして、料理の引き出しが増えた影響かねぇ。


 これが料理系バトル漫画だったら、絶対ラスボスだよ、ジネットは。


「んじゃ、調理はノーマに、接客はマグダに任せる。アホのアッスントがせっつくから、マッチの試作品も急いで作っちまわないとな」

「レジーナ、起きてるんかぃねぇ?」

「起きてなきゃ、不法侵入して、タンスを漁ってから起こしてやるさ」

「二回犯罪行為が行われたさね」

「……それをさも当然のようにさらっと言えてしまえるヤシロに震える」


 褒めるな褒めるな。

 俺の手にかかれば造作もないことだ。


 というわけで、早朝から出かけることになった。

 起きている可能性の極めて低い、薬剤師の店へ。




 結果から言って、起きてやがった。


「なんだよ、不法侵入してタンス漁りたかったのに!」

「なんで怒られとるんやろ、ウチ? 自警団に突き出したろかな?」


 基本、早起きをしているとか言うレジーナ。

 マジか……


「よっぽどやる気の出ぇへん時以外は早起きしとるで。ほんで、夜遅くまで起きとるねん」

「その間ずっと引きこもってるのか? なんて無駄な時間の過ごし方だ」


 長時間起きてダラダラ過ごしているらしい。

 そういえば、夜中に訪ねても起きてて対応してくれるんだよな、この薬屋は。

 いつ誰が助けを求めに来ても対応できるようにしているのか……


「お前が倒れるなよ?」

「大丈夫や。日中に使用するエネルギーは一般の人の十分の一もあらへんさかいに」


 どんな理屈だよ。


 それにしても、こいつは一人で結構デカいものを背負ってるんじゃないだろうか?

 四十二区には薬師ギルドが存在しないから、四十二区の怪我や病気は完全にレジーナ頼りになっている。

 こいつ一人で一つの街の住人すべての健康を背負っているのか。


「せめてもう一人くらい誰か雇えよ。売り子だけでも出来そうなヤツを」

「この店で二人きりとか、……ウチ、ストレスで寝込むで?」


 どんだけこじらせてんだ、人見知りを。


「自分とかミリィちゃんみたいな人やったら大丈夫なんやけど、自分らは二人とも忙しいしなぁ」

「デリアやネフェリーなら、頼めば手伝ってくれるぞ、きっと」

「やめて。私生活が破壊されるか、私生活が改善されるかしてしまうさかいに」


 改善されるのはいいじゃねぇか。

 両極端なベクトルで苦手としてるもんな、その二人のことは。


 デリアはまっすぐ過ぎて制御不能だし、ネフェリーは進んでお節介焼いてくるし。

 レジーナみたいにぐーたら自分ルールで生きてるヤツにとっては天敵と言えるだろう。


「あ、そうだ。キタテハ人族の、ケチャラだっけ? あいつはどうだった?」

「要経過観察やね。大きな問題はあらへんけど、小さい問題がないとは言い切れん。まぁ、時間かけてゆっくりとリハビリしてったら、何の不自由もなく生活できるようになるやろ」


 そりゃ何よりだ。


「さすがだな、薬剤師様」

「やめてぇや。……ガラちゃうわ」

「ガラパン穿いてるくせに」

「なんで断言できんねん。見たんか?」

「見なくても分かる!」

「残念やな。今日穿いとるんは、元ガラパンや」

「ガラがなくなるほど摩耗したパンツを穿いてんじゃねぇよ」


 それ、生地残ってるか?

 意図しないシースルーになってないか?


「ほんで、今度は何作るねんな?」

「マッチっつってな――」


 と、レジーナにもマッチの構造と使い方を説明する。


「自分、どんだけ火付け布嫌いやねんな」


 けらけらと笑われた。

 いつの間にか、俺が火付け布下手なイメージが定着していたらしい。誰に会っても言われる。


「協力したりたいけど、自分の弱点が一個減るんは癪やなぁ」

「俺に弱点なんかねぇよ」

「食虫植物」

「……あれは、相性の問題だ」


 そもそも、アイツらが食おうとしてるのは虫ではなく俺だ。

 食俺植物だ、アイツらは。


「なぁ、ライターっちゅうのん、見せてぇや」

「ほれ。一応、火が付くものだから気を付けろよ」

「へいへい」


 初めて手にするライターを興味深そうに観察して、いとも容易く火をつけてみせるレジーナ。


 こいつもやっぱ研究者なんだよな。

 構造を理解すれば、大抵のことは出来てしまう。


「これ、おもろいなぁ。ウチも欲しいわ」

「ノーマの謹慎が明けたらな」

「あはは、ついに出禁かいな、キツネの鍛冶師はん」


 そんな感じで、必要な薬剤を見繕ってもらっている間、とりとめない会話を楽しんで、茶を一杯飲み干した。


「今日は店長はんらぁお出かけなんやんな?」

「あぁ。今日の陽だまり亭はしゃぶしゃぶフェアだ」

「しゃぶしゃぶ……心做しか、卑猥な響きの料理やなぁ」

「バカモノ、俺の故郷の伝統ある料理だぞ。しゃぶしゃぶが広まれば、やがてノーパンしゃぶしゃぶが誕生する!」

「やっぱ卑猥な食べ物なんやないか」


 俺が日本に抱く、唯一の心残り、それがノーパンしゃぶしゃぶに一度も行けなかったということだ!

 あんな店、浮かれきったバブル期の日本でしか誕生し得なかったことだろう!

 あぁ、なぜ俺はあと二十年早く生まれなかったのか!

 十年じゃギリ足りないんだよ!

 なので二十年だ!

 二十代後半なら、金に余裕もあっただろうし!


 ……そうか!

 この街の経済を「おりゃぁああああ!」って回しまくってバブル期の日本を超えるような好景気にしてやれば、ノーパンしゃぶしゃぶやお立ち台ギャルみたいな文化が生まれるかもしれないのか!


「俺、この街の発展に死力を尽くす!」

「なんやろ、その発言、全力で止めなアカン気がするなぁ」


 みんな、バブルで浮かれようぜ☆


「そのマッチっちゅうんも気になるし、お腹も減ったし、ウチも呼ばれに行こかな、しゃぶしゃぶっちゅうやつを」


 おぉ、珍しい。

 レジーナが自発的に飯を食いに来るという。


「じゃあ、とりあえずその朽ちかけのパンツを脱いできてもらって……」

「ノーパンやないしゃぶしゃぶを食べさしてもらいたいんやわぁ、ウチ。あと、朽ちかけとか、やかましいわ」


 ぺこっと俺のデコを指圧したあと、レジーナが外出の準備を始める。

 ほんじゃ、レジーナを連れて陽だまり亭までお散歩デートでもするかね。


「ほな、行こか」


 いつもの服で、いつものカバンを肩にかけ、扉に『只今留守中。御用の方は陽だまり亭まで』と書かれたプレートを下げて、扉に施錠をするレジーナ。


「行き先は陽だまり亭しかないのかよ」

「ウチの居場所やのぅて、薬のある場所を記しとるんや。陽だまり亭やったら、自分がおる可能性も高いしな」


 自分が留守にする時、勝手に俺を利用してやがったのか、こいつ。

 なんてヤツだ。


「お前、その服しか持ってないのか?」

「毎朝なに着よか考えんのって面倒くさいやん? せやから、同じ服をぎょ~さん持っとるんや」


 毎日同じ服を着ているわけではないと、一応乙女の尊厳らしきものを守ろうと主張するレジーナ。

 ガラが透けるほど穿き潰したパンツ穿いてる時点で、乙女の尊厳なんぞ粉微塵になっているだろうに。


「今度おしゃれ着でもプレゼントしてやろうか?」

「なんや? それ着たらデートにでも連れてってくれるんかいな?」

「おぅ、いいぞ。オシャレした美女の隣を歩くのはいい気分だからな」

「……冗談のつもりやったんやけどな」


 デートくらいいくらでもしてやるさ。

 まぁ、時間が合えば、だけどな。


「でも、レジーナとのデートって、すげぇ行き先に悩むな」

「卑猥なところ巡っとったらえぇんちゃう?」

「二人きりでそれやったら照れるくせに」

「じ、自分やんか、それはっ」


 ちょっと照れて、責任転嫁の猫パンチを食らわせてくる。

 ほら、照れてる。

 レジーナは、案外こういうところで乙女を出すからなぁ。


 命がけでバオクリエアに出港する時なんて乙女全開で……


「ごふっ!」

「なんやぁ、急に!?」

「……変なことを思い出させるな……っ!」

「変なこと思い出さんといてんか」


 ぽこっと、もう一発猫パンチを食らわされる。

 ……まったく。油断ならんヤツだ、こいつは。


「ほんで、今日お出かけしとるんは店長はんと普通はんと?」

「あとは、エステラとナタリア、カンパニュラとテレサと、デリアにイメルダだな。四十二区民じゃないけど、マーシャも一緒だ」

「イヌ耳店員はんとニワトリはんは一緒ちゃうんやね」

「急な話だったからな。ノーマが今度一緒に見に行くって言ってたぞ、三十五区の新しい人形劇」

「ほなら、ウチもミリィちゃんと一緒に連れてってもらお」


 こいつも興味あるんだ、新しい人形劇。


「けど、その前にこっそりネタバレしといてもらおかな」

「いいのかよ? 面白み半減するぞ」

「それ、みんなそう言うやん? けど、ウチは結末を知った上で安心して物語を楽しみたい派やねん」


 ミステリー小説でも、犯人を知った上で読みたいってヤツは一定数いる。

 ネット小説でも、あらかじめ結末を提示して開始すると集客率が上がるという傾向があるらしい。

 忙しい人間にとっては「このあとどうなるんだろう!?」っていうドキドキよりも、「安定して好みの作品を楽しみたい」って感情の方が優先されることがあるようだ。

 その気持ちも、分からんではない。


「あと、先に見た人らぁのドヤ顔がイラつくっちゅうんも、ちょっとはあるしな」


 先に見た人間に「え~、知らないの~?」とか「絶対見た方がいいよ~」とか言われるのにイラッてする層も、確実にいる。


 レジーナは、そのどっちの層にも合致してるんだろう。

 まぁ、ネタバレって言っても、王道なストーリーだからな、話してやってもいいだろう。


「じゃあ、ちょっと遠回りして帰るか?」


 間もなく大通りに差し掛かろうかというころ。

 このあとランドリーハイツの前を通って、川の方へ回って、大回りで陽だまり亭に帰れば、ストーリーのあらましを話す時間くらいは稼げるだろう。


「せやね。ほなら、話を聞かせてもらいつつ、散歩でもしよか」


 朝の時間はノーマとマグダがいれば十分回るだろうし、そもそも朝によく来る大工どもは現在三十五区へ出張中。

 帰りが少々遅くなっても問題ないだろう。


「ぁ、てんとうむしさん、れじーなさん」


 大通りを越えたところで、ミリィと出会った。

 森にでも出かけるのかと思いきや、レジーナの店に行こうとしていたらしい。


「ぉ花のお薬、ほしいな、って」

「それやったら持ってるさかい、今渡しとくわ」


 お出かけ往診セットには、花の薬も入っているらしい。

 除草剤や防虫剤かと思いきや、栄養剤の類らしい。

 なんでもあるな、お前の薬屋。


「ご用事、終わっちゃった」


 えへへと笑うミリィ。

 なにこれ、可愛い!


「なんやの、これ、めっちゃ可愛い!」

「お前とは意見が合うな」

「そんなことで、固い握手、かわさないで!」


 固く握られた俺とレジーナの手を、小さい手でチョップして離させるミリィ。

 わぁ、しばらく手洗うのやめよう。


「時間があるなら、一緒に散歩するか?」

「ぃいの?」

「かまへんよ。ミリィちゃんやったら大歓迎や」

「誰だったら追い返すんだ?」

「えっと、たとえばやな……」

「名前出さないであげて、ね? かわいそう、だょ?」


 指折り名前を列挙しようとしていたレジーナを止めるミリィ。

 名前が上がる連中にまで気を遣うとか、天使か。いや、妖精か!?


「じゃあ、ネタバレは禁止だな」

「ぇ、なんのぉ話?」


 一緒に歩き出したミリィに、三十五区で始まった新しい人形劇の話と、今度ノーマたちが見に行くから一緒に行ってはどうかという話、そして、レジーナが聞きたがったのでその話のネタバレをしようとしていたことを話す。


「それ、みりぃも、ちょっと聞きたい、かも」

「ミリィもネタバレ歓迎派か?」

「ぇっと……ね、どきどきしすぎて、ちょっとしんどい時が、あるから」


 あぁ、ミリィならそうか。

 キャラに感情移入し過ぎて泣いちゃうこともあるもんな。


「それに、てんとうむしさん、ぉ話上手だから、聞いてて楽しい、から」


 もじもじと、そんなことを言われたら張り切ってしまうのが男子というもので。

 盛大に話して聞かせたさ。

 人形劇にも負けないくらいに、感情たっぷりで、情景が目に浮かぶように、壮大に!


 結果、陽だまり亭に戻るのが若干遅くなった上に、ミリィは号泣してしまった。



 ……やりすぎちった☆




「ちょっと、ヤシロ。なにミリィを泣かせてんのよ!?」


 陽だまり亭に着くと、フロアにパウラとネフェリーがいた。

 昨日も見たな、この光景。


「今日はすき焼きじゃないぞ」

「分かってるよ~っだ」

「でもすき焼き美味しかったよね。また食べたいなぁ~」


 べぇ~っと舌を出すパウラに、上目遣いでおねだりしてくるネフェリー。

 なに、お前ら、可愛いの大安売りでもしてんの?

 ニワトリフェイスの上目遣いが可愛いかは、個人の判断に任せるとして。


「アタシに話があって来たんさよ、この二人は」

「三十五区に行く相談か?」

「うん、そう。あっ、ミリィも一緒に行こうよ。三十五区で新しい人形劇やるんだって」

「レジーナも行こう。折角珍しく早起きしてここに来たんだし」

「ウチが早起きしたん、関係あらへんやん」


 とか言いつつも、レジーナもすでに便乗してついていく気なんだよな、これが。


「さっき、レジーナが率先して一緒についていくって言ってたぞ」

「そんな言い方はしてへんかったんちゃうかな?」

「そっか、レジーナもあたしたちと一緒に行きたいんだ~」

「いいよ、連れてってあげる」


 レジーナが自主的に参加しようとしたのが嬉しいのか珍しいのか、パウラもネフェリーも表情を輝かせている。

 嬉しそうに笑ってるなぁ。


「それで、ミリィはどうしたんさね?」

「ぅん、ぁの、ね……」

「その噂の新しい人形劇の内容を教えてやったら、感動して泣いちゃったんだよ」

「えっ!? 二人とも内容聞いたの!?」

「ぅん。……すごく、素敵だった、ょ」

「ずる~い! 私も聞きたいなぁ~」

「いや、お前ら見に行くんだろ?」

「ヤシロはヤシロ、人形劇は人形劇じゃない!」


 ネフェリーがむくれている。

 ネフェリーも、ネタバレは特に気にしない様子だ。


「それにさ、ロレッタあたりが帰ってきてすぐ『早く見た方がいいですよ~』とかドヤ顔でうるさそうだもんね。あたしも先に知っときたいな」


 パウラは、そーゆーのにイラッてするタイプらしい。


「アタシも聞いときたいさね。ヤシロの話術なら、人形劇に負けないくらい感動できそうだしさぁ」


 さらっと高い要求を寄越してくるノーマ。

 それはそれで、結構しんどいんだぞ。一人で何役も演じ分けるのって。


「おぉーい、冷凍ヤシロ! ちぃと頼みがあるんじゃぞい!」


 女子連中に詰め寄られているところで、情報紙のタートリオがやって来る。

 ブロッコリーみたいなアフロをわっさわっさ揺らして。


「昨日見た人形劇は凄まじかったぞい! つい勢い余って今日号外を出してしまったほどじゃぞい」


 と、情報紙の最新号を手渡してくる。

 そこには、三十五区に仮設劇場が出来、そこでは人形たちの演じる感動のラブストーリーが上演されていると記されていた。


「噴水は黙ってろって言われたのか?」


 なんの情報も載ってないので、ルシアが止めたのかと思ったのだが。


「いんや。アレはイラスト付きで号外にするつもりなんじゃぞい」

「そんな連発すると、号外の価値が薄れるぞ」

「しょうがあるまい! 号外級のビッグニュースが立て続けに起こっておるんじゃからのぅ」


 というわけで、タートリオの頼みというのは、一秒でも早くベッコに噴水のイラストを描かせてほしいということだった。

 まぁ、ベッコを捕まえりゃ物の数分で描き上げてくれるだろうよ。


「ねぇねぇ、ター爺。この号外、もう発売してるの?」


 すっかり仲良くなっているらしいパウラがタートリオをター爺呼ばわりしている。

 言われた本人も嬉しそうなので構わないが、一応貴族なんだよなぁ、この歩くブロッコリー。


「うむ。今日発売じゃぞい。すぐにでも出回るじゃろう」

「うわぁ~、ピンチだね」


 情報紙をネフェリーに渡し、天井を仰ぐパウラ。


「これが出回ったら、劇場入れなくなっちゃうかも」

「確かに。『BU』の人たちって、こういうのすぐ飛びつくもんね」

「ほなら、見に行くんやったら早い方がえぇかもな」

「みんな、明日の予定はどうなってんさね?」

「みりぃ、ギルド長さんにお願いしたら、空けられる、かも」

「あたしも、父ちゃんに言って半日休ませてもらうよ」

「じゃあ、私もそれでいいよ」

「ほんじゃ、明日の早朝出発して、混雑する前に見ちまうさね」


 ノーマはまさに今、暇だもんな。

 出禁だし。


 あぁ、それで、今のうちに時間を合わせようってこの時間にパウラたちがノーマに会いに来てたのか。


「なんじゃ、みんな明日見に行くんじゃぞい?」

「うん、そう」

「アレは見といた方がいいぞい。太鼓判じゃぞい」

「そんなに気に入ったのか、『ラブダイブ』?」

「それもじゃが、その後のチャレンジャーズじゃぞい!」


 あぁ、そっちも見たのか。


「芝居は拙いが、夢に向かってまっすぐ突き進む熱い思いが心地よくてのぅ……健気で、ついつい応援したくなったぞい」


 まんまと釣られちゃったわけか、チャレンジャーズ商法に。


「アルシノエちゃん、激推しじゃぞい!」


 アルシノエメンコ買ってきてやがる!?

 しかも三つも!?


「人に見せる用、保存用、使う用じゃぞい」


 何に使う気だ、このジジイ!?


「ん? ……メンコじゃぞい?」


 あ、そうか、メンコだったっけ、これ。

 ごめんごめん、ちょっと心が汚れ過ぎちまってたわ、俺。


 いや、変態紳士が多過ぎるからさぁ、この街。

 タートリオも、見た目的にそっち側だし。

 うん、しゃーないしゃーない。


「なんか、すごいことになってるんだね、三十五区」

「おう、一昨日からな」

「……マグダたちが訪れた時、それが革命の始まり」


 すっと登場して、ニヤリとほくそ笑むマグダ。

 こうなった過程を全部知ってるから、ちょっとした万能感でも味わっているのだろう。

「あぁ、あれね。実はこんな裏話あるんだけどね~」的な、ギョーカイ人っぽい感じ。そーゆーのに浸れるわけだ。


「明日じゃ、もう遅いかもね」

「今日のうちにルシアに手紙でも出しとけば、席でも予約しといてくれるんじゃないか?」

「分かった! ヤシロの名前で出しとくね!」


 なんでだよ。

 ルシアなら、お前らの名前で手紙もらった方が喜ぶと思うぞ。


「じゃあじゃあ、予習も兼ねて、ヤシロ、お願いね!」

「へいへい。ちなみに、みんな飯は?」

「食べる!」

「……冷しゃぶ定食五つ、承り~」

「およ、ワシの分も含まれとるんじゃぞい? じゃあ、お嬢さんたちの分はワシが御馳走するんじゃぞい」

「やった~! ター爺かっこいい!」

「ほっほっほっ! もっと言ってもいいじゃぞい」

「ター爺さんのふとっぱらー!」

「ぁの、ごちそうに、なります。ぁりがとう、ございます」

「よっ、このいやしいメス豚め!」


 うん、レジーナ。

 それは違う。

 褒め言葉違う。


 で、ノーマが冷しゃぶ定食を作る間に、俺はそこらを歩いていたハムっ子を捕まえてベッコを呼び寄せ、冷しゃぶ定食が出てきたタイミングで『ラブダイブ』の内容を話し始めた。


 タートリオとマグダは内容を知っているが、それでも身を乗り出すくらいに食いついて、真剣に聞き入っていた。


「遅くなって申し訳ないでござる。準備に手間取ってしまったゆえ」

「で、最後に人魚はこう言ったんだ『またな』――ってな」

「「「すっごくいい話~!」」」

「なんか知らない話題で大盛り上がりの真っ最中でござるな!?」


 すげぇ悪いタイミングで陽だまり亭に到着したベッコ。

 お前は見たことあるだろ、『ラブダイブ』。


「冷凍ヤシロの話術も、なかなかのもんじゃぞい。……推し変、あり得るかもしれんぞい」


 いや、推すな推すな。

 お前に推されても嬉しくもなんともねぇから。

 アルシノエの応援でもしてやっててくれ。


「やばい……私、これ劇場で見たら泣いちゃうかも」


 と、泣きながらネフェリーが言う。

 劇場云々関係なく、もう泣いてんじゃねぇか。


「個人的な感想を言わせてもらえば、冷凍ヤシロ版の方が面白かったぞい」

「くっ、しっかりするさね、イーガレス!」


 人形劇を楽しみに見に行こうとしているのに、俺の話より落ちるとなるとがっかりもするだろう。

 マジで頑張れよ、イーガレス。


「けど、チャレンジャーズっていうやつの方も楽しみだよね」

「内容は人魚姫だぞ」

「でもター爺さんの熱狂ぶりを見たら、楽しみになっちゃうよ」


 ネフェリーは、初代人魚姫役だからな。

 アルシノエたちと話す機会があるならアドバイスでもしてきてやればいい。


「あぁ、それでベッコ。タートリオが噴水のイラストを欲しいんだとよ」

「お任せあれ。発注が来ることは分かっておったゆえ、準備は万端でござる。情報紙映えするように描いてみせるでござるよ」


 媒体によってタッチを変えることまで出来るようになったのか。

 モコカにいろいろ教えていた影響かな。

 教えながらも、人は学べる。

 ベッコみたいな天才肌なら、なおさらだ。


「三十五区の港は、ちょっとすごいことになるぞい」


 そんな予言めいたことをタートリオは口にし、俺はちょっとだけ嫌な予感にとらわれる。

 盛り上がり過ぎて変な事件を引き込むんじゃねぇぞ。


 こちらに火の粉が飛んでこないことを祈りつつ、朝の時間は比較的のんびりと過ぎていった。




 大変だったのは昼になってからだった。

 まず、アッスントが午後一で陽だまり亭に駆け込んできた。


「ヤシロさん、進捗はいかがでしょうか!?」

「ほい、マッチの試作品」


 レジーナにもらった薬品を使い、適当な木の棒を削って試作したマッチを手渡す。

 紙の箱は作れなかったので、木箱を作って側面に薬剤を塗ってある。

 二つの薬剤を擦り合わせて摩擦すると着火する、まさにマッチという仕上がりだ。

 使用している薬剤が日本のものとはちょっと違うので、炎の色が微妙に異なるんだが、違和感を覚えているのは俺だけなのでよしとする。


 っていうか、火付け布に使ってる薬剤だしな、どっちも。


「これなら、煙管に火を付けるのが楽なんさよ」


 と、一応外に出てから煙管に火を付けるノーマ。

 やっぱマッチの方が色っぽいよなぁ、ライターよりも。

 火を消す時の手首のスナップ。アレがいいんだよ。


「こりゃあ、煙管吸いには人気が出そうさね」


 火付け布での着火は地味に面倒だったようで、ノーマはご機嫌だ。


「ちなみに、この箱の前面を広告スペースにしておくと、企業から金を引っ張ってこられるぞ」

「なるほど、うちわと同じですね! 使用する度に目にする場所ですから、宣伝効果も抜群ですか。頻繁に目にする企業名には好感や親近感を覚えやすいですからね」


 この街でも、単純接触効果を理解しているヤツがいたか。

 さすがだな、アッスント。


「これなら、火付け布職人たちも失業せずに済みそうさね」

「えぇ、安心しました。いくら便利な物が新しく登場したといっても、従来品が完全に不要になることはそうそうありませんからね。必ず、どこかしらに需要はあるはずなのです」


 火付け布が廃れても、やっぱり火付け布がいいって層が必ず存在する。

 どんなに便利になっても、昔ながらの道具がいいってヤツはいるからなぁ。

 蚊取り線香とか、なくならないでほしいって思ってるヤツは結構多いんじゃないだろうか。


「火付け布の生産ラインを残しつつ、新たな商品を大量生産できる……マッチ、作りましょう!」

「お前が勝手に決めていいのかよ?」

「ギルド長に報告書を上げれば問題ありません。もっとも、それをするのはエステラさんと話をしたあとですけれどね」


 そうだな。

 で、俺に対するご褒美についてしっかりと話を詰めておいてくれよ。

 素ん晴らしい大発明なんだから。


「しかし、オイルライターはいいですね。実用性もさることながら、嗜好品としても価値が出そうです。こだわれば、どこまでも高級に出来そうですし」


 成金趣味バリバリに仕立て上げれば、数百万~数千万っていう高額なライターも作れるだろう。

 王族あたりに売りつけてやればいい。


「エステラさんがお戻りになったら、是非話がしたいとお伝えください。どんな真夜中でも早朝でも駆けつけますので、と!」


 それだけ言って、ライターとマッチを大切そうに懐にしまってアッスントは帰っていった。

 家でじっくりと構造なんかを確認したいのだろう。


 あいつのことだから、構造を研究している途中から、どうやって販路を広げるか、どう利益を上げるかって方に思考がシフトしてそうだけどな。


「しゃぶしゃぶ、うまー!」

「なにこれ、めっちゃ美味しいんだけど!?」


 店内に戻れば、客どもが揃いも揃って肉をしゃぶしゃぶして食っている。

 タレは、ジネット特製ポン酢とゴマダレ。

 これが、美味いんだ。


「これ、今日だけすか!?」

「また食べたいっす!」

「ジネットに言えば作ってくれるだろうよ」

「「「いやっふぅ~い!」」」


 しゃぶしゃぶも、この街には受け入れられたようだ。

 俺の隣でノーマが「……鉄鍋の増産も考えないといけないねぇ」とほくそ笑んでいた。

 仕事が尽きないなぁ、お前んとこは。



 でだ、ここまでは予想通りの賑わいだったのだが――さらに騒がしいのが増えた。



「オオバ様はいらっしゃいますこと!?」


 馬車じゃなく、馬にまたがって乗り込んできた他区のご令嬢がいた。


「あぁ、オオバ様! お会いしたかったですわ!」


 三十七区、岬の灯台守の一族、ベッカー家の長女、ロリーネだ。


「こちらをご覧になりまして!?」


 ロリーネの手には、今朝発行されたばかりの情報紙号外が握られていた。

 三十五区の仮設劇場と、そこで上演された新たな演目を絶賛する記事が載った情報紙が。


「ズルいですわ!」


 まぁ、そういう展開になるだろうなとは思ったんだよ、情報紙の号外を見た時にな。

 まさか、馬にまたがって単身乗り込んでくるとは思わなかったけども。


「オオバ様……」


 真剣な眼差しで、ロリーネが俺の手を握る。


「アタクシにはもう、心に決めた殿方がおります。ですので、リーネを差し上げますわ!」

「いらんわ!」


 もらっても扱いに困るわ、お前んとこの妹(十二歳)なんぞ!


「では、お母様をどうぞ!」

「そっちもいらん!」

「熟しごろですわよ!?」


 食べごろみたいに言うな!

 熟してんのは俺関係なく単独でもそうだろうが!


「でも、そうでもしなければ、この差は埋めようがありませんわ!」

「別に、イーガレス家に何か思い入れがあって贔屓にしてるわけじゃねぇよ」

「嘘ですわ! だって、アルシノエ様は、あんなにお可愛らしいですもの! きっとオオバ様もゾッコン、いいえ、生唾ごっくんものに違いありませんわ!」

「友だちになった瞬間めっちゃ株上がったんだな、アルシノエ」


 あんなに可愛いって……アルシノエが聞いたら大喜びしそうな発言だな。


「領主直々に頼まれたからちょっと知恵を貸しただけだ」


 と、暗にお前んとこの領主はなんも言ってきてないじゃんと指摘しておく。


「そうですわ! たしか領主様の家に新たに娘が生まれたはずですわ!」

「いらないからな、生まれたての幼女とか!?」


 その話、すでにアホの三十七区領主に直接聞いて直接断ってるから。


「オオバ様は子供や幼女が大好きだとお伺いしましたのに!?」

「誤情報だし、人聞きめっちゃ悪いな、オイ!?」


 誰が子供好きだ!?

 天敵だっつってんだろうが!


「まぁ、情報紙を見たらお前らが騒ぐだろうことは予想がついていたから、お前らが直接コンタクトを取ってきたら助言してやろうと思ってたんだよ」

「本当ですの!?」

「まさか長女が乗り込んでくるとは思わなかったけどな」

「紙芝居劇場の最高責任者はアタクシですもの。当然ですわ」


 母カロリーネは岬全体の責任者となり、恋人岬などの運営や広報に力を割くため、劇場は長女のロリーネが取り仕切るらしい。

 なんとなく、イーガレス家と似たような采配だな。


「んじゃ、これ」


 ベッカー家に渡そうと思って用意した新しい紙芝居を手渡す。


 奇遇なことに、タートリオがベッカー家の伯父、噂の人魚と恋仲になった男と面識があり、かつて情報紙でも取り扱ったことがあるとかで、その伯父のイラストがあったんだよ。

 それを元に、実際会ったことがあるタートリオの意見を聞いて、ベッコに復元させた伯父と、そのお相手の人魚の絵で作った紙芝居だ。


 タイトルは『シーサイドラブストーリー』。

 これは『ラブダイブ』を考えた時にもう決まっていたので、すんなりと決まった。

 内容は、以前カロリーネから聞いた話を元に脚色してある。


「ただ、向こうは当時を知る連中がモノマネでやってるから結構クオリティが高い。対抗するなら何か手を考えろよ」

「モノマネ……では、我が区でも当時を知る者たちに声をかけてみますわ!」

「んじゃ、チャレンジャーズ制度も取り入れてみろ」


 その辺は、平等に知識を与えると事前に言ってある。

 両方の港が盛り上がらないと、四十二区の港で本気を出せないからな。


「メンコが必要ならベッコを派遣する。三十五区より近いから、行き来もしやすいだろう」

「そうですわね! 距離のアドバンテージがありますもの! 有効に活用させていただきますわ」


 その分、領主のアグレッシブさでは三十五区の足元にも及んでないけどな。


「ありがとうございます、オオバ様! この御恩は必ずや!」

「おう、期待してるぞ」

「言ってくだされば、妹でも母でも!」

「それはいらん!」

「……そこまで、アタクシをお望みで……?」

「もういいから帰れよ」


 その貴族流の縁の繋ぎ方、俺には通用しないって言ってんだよ。


「俺を繋ぎ止めたけりゃ、利益を上げろ。美味い儲け話の匂いがしたら、また足を運んでやる」

「かしこまりましたわ。……きっと、あなた様のお眼鏡にかなう港にしてみせますわ」


 きりっとした顔で言って「いやっふ~い♪」と紙芝居を抱きしめてけったいなスキップを披露して去っていくロリーネ。


 惜しいな。

 去り際で台無しだ。


「つくづく、面倒見のいい男さねぇ」

「惚れそうだろ?」

「くふふっ、アタシはそこまで安い女じゃないさよ」


 ことの成り行きを見守っていたノーマが楽しげに言って、追加注文のしゃぶしゃぶを用意する。



 一気にバタついた午後も、客足が引けばゆとりが生まれ、空が夕焼けに染まるころ、ジネットたちが帰ってきた。






あとがき




ミッチでぇ〜す☆


……いえ、あの

みやじ、なので、ミッチって……すみません!

ほんの出来心なんです!


え、「縄文式か!?」――って?


誰が土器心ですか!?

縄文人っぽいところなんか微塵も見せてないでしょうに!


あ、マンモス狩りに行かなきゃ。



 Σ(゜Д゜;)いや、いちいち縄文人風味出さなくていいから!?



新作始まりました!

これ書いている時はまだ公開前なんですが

楽しんでいただけていると嬉しいのですが

(*´ω`*)

是非ご覧ください!

ね!

\(≧▽≦)/いゃっふぅ〜い!



さて、

もう、お気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが……


わたくし、

いま、

ひじょーに


浮かれております!

(* ̄▽ ̄*)



それもそのはず!


……あ、ところで、

前々回のあとがきで、国家の定めた試験があるって言ってたじゃないですか?

覚えてますかね?

まぁ、書いていたんですよ。


で、前回、

性格診断して神経質だって診断されたって言ったじゃないですか

まぁ、言ってたんですよ



それが、実は、伏線でした!



実は、宮地さん――



自動車の免許を取得するために、

自動車教習所に通っておりました!!

\(≧▽≦)/



免許の返納が目前に迫ったこの年齢になって!

これまでずっと電車と徒歩と自転車で生きてきたオジサンなのに!


誰に話しても「えっ、今さら!?」

って驚かれるようなタイミングで


自動車の免許を取ります!



普通車(オートマ限定)




教官「なんでマニュアルにしなかったんですか?」

宮地「返納へのカウントダウン始まってるのに、マニュアルなんて取ってられませんよ!」



マニュアル車は、オートマ限定よりも、教習時間が長いんです。

あと、ちょっとお高いんです。


いいんです。

どーせオートマしか乗りませんから

( ̄▽ ̄)


でもう、

ここ最近ずっと、寝ても覚めても自動車教習所のことばっかり考えてしまって


あとがきとか、なかなか集中できなくて

本編とか……ちょっとストック減っちゃって

(・_・;それは、まじでヤバいっす


頑張って書きます



で、なんでずっと黙っていたかと言うと

会社の人に免許取ってるってバレる可能性があったからなんです


なんかぁ、

トレチャー教習とかぁ

複数学科とかぁ

セット教習とかぁ

仮免試験とかぁ

卒検とかぁ


どう頑張っても平日に休み取らなきゃ受けられないじゃん!?


っていうものがあったので、

短期間にまとめて有給使うことになったら

「いや、実は免許取ろうと思ってまして」って正直に言っちゃおうと思っていたんですよ



で、

ほら、

返納間近に今から免許取るユニークなオジサンなんて

数えるほどしかいないじゃないですか?

それで、出社退社時に大量のトマトジュースを買い込んで

おっぱい大好きで

目先のしょーもないボケを確実に拾ってくる

落ち着きのない

絡みにくいオジサンって


こんだけ条件揃っちゃうと、バレかねないなと。


なので、念のため秘密にしていたんですが……



なんかうまいこと休みを調整して教習の全行程を終えられたので書いちゃいました☆



いやっほぉ〜ぅい!


卒検受かった〜\(≧▽≦)/



たった今、卒業検定を受けて

受かってまいりました!


現在、教習所の休憩室でこのあとがきを書いております!


ゆえに、

めちゃくちゃテンション高いです!

うっひょひょ〜い\( ̄▽ ̄)/



路上に行って、指示されたコースを走って、

教習所内で縦列駐車するんですけど――




マジで落ちたと思ってました……




いえ、

一回、カーブでの減速が足りずにセンターライン越えちゃったんですよね……


マイナス20点なんです、逆走(センターライン越え)って。


卒検って、100点からの減点法で

70点以上で合格なんですけども


マイナス20点ですよ!?


もうあと10点です!

ちなみに、小ミスでマイナス5点、

中ミスでマイナス10点です。


センターライン越えて以降、ずっとドッキドキでした


あ、違った


ずっと土っ器土器でした


 Σ(゜Д゜;)縄文人風味出さなくていいから!



で、ですね、

免許をお持ちの方はお分かりかと思うんですが、

卒検をパスして終わりじゃないんですよ。


教習所を卒業したあと、

都道府県指定の免許センターに行って

筆記試験を受けて免許がもらえるんですね



なので、あとは筆記を残すのみです!



……めっちゃ不安だわぁ(・_・;


こちら、100点中90点以上で合格。

1問1点です。


…………ビキニで行ったら特別点とか加点してくれないでしょうか?

ほら、お尻を出した子一等賞とかいいますし。


ダメですかね?


あ、免許センターって警察の管轄なんですか?

じゃあダメかぁ

すでに目をつけられてますからねぇ、私……



というわけで、これが更新されている時は……たぶんまだ免許取ってませんけども、七月中には免許を取得して

ドライブに行ってやりますとも!



というわけで、

次回から、浮かれた宮地さんの『シリーズ免許取得への道』をあとがきでお送りいたします!



え、興味ない?

まぁ、そうおっしゃらずに。


すごく楽しかったので、書ききるまでずっと教習所のこと話しますよ、きっと私。


宮地「そういえば、教習車のステアリングがさぁ〜」


とか、割とうざい感じで!

あ、ちなみにステアリングっていうのは…………えっと…………車の……なんか、いい感じの機能です(^^;



 Σ(゜Д゜;)筆記試験、不安だな、おい!?



車持ってるよ〜という方

運転技術とか、

中古車購入のアドバイスとかありましたらよろしくお願いしますね〜


とりあえず、昔CMでめっちゃ見かけたダイハツの車に乗りたいな〜とか思ってますので

いい感じの車があればおすすめよろしくです!

(まだ免許は取ってません)


維持費とか抑えたいので、軽で

でも高速とかでもしっかり走るヤツがいいなぁ〜

( ̄▽ ̄)まだ免許持ってないですけども


あ、それから、

高速で聞くとテンション上がる音楽とか!

あえて、カーステつけて、カセットテープで聞いてみたいです☆


まぁ、無難にスマホかアイポッドで聞きますけども!



というわけで、

路上を走ってまだ三十分も経ってない

興奮冷めやらぬ教習所からお送りいたしました!


正直、今回の内容とか全然頭に入ってきてません(≧▽≦)>てへっ


ただ、

タイトルに関連する有名人さんが炎上とかしないことだけを必死に祈って……

なんでこんなサブタイトルにしてしまったのか……

(・_・;


何かあったら、すぐタイトル変えましょう、そうしましょう

『新しい着火道具』とか、当たり障りのない無難なタイトルに。

うん、そうしましょう



本編のノーマさんと今の宮地さんと

どっちが浮かれているのか、いい勝負ですが

今回はこの辺で!


これから卒検受けるよ〜という方がもしかしたらいらっしゃるかもしれませんね


大丈夫。

落ち着いて、いつも通りの安全運転を心がければ、きっと受かりますよ☆



 Σ(゜Д゜;)速度落としきれずセンターライン越えたヤツがなんか言ってやがる!?



といったところで、あとがき、お開き!

また次回お会いいたしましょう〜!



次回もよろしくお願いいたします。

宮地拓海

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― 新着の感想 ―
どうも。冷しゃぶもしゃぶしゃぶも食べたいです。 ライターやマッチもすごいですが、陽だまり亭といえばやはり美味しい料理と大きいおっぱいですよね! ジネット「懺悔してください!」 >>「くふふっ、アタ…
馬にまたがって乗り込んで、スキップで去っていく………… いや、馬残ってんじゃん!! Σ(゜Д゜;)
「夜間の道路は危険なので気を付けて運転しなければならない」 答え× 夜間だけでなく昼であっても気を付けて運転しなければならない 「赤信号では必ず停車しなければならない」 答え× 救急車などは例外…
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