419話 ふとした油断
「ようこそ、陽だまり亭へ」
エステラ共々、イロハと研修生たちが陽だまり亭へやって来た。
時刻は昼過ぎ。
ランチタイムを少々過ぎた頃合いだ。
「お邪魔するよ、ジネットちゃん」
「邪魔するなら帰れ」
「君には言ってないよ、ヤシロ」
バッ!? おまっ!?
「そこは、一回帰りかけてからの『なんでやねん!』だろう!?」
「よく分からないことを、ボクに強要しないでくれるかな?」
「お前、ツッコミ担当だろうが!」
「そんな担当になった覚えはない!」
なんてヤツだ。
職務放棄か。
「本当に賑やかで楽しいですね」
イロハが先頭で店に入ってくる。
その後ろから、ぞろぞろと虫人族たちが入店してくる。
結構多いな、やっぱ。
ランチタイムを外してもらってよかった。
席が埋まるかと思って、ちょっと遅い時間にしてもらったんだ。
大工どもは急き立ててさっさと追い返した。
もっとも、大半が三十五区へ出張に行っているので、今日のランチは結構空いていたけどな。
「では、みなさん。こちらへ」
「あのっ! 表のヤツ、見てきてもいいですか!?」
「表の……あぁ、食品サンプルですね。どうぞ、ゆっくりご覧になってください」
わっと、声を上げて数名の女子たちが店を飛び出していく。
はしゃいどるなぁ。
「あらあら……。ごめんなさいね。あの娘たち、みんな浮かれているんですよ。この娘たちも」
そう言われて、その場に残った女子たちが「えへへ」と照れたようにはにかむ。
「楽しんでもらえているようで嬉しいよ」
エステラが言い、それぞれ好きに座るように伝えていく。
椅子に座り、わくわくした顔で店内をぐるりと見渡す者が多くいた。
あ、『リボーン』持ってるヤツがいる。
観光名所に来たような感覚なのか。
「朝も来たのにね」
はしゃぐ女子たちを見て、エステラが苦笑を漏らす。
半日一緒にいて、随分と打ち解けた雰囲気だ。
「実際席に座ると見え方が変わるからな」
「そんなもんかな? あ、そういえば、トレーシーさんとネネも、ウェイトレスをしている時とお客さんとして席に座った時では見え方が違うって言ってたっけね」
癇癪癖を治すために陽だまり亭に連れてきてバイトをさせた時のことだな。
バイトが終わった後、賄い料理を食わせるって時にそんなことを言っていた気がする。
「あの、イロハさん」
はしゃぐ女子たちを見て、ジネットがイロハにこそっと耳打ちする。
「本日はおもてなし料理をご用意しているのですが、みなさんは通常メニューの方が喜ばれるでしょうか?」
「まぁ、わざわざおもてなし料理を?」
ジネットの言葉に、イロハは手で口元を隠して目を丸くする。
「我々のためにそこまでしていただいて、申し訳ありません」
恐縮してペコリと頭を下げるイロハ。
そんなイロハに、遅れて入店してきたシラハがにこりと笑って指摘する。
「こういう時は、謝罪ではなく感謝をするべきよ。ご厚意を素直に受け取るのは、相手を尊重するということにも繋がるのよ」
「シラハ様」
ゆったりとした歩調でイロハに近付き、その肩に手を載せる。
ぽふっと。
「ジネットちゃんはね、何よりも喜ぶ人の笑顔が大好きなのよ。ね、ジネットちゃん」
「はい。喜んでいただけると、わたしも嬉しいです」
イロハはどうにも恐縮し過ぎる傾向が強い。
シラハのそばにいて、適度な距離感を学んでくれればいい。
もうちょっとくらい図々しい方が、こっちもいろいろ言いやすいからな。
何を言っても遠慮したりネガティブに捉えたりされると調子狂うし。
「では、お言葉に甘えさせていただきますね。ありがとうございます、ジネットちゃん様。とても嬉しいです」
「わたしに様は必要ないですよ。普通に呼んでくださった方が嬉しいです」
「そうですか? では、ジネットちゃん。ありがとうね」
「はい。とても美味しい料理ですので、期待していてくださいね」
にこにこと、互いの距離を近付けていく両者。
シラハがいるから、それくらいの距離感までは一気に距離を縮められるだろう。
「ついでに、俺にも様付けは必要ないから取ってくれ」
「それは出来ません、ヤシロちゃん様!」
「なんでだよ」
ジネットの言うことはすんなり聞いて、俺のはダメなのかよ。
そうまでして様付けしたいか。
敬われ過ぎて逆に敬われてない気がしてきたわ。
「みなさん、注目!」
ぱんぱんっ――と、手を叩いて、イロハが研修生たちの視線を集める。
「本日のランチは、陽だまり亭のみなさんがおもてなし料理を用意してくださったそうです。ご厚意に感謝し、美味しくいただきましょう」
「「「はーい!」」」
「みんな、食べたいものがあったかもしれないけれど、それは本格的に引っ越してきた時の楽しみに取っておいてちょうだい。きっと、引っ越してくるのが今よりもっと楽しみになるはずだから」
イロハに続いて、シラハが言葉を追加する。
研修生たちの瞳が一際きらっと輝いた。
食ってみたかったものがあるっぽいな、どうやら。
「ウチ、引っ越し初日にはオムライスを食べに来ますね」
と、ジネットに熱く訴えているのは、過去レジーナに救われたと感涙していたキタテハ人族のケチャラだ。
「ウチ、前にナポリタンを食べて感動して、それと似た味付けのご飯があるって聞いて、どうしても食べてみたかったんです! あの赤く甘めの味付け、最高です!」
おぉーっと、どうやらケチャラはケチャラーだったようだ。
「ケチャラさんは、どちらでナポリタンを?」
「喫茶ノワールで修行中の友人がいまして。ロウリっていうんですけど、彼女が練習で作ったナポリタンを試食したんです」
ロウリってのは、エカテリーニの店で働くクロウリハムシ人族の『でつっ娘』だな。
アレの友人なのか。
「あいつのナポリタンで感動してるようじゃ、ジネットのナポリタンを食ったら腰を抜かすぞ。本物のナポリタンは、それくらい美味い」
「大袈裟ですよ、ヤシロさん」
照れ笑いを浮かべつつ、否定はしなかったな。
ま、ロウリじゃ世界がひっくり返ってもジネットには敵うまい。
「ケチャップの味がお好きなら、ハンバーグのケチャップ煮込みなんかもお勧めですよ。デミグラスソースとはまた異なった美味しさで、マグダさんも大好きなんです」
ハンバーグはデミグラスソース一択だったマグダが陥落したのが、ジネットのケチャップソース煮込みハンバーグだ。
アレに、とろけるチーズを載せると……どんなに凝り固まった固定観念もひっくり返されることだろう。
アレは、美味い。
「あ、あのっ!」
そこへ、髪型以外はケチャラとそっくりな女子が飛び込んでくる。
触角も羽もそっくりだから、きっとこの少女もキタテハ人族なんだろう。
「マヨネーズを使った美味しい料理は、ありますか?」
「マヨネーズですか? そうですね、エビのフリッターのマヨネーズ炒めなんてどうでしょうか?」
うわぁ、それめっちゃ美味いやつ!
エビマヨでも十分なのに、フリッターにしたことで食感も腹持ちも変わって満足度が高いんだよなぁ。
どっちが優れているとか、甲乙はつけがたいが、俺は好きなんだよなぁ、エビのフリッターのマヨ炒め。
「私は、引っ越し初日にそちらをいただきに来ます!」
物凄い熱量だ。
こいつはマヨラーなんだろうか。
「二人とも、興奮し過ぎですよ。ジネットちゃんがびっくりしているでしょう? 落ち着きなさい、ケチャラ、マヨラ」
マヨラ!?
マヨラーのマヨラ、ケチャラーのケチャラ!?
わざとか!?
「さぁ、みなさん。席に着きなさい。お昼をいただきましょう」
「「「はい!」」」
イロハの言葉に、元気よく返事する研修生たち。
街の変化に対応できない、引っ込み思案で地味な者たちばかりだと思っていたが、案外楽しんでいる様子だ。
「みんな、随分と明るくなったわ」
俺の心でも読んだかのように、シラハがぽつりと呟く。
「ウェンディさんの結婚式があって、私たちのこともあって、三十五区の雰囲気もガラッと変わって……あの子たちも、少しずつ自分の殻を破れるようになってきたのね」
人間に差別され、殻に閉じこもるように生きてきた虫人族たちが、その殻を破って外の世界へと羽ばたき始めた。
まるで、蛹に閉じこもっていた幼虫が、羽化して大空に羽ばたくように。
「まるで変態ね」
「うん、シラハ。その表現はどうだろうか?」
違った意味に聞こえてしまう。
イモムシが蝶々になることを変態とは言うけども。
「ヤシロちゃんのおかげなのよ、みんなの変態は」
「やめて、人聞きが悪いから」
俺のせいでここの女子たちがみんな変態になったとか思われたら一大事だから。
「イロハなんて特に殻に閉じこもるタイプだったのに、あんなに笑顔になって……。ド変態ね」
「お前、ワザとやってるだろう!?」
くすくすと笑うシラハ。
面白がりやがって。
イロハがド変態とか、ちょっと想像したくねぇわ。
あと、俺のせいとかおかげとか言うのは絶対やめて。
とか思っている俺の両サイドにケチャラとマヨラがやって来て、うるうるきらきらした目でシラハを見つめる。
「シラハ様の言うとおりです!」
「今日が、私たちみんなが生まれ変わった記念の日――」
「「変態記念日です!」」
「バカばっかりか、虫人族!?」
毎年毎年お祝いしたくねぇわ、そんな記念日!
アホみたいなことで騒ぐ女子たちを黙らせ、座らせて、さっさとすき焼きを開始する。
ジネットは苦笑し、ノーマは呆れ、マグダとロレッタは笑いながらすき焼きの準備を進めていた。
そうして始まった、第四次すき焼き大会。
「みなさん。お鍋は熱くなっていますので、決して触れないように注意してくださいね」
「「「はーい!」」」
教会のガキどものように素直に元気な声で返事をする研修生一同。
まぁ、教会のガキどもより聞き分けはいいだろうから随分とやりやすいけどな。
「さぁ、みなさん、ご静粛に! そして、よく聞いてです!」
「……これが、すき焼きの音」
割り下が熱せられた平鍋に触れて豪快に音を鳴らす。
あれ、言いたくなるんだよな。
最初は俺が言って、教会ではジネットが言い、パウラたちに食わせてやった時にはノーマが言っていた。
で、今回はロレッタとマグダか。
こころなしか、カンパニュラがちょっとわくわくした表情をしている気がする。
言いたいのか?
第五次は予定にないんだが……まぁ、機会があれば言わせてもらえ。
「ほれ、器出せ。肉が食い頃だぞ」
「「「いただきます!」」」
一斉に差し出される小鉢に、順番に肉を入れていく。
溶き卵の中に潜る肉。
そのビジュアルだけで、もう美味い。
「んん~! もいひぃ~!」
「もう私、ここの子になるー!」
「帰りたくなーい!」
いや、研修終わったらお前らは三十五区で洗濯屋をやるんだぞ。
子供服のレンタルやるんだからな。
まぁ、気に入ってくれたんならよかった。
はしゃぐ研修生たちを見て、ジネットたちも満足そうだ。
実に穏やかな時間が流れ、シラハがいることでイロハも嬉しそうにしていて、年配二人がにこにこしているからか研修生も全体的に安心しきっているような雰囲気が漂っていて――だからついうっかり気が緩んでしまったんだろうな。
「あっ!?」
突然、一人の少女が声をあげる。
俺のテーブルに座っている、やや黄みがかった茶髪をした小柄な少女がうっかりと小鉢を落としてしまったようだ。
テーブルの上に、こぼれた生卵が広がっていく。
「あぁっ、すみません! 汚してしまって!」
小柄な少女は広がる生卵を手のひらで堰き止め、集めて、小鉢に戻そうとする。
いやいや!
戻すな!
もったいないとか思わなくていいから!
「テレサ、おしぼりと布巾を持ってきてくれ」
「ぱい!」
「カンパニュラ、新しい小鉢と生卵を」
「はい」
「いえ、大丈夫です、私はこれで!」
「んなわけにいくかよ。いいからその小鉢はこっちに寄越せ。あと、ちょっと椅子引いとけ。服に着くと卵はなかなか取れないからな」
これから洗濯屋で研修を受けようってヤツが、服にべったり卵をこびりつかせているわけにはいかないだろう。
「ぁい、えーゆーしゃ」
「おう、サンキュー」
テレサの持ってきたおしぼりを受け取り、小柄な少女に差し出す。
「ほら、これで手を拭いとけ」
「でも……綺麗なタオルが汚れちゃいますし……」
「そういうのをキレイにするのが、お前らの仕事だろ。気にすんな」
汚れれば洗えばいい。
むしろ、汚れ物が出た方がお前らは儲かるんだろうが。じゃんじゃん汚していけ。
遠慮し続ける小柄な少女におしぼりを渡すのに苦労していて、――まさに俺は油断していたんだろうな。
トラブルが起こった直後は、別のトラブルを誘発しやすいってことを、すっかりと見落としてしまっていたのだ。
「熱っ!」
それはあまりに突然で、一瞬何が起こったのか、状況が理解できなかった。
小鉢をひっくり返した小柄少女に掛かりきりになっていた俺は、声のする方へ視線を向けて、そこでようやく状況を把握した。
キタテハ人族のマヨラが右腕を押さえて立ち上がっていた。
テーブルには、黄色く汚れた布巾が無造作に放り投げられている。
マヨラは、汚れたテーブルを布巾で拭いていて、うっかりと熱せられた鉄鍋に腕が触れてしまったようだった。
おそらくテレサがまだ小さいから手伝ってやろうとしたのだろう。
こぼれた生卵にばかり意識が向かい、そこにある鉄鍋にまで意識が向いていなかったようだ。
うっかりと触れれば一瞬で火傷を負う。
事故というのは、ほんの一瞬、気を抜いた瞬間に取り返しのつかない事態を招いてしまうものだ。
「ロレッタ、テーブルを頼む!」
「はいです!」
「カンパニュラとテレサはテーブルの清掃! 鍋には触るなよ」
「はい」
「……ぁい」
目の前で起こった事態が飲み込めていないのか、テレサは少し放心していた。
カンパニュラに目配せをして、テレサのことをしっかりと見ていてもらう。
ぼーっとしていると、次の事故を招きかねない。
「マヨラだったな。ちょっとこっちへ来い」
「え……あの」
「火傷の処置を行う」
「い、いえっ! 私の不注意ですし……っ!」
「いいから。来い」
「……は、はい」
変なところで恐縮するマヨラを、多少強引に連れていく。
「痛いと思うが患部には触るな」
「あ、はい……すみません」
ミスをした時、必要以上に自分を責めてしまうヤツは一定数いる。
いや、結構多いと言える。
そういうヤツは、「これは自分のミスだから」と、応急処置や手当てを受けることに罪悪感を覚えてしまうことがあるのだが、そんなもんを感じる必要はない。
必要はないのに、そう感じてしまって遠慮をしてしまう。
その状況は、軽いパニックに陥っていると言える。
応急処置や手当ては絶対に必要なことだし、遠慮するようなことではない。
むしろ、応急処置が遅れればその分怪我は悪化するのだから、その遠慮は害悪にすらなり得る。
なので、こういう場合は有無を言わさず強引に連行していくに限る。
「ヤシロさん」
「風呂場で患部を冷やしてくる」
駆け寄ってきたジネットに簡潔に伝える。
火傷の応急処置は、何をおいても患部を冷やすことだ。
氷水を患部に押し当てるという手もあるが、マヨラが火傷をしたのは腕の内側。
かなり敏感な部分だ。
そこを急激に冷やすと、冷たさが痛みに感じられることがある。
また、急激に冷やすのは場合によって血行を悪くしてしまうこともあるので注意が必要だ。
なるべくなら、流水で痛みが引くまで患部を冷やしてやるのがいい。
幸いにして、陽だまり亭にはよく冷えた川の水を引き込む水道がある。
患部を冷やすのにはもってこいだ。
「薬箱を出しといてくれ。ガーゼと包帯ってあったよな?」
「はい。今朝、新しいものと交換していただきました」
おぉ、そうか。
今朝はレジーナがここにいたんだった。
ケチャラの古傷の診察をしてたから、その時に薬箱の中身を確認したんだろう。
使った分だけ補充すりゃいいって言ってんのに、レジーナは定期的に中身を確認して古いものを新しいものと交換している。
清潔であって困ることはない、とかなんとか言って。
「こっちだ。足元気を付けろ」
「あ…………はい。すみません」
完全に恐縮しきっているマヨラ。
必要のないところでも謝罪の言葉が出てくる状態はあまりよくない。
自分一人が特別な扱いを受けている状況が、「なんか、とんでもないことをしてしまったのかも!?」という不安を掻き立てているのだろう。
そういう心理状況は冷静さを奪い、判断力を鈍らせる。
「ありがとうな」
「…………え?」
こういう時、こちら側が謝るのはあまりいい手とは言えない。
自分がやらかしたと自責の念に駆られている状況で相手に謝られると、罪悪感が一気に増大してしまうのだ。
「こっちが悪いのに謝らせてしまった……うぁあああ!」みたいな状況になる。
なので、感謝を述べておく。
「テレサが小さいから、手伝ってくれようとしたんだろ?」
「え……あの、でも、却ってご迷惑を……」
「いや。自主的に人助けが出来るヤツは案外多くない。まずは、率先して動けたことを誇るといい」
ただ手伝っただけ。
そう思うかもしれないが、誰かの役に立とうと行動を起こすことは、それはもう人助けと同じなのだ。
つまり、こいつはテレサを助けてくれたとも言える。
「だから、ありがとよ」
「ぅぐ…………私……っ」
「そんな顔しないでくれ」
両目に涙を浮かべるマヨラの頭をぽんぽんと撫でておく。
ちょうど風呂場に着いたので中へマヨラを誘導しながら、涙を引っ込める魔法の言葉を囁いておく。
「お前にそんな顔をされると、タオルを渡したテレサが自分を責めちまいかねない」
もし、マヨラが自分を責め続ければ、マヨラにタオルを渡したテレサが「自分が原因を作った」と自分を責めるかもしれない。
マヨラはワザと怪我をしたわけではない。
マヨラが取った行動は親切心によるもので、悪意など微塵も介在していなかった。
怪我をしたのはたまたま。不運だったのだ。
責められるようなことじゃないし、責める必要もない。
「だから、頼むな」
「………………はい」
涙を拭い、ぐっとつばを飲んで、洟を啜り上げる。
こういう、自分を責め続けてしまうヤツには、「誰かのために」って理由を与えてやるといい。
テレサを泣かせないために、マヨラは自分の涙を堪えてくれる。
テレサが自分を責めないように、マヨラはもう自分を責めることはしない。
そういうヤツだ。
「気にするな」よりも断然効果のある、まさに魔法の言葉だな。
大浴場へ入り、水道から流水を患部へとかけ続ける。
「冷たい……」
「少し我慢してくれ」
「あ、いえ、嫌なんじゃなくて……すごいなぁって。家の中に川があるから」
「水道ってんだ。シラハの館のそばに大衆浴場を作るから、そこにもこの水道が設置されるぞ」
「そうなんですか!?」
自分の知らないものが、自分たちのよく知る場所に出来る。
その事実はマヨラに大きな衝撃を与えたようだ。
「これが、あそこに……」と、水を流し続ける水道を観察するように見つめるマヨラ。
「まだ痛むか?」
「えっと……もう大分マシになりました」
「ってことは、まだ痛いんだな」
「…………はい。じんじんしてます」
「正直でよろしい」
正直に話したことを分かりやすく褒めるために、頭を撫でておく。
さっきも撫でたので、こいつの頭はもうすでに撫でやすい頭になっている。
「あの……褒められるようなこと、なんでしょうか?」
「当たり前だ」
頭を撫でられることを嫌がる素振りは見せないが、恐縮しているようだ。
恐る恐る、窺うように視線をこちらに向けている。
「痛みや苦しさは本人にしか分からない。そこを正直に話してくれないと、診察なんか出来ないからな」
めちゃくちゃ痛いのに、「もう平気です」なんて言われちまったら、痛み止めの薬を出し損ねてしまう。
「他の連中にも言っといてくれ。怪我や病気をした時は我慢せず、正直につらさを話すようにって。そうでなきゃ、助けられるものも助けられなくなっちまう」
ふと、過去の傷が疼いた。
……そうだよな。
救えなかった痛みは、一生消えないんだ。
「レジーナやジネットはお人好しなんでな。『助けられなかった』なんて一生自分を責めかねない。だから、正直に話してくれる方がこっちにもメリットがあるって、しっかり周知しといてくれ」
「……はい。分かりました」
遠慮することが却って迷惑をかける。
そのことが周知されれば、変に恐縮することもなくなるだろう。
痩せ我慢は自身を苦しめ、医療従事者に無力感を与える。誰も得をしない忌むべき行為だと知っておいてほしい。
「で、患部は痛むか?」
「めちゃくちゃ痛いです……」
「正直でよろしい」
ぽんぽんっと、仕上げに頭を軽く叩いてやると、「えへへ」と、マヨラは照れ笑いを浮かべた。
そーゆー顔が出来るなら、もう大丈夫だな。
「寒くないか?」
「えっと……少し、寒いです」
「んじゃ、タオル持ってくるから、冷やしとけよ」
もう大丈夫だろうと判断し、少しマヨラから離れる。
湯を張ってない風呂場はちょっと肌寒い。
俺も寒くなってきた。
バスタオルが脱衣所に置いてあるはずだからそれを羽織っておこう――と、思ったら。
「こちらを使ってください」
ジネットが毛布を持ってきてくれた。
すげぇいいタイミング。
「お風呂場は寒いかと思いまして」
気を利かせて持ってきてくれたらしい。
というか、持ってきていたのに、こっちの話が終わるのを脱衣所で待っていたのかもしれないな。
……さっきの話を聞かれてたら、ま~た俺が善人だとか勘違いされちまいそうだ。
「マヨラさん、お加減はいかがですか?」
「あっ、店長さん」
「羽織ってください。お尻も冷えますからこちらを」
毛布だけじゃなく、クッションも持ってきていたっぽい。
体を洗う時の低い木のイスにクッションを敷く。
風呂場に布製品が溢れている光景は違和感あるなぁ。
「注意が行き届かず、マヨラさんに怪我をさせてしまい、申し訳ありませんでした」
「いえっ! 私の不注意ですから! 気を付けるようにって最初に言われてたのに……だから、謝らないでください!」
確かに、「鍋は熱いから触るな」って言われて「はーい!」って返事してたよな。
とはいえ、謝罪をしないわけにはいかないんだよ、飲食店としてはな。
俺の見ていたテーブルでの事故だが、陽だまり亭の最高責任者はジネットだ。
だから、ジネットはすべてのことに責任を持ち、責任者として謝罪を述べる。
もっとも、表情に悲痛さはないので必要以上に自分を責めているマヨラとは心情が大きく異なるだろうけれど。
「こちらこそ、ご迷惑をおかけしてしまって申し訳が……」
「その謝罪は必要ありませんよ。ですが、マヨラさんのお気持ちは確かに受け取りました」
だから、これでお互いに謝罪し合うのはやめましょうと、ジネットはマヨラの謝罪に終止符を打つ。
はい。
これでこの件はおしまい。
もう誰も謝罪する必要はない。
あとは、補償だな。
「マヨラ。変に自分を責めずに聞いてほしいんだが、店で起こった事故ってのは、店の落ち度なんだ。安全管理が不十分だったと言わざるを得ない」
よっぽど、客側が馬鹿なことをしでかした場合でもない限りはな。
「だから、テーブルを担当していた俺と、この店のためにせめてもの償いをさせてくれないか?」
「そんなっ!? そんなことをしていただくわけには!」
「えーんえーん、このままじゃ『陽だまり亭は飯を食いに行くと怪我をして帰ってくる食堂』って言われて、客が寄り付かなくなって、倒産してしまうよー」
「それは悲しいですー、しくしく」
「誰も言いませんよ、そんなこと!?」
俺の泣き真似にジネットが追従して、マヨラが盛大に慌てふためく。
あ、ジネットが思わず吹き出している。
案外好きなんだよな、こういうおふざけ。
軽く笑って、ジネットがマヨラの手を取る。
「火傷の治療をさせてください。ね?」
陽だまり亭の置き薬は、使った分だけ料金が発生する。
大工が怪我をしたとか言って軟膏を塗っていったり、捻挫したとか言って膏薬を塗っていったりしては金を置いていく。
その金で、陽だまり亭はまた新しい薬を補充している。
が、今回は陽だまり亭が薬代を持つ。
俺の不注意だもんなぁ。
小柄女子の方に完全に意識を向けていて、マヨラがテーブルを拭こうとしているのを止められなかった。
「悪いな、ジネット」
「いいえ。誰も悪くなんてありませんよ。不幸な事故だったんです」
ま、事故なんてもんは、どれもこれも大小はあれど不幸なもんだ。
時折、自業自得って場合もあるけども。
患部を冷やし始めて、そろそろ二十分くらいは経つか。
「んじゃ、フロアに戻って薬を塗るか」
「そうですね。きっとみなさん心配されていますから」
いつまでも姿が見えないと不安ばかりが募ってしまう。
怪我をしたとはいえ、なるべく元気な姿を早く見せてやるべきだろう。
患部を見られると痛々しくて逆効果になることもあるから、そこは要注意だけど。
「戻る前に、マヨラ、一つ頼まれてくれないか?」
「え?」
なんでもかんでも俺が口出しするわけにはいかないので、一部はマヨラに丸投げしておく。
「小鉢をひっくり返した女子がいたろ?」
「ウノですね」
「ウノってのか」
「はい。イチモンジセセリ人族のウノです」
イチモンジセセリ……たしか、生態的に蛾と蝶の中間にいるような昆虫だったっけ?
よく、停まっている時に羽を閉じているのが蝶で、羽を広げているのが蛾だとか言われるが、実は違って、蝶と蛾には明確な分類がない。
……ないっていうと、それはそれでまた語弊があるんだが、とにかく、素人が「こう!」とはっきり言えるような明確な違いは、実はなかったりするのだ。
結構、人間の都合で蝶と蛾を分けている部分があって、生物学的に線引きは微妙だったりするんだ。
そんな関係で、新種なんかが見つかった時は「こいつは蝶なのか蛾なのか」って議論が白熱したりもするわけだ。
で、蝶の特徴も蛾の特徴も併せ持つヤツってのが存在するんだが、イチモンジセセリってのはたしかそんな蛾と蝶のハイブリッド的なポジションだったはずだ。
そうか。
あの小柄女子はイチモンジセセリ人族なのか。
「羽がないから分からなかった」
イチモンジセセリは羽が特徴的なので、羽があったら分かったかもしれないんだが。
「私たちの羽って、大きく成長することも、子供の時から大きさが変わらないこともあるんです。中にはまったく羽がない人もいますし」
「ウェンディさんは、羽がまったくありませんね」
鱗粉は飛ばすけどな。
どっから飛んできてんだ、あいつの鱗粉?
「ウノは、クビの後ろの、肩甲骨の間辺りに羽の模様だけがあるんですよ」
なんか、蝶々のタトゥーみたいだな、それだと。
蝶々のタトゥーを入れるお姉さんは、高確率でセクシーな服を好む。(俺調べ)
まぁ、ウノのは獣特徴であってタトゥーじゃないからセクシーな服は着てなかったけど。
というか、むしろめっちゃ地味な服装だったな。
「それで、ウノが何か?」
「たぶん、自分のせいでって気にしちまうと思うから、うまくフォローしてやってくれ」
自分が小鉢をひっくり返したせいでマヨラが火傷したと思っちまってるだろうからな。
「ふふっ」
任務を与えると、マヨラは小さく笑った。
「今していただいたことを、今度は私がするんですね」
眉毛は不安そうに曲がっているが、瞳はキラリと輝いていた。
「上手に出来るか分かりませんけれど、お二人にしていただいたことを参考に、頑張ってみます。……あの、自分でやらかしちゃったから、アレですけど……楽しい思い出にしたいですから」
「そうですね。わたしも、みなさんが今日のことを思い出す時に笑顔だと、嬉しいです」
確かに、陽だまり亭を見る度につらいことを思い出すなんて、看過できないよな。
しっかり頼むぞ、マヨラ。
「んじゃ、フロアに戻って治療だな」
「はい。お願いします」
使命があるからか、風呂場に連れてきた時のような悲愴感や罪悪感のような影は、もうマヨラの顔には見られなかった。
フロアに戻ると、研修生たちがわっと駆け寄ってきた。
「マヨラ、平気?」
「大丈夫?」
「うん。大丈夫大丈夫。ちょっとドジっちゃったよ~」
あははと、努めて明るく笑うマヨラ。
暗くなりそうな雰囲気を払拭しようとしてくれているようだ。
そんなマヨラを見て、シラハとイロハが少し引いた場所から見つめ、笑みを深める。
マヨラの気遣いに気が付いたのだろう。
「ほら、下がれ。これから傷の手当てすんだから」
「ヤシロさん、薬箱です」
「おう」
全員を下がらせて、カウンターで傷の手当てをする。
アロエに似たこの世界の薬草から作った火傷用の軟膏を塗って、綺麗なガーゼをあてがって包帯をしっかりと巻く。
十分に冷やしたから水ぶくれになることもないだろう。
レジーナのこの薬は皮膚の炎症をしっかりと抑えてくれるので、ガーゼが張り付いて水ぶくれが潰れて「うわぁ……」的な悲劇も起こらない。
しっかりと覆って、外部からの刺激をシャットアウトしておく。
「念のため、痛み止めも出しとくから、痛みが酷いようなら一包ずつ飲むんだぞ」
「…………」
「どした? マヨラ?」
「……え? あっ、はい! 痛みはありませんので、大丈夫だと思います!」
名前を呼んだら「びくっ!」っと肩を揺らして、急に早口で返事を寄越してくる。
声がでかい。
なんだよ、ぼーっとして。
「すみません、あの……あまりに綺麗だったもので」
綺麗?
「あの…………もう一回薬を塗っていただくわけには?」
「いや、無駄だわ!?」
さすがに、薬の無駄塗りは拒否させてもらうぞ。
「はぁ……なんて綺麗な包帯捌き……」
いやいや、捌いてない、捌いてない。
普通に巻いただけだから。
「ヤシロさん、お上手ですよね?」
「はい! 惚れ惚れしました!」
ジネットに声をかけられて、そんな返事をするマヨラ。
だから、普通だってのに。
確かに、レジーナにも褒められることあるけども。
「ほい、これで処置は終わりだ。もし今後、違和感や不安があったらレジーナって薬剤師を訪ねろ。些細なことから一大事まで、あいつならきっとなんとかしてくれる」
「はい。……あ、いやでも、私なんかが……薬剤師様に診ていただくなんて……」
「大丈夫ですよ。レジーナさんのお薬はとてもよく効きますし、レジーナさん自身もとっても優しい方なんですよ」
ジネットがマヨラの不安を払拭するように笑いかけるが、マヨラの表情は晴れない。
レジーナを知らないヤツにとって、医療ってのは金がかかるってイメージで、自分たちとは無縁の世界って感じなんだろうな。
薬師ギルドの薬なんて、領主代行だったエステラが気後れするような金額だったわけだし。
一般人にはちょっと怖い印象があるのだろう。
俺としては、この街の医療は金がかからな過ぎてびっくりしてるくらいなんだが。
レジーナのヤツ、診察料って取ったことないんじゃないか?
正しい薬を処方するためのサービスみたいな感じで診察してるもんな、あいつ。
技術と知識をタダでばら撒いて。
もったいない。
レジーナは変態ではあるが、怖いヤツじゃない。
それでも、慣れていない者たちにとってはなんとなく怖い場所なのだろう。金銭的な部分以外でも、なんとなくな。
そんな感情が表情に表れている。
「それでも、どうしても不安が拭えないのでしたら、また陽だまり亭にお越しください。ここには、薬がありますから」
そう言ったあとで、「もっとも、わたしは診察が出来ないんですけどね」と苦笑を漏らす。
それでも、今回のように渡す薬がはっきりしている場合はジネットがいればそれだけで十分事足りる。
「まぁ、俺がいる時なら診察くらいしてやるし、不安があるならそれも解消してやろう」
マヨラの目を覗き込んで、その目の中から不安を取り除いてやる。
「怪我人の不安なんて、どーせしょーもないことばっかなんだから、俺が笑い飛ばしてやるよ」
怪我や病気をすると心が摩耗して、ちょっとしたことでもネガティブな感情が膨れ上がってしまう。
それらは全部「そんなわけねぇーだろ」で済む話なのだ。
気にし過ぎ、気のせい、気に病む必要なし。この三つの返答で大抵カタがつく。
「分かったか?」
マヨラの目を覗き込みながら問えば、マヨラは口をぽかんと開けたまま、こくりと頷いた。
口閉じろよ。まぬけな顔になってんぞ。
「よし。じゃ、すき焼きの続きだ。どうせみんな気にして途中で止まってるんだろ?」
「正解さね」
菜箸を握り、ノーマが頷く。
「よし、仕切り直しだ! カンパニュラ、テレサ、全員の卵を新しいものと取り替えろ!」
「はい! 行きますよ、テレサさん」
「ぁい! がんばります!」
やっぱり、ちょっと自分を責めていたっぽいテレサ。
けれど、カンパニュラがうまくノセてくれたようで、ミスを仕事で挽回しようという方向へ意識が向いているようだ。
空回らない程度に頑張れ。
「あ、あのっ!」
すき焼き再開に向けて空気が流れ出した中、悲痛な声が上がる。
小柄な女子が、マヨラの前に立って、今にも泣き出しそうな表情を見せる。
「マヨラさん、すみません! 私のせいで……」
青い顔をしてぷるぷると震える小柄な少女、ウノ。
マヨラはウノの顔を見て目を丸くしたあと、柔らかく微笑んだ。
「ウノのせいじゃないでしょ?」
「でも、私が卵をこぼしたから……っ」
「違う。アレは事故。だ~れも悪くなんかないんだよ」
「けど……っ!」
気にするなと言っても気にしてしまう。
そういう相手を落ち着かせるにはどうすればいいのか……なんて悩んでそうなマヨラが、ふと俺の方を見る。
俺を見て、じ~っと見つめて、キリッと眉を持ち上げて一度大きく頷いた。
なに?
今、何に頷いたんだ?
「ウノ。――オレの前で、そんな顔をするんじゃねぇーよ」
「……へ?」
突然口調を変えたマヨラに、ウノがぽかんとした顔を向ける。
「アレは事故だったんだ、誰が悪いわけじゃねーよ。お前がそんな顔してたら、オレは悲しいぜ?」
何を思ったのか、マヨラは若干低めの声を出し、しゃべり終わると同時に「ふっ」と前髪を掻き上げた。
「むしろオレはお前に感謝してるんだ。お前のおかげで、ヤシロさんと店長さん、こんな素敵な二人とゆっくり話をする時間が持てたんだからな。それはな、ウノ、お前のおかげなんだぜ☆」
ウノの頭をぽんぽん。
からの、前髪ふぁっさ~。
そしてダメ押しの「ふっ」。
「お、お兄ちゃんそっくりです!?」
「おい待てロレッタ!?」
それはもはや悪口に分類される発言だろう!?
いや、俺も「まさか? いや、ないよな?」とか思いつつもいや~な予感はしてたんだぞ?
でもな、ソレをソレと認めちまったら、俺がアレみたいじゃねぇか!
「マヨラさんはマヨラさんだと分かっているのに、あまりにヤシロさんっぽくて、ちょっとドキドキしてしまいました」
え、ちょっと待って、ジネット!
俺、あんなん!?
あんなんなの!?
ショックデカいんですけど!?
「マヨラさん……素敵……」
ウノまで、なんか変なこと言い出した!?
ぽーっとしちゃってるし、ほっぺたうっすら赤く染まっちゃってるし、「優しい……」とか呟いちゃってるし!
で、その流れで俺を見るな、ウノ!
「ヤシロ。風呂場でマヨラにどんなことをしたのさ?」
「なんもしてねぇわ!」
普通に火傷の手当てをしただけだっつーの!
「ウノ、聞いて。確かに私は、ウノがこぼした卵を拭こうとして火傷をした。でもね、それは決してウノのせいじゃない。私の不注意もあったし、ヤシロさんや店長さんはお店にも責任があったって言ってくれたの。だからウノ、自分ばかりを責めないで。ウノがいつまでもそんな顔をしてちゃ、私たちのために優しくしてくれたヤシロさんや店長さんが気に病んじゃうでしょ?」
「あ…………そっか。そう、ですね」
「だから、ね? ウノ」
ウノの顔を覗き込んで、マヨラは「ふっ」っと前髪を掻き上げる。
「笑ってごらん。そのキュートなフェイスでさ☆」
「言ってねぇわ! 絶対言ってない! 似たようなニュアンスのことすら言ってない!」
俺のマネとか謳って勝手な発言しないでくれる!?
それ、もはや捏造の域だからね!?
「あぁ……ケチャラが薬剤師様に憧れて『ウチ』って言い始めた気持ちが分かる……私も、口調までは無理でも、自分のことを『オレ』って言いたい!」
「いや、普通でいいから! 俺の影響なんか受けなくていいから!」
「これが、オレの普通です!」
「影響受けちゃったなぁー!? 驚くほどに早く、そしてめっちゃ頑固そうだなぁ、おい!」
こうして、どーやら俺は、またしてもちょっと残念なヤツに懐かれてしまったようだ。
……おい、精霊神。
お前だろ?
こーゆー残念なヤツをわんさか俺の周りに呼び集めてんの?
ホンット、いい加減にしとかないと、マジで一発ぶん殴りに行くからな?
「さぁ、みなさんに笑顔が戻りましたので、すき焼きを再開しましょう」
ジネットの掛け声で、中断していたすき焼きが再開された。
少々時間が押したが、全員が満腹になるまですき焼きは振る舞われた。
そして、すぐさま次の予定、ノーマの裁縫講習会のセッティングが始まる。
くそっ。
オイルライターのためにも、こっちの準備を滞りなく行わなけりゃいけないのに……マヨラとウノを放置しとくと、後々面倒くさいことになりそうで気が気じゃないなーもう!
精霊神!
お前、もう、マジで余計なことすんなよ!
もうお腹いっぱいだからな、いろいろと!
マジだからな!?
どんなに天に向かって念を飛ばしてみても、当然精霊神からの返答はなかった。
あとがき
客「邪魔するで」
店主「邪魔すんねやったら帰ってんか」
客「おう、ほなまた来るわ――って、なんでやねん」
これです!
関西の小学生が毎週土曜日に何度も何度も見ていた、王道のノリ突っ込み
それが、「邪魔するなら帰れ」です!
どうも!
土曜日は小学校の授業が午前中で終わって
家に帰ってサッポロ一番塩ラーメンを食べながら吉本新喜劇を見るのがお決まり世代の
宮地です☆(>▽・)
楽しかったですね~『半ドン』
半日授業のことなんですが、言葉の意味は分かりません(笑)
最近は完全週休二日制で土曜日授業自体がないだとか
その反動で実は土曜日もみっちりと授業しているんだとか
中学になると七時間目まであるんだよとか
なんかいろいろ情報を聞いたり聞かなかったりしますが
最近の学校ってどんな感じなんでしょうね?
最近、めっきり通ってないのでさっぱりです☆
通おうかなぁ、小学校♪
そして、放課後に誰もいない教室に忍び込んで好きなあの子のリコーダーをぺロペ…………アルトリコーダー!?Σ(゜Д゜;)
好きなあの子が、他の誰よりもデッカいリコーダーを持ってきていたらビックリですね☆
ゆーざん「ぺろり……ふむ、この風味豊かな味わい、このリコーダーは本物の素材で作られた本物のリコーダーだ。おい、女将を呼べ!」
警察さん「は~い、じゃあとりあえず署まで来てもらおうか」
ゆーざん「いゃん、呼んでほしいのは『女将』であって『お上』じゃないのに☆」
なんてこと、どこの小学校でもよくあることですよね(*´ω`*)
小学生A「おい、今週もゆーざん来てたぞ」
小学生B「マジか。暇だなぁ、ゆーざん」
みたいなのが、定番の雑談だったことでしょう。
そういえば、
好きな子のリコーダーを舐めるとか、
冗談や創作の世界ではよく耳にしますが
実際に実行している人っていたんでしょうか?
ウチの学校にはいませんでしたね、そんなことをする児童は――
私以外には、ね☆(どやぁ!)
……あ、嘘ですよ?
私もしてませんよ?
こう見えて、結構潔癖ですから。
潔癖というかツェッペリンですから。
あ、ツェッペリンっていうのはレッド・ツェッペリンっていうイギリスの有名なバンドでジミー・ペイジっていうギターリストが在籍していたんですよ。
『けっぺき』と『つぇっぺりん』を掛けた、高度なダジャレです☆
語感と勢いしかない!?Σ(゜Д゜;)
いえ、「私以外には」って、最近すごい衝撃を受けたワードでして
先日、本社の窓口担当が定年退職されるということで、
ウチの会社の担当者が変わりますよ~ってわざわざ顔見知りの本社の社員さんが報告に来てくださったんですね。
それで、その担当者、仮にAさんとしておきましょうか
怪談話の冒頭!?Σ(゜Д゜;)
顔見知りの本社社員Bさんが、「やだな~。怖いな~怖いな~」って、ひったひった歩いてたんですね。
稲川風語り口調!?Σ(゜Д゜;)
それでまぁ、なんか怖がっているBさんを捕まえまして、
「新しい窓口担当になるAさんってどんな人なんですか?」って聞いたんです。
そしたら――
Bさん「すごくいい人ですよ。物腰も柔らかいし、仕事も早いですし、たぶんあの人のことを嫌ってる人なんていないんじゃないですかねぇ、――私以外には」
宮地「嫌ってる人がここにいた!?Σ(゜Д゜;)」
――っていうことがありまして
早速パクってみました☆(☆>ω・)てへっ
その結果、リコーダーぺろりーな疑惑ですよ
まったく、やってられませんよ!
全部Bさんと稲川さんのせいです!
ぷぅ!
稲川さん! もう!
ほい、というわけで、
稲川さんに濡れ衣を着せたところで、
本編ではまたヤシロさんが信者を生み出してしまいました(笑)
ちょっと前の、
すき焼きを食べに行ったんですよ~ってあとがきを書いたときにちらっと書いたんですが
私、そのすき焼き屋さんで鉄鍋触っちゃって火傷したんですね(^^;
めっちゃ痛くて、二~三日じんじんとした痛みが引かなくて
「こんな痛い重いするなら…………糧にせねば!」と、本編のエピソードにぶち込んでみました☆
エピソード、ぶち込んじゃいました☆
そんな甘栗をむいちゃったみたいに!?Σ(゜Д゜;)
……『甘栗むいちゃいました』って、最近見かけないですけど、どの世代にまでなら伝わりますかね?
一時期「主食か!?」ってくらいに貪り食っていたので私よく使うんですが、
そろそろ、「甘栗? を、むいちゃう?」的な反応をされている気がして……どきどき
(・_・;
そうそう、それでですね
熱した鉄って、ほんの一瞬触れるだけで「じゅっ!」って火傷しちゃうんですよ
むかぁ~し、
20代だったころ、
プラスチック成型機を操作する仕事をしていたことがあるんですが――
プラモデルとか作る機械なんですけど、
300℃くらいのオイルを鉄製の金型の中に物凄い勢いで流してそれで鉄板を200℃近くまで熱して、プラスチックの材料を溶かして、型に流し込んで、圧縮して、一気に成型するっていう機械なんですが
金型って結構デリケートなので、1ロット(2~300個くらいですかね)作る間にも複数回メンテが必要なんですね
で、めっちゃ熱い鉄板をメンテするわけですけども、
鉄板も、オイルを流す鉄の管も、成型機本体も、全部めっちゃ熱いんです
それのどこかに一瞬でも触れると「じゅっ!」って大火傷するような
そして実際何度も手に火傷を負ったわけですけども
そんな過酷な仕事をやっていた経験がある私ですから
家庭用コンロで熱したすき焼き鍋程度、熱くもなんともないわ――じゅっ!――熱っつぅーーい!( ノД`)
やっぱり、熱いものは熱いですね。
皆様も、すき焼きをする際は火傷に気を付けてくださいね☆
ヤシロさんみたいに優しく慰めてくれる人、そうそういませんから。
ちなみに、上記の「熱っつぅーーい!」を「ねっつぅーーい!」と読まれた方、
感性、独特ですよ!
自覚を持ってください!
「あっつぅーーい!」ですからね!
そんなわけで、
火傷とリコーダーと吉本新喜劇なあとがきでした☆
テーマが混沌!?Σ(゜Д゜;)
次回もよろしくお願いいたします!
宮地拓海




