413話 あいむほーむ
チャレンジャーズの芝居が終わり、軽くルシアと打ち合わせを終えた後、俺たちはすぐさま馬車に乗って四十二区へと戻ってきた。
ルシアは、また近いうちに四十二区へ話をしに行くとか言っていたが、……マジで近いうちなんだろうな。
そうして、かっぽれかっぽれ馬車に揺られて、空が夜の色に染まったころ、俺たちは四十二区へと帰ってきた。
「……あいむほーむ」
「おかえりなさい、マグダさん」
ばっと馬車から飛び降りて、一人で先に陽だまり亭へと駆けていったマグダ。
馬車より走った方が速いもんな、お前の場合。
おーおー、ジネットに飛びついて「ぎゅー!」しとるわ。沈むねぇ~、相変わらず。
「……はっ!? いいこと思いついた!」
「いや、たぶん無理ッスよ!?」
「ジネット氏のお隣にエステラ氏も立っておられるでござるから、途中で確実に排除されるでござるよ!?」
同じ馬車に乗りながら、ウーマロとベッコが俺のナイスなアイデアを否定してくる。
分かんないだろうが、そんなこと、やってみなくちゃ!
というわけで、ルシアが出してくれた馬車が陽だまり亭の前に停まった瞬間、俺も馬車から飛び出して、ジネットに向かって両腕を広げて駆け出してみた。
「あいむほ~~~む☆」
「やぁ、おかえり、ヤシロ」
刃物に出迎えられた。
ちぃ、エステラめ!
「予想通りの展開が目の前で繰り広げられたッスね」
「うむ。ここまで寸分違わぬ予想通りはなかなかお目にかかれないレベルで予想通りだったでござる」
なんだか、してやったりな顔のウーマロ&ベッコ。
予想していたなら、事前に妨害を妨害する策でも練っていればいいものを。
「たとえば、最新式乳パッドを馬車の窓からばら撒き、エステラの注意を事前に逸らせておくとか!」
「そんなものに引っかかるわけないだろう」
「クオリティによっては、40%くらいの確率で引っかかるだろうが」
「そ……そこまでは、高くないよ、きっと」
20%くらいならあり得るかもな~、みたいな顔で目を逸らすエステラ。
俺が全力を注ぎ込んで作成した乳パッドなら、きっとお前の意識を逸らすことが可能だろう。
まぁ、そんなものは絶対作らないけどな!
大きな偽物より小さい本物!
「ボロは着てても心は錦! つまりそーゆーことだ!」
「よく分かんないけど、マグダのハグが終わったみたいだから、懺悔してくるといいよ」
エステラの指差す先では、ジネットが困り顔でこちらを見ていた。
「ただいま」
「おかえりなさい、ヤシロさん。……もぅ、ダメですよ。あまりそういうことばかり言っては」
「は~い」
「分かってくだされば、それで構いません」
にっこりと笑って出迎えてくれる。
頑張った直後は結構免除されるんだよ、懺悔。
だから、「甘い」とかなんとかうっせーよ、ウー&ベッ。
ご褒美なしにして追い返すぞ。
「三十五区はどうでしたか?」
「それは飯を食いながら話すよ。ずっと働き詰めで腹減ってんだ」
「では、とびっきりの夕飯をご用意しますね」
ジネットが腕まくりをして店の中へ入っていった。
ん? この急ぎ方は……あぁ、そうか。そういうことか。
「それでは、私はこれで」
ここまで俺たちを運んでくれた、ルシアのとこの御者が御者台で頭を下げ手綱を握る。
「あぁ、ちょっと待て」
ジネットが俺たちを置いてさっさと陽だまり亭に駆け込むのは、陽だまり亭の中で何かをやった後、再びここへ戻ってこようとしている時だ。
きっと、またすぐに戻ってくる。
「あの、もしよろしければこちらをお持ちください」
思ったとおり、再び店の外へ出てきたジネットは、そこそこ大きな包みを持っていた。
あれは、陽だまり亭の弁当だな。
「事前にマーシャさんから、ヤシロさんたちは馬車でお戻りになると伺いまして、お弁当を用意させていただきました。こちらでゆっくりお食事されるような時間は取れないだろうと聞いていましたので、せめて道中で召し上がっていただければと」
「おぉ……なんと。そのようなお気遣いを」
「いつもお世話になっていますから」
この爺さんは、俺たちが三十五区へ向かう時に結構世話になってるしな。
ジネットもこの爺さんの馬車に乗せてもらったことがある。
そんなわけだから、ジネットが是非とも礼をしたいと考えるのも当然だろう。
「ありがとうございます。休憩の時にいただかせてもらいます」
「はい。道中、お気を付けて」
にっこりと笑って、御者の爺さんは馬車を発進させた。
ゆっくりと遠ざかっていく馬車をしばし見送る。
「嬉しそうな顔してたな、爺さん。きっと大喜びで弁当食うぞ」
「そうだと嬉しいですね」
満足げに微笑んで、「さぁ、みなさんも。夕飯にしましょう」と俺たちを店内へと誘導する。
そうそう。
何もない時はこうやって一緒に店内に入るんだよな、ジネットは。
「お兄ちゃん、おかえりなさいです! ウーマロさんとござるさんも、お疲れ様です!」
店内に入ると、ロレッタが出迎えてくれた。
店内には、まだ客の姿が結構あった。
カンパニュラがほかほかのタオルを人数分持ってきてくれる。
「皆様、こちらをお使いください」
「おぉ、サンキュウな」
ほかほかのタオルを手の中で二~三度バウンドさせ、顔に被せる。
あぁー! 気持ちいい!
ホットタオルで顔拭くの、気持ちいー!
喫茶店でやると「オッサンだ」とか言われるようだが、知ったことか。こちとら中身はオッサンなんだよ。
「わぁ~、これいいッスね!」
「うむ。得も言われぬ心地よさに、疲れが吹っ飛んだでござる!」
「じゃあベッコ、今日作ったメンコをもう6セットくらい作っといてくれ」
「精神的な疲れが吹っ飛んでも、肉体的な疲れは蓄積されているでござるよ!?」
「お前なぁ……『寝ずに、働く』と書いて『休息』と読むんだぞ?」
「読まないでござるよ!? 休息とは真逆の行為でござる、それは!?」
読まぬなら、読ませてみせよう、社畜らに。
言葉というものは、時代とともに増えていくものなのだから。
「あ、ヤシロ。おかえり!」
「やっほ~☆ お先だったよ~☆」
厨房から、マーシャを抱っこしたデリアが出てくる。
ホント速いよなぁ、人魚。
港で俺たちを見送ってたんだぜ、マーシャ?
あっという間に追い抜かれたわけだ。
「カンパニュラ。テレサは厨房か?」
「はい。マグダ姉様に連れられて、ご褒美ご飯を作るのだと意気込んでいましたよ」
ウーマロとベッコに、お手製ミートボールを作るって言ってたからな。
「ノーマが教えるって張り切ってたぞ」
デリアが厨房を指差して言う。
ノーマも手伝ってくれてるのか。
ノーマか……
「じゃあ、カニのあんかけミートボール丼にするか」
「カニさね!?」
わぁ、厨房からノーマが出てきちゃった。
「あ、じゃあ、私の水槽の中から好きなカニ持ってっていいよ、ノーマ☆」
「任せっさね! これでも、カニを見極める目は持ち合わせてんさよ!」
いつの間に、カニに特化したんだ?
「あのっ、あんかけでしたら、わたしに一つアイデアが! お手伝いしますね!」
張り切るノーマを見て、ジネットが慌てて厨房へ飛び込んでいく。
こりゃまた、美味い飯が期待できそうだ。
「よかったぁ。ヤシロたちが帰ってくるまで夕飯を我慢してて」
エステラも、美味い飯アンテナをビンビンに立てて厨房を見つめている。
「まぁ、出張帰りはいつもジネットが張り切って飯を作ってくれるからな」
「それもあるけど、今日は君たちと一緒に食事を取ろうと思ってたんだ」
照れくさそうに笑って、頭などを掻くエステラ。
「急遽三十五区へ行ってもらうことになってさ、なのにボクはついていけなかったから」
そんなことを気にして、俺たちが戻るまで夕飯を我慢していたようだ。
いつもなら、とっくに食い終わって食後にまったりしている時間だろうに。
「それに、疲れた時、ヤシロは素直にジネットちゃんに甘えるからね。ヤシロが素直に食べたいって言う料理は、まず間違いなく美味しいから」
そうとも限らんだろうに。
たまにB級グルメが無性に食べたくなる時もあるし、お茶漬けで済ませる時もある。
けどまぁ、俺が疲れて帰ってくるとジネットが腕を振るってくれるのはいつものことなので、エステラの読みはなかなかいいところを突いていると言える。
「この、食い意地領主」
「えへへ。まぁ否定はしないでおこう。さぁ、いつまでも立ってないで座ろうじゃないか」
「ご案内いたします」
カンパニュラが俺たちを先導し、いつもの席へと連れて行ってくれる。
定位置に腰を下ろせば、当然のような顔でエステラが向かいに腰を下ろし、ウーマロとベッコは、一個離れたテーブルに向かい合って腰を下ろした。
ウーマロは、エステラと同じテーブルじゃ、緊張して味が分かんなくなるだろうからな。
「お隣失礼しま~す☆」
デリアに連れられ、マーシャが俺の隣へ座る。
で、エステラの隣にデリアが腰を下ろす。
俺とマグダが抜けるからと、今日一日手伝ってくれていたのだ。
「デリア、ありがとな。店を見ててくれて」
「あぁ。あたいは、頼りになる先輩だからな」
ドンッと胸を叩いて豪快に笑う。
俺も思わず笑顔に☆
「それじゃあ、ご飯が来るまでの間に、君の口からも聞かせてもらおうかな。今回の三十五区での出来事と、成果をね」
すでにマーシャからあらましは聞いているが、俺の口からも報告を受けたいらしい。
マーシャは、興味のあるなしで報告の熱量に偏りが出るらしい。……まぁ、さもありなん。
「まずは、そうだな……深夜、早朝のイーガレス家の面倒くささから――」
「いや、そこはいいや。今後も、その辺は君に担当してもらうつもりだから、担当者が理解してくれていればそれでいいよ」
誰が担当者なんぞになるか。
今度はお前が泊まりに行け。
「ナタリアたちを動員しなくても、新作の人形劇は上演できそうだっていうことだけど、本当なの? いや、マーシャを疑うわけじゃないけどさ、彼らの演技力を目の当たりにした身としては、ね?」
「あぁ、それなら、恐らく大丈夫だろう。実はな――」
そうして、俺はジネット&ノーマが張り切って作っているご褒美ご飯が出てくるまでの間、今回の三十五区遠征での出来事をエステラに報告していった。
「へぇ、モノマネでねぇ……あぁ、そういえば、カンパニュラもテレサのモノマネは上手だったね」
「毎日よく観察しておりますので」
お盆で口元を隠し、「うふふ」と笑うカンパニュラ。
桃太郎の紙芝居の時、サル役でテレサのマネをした時があったんだよな。確かにあれはよく似ていた。
「何もないところから人間の感情をイメージして作り上げるのは難しいが、モデルとなるものがあれば案外なんとかなるもんなんだろうな」
俺は、演じることに慣れ過ぎているので、芝居の難しさってのに鈍くなっているかもしれない。
「出来ないヤツには難しいんだろうなぁ~」ってことは分かっても、どこで躓いて、どこが理解できていないのか、その辺がちょっと分からない。
案外、感情の持っていき方や台詞回し以前の、もっと根本的な部分で引っかかっているのかもしれない。
「見て盗め」以外の教え方って、ないような気もするからなぁ、芝居って。
理論的に説明してもなかなか難しい部分が多い。
センスは、他人が教えられるものじゃないからな。
「あのジネットですら、ベルティーナの真似をする時は棒読みじゃなくなる」
「もう、ひどいですよ、ヤシロさん」
お盆に料理を載せてやって来たジネットが頬をぷっくりと膨らませて抗議してくる。
いや、ひどいもなにも、お前の棒読みは四十二区屈指のものだからな?
「中の下くらいかなぁ~?」とか思っているなら認識を改めろよ?
「でも、そんなに素敵な人形劇なのでしたら、一度見てみたいですね」
マーシャが相当はしゃいで報告したようで、ジネットも三十五区の新人形劇『ラブダイブ』に興味を持ったようだ。
「じゃあ、明日か明後日あたり、エステラの視察について行くといい」
どうせ、エステラは完成した劇場を見に行かなければいけないだろうし、それに同行させてもらえ。
「店は俺が見とくから、朝から行って、夕飯までに帰ってきてくれれば陽だまり亭も回るだろう」
「ですが、それだとヤシロさんが……」
こいつは、自分が留守番をすることは厭わないのに、誰かに留守番させることを申し訳なく思うクセがある。
「俺は今日見てきたから大丈夫だ。第三者として意見を聞かせてくれると助かるし、何より――」
手招きして、ジネットに耳打ちをする。
「カンパニュラたちにも見せてやってくれないか? ロレッタとお前がいれば、保護者として十分だ」
ジネットを説得するには、ジネット以外の誰かのメリットを強調するのが効果的。
「そういうことでしたら」
な?
そうすれば、ジネットは喜ぶカンパニュラの顔を想像して、自分の役割をしっかりと把握してくれる。
別に、自分一人が楽しむためだけに行動したって、誰ももんくなんか言わないのに。
まぁ、その辺は性分なんだろう。
「ロレッタ。お前も引率を頼めるか?」
「わっ! あたしも見に行っていいですか?」
「マグダも『ラブダイブ』の話、したいよな?」
「……うむ。あのラストシーンについて語り合うのはやぶさかではない」
ご褒美ミートボール丼を持って、マグダがきりりっとした眉で語る。
結構気に入ってたもんな、『ラブダイブ』。
ギルベルタと「あの台詞がよかった」とか、「あそこはもっとよくなるはず」とか、熱く語り合ってたし。
「マグダも一緒に見てくるか?」
「……いや、今度はマグダが陽だまり亭を守る番」
俺と一緒に陽だまり亭に残ってくれるらしい。
「じゃあ、あとでその日のスペシャルメニューを考えようぜ」
「……うむ。ヤシロがいれば、鉄板焼き以外の料理も可能。腕が鳴る」
「あぅ……ちょっと羨ましいです。あのっ、わたしも、会議にだけでも参加して構いませんか?」
なぜかジネットがわたわたと焦っている。
以前、俺に留守番をさせて素敵やんアベニューに行った際、帰ってきたら自分の知らない料理が増えていたって経験があるからだろうか。
大丈夫だよ。
お前の知らない料理はしないから。
「ぁい、ごじゃるしゃ、どーぞ!」
「おぉ、テレサ氏。忝ないでござる。おぉ、これは美味しそうでござるなぁ」
「ぇへへ~、めしまがれ!」
「では、いただくでござる」
「おい、ベッコがひん曲がるってよ」
「『めしまがる』でござるよ!? 『召し上がれ』が、テレサ氏の舌っ足らずで『めしまがれ』になった可愛い感じのヤツでござる!」
「むぅ……、あーし、したったゃず、ちぁうもん」
「あぁっ!? 出された料理を下げられたでござる!? ご容赦くだされ、テレサ氏ぃー!」
舌っ足らずと言われ、テレサがへそを曲げた。
ほぅ、珍しいな。
テレサもそんなことあるんだ。
もしかしたら――
「周りの大人がベッコをいじり倒しているから、『あ、こいつはいいんだ』と学習したのかもな」
「だとしたら、悪影響を与えぬよう、日頃の態度を今一度見直してくだされ!」
「だってよ、エステラ」
「君だよ、第一人者は」
「いや、最近はルシアが調子に乗っててな」
「あぁ……なんだか、随分と気に入られたようだね、ベッコは」
「英雄王と聖女王関連でポイント稼いだみたいだぞ」
「まぁ、誉れなんじゃないのかい? ルシアさんみたいな美人と懇意になれたんだから」
「じゃあ、どんなにいじられてもプラマイで言えばプラスだな」
「かなりのプラスだよ。甘んじていじられておきなよ、ベッコ」
「そーゆー発想が、お子たちに悪影響を与えているでござるよ!? 自覚してくだされ、ご両人!」
「……はい、ウーマロ。ご褒美ご飯、お待ち」
「むっはぁああー! マグダたんの作ったミートボールは、まさに食べる宝石ッスー!」
「こっちの騒動、一切無視でござるな、ウーマロ氏!?」
しょうがないだろう、ウーマロなんだから。
ウーマロに何を期待してたんだよ、お前は。
あと、ウーマロ。
若干、ハム摩呂の影響受けてないか、お前?
「みなさんも召し上がってくださいね」
「ノーマぁ~! あたいのはー?」
「はいはい。今持ってってやるさね」
ジネットが俺とエステラの前に丼を置き、ロレッタはマーシャとカンパニュラと自分の分を持ってきていた。
で、ノーマがデリアと自分とジネットの分を持ってきて……って、全員で一緒に食うのかよ。
「マグダの分は?」
「……抜かりなく」
マグダは、自分で自分の分を持ってきていたようだ。
あ、ウーマロと同じテーブルで食うのか。
きっと、自分で作ったミートボールを食べるウーマロの反応を見ていたいんだろうな。
自分が作ったものを食べた時の反応を見たがるのは、店長譲りかねぇ。
「ごめん、ジネットちゃん。このあとナタリアが来ると思うから、もう一人前用意できるかな、これ?」
「はい。そう思ってちゃんと残してありますよ」
フロアには、まだ客の姿がある。
が、所詮は大工だ。金を払うまでは放置でいいだろう。
「んじゃ、いただこうか」
「はい。召し上がれ」
カンパニュラたちと一緒に隣のテーブルへ座ったジネットが手のひらを上に向けて「どうぞ」と手振りで示してくる。
「おぉ、すげぇ美味そう」
丼の中には、とろっとろのカニ餡がかかったミートボールがごろごろ転がっている。
ふわふわタマゴがカニの身とミートボールを包み込み、光を反射して輝いている。
具沢山過ぎて下の白米が見えない。
では……
「んっ! 美っ味!」
「……うむ。美っ味」
「ホントです、すっごい美味しいですね、これ!?」
「はい、とても美味しいですね、姉様」
あれ、なんだろう?
ちょっと負けた気分。
そして、してやったり顔のマグダなのであった。
陽だまりウェイトレスの結束力、高ぇなぁ。
「テレサ、上手に出来てるぞ、ミートボール」
「ぇへへ~」
握り箸で突き刺したミートボールを頬張って、テレサがにへ~っと笑う。
ミートボールのもとになるタネはジネットが作ったのだろうが、丸めたのはマグダとテレサなのだろう。
マグダに関しては、ウーマロがずっと誇大表現で絶賛し続けているので、テレサのことも褒めておく。
しかし、美味いミートボールだ。
誰が丸めてもこの美味さは変わらないらしい。
何事も、土台が大事ってことだよな。
「ジネット、タネに何入れた? 肉汁がすっげぇんだけど?」
「うふふ。ちょっとした一手間ですよ」
一手間でここまで味がよくなるなら、それはやるべき苦労なのだろう。
この一手間は教えてほしいかも。
「ノーマは見たのか、その裏技?」
「ばっちりさね。今度から真似させてもらうさよ」
上機嫌で、上品にミートボールを口に運ぶノーマ。
ミートボールを半分に切って、大して口を大きく開けることなく口内へと滑り込ませていく。
唇についたとろみのあるカニ餡をぺろりと舌が舐め取っていく。
「「「おぉ…………ぅ」」」
大工どもが思わず声を漏らすほど色っぽいな、今の「ぺろり」。
「「「すみません、その丼こっちにもください! ぺろり付きで!」」」
「出禁にするさよ?」
ノーマが勝手に店長権限を!?
まぁ、別に出禁にしてもいいけども、どーせ大工だし。
「もし、店長さんが三十五区へ行くなら、その日もアタシが手伝いに来てやってもいいさよ」
「あ、じゃあ、あたいも!」
「……負担を増やすんじゃないさよ」
「なんだよぉ、あたい、頼りになるんだぞ!」
自信たっぷりなデリアと、しょっぱい表情のノーマ。
……今日、何かやらかしたな?
ちらりとジネットを見やれば、にっこりと笑いつつも若干の苦笑。
あぁ、やっぱなんかやらかしたのか。
「鮭強要?」
「……いや、辛口カレー反対運動」
「そんなことしてないぞ、あたい。なぁ?」
「いや……してたさよ」
なるほど。
無自覚なのか、あれ。
「もし時間があるなら、デリアも見てくるといいぞ。カンパニュラたちも行くから、護衛は多い方がいいし」
「そっか。んじゃ、あたいも一緒に連れてってもらおうかなぁ」
「ご一緒していただけるなら、とても心強いです、デリア姉様」
これで、デリアも三十五区へ行くことになったな。
「さすがに、今言って明日は無理だよな」
「観劇するだけならそれでもいいだろうけど、一応ルシアさんに連絡をしてから向かいたいから、最速でも明後日だね」
というわけで、明後日、エステラの視察にジネットたちが同行する方向で調整することになった。
その日の陽だまり亭は俺とマグダとノーマで回す。
何気に珍しいメンバーじゃね、これ?
「ノーマは見に行かなくていいのか?」
「アタシは、また今度パウラたちと見に行くさね」
そんな、大人の余裕をたっぷりと見せつけるノーマ。
やっぱ大人としても女性としてもかなりハイレベルだよなぁ、ノーマは。
なのになんで……いや、深くは考えまい。熱々の灰が飛んでくる。
「くびれて、飛び出て、ぼんよよよ~ん☆ ナタリアです☆」
「呼ばれて飛び出てだよ、ナタリア」
「いいえ、くびれた上に飛び出ておりますので、間違いではないかと」
「根本的に間違っているんだよ、君は」
カニ餡かけミートボール丼を食べていると、ナタリアが陽だまり亭へやって来た。
やって来た瞬間、空気が濃くなった。
「美味しそうですね、エステラ様。……あ~ん」
「君の分もちゃんとあるから、ボクのを取らないで。本気で美味しいんだから、これ」
「どう思われますか、この意地汚い主を?」
「意地汚さでいえば、お前らはどっこいどっこいだよ」
主の食ってるものを一口もらおうとしてんじゃねぇよ。
「前かがみ、腋とヒジを締めて谷間を強調、だっちゅ~の☆ それで、どう思われますか、ヤシロ様?」
「エステラ、意地汚いぞ」
「あざとい谷間攻撃にあっさり陥落しないでくれるかな!? まぁ、無理だって分かりきってることだけども!」
だって、ナタリアの「だっちゅ~の☆」だぞ?
たまたま偶然、まったく同じセンスを発揮してナタリアが生み出したオリジナルギャグだぞ?
笑ってやらなきゃ可哀想じゃないか、でへへ~。
「締まりのない笑顔さねぇ」
呆れ顔でミートボール食ってるそこのノーマ。
この一発ギャグ、お前とのサシ飲みの時に思いついたって、ナタリアから聞いたんだが?
開発に、お前も携わってたはずだろう。
「ナタリアさん、お待たせしました」
「店長さん、ありがとうございます」
ジネットが運んできたミートボール丼を受け取り、ナタリアは適当に空いた席へと座る。
お、テレサの隣か。
「これね、あーしがまぅめたの!」
「そうなのですか? どうりで特別美味しそうだと思いました」
「ぇへへ~」
「ハビエルギルド長になら、100万Rbで売れますね」
うん。
売れるけど、その日を境にハビエルを見かけることはなくなるだろうな。
「ぉいし?」
「はい。とても美味しいですよ」
「ぇへへ~!」
さすがというか、ナタリアはガキの扱いも慣れてんだな。
出会った当初は、笑うガキも泣かすような雰囲気を纏っていたのに。
「それで、ナタリアは何をやらされてたんだ? 領主が陽だまり亭でサボってた間に」
「人聞きが悪いよ、ヤシロ。ボクはボクの仕事をやってたんだからね」
「ジネットにお菓子を作ってもらってダラダラしてただけだろうに」
「お菓子は作ってもらったけど、ダラダラはしてないよ」
お菓子作ってもらってんじゃねぇよ。
「ランドリーハイツが完成しましたので、家財道具の搬入を行っておりました。イロハさんより、住人たちの希望をまとめた一覧をいただいておりましたので、それをもとに内装を整えていったのです」
じゃあ、もうあとは本人が身一つでやって来れば住み始められるわけか。
「それは大変だったな」
「私は監督していただけですので」
しゃべりながら食べたせいで、指先にカニ餡を垂らしてしまったナタリア。
餡が垂れた人差し指を持ち上げ、それはもう妖艶に、これでもかと色っぽく、自身の指先をぺろりと舐める。
「「「おぉ~ぅっふ!」」」
まだしぶとく残っていた大工どもが一斉に声を上げる。
「ノーマに対抗してんじゃねぇよ」
「はて、なんのことやら」
お前、いつからこの辺にいたんだよ?
絶対見てたろ、ノーマの「ぺろり」を。
「明日、イロハさんたちがお試しで一泊ランドリーハイツに宿泊されることになっています」
「そうなのか?」
「うん。あれ、ルシアさんに聞いてない?」
聞いてねぇな。
「イロハさんたちには、何度も往復してもらうことになって申し訳ないけど、実際住んでみてから問題が見つかるよりはいいと思ってね」
先日下見に来た時はイロハ一人だったが、今回は研修を受ける者全員がやって来るらしい。
「そういや、結局子供服コンテストの時には会いそびれちまったな」
「ボクは会ったよ。みんな、素直そうないい娘たちだったよ。少々大人し過ぎるかもしれないけれどね」
それは仕方ないだろう。
新しい文化が入ってきた時に、それに飛びつくのではなく、変革を避けるように一歩引いて息を潜めるタイプのヤツが対象なんだから。
「うえ~い!」ってタイプは皆無だろうことは予想がつく。
「あ、それでさ、ジネットちゃん。明日のランチにみんなを陽だまり亭に招待してもいいかな?」
「もちろんです。精一杯歓迎しますね」
イロハの話では、陽だまり亭の飯は三十五区の虫人族の間でも話題になっているそうだ。
シラハのダイエットを成功させた奇跡の食事だからな。
あと、キャラバンとか結婚パレードとか、いろいろやったし。
「食事の後はムムお婆さんのお店に行って顔合わせをして、その後は四十二区観光をしてもらう予定なんだ」
「エステラが直々にガイドしてやるのか? すげぇ贅沢だな」
「あはは。見てほしいところがいっぱいあるし、出来ることなら四十二区を好きになってもらいたいからね」
それでも、領主直々に接待してくれるなんて、普通じゃあり得ないだろうに。
まぁ、ルシアは進んで四十二区の連中をもてなしてるけども。
あぁ、あんな感じか。
なんだ、ありがたみ薄いな。
「それで、実際ランドリーハイツで一泊してもらって、お弁当を持ってお昼前には帰ってもらう予定なんだ」
「昼飯食ってからじゃダメなのか?」
「お弁当が食べたいって、イロハさんたちからのリクエストなんだよ。シラハさんが自慢したらしいよ、ジネットちゃんのお弁当が美味しいって」
「そうなんですか? では、腕によりをかけて美味しいお弁当を作らなければいけませんね」
嬉しそうに握りこぶしを作って「ふんすっ」っと息を吐くジネット。
言われんでも、いつも腕によりをかけてるだろうに。
「開けたら真っ茶色の弁当にしてやろうぜ」
「それも魅力的ですが、開けた時に彩り鮮やかなお弁当も、初めての方には喜んでもらえると思いますよ」
確かに。
弁当を食い慣れてくると、唐揚げを見つけた瞬間にガッツポーズするが、悔い慣れないうちは見た目の華やかさがあった方がいいか。
弁当箱の蓋を開けた瞬間「わぁ!」っていうあの感動。なかなかいいもんだよな。
「キャラ弁でも作るか」
「きゃらべん、ですか?」
「おにぎりでよこちぃの顔を作るんだ」
「あまり可愛く作り過ぎると、もったいなくて食べられなくなりそうですね」
あぁ、そうだった。
この街では可愛い食い物は食えなくなる危険があるんだった。
そこの線引きが俺にはイマイチよく分からないんだよな。
たい焼きはOK で、ウサギさんリンゴは号泣って……判断基準が分かんねぇよ。
「じゃあ、割と早めに出発して、三十七区の港でも寄ってやればどうだ?」
「あ、それはいいね。三十七区の港で、海を眺めながらお弁当を食べると美味しく感じそうだね。恋人岬とか、話題になりつつあるしさ」
天気がよければ、結構楽しめるだろう。
観光とか、する余裕はなかったって言ってたしな。
「そこで提案なのですが、イロハさんたちを送る馬車に、みなさんも同乗されてはいかがでしょうか?」
「あぁ、それはいいね」
ジネットたちが新作人形劇『ラブダイブ』を観劇に行く際、エステラも同行することになっている。
なら、イロハたちと一緒に三十五区まで行ってしまえばいい。
「ついでに『三十七区の領主』とも軽く会談してくるよ。人形劇の新作について」
あれ?
今、エステラは人の名前を発言したような気がしたのに、脳が勝手に役職に置き換えたぞ?
「君、本気で覚える気ないだろう、三十七区領主の名前?」
覚えにくいんだよ、印象の薄い名前と顔と存在感しやがって。
「シラハも見た三十七区の港をイロハたちにも見せてやれば、話題が増えるだろうしな」
「オルキオが頑張って恋人岬を走りきったんだよって教えてあげれば、女子たちの話のタネにもなるだろうね」
話の餌食ともいうけどな。
知り合いの彼氏や旦那は、女子会のトークテーマになりがちだそうな。
……なに言われてるのか、分かったもんじゃない。想像するだけでも恐ろしい。
「こちらからも馬車を手配しますので、みなさんで三十五区へ向かいませんか?」
そんなナタリアの提案に、ジネットたちはぱっと表情を輝かせる。
イロハたちとのんびり馬車の旅。
一緒に三十七区の港に寄って、お弁当を食べて、三十五区の新作人形劇を見て帰ってくる小旅行。
なかなか楽しそうじゃないか。
「とはいえ、三十七区ではあまり時間を取れません。食事をして軽く休憩した後、即三十五区へ出発するというタイトなスケジュールになるかと思います」
「あぁ……ボクも仕事が残ってるから、遅くなるわけにはいかないのか……ごめんね、ボクのせいで」
「いいえ。わたしたちも陽だまり亭のディナーがありますから」
ジネットは働く気満々。
まぁ、エステラの話も半分は方便みたいなものだろう。
大勢の人間を、あまり遅くまで引っ張り回すべきじゃないと判断してのことだと思われる。
「どうする? マグダとノーマも……」
「……マグダは、陽だまり亭を守る」
「あんたも、あんま気を遣い過ぎるんじゃないさよ」
ぽふっと、ノーマに後頭部を叩かれる。
いや、楽しそうな催しになりかけてるから、留守番するって言ってみたものの、ちょっと羨ましくなってきてたりしないかなぁ~って……分かったよ。
じゃあ、店番の手伝いを頼むな。
「じゃあ、イメルダも呼んじゃおう」
「そうですね。馬車のついでにお招きいたしましょう」
「逆だよ、ナタリア……」
いや、お前も馬車を出してほしいって下心ありきでイメルダの名前をあげたんだろ、エステラ?
まぁ、「馬車のついでに」は可哀想だけどな。
いや、案外喜ぶか、そーゆー美味しいポジション?
「まぁ、精々気を付けろよ。この区の領主様は、ちょっとしたお出かけを仰々しい大イベントに変えちまうプロだから」
「そんなつもりはないよ。……まぁ、今回は、なんかちょっと随分豪勢になっちゃったけどさ」
いつもだよ、お前は。
バザーとか、運動会とか。
こりゃあ、今年の光の祭りは、相当派手なものになりそうだなぁ。
「では、お食事が済んだら、明日のおもてなしランチと明後日のお留守番ランチの打ち合わせを行いましょう!」
ぱんっと手を打って、ジネットが張り切りボイスを発する。
あぁ、ここにもいたわ。
ちょっとしたことを大袈裟にしちゃうタイプの人間。
他人の喜ぶ顔がそんなに好きか?
好きなんだろうなぁ。
「では、明日の歓迎料理を考えたいと思います」
「はい! カニがあるから、カニを使いたいさね!」
物凄く綺麗な挙手でカニを推すノーマ。
だけど、ちょっと待て。
「ノーマに手伝ってもらうのは明後日だぞ」
「明日も手伝ってやるさね」
「え、暇なの?」
「それがさね……」
仕事がないわけもない金物ギルド。
そこにノーマがいられないわけとは……
「アタシが鉄を打ってると、服を教えてくれって結構な人数が押し寄せてきちまってさぁ……」
「あぁ、なるほど」
子供服コンテストを衝撃の逸品で優勝したノーマ。
おしゃれ着部門はコンテストの中でも花形、一番注目されていた。そこでの優勝なので、ノーマは一躍時の人となったわけだ。
「いろいろ聞かれるのは嬉しいんだけどね、数が多過ぎるのと、服のことを聞きに来るから布を持ってくる人が多いんさよ。……炉のあるところに可燃物が大量に持ち込まれるのは、困るんだよねぇ」
それで、裁縫熱が収まるまで、ノーマは鍛冶場への出入りを自粛することにしたそうな。
「みんな、悪気がないことは分かるから、怒るに怒れなくてねぇ……」
「今日も、お昼ごろにお裁縫を習いに来られた方がいたんですよ」
「一応、軽く話をすれば、みんなそれで納得してくれるからさ、もう数日鍛冶場に近付かなけりゃ騒ぎは収まるはずさね」
一過性のブーム。
というか、優勝したノーマと話がしてみたいってヤツがほとんどらしい。
「鬼気迫る顔で鉄を打つノーマを見せりゃ、みんな逃げていくと思うけどな」
「失礼さね。そんな怖い顔で鉄なんか打っちゃいないさよ」
えぇ……無自覚なのぉ?
声かけたら噛みつかれそうな時あるんだけど?
「ついでに言えば、コンテストに向けてちょっと無茶な仕事の仕方しちまったから、『いい機会だからしばらく休め』ってギルドの連中にも言われてんさよ」
ドレスを作るために睡眠時間をがっつり削ってただろうからなぁ。
おまけに、趣味のために仕事に支障をきたすようなマネをノーマがするはずもなく、前倒しで休みなく仕事をやり続けていたのだろう。
あぁ、そういや、スープジャーとか作ってたっけなぁ。
断熱が弱くてちょっと惜しいヤツ。
改良点とか教えたら、また三日三晩鍛冶場にこもりそうだ。
うん、うん。
休みなさい。
「というわけだから、陽だまり亭の手伝いならいくらでも出来るさよ」
「いや、休めよ」
働くよねぇ~。
え、俺の認識とこの街の認識ってズレてる?
みんな『休む』って定義、おかしくなってない?
「陽だまり亭でのんびり料理させてもらえるのは、いいリフレッシュになるんさよ」
「分かります」
わぁ、分かっちゃったよ、陽だまり亭ナンバーワン社畜が。
料理好きって、本当に料理することでHP回復するんだなぁ。
「じゃあまぁ、無理をしない程度に手伝ってもらうとして、明日の歓迎料理はそこまでこだわったものじゃない方がいいと思うんだ」
「なんでさね? アタシに気を遣ってるんなら、そんな気遣いは無用さよ?」
いや、そうじゃない。
「明日は体験入寮だろ? そこで御馳走を出したい気持ちは、まぁ分からんではない。だが、逆の立場に立ってみろ。豪華な食事で出迎えられたら『あ、これは今日だけの特別な料理だな』ってのは分かるだろ?」
そうしたら、たとえそんなつもりはなくとも、心のどこかで「今度からはこれよりもランクの落ちる食事になるんだろうな」って思うだろう。
それが普通だしな。
さすがに、ずっと御馳走が毎日続くと思い込んでやって来るヤツはいないだろう。
「大きな問題がないかを確認してもらうなら、食事も普段四十二区で食べられているようなものの方がいい。御馳走は美味かったけど、普段の食事はちょっと口に合わない――なんてヤツがいないとも限らないだろ?」
「それは、確かにそうですね」
「それに、見知らぬ土地に行って一泊するんだ。飯くらいはほっと出来るものの方が喜ばれるんじゃないか?」
特にイロハなんか、部屋が広いってだけでガクブルするようなヤツだし。
贅沢に慣れてないヤツもいるだろう。
「歓迎の料理は、連中が本格的に引っ越してきたその日に御馳走してやればいいんじゃないか?」
「そうですね。では、新たな隣人をお出迎えする時には、全身全霊で美味しい料理を振る舞いたいと思います」
ジネットには、肩透かしを食らわせることになるが、明日の料理は普通がいい。
まぁ、食堂らしく、連中が食いたいものを普通に提供してやればいい。
「とはいえ、ただ普通なだけじゃ面白くないよな?」
「……うむ。陽だまり亭は想像の上をゆく食堂であると認識させる必要はある」
「折角遊びに来てくれるですから、陽だまり亭なりの大歓迎をしてあげたいです!」
「何か、良案があるのですか、ヤーくん? お顔が嬉しそうですよ」
「えーゆーしゃ、ぉかお、にこにこ!」
んなことねぇよ。
「俺の故郷の宿泊施設では、ウェルカムドリンクといって、一杯無料で飲めるドリンクをサービスする宿が多いんだ。このウェルカムドリンクが豪華だと、その旅が素晴らしいものに感じられる」
「それは素敵な風習ですね。では、陽だまり亭でもウェルカムドリンクを?」
「今回だけな」
釘を刺しておかないと、ジネットならウェルカムドリンクを通常サービスに組み込みかねない。
冷たい水が飲めるだけでも十分すごいんだぞ、陽だまり亭は。
常連客どもには、これ以上の贅沢などさせてやる必要はない。
「ジネット。メロンクリームソーダとアフォガードのどっちがいいと思う?」
「それでしたら、どちらも用意しておいて、お好みの方を召し上がっていただくようにしましょう」
今のところ、四十二区の、それも陽だまり亭にしかないメニューだ。
ウェルカムドリンクとしては、十全にその役割を果たしてくれるだろう。
「では、アイスクリームの下拵えが必要ですね」
「……ストロベリーアイスを極めたマグダがお手伝いをする」
「それじゃあ、あたしがフロアを見てるですから、カニぱーにゃも店長さんのお手伝いをお願いするです。テレさーにゃはあたしを手伝ってです」
「承知しました、ロレッタ姉様」
「ろれねーしゃ、しょーち!」
「……『偉そうに決めてんじゃねぇーよ、普通ッタ』」
「ぇやそーに――」
「テレさーにゃに変なこと言わせようとしないでです、お兄ちゃん! バレてるですよ!」
……ちっ。
「夕飯は、トムソン厨房に行く予定だからランチが終わったら翌日の準備をよろしく頼むよ」
エステラがそんな説明をする。
夕飯は焼肉か。十分な御馳走だ。
……っていうかこいつ、モツ仲間を増やしたいだけなんじゃねぇのか?
「カンタルチカは混雑するし、陽だまり亭ばっかりだとボクが贔屓しているみたいだろう?」
めっちゃ贔屓してんじゃねぇかよ、普段から。
何を今さら公平を装ってんだ。
「引っ越してきてから行けるお店を、少しでも増やしておいてあげたいからね」
「まぁ、いろいろ知るのはいいことだ」
「素敵なお店がたくさんありますからね。陽だまり亭も負けていられませんね」
好戦的な発言とは裏腹に、顔がにこにこしているジネット。
俺としては、ライバル店なんぞ潰れてしまえばいいとすら思えるのだが。
……まぁ、他の店の連中も、大人様ランチとかフードコートの時に役には立ったから、生殺し程度に生かしておいてやるのが得策か。
あぁ、そうそう。何店舗かに氷室を作らせてさっさとアイスクリームを広げないとな。
連中、ケーキで儲けてやがるだろうから、氷室くらい余裕だろう。
「働け、弱小飲食店ども……俺の手足となってな」
「そうだね。アイスを教えてあげたら、きっとみんな喜んでくれるだろうね」
「ヤシロ君の邪悪な顔に笑顔で普通に返事してるエステラって、なんだかシュール~☆」
マーシャがケラケラ笑って俺の方を向く。
「それで、明後日は何フェアをするの?」
と、カニを両手に持って見せつけてくる。
カニフェアをやれって?
別に、ジネットがいない時には必ずフェアをやるって決まってるわけじゃないんだけどな。
俺だって、一応陽だまり亭のメニューは全部作れるし。
味は、ワンランク落ちるけどな。
でもまぁ、カニがあるなら……カニしゃぶ、いいな。
よし、決めた!
「明後日は、しゃぶしゃぶでもやってみるか」
いつの日か、この街にノーパンしゃぶしゃぶが誕生するその日のためにも、な☆
あとがき
どもです!
宮地です!
あとがきです!
異世界詐欺師は、章と章の間に結構長いインターバルをいただいておりまして
その間にですね、結構「あ、これあとがきで書きたい!」っていう出来事に遭遇するんですね。
で、忘れないようにメモを取っているわけなんですが……
どの話をしたのかを、忘れるんです!
( ̄□ ̄; この話、もう書いたっけなぁー?
「どこでもドアが引き戸だったら、地味に使いにくそう~」
「いや、自動ドアよりマシじゃね?」
「勝手に開くの!?」
っていうお話しましたっけ?
……まぁ、それだけの箸にも棒にもかからない内容なんで
しててもしてなくてもどっちでもいいっちゃいいんですけども。
「マンガじゃないんだから、クラスのマドンがお前を好きになることなんかないんだよ!」
「そもそも、クラスにマドンナなんかいないんだよ!」
「確かに!?」Σ(゜Д゜;)
っていう話は?
まぁ、これもそれだけの内容なんですけども。
いました?
クラスにマドンナ?
大抵、自分が好きになった子が一番可愛く見える的な感じでしたよね
誰もが目を奪われるような美少女は、ウチのクラスにはいなかったですねぇ
登校してくる度に「きゃー!」って女子生徒に囲まれるイケメン男子もいませんでしたけども。
あと、
電車で見かけた、
胸のとこにデッカい文字でドーンと
『F1レーシング』って書かれたパーカーを着ていたお爺ちゃんの足が
めっっっっっっっっっっちゃ遅かったんですよ!
向かいの席に座ってたお爺ちゃんが
電車が駅に着いてから、席を立って出て行こうとドアに向かうんですが
めっっっっっっっっっっちゃ遅いんですね
で、「え、大丈夫? たどり着く前にドア閉まらない!?」ってくらい足が遅くてハラハラしながら見守って
「駆け込み乗車ならぬ、駆け下り下車するかも!?」って
車内にいる人全員がじっと見守っていたくらいに遅かったんですが
胸には『F1レーシング』!
名前負け!?Σ(゜Д゜;)
いや、名前でもないか!?Σ(゜Д゜;)
まぁ、ただそれだけの話なんですけども。
あと、関係ないんですが、
最近、『話』って書いたつもりで、あとから見返すと
『那覇市』になってることがちょいちょいありまして、
……宮地さん、ついに?(・_・;
――とまぁ、
そんな感じの覚書がメモに短く書かれていたんですが、
そこからどう話題を広げていくつもりだったんでしょうか、当時の私は……
という小ネタの消化試合でした☆
もしかしたら、
報労記かベビコン辺りのあとがきでネタにしてるかも?
……うむ、記憶にありません。
さすがにあとがきの読み返しはしないですからねぇ(^^;
まぁたぶん、話がダブっても、
……誰も覚えてないでしょうし、バレないでしょうから、へーきへーき
【 壁 】_ ̄)……ふふふ
というわけで、本編では四十二区に帰ってきたヤシロとマグダ。
ほっとしますねぇ~
(*´▽`*)
どこか遠出して、で、家に帰ってきた時の
このほっとする感じ、好きです
でも、
家族が全員出掛けて、家で一人でお留守番する感じも好きなんですよね~
今回はマグダとノーマも残ってくれるようですけども
夏休みの部活とかで、
普段は狭い部室に同級生や先輩がみっちりいるのに
夏休みとか、全然人が集まらなくて
部室に二人とか三人とかしかいなくて
「今日何するか~」みたいな、ちょっとまったりした感じ
あれも良きものです(*´ω`*)
あ、高校の時、放送部に所属しておりまして
活動内容は校内放送と、行事の設営と、部室で有線放送聞きながお菓子食ってボードゲームとかしてたんですけども
夏休みは校内放送なくて、行事もなくて、ただ集まってお菓子食って遊ぶだけだったんですよね~
まぁ、集まらない集まらない( *´艸`)
なんか、ラノベみたいな部活でしたね~
あの、普段は大勢いる空間に人がいない感じ、
好きなんですよね~
ですので最近ですと、
休日出勤とか行くと、よく思いますもの…………
ふざけんな!
(# ゜Д゜)、ぺっ!
ってね☆
……うむ。
休日出勤は、違う。
あれは、楽しくない。
うん。
まぁ、お仕事も楽しんでやっているヤシロさんたちの奮闘をお楽しみに☆
ノーパンしゃぶしゃぶへの第一歩、乞うご期待!
……あ、ダメなんですか?
そうですか。
では穿きパンしゃぶしゃぶで頑張りたいと思います。
というところで、
久しぶりに~
ヘ(^^ヘ)ヘ(^^)ル(^^)ノ(ノ^^)ツ
レビューをいただきました!♪
⁽⁽◝( •௰• )◜⁾⁾≡₍₍◞( •௰• )◟₎₎
2025年05月21日 22時02分 の方!
あぁいや、あの、ちょっと待ってくださいね――
……今思えば、最初から素直にお名前書かせていただいておけばよかったですね(^^;
いや、でも、あの時、お名前を勝手に使用することで後々どんなトラブルが起こるか
どんなご迷惑をおかけすることになるか分からなくてとりあえず匿名で、ご本人様には「あなたですよ!」と分かるような書き方はないかとこんな方法を使用していたんですが……
書いとけばよかったなぁ!
分かりやすいですもんね、その方が!
いや~、しまった!(・ω<)>
まぁ、ここまで来たら、今後も同じ方法でご紹介させていただきますけれども――
というわけで、
改めまして、
2025年05月21日 22時02分 の方!
拝見した時、ぶゎっと映像が浮かんでくるような書き口で、YouTubeの合間に挟み込まれるようなCMっぽいBGMとナレーションが脳内再生されました(笑)
ドキュメントタッチの、結構カッチリとした構成の番組を紹介するような。
簡潔にまとめられつつも、謎の部分を残して興味をそそるというすごく馴染みやすい構成なので読む人にダイレクトに伝わるだろうな~と感じました。
また、最後の締めの一文に嬉しいことを書いていただいて、すごくほっこりした気持ちになれました。
どうもありがとうございます!\(≧▽≦)/
何年やっていても、
気に入っていただけるのは、本当に嬉しいですね~(*´ω`*)
よし、気合いも新たに、続きも頑張ります!
……まぁ、今ちょっと、違うお話を書いてますけども!
あ、大丈夫です!
異世界詐欺師のストックは8月分までありますので!
それまでにはちゃんと戻ってきますので!
いえ、実は、
昨年の7月にスニーカー同期の方たちとお食事した後から
「なんか『あの頃のラノベ』っぽいの書きたいな~」っていう思いがふつふつと湧いてきて
先日なんとか脳内でまとまったのでちょこっと書いていたりしまして
(*´ω`*)
というわけですので、
新しいお話を公開したらまたご報告しますので
そちらもよろしくしていただけると嬉しいです☆
もちろん異世界詐欺師も頑張ります!
……まぁ、執筆再開時には、またまったり回書いてアイドリングするんでしょうけれども!
とにかく!
なんかいろいろやりますが、
今後とも、よろしくお願いいたします! 切に!
宮地拓海




