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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
第四幕

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411話 仮にやってみる

「うわぁ……、すげぇな、これは」


 仮設劇場を出てみたら、開いた口が塞がらなくなった。

 劇場の前に、それはもう見事としか言いようがない野外ステージが完成していた。

 ここで夏場にロックフェスとか出来んじゃねぇかってくらいに立派なステージだ。


「ウーマロ、お前さぁ、バカなんじゃねぇの?」

「やはは……なんというか、マグダたんに見てもらえていると思うと、ついつい力が入っちゃったッス」


 そうかマグダパワー、すげぇな。

 で、そのマグダはというと、あっちで俺の描いた脚本を見てなんかきゅんきゅんしている。


「……これは、よき」


 マグダも、恋物語とか好きなんだよなぁ。


「書く、私は。強化合宿の依頼を、役者たちの、監督のナタリアさんに」


 ギルベルタも先代イーガレスの恋物語を気に入り、現イーガレスの連中にいい芝居を強要するつもりのようだ。

 ギルベルタからの手紙には、一体どんなことが書かれるのかねぇ。

 なんにせよ、ナタリアがまた張り切りそうだ。


「ギルベルタよ。手紙が書けたら一度イーガレスたちをここへ集めさせるのだ。カタクチイワシがおる間に一度読み合わせを行わせたい」

「承知した、私は。連れてくる、一人残らず、有無を言わさず。とる、強硬手段を、いざとなれば」


 いや、そこまで絶対的な使命じゃないからな?

 イーガレスとかエカテリーニとか、芝居より優先順位が高いものがあるヤツもいるし。


「足りていない、レベルが、圧倒的に。煽る、危機感を。最重要事項、三十五区にとって、この芝居の完遂は」


 おぉ……ギルベルタが静かに燃えている。

 そこまで気に入ってくれたのか、イーガレス恋物語。


「教えてほしい、友達のヤシロ。この物語のタイトルを」


 あぁ、そういえばまだタイトル決めてなかったなぁ……『シーサイドラバーズ』だと、三十七区の方がそれっぽい内容になるし……イーガレスが海に飛び込んだことがきっかけで芽生えた恋の物語だから……


「『ラブダイブ』、とか?」

「いい思う、とても、私は!」


 めっちゃ食いついたな、ギルベルタ!?

 物凄く目がキラキラしている。


「呼称する、この物語のファンを、『ラブダイバー』と、私は!」


 ファンの呼称はなんでもいいけども。


「そして自称する、私は、ラブダイバー第一号を!」


 まぁ、公演前からのファンなら、間違いなく第一号だろうよ。


「……ここは三十五区。第一号の栄誉はギルベルタに譲る」

「ありがとう思う、私は、我が永遠のライバルマグダ」

「……共に進もう、ラブダイバー道を」

「誓う、私は。踏み外すことなく突き進むことを」


 ただの芝居ファンだから、武道みたいな重々しいもん背負わなくていいんだぞ、二人とも。


「では、呼んでくる、私は、イーガレス一家を、可及的速やかに」


 ぴしっと敬礼をして、ギルベルタが駆けていく。

 いつの間にか手紙も書けていたようで、しっかりと封がされた封筒が手に握られていた。

 有能だねぇ。

 だからこそ、好きなものにハマった時が怖いよなぁ。


 まぁ、ギルベルタは桃太郎の時に鬼役をやりたがってたし、芝居好きの片鱗は見え隠れしてたんだよなぁ。

 とりあえず、「叩き込む、私が、芝居心を」とか言わないだけマシだな、うん。


「……いざとなれば、マグダとギルベルタで芝居のなんたるかをイーガレスたちに叩き込む所存」


 あぁ、もう一人いたわ、芝居以前の問題だろって人間が、

 マグダとギルベルタに叩き込まれる芝居心って、どんなもんなんだろうな。

 どっちも感情が表に出にくいタイプだろうに。


「……ギルベルタが出した手紙を読めばナタリアが駆けつけてくる。そうなれば、ヤシロとナタリアでこの脚本を演じることが可能」

「いや、その前に帰るぞ、俺は」


 たとえ、本気でナタリアが喜び勇んで三十五区へ乗り込んで来たとしても、到着まで待っててやるつもりは毛頭ない。

 さっさとやることやって、あとは丸投げでさくっと四十二区に帰りたいんだよ、俺は。


「しかし、配役というのは重要な案件ではあるな」

「だねぇ~。あの一人娘ちゃんに、主役の人魚役が務まるかなぁ?」


 まぁ、そうだな……


「とりあえず、語尾に『のわ』がつくだろうな」

「つける度に水鉄砲食らわせたら矯正できるかなぁ★」


 わぁ、目がマジだぁ、こわ~い☆


 アルシノエ、死ぬ気で特訓しろ! 死ぬぞ!


 ちなみに、今回俺が書いたイーガレス恋物語『ラブダイブ』のヒロイン人魚には名前をつけていない。

 脚本を書いている時に、イーガレスと懇意になった人魚の名前をマーシャに尋ねたところ――


「ご本人さんは頑なに『両想いじゃなかった!』って言い張ってるからぁ、名前とか出すと怒鳴り込んできちゃうかもしれないよ~☆」


 ――とのことだったので、芝居の中で人魚の名前は一切出さないことにした。


 存命なんだ、相手の人魚。

 で、怒らせると怖い世代なんだな、きっと。

 なら下手に刺激しない方がいい。

 こんなことで三十五区の港を抉り取られたら堪ったもんじゃないからな。

 そして、照れ隠しでそれくらいのことをしでかしそうだからな人魚って。


 いやぁ~、苦心したぞ、劇中一回もヒロインの名前を呼ばせないの。


 当時は今よりももっと人間と人魚の関係は薄く、警戒心や敵対心もありありと見えていた時代だったらしいので、それを逆手に取って利用させてもらった。

 劇中、人魚は先代イーガレスを「バカ人間」と呼び、イーガレスはヒロインを「人魚」と呼ぶ。

 ヒロインは人間に対して素直になれず、自分の名を気安く呼ばせないために絶対名乗らないという設定にした。


 でもラストシーンで――



「これで、この海域の魔獣はすべていなくなった」

「あぁ。お前たち人魚のおかげだ。ありがとう」

「ふん。これで貴様と会うこともなくなる。清々するな」

「なぁに。我々はもう友人だ。戦いがなくともいつだって会いに来てくれ」

「ばっ!? だ、誰が貴様なんかに!」

「ではワタシが会いに来よう。この港に立ち、君の名を呼ぼう」

「なっ!? き、貴様のバカでかい声で名など呼ばれたら、海中に聞かれてしまうじゃないか! そもそも、貴様には名前を教えていないはずだ!」

「あぁ、だから教えてくれ。親友の名を呼びたいのだ」

「うぐ……勝手に、親密度をあげるな、バカ人間」

「会えば会うだけ親密になるのは当然ではないか!」

「じゃ、じゃあ、今が親友だったら、この次会ったら……っ」

「ん?」

「……っ! うっさい! こっち見んな、バカ人間!」

「イーガレスだ。新愛を込めてディミトリと呼んでくれても構わんがね」

「しんあ……だ、誰が呼ぶか、ばかぁー!」

「お、おい、逃げなくてもいいだろう!?」

「逃げてない! 誰が貴様ごときから逃げるものか! 海へ帰るだけだ!」

「じゃあ、また会えるな。ワタシから逃げないのであろう?」

「う……っ、小憎らしいことを、小憎らしい顔で……っ!」

「じゃあ、次に会った時には名前を教えてくれよ!」

「…………次があればな!」(水に潜る)

「行ってしまったか。では、ワタシも帰るとしよう」

(ざばぁ!)「イーガレス!」

「ん?」(振り返る)

「…………また、な」

「あぁ! 必ずだ!」



 ――という感じで、名前を教えないことを最後の伏線にしたストーリーに仕上げてやった。


 人間は認めないから名前なんて教えない、からの~、ちょっとずつ距離が近付いて会話が増えていいコンビになって、からの~、次に会ったら名前教えてやる、からの~、「またな」――って、それってつまりイーガレスを認めて名前を呼ぶことを許しちゃうってことですよね!?

 つまり、人魚さんってばイーガレスさんに、そーゆーことなんですよね!?

 にやにやしちゃっていいっすよね!?



 という流れだ。


 ……うん。

 当事者だった人魚の耳に入ったら原作者である俺、何されるか分かんないな……


「マーシャ、あの……護衛を……」

「うん、任せて~☆ 本人の耳に入っても、『えっ、あれってあなたのことだったんですかぁ~? 恋物語になるなんて、す~っごい大恋愛だったんですね~☆』って言っておけば、絶対本人は認めないから☆」


 本人が認めない以上、本人が陸へ強襲してくることはない、っていうか、出来ないらしい。

 まぁ、それはそうだよなぁ。

「あれ、私のことじゃないし」って言ってたヤツが脚本家襲ったら「やっぱ、お前のことだったんじゃん」って言われるもんな。


 でもな、マーシャ。

 その状況ってさ、全人魚で当事者の人魚のこと弄り倒そうとしてないか?

 で、人魚たちに言えない分、俺に矛先向いたりしないよね?

 頼むよマジで!?


 よし。脚本及び原作者の名前はトップシークレットにすることを条件に上演を認めよう。

 そうしよう。

 その条件が飲めないのであれば、この脚本は上演させない。

 もちろん、関係者全員に箝口令だ!

 一人残らずに、な!



 ギルベルタが港を飛び出して十数分。


「ものっすごい強引に連れてこられたのわ!?」


 港の仮設劇場前にイーガレス一家が勢揃いしていた。


「なんか、巻き込まれたでつ!?」


 なんでか、駄菓子屋横丁の喫茶店ノワールの従業員、クロウリハムシ人族のクロ子まで一緒に連れてこられている。


「クロ子も巻き込まれたのか」

「くろこ?」


 わぁ、なんだろう、このハム摩呂みたいな反応。

 俺が勝手に付けた呼び名だから戸惑ってるのか。そうかそうか。


「すまん。名前を聞いてなかったから、クロウリハムシ人族から文字ってあだ名にしただけだ」

「人種名から名前付けるとか、ウチの両親はそんなズボラじゃないでつよ」


 苦笑混じりに怒ってみせるクロ子。


「じゃあ、本当の名前はなんていうんだ?」

「ロウリでつ」

「人種名から取ってんじゃねぇか!?」


 クロウリハムシ人族のロウリ!


「はっ!? 今気付いたでつ!?」


 今の今まで気付いてかなかったのか!?

 なんてうっかりさん!?


「むぅ……両親めぇ……」


 クロ子改め、ロウリが触角をぴこぴこ揺らして不満を顔いっぱいに表現する。

 帰ったらもんく言ってやれ。

「えっ、今さら!?」って驚かれるかもしれないけどな。


「それで、カタクチイワシ様。ワタシたちはなんで呼ばれたのわ?」


 ルシアをスルーして俺のところへやって来たアルシノエ。

 スルーしてやるなよ。

 つーか、何かあった時に頼りにするのは俺じゃなくて領主にしてくれよ。


「お前ら、人魚姫に飽きて練習に身が入ってないそうだな?」

「そ、そそそ、そんなことは…………兄上が言ってたのわ!」

「おぉおい、身内を売るのではない、マイシスター!?」


「そんなことはない」と嘘は吐けないから他人に擦り付けるしかなかったのか。

 悪女に育ちつつあるな、アルシノエ。


「そこで、新しい脚本を書いた」

「ありがとなのわ、カタクチイワシ様! 正直同じセリフばかりで飽き飽きしてたのわ!」


 白状するの早ぇな、おい!?


「まぁ、こっちで息抜きしながら、人魚姫もブラッシュアップしていけよ」

「のわ!」

「ワタシにも見せてくれまいか、カタクチイワシ様!」

「可愛いワタシにも!」


 パキスとタキスも脚本を強奪していく。

 新しい話に飢えとるなぁ。


「……で、お前らは読まないのか、イーガレスとエカテリーニ?」

「ワタシはメンコリーグの開催が迫っておるのでな」

「お菓子作りが楽しいのわ!」


 参加しろよ、両親!

 一家総出で取り組むの!


「とはいえ、下手くそに混じられるよりうまいヤツ集めて練習した方がいいか。どうせイーガレスは演技下手だろうし」

「そんなことはないぞ、カタクチイワシ様よ! どれ、一部ワタシにも見せてもらおうか」


 ちょっと煽ってやれば、イーガレスが脚本を読み始めた。


「ワタシはお菓子を作るのわ」


 ブレないなぁ、この当主婦人は!?

 完全に駄菓子と喫茶店に心奪われてやがる。


「これは、我が父の話ではないか」

「ワタシのおっぱいの話のわっ!?」

「我が乳ではないぞ、エカテリーニ!?」

「くっそ、やっぱり結婚したら所有権譲渡されるのか! いーなぁー!」

「譲渡などされぬから騒ぐな。あと、カタクチイワシが羨ましがるからそういった発言は控えるのだ、ヨル爺!」

「ジジイじゃないやい!」

「ルシア様、お話がブレたのわ」

「ブレ始めはそなたからだ、エカテリーニ!」


 三十五区の大人たちがわいわい騒いでいる横で、イーガレス三兄弟が酸っぱい顔をしている。


「両親のおっぱい話とか、聞きたくないのわ」

「まったくもって同意だ、マイシスター」

「兄上の申されるように、ワタシの可愛さのお話をするべきですよね」


 そんな話は一言も申してなかったぞ、タキス。

 次男が、そこはかとなく母親似だな、この兄弟。次男には要注意だ。


「マーシャ様、脚本です」

「ありがとね~、ルシア姉のとこの給仕ちゃん☆」


 ギルベルタがイーガレスを呼びに行っている間に、ルシアのとこの給仕たちが分担して脚本を清書、コピーしてくれていた。

 なんでマーシャにまで?


「それじゃ~、手始めに読み合わせしてみよっか~☆」


 あ、監督するつもりなんだ。

 たぶんだけど、厳しいぞぉ、マーシャ監督。


「序盤と中盤は割とどうでもいいから、終盤の練習から始めるよ~☆」


 おい、割とどうでもいいとか言うな。

 苦心して書き上げてんだよ、こっちは。

 序盤と中盤あっての見せ場だからな?

 見せ場だけじゃ、物語として成立しないんだからな?


「じゃあまず、長男くんと一人娘ちゃんでやってみよ~か~☆」


 マーシャに指名されて、パキスとアルシノエが仮設ステージへと上がる。


「お持ちした、私は、巨大なたらいを、マーシャギルド長からの依頼で」


 直径がギルベルタ二人分くらいありそうな特大たらいを担いでやって来たギルベルタ。

 イーガレスを連れてきてすぐどっか行ったと思ったら、マーシャのお使いだったのか。

 で、よく存在したな、こんな銭湯の浴槽みたいなサイズのたらい。

 あ、そうか。ルシアの館では来訪者に足湯を出してやる時があるから、デカいたらいの用意はしてあるのか。


 で、それをこんなところに持ってきて何をするのかと言うと……


「じゃ~、水、いっきま~す☆」

「「「「続いて、人魚、いっきま~す☆」」」


 ドザバッ! っと、海水が射出されたかと思うと、特大たらいに水が張られ、間髪入れずに人魚が数名空を舞うように海面からたらいへと飛び込んできた。


 ……近くで見たかったわけね。


「まだ練習段階にも入ってないぞ?」

「いいのいいの~☆」

「練習も、見てて楽しいし~☆」

「ギルド長がやる気になるようなお話なら、絶対面白いって分かってるし~☆」


 マーシャと同年代の人魚たちは、さすがというか、マーシャのことをよく分かっているようだ。

 マーシャは人魚の中でも絶対強者ってイメージがあったけど、ちゃんと同年代の友達もいるんだな。


「見ててもいいけど~……邪魔したら、遠海漁業行かせるからね★」

「「「大人しく見てます!」」」


 ……あれ?

 フレンドリーさどこ行った?

 お友達って感じではない、の、かなぁ?


「じゃ~、ラストのシーン、一人娘ちゃんのセリフから~☆」


 マーシャが丸めた脚本をメガホンのようにして芝居開始の合図『キュー』を振る。


「の、のわっ!? 『こ、ここ、これで、この海域の魔獣はすべていなくなったのわ!』」

「『んなあぁ。んの前たち、ん人魚の、んのかげだ。んなりがとう』」

「はーい、カットー☆ そして罰~★」

「どふっ!」

「どふっのわ!?」


 マーシャの水槽から、細ぉ~い水鉄砲が二筋飛んで、パキスとアルシノエのみぞおちに命中する。


「一人娘ちゃ~ん、『のわ』って、どこに書いてあったのかなぁ~?」

「の、のわっ、これは、もうクセのようなものなのわ」

「それでも~、脚本通りに読むのが、役者でしょ~?★」


 わぁ、マーシャの笑顔がすっげぇ怖い。

 他所で「のわ」って言うのはいいけど、人魚に「のわ」は許されないようだ。


「あと、長男君~?」

「なんであろうか?」

「『ありがとう』、Say☆」

「『ありがとう』」

「じゃあ、ここのセリフ読んで☆」

「『んなりがとう』」

「なんでそーなっちゃうのかな?★」

「どふっ!?」


 あらまぁ、水鉄砲がさっきと寸分違わない場所へ★

 ……怖ぁ。


「いや、主人公なので、かっこよさを表現しようと……」


 あぁ、いたいた。

 セリフの頭に『N』が入るヤツ。

「ふっ……」っていうため息っぽいニュアンスなんだろうけど、しゃべり出し全部に『N』が入るから、「ありがとう」とか母音から始まるセリフだと『なりがとう』になっちまうんだよな。


 昔見に行った小劇場の主人公が「んなんだって!? んそんなっ、んバカな!?」って大真面目にやってて、ここは笑うところなのかと真剣に悩んだことがあったっけなぁ。


 ……え?

 いや、ほら、役者の養成所ってさ、人、集まるじゃん?

 人が集まると、お金、集まるじゃん?

 まぁ、いいじゃないか、昔のことは。


 パキスは、セリフの頭に『N』が入るタイプの役者だったのかぁ。


「普通にやって★」

「い、いや、これでも割と頑張って普通にやっているつもりなのだが……」

「自然体でやったらこうなっちゃうのわ!」

「うん、長女ちゃんは自然体過ぎるから芝居して★」

「なんか要求が難しいのわ!?」


 兄妹揃って涙目である。

 手本もなく「いい芝居しろ」ってのは、素人には酷なんだけどなぁ。


「いいお手本があれば、二人とも上達するかなぁ? ねぇ、どう思う、ヤシロ君☆」

「そりゃまぁ、いい芝居を見せてやりゃ、何かしら掴めるとは思うけどな」


 とはいえ、今回はナタリアもネフェリーも連れてきていない。

 いい芝居を見せるのは、また後日になるだろう。


 わぁ、マグダとギルベルタが二人並んで物凄くキレイに挙手してるなぁ~……あ、マーシャが視線逸らした。

 あの二人じゃないっぽいぞ、今求められてるのは。


「というわけで、ヤシロ君、お手本、よろしくね☆」

「いやいや」


 まぁ、そういう無茶振りが来るだろうなって気はしてたけどさ、


「相手役は誰がやるんだよ?」


 マグダとギルベルタじゃダメなんだろ?


「マーシャが自分でやるか?」

「私は監督しなきゃだもん☆」


 いや、誰も強要はしてないからな?

 自分でやりたがってるだけだろうに。


「じゃあ、いないじゃねぇか、女優がよ」

「いるよ~、そこに☆」


 と、マーシャが指さした先には――


「へ? ……え? はぁあ!?」


 ――物凄く驚いた顔の、ルシアがいた。


 いや、ルシアかよ!?


「なんで私が、カタクチイワシなどと……」


 ぶつぶつともんくを垂れながらも、マーシャのお願いには逆らわないルシア。

 台本を手に簡易ステージへ上がり、俺の真正面に立つ。


「そもそも、私は芝居などしたことがないのだぞ」

「大丈夫~☆」


 ステージ下からマーシャの太鼓判が飛んでくる。

 どこに根拠があるんだ、その自信?


「『仲良くしたいのに世間体とか周りの目が気になって素直に甘えられない、でも気になっちゃう☆』って感じ、ルシア姉は普段通りしてたらきっと滲み出してくるから~☆」

「そ、そんなことはないぞ!? 別に私はこんな男と仲良くなど……えぇい、うっすら期待した目でこっちを見るなカタクチイワシ!」


 うっすらも期待なんぞしとらんわ。


 しかしまぁ、演じるという点においては、お手の物だろう。領主なんてもんは分厚い外面を常にキープし続けているものだからな。

 ……なんでか、最近は本性表しまくりだけれども。


「じゃあ、とりあえずやってみるか」

「うむ。原稿を読むのも、人が望む姿を演じるのも得意としている。まぁ、なんとかなるであろう」


 ルシアの方も、特に緊張した様子もなく、ある一定以上の成果を出せると自負しているようだ。


 そんじゃ、いっちょやってみっかな。


「それじゃ~いってみよ~☆ よ~い、スタート☆」


 マーシャのキューが振られ、ルシアが台本を一瞥したあと、台本から目を離してセリフを発する。

 もう覚えたのか。大したもんだ。


「『これで、この海域の魔獣はすべていなくなった』」

「『あぁ。お前たち人魚のおかげだ。ありがとう』」

「『そうであろう! 地にひれ伏して感謝せよ、カタクチイワシ!』」

「はい、カットー☆」

「ん? カタクチイワシよ、トチったな?」

「お前だよ」


 自然体でやれと言われたからって、自然体過ぎるぞ、おい。


「ルシア姉~、脚本通りにやって?★」

「す、すまぬ。覚えたつもりだったのだが、カタクチイワシの顔を見ているとついついいつもの調子で……つまり、カタクチイワシが悪い!」


 えらい鋭角な責任転嫁だな。

「カックン!」って方向転換し過ぎだろう。

 五割打者でも空振りするぞ、その変化球。


「むぅ~……しょーがないなぁー」


 腕を組み、悪どい微笑を浮かべ、マーシャがマグダとギルベルタを手招きして呼び寄せる。

 三人が円陣を組むように顔を突き合わせてひそひそと密談している。

 何を吹き込まれてるんだかなぁ。


「了承した、私は」

「……完遂してみせる」


 密談を終え、こちらを向く二人の刺客。

 マグダもギルベルタも不敵な笑みを浮かべ……て、いるのだと思う、あれで。

 二人とも、表情があんまり顔に表れないから分かりにくいけれども。


「「……ふっふっふっ」と笑う、私は」


 うん。

 不敵な笑みだ。


 そうして、不敵な笑みシスターズがステージへと上がってきて、おもむろにルシアを拘束。

「な、なんだ? 何をするのだ?」と騒ぐルシアの両腕を拘束したまま、ずんずんと俺の方へと近付いてくる。

 近付いて、近付いて……いや、近い近い近い!


「……この距離で、もう一度」

「指令、マーシャ監督からの」

「いや、本読みをする距離感ではなかろう、これは!?」


 密着するくらいに近く、吐いた息が頬を撫でるような距離感。

 腕を回してないだけで、抱き合うような近さだな、これは。


「こ、こんなに密着していては、脚本が読めぬではないきゃっ!」


 照れて語尾を噛むな。

 伝染うつる。


「平気と判断する、私は。覚えたはず、ルシア様なら、一度目を通した時点で」

「……ルシアなら出来ると、マグダは信じている」

「う……むぅ、まぁ、出来るか否かで言えば、出来るが…………しかし」


 ちらっと視線をこちらに向け、驚いたように目を丸くする。

 改めて、距離の近さにびっくりしたようだ。

 ホント、すぐ目の前だもんな、文字通り。


「ま、やらないと終わらなそうだし、さっさとやっちまおうぜ」

「う、……うむ。そうであるな。……まったく、マーたんにも困ったものだ」


 ぶつぶつと口の中で不満を漏らすルシア。

 一発で決めるつもりのようで、ぱらぱらと脚本を再確認している。

 俺も、セリフを頭に入れとくか。


「準備はい~い?」


 ステージ下から、嬉しそうな声が飛んでくる。

 よくなくても強行するくせに。


 手を振って合図すれば、マーシャからイキイキとしたキューが振られる。


「よ~い、スタート~☆」



「『これで、この海域の魔獣はすべていなくなった』」

「『あぁ。お前たち人魚のおかげだ。ありがとう』」

「ふぐっ……耳元でしゃべるな、カタクチイワシ」

「しょうがないだろうが。ほら、セリフ。何度でもやり直しさせられるぞ」

「く……っ、『ふん。これで貴様と会うこともなくなる。清々するな』」

「『なぁに。我々はもう友人だ。戦いがなくともいつだって会いに来てくれ』」

「『ばっ!? だ、誰が貴様なんかに!』」

「『ではワタシが会いに来よう。この港に立ち、君の名を呼ぼう』」

「ぅぐ……っ! そ、そんな甘い声で囁くな……っ」

「そういうシーンだろうが。ほら、次はお前だぞ、ルシア」

「くっ……、この距離で名前を呼ぶな……っ」

「じゃあ、ちょっと離れて大声で呼んでやろうか?」

「『なっ!? き、貴様のバカでかい声で名など呼ばれたら――』……あぁ、そうか。うまく誘導しおって、小賢シイワシめ……『海中に聞かれてしまうじゃないか! そもそも、貴様には名前を教えていないはずだ!』」

「『あぁ、だから教えてくれ。親友の名を呼びたいのだ』」

「うぐぅ……っ! 貴様、脚本にかこつけてベタベタするのではないっ、近いのださっきっから!」

「しょうがないだろう、マーシャ監督の指示なんだから」


 小声で激しく口論する。

 不興を買うと水鉄砲がみぞおちに飛んでくるぞ。


「ほら、頑張ってセリフを言えよ、相棒」

「『勝手に、親密度を上げるな、バカクチイワシ』」


 セリフ変わってんじゃねぇか。


 とまぁ、終始そんな感じで、マーシャ監督の作戦が見事にハマり、ルシアは「気になるけどそっけない態度をとっちゃう……でもやっぱり気になるの!」みたいな、繊細な乙女心を見事に演じ上げた。


「『じゃあな、バーカ!』」


 セリフは、若干アレンジされちゃってるけどな。


「『行ってしまったか。では、ワタシも帰るとしよう』」


 …………

 ………………

 ……………………おい。

 引き止めるんだよ。

「さっさと帰れ」みたいな目で見てるけど、お前のセリフがないと終われないんだよ。


 ……ったくもう。


「悪かったな、嫌な役押し付けちまって」

「んむ?」

「マーシャに言っといてやるよ、ルシアをオモチャにするなって。もう二度と俺の相手役なんかしないで済むように」

「あ、いや、別にそこまで嫌だったわけでは……っ」

「じゃあ、機会があったら、また一緒にやるか?」

「う……うむ……『…………また、な』」

「それー! ルシア姉、完璧! はいカットー☆」


 マーシャ監督のOKが出た。

 ……はぁ、終わった。


「お疲れ」

「う、うむ……なんだろうな、この疲労感は……肉体ではなく、精神にずーんとくるな」


 今俺たぶん、お前とまったく同じ疲労感味わってるわ。


 ――と、不意に拍手が巻き起こる。


 何事かと視線を上げると、仮設ステージの前に人だかりが出来ていた。

 なんか、いつの間にか観客が入ってる!?


「素晴らしいです、ルシア様!」

「きゅんきゅんしました!」

「なんかやってるな~と思って見に来てみたら……いいもの見せていただきました!」


 噴水を見学に来ていた三十五区の領民たちや、劇場の建設を見学していた者たちが集まってきていたようだ。


 見られているとは気付かずに熱演していたルシアは「ふぐっ……!」っと言葉に詰まり頬を赤く染める。


 そんなルシアに向かって、マーシャはとびきりのキラキラ笑顔で賛辞を贈る。


「ルシア姉す~っごくよかったよ~☆ 最後の『またな』なんて、素直になれないけど離れたくない~って感じ、すっごい出てた!」

「そ、そんな感情は出しておらぬ!」

「う~うん、出てた出てた~☆ ね、みんな☆」

「はい!」

「すっごいどきどきしちゃった☆」

「ルシアお姉ちゃん、かわいい~☆」

「さすがトキメキ女帝☆」

「「「可愛かった~☆」」」

「ふぐぅー! そんな目でこっちを見るなぁー!」


 両腕をぶんぶん振ってステージを駆け下りていくルシア。

 遊ばれとるなぁ~、完全に。


 ステージを降りても人魚や領民に絡まれてわちゃわちゃしているルシア。

 ふと視線をスライドさせると、マーシャが口の隣に手を添えて、俺に向かって口をパクパクさせている。


 なになに?


「ナイスアシスト☆」って?


 へいへい、ご期待に添えてよかったよ。

 ……うまく誘導してやらないと、マジで納得するまで付き合わされそうだったからな。

 マグダとギルベルタも乗り気だったし。

 あんな状態が何時間も続けば、きっとルシアは暴発して思いも寄らない自爆をやらかす。

 トキメキ女帝のトキメキは、用法用量を守って使用しないとあとが怖いんだよ。


 今回でさえ、登場人物の『イーガレス』が俺に置き換わってたからな。


 あくまで芝居。

 ルシアの本心とは一切関係ない、フィクションだ――と、言い張れない自爆をやらかす前に終わらせるには、あぁするしかなかったんだよ。


 ホンット……領主なんだからもうちょっと外面を取り繕えよ。

 まったく……



「このステージで、お芝居が上演されるんですね、領主様!?」

「私はもう舞台には立たぬからな!」

「「「えぇ~!?」」」

「『えぇ~』ではない!」


 領民に囲まれ、ルシアが声を荒らげる。

 すっかりフレンドリーになっちゃって。

 エステラの愛され体質が伝染うつったんじゃないか?


「……ヤシロ」


 ステージ下が騒がしくなったからか、マグダがマーシャの入った水槽を持ってステージへと上がってきた。

 いや、マーシャがマグダに言って避難してきたって方が正解か。


「……ヤシロとルシアの組み合わせはとても面白かった」


 ありがとうと礼を言うところか?

 さほど嬉しくはないけどな。


「でも、ヤシロ君やルシア姉がステージに立てるわけじゃないから、上演まではまだ時間かかっちゃうかもね~」


 マーシャが肩を落として苦笑を漏らす。


 確かに、役者は育っていない。

 育っていないんだが……


「むしろ、あえて下手なヤツを舞台に上げてしまうのも手ではある」

「え? ……下手っぴでいいの?」


 下手だからこそ、「応援したくなる」という心理が働くのだ。

 こういうのをアンダードック効果といい、人間が無意識のうちに自分自身にかけてしまう催眠――バイアスの一つだ。


 このバイアス、実はかなり厄介なもので、人はそれをそれと認識しないままに意識を支配され、誤った決断を正しいものであると勘違いさせられてしまう。


 たとえば、詐欺師に騙されているのに「自分が詐欺師に騙されるわけがない」とか、「この人はいい人だから詐欺師なわけがない」とか、根拠のない自信から真実が見えなくなり、周りがどんなに「あいつには気を付けろ」と注意を発信しても聞き入れることなく、結局詐欺師に騙されてしまう。

 このような事態を引き起こすのが『正常性バイアス』だ。

「自分だけは大丈夫」なんて思い込みの強い人間ほど、このバイアスのせいで痛い目を見る確率が高くなる。



 と、このように、バイアスというものは人の心に強く作用するにもかかわらず、自身にバイアスがかかっていることには一切気が付けない、まさに「知らない間に意識を操られていた」状態にしてしまう恐ろしいものなのだ。


 そんなバイアスをうまく活用することで、人は人を簡単に操れてしまう。



 アンダードック効果は、スポーツなどで負けている方をついつい応援したくなる心理状態のことなのだが、これは地下アイドルなどに向けても発揮される。


 人気がない、知名度がない、こいつらもう自分以外誰も知らないんじゃないか? みたいなアイドルを熱心に、それはもう熱狂的に応援してしまうヤツがいる。

 そういう人間は、アンダードック効果に飲み込まれていることが多い。


 歌もヘタで、芝居もヘタで、トークも出来ず、顔もそこまで可愛いわけではない。

 そんな、他と比較して劣っている者が、上を目指して努力している様を見ると、人はついつい応援したくなるのだ。


 かつて日本で、女子高生や女子大生の素人アイドルが流行したのは、このアンダードック効果が働いていたと考えられる。

 所謂「負け犬」アイドルを応援したい層がいて、そのアイドルがやがて実力をつけて人気者になると、古参のファンは大喜びしたらしい。


 まぁ、負け犬が勝ち組になった瞬間、ファン熱が冷めてしまう者も多かったようではあるが。



「つまり、下手なうちからあえて芝居を見せることで、逆に応援したくなってしまうファン層を形成することが出来る」

「そんなにうまく行くかなぁ~?」


 大丈夫だ。

 ここで使えるバイアスは、アンダードック効果だけではない。


「ここで芝居を上演するのは、三十五区の人間だ。特にイーガレス家はよくも悪くも有名だろ?」


 同じ区の人間で、しかも名前が知られているというのは非常に強みになる。


「『内集団バイアス』というものがある」


 それは、自分が属する小さな集団を贔屓目に見てしまうという、人間が誰しも無意識に持っている本能によるバイアスだ。

 弱い人間は群れを形成することで生存競争を生き残ってきた。

 その過程で「同じ属性の者は守る」ということが本能に刻まれているのだ。


 高校野球で、一切面識もない高校でも出身地の学校をつい応援したくなることがあるだろう。

 それが、内集団バイアスだ。


 会社でも、同郷というだけで採用されることもあるし、合コンでは同郷というだけで打ち解けられることもある。


「三十五区の人間が、上達しようと懸命に努力する姿を見せることで、ファンに応援したいという心理を芽生えさせ、そして同じ役者を応援する同志を生み出すことでさらにファン同士を強固に結びつけるんだ」


 同じ役者が好きというのも、同じ属性と捉えられるため、内集団バイアスは発揮される。


 さらに。


「応援のために何度も劇場を訪れ、何度も芝居を見ると、その分だけファンの心は離れにくくなっていく」


 ザイオンス効果。または単純接触効果と呼ばれるものがある。


 これはすごく単純なもので、何度も何度も会う人間のことを、人は好きになってしまうものなのだ。

 特に、会う度に素敵な時間を共有できる間柄であれば、好意はどんどん増していく。


 CDで聴いてるだけの時はそこまで好きじゃなかったのに、一度ライブに行くと滅茶苦茶好きになった――なんてのも、この単純接触効果の影響だと考えられる。

 生で見て、同じ空気の中に存在して、最高の時間を共有する。

 その特別な感情は、人をいともあっさりと熱狂へと誘う。


 人でピンとこない場合は、好きな旅行先や飲食店を思い浮かべるといい。

 何とは言い切れないが、なんとなく好きで何度も訪れてしまう場所があるなら、それは単純接触効果による好意の上乗せが考えられる。


 生まれ故郷でもないのに、長く一つの場所に住み続けていると、そこが第二の故郷かのように感じるのも、単純接触効果の働きが強い。

 住みやすいから長く留まるのだろうし、住みやすいということは、その場所を好意的に捉えているということだからな。


「つまり、同じ区の出身で、今は下手だけど上手くなろうと健気に努力し続ける者がいれば、この区の連中は応援せざるを得なくなるわけだ」


 まして、相手はお貴族様だ。

 地位と金があり、一般庶民は話しかけることすら出来ない高貴な存在。


 そのお貴族様が、自分たちの前で拙い姿をさらし、それでも上達しようと努力している。

 自分が応援すれば喜んでくれて、自分の応援が後押しとなって芝居がどんどん上手くなっていく――


「――なんてことになったら、一生応援し続けるぞ、古参ファンどもは」

「なんか、そう聞くとすごいことになりそうだけど……一人娘ちゃんたちのあの演技で大丈夫なのか、やっぱり不安だなぁ」


 マーシャはまだ実感できないようだ。

 なら、実例を挙げてやろう。


「陽だまり亭で頑張るテレサは、足手まといか?」

「あ…………なるほど。あぁいう感じなのかぁ☆」


 まだまだ半人前のテレサ。

 メニューの名前はちゃんと言えないし、接客もまだまだ拙い。

 たまに失敗もするし、常に誰かが見ていてやらないと危なっかしい。


 それでも、客たちはテレサを応援しているし、テレサに料理を持ってきてもらうと大いに喜ぶ。


 単純にウェイトレスとしての技量が求められるのであれば、ロレッタやマグダ、ナタリアの仕事が最も喜ばれるはずだが、テレサの人気はかなり高い。


 かくいうマーシャでさえ、テレサが失敗した時に「これはこっちじゃないよ~☆」なんてにこにことフォローしてやっているくらいだ。


 何度も会い、その度に頑張る姿を目にしていれば、人は自然と応援したくなり、応援すればそれは自身の中の『内集団』と認識され、もしテレサのことを悪く言うヤツがいたらブチギレるくらいに大切に思えてくる。


 もし陽だまり亭で「テレサの手作りケーキ」なんてものを売り出せば、味や見た目がイマイチでも飛ぶように売れるだろう。

 ……初回だけなら、な。


「だから、あえて不完全な芝居を、事前に『不完全ですよ』と告知した上で上演してやるのも有効な手段と言えるんだ」


 何の告知もなく不完全なものを見せると反感を買うが、事前に「そーゆーものですよ」と言っておけば、見る方もある程度大目に見てくれる。


「幸い、ルシアが身を切ったおかげで、この脚本自体は話題になりそうだし、一発完璧バージョンを上演したあと、練習版を繰り返し上演し続けるのはありだと思うぞ」

「なるほどねぇ~☆」

「人魚たちも参加して、いろいろダメ出ししてやれよ」

「うん。ウチの娘たち、そういうの好きかも☆」


 なんにせよ、一回は完璧バージョンを上演しないといけないだろう。

 内容の分からない脚本を拙い演技で見るのは苦痛だからな。


 その辺は……ナタリア監督に相談だな。


「それじゃ、ヤシロ君。その辺のこと、ルシア姉と打ち合わせしといてね~☆」


 と、ルシアの方を指差すマーシャ。

 ……まだ領民に囲まれてわちゃわちゃしてんなぁ、ルシアのヤツ。

 あの中に入っていくのは御免だな。


「ん、後日文書で知らせとくよ」


 サラッと保身に走り、俺は人に揉まれるルシアから目を逸らすことにした。







あとがき




まいど!

人の名前を覚えられない、宮地です☆



受付さん「アポイントはございますか?」

宮地「はい」

受付さん「お約束させていただいた者の名前をお伺いできますか?」

宮地「えっと、ほら……あの……え~っと、……吉田さんじゃない人」

受付さん「消去法では無理ですよ」



いつかは治そうと思っているんですが

なかなか……( ̄_ ̄;



で、ですね

「わぁ、私って、本当に人の名前覚えてないんだなぁ~」ということが先日ありまして



会社の休憩室で、

ゲーム好きの先輩と競馬好きの上司が楽しそうに会話をしておりまして

空いてる席がなかったので、彼らの近くに座ったんですね

そしたら、二人に話しかけられまして――



先輩「宮地はゲームとかしないのか?」

宮地「セガサターンで卒業しました」

先輩「ずいぶん昔だな!?」

上司「ちなみに、初めてのゲームってファミコン?」

宮地「いえ、マスターシステムとMSX2が家にありました」

先輩「SEGAっ子か!?」

上司「ちなみに、競馬とか好き?」

宮地「ギャンブルもやらないので……」

先輩「趣味とかないの?」

宮地「(最近はグンゼのスポーツブラが素敵だなと注目しております!)特にないですね」

上司「趣味は持ってた方がいいぞ~」

宮地「(趣味と特技はスポブラです♪)考えておきます。で、お二人は趣味の話してたんですか?」

先輩「そうそう。俺がやってるゲームのキャラ、実在する競走馬と一緒なんだけど、上司が馬に詳しくてさ」

上司「ふふふ。全部、知ってる馬だったよ」

先輩「宮地、このゲーム知ってる?」

宮地「名前は知ってますよ。すごい人気ですよね」

上司「ちなみに、宮地は、何か知ってる競走馬とかいないのか?」

宮地「私が知ってるのは……オグリキャップとメグライアンくらいですかねぇ」

上司「……メグ・ライアンはハリウッド女優だ」( •᷄ὤ•᷅)

宮地「マジで!?」Σ(゜Д゜;)



ということがありまして!


まさか、有名女優を馬だと認識していたとは!?

Σ(゜Д゜;)自分でもビックリですよ!?


けど、気持ちは分かりませんか?

馬みたいな名前じゃないですか? ねぇ!?

そーでもないですか?

そうですかぁ……



ちょっと、

あまりにも自分に驚き過ぎて

『ユーガットメール』のDVD買っちゃいました☆

「おぉ~、これがメグ・ライアンかぁ~。知ってる知ってる。見たことある」って



ユーガットメールは、たしか上映してた時……か、金曜ロードショウで見た気がします。

テレビだった気が……

DVDの日本語吹き替えは、こおろぎさとみさんだったんですが

私が見たのは水谷優子さんだった記憶があるので、おそらくテレビ版だったのでしょう


DVD版もいいけれど、テレビ版の吹き替えも見たいです(*´ω`*)

素晴らしい演技だったんですよ、水谷さん。



というわけで、

ネットでDVDを買って、久しぶりに見ました、

ユーガットメール




面白いですねぇ~(*´▽`*)




かなり昔の映画なのに、すごく楽しい

全然色褪せ……いや、時代は物凄く感じますけども


なんて言うんですかね、「当時の最先端」とか「当時のオシャレ」とか

そんな感じがすごくしていて、

『私をスキーに連れてって』を見た時みたいに、

「当時はこういうのがオシャレで、みんな憧れてたんだろうな~」って感じが

なんといいますか、物凄くいいんですよ!


『エモい』というんでしょうか、こういうの?

なんか胸がきゅんきゅんして堪らんのです(≧▽≦)



ユーガットメールは今見ても面白いですよ

分かりやすく、テンポもよく、ヘイトを溜め過ぎず、後味すっきり


こういう作品を作りたいです。

カタルシスのためにヘイトを盛りに盛って

書くのも読むのもしんどくなるような感じじゃなくて

あっさりしていても、しっかりと中身がある

満足感が得られる

そんなストーリーに憧れます。


昔、私の友人と話していたんですけども、

「笑って、笑って、笑って、ちょっと泣いて、最後に笑顔で終われる、そんな物語って最高だよね~」って

そんな作品が理想です(*´ω`*)


ユーガットメールは、そんな理想に結構近いものがありました。

泣きはしませんでしたけども

すごく楽しいひと時を過ごせました


いや~、まさか

競走馬の話から、「お前メグ・ライアンも知らないのか!?」って笑われて

「じゃあ映画見るもん!」って衝動買いしたDVDで、ここまで充実感を味わえるとは思いませんでした。


こういうのも縁なのかもしれませんね

このタイミングで見られてよかったです


もしどこかで見かけたら、是非ご覧ください。

お勧めです☆



……あれ、もしかして、オグリキャップもハリウッド女優の可能性が……?



……………………あ、馬でした。

紛ぅことなき馬でした。


……可愛い(*´ω`*)



という感じで、

素晴らしい作品は見る者の心を豊かにし、

その後しばらく幸福感に満たされた時間を過ごさせてくれるものなのです。



だから、イーガレス家!?

頑張ってくださいね!?

「んなりがとぅおう!」とか言ってる場合じゃないですからね!?


いや、マジでいたんですよ、全部のセリフの頭に「N」が入る役者さん!

知人にチケットをいただいて見に行った舞台演劇だったんですが……もう、その人が面白くて面白くて……「ここ、見せ場だな!」ってシーンになればなるほど「んんんんんんなんだってぇ!?」って力入っちゃってて…………ストーリー全然覚えてません(^^;

申し訳ない!

でもたぶん、私は悪くない! たぶん!


いやほら、数十年の時を経て、別の作品で昇華されましたから!

ね!?

これでどうか、チャラに……!



一時期、やたらとお芝居に誘っていただいて、

劇団四季とか、京都南座とか、大阪の新歌舞伎座とか、三代目市川猿之助さんのスーパー歌舞伎とか舟木一夫さんのお芝居とか大岡越前とか、劇団新感線さんとか、キャラメルボックスさんとか見に行きましたね。

あと横山智佐さん出演のリカちゃんのミュージカルを銀座に見に行ったこともありましたっけね


私、舞台演劇好きだと思われてたんでしょうか?

結構な頻度でチケットをいただきまして

ほとんど奢りでした

有難い(≧▽≦)/ありがとー!


あと、オペラ『魔笛』!

アレは素晴らしかった!

何言ってんのかまったく意味分かんなかったですけども!(日本語じゃなかったので)

とにかく音楽がすごい!

意味分かんなくても圧倒されて、

後日パンフレットでストーリーを知りました

でも、すごかったんですよ、魔笛!



舞台とか映画って、ちょっと高いイメージありますけど、

見ておくと何年経っても心の奥に感動が残ってるもんなんですよ


見る機会があれば、是非トライしてみてください


……まぁ、ハズレも相当数ありますけどね☆



あぁ、そういえば、大江戸ロケットっていう舞台、

……諸事情により主演が急遽変更されたんですが、変わる直前の回を見に行って

2~3日後にニュースになって「えぇぇえ!?」って驚いたことも……


人生、いろいろあるものですね(^^;




というわけで、イーガレスさんたちのお芝居が人々に感動を与えられるようになるのか否か!


今後をご期待ください☆



次回もよろしくお願いいたします

宮地拓海

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― 新着の感想 ―
最近競走馬の面白い名前の動画を見ました。 「オヌシナニモノ」を「アイアムハヤスギル」が抜く動画は馬名で会話してて面白すぎました。
セラフ読んでる時(これルシアだなぁ) 手本役が必要ってなった時(ヤシロとルシアだろうなぁ) 完全に予想通りだったのに予想以上の甘々いちゃらぶが見れてとても満足です最高
メジロライアンがメグ・ライアンになってて笑いました そういえば、その作品にもウスペラさんもウマの名前みたいに出来ますよね 「ウスペラじゃないやい!」(サクー) 四十二区のムネストンライトオって …
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