409話 仮設劇場、建つ
早っ。
速っ。
はっや。
日の出と共に軽い打ち合わせが行われ、ウーマロの合図で持ち場に散った大工たちが一斉に各々の作業を始め、昼飯前には土台が出来上がっていた。
どういうことだよ、おい?
基礎工事って、数週間かかる大仕事じゃなかったっけ?
日本でも、基礎工事は時間かかって、「この家、全然建たないな」とか思ってた矢先、基礎工事が終わった翌日ぐらいにはもう骨組みまで出来てて「速っ!?」って驚くのがデフォだろうに。
基礎工事にとにかく時間がかかる。
ウワモノは案外あっという間に出来る。
そんな俺の中の常識が見事に覆されているナウ。今、目の前で。
「地盤固めなんて、パワーでいくらでも押し切れるッスよ」
まぁ、コンクリ流し込んで固まるのを待つわけじゃないし、重機も真っ青な規格外のパワーで土壌を固めてしまえば地盤は出来上がっちまうのかもしれないけれども。
試しに土をノックしてみると、コンクリより固そうな手触りだった。
この街に、鉄筋コンクリートの技術は不要なのかもしれない。
「「「とーりょー! 下水こんぷりーとやー!」」」
ハムっ子がわらわらっと集まってくる。
「おいこら、口調に気を付けろよ」
「あっ」
「いけない」
「まだ年中のときのクセが」
今年、年長に加わったばかりだというハムっ子連中が、ヒューイット家長男に叱られて背筋を伸ばす。
こうやって、兄弟で教育して、自由奔放なハムっ子も大人になっていくのか。
「「「棟梁、下水コンプリートです!」」」
「よし」
よしじゃねぇーよ。
直りきってねぇよ、口調。
「出来ました」とか「完了しました」って覚えさせろよ。
……やっぱ、しっかりしてても長男もヒューイット家、ロレッタの弟なんだよなぁ。
成人しても残念さが抜けきらないんだよなぁ、ヒューイット家。
「それじゃあ、外壁の組み立てを手伝ってくるッス。ヤンボルドの指示に従うッスよ」
「「「それが人に物を頼む態度なのでしょうか?」」」
「口調だけ直しても、結局ハムっ子ッスね、お前らは!?」
よく年中組が言ってるもんなぁ、「それが人に物を頼む態度かー」って。
中身はそうそう成長しないってこったな。
「昼まで頑張ったら、昼食の後に駄菓子買ってやるッスから、もうひと頑張りしてくるッス」
「「「うはははーい!」」」
あ~ぁ。
両手上げて走ってったわ。
年長になっても、ハムっ子はハムっ子なんだなぁ。
まぁ、まだ成人してないから、もうちょっと先の未来に期待、だな。
「あいつら、年齢は?」
「今年で十三歳だよ。あ、です」
長男も、職場では口調に気を付けようとして、油断すると地が出てくるタイプなんだよな。
ヒューイット家では、六歳までを年少、十二歳までを年中、十三歳からを年長組と呼んでいる。
日本で言うところの未就学児が年少で、小学校入学から卒業までが年中、中学に入学したら年長って区分けだな。
十五歳で成人だから、中3で成人と考えると、やっぱり若い。
職にも就かず勉学に遊びにと自由気ままに過ごせた日本ってのは、やっぱり裕福な国だったのだろう。
ま、俺も十六からバリバリ社会人やってたけど。
裏稼業を少々。
「そう考えると、俺もハムっ子も似たようなもんなのかもな」
「いや、全然違うッスよ!? ヤシロさんみたいな人がハムっ子たちほどいたら、この街どころか世界が大変なことになっちゃうッス!」
お、ウーマロ。すっかり目が覚めたようだな。毒舌がフル回転してるぞ。
滅ぼしてやろうか? ウーマロ帝国☆
「うむ、よい出来だ」
遠くで、ルシアの声が上がる。
隣には、安堵と自信が表れた表情のベッコ。
「劇場のエントランスに飾るレリーフが出来たみたいッスね」
ウーマロがわくわくした表情で駆け出す。
俺もそれに続き、ベッコの作品を確認する。
「おぉ……すげぇ迫力だな」
劇場に入って真っ先に目に付くエントランス正面の壁にドドーンと飾るレリーフ。
ルシアの希望で聖女王をモチーフにしている。
聖女王と船、そして陸地と城。
人魚との貿易で強固に結びつく三十五区というものがはっきりと表現されている。
このレリーフを見れば、三十五区が人魚を大切にしていると、誰の目にも明らかだろう。
「英雄王はよかったのか?」
「噴水がそばにあるのでな。あまり多用すれば、さすがに媚び過ぎと映るであろう?」
「まぁ、そうかもな」
現在地より噴水を振り返って眺める。
この位置からは崖が邪魔で街門は見えないか。
三十五区の街門を出ると長い下り坂があり、その坂の先、正面からやや左手側に向かって港が広がっている。
右手の方へ進んでいくと砂浜があり、その先は以前アクアスコープで遊んだ岩場がある。
街門から続く坂道は両サイドが崖に挟まれており、港に入ると一気に視界が開ける。
そこから左手側に進むと大型帆船がいくつも停泊する巨大な港が広がり、そこは大きな広場になっている。
その広場に英雄王の噴水が設けられており、現在急速に観光地化が進んでいるわけだ。
ちなみに、この広場を抜けてずっとずっと奥へ歩いていくとマーシャの家がある。
下手に近付くと、見張りの人魚が襲い掛かってくるらしいから要注意★
……え、なにそれ、怖い。
そして、劇場建設予定地は、噴水広場を通り過ぎ、そこそこ歩いた先にある。
劇場が出来ると、マーシャの家に行く道が狭くなるのだが、「その方が、私有地感が出ていいかも~☆」と、マーシャは逆にご満悦だった。
……私有地化しちゃっていいのか? いいの? あ、そう。
というわけで、劇場予定地は街門からはそこそこ距離がある。
だが、それでいい。
距離があれば、その分通りが長くなり、通り沿いには店を置ける。
劇場に続く通りにある店は、物がよく売れる!
行きがけに物珍しく見学し、観劇後の帰り道では感動の余韻で財布の紐が緩む。
参道に並ぶ店は繁盛する。
世の中とは、得てしてそういうものなのだ。
「この場所であれば、海から水路を引きやすい。実によい立地だ。さすがだな、カワヤ」
「い、いや、これはウーマロのアドバイスもあって、あの……恐縮です」
建設場所のリサーチをしていたカワヤ。
確かにいい場所を選んだものだ。
三十五区の劇場は海から水路を引いて、劇場内に人魚用の観劇スペースを設けることになっている。
さすがに壁を取っ払っていつもフルオープンってわけにはいかないので、人魚の方から中に入ってきてもらう形だ。
「ねぇねぇ~! 水流扉の設置はまだ~?」
「いや、まだ建ってませんから!」
そんなわけで、室内プール型観劇スペース設置のためにスタンバイしている人魚が複数。
いや、多数。
どんな劇場になるのか、わくわくとした顔で経過を見守っている。半数以上が野次馬だな。
「あとは、マーたんのOKが出ればこれで完成としよう」
マーシャはここ数日、海漁ギルドの仕事で遠海へと出かけている。
今日の昼には戻ってくるらしいので、そのタイミングで確認をしてもらうことになっている。
ちなみに、今日仮設劇場を建てるという話はマーシャに伝わっている。
三十五区に常駐している海漁ギルドの人魚に手紙を託し、超特急でマーシャに届けてもらったのだとか。
……速そうだな、人魚。
「仕事切り上げてすぐ帰る」と、ソッコーで返事が来たようだ。
もっと速そうだな、マーシャなら。
カワヤのもとを離れ、ウーマロが作業している場所まで歩いてくる。
発破をかけておかないとな。「マーシャがすっ飛んで帰ってくるぞ」ってな。
「今日中に総出で外装までを建てて、内装は明日以降オマールたちに任せて作っていくことになるッス」
「お前は監修しないのか、内装?」
「方向性が定まっていれば、オマールたちに任せてしまっても大丈夫ッスよ。テーマパークで連中の腕がどんなもんかは分かってるッスし」
なんだかんだ、いろんな仕事を共にしてるからな。
「……あと、内装が始まると人魚さんたちが頻繁に出入りするようになるッスから、オイラは逆に邪魔になりかねないんッスよ」
「早く治せよ、その病気」
逆に人魚の嫁でももらったらどうだ?
スキンシップ過多の人魚が相手なら、免疫もつくんじゃないか……あ、アナフィラキシー的に拒絶反応出ちゃう可能性の方が高いか。
残念メンズめ。
「俺も、内装が出来たら見に来たいな」
「もちろんッス! 是非意見聞かせてほしいッス! というか、ヤシロさんのチェックは不可欠ッスから!」
「……熱量すごいけど、仮設、だからな?」
そのうち取り壊すんだぞ?
分かってるのかねぇ、こいつら全員……
「ヤシロさーん! ちょっといいっすかぁー!?」
カワヤが呼んでいる。
大手を振って手招きしている。
ので、手招きし返してみる。
「いや、こっちに来てくれた方が話は早い……んもう! 行きますよ!」
カワヤがダッシュでやって来た。
「で、なんだ?」
「避難経路ってヤツの確認なんですけど、あそこに裏口作ったとして、外に飛び出した時に危険はないかなと思いまして」
「そうだな。現場に立って実際見てみないとなんとも言えないな」
「じゃあ、ちょっと現場まで来てもらって、実際見てもらえますかね?」
「おう、行こう」
「んん~っ、予想通りの二度手間っ!」
「オマール、慣れろッス」
あっつい湯豆腐でも丸呑みしたかのように体をうねらせるカワヤに、ウーマロが生暖かい目を向ける。
そういやオマールって名前だっけなぁ。
俺も昔はオマールって呼んでいたような気がしないでもないけれど、今ではカワヤの方がしっくりと来る。
心の距離が出来たんだろう、きっと。
「じゃ、行こうか、カワヤ」
「ヤシロさんはオマールって呼んでくれてたはずですよね!? なんでちょっと距離できちゃったんですか!? フレンドリーに行きましょうよ!」
ちょっと涙目のオマールに腕を掴まれて、現場まで連行される……というか、お手々繋いで隣を歩かれている。
……うわぁ、ないわぁ。
おっさんが手ぇ繋ぎたがるとか……心のシャッター、しっかりと施錠しとこ。
「手を離してくれませんか、他所の大工さん」
「心の距離が外国並みに!?」
「ヤシロさん、ベタベタされるの嫌いッスからねぇ」
ウーマロに泣きつくオマールを視界から外しつつ、避難経路に立ったつもりでそこからの景色を見てみる。
そこそこ距離はあるが、眼前に海が広がっている。
こっちの方に走って逃げるのは危険だな。
吐き出されてきた人並みに押されて止まれなくなった場合、二次災害が起きかねない。
「裏口の場所を変更しよう」
「じゃあ、こっちの方にドアを作って、舞台から避難する時はこっちで、観客席からはこっちに逃げてもらって、控室からはこういう順路で――」
その場で別の案を立てて話し合いを繰り返し、太陽がてっぺんを過ぎた頃、劇場の外装が完成した。
出来合いの物を持ち込んだとはいえ、驚異的なスピードだ。
このあと、内側からも手を加えて強度を上げていくらしいが、それでも大したものだ。
人知を超えていると言っても過言ではない。
「お前らの考えてることはよく分からん」
「ヤシロさんの発案ッスよ、この画期的なアイデア!?」
俺の知ってるプレハブとは全然違うし、俺の発想なわけがない。
誰が何を思って作ったのか分からんような、滅茶苦茶ゴージャスな柱や壁のパーツがいい味を出しており、三十五区の劇場は仮設とは思えないほどの威厳を遺憾なく放っていた。
これで、敷地内を整えたら、十分客を呼べるな。
仮設の仮組みではあるが、今朝までなかった劇場がそこに鎮座している。
常識ってやつを疑いたくなるような光景だが、なかなか悪くない。
ルシアも仮設劇場を見上げて大きく一度「うむ」と頷き、「よい出来だ」と満足そうに白い歯を見せて笑っていた。
「ミリィたんの協力も仰がねばならぬな」
「自分のとこの生花ギルドに頼めよ」
「これだけの劇場だ。ミリィたんでなければ庭が負けてしまうであろうが」
ミリィの評価、高ぇなぁ、お前の中で。
「あとで手紙を書くとしよう。しかし、文字だけでは味気ないな……よし、直接手渡しに行くか!」
「あれ、忘れてる? お前って、領主なんだぜ?」
そうそう気軽に一番遠い区に出かけてんじゃねぇよ。
「ルシア様」
報告のため、オマールがルシアの前にやって来る。
「あ、ヤッベ。今心の中で『オマール』って言っちゃった。ごめんな、カワヤ」
「オマールでいいですってば! むしろフレンドリー希望!」
「私への報告を取るな、カタクチイワシ。独占欲の塊か、貴様は」
こんなオッサン相手に独占欲なんぞ発揮するか。
「報告をせよ、カワヤ」
「はっ。柱と壁、それから床もですが、一通り組み立ててみて強度を測りましたところ、当初の計算通り十年が限界だと思われます。この十年のうちに本当の劇場を完成させるよう計画を立ててください」
「うむ。十年が限界ということは、実質八年程度で使用は難しくなるか? 観客や演者の身の安全が第一だ。急がせねばな」
「いえ、あの…………ウーマロの言う『限界』なんで、おそらく二十年くらいは大丈夫かと」
そうなんだよなぁ。
ウーマロのヤツ、安全への意識が高過ぎるんだよなぁ。
たとえば、椅子がぐらついたら「破損のリスクや、グラつきのせいで転倒する危険があるッス! こんな椅子にはもう誰も座らせられないッス!」とか言いそうだもん。
下手したら、この仮設劇場、「十年くらい使うとどっかの板が軋み始める」とかいうレベルかもしれないんだよなぁ。
陽だまり亭の階段とか渡り廊下とか、ちょいちょいチェックしに来てるみたいだし。
マグダが存在する可能性がある場所へのチェックは一段と厳重になるんだ、ウーマロの場合。
「とはいえ、キツネの棟梁が十年と言うのであれば、十年を目処に劇場を完成させねばなるまい。テーマパークや各区の大衆浴場など、優先すべきものがあるであろうが、こちらへの協力も頼むぞ、カワヤ」
「もちろんです! この仮設劇場に負けないくらいの、立派な劇場を作ってみせます!」
まぁ、そっちは腰を据えてしっかりとやってくれ。
十年もあれば、いろいろとこだわれることも多いだろう。
なにせ、十年といえば六歳のぺったんこが、成人してぼぃんぼぃんに成長するくらいの時間なわけだし。
すげぇな、十年!?
「ルシア様。設置されると報告する、劇場エントランスへ、聖女王様のレリーフが、革命の彫刻家ベッコの手によって」
「そうか。では、私も向かおう」
エントランスでは、ベッコがレリーフを設置するらしい。
アルシノエにはメンコ絵師、ギルベルタには彫刻家、ルシアにはいじり倒せるおもちゃと認識されてるのか。バラエティに富んでるな、ベッコ。
ルシアが劇場内へ入ると、入れ替わるようにマグダがやって来た。
「……ヤシロ。夕飯も屋台をやる?」
昼間、ランチの時間にここで屋台をやってくれたマグダ。
ルシアがいるので、陽だまり亭出張販売所としてすぐさまオープンすることが出来た。
とはいえ、マグダなのでお好み焼き屋になってたけどな。
「夕飯はいいや。陽だまり亭に帰ってから食おう」
「……ん。マグダも、それがいい」
マグダは今日、ウーマロ応援団として参加しているから、結構手持ち無沙汰のようだ。
とはいえ、大工に混じっていろいろ手伝ってたけども。
「……それから、報告が一つある」
そう言うと、マグダは高らかに指笛を鳴らした。
ぴゅい~♪ ――と、澄んだ高音が空に吸い込まれると同時に、海の方から「ばしゃっ!」と何かが飛び出してきた。
射出されたソレは空を舞い、くるくると回転しながらマグダの腕の中にすっぽりと収まった。
「やっほ~☆ ただいま~☆」
「……マーシャが到着した」
「つか、めっちゃ飛んできたな、マーシャ」
ここから海まで100メートルくらいあるんだけど?
「水路がまだないんだもん。遅いぞ、キツネの棟梁君★」
「や、あの、そこは、マーシャさんとそ、そそ、そそう、相談して、オマールが、やは、やははは……」
指さされて盛大にテンパるウーマロ。
あぁ、言うまでもないと思うが、持ち場についてバリバリ仕事していたウーマロは、マグダが俺の前にやって来るのに釣られるように俺の前までふらふら引き寄せられていた。
まぁ、日常の風景だな、うん。
それはそうと、今一回『そそう』って言わなかった?
マーシャに緊張し過ぎて粗相しちゃったか? ばっちぃヤツめ。
「わぁ~! 近くで見るとすごいねぇ。こっち側正面も」
劇場は、陸側と海側、どちらから見ても正面に見えるような造りになっている。
どっちからも客が来るからな。
「じゃあ、こっち側も見られるようにこの辺も水路通しといた方がいいか?」
「うん、お願い☆ みんな、絶対見たがるから」
「じゃあ、この辺水路にして、水路から買い食いできるような店も置いとこう」
「そうッスね。ちょっと橋が多くなっちゃうッスけど」
「その橋も、ちゃ~んと見栄えのするものを作ってくれるんだよね~?」
「そ、そそそ、それはもちもち、もちろんッス」
「今一回、もちもちしたね~☆」
マーシャも、テンパりウーマロをからかって楽しんでいる。
人気者だな、ウーマロ。
一切、顔を見ていないけれども。
「じゃあ、ウーマロ。この辺の地面の強度を考えつつ水路の位置を検討しといてくれ」
「はいッス。概ね決まってるッスけど、変更は容易いッスから、要望があればじゃんじゃん言ってほしいッス。……オマールに」
自分は窓口になるつもりはないんだな。
まぁ、無理か。
「じゃあ、この辺まで全部海にしといて☆」
「それは無理ッスよ!?」
出来ないことは出来ないと言えるウーマロ。
えらいえらい。
あと、マーシャ?
だったら最初から海上に建てるわ。
「じゃあ、あっちの娘たちに聞きに行ってあげて☆ 劇場を近くで見た過ぎてそろそろ暴動起こしそうだったから☆」
「オマール、最重要事項ッス、すぐ来るッスー!」
ウーマロがダッシュで海まで走っていく。
岸壁沿いに無数の人魚がひしめいている。
うわぁ……めっちゃ押し寄せてるなぁ。
あっちの対応はオマールに丸投げしとこう。
「あ、そうだ。さっきエントランスに飾るレリーフが完成して、今ルシアとベッコが中に設置しに行ってるんだ。見に行ってみるか?」
「わぁ、見たい見たい! マグにゃん、連れてって☆」
「……よろこんでー」
どこで覚えてきた、その居酒屋スタイルの返事。
急な帰還で水槽付荷車を準備できていないというマーシャ。
船に置いてあるんだと。
……船を置き去りにする勢いで帰ってきてんじゃねぇよ。
というわけで、これからしばらくマーシャはマグダに抱っこされて移動することになる。
「……と~れとれ、ぴ~ちぴち♪」
「マグダ。なんかマーシャを釣り上げたみたいになるから、その歌やめとけ」
「あはは~☆ 大漁だね~☆」
捕獲されてるマーシャが嬉しそうに両手をあげて「きゃ~食べられる~☆」とか言ってはしゃいでいる。
劇場の完成が殊の外嬉しいのだろう。
テンション、高っか。
「わぁ~、わー、わーわー! すっごぉ~い☆」
エントランスに入ると、見上げるほどデカい聖女王のレリーフが出迎えてくれた。
これは、圧巻だな。
「……ほぁ」
マグダも思わず口をあけて見上げている。
地べたに寝かせてた時もすごいと思ったけど、こうして壁に取り付けると一層迫力が増す。
「英雄王より迫力あるんじゃね?」
「あはは~☆ ルシア姉の思い入れの差が出ちゃったのかなぁ~☆」
確かに、三十五区としては、人魚たちをまとめあげて国を築いた英雄王よりも、人魚と人間との貿易を締結させた聖女王の方が思い入れは強いだろう。
聖女王は、人間と人魚を繋ぐ絆の象徴だな。
「おぉ、マーたん! どうだ、このレリーフは? なかなか見事なものであろう?」
「最っ高~☆ ござる君、えらい!」
マーシャに気付いてこちらへやって来たルシア。
その後ろでベッコも満足そうな顔をしている。
マーシャの合格が出て初めて合格だからな、これは。
「仮設とは思えない見栄えになったな」
「え、仮設? ………………壊すの?」
なんか、マーシャからめっちゃ黒いオーラが迸ってるんですけど!?
「向こう十年を目処に、ここよりもすごい劇場を建設予定だ。テーマパークとか諸々が終わったら本腰入れて、凄まじいものを作ってくれるはずだぞ、ウーマロたちが」
怖いので丸投げだ。
頑張れ大工!
死ぬ気で頑張らないと……死んじゃうぞ★
「そうなんだぁ。それはそれで楽しみかもね~☆」
……マーシャには、入る前に仮設劇場だって言っておくべきだったなぁ……失敗失敗。
エントランスを見たあとは劇場内へと案内される。
まだ座席も舞台もない伽藍洞な空間だが、その広さに圧倒される。
「ここが舞台で、あっち側に観客席を作るッス」
舞台予定地に案内され、そこから客席予定地を眺める。
広い。
ちょっとした映画館くらいの広さだ。
たぶん、二百~三百人くらい入るんじゃないか、これ?
「仮設じゃない本当の劇場では、これの倍くらいの大きさに出来ればと考えているんッスよ」
さらに広げる気か!?
そんなに人来ないだろうに。
「これは大変だぁ~、世界中の人魚が押し寄せてきちゃうかもっ☆」
それはそれで、ちょっと怖いんだけどな……海漁ギルド以外の人魚って、人間に対してどう思ってるか定かではないし。
「だいじょ~ぶ☆ 古いタイプの人魚は、こういうの興味あるくせに興味ないふりして意地でも近付こうとしないから★」
わぁ、黒い笑顔★
……マーシャ、上の世代の人魚に相当いろいろ言われてんだろうなぁ。
勢力が反転したら一気に切り崩すつもりなんだろうな、きっと。
うん。怖いから考えないでおこっと☆
「座席はどうなってるの~☆ 人魚席はどの辺になるのかなぁ?」
身を乗り出して設計図を覗き込もうとするマーシャ。
マグダがバランスを取って、暴れるマーシャをうまいこと支えている。
あ、マーシャの体がウーマロに触れそうになったら絶妙に距離を取って触れないようにしてる。
マグダはウーマロも守ってるのか。すごいな、あのSP。
「最初は左右で陸と海で座席を分けるって話が上がってたんッスけど、それだとなんだか分断してるみたいでこの劇場には相応しくないッスよねってことになって、前から順に水槽席、シート席、水槽席、シート席って感じで交互に座席を配置することになったんッスよ」
と、マグダをガン見しながら説明するウーマロ。
ブレないな、こいつは。
「え~い、投げキッス☆」
ウーマロのあからさまな態度に、若干ムッとしたのであろうマーシャがウーマロに向かって投げキッスを飛ばそうとするも、マグダがすかさず体の向きを変えて射線を変更させた。
結果、ベッコに炸裂してベッコが大地に沈んだ。
「……悔いは、ないでござ……る」
なら沈むなよ、大地に。
う~っわ、嬉しそうな死に顔だこと。
とことこ近付いていって、靴脱いで、足の裏を顔にぺったり。
「わっぷ!? 物凄い汗でござるな、ヤシロ氏!? 少し休憩した方がいいでござるよ。動き過ぎでござる」
顔面に足の裏付けられて飛び起きたベッコは、文句を言うのかと思いきや俺の心配をしてきた。
どういう人種だ、お前は。
お前の感情、どう動いたんだよ、今?
「むぅ~……マグにゃんはキツネの棟梁君に過保護過ぎじゃないかなぁ~?」
「……二日続けて気絶させるわけにはいかない」
そうだな。
ウーマロが戦線離脱したら、このあとの仕上げが面倒くさくなるし。
「……ウーマロが抜けると、ヤシロが張り切って今晩泊まり込むとか言い出しかねないから。今日中に連れて帰らないと店長が心配する」
いや、俺はそこまで勤労精神が迸ってねぇよ。
「……MY金槌とMYカンナを持ち込むほどの意気込み」
「ヤシロ君って、大工仕事好きだよね~☆」
そんなことねぇよ。
まぁ、MY金槌とMYカンナは持ち込んでいるけども。
「しかし,こんだけ劇場がデカくなると、人形劇のスケールもデカくしないと後ろの方からじゃ何やってるか分からなくなりそうだな」
「じゃあ、人間の船乗りが使う遠眼鏡でも借りてきたらどうかなぁ?」
遠眼鏡?
……あぁ。
「望遠鏡か」
「そうそう。人間の船乗りは目が悪いからねぇ~」
「人魚も使ってるのか?」
「私たちは、こうやって目に『くっ!』って力を込めると普段より遠くが見えるようになるし、それでも見えなきゃそこまで泳いでいっちゃうから必要ないかなぁ~☆」
人魚は視力までいいのか。
というか、視力を操作できるの? すげぇ。天然のズーム機能じゃん。
「だったら、オペラグラスを作っちまえばいいか」
「おぺらぐらす?」
「俺の故郷の演劇の一種でオペラってのがあるんだけど、でっかい劇場でやるもんだから遠くの席の客は望遠鏡みたいなのを覗き込んで芝居を楽しんだんだよ」
「望遠鏡って……遠眼鏡で? ぷぷっ、変なの~☆」
「もちろん、観劇に適したおしゃれアイテムに仕上げてな」
「へぇ~、おしゃれなんだぁ~」
ルシアに聞けば、もしかしたら知ってるかもな。
この街の貴族は芝居を楽しんでいるみたいだし。
望遠鏡が存在して、ナタリアやレジーナが普段使いで結構おしゃれなメガネを使用してることからも、レンズを作る技術はかなり高いことが窺える。
俺がわざわざ伝えるまでもなく、そういう需要に応える商品が存在していてもおかしくはない。
「ルシア、オペラグラスって知ってるか? 観劇の時に使う特殊なメガネみたいなもんなんだが」
「聞いたことがないな」
「王立劇場とか行って、後ろの方の座席になったらどうしてるんだ?」
「一応、領主一族なのでそのような座席に座ったことはないが……まぁそうだな、そういう時は歌を楽しむのではないか?」
こいつ……なにちょこっとセレブ感醸し出してんだよ。
エステラなんか、絶対王立劇場なんか行ったことないぞ。
行ったとしても立見席とかがせいぜいだろう。
「じゃあ、作るか」
「そうは言うがな、カタクチイワシよ。そんな簡単に出来るものなのか?」
「メガネのクオリティを見るに、そこまで苦戦はしないだろうよ」
「ということは……三十三区案件か」
あぁ、そうか……
鉱石関連は三十三区の十八番で、砂を使って作成するガラスも三十三区が得意としてんだっけな。
……無茶を言いにくい相手だな。
三十七区とかだったら、「じゃ、明日までにヨロ☆」って丸投げしてやれるのに。
「エステラよりルシアに任せた方がうまくいきそうだな。交渉しといてくれ」
「まず構造とデザインを寄越せ。それを持って三十三区領主に話をしてみる」
「お前な、知識は財産――」
「貸し一つでどうだ?」
わ~ぉ、余裕の笑みを浮かべてこっち見ちゃって、まぁ。
「俺を相手に、よくそんな大それたことが言えたもんだな」
「貴様の寄越してくる無理難題は、クリアするだけの価値があることがほとんどであるからな」
「三十五区を乗っ取られるような要求を突きつけられたらどうするんだよ」
「貴様は領主の座に興味を持っておらぬではないか」
それは、まぁ、そうだけども。
「仮にそのような要求がなされたのなら、すんなりと明け渡して私は四十二区で楽隠居生活を満喫させてもらおう」
「お前へのメリットしかねぇじゃねぇか」
やっぱいらんなぁ、三十五区の領主の座なんか。
「それに案外、そうなった方が領民は喜ぶかもしれぬしな」
くっくっくっと、肩を揺らして笑うルシア。
洒落になってねぇし、笑えねぇっつの。
「一番問題なのは、卑猥な要求をされた場合だが、その際は早急にジネぷーに告げ口する所存だ」
「お前、履行不可能な条件を提示するなんて卑怯だろ」
「すべてを敵に回す気概があるのであれば、卑猥な要求でもなんでもしてみるがいい」
こいつはぁ……
卑猥な要求じゃなくても、ちょっとでもつらいことだったら「カタクチイワシにやらされておるのだ……」とか言って俺を悪者にする気だろ。
なんて腹の黒いヤツだ。
全然真っ当な交渉じゃねぇじゃねぇか、こんなもん。
「じゃーさ、じゃーさ~ぁ? 『俺の嫁になれ~』とかだったら、どーする?」
マーシャがルシアに質問を投げつけ、ルシアが止まる。
「…………」
「…………」
……んだよ。
無言でこっち見んな。
「…………エロクチイワシ」
「言ったの俺じゃねぇし、エロくねぇし」
オペラグラスの情報でルシアを嫁に!
……って、なんだそのオペラグラス婚。
空恐ろしいわ。
で、固まるルシアを見てくすくす笑ってるそこのマーシャ。黒い性根が見え隠れしてるぞ。
「でもでも、オペラグラスがあると観劇が楽しくなりそうだから、ルシア姉頑張って交渉してね☆」
「……見返りは追々、エステラも交えて話し合うということでどうだろうか」
「ま、それが無難だな」
「では、すまぬが、それで頼む」
「おぅ。向こうとの交渉よろしく」
「うむ」
マーシャに引っ掻き回されて、俺もルシアも妥当な落とし所に落ち着いた。
ルシアが妙にしおらしいのは、ちょっと照れてるからかもしれない。
マーシャには敵わないみたいだな、孤高の女領主様は。
あ、今はときめき女帝様だっけ?
うわぁ、後者の方がしっくりくるわぁ、今のルシア見てると。
マーシャに詳しく話を聞いてみたところ、この街に存在する遠眼鏡――望遠鏡はガリレオ式のようだ。
ガリレオ式は古典的な望遠鏡で、対物レンズ(物体に向ける方のレンズ)と接眼レンズ(覗き込む方のレンズ)の距離を確保しなければいけないため本体がどうしても長くなることと、視野が狭くなってしまうという欠点を持つ。
一方、接眼レンズを凸レンズにして視野を広くしたのがケプラー式といい、現在ではこちらの方が広く使用されている。
ただし、ケプラー式は像が上下逆さまになってしまうという特大の欠点が存在する。
観劇に使用するのに、役者も舞台もみんな逆さまでは非常に見づらい。
それを解消するためにはプリズムを使用して光を反射させ像を反転させてやる必要がある。
一般的に売られている双眼鏡なんかは、この原理が使用されている。
まぁ、そのプリズムを使用した双眼鏡も、反射する時に光の損失が起こらない『ポロプリズム』と、反射が複雑で一部光が透過してしまうがために特殊な加工を要する『ダハプリズム』という二種類が存在する。
ポロプリズムは構造が簡単であるがゆえに、小型軽量化が難しくゴツい印象になる。
一方のダハプリズムは加工が難しいが小型化が可能になっている。まぁ、その分技術料はお高くついてしまうけどな。
どちらにせよ、キレイに光を屈折させてくれるプリズムが必要になるので、今すぐ作ることは難しいだろう。
この街で使用されている望遠鏡がガリレオ式なのなら、ケプラー式は広まっておらず、プリズムの研究も進んでないだろうからなぁ。
せめて、ガラスを加工する技術が発展していれば、俺が原理とレシピを提供して作らせるのに……
「三十三区のガラス加工技術はどの程度なんだ?」
「貴様、会ったこともない領主を、もうアゴで使う気満々という顔をしておるな」
人聞き悪いな、おい。
俺はただ、今後この街に欠かせなくなるであろう必要不可欠な技術を提供する代わりに、確実に飛ぶように売れる新製品の利権にガッツリ食らいついて不労所得でウハウハしてやろうとしているだけだ。
「それを、アゴで使うというのだ」
「まぁ、ガリレオ式オペラグラスでも問題はないんだが……」
「問題がありそうな顔で言われても説得力がないぞ、カタクチイワシ。どのような問題があるのだ?」
「視野が狭いから、舞台全体を見るのが難しい。精々が、お気に入りの役者の顔をアップで見られるくらいだろうな」
「十分ではないか」
まぁ、それでも十分といえば十分だ。
ただ、俺としては、全体を俯瞰した視点で楽しみたい派なんだよな、芝居ってのは。
舞台公演を撮影した映像作品なんかを見ていると、下手に役者のアップとかにしないで、固定カメラで舞台全体を引きで映していてくれればいいと思ってしまうんだよな。
顔だけ見ても、芝居が頭に入ってこない時があるから。
「まぁ、人形劇なら問題ないか」
人形が体を使った演技をするわけでもないし。
「より上質なものがあるにもかかわらず、手間だからと低品質のもので妥協するか――みたいな顔をするのではない、カタクチイワシ」
「俺の顔からいろんな情報読み取ろうとしてんじゃねぇよ、ルシア」
「でもでも~、ヤシロ君の顔はホント~に分かりやすいよねぇ~☆」
そんなことはないぞ、マーシャ。
もし仮に、お前たちがそのように認識しているのだとすれば、それは俺の意思によって「そうである」と思い込まされているだけだ。
つまり、お前らは俺の手のひらの上で踊らされているに過ぎないのだよ、ふぁっはっはっはっ!
「そのようなことはない」
「うんうん、そんなことないよ~☆」
顔と会話しないでくれる!?
言葉を交わそうぜ、なぁ!?
「ただなぁ……俺が考えているものを作ろうとすれば、三十三区にかなりの重圧をかけることになると思うぞ。ルシア、交渉してきてくれるか?」
「ふむ……一度DDに相談してみるか」
三十三区領主と結構親しくしているのは、三十三区のお隣二十四区の領主、ドニスだ。
ルシアでも気軽に話を持ち込めない以上、担ぎ出すしかないかもなぁ。
……いやいや。
「ダックも結構親しいんじゃなかったか、三十三区領主と?」
酒の話で盛り上がれるような関係で、よく飲んでるんだろ?
それで、港で売るカラーサンドアート用のガラス瓶をかなりの量融通してきてくれたじゃねぇか。
「ヤツに頼りきりになるのは、少々考えものでな」
幼馴染で、元婚約者で、向こうの都合で婚約破棄された相手。しかも、向こうの方が年上で、負い目も感じているとなれば、ルシアが頼み事をすればダックは断りにくい立場になる。
本人が平気だと言っても、それを心苦しく思うのがルシアというヤツだ。
もっと甘えてわがまま言っても聞き入れてくれそうだけどなぁ、あのブーちゃんなら。
「ちなみに、どのような技術が求められるのだ?」
「ガラスを三角柱に加工してほしいんだ。かなりの精度で」
「かなり……か。要求が高そうだな」
「その品質によって、双眼鏡の性能が左右される」
「ふむ……一応話を伝えておくとして、当面は現在ある技術で再現可能なものを作るべきか」
現在ある技術でってことなら、ガリレオ式の古典的なオペラグラスになるだろうな。
まぁ、現代でもオペラグラスはその方式で作られてることの方が多いけどな。
オペラの観劇に、野鳥の会みたいなゴツい双眼鏡を持ち込むヤツはなかなかいない。
もっとコンパクトで、軽量化されたものが好まれるだろう。
レンズ部を折りたたんでコンパクトなケースに収納できるタイプのオペラグラスが作れれば、携帯にも便利だし気軽に使えるだろう。
いや、中央で曲げられるようにしておいて、目の位置を調節できる方が需要はあるか……顔の大きさって、結構千差万別だからなぁ。
ぴったり合ってない状態だと、長時間使用するのがしんどいんだよな。
「とりあえず、ガワだけ先に作っちまうか……」
「待て、フライングイワシ」
どこのトビウオだ、そいつは?
「まずはレンズの確保が出来てからだ。到底手が出せないような値段になるようであれば、導入を見送らねばならぬ」
いやぁ、カラーサンドアートのガラス瓶を見る限り、融通は利くと思うぞ。
こっちの話を聞かせる方法を取れば、な。
「とりあえず、ドニスとダックに相談だな」
「……ダック・ボックを担ぎ出すなというのに」
なんだかんだ、ダックには遠慮しているっぽいルシア。
甘えさせてくれる相手だからこそ、甘えてしまわないように自分から距離を取っている感じか。
エステラもそういうことしそうなタイプだよなぁ。
相手の方は、甘えてくれた方が気が紛れて嬉しかったりするもんなんだけどな。
「お前が素直に甘えてやらないから、いつまでも過去の婚約破棄を引き摺ってんじゃないのか、あのブーちゃんは?」
「やかましい……こちらにはこちらの都合や思惑がいろいろあるのだ。あと、他区の領主をブーちゃん呼ばわりするでない」
歯切れの悪いルシア。
変に責任を感じさせたくないんだろうな。
なんだよ、結構仲いいんじゃねぇか。
「お前が利用しにくいんだったら、俺が代わりにヤツを有効活用してやるよ」
「私の代わりに、貴様が……一体何をさせるつもりだ?」
「とりあえず、おっぱいタスキを区民全体に強要させて――」
「そのようなくだらぬことに、『私の代わり』などという文言を利用するな、戯け!」
ルシアの名前を利用すれば、ワンチャン通るかと思ったのに!
そうしたら、誰もが訪れたくなる素敵な三十四区になったかもしれないのに!
「ヤシロく~ん」
まぶたを覆い、ため息を漏らすルシアの隣で、マーシャが笑顔をこちらに向ける。
「もうちょっと、真面目にお話しようか? ね★」
わぁ、黒い笑顔★
人魚も見に来る舞台が快適になるかもしれないアイテムだけに、マーシャも乗り気なんだな。
へいへい。
じゃあ、真面目に取り組むよ。
その代わり、ご褒美よろしくな。
「しかし、こうなると、噴水の完成記念式典を延期したのは英断であったかもしれぬな」
「だね~☆ ちょこちょこっと根回しして、準備を万端にしといてから三十三区の領主と会う機会が堂々と設けられるもんね」
「まぁ、あの者が招待に応じれば、ではあるがな」
石と酒にしか興味がない変わり者で、自区から滅多に出てこない引きこもり領主。
他区に噴水が出来たからといって、ほいほいやって来るかは分からんな。
「じゃあ、噴水に使ったいい石材の話でも招待状に書いとけよ。こういう石を使った結果、こんな出来栄えになったぞって」
「なるほど。それならば、ヤツの興味を引けるかもしれぬな。そのアイデア、もらうぞ」
「ついでに、ガラスの加工について話がしたいって書いといてもいいんじゃないか?」
「ふむ……それもそうだな。話に聞く限り、三十三区の現領主は、他者の足元を見たり商談の駆け引きや裏工作をしたりするようなタイプではない。純粋に、自分の趣味に没頭したいタイプのようだからな」
話が合いそうだと思えば出てきてくれるかもしれない。
仮に欠席されても、以前手紙で話した案件で話がしたいと次の約束を取り付けやすくなるだろう。
「では、先にDDへ手紙を出し、後に三十三区へも招待状を出すとしよう。カタクチイワシよ、エステラには想定よりも開催は遅れそうだと伝えておいてくれ」
三十三区領主を引っ張り出すために、しっかりと準備をすることにしたようだ。
まぁ、俺もちょっと会ってみたいし、記念式典なんかいつやったって一緒なんだから、開催が遅れる分には何の問題もない。
「分かった。なら、ついでに劇場のお披露目もして、三十五区が勢いに乗ってるって思わせとけ。そうすりゃ仕事の話も前のめりで聞き入ってくれるだろうよ」
「うむ、そうであるな。では、海漁ギルドとも協力して、予定の三倍は派手な式典にしてやろう」
「わぁ~、腕が鳴る~☆」
マーシャも乗り気なようで、三十三区懐柔作戦がゆっくりと、でも確実に動き始めた。
あとがき
森で見かけたキジに、小トトロみたいなダッシュで逃げられた、宮地です☆
いや、いたんですよ、キジ!
絵本の桃太郎に出てくるような、赤い顔して、緑の頭した、あのキジが!
野生のキジが!
朝方
「ケーン! ケーン!」
って聞こえることがあったんですが
あれ、キジだったんですねぇ
私はてっきり、野生のリンが生息しているのかと……
リン「ケーン!」
…………えっと、YouはShock! 的なヤツで
主人公がケンシロウって言いまして、小さな女の子によく「ケーン!」って呼ばれてまして……
えっと、ご存じないです、か……ね?
あっ、知ってます!?
ご存じでしたか
えぇ、えぇ、……いえ、あの、セガタは、三四郎ですね。
別の人です。
その人も強そうでしたけどね
……くそぅ、
野生のリンのせいで話が脱線し過ぎました……
野生のキジがいたんですよ!
私初めて見ました!
野生のキジ!
以前どこかのあとがきで書いたことあるんですが、
私の生まれ故郷って、物凄い山の中で
最寄り駅に行くまでに一山超えなきゃいけないんですね。
そこには、野生の犬と野生の猿と野生の桃太郎が出まして
「あと野生のキジがいれば完璧だったのになぁ~!」って思っていたんですが
こんなところにいましたよ、野生のキジ!
これで、野生の桃太郎、コンプリートです!
野生の\(≧▽≦)/桃太郎
で、
「うわっ、キジだ!」
って、スマホを構えて写真撮ろうと近付いたら、
小トトロがメイちゃんに追いかけられた時みたいに
「こそこそこそこそっ!」って
多少蛇行しながらすごい速足で逃げていったんです!
もう、「チョコチョコチョコチョコっ!」て!
可愛かったぁ~(*´ω`*)
さすが東京
国鳥が棲む街、ですね!
さて、
野生の桃太郎に突っ込むことなく、本編の話題に移りますが――
今回、港の開発のその後的な話なので、
報労記を読み返し
ついでに、各領主との関係とか立ち位置とかを思い出すために三幕、無添加、こぼれ話、二幕と、徐々に遡りつつ読み返していったんですね。
そうして気付いた――
勘違い!
うっかり!
記憶違い!
(≧▽≦)>やってもぅてたわー!
その1、勘違い
ビックリハウスのギミックを作ったのは、ノーマさんたちじゃなくて、ゼルマルだった!
Σ(゜Д゜;)
てっきり、いつものように金物ギルドに依頼しているのだとばかり……
なんか、途中で「ビックリハウスを経て、歯車の精度が上がったぜ☆」的なニュアンスの文章書いてた気がしますが…………
ノーマ「木工細工師たちがあんなギミックを生み出した以上、金物ギルドも負けちゃいられないんさよ! 最初に歯車をヤシロに認めてもらったのはアタシら金物ギルドなんだからねぇ! ビックリハウスのギミックは、ヤシロに資料をもらってじっくり研究し、金属歯車でも同等の、いや、それ以上の歯車が作れるようになってんさよ!」
――ということだそうです。
そうなんですって!
ノーマさんがそう言ってるんですから、その通りなんです!
よし、解決!
その2、うっかり忘れ
ラーメン講習会が終ったら、
テーマパークを作りつつ、半年後に進捗報告会――各区の進化したラーメンの試食会を行うよ☆
……って、すっかり忘れてました!?
Σ(゜Д゜;)
えっ!?
やばっ!?
荒くれてヤサグレた三十区の門兵たちの暴走により、ビックリハウスで被害に遭った大工たちへの賠償の意味を込めて
大工たちは試食会にご招待するって話だったのに!
すっかり忘れてました!
……どうしよう
実は裏でこっそりやってたんですよ~って
後日譚的な挿話を差し込んでお茶を濁すか…………
っていうか、ラーメン講習会から一体どれくらいの時間が経ってしまったんだ!?
半年後って、本編で何をやっていた時なんだ~~~!?
レッツ(・▽<)/検索☆(←アイキャッチ)
……あれ?
カンパニュラ正規雇用からまだ一ヶ月しか経ってないの?
じゃあ、テーマパーク予定地でラーメン講習会してからまだ二ヶ月経ってないんですかぁ~
あ~、よかった(*´▽`*)
……カンパニュラ正規雇用からまだ一ヶ月!?
Σ(゜Д゜;)
その間に『報労記』と『誕生』と『ベビコン』やりましたけども、
まだ一ヶ月!?Σ(゜Д゜;)
……いつか、サザエさん形式になるのでは?
いや、微かに時間が経過しているコナン君形式かも……
とりあえず、ラーメン試食会はまだまだ先です☆
m9っ(☆>ω・)うぉんちゅ
その3、記憶違い
そして、ようやく今回の本編に関係するところなんですが……
プレハブ、本編で先に持ち掛けたのはウーマロだった!?
Σ(゜Д゜;)
オルキオの家を陽だまり亭の前に建設した時、
「規格を決めておけば工房で作って持ち込むだけで簡単に作れるんッスよ~」的なことを言っていて、ヤシロが「まんまプレハブだな」って関心してたんですねぇ~
……ヤシロが教えたんだと思ってました。
そうか、ウーマロ、自分で編み出したのか……え、なに? あのキツネ、天才なの?
しかし、今回とか、その前後のウーマロの反応を見るに、
「いやいや、ヤシロさんに教わった技術ッスよ!」的な雰囲気なので……これは、え~っと…………
ヤシロ「プレハブはお前が独自に思いついた技術だよな?」
ウーマロ「いやいやいや! ヤシロさんに教わったんッスよ!?」
ヤシロ「いつだよ?」
ウーマロ「テーマパークのアトラクションを作る過程で、ほら、お化け屋敷とかトリックアートの館とか、組み立て式にして持ち運べるようにって!」
ヤシロ「それは、別にプレハブじゃないだろう」
ウーマロ「その時に、パーツの規格をきっちり決めておけば、破損した時とかちょっとアレンジしたい時にいくらでも応用が利くぞって言ってたッスよね!?」
ヤシロ「覚えてない!」
ウーマロ「『会話記録』ッス!」
ヤシロ「ん~、どれどれ……『むっはぁ~、新しいスイーツに夢中なマグダたん、マジ天使ッスー!』……って、いつも通りだな、お前の病気は」
ウーマロ「いや、どこ見てんッスか!?」
――と、このように!
ヤシロは別に何も言ってないつもりだけれど、ウーマロ的には「え、そのアイデア革新的過ぎッスよね!?」みたいなヒントをもらって、「それはつまり、こういうことッスよね」と展開し発展させていった結果
オルキオの新居やメンココロッセオ、仮設劇場なんかの基礎となるプレハブ技術に行き着いたと
なので、お互いに
ウーマロ「プレハブはヤシロさんに教わったッス!」
ヤシロ「俺はなんも言ってねぇよ」
と、それぞれ確信しているわけなのです!
いや~、なんとかこじつけられました……(^^;
あっ、いやいや、計算です計算!
最初から考えてましたよ?
(さすがに途中の細かいセリフまでは全部メモ取ってられませんっ!)
という感じで、
きっと今後も「あれ?」と思うようなことが出てくるでしょう
その時は、今回のように
「きっとこういうことなんだろうなぁ~」と、いろいろな可能性を模索してみてください
案外それが正史になるかもしれませんよ☆
正史「あ、どうもマサシです☆ 趣味は釣りと車とスポブラです☆」
いえ、マサシではなく、セイシですよ!?
Σ(゜Д゜;)
正しい歴史です!
大丈夫
きっと大丈夫
ちゃんと伝わっているはず……
というわけで!
昔のところを読むとひやひやするので、前だけ見て突き進みたいと思います☆
(だから矛盾が生じるのにっ!?Σ(゜Д゜;) )
なるべく気を付けますが、
取りこぼしがあったらご容赦を☆
次回も、こりずに、よろしくお願いいたします!
宮地拓海




