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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
第四幕

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407話 今夜のお宿

 馬車に揺られる。

 窓を開けていると少々肌寒く感じる。


「気のせいかもしれんが、三十五区って寒くないか?」


 なんか、行く度に「肌寒い」って思ってる気がする。


「海風の影響かもしれぬな。とはいえ、まだ四十区辺りであろうに、気の早い男だ」

「個人の感想だけれど、思う、私は、四十二区は少しだけ温かいと」

「……四十二区には、あまり強い風が吹かない」


 そう言われてみれば。

 崖に囲まれてるからなのかねぇ?

 まぁ、四十二区も、日が落ちると肌寒いんだけどな。

 三十五区は、なんかそれ以上に寒い気がするってだけで。


「……ウーマロは、寒くない?」

「…………むにゃむにゃ……ッス」

「……そう」


 なんか会話してるな。

 いつの間にか、親密度が上がっているのか……


「……ウーマロは、『どっちかと言えばムール貝の方が好きッス』と言っている」

「そうか。じゃあ、ウーマロが目を覚ましたら『質問されたことだけに答えろ』と伝えておいてくれ」

「……分かった」

「其方らの遊びは、時折ついて行けずに置いてけぼりな気分にさせられるな」


 向かいの席から、ルシアの視線が突き刺さる。

 また真向かいに座りやがって。

 よく見るわ、この馬車で、この光景。


 今回、眠ってしまったウーマロを窓側に座らせ、窓に寄りかからせている。

 隣に女子を座らせると、不意の事故が発生しかねないので俺が座っている。

 ほら、馬車が揺れてウーマロが女子の方に倒れたり、肩に頭載せちゃったりするとさ、マズいだろ?

 ウーマロの寿命が尽きそうな感じがして。


 なので、もたれかかられても平気な俺が隣なわけだ。

 ……もたれかかってきたら、問答無用で窓側へ押し退けるけどな。


 で、ウーマロの向かいにマグダ。

 こっちは、本当の事故に備えてだ。

 馬車が大きく揺れたり、最悪横転したりした際は、マグダが素早く眠っているウーマロを助ける算段になっている。


 マグダの隣、俺の真正面にルシア。

 そのルシアの隣、出入り口側にギルベルタが座っている。

 何かあった時、ルシアを助けるのはギルベルタの役割だ。


 ……あれ?

 じゃあ、俺のことは誰が助けてくれるの?


「御者ー! 安全運転で頼む!」

「事故など起こしたことはないわ」


 今まで起こってなかったってことは、今日初めて起こるかもしれないじゃないか!

 起こるか起こらないか、二分の一の確率でずっと『起こらない』を引き当て続けているんだろ?

 そろそろ『起こる』が来てもおかしくはない。


「……大丈夫。マグダなら、ウーマロもヤシロも守れる」


 頼もしいな、マグダ。

 なんかもう、ちょっと眠たそうな顔してるけども。

 さっき腹一杯飯食ったもんなぁ。

 ジネットが持たしてくれた弁当の半分以上がマグダの腹に収まった。

 ドリア、ほとんど食われたなぁ。


「そして、いつでも突き落とせるように、出入り口付近にベッコを座らせている」

「冗談でもダメでござるよ!? 落ちたら洒落にならぬでござるよ!?」


 なんでこっち男三人なんだよ。

 狭いしムサいし……

 ルシアなんか、両手に可愛いのを侍らして、超ご満悦なのに。


「……ヤシロ。今日はゲームしない?」

「さすがに、日中いろいろやって疲れてるだろ? 明日もあるから少し休んどけ」


 しかもこのあとは外泊だ。

 自室で眠るのとは、やはり休息の質が変わってくる。

 休めるうちに休んでおく方がいい。


 というか、日中動き回って、飯も食って、日が落ちたこんな時間からみんなでババ抜きとか、正直しんどい。

 移動時間は仮眠タイムにしたい派なのだ、俺は。

 ……なんでか、毎度毎度移動中もフル稼働なんだけども。


「そうだ、忘れないうちに言っておく。今宵の宿は別の場所にとってある」

「なんだ、お前の館に泊まるんじゃないのか?」

「このような時間から、未婚の男をわらわらと招き入れるわけにはいかぬであろう」


 そうかぁ?

 俺なんか、結構泊まってると思うぞ、お前ん家。

 今さらだろう。


「まさか三十五区に着いてから宿を探せってんじゃないだろうな。さすがにベッコが気の毒だぞ」

「さらっとこっちに押し付けたでござるな、着くや否や走り回る役割を!?」


 だって俺、走り回るのとか、嫌いだし?


「それならば問題はない。館に早馬で手紙を出しておるので、館の給仕が用意をしてくれているはずだ」


 適当な宿を準備してくれてんのか。

 それなら、まぁいいけども。


「ウーマロのヤツ、起きたら木箱で、木箱から出たら知らない部屋で、部屋から出たら知らない建物で、建物から出たら知らない場所で、よくよく調べたら三十五区で……絶対驚くだろうな、ぷぷぷっ!」

「そうならぬように貴様が同行しておるのであろうが。安心しろ、貴様たち三人は同室にするよう言付けてある」


 えぇ……俺、今晩木箱と一緒に寝るの?

 部屋狭くなるぅ~。

 圧がすごい~ぃ。


「まぁ、ベッコは追い出すからいいとして……」

「よくないでござるよ!? 意地でもベッドにしがみ付いて寝てやるでござる」


 男三人の部屋は、暑苦しそうだ。

 馬車に座ってるだけでもムサいのに。


「マグマグは、男連中と同室だと危険なので一人部屋を用意させている。安心するといいぞ」

「…………」


 あ、そうか。

 ルシアはまだその辺よく分かってないんだな。

 まぁ、陽だまり亭では普通に一人で寝てるからなぁ。


「マグダ。明日の朝ルシアが寝坊しないように見張りを頼めるか?」

「何を言っておるのだ。心配せずとも寝坊など――」

「……うむ。ヤシロのお願いならば、しょうがない」

「……む?」


 ルシアがこちらを見る。

 視線をマグダへ誘導してやれば、澄まし顔でそっぽを向くマグダが目に入るだろう。


 マグダはな、独りぼっちが嫌いなんだよ。

 安心できる自分の居場所である陽だまり亭でならともかく、よく知りもしない、誰のニオイも感じない、見ず知らずの部屋に独りぼっちで眠るなんて、マグダにとっては雨の日に外で野宿するよりキツいことなんだよ。

 誰か知り合いのニオイでもすれば、比較的落ち着いて眠れるみたいだけどな。


 パウラが倒れた時にカンタルチカに泊まった日だって、ミリィが一緒にいてくれて随分と救われてたと思うぞ。


「ルシアに何かされそうになったら、殴打を許可するから」

「私がマグマグによからぬことなどするはずがなかろう。それに、私とマグマグはクルージングの時に同室になった仲だ。同じベッドで寝ることになんの抵抗も感じぬわ。ねぇ~、そうだよね~、マグマグ~」

「……いや、マグダは別に」

「見ろ! 別に抵抗など感じぬと申しておる!」

「うわぁ、すげぇポジティブじゃん、お前」


 今のは、マグダのスカしボケなのに。

 大暴騰を真正面でキャッチしに行ったな。

 お前の守備範囲広いし、守備力強固だなぁ。


「ふむ。私室に誰かを泊めたことなどなかったが……第一号になってみるか、マグマグ?」

「……ルシアのお願いなら、断る理由はない」

「では、ウチの子になってくれー!」

「……断る」

「断られた!?」


 断る理由があったんだろ。知らんけど。


「では、大至急準備する、館に着いたら、おもてなしの、我が永遠のライバルマグダのために、館全体で」

「……感謝する」

「ただ少し残念思う、私は。泊まってほしかった、私の部屋にも」

「……平気。マグダのおもてなしには、ギルベルタの添い寝も含まれる」

「本当か、我が永遠のライバルマグダ!?」

「……もちのろん」

「ということは……今宵、私の両隣にマグマグとギルベルタが!? むはぁー、眠れる気がせぬ!」

「……真ん中はマグダ」

「出る、強硬策に、眠れないようであれば、私は」

「待て。強硬策には出るな、ギルベルタ。折角のお泊まりだ、きゃっきゃくんかくんかを楽しもうではないか」


 惜しいなぁ。

 俺の知ってる女子はきゃっきゃうふふするもんなんだけど、やっぱ変質者は一味違うんだなぁ。


「ミゾオチ、私は」

「……マグダは、延髄」

「プリティーな顔で恐ろしいことを口にするのではない、二人とも!」


 プリティー&キラー。

 二人はプリキラ☆


 マグダとギルベルタに挟まれて、にやにやと締まりのない、もし性別が男だったらその顔だけで有罪判決が下っているであろう表情を晒すルシアがひとしきりきゃっきゃとはしゃいで、マグダはルシアの部屋に泊まることになった。

 客間ではなく、ルシアの部屋に。


 まぁ、ルシアがいれば大丈夫だろう。

 クルージングで同室になったあと、ちょっとルシアに懐いてたし。


 マグダの宿泊先が決まったところで、ルシアは一度口を閉じ、囁くような小ささで「……なるほどな」と呟いた。


 顔を見れば、何がそんなに嬉しいのか口角を持ち上げてこちらを見ている。


 …………見んな。


「よければ、この素敵な木箱(ウーマロ入り)も持って帰るか?」

「部屋が狭くなるのでいらぬ。貴様のお友達が作った木箱だ、貴様が責任を持って管理しておけ」


 いつ俺がヤンボルドとお友達になったんだよ。


「館に戻る前に俺を宿まで案内してくれよ。マグダもギルベルタもいなきゃ、木箱は運べないからな」

「仕方のないヤツめ……どこの宿を取ったのか確認せねばいかんから一度館に戻り、貴様を送っていってやろう。存分に感謝せよ」


 と、存分に恩着せがましく言ったあとに、「貴様の過保護ぶりは、見ていてとても愉快なのでな」とか、訳の分からんことを宣った。


 マグダとのお泊まりが決まって機嫌がいいんだろう。ルシアが「ふふん」っとまるで歌うように鼻を鳴らす。


 何がそんなに楽しいんだかなぁ。

 ……こっち見んな。




 三十五区領主の館に着いた頃には、辺りはすっかりと夜の闇に包まれていた。


「暗っ!」

「これでも十分明るいわ!」


 三十五区領主の館には光るレンガが設置されているが、ケチっているのか数が少ない。


「陽だまり亭はもっと明るいぞ」

「飲食店と住居を同じに考えるな。これ以上明るくしたら、逆に落ち着かなくなるわ」


 ルシアはこれくらいの薄暗さが好きらしい。

 いやいや、もっと煌々と照らそうぜ。

「え、昼?」ってくらいに。


「イメルダ先生の館のように明るくなっては、外が気になって眠れぬではないか」


 イメルダも、夜の闇が嫌いな仲間だからな。

 あいつの館は明るくていいぞ~。

 闇が怖くて一睡も出来なかった夜は遠い過去だ。


「こうも薄暗いと、薄ぼんやりとした暗殺者を見逃しかねないぞ?」

「薄ぼんやりした暗殺者とはなんだ!? かえって目立つであろう、そのような者は!」


 なんて話を、俺とルシアがしている間に、館の給仕たちがルシアの荷物を馬車から運び出し、止まることなく動き回っている。

 こんだけ動き回っているのにバタバタして見えないのはさすがだな。

 洗練された動きは見ていて感心してしまうレベルだ。


「こちらは……え?」

「何をしているのです、早くその木箱を……え?」


 荷物を運び出す給仕が、巨大な木箱を覗き込んで固まる。

 それ、館に着くなりギルベルタが木箱を組み直してウーマロを中に収納したウーマロin木箱なんだよ。

 なんでわざわざ入れ直したんだ、ギルベルタ?


 え?

 給仕たちの反応が、見てて楽しいの?


 心なしか楽しそうな表情で、短い触角をぴこぴこ揺らして、ギルベルタが給仕たちの行動を注視している。


 木箱に気付いて近寄ってきた給仕が運び出そうとしては中を見て硬直し、「これは触れちゃイケないヤツ」って放置するから、何人もの給仕が同じように中を覗き込んでは硬直するってトラップになってんだよなぁ、さっきから。


「これは、隠蔽の必要があるのでは?」

「荷物に紛れ込ませて獣人族の男性を? まさか……」

「でも、ルシア様なら、あるいは……」

「なくは、ないですね」

「ないぞ、こら」


 聞き捨てならない給仕の言葉にルシアが素でツッコんでいる。

 随分フレンドリーな関係になったなぁ、この館も。


「カタクチイワシ様の婿入り道具という可能性は?」

「あ、それはあり得ますね!」

「ねぇーよ!」


 なんで俺がウーマロを担いで三十五区に婿入りせにゃならんのだ。

 まぁ、ウーマロがいればどんな高級な桐タンスよりも機能的で便利な家財道具を半永久的に作り続けてくれるだろうけれども。


「……マグダもいる」

「あぁっ、ついにマグマグがウチの子に!」

「「やったぁー!」」

「ルシア様、えらい!」

「それもねぇーよ!」

「いや、あり得ない話ではなかろう、カタクチイワシ」

「ねぇーよ!」


 なにを給仕の暴走に便乗して既成事実作り上げようとしてんだ。

 やらねぇよ。


「今宵、マグマグは私の部屋に宿泊することになった。そのつもりで歓迎の準備を進めるように」

「「「はい! 本日の寝所の警備に立候補します!」」」


 今立候補したヤツは、警備員につまみ出される側の人間だろう、絶対。


「言わずとも分かっているであろうが、マグマグは大切な客人だ。不埒を働くのではないぞ」

「どの口が言ってんだ」

「やかましいぞ、カタクチイワシ。そしてその後ろで無言でうんうん頷くな、給仕たち」


 俺はこの場にいるすべての者の心の声を代弁したまでだ。


「荷物を下ろしたのであれば、そなたらには歓待の準備を任せる。私は一旦、カタクチイワシを宿泊先まで送ってまいる」

「「「お二人で!?」」」

「違うわ、愚か者!」


 ついにルシアも給仕に遊ばれるようになったか。

 ナタリアの影響力、強過ぎじゃないかな。

 エステラの責任だな、これは、うん。


「まったく、貴様のせいで……」


 なので、恨みがましいルシアからの視線は無視する。

 濡れ衣100%だからな。

 これはもはや、濡れ衣ではなく水の羽衣と呼べるレベルだ。

 びっちゃびちゃだよ。


「ウチの給仕たちにまで悪影響を及ぼすのではないぞ、カタクチイワシ」

「水の羽衣だ」

「何を言っているのか皆目見当がつかぬが理解しようと努めることすら億劫だ、しばし黙れ」


 すらすらと淀みなく悪口が流れ出てくるな、お前の口は。

 給仕の教育はその館の主の責任だろうが。


 いいか?

 教育上よろしくない番組がテレビで流れていたとしても、それを見る、見せないって選択肢は視聴者側にあるのだから、「こんな番組作るな」と相手に要求するのではなく、「こういうのは真似をしてはいけないよ」と我が子との対話をしっかりとすることこそが親の努めだ。

 守るというのは、悪しきものから隔離し、悪いものを寄せ付けないことではなく、悪いものや事柄に触れた時に惑わされない知識と心を育て、自らの意思でその悪を退けられる力を身に付けさせることだ。


 そうでないなら、どこで何と出会うか分からない社会に触れさせることなく、地下室にでも一生監禁してろってことになる。


 つまり、何が言いたいかというと。



 ゴールデンタイムにおっぱい映したっていいじゃないか!

 お色気番組カムバァァーーーック!



「そういうことだ!」

「黙れ」


 短い言葉にすっげぇ重い意志が込められてたなぁ、今の「黙れ」。


 おかしい。

 テレビとか言っても絶対伝わらないだろうから何も口に出していないというのに、言いたいことだけが明確に伝わっていたらしい。

 ……勘が鋭過ぎないかねぇ、領主って連中は。


「この木箱を運ばねばならぬのでな、ギルベルタと共にカタクチイワシを送ってくるだけだ」

「わざわざルシア様がお出向きにならずとも、我々で運搬いたします」


 運搬って……お荷物扱いされてるぞ、ウーマロ。


「そなたらに、この木箱が持ち運べるのか?」


 一辺が約120cmの立方体。

 そこに成人男性と、体が痛くならないようにと詰め込まれた布団が入っている。

 持ち上げるのはかなり難しい。

 木箱が空でも相当重たいだろ、これ。


「二人……いえ、四人がかりでならなんとかイケると思います」


 一人の給仕が言って、四人で四方を持ち、木箱を持ち上げようと試みる。


「せ~のっ! ……無理ですね」


 四人で持ち上げようとしてもびくともしなかった木箱。

 相当重たいんだろうなぁ、アレ。


「じゃあ、八人で!」


 数を増やし、何度もトライする。

 やる度に、木箱を取り囲む給仕が増えていく。

 ルシア付きの給仕は、当然ながら女子ばかりだ。

 複数の、いや、無数の女子がウーマロの眠る木箱を取り囲んできゃいきゃいと騒ぎながら木箱に群がる。


「ぅ……ぐっ…………ぐぬぬぬ……ッス」


 なんか、木箱の中でウーマロがうなされている。

 アレはアレかなぁ?

 寝てる時に悪霊に取り囲まれて金縛りに遭ってる的な息苦しさでも感じてるのかなぁ。


「……どいて。この木箱は、こうやって持つ」


 木箱に群がる給仕をかき分け、マグダが一人で木箱を持ち上げる。

 それこそ、「ひょいっ」っとでもいうように軽々しく。


「きゃ~、すご~い!」

「マグマグ、かっこいい~!」


 マグダの勇姿にきゃっきゃとはしゃぐ給仕たち。


「ふぐっ、うぬぬぐぬぅ……ッスぅぅう……っ!」


 なんか、ウーマロが成仏しそうなほど苦しんでいる。

 悪霊は、あいつか?


「まぁ、そういったわけで、私が直々に出向かねばならぬ。なに、カタクチイワシを馬車から叩き落としたらすぐに戻る」


 叩き落とされる前に自主的に降りるわ。


「では、木箱を畳んでキツネの棟梁を馬車へ運び入れるのだギルベルタ」

「承知した、私は」


 絶対二度手間だったろ、これ。

 まぁ、給仕たちが楽しそうだから別にいいけどさ。


「マグダ、ギルベルタが木箱片付けてる間にウーマロを運び込んどいてやれ」

「……うぃ」


 ウーマロ的にも、ギルベルタに運ばれるよりもマグダに運ばれた方が精神に優しいだろう。


 ……つか、こんだけ騒がしくされて、あっちこち運ばれて、よく起きないなこいつ。

 普段から、どんだけ肉体酷使してんだよ。


 きっとエステラのせいだな。

 人使い荒いもんなぁ、あいつ。

 今度もんく言っておいてやろう。


 わぁ、俺ってばすっごく優しいじゃん☆




 馬車に揺られること数分。

 俺たちが連れてこられた、今夜の宿は――



「ようこそおいでくださったのわ!」


 ――物凄くよく見知った場所だった。

 よく見知った顔がにっこにこで出迎えてくれている。


「なぜゆえにイーガレス家?」

「その方が面白いかと思いまして」


 おいこら、そこのルシアの館の給仕。

 客をもてなすのに遊び心を発揮させるな。

 しっかり教育しとけよ、ルシア!


「いやぁ、実に素晴らしい! カタクチイワシ様が我が館に宿泊してくださるとは!」


 当主のイーガレスも両腕を広げて歓迎してくれている。


「今宵は、メンコ談義に花を咲かせようではないか!」

「いや、寝るけどな。寝室入った瞬間、秒で寝るけどな」


 一晩中こんな暑苦しいおっさんと語り合うとか、体力の前に精神力が底をついちゃう。


「お夕飯の用意をさせますのわ」

「いや、馬車の中で食ってきたから」

「では、食後のデザートを用意させますのわ」

「絶対駄菓子だろ、お前のその顔を見る限り!?」


 当主婦人のエカテリーニは、いかにも「新しく作れるようになった駄菓子の味を見てほしいのわ!」って顔をしている。


 お前らの趣味に付き合うつもりはない。

 そこへこの家の長男パキスが颯爽と現れる。

 それはもう颯爽と。

 なんなら「ずざー!」って横滑りしてくるくらいの勢いで。


「おぉ、カタクチイワシ様! ようこそ我が館へ! 見てくれたまえ、月夜に映えるワタシのこの美貌! 髪型を変えてからというもの、もうモテちゃってモテちゃって。はっははっ! ワタシは今宵もかっこよい!」


 おい誰か、次期当主の自惚れとクッソくだらないダジャレを止めろ!

 それが無理なら裏庭にでも埋めてこい!


「素敵な夜にYOU WANT ME☆ ワタシがどうしてこんなに可愛いかを考えていたところ、ようやく答えにたどり着いたんです。可愛いの秘訣はお肌。肌がいい、皮膚がいい、皮がいい……かわ、いい…………可愛い! タキスです☆」


 なんかピン芸人みたいになってきてるな、次男!?

 あと、『I want you』なら聞いたことあるんだけどなぁ、俺!

 逆は初耳だわ!


 で、俺を出迎える味の濃い一家の後ろには、この館の給仕長シュレインを筆頭に給仕たちが横断幕を掲げてずらりと並んでいる。

 横断幕には太い文字がデカデカと書かれている。



『熱烈歓迎! カタクチイワシきゅん』



「きゅん」言うな。



「カタクチイワシきゅん」

「きゅん言うな」

「こちら……全室の合鍵でございます」

「どこにも忍び込まねぇから、既成事実作ろうとすんな」


 ねぇから、お前んとこの娘と奥様に手ぇ出すとか。


 ……って、あれ?


「アルシノエはどうした?」

「ここにいますのわ!」


 バーンっと、館の扉が開かれ、アルシノエが飛び出してくる。


「カタクチイワシ様をお出迎えするにあたり、カタクチイワシ様とイメルダ・ハビエル様から教えていただいたメイクを自分なりに解釈して施してみたのわ!」


 今の自分に出来る精一杯のおしゃれをして、俺を出迎えたいと思ってくれたらしい。


「どうのわ? 今宵のワタシのメイクは」

「うん、めっちゃ面白い」

「面白いのわ!?」


 いや、だって、顔を真っ白に塗りつぶして、ふっとい眉毛描いて、口紅も真っ赤っ赤で、お前はどこのおバカな殿様なんだと尋ねたいくらいだ。


「で、でも、イメルダ様もだいたいこんな仕上がりだったのわ」

「四十区との間に戦争が起こるぞ」


 イメルダファン、多いんだから四十区には。

 こんなユニークな仕上がりにはなってねぇよ。


「いいからメイクを落としてこい」

「で、でも……メイクを落としてすっぴんを見せるのは、裸を見せるより恥ずかしいって聞いたのわ……」

「じゃあ、メイクはそのままで素っ裸になってみようか☆」

「埋めるぞ、カタクチイワシ」


 まだいたのかルシア!?

 イーガレス家が揃いも揃ってくだらないから、呆れてとっくに帰ったかと思ってた。


「静かだからもう帰ったのかと思ってたのに」

「口を開けば、面倒くさいのに絡まれるのでな」


 なるほどぉ。

 ……で、俺に押し付けて、自分は高みの見物ってわけか。

 暴動を起こすぞ、このヤロウ。

 三十五区を混乱のるつぼに突き落としてやろうか?


「万が一、宿泊先に問題があるようであれば我が館に宿泊させる必要があるかとも思ったが、歓迎されているようで何よりだ。きっと楽しい夜になるであろう」

「そうか、じゃあお前も泊まっていけばいいのに。俺から頼んでやろうか?」

「バカモノ! 私は今宵、マグマグをくんかくんかしながら眠ると決まっておるのだ!」

「バカモノはお前だ、この痴れ者」


 マグダにまさかり持たせるぞ。

 まだ開いている武器屋はどこだ?


「……すまんな」


 ぽつりと、ルシアが謝罪の言葉をこぼす。


「そなただけであれば、マグマグと共に我が館に泊めることも……まぁ、不可能ではなかったのだが」


 そりゃな。

 以前も泊まったしな。


「棟梁を信用せぬわけではないのだが……口さがない連中は、火のないところに煙を立たせることを生き甲斐としておるのでな」


 三十五区の大規模開発を取り仕切るカワヤ工務店がいる中で、四十二区に拠点を置くトルベック工務店の棟梁を館に泊めると、何かと勘ぐられてしまうのだろう。

 面倒くさいな、貴族って。


「で、ベッコは?」

「説明が必要か?」

「説明くらいは欲しかったでござるなぁ、出来れば!」


 まぁ、ベッコは論外ってのはいいとして。


「俺だけ例外ってのは、ちょっとどうかと思うけどな」

「そなたに関しては、今さらだ」


 くくっと笑い、また少し難しい顔をする。


「ただ、そなたに関しても今は時期が悪い」

「時期?」


 春先は男を館に泊めてはいけないとか、そんな習わしでもあるのか?


「あぁ~……まぁ……その、なんだ」


 歯切れ悪く、しゃべるタイミングを探り、眉間のシワを散らすように揉んで、そっぽを向きながら言いにくそうに言葉を発する。


「……また、求婚者が増えてきてな」

「モテ期の再来か」

「そんな楽しげなものではないわ」


 苦々しいながらも、ルシアの口元がふっと緩む。


「大きな事業が始まり、三十五区がさらなる発展を遂げようとしている空気を感じ取ったのであろうな。私の伴侶に収まり、この大事業の舵取りをしてやろうという野心家がその下心を覗かせておるに過ぎぬ」

「思い切って任せてみれば、お前は楽を出来るかもしれんぞ」

「論外だな。三十五区の利益は特定の貴族が独占していいものではない。この街の富は、この街に住む者たちに還元してこそ意味がある。楽など、出来ずともよい」


 きっぱりと言い切り、鋭い視線をこちらに向けると、トゲの抜けたバラのようにふわりと柔らかく笑みを浮かべた。


「楽ではないが、楽しくはあるのでな」


 おぉ~、うまいこと言ってやった感あふれるドヤ顔。

 そうか、こっちでも『楽』と『楽しい』って同じ漢字なんだぁ。

 つうか、漢字って概念あるんだぁ。


 ……分かってるよ。『強制翻訳魔法』のお遊びだろ。

 変に万能なんだよなぁ。


「まぁ、そのような事情があり、私がそなたを館に泊めるようなことをすれば、どこぞの貴族が悪意をもってそなたを攻撃しかねないのでな」


 恋のライバルに勝つためには、自分を磨くより相手を潰す方が手っ取り早いもんな。

 けっ、小物貴族め。


「返り討ちにしてやろうか?」

「ふっ……それは私に対する遠回しなプロポーズだということに気が付いておるのか、粗忽者」

「そういう意図がないことを理解しているってことは確信してるけどな」

「分からぬぞ。私もこれで女なのでな。迂闊なそなたにうっかりときめいてしまうことがないとは言い切れぬ」

「じゃあまず、恋人つなぎを――」

「せぬわ!」


 伸ばした手を叩き落された。

 一瞬で言葉遊びを楽しむ『オトナの余裕』が消え去ったな。


 けどまぁ、三十五区の大改造が始まる今、ルシアの婿に収まりたい貴族は大勢いるだろう。

 一族揃って美味い汁を独占できるからな。


 だから「時期が悪い」か。

 いや、俺は今じゃなくても「独身の女性領主の館に男泊めていいのかなぁ」って思ってたけどな。

 ルシアがいいって言うから泊まってたけれども。


「まぁ、貴様であれば木っ端の貴族など物ともしないのであろうが」


 俺に対する二人称が『そなた』から『貴様』に戻ったな。

 こっから冗談を言う雰囲気か。


「キツネの棟梁は貴様ほど図太くはあるまい。トルベック工務店に、また貴族からの横槍を入れさせるわけにはいかぬ」


 俺はいいけど、ウーマロには迷惑かけたくないってか?

 贔屓だ、贔屓。


「貴族からの横槍を跳ね返す自信があるのであれば、いつでも我が館へ泊まりに来るがよい。貴様一人であれば、いつでも歓迎してやろう」


「貴様だったら貴族にちょっかいかけられても気にしない」とでも言いたいのかもしれんが……お前の方こそ、そういうことを言うと男を勘違いさせるって気付いているのか?


「あなたなら、いつでも泊まりに来ていいからね」って、そーゆー風にしか聞こえねぇわ。


「俺がここに泊まって、アルシノエと噂になったらどうすんだよ」

「アルシノエは浮いた話がなさ過ぎるのでな。多少の噂はいい呼び水になるのではないか?」


 貴族令嬢の外聞って、そんなゆるいもんなの?

 他所の男を泊めたとか、一生物の傷になりそうなのに。


「それに、貴様はどういうわけか三十五区では有名人なのでな」


 仮にそうなんだとしたら、お前のせいだよ、確実に。


「噂になっても『どうせカタクチイワシであろう?』で済む話だ」


 どーゆー意味だよ、どうせカタクチイワシって。


「イーガレス家であれば不備はないであろうが……何かあれば私を頼れ。真夜中でも対応するよう、不寝番の者には申し付けておく」

「そこまでしてもらわんでも大丈夫だし、真夜中に突撃したら、それこそ大問題だろうが」

「物事には優先順位がある。……とはいえ、イーガレス家ならば問題はないと分かっておるから言える大言壮語ではあるがな」


「いつでも頼っていいからね(とはいえ本当には頼ってくるなよ)」ってところか。


 いろいろ言いながらもこちらの様子を窺っているこの感じ……また変に考え過ぎてんだろうな。

 下手に遜れない立場ゆえに、いろいろ思うところもあるのだろう。

 こいつもエステラも、甘え方が下手過ぎる。


「……苦労をかけるな」

「らしくねぇよ」


 お前がしおらしいと、尻の周りがムズムズするんだよ。

 いつもみたいに、自信満々に笑ってろ。


「明日は早朝からトルベック工務店が押し寄せてくるから、カワヤ工務店に一報入れとけよ」

「その辺は抜かりない。すでに館の者が報告に行っておる」

「じゃ、俺は昼まで寝るから、あとはよろしくな」

「うむ。では早朝に叩き起こすようにパキスに言っておくとしよう」

「せめて給仕にしてくれ」


 あんな暑苦しい男に起こされるとか、三日間くらい尾を引く精神的ダメージを負いそうだ。


「今宵はゆっくり休め」

「お前もな」

「……よい夢を」


 少し考えてから、ルシアが就寝の挨拶を寄越してくる。

 さらっと言えよ、それくらい。


「おやすみ」

「ぅっ………………ぉやすみ」


 なんで言い淀むんだよ。


「親しい友人か家族にするもの、就寝の挨拶は」


 と思ったら、ギルベルタが理由を教えてくれた。


「長らくいなかった、ルシア様には、おやすみを言う家族が」

「余計なことは言わずともよい、ギルベルタ」


「おやすみ」に浮かれるなよ。

 陽だまり亭に泊まった時とか、ジネットたちに散々言われてんだろうが。


「わ、私はもう帰る。寝坊するな、遅れるな、私より先に現場にいて出迎えるように。以上!」


 捲し立てるように言って、きびすを返すルシア。

 すたすた歩いてさっさと馬車に乗り込む。


「照れてるのかねぇ」

「照れてる、ルシア様は」

「……ツンデレ」


 いや、あいつのツンは、ツンになってないんだ。


「マグダもギルベルタも、おやすみ。寝室に変質者がいるから、気を付けるようにな」

「……了解」

「承知した、私は」


 マグダとギルベルタからも就寝の挨拶をもらい、馬車を見送って俺たちも館に入った。


 通された部屋はそれなりに広かったが、巨大な木箱が邪魔で、若干手狭に感じた。




 給仕や下働きの者の中に獣人族がいないイーガレス家。

 ベッドメイクをしてくれた客室付きの給仕たちではウーマロ入りの木箱を持ち上げることはかなわず、仕方ないので筋肉自慢のイーガレス家ご当主が木箱を運び込んでくれた。


 ウーマロのヤツ、寝てる間にいろんな人間に運ばれたって聞いたら泡吹いて倒れるんじゃないか?

 あいつ、なんでか貴族ってだけで恐縮するし。

 所詮イーガレスなのに。


「では、カタクチイワシ様、いざ尋常に――」

「出ていけ、寝ろ、巣に帰れ!」


 懐から年季の入ったメンコを取り出したイーガレスを追い出す。

 もう寝るんだよ、俺は。

 こんな時間からメンコバトルなんかやってられるか。

 なにが「いざ尋常に」だ。

 お前には「ぜひ正常に」って言ってやりたいわ!


「つーか、この短期間でよくもそこまで使い込んだな、メンコ!?」

「ふふふふふ、そうであろう? このメンコに傷が一つ付く度に、ワタシはまた一つ強くなっているのだ。近隣の子供たちにはまだまだ負けぬ!」


 再び、近所のガキどもがこの近辺に遊びに来るようになったらしく、イーガレスはずっと嬉しそうにしている。

 メンコで無双して、再び羨望の眼差しを向けられるようになったからな。


「カタクチイワシ様には、感謝してもしきれぬ。ワタシはもちろん、我が家族も同じ気持ちだ。我らに出来ることはなんでもご協力いたしますぞ!」

「じゃあ今すぐ出ていけ、俺の安眠のために」

「はっはっはっ、それは出来かねますな!」

「エカテリーニ~!」

「呼んだのわ!? 駄菓子のわ!? やっぱり食べたいのわ!?」

「違う! お前んとこの旦那をここからつまみ出してくれ」

「それよりも見てのわ、この錦玉羹。ワタシが作ったのわ!」

「聞けぇーい、人の話を!」


 この付近に人が集まるようになって喜んでいるのは旦那だけじゃなかったようだ。

 エカテリーニの場合、ガキだけじゃなくて保護者たちが軽くお茶を飲んでいってくれるから嬉しさも一入なのだろう。


「やややっ、これはなんの集まりなのだ? とりあえずはどうだろう、ワタシを愛でてみては?」


 呼んでないのにパキスが部屋に入ってくる。

 なんで寝る前にそれほどでもない男の顔なんぞ見なきゃならんのだ。

 せめて95点を超えるイケメンであれば一考の余地はあったけれども。


「たとえば、俺とか!」

「なんか分からないでござるけれど、ヤシロ氏が物凄くキラキラした顔をしているでござる!?」


 イケメン度では俺に負け、面白さではベッコに負ける。

 中途半端だな、パキスは。


「とにかく、俺は明日早いんだからもう寝るんだよ。全員出ていけ」

「大丈夫だ、カタクチイワシ様。ルシアから、早朝にそなたを起こすよう頼まれている」

「こっちは願い下げだ」

「ルシアのヤツ、困った時はいつもワタシを頼るのだ。……ふふ、いつまでも子供の頃のまま、ワタシにベッタリなのだから……可愛いヤツめ」

「じゃあ、劇場の仮設建設、お前に丸投げしてい~い?」

「いや、それは冗談抜きで本格的に困り果ててしまうでござるから、ヤシロ氏が抜けるのは考え直してくだされ!」


 困った時はいつもお前を頼ってるってんなら、俺が三十五区まで担ぎ出されることなんかないはずなんだがなぁ。


「女の子というのは、そういう一面があるものなのだ。まぁ、いずれカタクチイワシ様にも分かる時が来るであろう。あっはは!」

「様付けなのにすっげぇ上から見下されてるなぁ、最底辺の生き物に」


 あと、お前の笑い方若干鼻につくんだよな。


「ワタシには、もう決まった相手がいるというのに……いつまでも兄離れできぬ妹のようではないか」

「ゴミを見るような目で見ているって点では、確かに妹っぽくはあるかもな」

「いや、ヤシロ氏。兄をゴミのように扱う妹などいるのでござるか?」

「モリーとか?」

「うぅーむ……なるほど」


 納得されちゃったな、パーシー、いや、ゴミ兄貴。


「ルシアにも、早くいい相手が見つかればよいのだが……おぉ、そうだ! どうだろうか、カタクチイワシ様! ルシアはよい女だぞ」

「テメェに口出しされる案件じゃねぇよ」


 もし仮にそんな未来があったとしても、テメェを経由しないルートをたどるっつーの。


 つか、ねぇーよ。


「ルシアの前に、実の妹の心配でもしてやれ」

「アルシノエのか? 心配には及ばん。ワタシの妹なのでな、そのうちどうにかなるであろう。あっははっ」

「その笑い方やめい!」

 

 一回気になったら、ずっと気になるんだよ!

 髪切ってから、随分と余裕が出たみたいだな、おい。

 まじでモテてんのか? こんな有頂天になるほど?

 マジで?

 俺も髪切ろうかな?


「何を騒いでるのわ?」


 ひょこっと、アルシノエが客間を覗き込む。

 また増えたよ、イーガレス一家。


「父上、メンコは自分の部屋でやってのわ。母上も、駄菓子の材料を練り練りするのは厨房でやってのわ」


 なにやってやがんだ、そこの夫婦!?

 かまってもらえないからって、各々好きなこと好き勝手に始めてんじゃねぇよ!


「ん? アルシノエ、メイクを落としたのか?」

「笑われたのわ……」


 と、恨みがましそうに睨みながら俺を指差す。

 怒んなよ。おかしいものはおかしいと指摘してやらないと、変な方向に突き進んじまうだろう?

 明日、またメイクしてやるから。


「ホントのわ!?」

「あれ、ベッコ、俺、今しゃべった?」

「言葉は聞こえずとも、何を考えていたのかは明白でござったよ」


 やめて、俺の心勝手に読むの。

 っていうか、俺だけ表情筋にも『強制翻訳魔法』かかってんじゃねぇの?


「これで、明日起きるのが楽しみになったのわ」


 ぴょこんっと跳ねて喜ぶアルシノエ。

 Eカップがゆさりと揺れる。


 もっと喜ばせよう、そうしよう!


「というか、すっぴん見せてよかったのか? 素っ裸より恥ずかしいんだろ?」

「給仕たちに聞いたら、すっぴんより素っ裸の方が恥ずかしいって言ってたのわ。すっぴんが恥ずかしいのは給仕長のシュレインだけだったのわ」


 あぁ……それは、なんというか……シュレイン、どんまい。


「きっと年取ってるからのわ」

「おぉう、言っちゃった!? 俺が必死に飲み込んだ言葉を!」

「なんと悪意のない無邪気な微笑みでござろうか……」


 で、アルシノエはすっぴんと素っ裸ではすっぴんの方が恥ずかしくないのですっぴんを見せても平気、と。

 二者択一でマシな方は見せられるのか?


「じゃあ、アルシノエ。右乳と左乳、どっちが恥ずかしくないか至急アンケートを取ってきてくれ!」

「それはさすがにどっちもアウトでござるよ!?」


 ベッコがうるさい。

 ……埋めてこようか?


「イーガレス。この館の裏に誰も寄り付かないスペースとかないか?」

「埋めようとしてるでござるな!? 這い出すでござるよ、拙者!?」


 ヤダ、しぶとい、怖い!


「怖いのは、ヤシロ氏の方でござる!」


 ベッコがテコでも動かなそうなので諦める。

 まぁ、チャンスは今夜一度きりというわけでもあるまい。


「とにかく、俺たちは明日に備えてもう寝る。今すぐに出ていけ、夜中に騒ぐな、起こす時にふざけたことをするな、朝からガッツリ系の飯を出すな、分かったな?」


 なんとなく、こいつらにはいちいち言っておかなければいけない気がしたので事細かに注意しておく。


「では、カタクチイワシ様が寝入った頃にそっと忍び込み、静かに見守っているとしよう」


 あぁーっと、事細かに注意してもダメだったわぁ。

 それやっちゃいけないとか、想像できないタイプの大人だったわぁ。

 っていうか、それやる意味ある?


「パキスの立ち入りを禁じる」

「し、しかし、ワタシは明日の朝、日が昇る前にカタクチイワシ様にしがみつきつつ耳元でモーニングコールをしてほしいとルシアに頼まれているのだ!?」

「即刻忘れろ、そんな忌まわしい命令!」

「可愛い妹の可愛いお願いだ」

「内容がおぞましくて一切可愛げがないだろうが!」


 というか、やたらとルシアを『妹』枠に押し込めようとしてるな、こいつ。

 新しい彼女に義理立てして、以前の執拗なプロポーズをなかったことにしようって魂胆か?


 誠実ぶろうとして、とことん失礼なヤツだな。

 まぁ、ルシアは歯牙にもかけないとは思うけど。


 そもそも、実の妹の前で他所の女を可愛い妹とか言うかね?

 どんな神経してんだ、こいつ?

 神経、焼き切れてんじゃねぇの?


「じゃあ、実の可愛い妹のおねだりなら、もっと聞いてくれるんだな?」

「のわっ!? ワタシのことのわ!? ワタシ、可愛いのわ!?」


 アルシノエが急にそわそわし始める。

 だから、前から可愛いっつってんだろうが。

 イメルダやルシアには敵わないまでも、顔立ちはいいってよ。


「可愛いから、兄貴に『こっから出て行って大人しく寝ろ』っておねだりしてくれ」

「か、可愛いって言ってくれるカタクチイワシ様のお願いなら、それくらいお安い御用のわ!」


 機嫌を良くしたアルシノエが、兄パキスに向かって口を開く。


「消えるのわ!」

「それおねだり違う!」


 これまで、兄におねだりなどしたことがないというアルシノエ。

 なんというか、ここの家族は自分のことにしか興味がないんだなぁ。

 家族のことを気にかけてるヤツが誰もいない……


「お前ら、ちゃんと一致団結して劇場を盛り立てていけるんだろうな?」

「「「「もちろんだ!(のわ!) カタクチイワシ様のために!(のわ!)」」」」

「そんな一致団結の仕方は求めてない!」



 俺を挟むな!

 家族間で意思疎通して協力して!


「……で、次男坊はどうした?」


 こんだけ騒がしいのに、次男のタキスが一切顔を見せない。


「タキスはお子様なので、もう寝ちゃったのわ」

「やれやれ。一致団結せねばいけない時だというのに、困った弟だ」

「いや、困ったヤツはお前らで、タキスだけが正解なんだよ、この状況!」


 夜は寝ろ!

 そして俺を寝かせてくれ!


 まだまだ遊びたそうなイーガレス一家を部屋から追い出し、ベッコをベッドごとドアの前に移動させてバリケードを築き、俺はようやく眠ることが出来た。


「この扱いはどうなんでござるかな!? まぁ、別にいいでござるけども」とか、ベッコが独り言を言っててちょっとうるさかったけど、結構ぐっすりと眠れた。







あとがき




のわ\(≧▽≦)/

宮地のわ\(≧▽≦)/


みなさん大好き、のわ母娘です!(笑)


アルシノエ(娘)とエカテリーニ(母)

どっちが人気なんでしょう……どきどき


まさか、こんなことでマダム好きが量産されるなんてことには……ならないといいのですが(・_・;



さて、

お泊まり回です!


……なのに、ちっともときめかない絵面ですね(´・ω・`)

野郎ばっかりのお泊まりに価値などないということなのでしょうか



私は結構友人の家にお泊まりに行っていたんですよねぇ~


あ、もちろん

友人の許可を得て、ですよ?



宮地「ふっふっふっ。まさか私が屋根裏に忍び込んでいるとは思うまい……」

友人「なにやつ!? 曲者じゃ、出あえ、出あえー!」

宮地「ちっ、バレたか! ヅラ借りるぜ!(しゅぴん! しゅたたたたっ!)」



みたいなことではありませんので、念のため

(≧▽≦)



友人「ヅラ借りてんじゃねぇよ。ずらかるんだよ」

宮地「あぁ、ごめん。とりあえず、返すよ、ヅラ」(ふぁっさぁ……)



子供のころ、そう思ってませんでしたか?

悪党とかが逃げていく時「ヅラ狩るぞ!」って。

「あぁ、被ってる人だけ狩られていくんだ~」って。



あと、「出会え、出会えー!」ね。



男「曲者だって!? 退治しに行かなきゃ!」

女「もう、母さんってば、起こしてって言っといたのに! 曲者討伐に遅れちゃう!」


――廊下の曲がり角でぶつかる


女「きゃっ!?」

男「うわっ、すまぬ! 怪我はないか!?」

女「もう、どこ見て…………いなせ(ぽっ)」



みたいなことだと思ってましたよね!?

絶対!



悪代官様「いや、そんなことしてないで早く曲者なんとかしてー!」

(´;△;`)



みたいな場面だと!

思ってましたよね!?



女「おのれ曲者……うそっ、いない!?」

男「どうした?」

女「……見失っちゃった」

男「そっか。けど、俺は見つけたよ。……本物の恋を、ね」

女「きゅん!」

悪代官「処すよ?」(#^ω^)



まぁ、友人宅にお泊まりに行っても

こんなことは起こらなかったのですが


田舎だったもので、

基本知人なんですよね、町の人

ですので、お泊まりとか、結構気軽にしてたんです


友人の親がデッカイ畑とか持ってると収穫に駆り出されることとかあるんですよ

で、手伝ったりすると

「夕飯食ってけ」って言われ、

夕飯食ってる間に「汗かいたでしょう? お風呂沸かしたから入ってって」って言われ

風呂から上がると「布団敷いたから、泊まってけよ」って感じでお泊まりを――



いや、これ親戚の家のノリ!?Σ(゜Д゜;)



血縁関係ないのに、ていよく使われてましたね、中学生の私!?

今だとダメなんでしょうねぇ、きっと。

未成年を泊めちゃうとか

でも当時は案外その辺ゆるくて…………当時もダメだった可能性……あるな…………


双方の親御さんの許可があればOK?

当時は双方ともにOKしてましたけども……う~ん…………



……よし。



私が中学生だったのって、江戸時代なので、案外なんでもありだったんです!

(よし、誤魔化せた!)



クラスの違うヤツとかも含めて、友人5~6人集められて

一気に収穫終わらせて、

庭でバーベキューして、全員で風呂入って雑魚寝して

合宿みたいで楽しかったんですよ



……出稼ぎの小作人か!?Σ(゜Д゜;)



で、その家が終わると、「じゃあ次、俺ん家ね」って、

農家さんの家を回って収穫を



……傭兵団?Σ(゜Д゜;)



うん、きっと今のご時世だと再放送すら出来ないようなことやってた気がします。


ほら、昭和とか平成初期って

ドラマやアニメの中でも結構アウトなことしてたじゃないですか


中学生が原付乗り回したり

高校生がビール飲んだり、

校舎裏でタバコ吸ったり、

そーゆー時代だったんですよ



まぁ、私はやってませんけどね!( ̄▽ ̄)

生まれてこの方、一度も法を犯したことがありませんので!


警視庁には目を付けられておりますけれども!

まだかろうじて合法のライン越えてません☆



真面目な子だったんですよ、これでも

いや、本当に



盗んだバイクで走り出したこともないですし

夜の校舎の窓ガラス壊して回ったこともないですし

軋むベッドの上で優しさを持ち寄ったこともないですし!



優しさの持ち寄りはいいじゃないか!?Σ(゜Д゜;)



二十代前半は、今よりも体力があったので


カラオケでオールしたり、

公園で一晩中語り明かしたり、

コンビニで商品の陳列とか発注とか床掃除とかしたりしてましたね


 最後のはただの深夜バイト!?Σ(゜Д゜;)



女っ気は物の見事になかったんですが、

遊んでくれるメンズは結構いてくれて、そこそこ楽しかったような気がします


もう一回やりたいかと言われればNOですけども!


一晩中歌うとか、もうちょっと無理……( ̄_ ̄;



でもきっと楽しかったのでしょうね

その思い出とか楽しさが、ヤシロたちのお泊まりの雰囲気に反映されている気がします。


……あぁ、だからヤシロ、女子とお泊まり出来てないのかぁ

そこまで反映されんでも……


ウッセとも、お泊まり回あったのに……



いいもん!

いいんだもん!

メンズオンリーでも楽しいですもん!

大丈夫もん!


今後、

いろんなメンズとのお泊まり回をお送りいたしましょう


女子が見てもあんまりわくわくしない感じのお泊まり回をな!


……需要がどこにもない!?Σ(゜Д゜;)



いつか、女子たちのお泊まり回を詳細にお届けしたいものです

そのためには、取材が必要ですね!


というわけで、私と一緒にお泊まりしてくれるレディ―ス&ガールズを大募集――


あ、それやると合法のライン越えちゃうんですか?

じゃあダメですね。

残念です。



というわけで、今後も異世界詐欺師ではメンズお泊まり回のみでお送りしていきたいと思います☆


次回もよろしくお願いいたします!

宮地拓海

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