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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
第四幕

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722/781

405話 木箱の中には

「ほくほく」


 ほくほく顔のルシアに連れられて戻ってきたギルベルタがドリアのサツマイモを口に頬張ってほくほくしている。


「ほくほく」

「美味いか?」

「歴代一位を取る勢い、私の中で」


 そんなに美味いか。

 やっぱ甘いのが好きなんだな。


 その隣には、ピリ辛高菜チャーハンを掻っ喰らっているルシア。


「このチャーハンであれば喫茶店で出せるな、カタクチイワシ」


 おい、鼻の頭に高菜が付いてるぞ。

 どんな食い方してんだ、ご令嬢?


「……で、ずっと気になってたんだが」


 陽だまり亭に戻るなり、「いい匂いがする!」と厨房に詰めかけてきたルシアとギルベルタに飯を食わせることを優先し、ずっと気になっていつつも放置していた案件に触れる。


「このデッカい木箱はなんだ?」


 ルシアは、ウクリネスの店からデッカい木箱を持って帰ってきていた。

 正確に言えば、ルシアに言われたギルベルタが抱えて持ってきたのだが。


「まさか、こんなに大量に浴衣を買い込んだわけじゃないよな?」

「浴衣は貴様が見立てたものを制作中だ。まだそんなに何着もいらぬ」

「楽しみにしている、私も、みんなで選んでくれた浴衣を」


 ってことは、目に付いた可愛い浴衣を衝動買いしたわけではない。

 じゃあ、他にウクリネスのところで思わず大量購入しちゃうものってなんだ?


 ……はっ!?


「ふんどしか!?」

「違うわ、戯け!」


 なんだよ!

 試着してみて、「これ、すっごくいい!」ってなって大量購入したんじゃないのかよ。

 毎日新しいのを穿くとしたら365枚必要だね☆ ――ってわけじゃないのか。

 まぁ、こっちの一年が365日かどうかも、実ははっきり分かってないんだけども。


 たぶん、そんなに誤差がないはず。

 ただ、閏年みたいな年があるんじゃないかとは思っている。

 それも、地球のように一日なんかじゃなくて「なんでそんなに!?」ってくらいドカッと調整する気すらしている。


「今年は閏年なので一年が730日ですよ」とか言われても、俺はもはや驚かないぞ。

 ここは、そういう街だ。


「この木箱の中には、今現在三十五区に必要なものが入っているのだ」

「ってことは、常識とか良識とか、そういうのか?」

「それが手に入ったのなら、真っ先に貴様に譲ってやるのだがな」

「そんな、なけなしの良識を譲ってくれなくても」

「持ち合わせておらぬのであろう? 遠慮をするな」

「ぐぬぬ……っ!」

「ぬぎぎ……っ!」

「はいはい。同じような顔で睨み合わないでくださいね、ルシアさんも、ヤシロも」

「「失敬だな、エステラ!?」」

「息ぴったりじゃないか」


 割って入ってきたエステラに止められ、俺とルシアは少し距離を取る。

 まったく、口の減らないヤツだ。


「バカクチイワシ」


 口が減らないどころか、減らず口が止まらねぇな、おい。


「まったく、貴様のせいで……ばーっか、ばーっか」

「すーっか、すーっか」

「エステラっ、カタクチイワシが暴言を吐いた!」

「謝って、ヤシロ!」


 エステラに泣きついたルシアと、速攻で向こう側についたエステラ。

 お前らの方がよっぽど同じような顔してんじゃねぇか。


「それで、この木箱の中身はなんなんですか?」


 フロアの中でそれなりの存在感を放つデカい木箱に、ジネットも興味があるようだ。

 というか、邪魔だからどけてほしいのか?


「どかしてもらうか?」

「いえ、大切なものでしたら粗雑に扱うわけにもいきませんし、万が一にも盗難されると困りますから」


 こんなデカいもの盗むヤツなんかそうそういねぇよ。


「あまり雑に扱うでないぞ、カタクチイワシ。とても貴重で、他に代えの利かぬものだ。壊れでもしたら街の損益になる」


 そんな貴重なものなのか。

 ……ちょっと中身が気になってきたな。


「……うまくくすね取れれば丸儲け……」

「不穏な独り言が結構な音量で漏れてるよ、ヤシロ」


 おっと、いけない。

 悪巧みは静かにするのが大人のマナー。


「ある意味、貴様の大好きなものではあるかもしれぬな」


 と、ルシアはニンマリ顔で言う。

 今現在三十五区に必要で、俺が好きなもの……


「おっぱいだ!?」

「違うわ!」

「でも三十五区に不足してるし!」

「不足などしておらぬし、指を差すな!」


 ルシアの胸元を「ビシッ!」と指し示す俺の指を叩き落とし、分かりやすく憤慨するルシア。

 なんだよ、違うのかよ、しょーもねぇ。


「期待値が一瞬跳ね上がったせいで、逆に興味なくなってきたなぁ……」


 なんかもう、何が出てきても「な~んだ……」ってなりそう。

 おっぱいよりいいものなんて、この世にそうそうないからなぁ。


「さっさと中を見せぬと、アホのカタクチイワシがいつまでも暴走し続けそうだ。ギルベルタ、蓋を開けてやるのだ」

「承知した、私は。――と言いつつ、頬張る、最後の一口を」


 立ち上がる直前、残っていたドリアを掻き込んで頬をぱんぱんにするギルベルタ。

 火傷すんなよ?


「ほくほく……」


 幸せそうな顔だ。

 相当気に入ったらしい。


「オープン・ザ・木箱」


 がぱっと、ギルベルタが自身の胸の高さ程もありそうな木箱の蓋を開ける。

 一辺120cm超えの巨大な木箱が開封され、中を覗き込むと――


「……すやぁ……ッス」


 中でウーマロが眠っていた。


「誘拐だ!?」

「ルシアさん、犯罪ですよ、これは!?」

「まぁ、説明を聞け。これには理由があるのだ」


 詰め寄ってくるエステラを落ち着かせ、ルシアがゆっくりとした口調で事情を説明する。


「ちょっと必要だから、借りていこうと思ってな」

「拉致だ!?」

「弁明の余地なく犯罪ですよ!」

「……てへっ☆」

「そんな顔してもダメです!」


 眠らせて木箱に詰めて連れ去るとか、お前はどこの犯罪組織だ。


「ウーマロさん、ウーマロさん。……ダメです。ぐっすり眠っていて起きていただけません」


 つま先立ちで腕を突っ込んで、ウーマロの体を揺すって起こそうと試みるジネット。

 足、ぷるぷるしてんぞ。


「どうやって眠らせた?」

「眠らせるつもりはなかったのだ。一時的に身動きを封じられれば、確保できると踏んだので、足止めのつもりで――投げキッスをな」

「ルシアが?」

「ふなっ!? だ、誰彼構わずするわけなかろう!」

「え、じゃあ……」

「した、私が」


 視線を向けると、ギルベルタはこともなげに肯定した。

 ルシアよ、ギルベルタに何をやらせてんだよ。

 ギルベルタも断っていいんだぞ?

 なんなら、たまにはグーで分からせてやってもいいんだからな?


 ……で、なんでそんな恨みがましそうな目で俺を睨んでるんだ、ルシア?

 言いたいことがあるなら言えよ。


「私は、微笑みかけるくらいでよいと言ったのだ。ギルベルタの可愛さであれば、それで十分だと判断したからな。だが……」

「より高い、殺傷力が、投げキッスの方が」


 いや、殺傷力って……

 確かに、ウーマロなら致死率上がりそうだけども。


「やった、こんな風に」


 と、その時の実演を始めるギルベルタ。


「……ぺっ」っと手のひらにツバを吐き、それを握り込み、大きく振りかぶって――投げたぁ!?

 甲子園が熱狂する剛腕投手も裸足で逃げ出しそうな物凄い勢いの投球だ。

 仮に白球を持たせていたならば、射出された球はコンクリートですら打ち砕いたであろう……



 ……ただな、ギルベルタ。

 それ、投げキッス違う。


「そりゃ、ウーマロも意識を刈り取られるわけだ」

「……剛速ちゅー」

「うまいこと言わなくていいから、マグダ」


 剛速球みたいに言わんでよろしい。


 意識を刈り取られたウーマロはその場に崩れ落ち、呼んでも叩いても目を覚ますことはなかったそうな。


 ……ここ最近無茶してたから、きっと睡眠も足りてなかったんだろうなぁ。

 ちょうどいいから寝かせてやれ。


「で、近くにいた大工に運搬用の荷車でも借りようと思ったら、トルベック工務店の……ヤンボルド? という大工が『棟梁に相応しいVIPな乗り物を作る』とこの木箱をあっという間に作り上げてくれてな」

「どこがVIPだ、ヤンボルド……」


 つか、あいつついさっきまでそこでカレー食ってたろうに……

 面白そうな出来事の匂いを嗅ぎ分ける嗅覚凄まじいな、相変わらず。


「倒れる前に、キツネの棟梁が指示を出していてくれたらしくてな、明日から仮設劇場の建設に取りかかれるように手配してくれるらしい」

「……ヤンボルドに任せておけば間違いはない。ヤンボルドは、ウーマロが最も信頼する大工の一人」


 マグダの太鼓判だ。

 さらにヤンボルドは、「棟梁をたっぷり寝かせてあげると、劇場が想定の1.5倍~3倍早く完成する」とか言っていたそうだ。

 じゃあ、気絶させたのもいい方に転びそうだな。


「というわけで、目が覚めたらすぐ作業にかかれるように、キツネの棟梁は預かっていく」

「いや、ルシアさん。誘拐された人間が、目覚めてすぐ通常業務には取りかかれないですよ……」


 ま、そりゃそうだ。


「……はぁ。ヤシロ、悪いんだけどさ」

「俺についていけってか?」

「いや、ボクがついていくから、ナタリアに会ったら事情を説明しておいてくれるかい?」


 エステラがナタリア抜きで他所の区に外泊?

 いや、無理だろう。


「お前じゃ、パニくったウーマロに説明なんか出来ないだろう。俺が行くから、お前はナタリアが戻り次第そこかしこの対応を頼む」

「君にばっかり負担をかけるのはボクの本意じゃないんだけど……」

「気にすんな。原因はルシアだから」

「なっ!? も、もともと、明日からキツネの棟梁は三十五区に来て作業をする予定で動いていてくれたのだぞ! マグマグのお願いは効果テキメンでやる気満々であったと聞いておる。ただ、気絶してしまうほどギルベルタの投げキッスが炸裂したのは想定外ではあったが……それでもトルベック工務店のナンバー2が是非寝かせたまま連れて行ってほしいと申しておって…………うぅ、なんか、ごめん」


 ルシア的には、ちょっとウーマロを照れさせて、捕獲して、「連れて帰る!」「いや、待て待て!」的な展開を想定していたのだろうが、ウーマロの疲労が想像以上に溜まっていたせいで気絶してしまったんだろう。


「大丈夫だ。ウーマロはこの程度のことでは怒らないし、俺も三十五区の劇場建設に協力すると約束した。想定外のことは往々にして起きるもんだ。起きちまったことを悔やむより、対応をうまくすることに意識を回した方が建設的だ」

「ボクもそう思います。ただ、苦労をかける分ウーマロとヤシロにはご褒美が必要でしょうけど」


 ほほぅ、俺にもくれるのか、ご褒美。


「楽しみにしてる。エステラのふんどし姿」

「うん。その発言に関してはこのあとジネットちゃんに詳しく説明を聞いて、適正な罰を与えるとして、出発の準備をしてくれるかい?」


 あれぇ?

 さっきまでの「申し訳ないなぁ」みたいな表情が一瞬でどっかいっちゃったぞ~ぅ?


「……マグダもついていく」


 木箱の中で眠るウーマロを覗き込んでいるマグダが挙手して言う。


「……頑張るウーマロを応援するには、マグダが適任」

「じゃあ、お願いしてもいいかな?」


 エステラが微笑ましそうにマグダを見て、ジネットに頭を下げる。


「ごめんね、急に主戦力二人を借りることになっちゃったけど」

「大丈夫ですよ。陽だまり亭には、まだまだ頼れる戦力がたくさんいますから」

「はいです! マグダっちょとお兄ちゃんの留守は、あたしたちで守るです!」

「明日はテレサさんも一日陽だまり亭にいられるそうですので、私も心強いです」

「だったら、あたいは明日も手伝いに来てやるよ」


 ジネットがいて、ロレッタにデリアにカンパニュラにテレサ。うん、陽だまり亭は大丈夫だな。


 頼もしい仲間が増えたもんだなぁ、陽だまり亭も。


「ではすまぬが、よろしく頼む」


 ルシアが一同に頭を下げる。

 そうそう下げちゃいけないはずなんだけどなぁ、貴族の頭って。


 そんなわけで、俺たちはウーマロに付き合う形で今夜から三十五区へ向かうことになった。



 とはいえ、まだ時刻はディナー前。

 もう間もなく夕飯目当ての客が押し寄せてくる頃合いだ。


「仕事終わってからでもいいよな?」

「いえ、ヤシロさんは出発の準備を優先してください」

「いや、でも高菜チャーハンとカボチャドリアが……」

「作り方と味は覚えました」


 完成品と口頭での説明で料理をマスターしちゃう人がここにいます。

 そしてきっと、俺が作るより美味いものを作ってしまうのだろう。


「そうなってくると、ジネットのドリアが食えないのが悔やまれるな」

「では、雑炊とドリアを急ぎ作ってきますので、みなさんで召し上がってから出発してくださいね」


 言うが早いか、厨房へと消えていくジネット。

 今日は俺がメインで厨房を任されようと思っていたんだが。


「……厨房を店長から奪うのは不可能」

「なんかもう、試食の時からずっと作りたそうにしてたですよ、店長さん」

「俺のドリアでは不服だったようだな」

「いいえ、ジネット姉様はとても美味しいと嬉しそうに食べておられましたよ。不服があったようには見えませんでした」


 それでも、まだまだ改良の余地があるって顔だよ、さっきのは。

 一体、どんな一手間で劇的な変化をさせちゃうのかねぇ。


「じゃあ、マグダ。出発の準備だ。一泊二日になるからそのつもりで着替えや必要なものを見繕ってこい」

「……任せて。あとで店長に手直ししてもらう余地を残しつつ、完璧な準備をしてくる」


 手直しの余地残ってたら完璧じゃねぇだろうに。

 本当なら、ジネットと一緒に「アレがいる」「コレもいる」って荷造りしたいんだろうな。


「ロレッタ、手伝ってやってくれるか?」

「フロアはどうするです?」

「頼れるデリアとカンパニュラがいる」

「こちらの都合に合わせてもらうのだ、ギルベルタにもしばし手伝わせよう」

「快く引き受ける、私は。楽しい思う、陽だまり亭でのお仕事は」


 というわけで、しばらくの間ならフロアは大丈夫だ。


「ロレッタ、マグダのことをよろしくな」

「任せてです!」


 と、胸をドンッと叩くロレッタ。

 元気が溢れ出て、実にロレッタらしい。


「デリアも、しばらくフロアを頼むな。この中じゃデリアが一番先輩だから、みんなの面倒を見てやってくれ」

「あたいが、一番先輩かぁ。よし、分かった! みんなあたいが面倒見てやる!」

「よろしく頼むぞ」

「おう、任せとけ!」


 デリアがロレッタと同じように胸を叩く。

 

 どん! ばぃん!


「どんばぃん、跳ねる!」


 思わず両腕を高く掲げてガッツポーズをしてしまった。

 おかえり、どんばぃん!

 次も期待してるよ、どんばるーん!


 そして――


「ロレッタ、えらい!」

「えっ!? なんですか、一体!? 察するに、ろくでもないことでお礼言われてる気しかしないですけども!」

「うん。君の予想通りだから気にせずマグダの荷造りを手伝ってあげてきてよ。ヤシロはこっちで始末しておくから」


 始末とか言ってるぅ。

 微笑みの領主様、怖ぁ~い。


「ヤシロへのご褒美は、今回の件の免責でいいかな?」

「ふざけんな」


 だったら、なんか罰を受けた上で、テンション上がるご褒美もらう方がいいわ。

 つーか、罰を受けなければいけないような覚えはない!


「面白いことをしていないで、貴様もさっさと準備をしてまいれ」


「さっさと行け」とばかりに手をぱたぱた振るルシア。


「貴様のことだ。他人よりも準備には時間をかけるのであろう?」


「何かと隠し事が多いからな、貴様は」と、知った風な顔で知った風なことを言う。

 そりゃあ、いざという時のことを考えていろいろと事前準備はするけども。

 その気になれば着の身着のままでも問題ないんだぞ、俺は。


「今回はウーマロの付き添いのマグダの保護者枠だから、別に荷物なんか何もいらないんだよな、俺は」

「ヤシロ。……無理だから。ヤシロが部外者になるとか、絶対ムリだから」


 奇妙な呪いをかけるな!

 俺は、常に蚊帳の外にいて、物事の中心人物を陰で操り、利益をちゅーちゅー吸って生きていきたい人間なんだよ。

 物事の中心なんて目立つ場所に立つ気は、基本的には、ないんだ。


「安心しろ、カタクチイワシ。貴様が退屈しないようにいろいろな仕事を振ってやる」

「いちいち料金を請求するぞ」


 俺は安くないからな。

 使い過ぎて破産しても知らんぞ?


「たくさん労う、私が、友達のヤシロを」


 ワンピに浴衣にと、今日一日で俺の目をいろいろと楽しませてくれたギルベルタ。

 ギルベルタに労われるのは悪い気がしないな。


「――我が永遠のライバルマグダ流で」

「それは、……ちょっと怖いからやめておこうか」


 マグダは見た目こそあどけない少女なのだが、思考回路と発想と趣味嗜好がアダルティでそこはかとなく残念で、ほのかにレジーナの香りがするんだよなぁ。

 なんでマグダはあぁ育っちゃったかなぁ……


「育児とか保育とか教育とか、環境って物凄く大切だよな」

「奇遇だね。おそらくまったく別の事由を想像しているだろうけれど、ボクも同じ結論に達しているよ」


 こっち見んな、エステラ。

 教育環境を破壊してるのはレジーナとかその辺だろうが。

 それは巡り巡って、そんなヤツらを野放しにしている領主の責任であるとも言える。


「つまりはお前の責任だ」

「ボクも最大限努力しているんだよ。諸悪の根源の言動を注視して、時には強硬に凶行を食い止めようとしているんだ。けれど、のらりくらりと反省から逃れ続けているんだよねぇ、そこにいる諸悪の根源が」


 こっち指差すな、エステラ。


「君を止められない自分の不甲斐なさに嘆く日々さ」

「おかしいな。この前お前の家の前を通った時に漏れ聞こえてきたのは、『あと5cmでも大きくなればなぁ……』っていう嘆き声だったけど?」

「エステラ、そなた……5cmは高望みが過ぎるであろう」

「いっ、いいじゃないですか……個人で思う分には」

「エステラ姉様。『そんなことは言っていない』と否定してもよかった場面かと思いますよ、今のは」


 でもな、カンパニュラ。

 この街には『会話記録カンバセーション・レコード』があるから。……な?


「さっさと準備してまいれ、カタクチイワシ。貴様がいるとくだらぬ話題ばかりが盛り上がる」


 盛り上がってるなら、それは俺だけのせいじゃないだろうに。


「ちなみに、ルシア的に何か用意しておいてほしいものはあるか?」

「貴様の思考回路を先読みすることなど常人には不可能であるからな。貴様が何を欲するのかまでは予想もつかぬが……そうだな、とりあえずイーガレスたちは顔を見せるはずだぞ」

「じゃあ、毒物が必要か」

「さらっと貴族を排除しようとしないように」


 エステラから待ったがかかる。

 イーガレスの肩を持つとか、やっぱりエステラは変わり者好きなんだなぁ。


「そういえば、ここ最近レジーナを見てないな」

「君が出向かない限りは、顔を合わす機会はないだろうね」

「ふんどしの話とかしてたら、喜んで食いついてきそうなのに」

「ボクも詳しくは聞いてないけど、そーゆー案件なんだね」


 そうか、レジーナのヤツ、ふんどしを知らないから食いついてこないんだな。

 勉強が足りんぞ。まったく。


「今度教えに行ってやるか」

「ハム摩呂たんは貸さぬぞ! あんなぷりちーな姿、あの場にいた者以外にはあまり見せたくはない」

「……ハム摩呂もいたんだ。で、何か着せられたんだね」

「じゃあ、ルシアが行って見せてやれよ」

「わざわざ押しかけて尻を丸出しにする趣味など持ち合わせておらぬわ!」

「……なるほど。お尻が丸出しになるんだね、ふんどしは。とりあえず規制しておこうかな」

「ところがぺったん!」

「「どっこいだ!」よ!」


 ぺったんの声が揃う。

 過剰反応するんだから、もぅ。


「ふんどしは、ジネットが採用を検討しているんだぞ」

「え? お尻丸出しなのにジネットちゃんが検討するようなものなの……? 一体、どんなものなんだろう……ふんどし」

「着て見せてやったらどうだ、カタクチイワシ?」

「別にかわまんが」

「ダメですよ!」


 厨房からジネットが飛び出してきた。

 手ぶらで。


「ジネット、ドリアは?」

「まだ、途中です。が、その前に懺悔してください」

「……俺か、今の?」

「えっと…………ルシアさんと半分こです」


 じゃあ、半懺悔でいいな。

 やーい、ルシアも懺悔食らってやんのー!


「じゃあ、ルシア。俺が『ふんどしで騒いで』って言うから、その後続きで『ごめんなさい』ってジネットに言え」

「うむ。……半分ことは、そういうことなのか? まぁ、ジネぷーが言うのであれば逆らうまい」

「じゃあいくぞ。ふんどしで騒いで――」

「――ごめんなさい。……なんか、私だけが謝った気がするのだが!?」


 ふっ、気が付いたか。

 しかしもう遅い!

 俺はノルマを達成した! ひゃっふぅ~い!


「では、もう少し時間がかかりますので、ヤシロさんは先に荷造りをしてきてくださいね」

「ジネぷーが許している!? おい、エステラ。懺悔とは、こんな感じでよいのか?」

「えっと……まぁ、懺悔にも様々な形があると言いますか…………ジネットちゃんはヤシロにとことん甘いので」

「他所で泣くくらい重い懺悔を喰らえばよいのだ、カタクチイワシめ」


 ルシアに愚痴を漏らされたが、懺悔する前に待ったをかけなかったお前が悪い。

 負け犬の遠吠えを聞きながら、俺は自室へと戻った。




 とはいえ、準備と言っても特に何をするわけでもない。

 明日の着替えと、いざという時に「こんなこともあろうかと」とドヤ顔で披露する七つ道具でもカバンに忍ばせておけばそれでOKだ。


 この七つ道具にしても、常にカバンに入れっぱなしというわけではなく、常に点検とメンテを行い、いつでも十全にその能力を発揮できる状態を保っている。


 いざという時にすぐさま使えないようでは意味がないからな。

 その辺、レジーナのお出かけ診療セットと似たような感じだ。


「あれ? もしかして、俺ってレジーナと似てるかも?」

「そうだね、君とレジーナは本っ当ぉ~によく似ているよ」


 いいタイミングで部屋に入ってきたエステラが、これまたいいタイミングで返事を寄越してくる。


 んだよ。

 部屋に入る時はノックくらいしろよ。

 着替えの真っ只中だったらどうするつもりだ。まったく……


「いや~ん、エッチ☆」

「そーゆーところだよ、君たちが非常によく似ているのは」


 許可も得ず俺の部屋に踏み込んできて、俺のカバンの中身を検めるエステラ。


「ボクのお出かけ用カバンには決して入っていないようなものばかりが入っているね」


 そりゃそうだろう。

 貴族のお嬢様と一般人のイケメンの鞄の中身が同じわけがない。


「まず、男物のパンツだろ」

「出さなくていいから!」


 カバンをごそごそしたら腕を掴まれた。

 今だけならこっそりと見せてやってもよかったのに。チャンスを逃したな、エステラ。


「この機会を逃せば、この次いつ男のパンツを見られるか分からんぞ?」

「見たくないよ、そんなもの!」


 そんなものとは失敬な。

 このパンツは、ジネットが毎度毎度丁寧に洗い、干して、畳んで、そっと部屋に返しておいてくれるんだぞ。


 洗うのは平気なのに、返すのは恥ずかしいみたいなんだよなぁ、パンツ。

 おそらく、俺本人とパンツが揃うのがNGなんだろう。


「お互いがパンツ一丁だったら恥ずかしくないんじゃないかと思うんだが……どうかな?」

「そのくだらない謎理論は封印すればいいと思うけど、本当に必要なのかい、その辺の道具?」


 人の話をスルーしといて別の質問を寄越してくるエステラ。

 真面目に検討したかったのに!

 こちらで『是』と判断されれば、それをもってジネットにプレゼンするつもりだったのに!


 領主が認めた『どっちもおぱんちゅなら恥ずかしくないもん計画』を!


「いっそのこと、街を挙げて計画を推進する必要があるかもしれん!」

「聞きなよ、人の話を。いるの、この道具?」


 お前こそ聞けよ、俺のこの壮大で素晴らしい計画を!

 ……ったく。


「いるかどうかは分からんが、必要な時にないと困るだろうが」


 必要なければそれはそれでいいんだ。

 ただ荷物が重くなるだけだから。

 だが、「あぁ、アレがないせいで手が打てない」って状況は最低だ。

 最悪の場合、後日改めて三十五区まで足を運ばなければいけなくなる。

 道具を一個持っていかなかったばっかりに。

 それはとんでもない時間と労力の浪費だ。

 カバンが少し重たくなるなんて些細な苦労とは比較できないロスだ。


「つまりだ、余分なものを排除するのは、領民一斉おぱんちゅ計画を実行する時くらいでいいってわけだ」

「なんで結論がそっちに行っちゃうかな……あと、ないから、その計画が実行される時なんて」


 頑なか!?


「お前、パンツ否定派か!? そんなに穿きたくないのか!?」

「穿くし、その上にいろいろ着るよ!」

「邪道め……」

「いや、むしろ君の発想が外道なんだよ」


 あぁ言えばこう言う。


「なんで金槌なんて持っていくのさ?」


 と、俺のカバンから金槌を引っ張り出すエステラ。

 おい、出すなよ。折角入れたのに。


 エステラから金槌を受け取り、握って軽く振ってみせる。


「ウーマロとグリップの好みが合わないんだよ。あいつの金槌は握りにくいから、自分のを持っていくしかないだろう?」

「なんでウーマロと並んで金槌使おうとしてるのかってことを聞いてるんだけどね……カンナまで入ってるし」


 あのなぁ。

 ウーマロと一緒に三十五区に行くんだぞ?


「大工仕事が舞い込んでくる可能性を考えるのが普通だろう」

「君は大工の鑑のような人間だね。いつの間に土木ギルドに加入したのかは知らないけどね」


 誰が加入するか。

 今入ったら、あの大工たちの下につくことになるんだろ?

 そんなもん、俺のプライドが許さない。


 まぁ、仮にそうなっても、秒で下剋上するけどな。


「ウーマロにマグダ禁止を言い渡せば、あっという間にナンバー2だ」

「ナンバー1にでもなれるんじゃないのかい、君なら」

「いや、それはいろいろ責任関係で面倒くさいからウーマロに押し付ける」

「実質ナンバー1だよ、そのポジションは」


 影のナンバー1ならいいんだよ。責任を回避できるから。

 むしろ進んでなりたいポジションですらある。


「それで、こっちの画材道具は?」

「劇場を作りに行くならイーガレスが来るだろ。そうなったら人形劇の人形とかメンコとか、何かしら描く可能性が高くなる。メンコ一枚描くだけであいつを黙らせたり意のままに操ったりできると思えば必須だろう」

「君は、ウーマロとベッコを合わせて4をかけたような人間だね」


 2で割れよ、合わせたなら。

 まぁ、あいつらの平均とか言われたら猛抗議してたところだけども。


「あ、レジーナも発見」


 カバンから携帯用の薬箱を引っ張り出すエステラ。

 だから、散らかすなっつーのに。


 注意しようと思った時、開け放たれている俺の部屋のドアがノックされた。


「あ、あの、お話中失礼します」


 控えめに、でも慌てた様子でジネットが声をかけてくる。


「何か、変なものを持っていく気ではないですか?」

「エステラが『レジーナ』とか言うから……」

「え、いえ、決してそういうわけでは……」


 なくはないだろうに。


「大丈夫だよ、ジネットちゃん。薬箱を見つけただけだから」

「あぁ……なるほど。それは確かにレジーナさんですね」


 あからさまにほっとするジネット。

 やっぱり、『レジーナ』で卑猥なものを想像してたんじゃねぇか。


「いつまでも廊下に立ってないで入ってこいよ」

「では、お邪魔します」

「厨房はいいのか?」

「はい。もうしばらくは」


 遠慮がちに俺の部屋へと入ってくるジネット。

 こういうの、足りてないぞエステラ。ずかずか踏み入ってきやがって。


 というか、ジネットはもうちょっと図々しくなってもいいと思うんだけどな。

 もともと、お前と祖父さんの家なんだし。


「準備は進んでいますか?」

「さっき終わったのに、エステラが散らかすんだ。叱ってくれよ」

「別に散らかしてなんか……」


 いや、めっちゃ散らかしてるじゃん!

 終わってた荷造りやり直しだよ。ったく。


「ふふ。ヤシロさんのカバンの中身は、確かにちょっと気になってしまいますね」


 お前もか、ジネット。


「だって、なんでも出てきますから」


 散らばった鞄の中身を見て、カバンの中を覗き込むジネット。


「見てみるか?」

「いいんですか?」

「あとで片付けるの手伝ってくれるならな」

「はい。荷造りは得意です」


 そんなにどこかに出かけるタイプでもないだろうに。

 片付けの達人は、収納場所がどこに変わろうとも関係ないのかね。


「まず、男物のパンツを――」

「そっ、それは見せなくていいですっ」


 ばっとカバンの蓋を閉じるジネット。

 俺の手首挟まってるんですけも。

 布カバンだから痛みは一切ないとはいえ。


 で、大工道具や画材道具、携帯薬箱を見て「本当ですね、ウーマロさんやベッコさん、レジーナさんがみんな揃っているようです」とエステラの意見に賛同している。


「あれ? これはお裁縫道具ですか?」

「イロハたちが子供服コンテストを見に来てただろ? それに、今日はルシアが浴衣を見てたからな」


 俺が三十五区に来ていると耳にして押しかけてくるヤツがいないとも限らない。


「……そんなことまで想定して事前に準備しているのかい、君は?」

「まるで、ヤシロさんには未来が見えているようです」


 未来なんか見えねぇよ。

 それでも、可能性の高いものを見抜くことは出来るし、狙い通りの未来を引き寄せることもある程度なら出来る。


 例えば、こんな風に――


「今から数分後、ジネットのほっぺたは赤く染まり、エステラは長い息を漏らす」

「……へ?」

「それは、予言か何かかい?」

「そんな大層なもんじゃない、もっと単純な推論だ」


 帰納的推理と言ってもいい。


 よく分からないという風に首を傾げながら、俺のカバンから「次は何が出てくるんでしょうか」と、とある包みを取り出すジネット。

 その包みの中に入っているのは――



「いやぁ~ん」



 ――な雰囲気漂う、オトナ向けのセクシーな絵柄のメンコだった。

 もちろん、十八歳未満に見せても問題ない、いろいろなものは見えていない健全な絵柄だが、なかなかにセクシーな仕上がりになっているギリギリを攻めた意欲作だ☆


「な、なんですか、これは!?」

「向こうの大工の実力を120%引き出させるための隠し兵器さ☆」

「……君のその発想もさることながら、そんな手にまんまと乗せられてやる気満々で仕事に勤しむカワヤ工務店の大工たちが目に浮かぶところが嘆かわしいよ」


 俺の予言通り、ジネットはほっぺたを真っ赤に染めてぷっくり膨らませ、エステラは呆れ果てて長い長い息を漏らしたのだった。


 な?

 未来なんてのは、案外容易に見通すことも、引き寄せることも出来るもんなんだよ。





 床に正座。

 スネが、痛いよね☆


「もう、反省してください」

「はーい」

「反省してくださったのならもういいですよ」

「いや、ジネットちゃん。絶対反省してないよ、ヤシロは。見てあの顔。反省の色がまったく見えないじゃないか」

「俺の反省はスケルトンなんだよ」


 一時期流行ったろ?

 なんでもかんでも中身が透けて見えるヤツ。

 アレだよ、アレ。

 透けてるから色が見えないだけ。


「俺の反省は無色透明なのさ。腹の中を隠すことなく晒すという覚悟の表れだ。そもそも、反省ってのは誰かに見せつけるためではなく、自分自身の心と向き合うためにするものだからな、目立たせる意味なんてないのだ」

「素晴らしい考えです、ヤシロさん」

「君の場合は、その晒された腹の中のさらに裏っ側に本音を隠していそうなんだけどね」


 さすがエステラ。

 よく分かってるじゃないか。

 スケルトンボディで見えているのは見えてもいい場所で、本当に見せられないところはしっかりと隠されているものなのだ。


 まぁ、スケルトンブームに何も考えずに乗っかって、『純日本産』を謳っていたPCの内部パーツが全部外国製の安物だったと露呈したお粗末な詐欺会社もあったみたいだけどな。


「では、荷造りを済ませてしまいましょうか」

「そうしたいのは山々なんだが、足がしびれて1ミリも動けん」

「なにやってんのさ、君は?」


 やらせたのはお前らだろうが。

 床はな、硬いんだぞ?


「では、わたしが済ませてしまいますね。早くしないと、ドリアが冷めてしまいますから」


 だったら、懺悔は後回しにしてほしかったなぁ。


 痺れる足を伸ばしてさすりながらジネットの動きを眺める。

 テキパキとキレイに荷物が詰め込まれている。

 なんだか、俺が荷物を詰めた時よりもカバンの膨らみが小さい気がする。


 ……あ、セクシーメンコがカバンから出されてる。

 なるほど、あれの分か。


「ジネットちゃん。ソレは持って行かせて、外で配った方がヤシロの手元に残らなくていいかもしれないよ」

「ですが、このようなものを欲しがる悪いお友達が増えてしまうのは、ちょっと心配ですし……」

「ジネットちゃん。ここにいるのが諸悪の根源なんだよ」


 こらこら、エステラ。

 人を指差すな。

 まったく、どんな教育をしているのか、今度じっくり教育係を問い質さなければいけないな。


 ……あぁ、教育係ってナタリアかぁ…………


「エステラ。お前の教育係をもっとしっかり教育しとけ」

「立場が逆転してるじゃないか、それだと」

「給仕長の教育は領主の務めだろうが」

「だからボクはいつも懸命に、ナタリアに悪影響を与える存在に厳しく指導を行っているんだよ」


 だから、指を差すなってのに。


「君は知らないと思うけれど、君がいないところではとても有能で礼儀正しく、優雅で上品なんだよ、ナタリアは」

「主のパンツで悪ふざけするようなヤツのどこが優雅だ」

「……あの館には君の残滓がこびりついているんだよ。だからたまに暴走するんだ、きっと」


 俺は悪霊か。

 人に取り憑いて暴走させたりなんぞしとらんわ。


「最近、他の給仕たちがナタリア化しつつあるんだよね……ヤシロ、館に来る頻度落としてくれない?」

「そんなに行ってねぇだろうが」


 むしろ、お前が陽だまり亭に来過ぎて俺の残滓を体に纏って館に持ち帰ってんじゃねぇのか?


 ……俺の残滓ってなんだ!?

 失敬な。


「では、あの……ヤシロさん。こちら、とても危険なものですので、扱いには十分気を付けてくださいね」


 と、重々しい表情と雰囲気でセクシーメンコを手渡される。

 ただのエロいメンコのどこが危険だ。


「そうだ。そんなに心配ならウーマロに預けておこう☆」

「君は息をするように友人を面白可笑しくいじる術を見つけ出すよね」


 ウーマロに渡したら、その場に投げ出されるかもしれないけどな。


「これって、架空の人物なんだよね?」


 ジネットに渡されたセクシーメンコを、エステラがひょいっと奪い去る。

 だからお前は、邪魔すんなよ、片付けのさぁ。


「実在の人物を勝手にモデルにするわけにはいかないだろう。誰にも似せないようにしてるんだよ」

「こういう女性が、君の好みだったりするのかい?」

「というか、万人受けするタイプにしてるんだよ」


 自分の好みを反映させることはほぼない。

 なぜなら、自分の好みで作ると、他人にくれてやるのが惜しくなるからだ。

 架空の美少女A子さん。そんな感じがちょうどいい。


「知り合いを使って、こういうのを作らないようにね」


 知り合いのエロいメンコをか?

 誰が作るか、そんなトラブルしか起こさないような危険物。


「ヤシロさんは、お友達にそういった酷いことはされませんものね」

「そうだな。ハロウィンでへそ出しコスチュームを着せるくらいだ」

「はぅ……っ!? ……忘れてください、あのことは」


 ジネットのへそ出しコスは、油断したジネットのお腹やせダイエットへの協力という側面もあったから叱られずに済んだんだよな。


 つまり!

 ジネットに甘い物をたくさん食べさせておいて、ハロウィン前にダイエットに協力すれば、またへそ出しコスを着てもらえるわけだ!

 脚痩せダイエットだったら、網タイツバニーも夢ではないかも!?


「ジネット、俺が美味しいケーキをたくさん焼いてやろう!」

「も、もうダイエットが必要なほど不摂生はしませんもん!」


 くぅ……ジネットは自分を律することが出来る芯の強い女子だ。

 これは手強い……


「けどまぁ、ジネットはつまみ食い大魔神だから、新しい料理をたくさん持ち込めば……」

「そんなにつまみ食いばっかりしてませんもん!」


 いや、してる、してる。


「網タイツ……バニー……見たいなぁ!」

「そ、そんなに期待されると、余計に見せられません!」

「じゃあ、全然見たくなんか…………くっ、やっぱり自分に嘘は吐けない! メッチャ見たい、網タイツバニー!」

「大きな声で言わないでください!」


 だって見たいんだもの!


「本当にジネットちゃんのバニー姿のメンコとか作ってないだろうね?」

「ふぇぇええ!?」

「ねぇよ」


 さすがに、そうゆうのはイケナイと思ってます、はい。

 そうゆう一線は越えちゃイケナイと。


「なら、ちょっと室内を検めても構わないかい? 例えばその、君が腰を下ろしている、今まで見た覚えのない木箱の中とか」


 先日、俺の部屋に増えた一つの木箱。

 腰掛けるのにちょうどいいかなぁ~って感じの高さだから座っているだけだというのに、それが怪しいとエステラは言う。


 何を馬鹿なことを。


「あははは、面白いことを言うなぁ、エステラは。さ、食堂に戻ろうか」

「明らかに誤魔化したね、今!?」

「ヤ、ヤシロさん、まさか……っ!?」


 えぇい、寄るな!

 別に何も大したもんは入っちゃいねぇよ!

 ただ、わざわざ見せるようなものではないから見せないだけで!


「ヤシロ」

「ヤシロさん」


 ジト目のエステラと顔真っ赤なジネットに見つめられ、俺の口からため息が漏れる。


「信頼ないんだなぁ、俺」

「ついさっき、網タイツバニーで大はしゃぎしていた人間が何を言っているんだい」

「他のことでは、とても信頼していますよ」


 つまり、エロいことに関しては一切信頼していないと。

 ジネットも辛辣だなぁ……


「見てもつまんないぞ」

「面白がろうと思って見たいわけじゃないよ、ボクたちは」

「あの、少し確認だけさせていただければ、それで」


 ……へいへい。


 木箱から腰を上げ、ベッドに移動する。

 もう、好きにしろよ。


「じゃあ開けるよ、ジネットちゃん」

「あ、あのっ、ちょっと待ってください! ……すぅ…………はぁ………………ど、どうぞ!」


 覚悟を決めて、木箱の蓋を開けるエステラと覗き込むジネット。

 蓋が開かれ、中を見た二人が声を上げる。


「へ? ……これって」

「わぁ!」


 そして、中に入っている紙束を取り出し、ぱらぱらとそこに描かれた絵を確認する。


「子供たちが描いた、ヤシロさんの似顔絵ですね」

「誕生日の時にもらった、子供たちからのプレゼントだよね。あ、ほら、裏に文字が書いてある」

「『白ウンチ』な」

「『ヤシロお兄ちゃん』、だよ」


 そこに入っていたのは、俺の誕生日に教会のガキどもが描いてきた俺だとガキどもが言い張っているメッチャ笑顔の丸い謎生物の絵。

 それらが余すことなく、一塊となり木箱の奥底に封印されていたのだ。


「そうかそうか。こんなに大切に保管したいほど嬉しかったのか。わざわざ保管用の木箱まで用意してさ」

「以前ヤシロさんが作られていた木箱は、このためだったんですね。きっと子供たちも喜びます」

「待て待て。なんか勘違いしてるようだが、出しとくとジネットが陽だまり亭の壁に貼っちまうから、こうして封印しているだけだよ」

「木箱の中に貼ってあるその小袋って、レジーナのとこの除湿剤だよね?」

「……虫でも涌かれるとたまったもんじゃないからな。除湿は必須だ」

「大切に保管してくださっているんですね」


 言葉通じねぇーなぁー、もう!

 なに?

 電波悪いの、この部屋?


「やっぱり、ヤシロさんはイケナイ絵なんて隠し持っていませんね」

「だね。ヤシロが隠すのは、自分が善人に見えるものだけだもんね」


 知った風なことを、顔を見わせて笑いながら言い合う。

 こっち見んな。

 えぇい、にやにやすんな!


「今度バニージネットのイラストでも描こう~っと!」

「では、完成したら確認しますので、必ず見せてくださいね」


 ちぃ!

 なんか知らんが『嬉しい』が勝って「懺悔してください」が出てこない!

 懺悔の方がマシだな、そんなにやにやした目で見られるくらいなら!



 思いがけず自室の居心地が極限まで悪くなったので、荷造りの済んだカバンを抱えて、俺はさっさと一階へと降りていった。







あとがき




箱の中身はな~んだろな~♪

\(*´▽`*)/


宮地「(がさごそ……)はい! 箱入り娘!」

司会「残念! 正解は、子供部屋オジサン!」

宮地「惜しい~っ!」(≧▽≦)



どうも、子供部屋宮地です


あ、いえ、実家は19のころに出ましたけれども

あ、違います、

夢を書いたテストを紙ヒコーキにとかしてません

私、それだった頃はありませんので、

ただの19です


……あ、分かりませんか

むかしそーゆーアーティストが……まぁ、いいでしょう

分からなければスルーしてください



では、SONY三大イロモノバンドについてのお話をしましょうか

あ、もっと分からないですか?

検索でもしてみてください

「え、このバンドがイロモノ!?」って驚くと思いますので

みんな大ヒット曲を持つすごい三組なので(*´ω`*)



そういえば、子供部屋オジサンって

名称的には座敷童の遠縁の親戚みたいなもんですよね

座敷に行ったら童がいて

子供部屋に行ったらオジサンがいて、って

部屋逆じゃね!?Σ(゜Д゜;)


あとは、お風呂場静香ちゃんと

厨房ジネットがいそうですけども


……武蔵川部屋お相撲さん


 武蔵丸かな!?Σ(゜Д゜;)



そんなわけで、今回の本編は

武蔵丸関でお馴染みの箱の中身はなんだろな、です☆


 武蔵丸関にそんなイメージないけども!?Σ(゜Д゜;)



木箱の中身は、ウーマロさん!

というお話でありつつ、

ヤシロが作った秘密の木箱の中には子供たちの描いたヤシロの似顔絵が収納されてるんですよ~っていう

二つの意味を持つタイトルにしてみました!

さり気ないダブルミーニングがニクイ演出となっております!

ドヤ\(≧▽≦)/ァァア!


 それ自分で言ったら台無し!Σ(゜Д゜;)



実は、報労記でもらった子供たちの似顔絵については

誕生とかベビコンあたりで触れようと思っていたんですが、今の今までどこでも触れられずに放置されていたので、しっかりと保管されていますよ~とご報告を☆


書いてませんが、

もらった当初、少しの間陽だまり亭の壁に飾られていたようです( *´艸`)

ジネットさんがにっこにこで、ヤシロが「ったくもう……」って苦い顔をしながら

お客さんがにやにやしながら眺めていたとかいないとか



と、そんなお話でした


あと、ヤシロの鞄は秘密道具がいっぱいで

こういう話を軽く挟んでおくことで



今後、「こんなこともあろうかと」がやりやすくなりますよね☆



「あぁ、ヤシロさんだから、それくらい用意してて当然だよね☆」

っていう空気が形成されて、ご都合主義感が薄れてくれます☆

いいこと尽くめですね☆



それにしても……

自分の部屋に美少女が二人訪れて、旅支度をしながらあーだこーだおしゃべりをするシチュエーションとか……


体験してみたかったなぁー!( ゜□゜)



いや、しかし

この三人だけで何気ない時間を過ごすのは楽しいですね

一幕のころはエステラも正体を隠していましたし

ジネットもまだここまでヤシロを理解してなかったですし

ヤシロも心開いてなかったですし


この三人だけのシーンだから、なんとなくみんなの成長が感じられて



羨ましいな、オイ!(# ゜Д゜)



って、なりますよね☆



私の実生活では、こんなきゃっきゃうふふする感じは全然なくて

もっとキャッキャウホホな感じでしょうか


 おサルさん!?Σ(゜Д゜;)


先日もね、

キンランっていう、絶滅しそうな希少な花を見に行ったんですよ

まぁ絶滅危惧と言っても、結構いろんなところで見かけるんですけどね


で、お花に詳しい博士、花博と、

万物に詳しい博士、万博と会話していたんですが……


 いや、花博と万博は博覧会!Σ(゜Д゜;)



花博「キンランはドングリのたくさん落ちているところに生えるんだよ」

宮地「え、ドングリから生えるの!?」

万博「うん、そう」

花博「嘘教えんな!」

宮地「あ、分かった! ドングリじゃなくてキングリから生えるのがキンランだ!」

花博「何を分かったんだ、お前は!?」

万博「惜しい。キングリとラングリが偶然合わさって、融合したらキンランが生えるんだよ」

花博「ねぇよ!? 融合って何!?」

宮地「キングリとラングリが融合してキンランが生えると……グリグリが残るな!?」

花博「なに残してくれてんだ!?」

万博「だから昨今、大量に放置されたグリグリが問題になっててなぁ……」

花博「お前らがキングリとラングリを持ち出したから、自然界がエライことになっちゃったな!? どうすんだよ、グリグリ!?」

宮地・万博「「え、グリグリ?」」

花博「お前らだよ、言い出したの!」



こんな感じですからねぇ

きゃっきゃもうほほもしないんですよねぇ~( ̄_ ̄ )


 だから、サルを目指してるの!?Σ(゜Д゜;)



やはり、ヤシロさんのようになるには子供に好かれないとダメな気がします

今回の本編も、子供たちの描いた絵を大切にしてたってことで全部許された感がありますしねぇ



よし、決めました!

私、幼い子供たちともっとコミュニケーションをとるようにしま――



 通報祭り!?Σ(゜Д゜;)



まだ四幕始まったばっかりなので、捕まらない行動を心がけたいと思います



次回もよろしくお願いいたします!

宮地拓海

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― 新着の感想 ―
メンコそっくりのキャラクターが登場するんだろうなぁ(遠い目)
今回いつにも増してボケの多いあとがきでしたね(笑) 今武蔵丸が武蔵川親方なんですよねえ。←そこ!?
どうも。デリアさんの「どんばぃん」をありがとうございます。 きっかけを作った普通のロレッタさん、普通にえらいですね! 普通にありがとうございます! ロレッタ「普通を連呼しないでです! あたし普通じゃ…
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