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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
第四幕

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401話 また何かが動き出す


 子供服コンテストという、そこそこ盛り上がったイベントが終わって数日。

 街を埋め尽くしていた興奮もようやく落ち着き日常を取り戻し始めた矢先、ルシアが呼んでもいないのに陽だまり亭へと押しかけてきた。


 俺の顔を見るなり「話がある、カタクチイワシ」とか言って寄ってきて、またわがままを抜かし始める。


 曰く、領民が人形劇を見たがっているので早急に再開できるように便宜を図れ――と。


「うっさい、帰れ」と真っ当な反論を試みるも、横暴な貴族の耳には届かず、またしても俺は面倒事に巻き込まれてしまったわけだ。


「はぁ~あ……ウーマロに『プレハブ余ってね?』って聞きに行くの、めんどくせぇ~……」

「その程度で済めばいいなっていう現実逃避はその辺にして、劇場のデザインでも始めたらどうだい?」


 バカ、エステラ、バカ、お前。


「デザインはウーマロの仕事だろうが」

「ウーマロが劇場を熟知しているならば、丸投げでもいいんだろうけどね。どうせ、人形劇ならではの構造とか、こういうのがあると助かるなってアイデアがあるんでしょ? 最初に伝えておいてあげると、ウーマロは助かると思うよ」

「アイデア料ってのは、高いもんなんだぞ」

「ルシアさんのミニスカ網タイツを見せてあげたじゃないか」

「ご褒美の先払いなんぞ認められるか! どうしてもと言うなら今度はバニー姿で生脚を見せろ!」

「ひ、人の生脚を勝手にご褒美にするのでない! そ、そうやすやすと見せてたまるか、フェチクチイワシ!」


 また奇っ怪なイワシが誕生したもんだな。


「お兄ちゃん。ウーマロさんとこのプレハブって、そんな風格が出るようなすごい感じなんですか?」

「あれ、ロレッタは見てないのか? アホみたいにすごいぞ。なぁ、マグダ?」

「……うむ。アレはもはや、アホの領域」

「すごいのにアホの領域なんですか!? ちょっと想像がつかないです!」


 規格を揃えて汎用性を高めた建築方法。

 パーツを事前に作っておいて、現地では組み立てるだけで完成する仮設建築。

 そんな感じに説明したはずなのだが……


「規格に収まってさえいれば、あとは何してもOKなんじゃね?」的な発想で各パーツにこだわるヤツが続出してなぁ……

 結果、気に入ったパーツを組み合わせることで自分流にカスタマイズできるセミオーダーメイドみたいなことになってしまっている。


 それこそ、日本家屋みたいな仕上がりにも、ロマネスク建築みたいな仕上がりにも出来る。

 出来てしまうのだからビックリだ。


 なんかもう、パーツを選んで置いていくだけで世界が構築されていくRPG作成ソフトみたいな感覚だ。

 いや、アバターのお部屋を自分流に飾り付けていくオンラインゲームの方が近いか。


 ……これもう、『外壁から内装まで、建築後からでもお好きにカスタマイズできる新感覚建築』として売り出しちまえばいいんじゃねぇか?

 耐久性も、トルベック工務店のお墨付きなんだしさ。


「そんなにいろいろあるですか?」

「信じ難いことにな、大工連中は休日に趣味として自分の好み全開の外装とか内装とかカスタムパーツを作成してウーマロに売り込んでるんだよ。ウーマロや他の工務店の棟梁連中の承認が得られれば、それは正規品としてラインナップに加えてもらえるんだ」

「休日に休んでないですね、大工さんたち!?」

「……ラインナップに加われば、自身のデザインが認められた証。大工たちは、次代のデザインを担いたいと切磋琢磨、群雄割拠、有象無象、魑魅魍魎、阿鼻叫喚、死屍累々している」

「後半、不穏な言葉が並んでたですけども!?」

「自分のデザインが使用されると、制作者に数%のマージンが入るんだ。だから連中は必死になってんだよ」

「なに他人事みたいに言ってるのさ。君じゃないか、そのシステムを導入させたのは」


 それは違うぞ、エステラ。

 俺は、連中が趣味でデザインにこだわり始めたから、「そういうのを使うなら、権利者の保護を徹底するべきだ」と助言したに過ぎない。

 才能が開花した大工が使い潰されるリスクを減らすためにな。

 それに、見返りがあると知れば連中もやる気を出す。

 本人ですら気付いていない才能が発掘できる可能性もあるし、凡才を天才に成長させることも可能かもしれない。


「ムダを排除し、可能性を広げるための当然の措置だし、やり始めたのは大工連中だ。俺の責任じゃない」

「まったく、君は……まぁ、君がそれでいいならそういうことにしておくよ」


 けらけらと笑って俺の肩をぽんぽんと叩くエステラ。

 気安く触るな。ペタペタし返すぞ。


「そう言われてみれば、エカテリーニの駄菓子屋もカフェも、それぞれに特徴的な建造物になっておったな」


 ルシアが思い出すように顎を摘む。

 頬にそっと手を添えろよ、お嬢様なら。


 とりあえずの間に合わせでウーマロが建てた仮設店舗。

 ……とても仮設とは思えない見栄えと風格なんだが、ウーマロが納得していない以上建て直すんだろうなぁ、アレ。

 故に、仮設。


 その仮設店舗にしても、とても規格を合わせた既製品、量産品には見えない個性を持っている。

 こいつのすごいところは、パーツを一つ変えるだけで雰囲気をガラッと変えることも、まったく同じ建物を量産することも出来ちまうところだな。


 あえて同じ建物を並べて一体感を出すことも出来るし、その中でシンボルとなる一軒だけグレードを上げることも出来る。

 似た雰囲気だけれど一つとして同じものがない、統一感と個性を両立した住宅街なんてものも作ることが可能なのだ。


 ……ミシンもないような街でやるようなことじゃないだろうに。

 技術レベルがバグってんじゃねぇのか、この街?


「ただ、劇場となると構造も大きく異なるし、耐久性や防音性も考慮する必要が出てくる」


 店舗や住居とは大きく異なるからなぁ、劇場ってのは。

 いざという時の避難経路とかも、慎重に検討して設計しないと……


「やっぱ安請け合いできる内容じゃねぇな。ルシア、ご褒美を寄越せ」

「ばっ、バニーガールは見せられぬと申しておるであろうが!」


 それじゃねぇよ、欲してるご褒美。

 つか、お前のバニーガール姿で劇場が建つとか、どんだけ自分の価値を高く見積もってるんだよ、お前は。

 ……いや、大工連中ならそれだけで劇場を三つくらい建てちまいそうだけれども。

 三日三晩不眠不休で働きそうだけども。

 いや、三日三晩どころか十月十日駆け抜けそうだ。


「お前のバニーガールで国がひっくり返りそうだな」

「さ、さすがに、そこまでの価値はないわ! ……そこまで喜ぶのは貴様だけだ、たわけ」


 いや、俺はお前のバニー姿で国をひっくり返すほどははしゃげないからな?


 両手で顔を隠してみゅうみゅう鳴き始めたルシアを放置して、マグダに視線を向ける。


「……着る?」

「バニーガールの催促じゃねぇから」

「……トラーガール」

「バニーガールのトラバージョン、作りたかったら作ってもいいけど、今はその話じゃない」


 だから、着たそうな顔でこっち見ない。

 着たければ着ればいいから。


「ウーマロのところに行って、ちょっと状況を説明してきてくれないか? 劇場だからプレハブを持っていってあとはカワヤに丸投げってわけにもいかないと思うし。耐久・防音・避難経路とついでに居心地と特別感の両立も考える必要があるってことも念頭に検討してくれって」

「……分かった。ちょっと網タイツを穿いてくる」

「マグダっちょが、何がなんでも了承をもぎ取ってくる気満々です!? 『忙しい』とか『それは無理』とか一切口にさせないつもりです!?」

「マグダを派遣する時点で、ヤシロも同じ意見なんだよ。……まったく、ヤシロはルシアさんに甘いんだから」


 誰がいつ甘やかしたよ、エステラ?

 ルシアが貴族の権力を振りかざして、矮小な民草たる俺に無理難題をふっかけてきてるんだろうが。

 抗えないおのれの無力さを嘆くばかりだよ。


 まったく……また、しばらく賑やかになりそうだ。




 マグダが店を出て、ウーマロを籠絡……いや脅迫?

 いやいや、事情説明に向かった。

 健康的なホットパンツと、そこから覗くさりげない網タイツがオシャレだったとだけ、付け加えておこう。


「ところで、ギルベルタはどうした?」


 現在、ルシアは一人で陽だまり亭にいる。

 行動はギルベルタと一緒がデフォルトなのに。


「というか、ギルベルタだけ来たらよかったのに」

「仕事の話をしに来たのだ! 私がいなくてどうする」


 仕事ぉ~?

 無理難題を押し付けに来ただけじゃねぇか。


「劇場の件も、もちろん重要ではあるが、本題は洗濯屋の研修についてだ。間もなく寮が完成するのであろう?」


 そうそう。

 ウーマロが張り切って超特急で寮を完成させたんだよ。

 三階建ての集合住宅。


 四階建てにしてみれば? と言ったんだが、「さすがにこの短い工期でチャレンジは出来ないッス」と断られた。

 けど三階建て。

 三階建てと四階建てでそんなに何かが違うとは思えないんだけどなぁ。


 五階建てにすれば、二十四区の高級宿屋(笑)を超えられるのに。


「入居予定のみんなに内装の希望を聞いて、こっちの職人に家具を用意してもらうことになってるんだ。臨時収入だよ♪」


 エステラが嬉しそうに言う。


 三十五区領主が金を出し、四十二区の家具を買う。

 そういう微々たる臨時収入好きだよな、お前は。


「家具が揃ったら、いよいよ引っ越しだよ」

「賑やかになりそうですね」


 一歩引いて話を聞いていたジネットが、嬉しさを抑えきれない様子で口を挟んでくる。


「ご近所さんとして、わたしもいろいろとアドバイスを頑張りますね。大通りへの抜け道とか、風の気持ちいい安らぎポイントとか」


「頼りにしてください」と胸を叩くジネット。

 わぁ、揺れた☆


 洗濯屋の寮――『ランドリー・ハイツ』は、陽だまり亭の建つ街道とは別の通りに建っている。

 ……そういう名前に決まったんだよ。分かりやすさ重視らしい。


 ランドリー・ハイツが建っているのはムム婆さんの家や、ミリィの家がある方向だ。


 モーマットの畑があるせいで、陽だまり亭から行くには大通りの方へ向かってから西側へ右折するか、イメルダの家の方へ向かって畑を大回りしてから東側へ左折するかしないと行けない立地にある。


 要するに、陽だまり亭から見て、畑の向こう側だな。

 なので、「知ったことか!」とモーマットの畑を突っ切っていくのが一番早く着く。

 なんでかモーマットが怒るので滅多に使用しないルートではあるが。


 ミリィの家へ行く時はいつも、道が広くて明るい大通り方面へ向かうルートを使用している。

 ミリィの家から川へ行く時は逆のルートの方が近いからそっちを利用するけども。

 あっちの道は細いし若干暗い。

 光るレンガがさほど設置されてないんだよなぁ……ケチるなよ、インフラをよぉ。



 そんな立地にあるランドリー・ハイツは、まぁご近所さんと言えばご近所さんに当たるわけで、何かと面倒を見てやってほしいとエステラに頼まれている。


 そういうのはな、お人好しとか善人に言うべきことだぞ。

 俺の場合、親切には料金が発生する。

 お役立ち情報には、相応の情報料が必要だからな。


「海風のいたずらによる絶好のパンチラスポットとかな☆」

「その情報による利益には重税を課すから随時漏れなく素直に報告するようにね」


 これだから為政者は!

 取れそうなところから税金を巻き上げていきやがる!

 領民の怒りで身を焼かれるがいい!


「遺憾砲ー!」

「健全な領民には不当な税はかけないよ。ろくでもないことばかり思いついてしまう自分の脳を恨みたまえ」


 遺憾砲が効かないだと!?

 こいつ、血も涙もないのか!?


「乳も涙も――」

「血だよ、血! そして、ある!」


 ドンとテーブルを叩いて抗議するエステラ。

 ぷっくりとほっぺたを膨らませて、リスのような怒り顔だ。


 ほっぺたは膨らむのになぁ……


「そういえば、あたしその寮ってまだ見たことないです」

「え、ロレッタ、見たことないのか?」

「はいです。あんまり、あっち側に行く用事がないですから」

「弟や妹から話を聞かないか? あいつら生花ギルドとかミリィの店の手伝いにも行ってるだろ?」

「あぁ……あっちの方に行った弟妹からはミリリっちょが今日どれくらい可愛かったかって話しか聞こえてこないです」

「それだけで記憶の容量埋め尽くされるんだろうなぁ」


 だって、ミリィだもんなぁ。

 可愛い瞬間が多過ぎるんだろう、きっと。

 さもありなん。


「最近、可愛さを的確に表現するために『ミリィ』って単位が出来たです。ミリリっちょが『えへへ』ってはにかんだ時が基準で、1ミリィです」


 なにその単位?

 俺も使お。


 そんな話をしていたからだろうか、ミリィが陽だまり亭へやって来た。


「こんにち……わっ!?」


 入ってくるなり、ルシアを見て驚いた表情を見せる。

 口をまぁ~るく開いて、それを隠すように手をパーにして口元に添え、お目々がまんまるくくるんっと見開かれる。


「なにその表情、めっちゃ可愛い」

「はぅ……っ、ぁんまり、見ない、で……きっと変な顔しちゃったから……」

「今の可愛さは3ミリィだな」

「なにその単位!? みりぃ、初耳だょ!?」


 耳慣れない言葉にわたわた慌てふためくミリィ。

 おぉ、可愛さが留まるところを知らない。


「可愛さが4ミリィに跳ね上がったな」

「いや、ボクは5ミリィはあると思うな」

「甘いぞエステラ。私は6ミリィ出そう!」

「なんの話をしてるの、みんな!? 競らないで!」

「なるほど、競りか。じゃあ、7ミリィ!」

「甘いぞカタクチイワシ! 10ミリィだ!」

「競らないでぇ!」


 同じテーブルに向かい合って座る俺とルシアの間の空間をかき回すように、両腕を振り回すミリィ。

 えぇい、分かった! 30ミリィ出そう!


「うふふ。みなさん、ミリィさんが可愛くて仕方ないんですね」


 なんて言いながら、ミリィにお茶を出すジネット。

 俺たちの隣のテーブルを勧めている。


「今日はどうされたんですか?」

「ぅん、あのね、光のお祭りのお花について聞いてきてほしいって、ギルド長さんに言われたの」


 つまり、お遣いってわけか。


「よし、お小遣いをあげよう!」

「みりぃ、子供じゃないもん!」

「いや、あげたい! さぁ、ミリィたん、お小遣いをあげるからこっちへ来るのだ」

「黙れ誘拐犯。『椅子持ってもっとこっち来い』みたいに手招きしてんじゃねぇよ」

「君もルシアさんも同じような言動をしていることを自覚するべきだよ。ミリィ、この二人は放っておいていいから、自分の用事を優先させてね」

「ぅ、ぅん……いいの、かな?」


 エステラが一人で常識人ぶった顔をしようとしている。

 さっきの『かわヨ』オークションには参加してたくせに。


「あ、そうだミリィ。『可愛い』の単位は『ミリィ』に決まったから」

「やめてぇ! そんなの、広めちゃダメ、だからねっ」


 でもなぁ。

 この街って、なんでか広まってほしくない情報ほどどんどん広まっていくからなぁ。


「ところで、さっきは何に驚かれていたんですか?」


 と、ミリィの前にストロベリーアイスを置くジネット。

 ……あれ? 注文してないのにデザート出てきたぞ?

 え、なに? ウェルカムデザート?


「ぇっと……ぁの、ね…………また、るしあさんが四十二区にいるなぁ……って」

「お前の顔、見飽きたって」

「そんなことは言っておらぬだろう! 思いがけず出会えて嬉しいという意味かもしれぬではないか、いや、きっとそうに違いない!」

「それで、ミリィ。陽だまり亭にいるルシアさんを見て、君はどう思ったんだい?」

「ぇ……? ぇっと………………」

「『暇なのかな~』だってよ」

「だから、言っておらぬだろう! まぁ、表情はそのような感じに見えたが」

「……えへへ」


 出た!

 かわヨの基準!

 これが1ミリィかぁ……

 1ミリィを叩き出すのもかなり難しいぞ、これは。


「そうだ。ミリィはもう見たか、ランドリー・ハイツ?」

「ぅん。割とご近所さんだから、前を通る度に見てるよ」


 そこそこ離れてはいるけれど、森や陽だまり亭、大通りに行く時には前を通るから見かけることも多いのだろう。

 毎日、驚くようなスピードでどんどん建っていく様がいかにすごかったか、ミリィは若干興奮しながら語ってくれた。


「朝、森に行く時には基礎しかなかったのに、夕方お家に帰る頃には骨組みが出来上がってたの」


 そりゃ早ぇわ。

 で、翌日には外壁が出来ていたという。

 外壁の前に床とか壁とか作ってるだろうから、相当早いペースで建ててるのが分かるな。


 寮だぜ?

 ヤツらに常識は通用しないのかもしれないなぁ。


 あぁ、そういえば。


「その寮って、あえて風呂を作らなかったんだっけ?」

「うん。大衆浴場に通ってもらった方が、四十二区の領民とも触れ合う時間が増えるし、それに維持費も馬鹿にならないしね」


 寮に住むのも無料ではない。

 管理費や修繕積立費を考えるとそこそこの部屋代を取る必要がある。

 それでも破格の家賃だけどな。


 風呂を作らないことで、住民の負担を減らすという目論見だ。


「お風呂の準備と掃除も負担になるからね」


 作るとすれば大浴場になるだろうが、住民全員が決まった時間に入浴できるわけではない。

 一人のために沸かし直したり、その後一人で掃除したりなんて出来るはずもない。


 なので、風呂は大衆浴場か、自室で体を拭くことで我慢してもらう。


 ま、家に風呂がないのが一般的なんだけどな、この街は、


「ジネットは見たのか、ランドリー・ハイツ?」

「いえ。マグダさんからお話はいろいろ伺っていますけれど」


 マグダは、頑張るウーマロのために弁当の配達を請け負ってくれている。

 なので、工事現場に日参しているのだ。


「カンパニュラも見てないよな?」

「はい。なかなか、あの辺りは立ち寄る機会がありませんので」

「じゃあ、あとで見に行ってみるか」

「あたしも行きたいです!」

「では、みんなで見学に行きましょう」

「よし、私も視察に向かうとしよう」

「じゃあ、ボクが店番をしていてあげるよ。カレーなら、よそえるし」


 うわぁ、全然自慢にならないことを、薄い胸を張って。


「では、お願いできますか、エステラさん」

「うん、任せて」

「まぁ、すぐ戻るから客は待たせとけばいい」

「大工以外はどうしようか?」

「ぇっと……えすてらさんも、てんとうむしさんみたいなこと言うようになった、ょね?」


 出かけるとすれば、客足が途絶える時間になるだろうし、その時間に来るのは仕事の都合で休憩時間がズレた大工か、勤務時間って概念が希薄な領主とかギルド長関係だから――


「待たせとけばいい連中ばっかりだな」

「てんとうむしさんは、ぇっと……怒られないように、ね?」


 心配してくれるミリィのかわヨさは、余裕で10ミリィを突破していた。




「それで、一つ気になったのだが、光の祭りとはなんだ?」

「いや、前に説明したろ!?」

「いつだ?」

「あれはたしか……」


 しばしまぶたを閉じて記憶をサルベージする。


 たしか、去年の猛暑期前、ミリィがヒラールの葉をお裾分けしに来てくれた時、エステラが「今年は光の祭りをやらないのか」とか聞いてきて、「やりたいなら年始に領主が年間行事のスケジュールくらい立てとけ」って忠告して……そこに乗り込んできたんだよな、ルシアが。「詳しく聞かせろ!」って。

 で、その後、ルシアが三十五区の保存食として定番だというアナゴを持ってきてて、初めて見る生き物に一同が大騒ぎして、それでジネットにかば焼きを教えてやって、作って、みんなで食って……


「説明してないな!?」


 こいつ、聞くだけ聞いといて説明聞きやがらなかったな!?

 すっかりとアナゴのかば焼きに心奪われてたんじゃねぇか!


「はぁ……エステラ、説明しといてやれ」


 俺はもう、説明する気力もない。


「実は、光の祭りというのはですね――」


 エステラがルシアに光の祭りの説明を始める。


 人間に光を与えたと言い伝えられている精霊神。 

 それ以降も人々を見守り、温かい太陽の光で包み込む精霊神に感謝の気持ちを返すために、光るレンガを持った乙女たちが暗い夜道を教会まで行進する――そんな内容の祭りだと説明している。


 もともとは、幻想的な光の行進を見せて、イメルダの中にあった「西側は暗くて地味」っていうイメージを払拭させるのが目的だったんだけどな。

 往々にして、起源なんてのは適当なものだ。

 仰々しい由来なんて、後付でどうとでも出来るからな。


「そのような面白そうなイベントがあるのに、なぜ声をかけぬのだ、カタクチイワシ!」

「外交は俺の仕事じゃないんでな」

「手紙の一つも寄越さぬか」

「手紙書いても、届く前にどうせ来るじゃん、お前」


 一番遠い区の領主のはずなのに、ここで顔を合わせる頻度が高過ぎるんだよ。

 わざわざお前に手紙を書くっていう発想自体、持ち合わせてなかったわ。


「最初にやったのは、今から半年ほど先の、もっと年の瀬に近い時期だったんだ」


 俺がこの世界に来て、半年ほど経ったころだったか。

 日本の暦でいえば十月ごろ。木こりギルドの誘致のための祭りを開催したんだ。


 だが、その時期には区民運動会とかハロウィンとか、あとからイベントが増えたためにちょっと時期を調整することになった。

 準備に時間がかかるため、区民運動会やハロウィンをズラすのは難しかった。

 ……領主やギルド長連中も、どーせ来たがるだろうし。

 なので、四十二区内で完結する光の祭りの時期を早めることになった。


 一応ベルティーナに相談したら「もともとその時期でなければイケないという決まりもありませんでしたし」とすんなり了承してくれたので来月あたりに開催できるよう準備が進められている。

 今後は五月ごろの定期イベントになるだろう。

 ……あ、日本の暦でいう五月な。



 この街と日本の暦は当然異なるのだが、俺が「一週間」とか「来月」とか言うと、『強制翻訳魔法』がちゃんと伝わるように翻訳してくれるので俺も『来週』とか『来月』って言葉を使い続けている。

 いや、ホント便利だわ『強制翻訳魔法』。

 ……まぁ、時々おふざけが過ぎる時もあるけども。


「今年からね、広場や大通りに白いぉ花をね、飾ることになったんだょ」

「お祭りの会場となるのが西側のこの街道だけになるんですが、精霊神様はすべての者たちを平等に見守ってくださっているし、同様にすべての領民はみんな精霊神様に感謝をしているっていうことを表したくてそういう風に変更したんです」


 嬉しそうに語るミリィの言葉に、エステラが補足して、こちらに視線を向ける。


「ヤシロにそう助言されて」

「お前が祭りの会場を街全体に広げようとしてたから、目に見える大損害を回避するために釘を刺しただけだろうが」


 領民全員からの感謝を表すために、街全体でお祭りを――とか、危険なことを言い出したエステラを、俺が現実的に止めてやったのだ。

 そんなに規模をデカくしたら、目が行き届かなくなって危険だし、人が分散すれば採算が取れなくなる店が大量に出て大赤字になるのは目に見えている。


 この長い街道に出店をズラッと並べて祭りをやるだけでもかなり大規模だってのに、これ以上の規模拡大は現実的ではない。


 本場の祭りを経験したこともない連中が、いきなり京都の祇園祭をも超える規模の祭りなんか運営できるはずがない。

 大事故が起こる危険がかなり高い。


 だから、会場はあくまで街道で、感謝の気持を表すために象徴的なモニュメントを要所要所に設置すればいいと代替案を出しただけなのだ、俺は。


 モニュメントも、そんな大掛かりなものじゃなくて、光を象徴するような白い花を飾り付けて、道行く連中がそれを見てわいわい話をするだけでも十分に祭りっぽくなる。

 なんなら、個人的に花を買って家の軒先に飾ったり、モニュメントの周りに寄付する感じで花を供えられるようなスペースでも設ければいい。


 ほら、バザーの時にやった『感謝の花』を、今度は精霊神に捧げる的な感じでさ。


「――という現実的な話をしてやっただけなんだよ、俺は。どうにも現実が見えてないようだったからな、エステラは」

「貴様は、ほとほとエステラに甘いな。過保護が過ぎるのではないか?」

「聞いてたか、人の話?」


 俺が懇切丁寧に過程を語って聞かせてやったというのに、なんでそんな結論に行き着くんだよ?

 両耳にモズクでも詰まってんじゃねぇの?


「まぁ、折角だから『感謝の花』は大量に用意しておいた方がいいんじゃないかってアドバイスはしたけどな」


 祭りだイベントだって浮かれている連中は、その浮かれた気分のまま普段は口に出来ない秘めた想いなんてものを口にして、浮かれ気分のまんま、ロマンティック浮かれモードに突入してカップルが成立する確率が高くなっちまうもんだからな。


 きっかけってのはありがたいものなんだ。

「折角だから」

「こういう機会だから」

「特別な日だから、思い切って」ってな感じで背中を押された気持ちになるんだよ。


 言われた方も、特別な日の特別な雰囲気で正常な判断が鈍ってすんなりOKしちまったりするんだよなぁ。


 文化祭や体育祭というイベントで、一体何組の新規カップルが誕生したか……


「ロレッタ! 弟たちを総動員して落とし穴を量産しておいてくれ!」

「なんで新たに誕生したカップルを落とそうと画策してるですか!?」

「『なんで』? え? 理由が必要?」

「どうして君は、片思いには優しいのに、両思いには厳しいんだい?」

「恋が芽生えるきっかけを与えておいて、成就した瞬間に突き落とそうとするのではない、このバカクチイワシ」


 領主二人が俺を責める。

 まったく、分かってねぇなぁ……


「俺が片思いのヤツの背中を押すのはな……玉砕した野郎を指さして笑うためだよ……ケッケッケッ」

「あくどい顔だね、ヤシロ」

「ろくでもない男だな、まったく」


 ルシアがジネットの腕を掴んで「ジネぷぅ、ばっちぃからあの男には近寄るな」と俺から引き離す。

 ばっちくねぇわ。失敬な。


「じねっとさんは、今年も光の行進に参加するの?」


 ミリィがきらきらとした目でジネットを見上げる。


「はい。シスターとエステラさんに依頼されまして」


 前回、ジネットは西側の行列の先頭を務めた。

 今回も、ジネットは西側の先頭を任されることになっている。


「わたしも、精霊神様には日頃から感謝していますし、少しでもお返しが出来るのであれば嬉しいと思っています。……先頭でなくてもいいとは、思っているんですが」


 先頭はどうしても目立つからだろうか、ジネットが少し照れくさそうに苦笑する。


「いやいや、先頭はジネットちゃんじゃなきゃ」


 だが、エステラの強い推薦でジネットは今回も先頭だ。


「ベルティーナの次に敬虔なアルヴィスタンだからな、ジネットは」

「そんな、わたしなんて、まだまだですよ」


 いや、お前以上に敬虔なアルヴィスタンなんて見たことねぇよ。

 一応、領民全員が聖霊教会の信者ではあるが、かなりライトな信仰だからなぁ。


「口癖が『懺悔してください』なの、ジネットくらいだしよ」

「それは、君がそばにいるせいで言わざるを得なくなっているんだよ」

「エステラさんのおっしゃるとおりですよ、ヤシロさん」


 なんか二方向から叱られた。

 別に、俺悪くなくね?


「東の先頭はどうするんだ?」


 前回はウェンディが先頭を務めていた。

 だが、今年は生まれたばかりの赤ん坊がいるので参加は難しいだろう。


 エステラとベルティーナが言うには、西側はジネットが先頭を務めるので、東側は獣人族か虫人族が望ましいのだそうだ。

 すべての人々を平等に、分け隔てなくってメッセージになるからだってさ。


「じゃあ、ミリィ――」

「むりっ!」


 まぁ、ミリィは上がり症だからな。

 かなり注目される先頭は難しいだろう。


「無難なところだと、パウラかネフェリーかノーマあたりかなぁ」

「パウラもネフェリーも、出店があるだろ?」


 パウラは酒と粗挽きフランクを売るし、ネフェリーはきっと今年もベビーカステラを売るのだろう。


「ジネぷぅはどうするのだ? 陽だまり亭も店を出すのであろう?」

「陽だまり亭は早めにお店を閉める予定なんです」


 前回は、早々に売り切れて店じまいになったが、今回は事前に早く閉めると告知しておく。


 明るいからなぁ、陽だまり亭は。

 光の行進の光を邪魔しかねない。


 なので、夜になる前に店を閉めて、その日は光るレンガを光らせないようにするのだ。


 ……当然、祭りのために店を早く閉めるのだから、運営委員会からは相応の補填をしてもらう約束を取り付けてある。

 抜かりはない。


「では、マグマグや義姉様も光の行進とやらに参加するのか?」

「はいです! 前回も、みんなで一緒に行進したですよ。ね、エステラさん」

「うん。なんだかわくわくして、楽しかったよね」

「エステラも行進に参加するのか」

「その予定です」


 前回が相当楽しかったようで、エステラもロレッタも乗り気なようだ。

 マグダも絶対ノリノリだろうしな。


「ふむ。……で、あるならば暇なのはカタクチイワシくらいか」


 ルシアがこちらを向いて「にっ」っと口角を持ち上げる。


「では、当日の接待は貴様に任せるとしよう」

「前回イメルダで、今回ルシアかよ……」


 俺のお祭り、毎回重たいなぁ……


「浴衣を着るなら、接待してやってもいいぞ」

「浴衣か……」


 陽だまり亭一同で三十五区に泊まりに行った時、浴衣を着たジネットたちと街を散歩したことがあった。

 それから、ウェンディの両親にウェンディたちの結婚を納得させるために行った三十五区花園でのお祭りでも浴衣をお披露目をした。


 あの時は、人間は触覚カチューシャを付け、虫人族には人間の服――浴衣を着てもらおうということになっていたのだが、なんだかんだ「見た目に派手な方がいいよね」って感じで人間も浴衣を着ることになったんだよ。

 なので、実はルシアも一度浴衣に袖を通している。


 ただし、数を揃えるためにかなり簡易的な、安売り量販店で売っているような安物の浴衣だったけどな。

 もし今度着るのであれば、きちんとした浴衣を着せたい。

 派手さと楽しさだけを求めた花園でのお祭りとは違い、光の祭りはもっと厳かで格式高い感じになる予定だし、正装として浴衣を着てもらいたい。


「よかろう。ウクリネスに言って特注品を依頼しておくとしよう」

「あ、あの、ルシアさん……」


 快諾したルシアの隣で、ジネットが焦ったように声をかけるが、俺の方をちらっと見て、視線が合うと口を閉じて黙ってしまった。


「えっと…………なんでもないです」



 きっと、浴衣を着る時の絶対不変の『アノ』ルールに言及しようとしたのだろうが、「メンズには秘密」という不文律を考慮して口を閉ざしたのだろう。


 ま、俺は知ってるんだけどな☆


 いいか、ルシア。

 浴衣の時は、穿かないんだぞ☆




 しばらくの後、ジネットがルシアをフロアの端っこへ連れて行って何やらこしょこしょと耳打ちした直後に「えっ!? しかし前回は――!」とかいうルシアの素っ頓狂な声が聞こえてきたが、紳士な俺は気付かない振りでスルーしてやった。


 前回は、とにかく多くの者に浴衣を着てもらうためにそういったルールは伝えなかったんだよ。

 いきなり「穿かずに着てね☆」ではハードルが高く、着てくれるヤツがいなくなりかねなかったからな。

 あの時は、特例として鉄のルールを撤廃したのだ。


 だかしかし!

 今回の浴衣は正装!

 きちんとしたルールに則ってもらうぜ☆


「ぐぬぬ……」と短くうなった後、なんかルシアがそわそわもじもじしつつ俺の方をチラチラと何か言いたげに視線を送ってきていたが、紳士な俺はやっぱり気付かない振りでスルーしてやった。


 網タイツの時に学ばなかったあいつが悪い。


会話記録カンバセーション・レコード』のあるこの街で、迂闊な約束をしてはいけないと。


「おのれ、カタクチイワシめ……知っていてわざと……」

「い、いえ、ヤシロさんは『アノ』ルールをご存知ないので、そんなことはないかと……あの、男性の方には絶対に秘密ですので、口にしないよう十分注意してくださいね」

「う、うむ……知られてはマズいからな」


 なんて内緒話もばっちり聞こえていたけれど紳士な俺はまたまた気付かない振りでスルーしてやった。


 ――と、そこへギルベルタがやって来た。


「申し訳なく思う、遅くなって、私は。させられていた、着せ替えを、イメルダ先生の館の給仕たちに」


 遅れてやって来たギルベルタは、とっても可愛らしいふわふわのワンピースを身に纏っていた。


「3ミリィ!」

「その単位、やめてぇ!」


 三本の指をビシッと立てて宣言した俺の腕にミリィがしがみついてくる。

 伸ばした腕を必死に降ろさせようとしてくる小さい子が可愛過ぎてたまらない。


「5ミリィ!」

「その単位、やめてってばぁ!」


 むぅむぅとほっぺを膨らませて抗議してくるミリィだが、ジネットはくすくす笑って見守る姿勢だ。

 懺悔はなさそうで安心だ。


「嬉しい思う、私は、褒めてくれて、友達のヤシロが。けれど甘い、採点が。精々半ミリィが関の山」

「ぎるべるたちゃんも、聞いてすぐ使いこなさないで、その単位!」


 さすが有能給仕長。

 もう単位を自分のものにしちまったか。

 しかし、半ミリィは謙遜し過ぎだな。

 ギルベルタも十分可愛いんだし。


「なんでそんなことになったんだ?」

「お願いしていた、いつものように、馬車を預かってもらえるように」


 で、優秀な馬番がいるイメルダの館に馬車と馬を預けていたら、給仕長に捕まって、給仕一同にあれやこれやと着せ替えをさせられたらしい。


 なんでも、子供服コンテストからこっち、給仕たちの間で裁縫熱が冷めやらず服飾ブームが巻き起こっているのだとか。

 子供服では飽き足らず大人用の服を作る者がたくさん現れ、互いに作った服を着せ合うという遊びが横行しているのだとか。


 で、そこに現れたギルベルタだ。

 そりゃ、恰好の着せ替えターゲットにさせられたことだろう。


 ルシアは陽だまり亭前でさっさと馬車を降りてしまい、ギルベルタ一人でイメルダの館へ向かったため、そんなことになってしまったようだ。


「見たかった!」


 と、見当違いなもんくを垂れるルシア。

 身を案じてやれよ。……まぁ、なんだかんだ楽しかったっぽいけども、ギルベルタも。

 表情がつやつやしてる。

 ワンピース着てきちゃってるあたり、まんざらでもなかった証拠だろう。


「イメルダは館にいなかったのかい?」

「外の森へ行っているらしい、イメルダ先生は」

「……だから、給仕長が羽目を外していたわけか……抗議しておこうか、ギルベルタ?」

「いい。楽しかった、私も。感謝する、優しい気遣いに、微笑みの領主様の」

「感謝はいいから、呼び名をなんとかしてほしいよ、ボクは」


 まだ諦めてないのか。

 とっくに定着したというのに、微笑みの領主様。


「君と関わってから給仕長がアクティブになったと、イメルダが零していたよ」

「俺のせいにするんじゃねぇよ」

「ボクじゃなく、イメルダが言っていたんだよ」

「じゃあ、お前からそう伝えといてくれ」

「伝えるだけなら、伝えておくよ」


 あぁ、まったく効果のない説得になりそうだ。

 つーか、説得にすらならなそうだよ。……けっ。


「店長~! ちょっと聞きたいことがあるんだけどさぁ」


 そこへデリアがやって来る。

 今日は千客万来だな。


「あれ? ギルベルタか。可愛い格好だから一瞬分かんなかったぞ」

「着せてもらった、イメルダ先生の館の給仕長たちに」

「イメルダの? 仲いいのか?」

「そうだと嬉しい思う、私は」


 ギルベルタがそう思ってんなら、きっとかなりの仲良しだろうよ。

 向こうは絶対お前のこと大好きだから。


「なぁ、よく見せてもらっていいか」

「見てほしい、穴が空くほど」

「ん? 服に穴を開ければいいのか?」

「あのなぁ、デリア。服に穴を開けたらおっぱいが見えちゃうだろう? とりあえず一回試してみようか」

「ヤシロ黙って。カンパニュラ、連行して」

「もぅ、ヤーくん。ダメですよ。こちらへ来てください」


 カンパニュラに手を引かれ、フロアの端っこへ連行される。

 わぁジネットがついてきちゃった。

 流れるように懺悔させられちった☆


「ギルベルタ、回ってみてくれるか?」


 向こうでは、デリアがギルベルタに注文を出している。

 デリアも、スカートふわりが好きなのか。

 勢いよく回ったら、ふわりからのチラリで楽しさ倍増だぞ☆


「承知した、私は。見ていてほしい――はっ!」


 おぉー!

 見事なバク宙だ!


 回転方向が違ぇよ、ギルベルタ!?

 いや、すごいけどね!


 で、「あたいも出来るぞ!」じゃねぇーんだわ、デリア。

 お前は目的を見失い過ぎだ。


「縦軸をぶらさずに横回転してみてくれるか?」

「こうか? 友達のヤシロ」


 俺が指示すると、ギルベルタが右回転して、スカートがふわりと舞い広がる。


「とっても可愛いですよ、ギルベルタさん」

「……えへへ」


 ジネットに褒められ、ギルベルタが照れ笑いで頭をかく。


「何度でもやる、こんなもので喜んでもらえるなら」


 言うが早いか、その場でくるくる回り始めるギルベルタ。

 お前はバレリーナか? いや、フィギュアスケーターか。

 そんなに回り続けるな。見てるこっちの目が回るわ!


 ま~ぁ、軸がブレないこと。


「それで、デリアは何を聞きに来たんだい?」


 一連のわちゃわちゃを見学した後、デリアがすっかり忘れているであろう本題を、エステラが思い出させてやる。

「あ、そうだった」と手を打って、デリアが再びジネットに体を向ける。


「光の祭りの時さ、陽だまり亭でお揃いの浴衣とか着るのか? オッカサンがあたいとカンパニュラの浴衣を用意したいって言ってるんだけど」


 ルピナスも、初めての祭りに意気込んでいるようだ。娘たちに、自分の用意した浴衣を着せたいらしい。


「陽だまり亭でお揃いという計画は今のところありませんし、ルピナスさんの浴衣を着てあげてください。親子三人で選ぶのは、きっと楽しいと思いますよ」

「えへへ~、あたいも親子に入ってていいのかなぁ?」

「ルピナスさんもカンパニュラさんも、とっくにそのつもりだと思いますよ」

「そうですよ、デリア姉様。姉様は、私の姉様ですよね?」

「おう! カンパニュラはあたいの妹だ」


 カンパニュラが飛びついて、デリアがぎゅっと抱きしめる。

 ここも、ちゃんと家族になれているようだ。


 ……ま、タイタだけは、デリアの父親とは認めてないけれども。

 あ、たぶん忘れてると思うけど、タイタってのはルピナスの夫でカンパニュラの父親でオメロの親友だ。

 ……オメロの親友ってところで格が落ちてるんだと思うんだよなぁ、格がさぁ。


 あ、たぶん忘れてると思うけど、オメロってのは、デリアの被害者な。

『川漁ギルドの副ギルド長』と書いて『河原でデリアに洗われるアライグマ人族』、または『被害者』と読む。

 はい、ここ。テストには出ないから、忘れてもいいぞ~。


「店長さん。あたしたちも、お揃いにはしないですか?」

「ロレッタさんは、妹さんたちの浴衣もありますし。妹さんたち、ロレッタさんとお揃いだと嬉しいと思いますよ」

「そうですねぇ……同じ柄にしちゃうと、生地が足りるか甚だ不安ですけども……」


 多いからなぁ、お前ら姉妹。


「でも、浴衣選びは店長さんとマグダっちょと一緒にしたいです!」

「じゃあ、今度一緒にウクリネスさんのところにお邪魔しましょうね」

「はいです!」


 盛り上がるジネットたちを見て、ルシアがすーっとこちらに視線を向ける。


「カタクチイワシ。見繕え」

「イメルダが考案した超ミニ浴衣着せてやろうか」


 網タイツとの組み合わせで一気に夜のお店感出しちゃうぞっと。


 こうして、なんとな~く浮かれた雰囲気で祭りの準備が始まっていく。

 この期間が一番楽しいってのは、終わった後に気付くもんなんだろう。

 存分に楽しむがいい。


 浴衣が売れると、俺の懐にちょこっとマージンが転がり込んでくるから、じゃんじゃん売れるといいな☆







あとがき




あとがきフォォーーウ!\(≧▽≦)/


あ、すみません、

マイブームのHGがぽろっと、

ぽろっと、ぽろっと――モロッコ!

それ、ここ! モロッコ!


どうも、ゴージャス宮地HGです。


不穏なプロローグから一転

いつもの陽だまり亭です。


 ……『いつもの陽だまり亭』に当たり前のようにルシアが!?

 Σ(゜Д゜;)


ですが、

SSで書く陽だまり亭にはなかなか参加できないんですよねぇ

ルシアさん。


先日公開した10周年記念SSも

出演は陽だまり亭チームだけでしたし。


やっぱり、近所に住んでないと難しいんでしょうねぇ


「え、なにそれ? 知らないよ」

という方は、SS置き場に置いてあるので是非読みに行ってくださいね☆



さて、本編ではランドリーハイツとともに

浴衣の話が出てまいりました。


作中の昨年は、運動会とかやっていて開催できなかった光の祭り


もともとヤシロは陽だまり亭前に街道を通すためだけに企画していたので

恒例行事にするつもりはなかったんですが

エステラはすごく楽しかったようで

恒例行事化しました。


ただ、

「ヤシロ、いつ光の祭りやるのかなぁ?」くらい他人任せでしたけども!


というわけで、

今年からしっかりと計画を立てて行事を行います。



……これ、私が新人社会人だった頃にやらかしたミスなんですよね

すごく楽しい、有意義な企画があって

「よし、来年はもっと準備を万全にして臨むぞ!」とか思ってたらその時期を過ぎちゃって

初回のまとめ役の先輩に「今年はしないんですか?」って聞いたら

「やりたいなら年度初めから企画して準備しとかなきゃ無理だぞ」って言われ

「やりたいなら、自分で企画して準備進めるんだよ」と


学校だと、伝統って受け継がれてくるんですが

社会人になると自分で動かなきゃダメなんだなぁ~って思い知らされた出来事でしたね


まぁ、それも経験!

そういう経験をいくつも積み重ねて

私のような立派なおっぱいが大好き☆社会人になるんですよね。


……しまった!?

「立派」って入力しただけなのに

予測変換が「立派なおっぱいが大好き☆」って!?


よく使う言葉だと、

こういうミスってありますよね☆

これも経験。

こういう経験を積み重ねて、人はオ・ト・ナになっていくんですよ☆



いや、だから、予測変換!Σ(゜Д゜;)

「大人」でいいんだよ、そこは、素直に!

先輩が後輩に酒の席で語るようなちょっといい話してたのに!


まぁ確かに、立派なおっぱい大好き☆だとオ・ト・ナになりそうですけども!



ということで、

エステラさんも立派なおっぱい大好き☆領主になれるよう頑張ってください

ね☆



さて、光の祭りと言えば浴衣ですね

イメルダが気に入ってミニスカにカスタマイズしていました

まだ、あの頃は四十区の感性が抜けてなかったんでしょうね

ヤシロに「なんか違うんだよなぁ」って思われてました


その後、

ヤシロが持ち込んだあれやこれやに触れ、さらに感性と芸術性を磨き上げ


今回はきっとTバック浴衣とか開発してくれるはず!

もっとウクリネスに毒されて! もっと!


そんな中、

光の祭りには不参加だったルシアさん


……ルシアって、登場結構遅かったんですよね

なんか、初期からいるような気がしますが。


案外ルシア好きな方が多くて

好きってコメントが多いと、


出しちゃいますよね(〃´∪`〃)ゞ



そんなモブからの昇格をしたルシアさん。


ふと、

「あれ? ルシアって浴衣知ってたっけ?」

と思いまして。



ここでクエスチョン!

じゃじゃん!


ルシアは、浴衣を知っているでしょうか?


本編をすでにご覧いただいた方は思い出しているかもしれませんが、

これを書いていた時の私の記憶では、


「たしか、陽だまり亭一同で三十五区に泊まりに行った時、浴衣で夜の大通りに繰り出してたよなぁ」


くらいの記憶しかなく


「じゃあ、ルシアは、浴衣を見たことはあるのか」


って、話を書き始めてしまったのですが、

原稿をチェックした誤字川ごじかわ発見みつけさんが


誤字川「いや、ルシアは一度浴衣を着ている」

宮地「マジで!?」

誤字川「後日譚44を見てみろ」


後日譚44……


☆☆☆☆☆


 と、いうわけで――


 ズンダドッド、ズンダドッド、ズンダドッド、ズンダドッド!

 ズンダドッド、ズンダドッド、ズンダドッド、ズンダドッド!

 ズンダドッド、ズンダドッド、ズンダドッド、ズンダドッド!


「あぁ~~~~ぃあぃあぃあぃあ~~~~! おぉ~ぇおぇおぇおぇお~~~~~!」


 陽気なリズムで歌い踊ってみた。


「何事だいっ、朝から騒々しぃねっ!?」


 陽気なリズムに合わせて歌い踊る俺たちの前に、怒り満面のバレリアが現れた。

 ……おかしい。こんなに楽しげなのに、全然笑ってくれない。


☆☆☆☆☆



宮地「ぷくすっ! おもしろっ!」

誤字川「いいなぁ、感性が安上がりで」


感性が安上がり!?

斬新な暴言!?


で、後日譚44では

ウェンディとセロンの結婚に反対しているウェンディの両親を説得するために

花園でお祭りを行うんですが

その中に、こんな文章が入っているんです


☆☆☆☆☆


「遅かったな、カタクチイワシよ」


 ルシアをはじめとした、『触角を生やした』人間たちだ。


「りょ、領主様に、触角が……」


 バレリアは目を剥いて、辺りにいる人間に視線を巡らせる。

 虫人族が浴衣で着飾り、同じ服に身を包んだ人間たちが、虫人族のような触角を頭から生やしている。


☆☆☆☆☆


「同じ服に身を包んだ人間たちが」



いや、分かるか!?

この一文だけ!?

ルシアが浴衣を着てはしゃいだり、感想言ったりするシーンなし!?

でもまぁ、確かに

人間と虫人族との間に横たわる壁を取っ払うための作戦なら

ルシアは率先して浴衣を着ただろうなぁって思いますよね



……指摘された時、もうすでにルシアの浴衣選びして結構楽しくきゃっきゃうふふしてるシーン書いた後だったのですが……



こじつけました☆

(n*´ω`*n)えへっ



その結果の、本編です☆


花園のお祭りは、とにかくみんなで浴衣を着ようということで

きっと量産されたものなんですよ

手の空いてる者を動員して、とにかく数を!

って


しかし、今回は光の祭り

お祭りの本場四十二区の、精霊教会のお祭りです。

浴衣も、本格的な、まさに正装と呼べるような浴衣にしなければいけません!


ドンキで売ってるような安いペラい浴衣じゃダメなんです!


……ということにして

この後のルシアのはしゃぎっぷりに正当性を持たせることに成功!


どうぞ皆様、私のことを『こじつけの帝王』とお呼びください。



こういうこと、結構あるんですよねぇ(^^;

10年ですからね

もう覚えていませんって、そんなの


……でも、恐ろしいことに、読者の方々はすっげぇ覚えてるんですよね

なぜだか!(;゜Д゜)


今後も、なるべく矛盾のないように書いていくつもりです


が、


その場のノリで書くことがほとんどですので

「あれ?」と思われた方は、そっと目を逸らしといてくださいね☆

(・ω<)てへぺろっ


いやぁ、最近特に記憶力が……


皆様におかれましては

後期高齢者に向けるような、優しい視線でぜひとも見守っていただきたいと

よろしくお願いいたします☆



……わしをジジイ扱いするなぁ~

ヽ(`Д´#)ノふがふが


見た目はジジイ、頭脳はババア、その名は、

私です!( ̄▽ ̄)



プロローグの次、第一話のあとがきで老化のお話とか……

おっぱいの話もしないなんて……


あれ、してましたっけ?

いやぁ、最近特に記憶力が……


え、予測変換?

「りっぱ」って打つんですか?

どれどれ


変換――っと


立派なおっぱい大好き☆



わぁ、本当だ(・ω<*)



そんな感じで第四幕スタートです!

今回も、のんびりまったりたっぷりとお付き合い

そして、

ご声援、ご愛顧、ご高配、ご贔屓、ゴレンジャーのほど

よろしくお願いいたします☆


宮地拓海

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― 新着の感想 ―
十年かぁ。 徐々に中央に近づいているヤシロが王様ミーティングする時は三十周年かなぁ。 その頃は作者様にも嫁子供が出来てて作風も変わって、おっぱい星人から卒業してるのかなぁ。
ギルベルタの縦回転で腹抱えて笑いました
>>でも、恐ろしいことに、読者の方々はすっげぇ覚えてるんですよね 違うんよ、俺らは「そんなんあったっけ?」に遭遇したら読み返す生き物なんよ…… おかげでいまだに通貨単位Rbの読みを毎回忘れる。そして初…
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