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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
誕生

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誕生6話 風呂と就寝の間に

 無限に広がる大宇宙……


「やっぱり、風呂上がりのコーヒー牛乳は宇宙だよなぁ!」

「うちゅう?」


 ジネットが小首を傾げてしまった。

 そうか、この世界には宇宙って概念がないのか。


「すごく広大で果てしないってことだ。それくらい、コーヒー牛乳は美味い!」

「ふふ、そうですね。コーヒーがこんなに甘く美味しくなるなんて、ちょっとビックリです」

「氷室のおかげでもあるけどな」

「そう言ってもらえると、頑張った甲斐があったッス」


 一晩で氷室を作り上げた張本人が嬉しそうに胸を張っている。


「ワシは冷酒の方がいいけどな」


 お前はもうずっと飲んでろ。


「モリー君、ごめんね。送っていくという約束を反故にしてしまって。この埋め合わせは、必ずするから」

「いえ。陽だまり亭さんに泊めていただけることになりましたので、どうかお気になさらないでください。当然、『精霊の審判』も使用しません」


 こういう時に『精霊の審判』を向けられないのは、人徳のなせる業なんだろうな。

 日頃の行いが物を言うのだ。

 で、後日しっかりと見返りを用意しておけば、「こいつはカエルにするより利用した方がいい」と思わせることが出来、敵が減る。


 ちゃんと使わないと明言してやるモリーも優しいもんだ。

 こういう時のマナーとかだったりするのかもしれないけどな。

 そういや、エステラは大多数の人間がいる時はいちいち明言してるっけ。「今回のことに『精霊の審判』は使わないように」とか「ボクは使わない」とか。


 やだ、メンドクサイ。

 お前のせいでメンドクサイことになってんぞ、精霊神。

 一回謝りに来いよ、この世界の住人にさぁ。


「それじゃ、ワシらはもう行くぞ」

「店長さん、おツマミ、ありがとうね」

「いえ。お酒もほどほどに、ゆっくりと休んでくださいね」

「あはは。執事以外にそう言ってもらえるのは久しぶりだね。ありがとう、留意しておくよ」


 留意しつつも実践するかは分からないって?

 ハビエルも、久々に絡める相手がいて喜んでいるんだろう。

 メドラなんか、明日に備えてさっさと帰ったってのに。

 しっかりしろよ、ギルド長。


 まぁ、マーシャは泊まる気満々だけども。


 風呂上がりに陽だまり亭で三次会をと言っていたハビエルだったが、風呂から出てみたら、マグダやテレサやカンパニュラがもうすでにおねむだったので、気を利かせてイメルダの館へ戻ることにしたのだ。


「お父様、忘れ物ですわ」


 と、マーシャとルシアとノーマを指さして抗議するイメルダ。

 だが、その三人にしがみつかれて「つれないこと言うんじゃないさよ~」と甘えられ、盛大なため息とともに諦めがついたようだ。


 わぁ、メンドクサそうだなぁ、あの三人が揃うと。

 よし、メンズバリアー。


「トルベックと丸メガネも来い。いい酒を飲ませてやるぞ」

「オイラは明日も仕事があるんッスよ」

「うるせぇ! ワシに口答えするとは、随分偉くなったもんだなぁ、トルベック! いいから来い!」

「……まったく。今日は一段と絡み酒ッスねぇ」

「ウーマロ氏。頃合いまで付き合ってあげるでござるよ」

「しょーがないッスねぇ」


 あぁ、メンズバリアーがさらわれていく!


「オオバくんが飲めれば、是非連れ去りたいところだけれど、今回は遠慮しておこうかな」


 酒に頬を染めながらも、いつもと変わらない口調と態度のデミリー。

 こいつは、酒の飲み方もスマートだな。


「今日は本当に楽しかった。お祝いする側の人間が楽しんでしまって申し訳ないけどね」

「そういうもんだろ、こういう会は」

「そう言ってもらえると助かるよ。それじゃあ、また。何かあったら、いつでも頼ってきておくれよ」


 ぽんぽんと俺の肩を叩き、デミリーが騒がしいハビエルを誘導して陽だまり亭を出ていく。

 四十区の重鎮たちが徒歩で帰るのか。

 なんだ、この絵面。


「随分とオジ様との距離が縮まったみたいだけど、風呂場で何かあったのかい?」

「えっ、ナニがあったんやろ?」

「エステラ同様、自分を父親だと思って慕えってよ」


 アホのレジーナは、無言で足蹴にしておく。

「ぃやん、せめて何か言ぅてぇや」とかほざいているが、丸ごと全部無視だ。


「随分と気に入られているようだね。嫉妬してしまいそうだよ」


 と、冗談めかして言うエステラ。


「遺伝的に怖いからって、ちゃんと断っといたぞ」

「君はまたすぐそういうことを言う。オジ様が許しても、ボクが怒るよ、そのうちに」


 とか言いながら、怒らないじゃん、お前。


「お前とリカルドが衝突した時、俺がそうなるようにお前をそそのかしたんだと思って、俺を潰そうとしてたんだって」

「えっ、オジ様が!?」

「俺を警戒するあまり、エステラの気持ちを見落としてたって反省してたぞ」

「オジ様…………えへへ、そっか。教えてくれて、ありがと」


 にへら~っと、口元を緩めるエステラ。

 ホント懐いてるよな、デミリーに。


「そんなに小遣いもらったのか?」

「違うよ。オジ様はね、幼かったボクと同じ目線で話をしてくれて、何をやっても褒めてくれたんだ。……今思うと、物凄く甘やかされてたんだね、ボク」


 この懐き方は、ジネットが祖父さんに懐いてたのと似た感じか。

 一緒に暮らしてた分、ジネットの方が思いは強いだろうが。


「オジ様はね、ボクのもう一人の父親なんだよ」

「なるほど……パパ活か」

「その言葉の意味は分からないけど、たぶん違う、いや、絶対違うから」


 もう一人のパパだろ?

 一緒にご飯食べるとお小遣いをくれるっていう。


「ヤシロも甘えてみるといいよ。きっとオジ様も喜ぶし」

「どうせだったら、ジネットの母親に甘えるよ」

「うふふ。シスターが聞いたら喜びますよ。甘やかし過ぎて、わたしが止めなきゃいけなくなるかもしれませんね」


 ベルティーナに溺愛されてみたいもんだな。

 デミリー?

 いや、そっちは別にどーでもいい。


「オジ様はね、公私をきっちりと分けられる人なんだよ」

「そうか?」

「そうだよ。執務中のオジ様は、話しかけにくい威厳みたいなものを纏ってるもん」


 ちょっと想像がつかんな。

 いつ見てもにこにこしてるし。

 あぁ、そうか、デミリーに会う時は大抵エステラと一緒だからか。


「そんなオジ様ですら、ボクには甘かったからね。セロンやウェンディは相当我が子を溺愛するだろうね」

「そんなもん、火を見るより明らかだろうが」


 立てば感涙、しゃべれば狂喜乱舞、ちょっと熱でも出そうもんならパニックに陥って街中駆けずり回りそうだ。


「ガキは熱を出しやすいって教えといてやらないとな……」

「あはは、そうだね。心労で倒れちゃうかも」

「子供たちの体調管理は大変ですからね。……代わってあげられればと思うことが何度もありました」


 そこはお互い様だ。

 ジネットやベルティーナが体調を崩して寝込めば、ガキどもが泣いて取り乱す。

 なら、大人がしっかりと看病してやる方がまだマシだろう。


「ガキが体調を崩した時は、付きっきりで愛情を際限なく注ぎ込めるチャンスタイムだと思えばいい」

「ふふ、そう言われると、なんだか張り切ってしまいそうです」

「言われてみれば、そうだったかもしれないね。ボクも、両親やオジ様には随分甘やかしてもらったよ」

「愛してもらえていると実感できれば、不安や苦痛も和らぎますよね」

「その結果、ジネットのような大人に成長する」

「あはは、シスターの功績だね」


 そんなことないですよと、ジネットは謙遜をする。

 もちろん、ベルティーナが頑張ってないという意味ではなく、自分が功績と呼ばれるほどの成果ではないという意味でだが……ジネットみたいな性格に育ったなら大正解だろう。

 もう一回やれと言われても、おそらく無理だろうし。


「確かに、シスターにはたくさんの愛情をいただきました。この先一生かかっても返しきれないくらいに。感謝しかありませんね」

「返しきれない分は、お前が下の世代に注いでやればいい」

「そうですね。では、みなさんをたっぷり甘やかしたいと思います」


 もう十分過ぎるくらいガキどもを甘やかしているジネット。

 これからさらに一段階上の甘やかしをするつもりなのだろうか。


「でしたら、その愛情、こちらの愛に飢えた亡者たちに注いであげてくださいまし!」

「イメルダしぇんしぇ~い、さみしぃ~」

「かまってさねぇ~」

「私も便乗~☆」

「あ、ごめん。そっち見ないようにしてるんだ、俺」

「奇遇だね、ボクもだよ」


 愛に飢えた亡者にすがりつかれているイメルダ。

 目を合わせると絡まれるから、視線外しとかなきゃ。

 ずっと視界に入ってたけど、頑張ってスルーしてたんだ、俺☆


「ではみなさん。今日だけ特別に、お夜食に甘いものをお出ししますね」

「やったさね!」

「ジネぷー、愛してるぞー!」

「みんなまとめて太っちゃえ☆」


 マーシャだけ、普段通りだな。

 あれは素面なのか、酔っているのか……絡まれたくないので確認はしないでおこう。そうしよう。




 夜食に甘いもの――と言って、ジネットがウキウキと氷室の方へ歩いていった。


 ……つーか、こいつらどんだけ食ったんだよ。

 ウーマロたちが片付けた洗い場が、また洗い物で埋まってるじゃねぇか。

 しょうがない……


「手伝うよ」

「どうした、エステラ? 風邪か?」

「洗い物くらい手伝えるよ、失敬な」


 自ら進んで家事をしようなんて発想、こいつは持ち合わせてないのかと思ったが……


「イメルダにやらせるわけにもいかないしね」


 面倒な酔っぱらいを全部イメルダに押し付けたことで、罪悪感に苛まれているらしい。

 少しくらい苦労しておかないと、心苦しいのだろう。


「じゃあ、俺が洗うから、お前はその布巾で拭いていってくれ」

「なんか、簡単な方振ってない? ボクだって出来るよ?」

「こんな夜中に冷たい水使ってたら、指先が荒れるだろう。手荒れの領主なんか、カッコつかないからな」

「もう……ヤシロはボクを甘やかし過ぎる時があるよね」


 どうしたもんかと眉を曲げ、それでも「ありがとね」と感謝を寄越してくる。

 そろそろ眠たいのか、やけに素直じゃないか。


「おや、洗い物ですか?」

「お手伝いいたしましょう」


 俺が食器を洗い始めると、ナタリアとイネスの給仕長コンビが廊下からやって来た。

 二階に行ってたのか?


「お子様たちを寝かしつけてまいりました」

「ミリィさんが『みりぃはもう大人!』と駄々をこねられて、一番大変でした」


 いや、イネス。

 それな、信じがたいけど、事実なんだぜ?


「ミリィは寝たのか?」

「……ぉきてる、もん」


 そろ~っと、イネスたちの後ろからミリィがやって来て厨房を覗き込む。

 いくら言っても無駄だと悟り、イネスをやり過ごして起き出してきたのか。

 頭脳派だな。


「ギルベルタは?」

「お休みになられました。マグダさんとロレッタさんに挟まれて、非常に幸せそうでした」


 じゃあ、その三人はマグダのベッドで寝てるのか。

 ちなみに、ギルベルタはお子様ではないんだが。

 二十歳も越えたレディなんだよ、あの見た目だけど。


「ちなみに、カンパニュラさんとテレサさんはヤシロ様のベッドでご就寝です」

「じゃあ、俺ベッド使えねぇじゃん」

「入ってきてもいいと、お二人共おっしゃっていましたよ?」

「二人がいいと言ってもよくないのがこの街なんだろ」

「さすがヤシロ。紳士的だね」

「おっぱいさえ絡まへんかったらな」


 エステラが俺をからかい、レジーナがそれに便乗する。

 おっぱいに絡まって非紳士的行動を取ってやろうか、このやろう。


「お待たせしました」


 と、ジネットが氷室から白い息を吐いて出てくる。

 鼻とほっぺたが微かに赤く染まっている。

 寒そうだな、おい。


「ヤシロさんに教えていただいたものを試作してみたので、みなさんで試食してみてください」


 俺が教えたもの?

 ……はて?


「何を作ったんだ、ジネット?」

「アイスクリームです」

「俺、いつ教えた!?」

「氷室が出来た時に、『これでアイスクリームが作れるな』とおっしゃっていましたので、『あいすくりーむとはなんですか?』とお伺いしたら、レシピと作り方を教えてくださいましたよ」


 やっべ!

 全然記憶にない!?

 いつの話だろう……


 でもまぁ、実際ジネットが作ってるんだし、教えたんだろうなぁ……あれ? 俺、始まってる?


「まずはバニラとチョコを作ってみました」


 そう言って、金属製の筒を作業台へ載せる。

 ま~ぁ、アイスクリームを作るのに適した形状。

 金属製で円筒形の容器に材料を入れ、塩を振ったクラッシュ氷の中にその金属の筒を差し込んでおけば、中の液体が凍る。

 途中途中で撹拌してやれば、空気をふんだんに含んだアイスクリームの出来上がりだ。


 生クリームを十分に泡立てておくと、案外簡単にふわふわのアイスクリームが作れる。

 生クリームではなく牛乳で作りたい時はメレンゲを活用すると、同じように原液に空気を含ませることが出来るので失敗しにくいだろう。


「このアイスクリーム製造器とディッシャーはノーマさんが作ってくださいました」

「ノーマ、寝て!」


 お前、ここ最近いろんな物作ってたよね!?

 作りっぱなしだったよね!?

 もう、ほんと、寝て!


 ノーマ作のディッシャーは、グリップを握ると半球状のカップの中を細いブレードがワイパーのようにスライドして掬ったアイスを半球の状態でこそぎ落としてくれる、昔ながらのアイスクリーム屋さんでよく見るあの器具だ。


 アイスかポテトサラダでしか使ってるとこ見たことないけどな。


「めっちゃ動作がスムーズ」

「ヤシロの図面が正確で分かりやすかったからねぇ、そんくらい軽いもんさね」


 上機嫌にからから笑うノーマ。

 そっかぁ。俺、アイスクリームディッシャーの図面まで描いてたのかぁ。

 ……寝不足の弊害?

 大丈夫か俺の海馬?


 オオバヤシロ、十八歳。

 好きなおっぱいは、半生おっぱいです!


 ……うむ、基本的な情報はなくなっていない。

 じゃあ、徹夜中と徹夜明けのテンションMAX前後が怪しいんだな。

 今後は気を付けよう。


「ゎぁ、かわぃい盛り付け!」


 小鉢に盛り付けられた半球のバニラアイスとチョコアイス。

 ちぎったミントの葉っぱも添えられて、ぱっと見、そこらのホテルで出てきそうな高級感を感じる。


「マグダさんたちには明日の朝振る舞いますので、みなさんと先行試食会です」


 試食に先行も後行もあるか。


 しかし、女子たちの目がキラキラと輝いている。

 ん……眩しっ。

 ウェンディでも紛れ込んだか……って、デリアの目からめっちゃキラキラした星が飛び出してる!? いや、飛び散ってるね!?


「絶対美味しいヤツだ……」


 そうか、分かるのかデリア。

 確信できるが、絶対お前が好きなヤツだ。


「ただ、これも冷たいから食い過ぎると腹壊すぞ」

「大丈夫だ! あたいは無敵だから!」


 今日二回目だわ、そのアホっぽい謎理論展開されるの。


「では、召し上がってください」

「やったぁ! いただきうまぁ~い!」


 速い、速い!

 デリア、速いよ!


「店長~ぉ……あたい、ここの子になるぅぅぅううぇぇええ……」


 泣き出しちゃったよ!?

 そんなに美味かったか?

 まぁ、美味いけども。


 つーか、ジネット、「いつでも大歓迎ですよ」じゃないから。

 デリアが抜けると、川漁ギルドがいろいろ大変になるから。


「これ、ヤシロが考えて、店長が作ったのか?」

「俺が考えたんじゃねぇよ」

「あたい、二人とも好きだぁ~!」

「だから、俺が考えたんじゃ……はぁ、もう。はいはい。ありがとな」


 泣きじゃくるデリアには、何を言っても無駄なのだ。

 今、口の中にある甘さに感動して、細かいことは全部どうでもよくなってしまう。


 まぁ、悪意もなく、その後トラブルにも発展しないから放っておいても問題ない。

 好きにさせておこう。


「店長~、ぎゅー!」

「はい。ぎゅ~、ですよ」


 デリアが感涙しながら両手を広げると、ジネットがデリアに抱きつき、ぎゅっと腕に力を込めて抱きしめる。


 わぁ、大きな膨らみがぶつかってむっぎゅむぎゅ☆


「ヤシロぉ~」


 よしきた!

 むっぎゅむぎゅタイムの到来だ!


「ありがとぉ~!」


 あれ!?

 ぎゅーは!?

 むっぎゅむぎゅは!?


「よかったねぇ、美女からの素直な感謝がもらえて」


 そんなんいらんからぎゅーでむぎゅーをくれ!

 感動するならむぎゅをくれ!


 そんな俺に、イメルダが声を掛ける。


「ヤシロさん」


 むぎゅ!?


「美味しいですわ」


 そんな分かりきった感想はいらん!

 そして隣のノーマが嬉しそうに口元を緩ませて俺を呼ぶ。


「ヤシロ」


 むぎゅ!?


「美味しいさね」


 それもう聞いた!


「ヤシロく~ん☆」


 むぎゅホタテ!


「あまぁ~い☆」


 それはアイスが、俺の考えが!?


「あのねぇ、ヤシロ」


 すとーん。


「うるさいよ」

「なんも言ってないだろう」

「目は口ほどに物を言うってこと、君はさっさと学習するべきだよ」


 ちぃ!

 厄介な!

 おしゃべりな目め!


「みんながこの味に感動しているんだから、素直にその感謝を受け取っておきなよ」


 でも!

 直前に目の前で、あんなすごいむっぎゅむぎゅを見せつけられたらなぁ!

 期待しちゃうやろがい!

 四十二区ナンバーワンとナンバーツーのむっぎゅむぎゅだぞ!?


 俺、たぶん、不慮の事故で命を落としても、あのむっぎゅむぎゅに挟まれたら蘇生できる気がする。自信ある!


「ナタリアとイネスも相当気に入ったようだよ」


 と、妙におとなしい給仕長二人の方を指差すエステラ。

 その先では、アイスを食べて恍惚とした表情を浮かべる給仕長二人が並び立っていた。


「はぁ……愛おしい、この甘さ」

「口の中に入れた瞬間、とろけますね」

「とろけ……愛おしい……」

「めるてぃ」

「らぶ」


 少しだけピュアなアノ気持ちでも思い出してんのか、お前らは。


 それにしても、アイスの破壊力は抜群だな。

 全員が揃いも揃って虜になっている。


「猛暑期に食べたかき氷もよかったが、こちらの方が品のある食感で、私は好きだ。カタクチイワシよ、レシピを――」

「見返り、期待してま~す☆」


 なんでも欲しがるルシちゃんめ。

 まぁ、アイスクリームくらいは広めたって構わないだろう。

 作り方さえ分かれば誰にでも作れるし、研究次第で改良も容易い。

 方々にアイスクリーム屋でも出来れば、その土地土地の名産アイスクリームとか出来るかもしれないし。

 とりあえず、有港三区には広めてもいいか。


 港で海を見ながらアイスクリームとか、昭和のころのオシャレなデートみたいで、こっちの連中には刺さるだろう。


「ジネットはどうだ?」

「はい。とても甘くて美味しいです」

「まだまだ満足してないって顔だな」

「まだまだ試作段階ですから。これからです」


 こいつは、自分が作ったものには厳しいんだよな。

 ホント、女将さんそっくりだ。

 そのくせ、俺が母の日に作った適当なカレーを「世界一美味しいわ」とか言って大袈裟に喜んでさ。


 ジネットも、きっとそのタイプなんだろうな。


「あの、ヤシロさん」


 キレイに平らげられた小鉢を手に、モリーが潤んだ瞳で俺を見上げてくる。


「今晩は、お腹に毛布を二枚かけて寝ますので、おかわりを……」

「腹壊すだけじゃなくて、太るからな、食い過ぎると」

「これもですか!?」


 あぁ、うん、モリー。

 お前が好きな物は、大抵みんな太りやすいと思っとけ。な?




 それからしばし、みんなでアイスを食う。

 うん。やっぱ美味いわ。

 さすがジネットってところか。


「みりぃ、チョコのヤツ、好き……」


 スプーンを咥えて「ん~!」と幸せそうに目を細めるミリィ。

 ただ、やっぱりアイス二個は多かったようで、食べきるのに苦戦している。


「残してもいいぞ。寝る前だし、体を冷やすのもよくない」

「そうですね。少し量が多過ぎましたね。すみません」

「ぅうん。でも、ちょっと寒くなっちゃったかも」


 四十二区は常秋の気候で、夜になると案外冷え込む。

 アイスを食うなら、やっぱ日中か、風呂上がりに一個が限度だな。

 しかも、コーヒー牛乳飲んだ直後だったし。


「ミリィが嫌じゃなきゃ、俺が残りもらうけど?」

「ぇ……でも、てんとうむしさんも、食べた、ょね? 平気?」


 俺なら大丈夫だ。

 ガキのころ、でっかい入れ物に入ったバニラアイスを一人でむさぼり食うことに憧れたくらい、アイスが好きだったからな。


 それに、ジネット作のアイスは美味いし。

 確かに、もうちょっと改良の余地はあるけども、それでも現段階で十分商品として店に置けるレベルだ。


「あの、ヤシロさん……今夜はこちらの都合で突然ご厄介になったわけですし、私に出来ることでしたらお手伝いを……」

「モリー。合宿、するか?」

「いえ、でも、今日はおめでたい日ですから、ノーカンで……!」


 うん。

 ないから。

 おめでたい日は何食べてもカロリーゼロとか、そんな謎理論、存在も通用もしないから。


「あ、ではわたしも半分いただいていいですか?」


 と、ジネットが名乗りを上げる。

 その目は、研究者のきらめきを有していた。

 食べて研究したいんだな。そうかそうか。


「じゃ、半分こな」

「はい」

「ぁの……ごめんね、食べさしで」

「ふむ、ミリィたんの食べかけなら、私もいただこう」

「ギルベルター! あぁ、くそ、もう寝てるのか!」


 お前んとこの主がまた発症してるぞ!

 後日、キツめにお灸据えといて!


「あたいも食べたい!」

「ほんじゃ、アタシももらうさね」

「もうほとんど一口だな、この人数で分けると」

「いいじゃないですか。幸せのお裾分けですね」


 幸せのお裾分けねぇ。

 確かに、みんな幸せそうだ。


「ミリィ先輩、あざーっす!」

「ぇ、なに? なに?」

「「「あざーっす!」」」

「ぁあっ、みんなが悪ノリしてるぅ……っ!」


 ミリィも、いろんなヤツといろんなところに行って、連中の悪ノリに慣れてきたんだろう。

 状況の把握が早くなってる。


「いい街ですね、四十二区は」


 わいわいと、賑やかに盛り上がる面々を見て、イネスがぽつりと呟く。


「幼女の食べ残しにありつけるだなんて」

「そんなところじゃないはずだよ、四十二区のいいところは!? もっと広い視野で物事を捉えて! ほら、みんなのこの笑顔とか、ほんわかした雰囲気とか!」


 エステラが懸命に反論するが、イネスには届かない。


「みりぃ、幼女じゃないもん!」

「わはぁ~」


 あ、ミリィの抗議はすんなり届くんだ。

 つか、刺さり過ぎだろ、お前。

 ハビエルがいないから余計酷く見えるな。


「お父様みたいになりますわよ」


 娘公認、女版ハビエルか。

 危険度ランクBくらいだな、こいつ。


「アカンでぇ、銀髪の給仕長はん」


 レジーナがミリィの前に立ちはだかり、イネスと向き合う。


「自分くらいの高レベルやったら、大人になりたてでわくわくどきどき☆ もう自分一人でなんだって出来るもん――と油断しとる脇のあま~い少女にオトナの遊びを教え込む背徳感辺りを攻め込まな! なぁ!?」

「こっち見て同意を求めんじゃねぇよ」

「久しぶりにしゃべったと思ったら、他の追随を許さないレベルで最低な発言だね、レジーナ」


 エステラの言うとおりだとするならば、レジーナは1ターン力を溜めることで次のターンで二倍の攻撃力を発揮するタイプのキャラクターか。


 ゲームでたまに見るけど、「じゃあ普通に二回攻撃するのと一緒じゃね?」と思っていたが……そうか、二倍の攻撃力って、こんなに胃にダメージが蓄積されるのか……強烈だな、おい。


「とりあえず、モリー。レジーナには近付くな」

「えっと……はい、気を付けます」

「ぃやん、物分かりのえぇ娘!」


 体をクネクネさせるな。

 お前の目的はなんだ?


「もぅ、レジーナさんもイネスさんも、ダメですよ」


 そうだそうだ、叱られろ。

 お前らも懺悔をさせられるといい。


「まぁ、一番懺悔していただきたいノーマさんとマーシャさんとルシアさんがいまだ無傷ということこそが、一番納得できないことですけれどもね!」


 イメルダ、渾身の訴えである。


 そのメンツは今日、やけに大人しく飲んでいる。

 ジネットがいるから懺悔を回避するためか……ミリィやモリーというお子様がいるから遠慮してるのか……それが出来るなら、毎回節度を守れよ、レディども。


「しかしアイスクリームというのは甘いな。少ししょっぱいものが食べたくなった。カタクチイワシよ、すぱげっちーを作るのだ」

「太れ」


 お前、それでしょっぱいの食べると甘いのが食べたくなるだろ、絶対。

 四十二区の滞在時間が伸びれば伸びるほど、幼馴染のダックに近付いていくことになるぞ、ルシア。


「一口でかまわん」

「一口分だけ作るとか、普通に作るよりめんどくせぇわ」


 一口分だろうと一人前だろうと、使う器具は変わらないし、洗い物の量も一緒なんだよ。

 我慢しろ。


「…………むぅ。食べたいのにぃ……」

「おい、誰だ!? ルシアにあのタイプの甘え方教えたヤツ!?」


 ルシアは、その手の甘え方はしてこなかったはずだ!


「それでしたら、イメルダさんですね」

「なんでも、以前ヤシロにやって効果があった甘え方らしいさねぇ。今度アタシもやってみよぅかぃねぇ~」


 ナタリアの暴露にノーマが面白がって乗っかる。


 イメルダを見れば、そっこーで目をそらされた。

 ……おい、てめぇ。


 つか、いつやったよ、こんな甘え方。


「ヤシロさんは、寂しそうに甘えてみせると、結構お願いを聞いてくださいますわ」

「開き直って講義してんじゃねぇよ。『ほぅほぅ』じゃねぇよ、受講者ども」


 お前ら全員デコピン食らわせるぞ。


「塩昆布でもかじってさっさと寝ろ」


 明日の朝になれば、ジネットが美味い朝食を作ってくれるだろうよ。


「ジネットも、早く寝ないと明日の営業に差し支えるぞ」

「え?」

「……ん?」


 え、なに?

 その驚いた顔?


 俺、なんか変なこと言った?


「あっ!」


 と、ジネットは口と目をまんまるく開き、わたわたと焦り始める。


「す、すみません。ヤシロさんに伝え忘れていましたが、明日、陽だまり亭はお休みなんです!」


 う~っわ、めっちゃ初耳。


「休むのか?」

「はい。みなさんで、三十五区へお出かけしましょうということになっていまして」


 そのみなさんに、俺は入ってないのかもな。教えてもらってないんだし。


「じゃあ、留守番は任せろ」

「いえ、もちろんヤシロさんも一緒にです!」

「いや、でも、聞いてないし」

「すみません……あの……どれとどれをヤシロさんに秘密にしなければいけないのか、ちょっとごっちゃになってしまっていたみたいで……」


 うん。だろうね。

 薄々そんな気がしてたよ。


「またルシアがわがまま言ったのか?」

「違いますよ。わたしがお願いしたんです」


 三十五区へ行きたいのはジネットらしい。


「エカテリーニさんのカフェにご招待いただきまして、それで、折角なのでみなさんで行ってみたいなと。……あの、付き合ってくれますか?」


 不安げに、俯きつつも上目遣いで、ジネットがそこそこあざとくおねだりしてくる。


 こいつ……知らん間にそーゆーあざとい技を身に付けやがって…………


「まぁ、行くくらい別にいいけど」

「ありがとうございます!」

「――と、このように、ですわ!」

「別にお前の持論が証明されたわけじゃないから、黙ってろイメルダ!」


 俺におねだりなんか通用しないから!

 ……基本的には!

 …………たま~に例外があるけども。

 ………………極稀に、だけどな!


「明日は私が馬車を出してやろう。八人乗りだから広いぞ」


 と、ルシアが胸を張る。

 ささやかな胸を。


「なので、感謝してすぱげっちーを作れ」

「…………」

「…………むぅ」

「作るから、それやめろ」


 なんか、背中がぞわぞわするから。


「一人前だけ作るから、欲しいヤツ全員で突いてさっさと寝ろ」

「――と、このように、ですわ!」


 だから、証明されてないから!


 さっさと作った方が面倒が減る。

 ただそれだけのことだっつーの。

 俺がそんな安いおねだりなんぞに屈するか。


 ほれ、すぱげっちー、お待ち。




 スパゲッティーナポリタンを平らげ、ようやく三次会は終了した。

 ……こんだけ騒ぐんなら、ハビエルたちもいればよかったのに。


「で、どうすんだ?」


 俺の投げかけた疑問に、その場にいた女子たちが小首を傾げる。

 いや、だからさ。


「マグダのベッドに、マグダとロレッタとギルベルタが寝てるんだろ? で、俺のベッドにはカンパニュラとテレサ。ジネットのベッドはジネットとモリーとあと一人くらいだとして……残ったエステラとルシアとイメルダとレジーナとデリアとミリィとナタリアとノーマとマーシャとイネスは客間のベッドで寝るのか?」


 どう考えてもキャパオーバーだ。


「わたしのベッドはくっついて眠れば四人でも寝られますよ。モリーさんは小柄ですし、五人までなら眠れそうです」

「はい! ボク、ジネットちゃんの隣がいい!」

「ワタクシもですわ!」


 お前ら、自分の責務から逃げんなよ。

 お前らが相手しないと、誰が面倒見るんだよ、あの残った酔っぱらいども。


「もう一人は、ミリィさんだとたぶん大丈夫だと思います」

「ぅん。じゃあ、みりぃもじねっとさんのベッドにお邪魔する、ね」


 なんかそのベッド、アタリだな。

 エステラの顔がにこにこしてやがる。


「ほいじゃ、アタシはカンパニュラたちと一緒に寝かせてもらおうかぃねぇ~。あのお子様二人なら、オトナがもう一人入っても寝られるだろうしさ」

「なるほど。ノーマさんは、子供をダシにヤシロ様の枕をすーはーすーはーくんかくんかしたい――というわけですね」

「というわけじゃないさよ!? 何言ってんさね、ナタリア!?」

「でしたら代わりに私が、枕と言わず、幼女と言わず、ありとあらゆる物をくんかくんかしてまいりましょう!」

「お、どうした二十九区給仕長? もう頭が完全に寝ちまってんのか?」


 勢いだけでしゃべるな。

 ボロが出過ぎて、後日マーゥルに叱られても知らんぞ。


「ほなウチは、その給仕長はんをくんかくんか――」

「お前は早く寝ればよかったのに」


 そうしたら、そのくだらないことしか言わない口も動かなかったろうに。


「カンパニュラたちのところは、一番安全なデリアがいいかもね」

「あたいが安全? どういうことだ、エステラ?」

「えっと……説明は、差し控えさせてもらうよ」


 カンパニュラとテレサにイタズラしそうなオトナが残っちまったもんなぁ。

 しょうがないか。


「えっと、残ったのは、ルシアさん、マーシャ、ノーマ、レジーナ、ナタリア、イネス……うわぁ」


 おいおい、エステラ。

 本音がだだ漏れてるぞ。


「私は水槽でいいよ~☆」

「では、せめてわたしの部屋で眠るまでお話ししませんか?」

「うん☆ じゃあ、店長さんの部屋ね」


 どんどんと決まっていくな。

 となると、あとは何人かが雑魚寝だな。

 まぁ、布団はあるから、床で我慢してくれ。


「ルシア様にベッドをお使いいただきましょう」

「そうですね。我々がベッドを使うわけにもいきませんし」


 と、給仕長ズがベッドを辞退し、ルシアを推薦する。


「一人は寂しいな。ノーマたん、レジむぅ、一緒に寝るのだ!」

「いや、ウチはえぇわ。端っこで丸まって寝るさかい」


 お前はホコリちゃんか。

 タンスとかどけたらまるまったレジーナがいたりして。

 うっわ、怖っ。


「じゃあ、ノーマたんにぎゅーってして寝る!」

「なんか身の危険を感じるさね……アタシも床でいいさよ」

「寂しいではないか! なら、私も床で寝る!」

「では、ベッドが空いたので使わせていただきます」

「ナタリアさんに同じく」


 したたか!

 この給仕長ズ、めっちゃしたたかだった!?


 立場上真っ先に辞退したように見せかけて、ベッド使う気満々だったな、お前ら!?


「あのベッド、三人はいけるから、あんたらがルシアを預かりなね」


 だが残念。

 ノーマによって、ルシアを押し付けられた給仕長ズ。

 客間のベッドに大人三人は狭いだろうに。


「のぉ~またぁ~ん……そんなに私が嫌かぁ……」

「泣くんじゃないさね、領主が! 同じ部屋で寝てやっから、そんな顔すんじゃないよ」

「ならばよい! さぁ、みんなで楽しく恋バナだ!」

「寝るんさよ、もう!」

「はぅ……ちょっと興味が……ぁのっ」


 恋バナに興味をそそられたジネットがわたわたしているが、エステラに優しく諭されて、さっさと眠ることにしたようだ。


 今日は結構夜ふかししたなぁ。

 俺もちょっと眠たくなってきた。


「それではヤシロさん、おやすみなさい」

「おう。狭いけど、いい夢見ろよ」

「はい。ヤシロさんは……広くて寂しいかもしれませんが」

「寂しくなったら潜り込みに行くから、心配すんな」

「へっ!? ……もぅ、ダメですよ。今日はみなさんが一緒なんですからね」


 みなさんが一緒じゃなきゃいいのかよ。

 今度試すぞ、このやろう。



 そうして、女子たちが賑やかに二階へ上がっていく。

 ……孫たちを迎え入れた祖父母って、こんな感じなのかなぁ。

 騒がしいのがみんな二階に行っちまった。


「コメツキ様」


 と、イネスが布団を持って戻ってくる。


「あぁ、悪いな。わざわざ持ってきてくれたのか」

「ま、ままま、まさか、そんなっ、ドサクサに紛れて一緒に寝ようだなんて、これっぽっちしか思っていませんよ!?」

「なぁ、俺、一切核心を突くようなこと言ってないから、勝手に自爆して本音ぽろりするのやめてくんない?」

「こういうお遊びがお好きだと伺いましたもので」


 どこ情報だ。

 つーか、誰情報だ。

 まったく、ろくでもない知り合いしかいないんだな、お前は。


「布団、さんきゅな」

「いえ。お敷きいたします」


 布団を受け取ろうとしたら、イネスはそれをかわして布団を敷き始めた。

 すごく丁寧に、それもあっという間に、きれいな寝床が誕生する。


「お見事」

「この程度のことで褒めていただけるとは」

「いや、大したもんだよ。俺には出来ないもん」

「だからこそ、我々に存在意義が生まれるのです」


 常人には出来ないことを難なくやってのけるカッチョイー職業。

 それが給仕長だと言わんばかりの誇らしげな表情。

 なかなかいい顔をしている。


「とはいえ、当たり前のことをして褒めていただくのは、少々気が引けるといいますか、申し訳なくなりますね」

「んなことねぇよ。当たり前のことを当たり前に出来るのは大したもんだし、お前らの当たり前は、誰かのための特別だろうよ。そういうつもりで行動してんだろ、いつも?」

「それは……まぁ、そのとおりではあるのですが」


 こいつらの行動は、常に主を引き立たせるための特別なものだ。

 そんじょそこらの並レベルじゃない。

 もっと誇っていい。

 そんなすごいことを「当たり前だ」と言えてしまう自分を。


「今日はぐっすり眠れそうだよ。イネスのお陰でな」

「そう言っていただけると光栄です。……いつも世話しているどっかの誰か様の口からは絶対に聞けないそのようなお言葉をいただけて!」


 ゲラーシー。

 お前はもうちょっと周りをよく見ろ。

 一番敵に回しちゃいけないヤツが敵に回りかけてるぞ。


「騒がしいと思うけど、ゆっくりしていけよ」

「そうですね。滅多にない機会ですので、堪能させていただきます」

「マーゥルが宿泊の許可を出すなんて、よっぽど目に余ったのかもな。せいぜい羽を伸ばせ」

「許可はいただいておりませんが?」

「……え?」

「……はい?」


 えっと……


「マーゥルの許可があったから、泊まってくんだよな?」

「いえ、主様からは『ゆっくりしていけ』とだけ」


 そこは俺も聞いてたけど、その後、宿泊の許可、取ったんだよな?


「宿泊は、私の意思です」


 いいのかなぁ!?

 大丈夫かなぁ!?

 過去にギルベルタも似たようなことやらかしてルシアが乗り込んできたんだけど、明日の朝、マーゥルが俺の枕元でにっこり邪悪に微笑んでたりしないかなぁ!?


「……もし、マーゥルが怒鳴り込んできたら、お前が責任持って対処しろよ」

「『だって、昨夜はコメツキ様が……おっと、これ以上私の口からは……』」


 ダメだ、悪意の塊だ、こいつ!


「まぁ、今さら帰れってのもな」

「ふふ……生まれて初めて、イケナイことをしている気分です」


 夜中に異性と家の外で会話する。

 それをイケナイことだとはしゃいでみせる。

 昭和の若者みたいだな。


 盗んだバイクで走り出したり、校舎の窓叩き割ったりすんなよ?


「じゃあ、俺はもう寝るけど、お前も程々にして寝ろよ」


 言って、イネスが敷いてくれた布団で横になる。

 おぉ……ジネットとは違う感触が体を包む。

 布団は同じなのに、なんか他人の家に来たみたいだ。


「あの、コメツキ様」

「ん?」


 慣れない布団の感触にちょっと緊張していると、イネスが俺の枕元に座り、俺の顔を覗き込んでくる。


「あなたが眠るまで、ここで見ていても構いませんか?」

「……妙な噂が立っても知らねぇぞ」


 見てても、なんも面白くもないだろうに。


「そうですね……」


 少し考え、イネスが息を漏らす。

 顔は見ていないが、微かに笑っていた気がした。


「コメツキ様を手っ取り早く二十九区へ取り込むには、私かマーゥル様か、マーゥル様付き給仕長のシンディさんと恋仲になっていただくのが最良だと考えているのですが」

「物凄ぇ狭くない、その選択肢!?」


 ざっくり言って一択じゃない!?


「そのような策略や謀略は横に置いておくとして……、もう少しだけ、この贅沢な空気に浸っていたいのです」

「なんもねぇぞ、俺の寝顔なんか見たって」

「おや、私はそんなに悪女ではないのですよ?」


 悪女?


「殿方の寝顔など、数えるほども見たことがありません。ですので、このような時間は特別に決まっています」


 その特別が俺でいいのかってことだよ。

 ……ったく。


「俺が寝たからって、顔にらくがきなんかするなよ」

「はい。いい子にしています」

「……イケナイことしてんじゃないのかよ」

「ですので、イケナイいい子なんです、私は」


 なんじゃそら。


 目を閉じて黙っていると、空気に溶けていくような小さな音が「る~、るる~♪」と、メロディを奏で始める。

 優しい音色に身を委ねているうち、俺はいつの間にか眠ってしまっていた。







あとがき




すんまへんなぁ、素直やのうて。

夢ん中やったら言えますねん――な、宮地です



関西弁!?Σ(゜△゜ノ)ノ

しかもコテコテの!?Σ(゜△゜ノ)ノ


はい、というわけで、

夢の中なら言える、宮地です☆



本編で、イネスを存分に書いてみました☆

\( ̄▽ ̄)/いぇい


イネスの子守唄

効果:眠気誘発、リラックス効果(大)、眠りの質向上、体力回復(中)、リウマチ・関節痛、神経系、冷え性、不安解消、ポジティブ思考、金運上昇、交友関係拡大、夢実現、人間としてワンランク上のステージへ!



(;゜Д゜)途中から温泉の効能になってる!?


いや、最後の方は怪しい宗教団体が押し売りしてくるツボとかグッズの効果!?

Σ(゜Д゜;)

(※なお、効果には個人差があります)



子守唄、

幼い頃に母に歌ってもらったような気がします



母「OH YEAE! 我が子の睡眠TIME! 甘えていいんだぜHOLD ON ME Tight! お前の寝顔を見ていたい! そう言って駆けつけたWeAre見守り隊!」

宮地(幼)「ラップ!?」



私、子守唄って苦手だったんですよね

なんというか、こう……


うとうと〜っとしかけた時に音が聞こえると

「今のなに?」(;゜Д゜)

って目が覚めちゃうタイプでして


やっぱり、子守唄がラップの家系に生まれたせいでしょうか……


通勤電車の中で不意に

「ちぇけら〜」って聞こえてきたら

ちょっと眠くなりますもんね

条件反射というやつなのでしょうねぇ〜

( ̄▽ ̄)




通勤電車の中で不意に「ちぇけら〜」と聞こえる街とは!?

Σ(゜Д゜;)




でもですね、

無音でも眠れないんですよ、私


他所様のお家とかに泊めていただく時

夜中静か過ぎて大抵眠れないんですね



宮地「めっちゃ静かやん!」

友人「寝るときは静かなんは、当たり前やろ」

宮地「静か過ぎて寝られへんわ。なんか話して」

友人「なんの話したらえぇねん。桃太郎とかか?」

宮地「あ、それまだ途中までしか読んでへんからネタバレせんといて」

友人「桃太郎、途中で止まってるヤツ初めて見たわ!?」

宮地「桃次郎の方やったらえぇで?」

友人「アレの続編出てたん、初耳やわ!?」

宮地「じゃあ、裏・島太郎とか」

友人「裏ビデオ的なニュアンスやめぃ!」

宮地「あとは、ウサギとアレ」

友人「どれや!? カメ以外にシリーズあんの、それ!?」

宮地「赤ちゃん頭巾」

友人「ま〜ぁ、ユニークな被り物!?」

宮地「眠れる美女、森」

友人「森さん!? いっつも寝てはるんかな!?」

宮地「ぽぃんぽぃん山」

友人「おっぱいやな!? 確実にふたつ並んでるよな、その山!? カッチカチの方やったら知ってんねんけどな!」

宮地「さぁ、この中から選ぶがいい!」

友人「聞きたいんは、ぽぃんぽぃん山かな!?」

宮地「よぉし、いいだろう! ……ふふふ、今夜は寝かさないぜ☆」

友人「いや、寝ろや!」



みたいなことを、寝る間際に毎回やるので

お泊まりNGを出されることもしばしば……

楽しんでいただきたいというサービス精神だったのに!



あ、私

幼かったころ、家族ぐるみで可愛がってくださるご家庭がいくつかあって

よくお泊まりさせてもらってたんです

楽しかったなぁ〜

(*´ω`*)


ウチにもお泊まりに来てもらったりしてたんですよ




友人「音楽止めろー!」

宮地「え、寝る時、音楽流れてる方が眠れへん?」

友人「気になんねん!」

宮地「分かった。じゃあ、一緒に歌えるように、歌詞を先に耳打ちしたげるわ」

友人「いらんいらんいらん! 音楽の教師的なそんなサービス、求めてへんから!」



ウチでは、

寝る時に小さな音で音楽流していたので

かーなーりー不評でしたね

(*´ω`*)てへっ



今でも、寝る時は音が鳴っている方が眠れるんです

静かだと「静かだ!」って起きちゃうので



ちなみにですね、

音楽って、何度も何度も聞いていると

脳が感知しなくなるんですよ


好きで繰り返し聞いていた曲って、

流れていても耳に残らないというか、

脳みそを素通りしていくんですね


分かりますかね?

この感覚



例えば、

「うるとらそうる聴こう!」と思って

アルバムを流すとするじゃないですか


で、何か他の作業とかしていると、

「あれ!? いつの間にか終わってる!?」

って、脳が音楽を感知せずスルーするんですよ


でも、ちゃんと音楽は流れているので無音ではなく

おそらく、私個人の所感になるんですが

癒やし効果は発揮されているんです

「好きな音楽聞いてハッピ〜」的な効果ですね

それはあるんです


ただ、記憶残っていない



と、ここまで脳に染み付いた音楽ですと

寝る時とか集中したい時に流していても一切邪魔にならないんです


むしろ、集中力が上がったり

リラックスできたりするんですよ、

私の場合


ちなみに、執筆中はずっと音楽が流れています。

無音での執筆は無理ですね

外で書く時も、イヤホンで音楽聴きながら書いてます



「気ぃ散るわ!」

とか、よく言われますけども(^^;



ですので、

イネスの子守唄とか、いいですね

(*´ω`*)


耳に心地よい歌声を聞きながら寝てみたいものです


まぁ、

女子がすぐそばにいて

何も気にせずさっさと眠れるヤシロさんほど

私の肝は据わってませんけれども!

なんなら首もまだ据わってませんしね!


なんなの、ヤシロさん!?(首「ぷら〜ん」)

緊張とかしないの!?(首「ぷらぷら」)

信じらんない!(首「ぐりんっ!」)




いや、お前の首の方こそが驚きだよ!?

Σ(゜Д゜;)ぷらぷらしてる、ぷらぷらしててるぅ!




また友人とお泊まり会でもしてみたいですねぇ……友人からは物凄い不評ですけども


申し訳ないなぁとは思いつつも、

友人関係だと素直に謝るのも照れくさいというか

夢の中なら素直に言えるんですけどね〜

(*´▽`*)



(;゜Д゜)冒頭のフリ、回収してきたぞ、こいつ!?



というわけで、

今週本気で何もなかったので全力でネタに走ってみた、宮地でした☆



次回もよろしくお願いいたします!

宮地匠海

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― 新着の感想 ―
[一言] セーラームーンだと気付くのにワンテンポかかってしまった(笑)
[良い点] イネスの子守歌...だと... さぞ心地いいことでしょう( ̄▽ ̄)
[良い点] イネスさんッッッッ!?!!!?!!?!!? そんな、そんな唐突に、甘々な雰囲気出してくるんですカッ!?ありがとうございますッッッッ!!! イメルダ……ぐっじょぶ。いいもん見れたよ…… …
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